説明

チゼル

【課題】摩滅により全長が変化しても騒音が快音に維持されるチゼルを提供する。
【解決手段】ウエイト部材320,330が特定の位置に付加されており、使用初期長Llでの特定の振動モードの固有周波数flnと、使用限界長Lsでの振動モードの固有周波数fsnとが、特定周波数帯内となる位置にウエイト部材320,330が付加されている。従って、人間にとって不快な周波数の騒音を発生することを抑制でき、このことを破砕作業とともに全長が使用初期長から使用限界長まで摩滅する過程で維持することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーカ装置に着脱自在に装着されて破砕作業に利用されるチゼルに関し、特に、作業時に無視できない騒音を発生するチゼルに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、コンクリートの破砕作業などにブレーカ装置が利用されている。このようなブレーカ装置の一従来例を図7および図8を参照して以下に説明する。なお、ここでは説明を簡単とするため、図示するように、上下方向を規定する。
【0003】
ブレーカ装置100は、図7に示すように、円筒状の装置本体101を有している。この装置本体101の内部には、上下方向にスライド自在なピストン部材と、このピストン部材を往復移動させる駆動機構と、が内蔵されている(図示せず)。
【0004】
ブレーカ装置100の装置本体101の下端には、チゼル110が交換自在に装着される。チゼル110は、高硬度の鋼材などにより軸状に形成されている。チゼル110は、上下方向に変位自在な状態で、その上端である末端にピストン部材が当接するように、装置本体101に支持される。
【0005】
ブレーカ装置100は、図8に示すように、例えば、油圧パワーショベル等の建設車両120の可動アーム121にブラケット122により装着される。
【0006】
建設車両120がチゼル110の下端である先端を破砕対象に当接させた状態で、ブレーカ装置100が駆動される。すると、上下方向に往復移動されるピストン部材がチゼル110の上端を繰り返し打撃する。
【0007】
これでチゼル110の末端から先端まで圧縮の応力波が縦波として伝播する。そこで、このチゼル110の先端が圧接されている破砕対象が破砕される。
【0008】
現在、上述のようなチゼルの各種の提案がある(例えば、特許文献1〜3参照)。
【特許文献1】実開昭58−40382号
【特許文献2】特開2002−103247号
【特許文献3】特開2002−331472号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のようなブレーカ装置100は、破砕対象に当接しているチゼル110を繰り返し打撃するので、当然ながら多大な騒音を発生する。
【0010】
この課題を解決するため、装置本体を半密閉構造のボックス状のブラケットに収容したブレーカ装置(図示せず)もある。しかし、実際には装置本体から発生する騒音よりチゼルから発生する騒音の方が大きい。
【0011】
この課題を解決するためには、チゼルも遮音構造のハウジング内に収容することが想定できる。しかし、チゼルは破砕対象に圧接される必要がある。また、チゼルは破砕作業とともに摩滅して先端の位置が後退する。このため、チゼルをハウジングなどの内部に配置することは困難である。
【0012】
さらに、一般的に音質の評価因子として、金属因子、迫力因子、美的因子、明暗因子、などがある。そして、前述のようにチゼルは高硬度の鋼材などで形成されており、コンクリートなどを破砕対象とする。
【0013】
このため、チゼルが発生する騒音の音質は、高周波域の金属因子や低周波域の迫力因子が支配的である。このような音質の騒音は、人間にとって極めて不快である。つまり、従来のチゼルは、多大な騒音を人間にとって不快な音質で発生している。
【0014】
本発明は上述のような課題に鑑みてなされたものであり、人間にとって不快な音質の騒音を発生しないチゼルを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の第一のチゼルは、ブレーカ装置に装着されて破砕作業に利用されるチゼルであって、質量が特定の位置に付加されており、使用初期長Llでの特定の振動モードの固有周波数flnと、使用限界長Lsでの振動モードの固有周波数fsnとが、特定周波数帯内となる位置に質量が付加されている。
【0016】
