説明

ディジタル・プリディストーション方式及び増幅装置

【課題】ディジタル・プリディストーション方式に関し、低次から高次まで高精度の歪補償を効果的に行うことが可能な技術を提案する。
【解決手段】
ダウンコンバータ6が、電力増幅部4からの信号の一部を分岐させた帰還信号をダウンコンバートし、A/D変換部7が、ダウンコンバータ6からの信号を入力信号のサンプリングレートより低いサンプリングレートでアナログからディジタルの信号に変換し、レート変換部8が、A/D変換部7からの信号のサンプリングレートを入力信号のサンプリングレートに変換し、低次歪算出部11が、レート変換部8からの信号に含まれる低次歪を算出し、高次歪生成部12が、低次歪算出部11により算出された低次歪から推定される高次歪をレート変換部8からの信号に付加し、歪補償制御部9が、高次歪生成部12からの信号と入力信号とを比較して、歪補償係数テーブル10を更新する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、増幅部で発生する歪をディジタル信号処理によって補償するディジタル・プリディストーション方式に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のディジタル移動無線システムでは、電力増幅部の電源効率を向上させるために、電力増幅部の歪を補償するディジタル・プリディストーション技術が用いられる。
ディジタル・プリディストーション技術を用いた電力増幅システムでは、電力増幅部の出力信号から分配された一部の信号を帰還して周波数変換や帯域制限などのダウンコンバート処理を行い、A/D(Analog to Digital)変換部によりアナログ信号からディジタル信号に変換し、この変換結果の信号をもとに歪補償制御が行われる。すなわち、ディジタル・プリディストーション方式では、増幅部で発生する歪をディジタル信号処理によって補償する。
【0003】
図2には、従来のディジタル・プリディストーション方式による電力増幅装置(或いは電力増幅システム)の構成例を示してある。
図2の電力増幅装置は、複素乗算部1、D/A(Digital to Analog)変換部2、アップコンバータ3、電力増幅部4、結合器5、ダウンコンバータ6、A/D変換部7、レート変換部8、歪補償制御部9、歪補償係数テーブル10を有する。
【0004】
歪補償係数テーブル10には、歪の補償に用いる歪補償係数(振幅係数や位相係数など)が信号レベル(例えば、振幅)に対応付けて設定(保持)されている。
電力増幅装置に入力された入力信号は、複素乗算部1によって電力増幅部4における歪が補償されるように、信号レベルに応じた歪補償係数(歪補償係数テーブル10の設定値)と複素乗算された後に、D/A変換部2によってディジタル信号からアナログ信号に変換される。
D/A変換部2から出力されるアナログ信号は、アップコンバータ3によって周波数変換や帯域制限などのアップコンバート処理が施され、その後、電力増幅部4で電力増幅される。
【0005】
電力増幅部4の出力信号は結合器5によって分配され、その一方はアンテナなどに出力され、他方は帰還信号としてダウンコンバータ6に出力される。
電力増幅部4からの帰還信号は、ダウンコンバータ6によって周波数変換や帯域制限などのダウンコンバート処理が施され、A/D変換部7によってアナログ信号からディジタル信号に変換される。A/D変換部7のサンプリングレートが入力信号のサンプリングレートと異なる場合、A/D変換部7から出力されるディジタル信号のサンプリングレートを入力信号のサンプリングレートに合わせるために、レート変換部8によってレート変換が行われる。
歪補償制御部9では、レート変換部8から出力された信号と入力信号とを比較して、電力増幅部4で発生する歪の補償に使用する歪補償係数(歪補償係数テーブル10の設定値)を更新する。
【0006】
すなわち、図2の電力増幅装置では、入力信号(ディジタル信号)にその信号レベルに応じた歪補償係数を複素乗算し、その結果をアナログ信号に変換して電力増幅する。そして、電力増幅された信号の一部を帰還させた帰還信号(アナログ信号)をディジタル信号に変換した後に入力信号のサンプリングレートに合うようにレート変換し、これを入力信号と比較して歪補償係数を更新する。これにより、電力増幅によって発生する歪を補償する。
【0007】
