説明

チップヒューズ

【課題】 過大電流が流れた場合に、金属レジネートからなるヒューズ素子を確実に溶断することが可能なチップヒューズを提供する。
【解決手段】 絶縁基板1上の表面に表面電極3及びアンダーコート13を形成し、表面電極3及びアンダーコート13の上に、金属レジネートからなる厚膜ヒューズ素子17を形成する。そして金属レジネートの焼成温度よりも焼成温度が低い絶縁樹脂材料から構成されるオーバーコートで厚膜ヒューズ素子を覆う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チップヒューズに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特開2004−185960号公報(特許文献1)には、有機金属ペースト(または金属レジネート)を焼成して形成した高融点金属膜と、合金材料をメッキして形成した低融点金属膜とからなる可溶金属層(ヒューズ素子)を絶縁基板上に形成した回路保護素子(チップヒューズ)の従来例が開示されている。特許文献1に記載の回路保護素子では、高融点金属膜を形成する有機金属ペーストを約650℃で焼成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−185960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の回路保護素子では、高融点金属膜の上に積層された低融点金属膜が溶融すると、高融点金属膜も溶融を開始するという性質を用いて、低融点金属膜の溶融温度とほぼ同じ温度(200℃〜300℃程度)で高融点金属膜を溶融している。そのため、特許文献1に記載の回路保護素子においては、高融点金属膜の上に低融点金属膜を形成する必要があり、製造工程が多くなり、また製造コストが増加してしまうという問題点があった。
【0005】
本発明の目的は、厚膜ヒューズ素子を金属レジネートのみから構成したチップヒューズを提供することにある。
【0006】
本発明の他の目的は、金属レジネートのみからなる厚膜ヒューズ素子を確実に破断することができるチップ型ヒューズを提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、ガラス層の焼成温度よりも低い温度で焼成可能な厚膜ヒューズ素子を使用したチップ型ヒューズを提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、溶融して破断した厚膜ヒューズ素子が、再び接続されることがないチップ型ヒューズを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、絶縁基板と、絶縁基板の基板表面の両端に形成される一対の表面電極と、アンダーコートと、厚膜ヒューズ素子と、オーバーコートとを備えるチップヒューズを改良の対象とする。アンダーコートは、絶縁基板よりも熱伝導率の低い材料からなり、一対の表面電極の間に位置する基板表面上に、一対の表面電極との間に一対の露出表面部分を残すように形成されている。厚膜ヒューズ素子は、金属レジネートからなり、一対の露出表面部分及びアンダーコートの上に印刷により形成されている。金属レジネートは、金属と有機化合物(官能基)との化合物であり、焼成後は有機物の残存量が少なく金属リッチとなり、導電率の高い導電部(抵抗体)となる。また厚膜ヒューズ素子は、一対の表面電極に接続されるように形成されている。このように構成すると、厚膜ヒューズ素子は、基板上のアンダーコートが形成された部分でアンダーコートと接触し、アンダーコートが形成されていない一対の露出表面部分で絶縁基板と接触する。アンダーコートは、絶縁基板よりも熱伝導率の低い材料により形成されているので、アンダーコート上の厚膜ヒューズ素子は、絶縁基板と接触している部分の厚膜ヒューズ素子よりも、熱が放出されにくく、高温になりやすい。したがって、アンダーコート上の厚膜ヒューズ素子は溶融しやすい。これに対して、一対の露出表面部分で絶縁基板と接触する厚膜ヒューズ素子の部分は、アンダーコート上の厚膜ヒューズ素子よりも、絶縁基板に対する熱放出が大きいために早く硬化しようとする。そのため、絶縁基板と接触している部分で溶融したヒューズ材料部分が、アンダーコート上で完全に溶融した部分を引きつける力を発生して、溶融した部分が元の状態に戻るのを防ぐ引きつけ効果を発生する。したがって、溶融した厚膜ヒューズ素子は、一対の露出表面部分側に引き寄せられるので、厚膜ヒューズ素子を確実に溶断させることができる。オーバーコートは、金属レジネートの焼成温度よりも焼成温度が低い絶縁樹脂材料から構成されており、厚膜ヒューズ素子を覆うように形成する。なお、金属レジネートの厚み、パターン及び材質の選択によって、厚膜ヒューズ素子が確実に溶断できる場合には、一対の表面電極との間に一対の露出表面部分を残さないようにアンダーコートを形成してもよい。