従って、本発明のチゼルでは、例えば、破砕作業とともに全長が使用初期長から使用限界長まで摩滅するときでも、その過程において発生する騒音の固有周波数が、人間が快音と感じる特定周波数帯内に維持される。
【0017】
本発明の第二のチゼルは、ブレーカ装置に装着されて破砕作業に利用されるチゼルであって、質量が特定の位置に付加されており、質量が付加されていない状態では特定周波数帯内にない特定の振動モードの固有周波数が特定周波数帯内となる位置に質量が付加されている。従って、本発明のチゼルでは、質量が付加されることにより、発生する騒音の固有周波数が、人間が快音と感じる特定周波数帯内にある。
【0018】
なお、本発明で云うチゼルとは、ブレーカ装置に装着されて破砕作業に利用される軸状の工具を意味しており、例えば、ウエッジ、アッシ、等と呼称されているものも内包している。
【0019】
また、本発明で云う各種の構成要素は、必ずしも個々に独立した存在である必要はなく、複数の構成要素が1個の部材として形成されていること、一つの構成要素が複数の部材で形成されていること、ある構成要素が他の構成要素の一部であること、ある構成要素の一部と他の構成要素の一部とが重複していること、等も可能である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の第一のチゼルでは、使用初期長Llでの特定の振動モードの固有周波数flnと、使用限界長Lsでの振動モードの固有周波数fsnとが、特定周波数帯内となる位置に質量が付加されていることにより、人間にとって不快な周波数の騒音が発生することを抑制でき、このことを破砕作業とともに全長が使用初期長から使用限界長まで摩滅する過程で維持することができる。
【0021】
本発明の第二のチゼルでは、質量が付加されていない状態では特定周波数帯内にない特定の振動モードの固有周波数が特定周波数帯内となる位置に質量が付加されていることにより、人間にとって不快な周波数の騒音が発生することを抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の実施の一形態を、図1ないし図6を参照して以下に説明する。なお、本実施の形態に関して前述した一従来例と同一の部分は、同一の名称を使用して詳細な説明は省略する。
【0023】
また、本実施の形態では図示するように上下方向を規定して説明する。ただし、これは説明を簡単とするために便宜的に規定するものであり、本発明を実施する場合の製造時や使用時の方向を限定するものではない。
【0024】
図1に示すように、本実施の形態のブレーカ装置200は、装置本体210とチゼル300とを有しており、装置本体210にチゼル300が装着されている。ブレーカ装置200の装置本体210は、下端が開口した円筒状に形成されている。
【0025】
この装置本体210の内部下方には、チゼル300を交換自在に保持するシャンク機構211が形成されている。装置本体210の内部には、ピストン部材212が上下方向にスライド自在に挿入されている。
【0026】
ブレーカ装置200の装置本体210には駆動機構(図示せず)も内蔵されており、この駆動機構がピストン部材212を上下方向に往復移動させる。また、本実施の形態のブレーカ装置200は、防音ブラケット220も有しており、この防音ブラケット220の内部に装置本体210が収容されている。
【0027】
本実施の形態のチゼル300は、チゼル本体310と、質量である二個のウエイト部材320,330からなる。チゼル本体310は、クロムモリブデン鋼などの鋼材により軸状に形成されている。
【0028】
チゼル本体310の下端近傍は、破砕作業に使用されて摩滅する先端部311となっている。チゼル本体310の上端近傍は、シャンク機構211により保持される末端部312となっている。
【0029】
そして、チゼル本体310の先端部311から末端部312まで中間部313が連続している。この中間部313は、軸心方向と直交する断面形状が一様な軸状に形成されている。
【0030】
ウエイト部材320,330は、例えば、チゼル本体310と同一のクロムモリブデン鋼により円環状に形成されている。ウエイト部材320,330は、チゼル本体310とは別体に形成されており、その中間部313の外周面に別体のまま密着状態で装着されている。
【0031】
ウエイト部材320,330は、チゼル本体310に別体でありながらも相対移動しないように強固に装着されている必要がある。このため、ウエイト部材320,330は、チゼル本体310に、圧入、焼きばめ、等で装着されている。なお、円環状のウエイト部材320,330の重心は、円柱形の軸状のチゼル本体310の軸心上に位置している。