増幅装置において発生する歪を補償する技術に関しては、これまでに種々の発明が提案されている。例えば、特許文献1には、電力増幅装置のメモリ効果に起因する出力信号の歪を低減できるように改良された電力増幅装置の発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−258713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図2の電力増幅装置では、帰還部を構成するA/D変換部7のサンプリングレートと入力信号のサンプリングレートとが異なる場合、帰還信号のサンプリングレートを入力信号のサンプリングレートに変換した後に、レート変換後の帰還信号と入力信号とを比較して、歪補償係数(歪補償係数テーブル10の設定値)の更新を行う。
【0010】
ここで、A/D変換部7のサンプリングレートが入力信号のサンプリングレートより低い場合には、A/D変換部7のサンプリングレートによって帯域が制限されてしまう。この結果、低次歪(例えば、3次の歪)は検出できるものの高次歪(例えば、5次以上の歪)は検出できず、低次歪に対してのみ歪補償が行われることになる。このため、入力信号のサンプリングレート、つまり、入力信号の帯域を有効に利用できないといった問題が発生する。
【0011】
近年では、無線通信で使用する帯域の広帯域化が進んでおり、これに対応して、入力信号のサンプリングレートが高く設定される。
このような状況において、上記問題の発生を防ぐ手法として、高いサンプリングレートのA/D変換部7を用いる構成が考えられるが、コスト及び消費電力の増加に繋がってしまう。また、他の手法として、電力増幅部4からの帰還信号(アナログ信号)を同相成分Iと直交成分Qとに分離して、それぞれを別個のA/D変換器を用いてディジタル信号に変換する構成にして、使用するA/D変換器のサンプリングレートを抑えることも考えられるが、装置構成の複雑化などが懸念される。
【0012】
本発明は、このような従来の事情に鑑みて為されたものであり、増幅部で発生する歪をディジタル信号処理によって補償するディジタル・プリディストーション方式に関し、低次から高次まで高精度の歪補償を効果的に行うことが可能な技術を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明では、増幅部で発生する歪をディジタル信号処理によって補償するディジタル・プリディストーション方式において、所定サンプリングレートのディジタルの入力信号に対して、その信号レベルに応じた歪補償係数を用いて歪補償処理を行い、歪補償処理された信号をディジタル信号からアナログ信号に変換し、アナログ信号に変換された信号を前記増幅部により増幅し、増幅された信号を前記所定サンプリングレートより低いサンプリングレートでアナログ信号からディジタル信号に変換し、ディジタル信号に変換された信号のサンプリングレートを前記所定サンプリングレートに変換し、サンプリングレートが変換された信号から予め設定された次数の低次歪を算出し、サンプリングレートが変換された信号に、算出された低次歪から推定される当該低次歪より高次の高次歪を付加し、高次歪が付加された信号と前記入力信号との比較結果に基づいて、前記歪補償係数を更新するように構成した。
【0014】
以上のような構成によれば、増幅部の出力(帰還信号)をディジタル信号に変換するA/D変換部のサンプリングレートなどに起因して高次歪が欠落してしまう場合でも、低次だけでなく高次まで高精度の歪補償を行うことができる。これにより、例えば、A/D変換部のサンプリングレートを抑えることができるため、増幅装置の消費電力や発熱、コストなどを効果的に抑制することが可能になる。
【0015】
また、本発明は、一例として、ディジタル・プリディストーション方式の歪補償機能を有する増幅装置に、歪の補償に用いる歪補償係数を信号レベルに対応付けて保持する歪補償係数テーブルと、前記歪補償係数テーブルを参照して、所定サンプリングレートのディジタルの入力信号に対して、その信号レベルに対応する歪補償係数を複素乗算する複素乗算部と、前記複素乗算部により処理された信号をディジタルからアナログの信号に変換するD/A変換部と、前記D/A変換部により処理された信号をアップコンバートするアップコンバータと、前記アップコンバータにより処理された信号を増幅する前記増幅部と、前記増幅部により処理された信号をダウンコンバートするダウンコンバータと、前記ダウンコンバータにより処理された信号を前