【0010】
金属レジネートは、Agレジネート、Auレジネート、PdレジネートまたはPtレジネートとすることが好ましい。Agレジネート、Auレジネート、PdレジネートまたはPtレジネートは、350℃〜550℃程度で焼成することができるので、焼成温度が約800℃である従来のペースト状の導電材料に比べて厚膜ヒューズ素子の焼成温度を低くすることができ、焼成に必要なコストを下げることができる。また、350℃〜550℃程度で厚膜ヒューズ素子を焼成することができるので、絶縁基板、表面電極、アンダーコートの材料選択の幅を広げることが可能となる。
【0011】
特にAgレジネートを金属レジネートとして用いると、ヒューズ素子の膜圧を2ミクロン程度の厚さにすることができ、しかもヒューズ素子の抵抗値を100ミリオーム程度の値にすることができる。
【0012】
絶縁基板の一対の側面には、一対の表面電極に接続された一対の側面電極を形成してもよい。このようにすると、チップヒューズの取付けが容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態のチップヒューズの断面図である。
【図2】金属レジネートの示差熱分析の結果の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。図1は本発明のチップヒューズの実施の形態の一例の断面図である。なお、理解を容易にするため、図1においては各部の厚み寸法を誇張して描いている。図1に示すように、このチップ型ヒューズは、ほぼ矩形のチップ状基板(絶縁基板)1を有している。チップ状基板1は、例えばアルミナのようなセラミックスにより形成されている。
【0015】
アルミナ基板1の基板表面1aには、ガラスペーストにAgとPdの粉末を混練して形成したAg−Pd含有グレーズペーストを用いて、絶縁基板1の長手方向に沿う幅寸法がほぼ等しい一対の表面電極3,3が形成されている。この例では、AgとPdの含有比率が95:5のAg−Pd含有グレーズペーストを用いて、スクリ−ン印刷により厚みが約8μmの表面電極3,3を形成した。Ag−Pd含有グレーズペーストの焼成温度は、約850℃である。
【0016】
アルミナ基板1の基板裏面1bには、Ag含有グレーズペーストを用いて、絶縁基板1の長手方向に沿う幅寸法がほぼ等しい一対の裏面電極5,5が形成されている。裏面電極5,5は、スクリ−ン印刷により形成されており、厚みは、表面電極と同じ約8μmである。Ag含有グレーズペーストの焼成温度は、約850℃である。
【0017】
側面電極7,7は、表面電極3,3の一部及び裏面電極5,5の一部を覆い且つ表面電極3,3と裏面電極5,5とに跨がって形成される。その結果、絶縁基板1の長手方向の両端面1cも側面電極7,7によって覆われている。側面電極7,7は、ニッケル−クロム合金を含有するニッケル−クロム合金薄膜である。この薄膜は、スパッタにより形成されている。但し、Agレジンペースト(200℃焼成)でも、Agガラスペースト(600℃焼成)でもよい。
【0018】
側面電極7,7はまた、図1に示す通り、表面電極3,3の一部及び裏面電極5,5の一部とともに、ニッケルメッキ層(内部メッキ)9により覆われている。そしてニッケルメッキ層9は、スズメッキ層11(外部メッキ)により全体的に覆われている。
【0019】
基板表面1aには、一対の表面電極の3,3間に、アンダーコート13が形成されている。アンダーコート13もスクリーン印刷と焼成により形成される。このアンダーコート13の材料は、絶縁基板よりも熱伝導率が低い材料であれば任意であり、この例ではガラス材料によりアンダーコート13を形成している。ガラス材料としては、ホウケイ酸鉛ガラス、酸化亜鉛ガラスまたは酸化ビスマス系の無鉛ガラスなどを用いることができる。これらのガラス材料は、絶縁基板を構成するセラミックと比べると、熱伝導率が低く、また後述する厚膜ヒューズ素子を構成する金属レジネートとの密着性が低い。ガラス材料からなるアンダーコート13の厚みは、約8μmであり、焼成温度は、約600℃である。特に本実施例においては、アンダーコート13は、一対の表面電極3,3とアンダーコート13との間に、一対の露出表面部分15,15を残すように形成されている。一対の露出表面部分15,15の大きさは、溶融したヒューズ素子を一対の表面電極3,3側に引きつけ効果を発生することができる程度に定める。なお他の手段によって、十分な引きつけ効果が得られる場合には、露出表面部分15,15を残さないように、一対の表面電極3,3間にアンダーコートを全面的に形成しても良いのはもちろんである。