【0032】
本実施の形態のチゼル300は、図2に示すように、使用初期長Llでの特定の振動モードの固有周波数flnと、使用限界長Lsでの同一の振動モードの固有周波数fsnとが、5200Hz以上6400Hz以下の特定周波数である快音周波数帯内となる、特定の位置にウエイト部材320,330が付加されている。
【0033】
上述の快音周波数帯とは、その周波数帯内に統計的に人間が不快でないと感じる固有周波数が離散的に分布している周波数帯を意味しており、実際にチゼルの騒音を複数の被験者に試聴させて多数決により特定される。
【0034】
しかし、図3に基づいて後述するように、あるチゼル300の特定の振動モードによる騒音の統計結果としては、快音周波数帯は5200Hz以上6400Hz以下であった。そこで、本発明者は、そのチゼル300の騒音の快音周波数帯を5200Hz以上6400Hz以下と特定した。
【0035】
また、図2に示すように、使用限界長Lsの固有周波数fsnは、ウエイト部材320,330が付加されていない状態では快音周波数帯内になく、ウエイト部材320,330が位置に付加されることにより快音周波数帯内にある。
【0036】
なお、使用初期長Llとは、例えば、使用される以前の新品のチゼル300の全長であり、使用限界長Lsとは、例えば、使用できる限界まで摩滅したチゼル300の全長である。
【0037】
上述のような構成において、本実施の形態のブレーカ装置200も、従来のブレーカ装置100と同様に、チゼル300の先端を破砕対象(図示せず)に圧接させた状態で、チゼル300の末端をピストン部材212で打撃する。
【0038】
これでチゼル300の末端から先端まで応力波が縦波として伝搬するので、その応力波により破砕対象が破砕される。このように破砕対象を破砕するチゼル300は、使用初期長Llから順次摩滅し、使用限界長Lsまで摩滅すると廃棄される。
【0039】
上述のようにブレーカ装置200がチゼル300を打撃して破砕対象を破砕するとき、当然ながらチゼル300から多大な騒音が発生する。しかし、本実施の形態のチゼル300は、使用初期長Llでの三次曲げの固有周波数flnと、使用限界長Lsでの三次曲げの固有周波数fsnとが、快音周波数帯内となる位置にウエイト部材320,330が付加されている。
【0040】
このため、本実施の形態のチゼル300は、人間にとって不快な周波数の騒音を発生することを抑制でき、このことを破砕作業とともに全長が使用初期長Llから使用限界長Lsまで摩滅する過程で維持することができる。
【0041】
つまり、本実施の形態のチゼル300は、ウエイト部材320,330の付加により騒音の音圧を低減するのではなく、騒音の音質を改善している。音質が良好ならば、人間は感覚的に騒音の音圧を低く感じる。このため、本実施の形態のチゼル300では、音質の改善により、人間の感覚的に騒音を低減することができる。
【0042】
なお、本発明者が実際に試作したチゼル300では、チゼル本体310の重量は、例えば、5kgであり、ウエイト部材320,330の重量は、例えば、各々1kgである。このため、チゼル本体310とウエイト部材320,330との重量の比率は、5:1(×2)、となっている。
【0043】
さらに、チゼル本体310の外形はφ45mm、ウエイト部材320,330の外形はφ80mmである。そして、チゼル本体310の使用初期長Llは420mmであり、本実施の形態のチゼル300では、チゼル本体310の末端から、220mm,340mm、の位置にウエイト部材320,330の中心が位置している。
【0044】
なお、チゼル300の騒音の音質改善のためには、ウエイト部材320,330の重量が大きいほど効果がある。しかし、ウエイト部材320,330の重量が大きいと、破砕対象を破砕するチゼル300の本来の性能は阻害される。
【0045】
そこで、本実施の形態のチゼル300では、上述のようにウエイト部材320,330を装着するチゼル本体310の位置を特定することにより、必要最小限の重量のウエイト部材320,330で騒音の音質改善の効果を最大としている。
【0046】
ここで、ウエイト部材320,330を付加するチゼル本体310の位置を特定するチゼル300の設計方法を、本発明が実行した実験結果とともに以下に説明する。まず、本発明者は複数種類の全長のチゼル本体310の騒音を複数の被験者に試聴させ、不快か快適かの統計を取ることにより、騒音の音質が最良のチゼル本体310の全長を特定した。