記所定サンプリングレートより低いサンプリングレートでアナログからディジタルの信号に変換するA/D変換部と、前記A/D変換部により処理された信号のサンプリングレートを前記所定サンプリングレートに変換するレート変換部と、前記レート変換部により処理された信号から予め設定された次数の低次歪を算出する低次歪算出部と、前記レート変換部により処理された信号に、前記低次歪算出部により算出された低次歪から推定される当該低次歪より高次の高次歪を付加する高次歪生成部と、前記高次歪生成部により処理された信号と前記入力信号との比較結果に基づいて、前記歪補償係数テーブルを更新する歪補償制御部と、を備える構成として実現することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、増幅部の出力(帰還信号)をディジタル信号に変換するA/D変換部のサンプリングレートなどに起因して高次歪が欠落してしまう場合でも、低次だけでなく高次まで高精度の歪補償を行うことができる。これにより、例えば、A/D変換部のサンプリングレートを抑えることができるため、増幅装置の消費電力や発熱、コストなどを効果的に抑制することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係るディジタル・プリディストーション方式の電力増幅装置の構成例を示す図である。
【図2】従来のディジタル・プリディストーション方式の電力増幅装置の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
図1には、本発明の一実施形態に係るディジタル・プリディストーション方式の電力増幅装置(或いは電力増幅システム)の構成例を示してある。
本例の電力増幅装置は、複素乗算部1、D/A変換部2、アップコンバータ3、電力増幅部4、結合器5、ダウンコンバータ6、A/D変換部7、レート変換部8、歪補償制御部9、歪補償係数テーブル10に加え、低次歪算出部11、高次歪生成部12を備える。
【0019】
なお、アップコンバータ3、電力増幅部4、結合器5、ダウンコンバータ6は、アナログ信号を処理するアナログ信号処理部であり、複素乗算部1、レート変換部8、歪補償制御部9、歪補償係数テーブル10、低次歪算出部11、高次歪生成部12は、ディジタル信号を処理するディジタル信号処理部である。また、アナログ信号処理部とディジタル信号処理部の間にはD/A変換部2及びA/D変換部7が設けられており、これら変換部2,7によってアナログ信号とディジタル信号の変換が行われる。
【0020】
歪補償係数テーブル10には、歪の補償に用いる歪補償係数が信号レベル(例えば、振幅)に対応付けて設定(保持)されている。歪補償係数としては、振幅調整に使用する振幅係数や、位相調整に使用する位相係数などが挙げられる。歪補償係数テーブル10の設定値(歪補償係数)は、後述の歪補償制御部9によって適宜更新される。
【0021】
複素乗算部1は、電力増幅装置に入力された入力信号の信号レベルを参照キーに用いて歪補償係数テーブル10を参照することで、入力信号の信号レベルに対応する歪補償係数を特定し、当該特定した歪補償係数を入力信号に複素乗算し、その結果の信号を出力する。
【0022】
D/A変換部2は、複素乗算部1により処理された信号(複素乗算部1の出力信号)を、ディジタルからアナログの信号に変換して出力する。
アップコンバータ3は、D/A変換部2により処理された信号(D/A変換部2の出力信号)に対して、周波数変換や帯域制限などのアップコンバートを施して出力する。
電力増幅部4は、アップコンバータ3により処理された信号(アップコンバータ3の出力信号)を電力増幅して出力する。
【0023】
結合器5は、電力増幅部4により処理された信号(電力増幅部4の出力信号)を分岐する。結合器5により分岐された一方の信号は、アンテナなどに出力されて無線送信され、他方の信号は、帰還信号としてダウンコンバータ6へ出力される。
【0024】
ダウンコンバータ6は、結合器5から出力された帰還信号(増幅された信号の一部)に対して、周波数変換や帯域制限などのダウンコンバートを施して出力する。
A/D変換部7は、ダウンコンバータ6により処理された信号(ダウンコンバータ6の出力信号)を、アナログからディジタルの信号に変換して出力する。本例では、入力信号のサンプリングレートより低いサンプリングレートのディジタル信号に変換する。