【0020】
一対の表面電極3,3の一部、一対の露出表面部分15,15及びアンダーコート13の上には、銀レジネートからなる厚膜ヒューズ素子17が形成されている。厚膜ヒューズ素子17も、スクリーン印刷と焼成により形成される。銀レジネートからなる厚膜ヒューズ素子13の厚みは、サブミクロンであり、焼成温度は、約250℃である。レジネートは、金属と有機化合物(官能基)との化合物であり、焼成後は有機物の残存量が少なく金属リッチとなり、高い導電率の導電部(抵抗体)となる。特に本実施例のように銀レジジネートを厚膜ヒューズ素子として用いた場合には、2〜5μmの膜厚でありながら、50〜300ミリオーム程度の抵抗値にすることが可能である。したがって、他の金属レジネートを用いる場合よりも、チップヒューズの抵抗値を小さくすることができる。厚膜ヒューズ素子17は、表面電極5,5間に、過電流が流れて厚膜ヒューズ素子17の温度が一定以上の温度になると、溶融して溶断する。特に本実施の形態のチップヒューズにおいては、厚膜ヒューズ素子17は、中央部がアンダーコート13の上に形成されている。アンダーコート13は、熱伝導率が低いガラス材料からなっており、厚膜ヒューズ素子17で発生した熱がチップ状基板1に放散されるのを抑制する効果を有している。このようにアンダーコート13を形成すると、厚膜ヒューズ素子17で発生した熱は絶縁基板1側に放散されにくくなり、アンダーコート13上に位置するヒューズ素子の部分に集中するので、厚膜ヒューズ素子17のアンダーコート13上の部分は、溶融しやすくなる。したがって、アンダーコート13上の厚膜ヒューズ素子17を、より短い時間で確実に溶融することができる。また、アンダーコート13を構成する焼成後のガラス層の表面は滑らかであるため、厚膜ヒューズ素子17が溶融した場合、アンダーコート13との密着性はよくない。Agレジネートからなる厚膜ヒューズ素子17は、溶融すると、特にある方向に引きつける力が作用しない限り、一度は溶断しても元の状態に戻ろうとする。しかしながら本実施の形態では、アンダーコート13が形成されていない露出表面部分15,15上に位置する溶融材料は、アンダーコート13上の溶融材料よりも先に硬化する。この硬化の際にアンダーコート13上の溶融した溶融材料には、先に硬化する材料側に溶融材料を引きつけようとする引きつけ力が加わる。その結果、アンダーコート13上で溶融した溶融材料は露出表面部分15,15側に引きつけられて、アンダーコート13の中央部でつながった状態で硬化することはない。したがって、本実施の形態によれば、厚膜ヒューズ素子を確実に溶断することができる。
【0021】
厚膜ヒューズ素子13の上には、金属レジネートの焼成温度よりも焼成温度が低い絶縁樹脂材料から構成されるオーバーコート19が形成されている。本実施例においては、金属レジネートの焼成温度よりも焼成温度が低い絶縁樹脂材料として、エポキシを使用している。使用したエポキシの焼成温度は、約200℃である。オーバーコート19もスクリーン印刷した後に、焼成を行って形成される。
【0022】
上記実施の形態のチップヒューズは次のような順番で製造すればよい。まず絶縁基板1の基板表面及び裏面の両端に一対の表面電極3,3及び一対の裏面電極5,5を形成する。次に側面電極7,7を形成する。また次に、一対の表面電極3,3の間に位置する基板表面上にアンダーコート13を形成する。この場合、一対の露出表面部分15,15を残すようにアンダーコート13を形成する。次に、基板表面上の一対の表面電極3,3及びアンダーコート13の上に、金属レジネートからなる厚膜ヒューズ素子17を形成する。一対の露出表面部分15,15の上にも厚膜ヒューズ素子17を形成する。最後に、金属レジネートの焼成温度よりも焼成温度が低い絶縁樹脂材料で、厚膜ヒューズ素子17を覆うオーバーコート19を形成する。そしてオーバーコート19を形成した後に、側面電極7,7と表面電極3,3と裏面電極5,5とに跨ってメッキ層9,11を形成する。
【0023】
図2は、本実施例において厚膜ヒューズ素子として用いている銀レジネートを用いて形成した厚膜ヒューズ素子を示差熱分析(0℃〜600℃)により分析した結果の一例を示すグラフである。使用した銀レジネートは、ナミックス株式会社がXE109シリーズの製品番号で販売するものである。このグラフによれば、温度の上昇に伴って、約380℃付近にDTA(示差熱分析)の最初のピークが発生することが見られた。このことからこの銀レジネートを使用する場合には、この特性を利用して、約380℃でヒューズ素子が溶断する厚膜ヒューズ素子を形成することができる。