【0047】
なお、被験者に騒音を試聴させる具体的な手法としては、実際に複数種類の全長のチゼル本体310を製造して駆動すること、その騒音を録音してから再生すること、コンピュータシミュレーションにより騒音を生成すること、等が可能である。
【0048】
これで騒音が最良のチゼル本体310の全長が特定されたので、図3に示すように、このチゼル本体310の周波数特性を測定した。この周波数特性は、周波数ごとの音圧からなる。この周波数特性から、騒音の音質が最良のチゼル本体310の音質に影響が大きい固有周波数fnが特定された。
【0049】
より具体的には、チゼル本体310の騒音には、振動モードごとの固有周波数に対応して音圧にピークが発生する。チゼル本体310の主要な振動モードとしては、一次曲げ、二次曲げ、三次曲げ、伸縮、があった。
【0050】
一次曲げの固有周波数は約1000Hzなので、その固有周波数に音圧のピークが発生している。同様に、二次曲げの固有周波数は約3200Hz、三次曲げの固有周波数は約5600Hz、伸縮の固有周波数は約7000Hz、なので、これらの固有周波数に音圧のピークが発生している。
【0051】
そして、被験者の試聴により、騒音の音質には三次曲げの固有周波数が支配的であることが確認されたので、本発明者は、使用初期長と使用限界長での三次曲げの固有周波数が快音周波数帯内となるウエイト部材320,330の付加位置を特定することとした。
【0052】
上述のような手順により、音質が最良のチゼル本体310の全長が判明し、その音質に影響する振動モードと固有周波数も確認された。そこで、音質が最良ではないものの快適と判断されるチゼル本体310の全長の上限および下限が確認された。
【0053】
より具体的には、上述のチゼル本体310より短いチゼル本体310と長いチゼル本体310との騒音が順次試聴され、図3に示すように、騒音が快音の範囲にある最短のチゼル本体310の三次曲げの固有周波数fsと、最長のチゼル本体310の三次曲げの固有周波数flと、が特定された。
【0054】
そこで、本発明者は、上述の固有周波数の範囲fs〜flを、チゼル300の三次曲げの騒音を人間が不快でないと感じる快音周波数帯として定義した。このチゼル300の三次曲げの騒音の快音周波数帯は、例えば、5200Hz以上6400Hz以下である。
【0055】
上述のように三次曲げの騒音の音質が最良のチゼル本体310の全長が特定されると、その全長に基づいて、図4に示すように、これより長い使用初期長L0 と、短い使用限界長S0 とが設定される(ステップS1)。
【0056】
これらの使用初期長L0 と使用限界長S0 とは、例えば、新品のチゼル本体310の全長と、そのチゼル本体310を摩滅により廃棄するときの全長と、を想定して設定される。
【0057】
つぎに、使用初期長L0 のチゼル本体310の位置iに質量△mを付加したときの固有周波数flnの変化割合Flと、使用限界長S0 のチゼル本体310の同一の位置iに質量△mを付加したときの固有周波数fsnの変化割合Fsと、が位置iごとに算出される(ステップS2〜S7)。
【0058】
より詳細には、図5に示すように、チゼル本体310に複数の位置i(i=1,2,3,…)を設定し(ステップS2)、その位置iに質量△mを付加したときの固有周波数flnの変化割合Fl,と、固有周波数fsnの変化割合Fsとは、
【0059】
Fl=−(fln×φni2 )/2 …(1a)
【0060】
Fs=−(fsn×φni2 )/2 …(1b)
のように算出される(ステップS3,S4)。
【0061】
上記数式のφniは、位置iの振動モードごとの振幅であり、例えば、基準の振幅に対する比率からなる。
【0062】
なお、質量△mが付加される位置iは、使用初期長L0 と使用限界長S0 とで同一である必要がある。そして、チゼル本体310は破砕に使用される先端が順次摩滅することで使用初期長L0 から使用限界長S0 まで変化するので、上述の位置iはシャンク機構211に保持される末端を基準として設定されている。
【0063】
つぎに、使用初期長L0 で固有周波数flnのチゼル本体310の位置iに質量△mを付加したときの固有周波数flni と、使用限界長S0 で固有周波数fsnのチゼル本体310の同一位置iに質量△mを付加したときの固有周波数fsni とが、
【0064】
flni =fln+Fl×△m …(2a)
【0065】