レート変換部8は、A/D変換部7により処理された信号(A/D変換部7の出力信号)のサンプリングレートを、入力信号のサンプリングレートにレート変換して出力する。
【0025】
低次歪算出部11は、レート変換部8により処理された信号(レート変換部8の出力信号)から、当該信号に含まれる歪量を算出(検出)して出力する。レート変換部8の出力信号に含まれる歪量は、例えば、当該信号をフーリエ変換して歪電力を求めることで得ることができる。
ここで、レート変換部8の出力信号から歪量を検出可能な歪の次数は、A/D変換部7のサンプリングレートなどに依存する。すなわち、A/D変換部7により変換されたディジタル信号のサンプリングレートをf[MHz]とすると、このディジタル信号はf/2[MHz]の帯域幅を超える情報が欠落しているため、それ以下の歪までしか歪量を算出(検出)できない。以下、低次歪算出部11により歪量を検出可能な次数までの歪を低次歪とし、それより高次の歪を高次歪とする。本例では、3次の歪を低次歪とし、5次以上の歪を高次歪とするが、これに限定するものではない。
【0026】
高次歪生成部12は、低次歪算出部11から出力された低次歪の歪量(歪電力)を基に高次歪を推定する。本例では、低次歪の歪量に対応する高次歪を予め実験的若しくは経験的に求めて多項式の係数として関連付けた歪量係数テーブルを有しており、この歪量係数テーブルを参照して高次歪を推定するが、他の手法により高次歪を推定してもよい。
また、高次歪生成部12は、低次歪の歪量から推定した高次歪を、レート変換部8から出力された信号に付加して出力する。本例では、低次歪の歪量に対応する高次歪の係数をレート変換部8からの信号に乗算処理することで、高次歪の付加を行う。
【0027】
歪補償制御部9は、高次歪生成部12により処理された信号(高次歪生成部12の出力信号)と入力信号とを比較して、歪補償係数テーブル10の設定値(振幅係数や位相係数などの歪補償係数)を更新する。ここで、高次歪生成部12の出力信号には、A/D変換部7によるディジタル変換によって欠落した高次歪が付加(補完)されているため、歪補償係数の更新を低次歪だけでなく高次歪についても適切に実施できる。
なお、特に図示しないが、入力信号と帰還信号には時間差が生じるので、入力信号と帰還信号の時間軸を合わせるために、入力信号をバッファリング(遅延調整)して時間軸を帰還信号に合わせる等の時間差を補償するための構成を必要に応じて備えてもよい。
【0028】
すなわち、本例の電力増幅装置では、複素乗算部1が、所定サンプリングレートの入力信号(ディジタル)に対して、歪補償係数テーブル10を参照して、その信号レベルに対応する歪補償係数を複素乗算し、D/A変換部2が、複素乗算部1からの信号をディジタルからアナログの信号に変換し、アップコンバータ3が、D/A変換部2からの信号をアップコンバートし、電力増幅部4が、アップコンバータ3からの信号を電力増幅する。
【0029】
そして、ダウンコンバータ6が、電力増幅部4からの信号の一部を分岐させた帰還信号をダウンコンバートし、A/D変換部7が、ダウンコンバータ6からの信号を入力信号のサンプリングレートより低いサンプリングレートでアナログからディジタルの信号に変換し、レート変換部8が、A/D変換部7からの信号のサンプリングレートを入力信号のサンプリングレートに変換する。
【0030】
その後、低次歪算出部11が、レート変換部8からの信号に含まれる低次歪を算出し、高次歪生成部12が、低次歪算出部11により算出された低次歪から推定される高次歪をレート変換部8からの信号に付加し、歪補償制御部9が、高次歪生成部12からの信号と入力信号との比較結果に基づいて、歪補償係数テーブル10の設定値(歪補償係数)を更新する。
【0031】
このように、本例では、入力信号(ディジタル信号)にその信号レベルに応じた歪補償係数を複素乗算した結果の信号をアナログ信号に変換して増幅し、当該増幅された信号の一部を帰還させた帰還信号(アナログ信号)をディジタル信号に変換した後に入力信号のサンプリングレートに合うようにレート変換した後に、レート変換後の信号から検出される低次歪から、ディジタル信号への変換によって欠落した高次歪を推定し、当該推定した高次歪をレート変換後の信号に付加した信号と入力信号とを比較して歪補償係数を更新するようにした。
【0032】
次に、本例の電力増幅装置の動作について、数式を用いて説明する。