【0024】
本実施例においては、厚膜ヒューズ素子17として、銀レジネートを使用しているが、本発明は、Auレジネート、PdレジネートまたはPtレジネートなどの種々の金属レジネートを用いることができる。
【0025】
また本実施例においては、絶縁基板をセラミック基板から構成し、アンダーコートをガラスから形成しているが、本発明を適用する場合に使用する材料は、これらの材料に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明によれば、一対の露出表面部分で絶縁基板と接触する厚膜ヒューズ素子の部分は、アンダーコート上の厚膜ヒューズ素子よりも、絶縁基板に対する熱放出が大きいために早く硬化しようとする。い。そのため、絶縁基板と接触している部分で溶融したヒューズ材料部分が、アンダーコート上で完全に溶融した部分を引きつける力を発生して、溶融した部分が元の状態に戻るのを防ぐ引きつけ効果を発生する。したがって、本発明によれば、溶融した厚膜ヒューズ素子は、一対の露出表面部分側に引き寄せられるので、厚膜ヒューズ素子を確実に溶断させることができる。また、厚膜ヒューズ素子が金属レジネートのみからなるので、従来よりも厚膜ヒューズ素子の焼成温度を低くすることができる。
【符号の説明】
【0027】
1 チップ状基板(絶縁基板)
3 表面電極
5 裏面電極
7 側面電極
9 内部メッキ
11 外部メッキ
13 アンダーコート
15 露出表面部分
17 厚膜ヒューズ素子
19 オーバーコート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板と、
前記絶縁基板の基板表面の両端に形成された一対の表面電極と、
前記絶縁基板よりも熱伝導率が低い材料からなり、前記一対の表面電極の間に位置する前記基板表面上に、前記一対の表面電極との間に一対の露出表面部分を残すように形成されたアンダーコートと、
前記一対の表面電極に接続されて、前記一対の露出表面部分及び前記アンダーコートの上に印刷により形成された金属レジネートからなる厚膜ヒューズ素子と、
前記金属レジネートの焼成温度よりも焼成温度が低い絶縁樹脂材料から構成されて前記厚膜ヒューズ素子を覆うオーバーコートとを備えてなるチップヒューズ。
【請求項2】
前記絶縁基板はセラミック基板からなり、
前記アンダーコートがガラスから形成されている請求項1に記載のチップヒューズ。
【請求項3】
前記金属レジネートは、Agレジネート、Auレジネート、PdレジネートまたはPtレジネートである請求項1に記載のチップヒューズ。
【請求項4】
前記絶縁基板の一対の側面には、前記一対の表面電極に接続された一対の側面電極が形成されている請求項1に記載のチップヒューズ。
【請求項5】
セラミック材料からなる絶縁基板と、
前記絶縁基板の基板表面の両端に形成された一対の表面電極と、
ガラス材料からなり、前記一対の表面電極の間に位置する前記基板表面上に、前記一対の表面電極との間に一対の露出表面部分を残すように形成されたアンダーコートと、
前記一対の表面電極に接続されて、前記一対の露出表面部分及び前記アンダーコートの上に印刷により形成されたAgレジネートからなる厚膜ヒューズ素子と、
前記Agレジネートの焼成温度よりも焼成温度が低い絶縁樹脂材料から構成されて前記厚膜ヒューズ素子を覆うオーバーコートとを備えてなるチップヒューズ。
【請求項6】
絶縁基板と、
前記絶縁基板の基板表面の両端に形成された一対の表面電極と、
前記絶縁基板よりも熱伝導率が低い材料からなり、前記一対の表面電極の間に位置する前記基板表面上に形成されたアンダーコートと、
前記一対の表面電極に接続されて、前記アンダーコートの上に印刷により形成された金属レジネートからなる厚膜ヒューズ素子と、
前記金属レジネートの焼成温度よりも焼成温度が低い絶縁樹脂材料から構成されて前記厚膜ヒューズ素子を覆うオーバーコートとを備えてなるチップヒューズ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−82064(P2011−82064A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−234421(P2009−234421)
【出願日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【出願人】(000242633)北陸電気工業株式会社 (49)
【Fターム(参考)】