fsni =fsn+Fs×△m …(2b)
として算出される。
【0066】
つぎに、使用初期長L0 と使用限界長S0 とで位置iごとに上述の計算を実行することにより、図2に示すように、使用初期長L0 の固有周波数flni と使用限界長S0 の固有周波数fsni との両方が快音周波数帯fs〜fl内となる位置iを特定する。
【0067】
より具体的には、質量△mが付加されていないチゼル本体310の全長が使用初期長L0 から使用限界長S0 まで変化するとき、その固有周波数fln,fsnの変化量は、
【0068】
fsn−fln …(3)
のように差分として算出される。
【0069】
同様に、位置iに質量△mが付加されているチゼル本体310が使用初期長L0 から使用限界長S0 まで変化するときの固有周波数flni,fsniの変化量は、
【0070】
fsni−flni …(4)
として算出される。
【0071】
質量△mの付加により固有周波数flni,fsniの変化量を最小とすることは、上述の(3)の数値に対して(4)の数値が最大となることなので、
【0072】
(fsn−fln)−(fsni−flni) …(5)
が最大値となる位置iを特定することになる。
【0073】
さらに、上記の数式(5)は、前述の(1)(2)の数式を代入することにより、
【0074】
−(Fs−Fl)×△m …(6)
となる。
【0075】
上記の数式(6)が最大となることは、(Fs−Fl)が最小となることである。そこで、図6に示すように、位置iごとにFs,Flおよび(Fs−Fl)が算出される(ステップS5)。
【0076】
このように複数の位置iごとに算出された(Fs−Fl)から、その(Fs−Fl)が極小となる位置iが特定される(ステップS8)。本発明者が実験したチゼル本体310では、位置iが12,18のときに(Fs−Fl)が極小となった。そこで、このチゼル本体310の位置iにウエイト部材320,330が付加されることで、チゼル300が形成された。
【0077】
なお、上述のように(Fs−Fl)が極小となるチゼル本体310の位置iは、ウエイト部材320,330を付加できる必要がある。このため、シャンク機構211に保持される末端部312は、位置iの選択候補から除外される。
【0078】
上述のようにチゼル本体310の位置iが特定されると、その位置iにウエイト部材320,330が付加されたチゼル300の使用初期長Llと使用限界長Lsでの固有周波数fsni,flniが算出される(ステップS9)。
【0079】
そして、これらの固有周波数fsni,flniが快音周波数帯fs〜fl内にあれば、そのチゼル300は、前述のように使用初期長Llと使用限界長Lsでの特定の振動モードの固有周波数fln,fsnが5200Hz以上6400Hz以下の快音周波数帯内にあることになる。
【0080】
そこで、使用初期長Llでの特定の振動モードの固有周波数flnが5200Hz以上の快音周波数帯内にない場合は(ステップS10)、その使用初期長Llが微少に短縮されてから(ステップS11)、上述の算出が実行される(ステップS2〜S10)。
【0081】
同様に、使用限界長Lsでの特定の振動モードの固有周波数fsnが6400Hz以下の快音周波数帯内にない場合は(ステップS12)、その使用限界長Lsが微少に延長されてから(ステップS13)、上述の算出が実行される(ステップS2〜S12)。
【0082】
上述のような演算処理により、使用初期長Llと使用限界長Lsでの特定の振動モードの固有周波数fln,fsnとが5200Hz以上6400Hz以下の快音周波数帯内にあるチゼル300を設計することができる。このように設計されたチゼル300は、騒音の音質が改善されているので、人間の感覚的に騒音を低減することができる。
【0083】
特に、本実施の形態のチゼル300は、図2に示すように、ウエイト部材320,330が装着されていない状態では、使用限界長Lsでの騒音の固有周波数fsni が快音周波数帯内にないが、これがウエイト部材320,330の装着により快音周波数帯内にある。このため、本実施の形態のチゼル300は、ウエイト部材320,330の装着により騒音の音質が良好に改善されている。
【0084】
しかも、本実施の形態のチゼル300は、ウエイト部材320,330がチゼル本体310とは別体に形成されて密着されている。そして、チゼル本体310は、少なくとも中間部313と先端部311とが一様な断面形状に形成されており、末端部312も略一様な断面形状に形成されている。
【0085】
このため、チゼル本体310の末端がピストン部材212に打撃されると、その応力波はウエイト部材320,330の位置で発散されることなく、チゼル本体310の先端まで伝搬される。従って、本実施の形態のチゼル本体310は、ウエイト部材320,330がチゼル本体310に装着されているが、破砕対象を良好に破砕することができる。
【0086】
なお、前述した特許文献1〜3には、チゼル本体の外周面に別体の部材が装着されているチゼルが開示されている(図示せず)。しかし、上述のようにチゼルの騒音の音質を改善する位置を特定して質量を付加することは、特許文献1〜3には示唆すら記載されていない。このため、特許文献1〜3のチゼルでは、その騒音を快音とすることができず、特に、使用初期長から使用限界長まで騒音を快音に維持することはできない。
【0087】
なお、本発明は本実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で各種の変形を許容する。例えば、上記形態では三次曲げの振動モードによる騒音を5200Hz以上6400Hz以下の快音周波数帯内とすることを例示した。
【0088】
しかし、本発明者が調査したところ、快音周波数帯はチゼル300の外形や材質などの各種の条件によっても変化することが確認された。このため、例えば、上述の快音周波数帯の下限は3000Hzないし2000Hzであることが可能であり、上限は7000Hzないし8000Hzであることが可能である。
【0089】
また、上記形態では三次曲げの固有周波数を快音周波数帯内とすることを例示したが、他の振動モードの固有周波数を快音周波数帯内とすることも可能であり、複数の振動モードの固有周波数を快音周波数帯内とすることも可能である。この場合、複数の振動モードによる固有周波数の変化割合の差分の合計が極小となるチゼル本体の位置に質量を付加することが可能である(図示せず)。
【0090】
例えば、上記形態のチゼル300の騒音には二次曲げの振動モードも多大に影響していることが確認された。前述のように、音質が最良となる全長のチゼル300を試作したとき、その二次曲げの固有周波数は3200Hzであった。そこで、二次曲げの騒音の音質が良好なチゼル300の上限と下限とを特定することにより、二次曲げの快音周波数帯が特定される。
【0091】
この場合、二次曲げの快音周波数帯内に二次曲げの固有周波数があるとともに、三次曲げの快音周波数帯内に三次曲げの固有周波数があるように、チゼル本体310の特定の位置にウエイト部材を装着することが可能である。
【0092】
さらに、二次曲げの快音周波数帯の下限から三次曲げの快音周波数帯の上限までを快音周波数帯とし、この快音周波数帯内に二次曲げの固有周波数と三次曲げの固有周波数があるように、チゼル本体310の特定の位置にウエイト部材を装着することも可能である。
【0093】
また、上記形態では固有周波数fln,fsnの変化割合Fl,Fsの差分が極小となる位置iを特定することを例示した。変化割合Fl,Fsの差分が最小となる位置iを特定してもよい。
【0094】
さらに、上記形態ではチゼル本体310に二個のウエイト部材320,330が装着されていることを例示したが、これが一個または三個以上でもよい(図示せず)。
【0095】
また、上記形態ではウエイト部材320,330がチゼル本体310に圧入や焼きばめにより強固に装着されていることを例示した。しかし、チゼル本体にウエイト部材がボルトで固定されていてもよく、チゼル本体の外周面に形成した凸部とウエイト部材の内周面に形成した凹部とを係合させてもよい(ともに図示せず)。
【0096】
また、上記形態ではチゼル本体310に別体のウエイト部材320,330が密着されていることを例示したが、チゼル本体に質量が一体に形成されていてもよい(図示せず)。
【0097】
さらに、上記形態ではウエイト部材320,330が装着されていないと快音周波数帯内にない使用限界長Lsの固有周波数fsnが、ウエイト部材320,330の装着により快音周波数帯内にあることを例示した。しかし、質量が付加されていないと快音周波数帯内にない使用初期長Llと使用限界長Lsとの固有周波数の両方が、質量の付加により快音周波数帯内にあってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明の実施の形態のチゼルがブレーカ装置に装着されている状態を示す縦断正面図である。
【図2】チゼルの各種状態での騒音の周波数の関係を示す模式図である。
【図3】チゼルの騒音の周波数特性を示す特性図である。
【図4】チゼルの設計方法を示すフローチャートである。
【図5】チゼル本体に複数の位置を設定した状態を示す模式図である。
【図6】チゼルの複数の位置ごとの周波数特性の変化割合を示す模式図である。
【図7】一従来例のブレーカ装置を示す側面図である。
【図8】ブレーカ装置が装着されている重機を示す側面図である。
【符号の説明】
【0099】
200 ブレーカ装置
300 チゼル
310 チゼル本体
320,330 ウエイト部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーカ装置に装着されて破砕作業に利用されるチゼルであって、
質量が特定の位置に付加されており、
使用初期長Llでの特定の振動モードの固有周波数flnと、使用限界長Lsでの前記振動モードの固有周波数fsnとが、特定周波数帯内となる前記位置に前記質量が付加されているチゼル。
【請求項2】
前記質量の付加による前記固有周波数flnの変化割合Flと前記固有周波数fsnの変化割合Fsとの差分(Fs−Fl)が極小となる前記位置に前記質量が付加されている請求項1に記載のチゼル。
【請求項3】
複数の前記振動モードによる前記差分の合計が極小となる位置に前記質量が付加されている請求項2に記載のチゼル。
【請求項4】
前記固有周波数flnと前記固有周波数fsnとの少なくとも一方は、前記質量が付加されていない状態では前記特定周波数帯内になく、前記質量が前記位置に付加されることにより前記特定周波数帯内にある請求項1ないし3の何れか一項に記載のチゼル。
【請求項5】
ブレーカ装置に装着されて破砕作業に利用されるチゼルであって、
質量が特定の位置に付加されており、
前記質量が付加されていない状態では特定周波数帯内にない特定の振動モードの固有周波数が前記特定周波数帯内となる前記位置に前記質量が付加されているチゼル。
【請求項6】
前記質量が付加されていない状態では前記特定周波数帯内にない複数の前記振動モードの固有周波数の全部が、前記質量が前記位置に付加されることにより前記特定周波数帯内にある請求項5に記載のチゼル。
【請求項7】
前記特定周波数帯が2000Hz以上8000Hz以下である請求項1ないし6の何れか一項に記載のチゼル。
【請求項8】
チゼルが交換自在に装着されているブレーカ装置であって、
請求項1ないし7の何れか一項に記載のチゼルが装着されているブレーカ装置。
【請求項9】
ブレーカ装置に装着されて破砕作業に利用されるチゼルを設計するための設計方法であって、
質量が特定の位置に付加された使用初期長Llでの特定の振動モードの固有周波数flnを特定し、
前記質量が前記位置に付加された使用限界長Lsでの前記振動モードの固有周波数fsnを特定し、
前記固有周波数flnと前記固有周波数fsnとの両方が特定周波数帯内となる前記位置を特定する設計方法。
【請求項10】
前記質量の付加による前記固有周波数flnの変化割合Flと前記固有周波数fsnの変化割合Fsとの差分(Fs−Fl)が極小となる前記位置を特定する請求項9に記載の設計方法。
【請求項11】
ブレーカ装置に装着されて破砕作業に利用されるチゼルを設計するための設計方法であって、
質量が付加されていない状態では特定周波数帯内にない特定の振動モードの固有周波数を特定し、
前記質量が特定の位置に付加されることにより前記固有周波数が前記特定周波数帯内となる前記位置を特定する設計方法。
【請求項12】
前記チゼルの騒音を複数の被験者に試聴させた統計結果から前記特定周波数帯を特定する請求項9ないし11の何れか一項に記載の設計方法。
【請求項13】
前記チゼルの特定の振動モードの騒音を複数の前記被験者に試聴させた統計結果から前記振動モードの前記特定周波数帯を特定する請求項12に記載の設計方法。
【請求項14】
前記特定周波数帯が2000Hz以上8000Hz以下である請求項9ないし13の何れか一項に記載の設計方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−237371(P2007−237371A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−66730(P2006−66730)
【出願日】平成18年3月10日(2006.3.10)
【出願人】(599011687)学校法人 中央大学 (110)
【出願人】(000165974)古河機械金属株式会社 (211)
【Fターム(参考)】