入力信号をxとし、電力増幅部4の出力信号をyとすると、yは(式1)のように表すことができる。なお、偶数次の歪は省略してある。
=ax+a+a+・・・+a2n+12n+1 ・・(式1)
ここで、nは0以上の整数を表す。
【0033】
上記(式1)では、高次の項が非線形歪を表しているが、帰還部を構成するA/D変換部7のサンプリングレートなどにより帯域が制限されると、歪補償制御部9では、高次の歪を検出することができない。
例えば、帰還部のA/D変換部7で3次歪に相当する帯域に制限されると、歪補償制御部9で検出できる信号yは(式2)のようになり、5次以上の歪が検出されない。よって、5次以上の歪は補償されないことになる。
=ax+a ・・(式2)
【0034】
そこで、本例の電力増幅装置では、帰還信号の帯域内の3次の歪電力に対応する高次の歪を予め実験的若しくは経験的に求めて多項式の係数a,a,・・・として歪量係数テーブルにより関連付けておき、該当する各係数a,a,・・・を歪量係数テーブルから読み出して、レート変換部8からの信号に対して乗算処理する。
つまり、高次歪生成部12において、低次歪算出部11で算出(検出)した3次歪の電力a若しくは3次歪の電力係数aに対応する係数a,a,・・・とレート変換部8からの信号を乗算処理して、(式3)のように高次歪を付加した帰還信号yを得る。
=y+a+・・・+a2n+12n+1 ・・(式3)
【0035】
ここでは、キャリア電力に対して3次の歪電力は十分に小さいと仮定して、レート変換部8から出力された信号y(3次歪まで含む信号)を用いて高次歪の付加を行っているが、キャリア電力に対して低次の歪電力が無視できないのなら、3次の歪信号を取り除いた信号axに対して乗算処理してもよい。
【0036】
以上のような構成によれば、電力増幅部4からの出力(帰還信号)をディジタル信号に変換するA/D変換部のサンプリングレートなどに起因して高次歪が欠落してしまう場合でも、高次歪の歪補償をすることができる。つまり、低次から高次まで高精度の歪補償が可能となる。また、A/D変換部7のサンプリングレートを抑えることができるため、増幅装置の消費電力や発熱、コストなどを抑制することも可能である。
【0037】
なお、本発明は、以下のようなディジタル・プリディストーション方式として把握することもできる。
すなわち、電力増幅部で発生する歪をディジタル信号処理によって補償するディジタル・プリディストーション方式において、特に、入力信号のサンプリングレートと帰還部のA/D変換部のサンプリングレートが異なり、かつ、A/D変換部のサンプリングレートが入力信号のサンプリングレートと比較して小さい場合、帰還信号をA/D変換部でディジタル信号に変換した後、サンプリングレートを入力信号のサンプリングレートに変換し、帰還信号の低次の歪量を算出し、低次の歪量から高次の歪を推定して、帰還信号に高次の歪を付加し、高次の歪が付加された帰還信号と入力信号を比較して、電力増幅部で発生する非線形歪を補償するための入力振幅に応じた振幅、位相の歪補償係数テーブルを更新し、当該歪補償係数テーブルを参照して入力信号の振幅に応じた振幅係数、位相係数を入力信号に対して複素乗算することにより、電力増幅部で発生する歪を補償して、歪の少ない信号を出力する。
【0038】
また、電力増幅部で発生する歪をディジタル信号処理によって補償するディジタル・プリディストーション方式において、電力増幅部で発生する非線形歪を補償するために入力振幅に応じた振幅、位相の歪補償係数テーブルと、歪補償係数テーブルを参照して入力信号の振幅に応じた振幅係数、位相係数を入力信号に対して複素乗算する複素乗算部と、複素乗算部からのディジタル信号をアナログ信号に変換するD/A変換部と、D/A変換部からのアナログ信号を周波数変換や帯域制限するアップコンバータと、アップコンバータからの信号を電力増幅する電力増幅部と、電力増幅部からの出力信号の一部を帰還し、周波数変換や帯域制限するダウンコンバータと、ダウンコンバータからのアナログ信号をディジタル信号に変換するA/D変換部と、A/D変換部からのディジタル信号のサンプリングレートを入力信号のサンプリングレートに変換するレート変換部と、レート変換部からの帰還信号の低次の歪量を算出する低次歪算出部と、低次歪算出部からの歪電力から高次の歪を推定し、レート変換部からの信号に高次の歪を付加する高次歪生成部と、入力信号と高次歪生成部からの信号を比較して、電力増幅部で発生する非線形歪を補償するための入力振幅に応じた振幅、位相の歪補償係数テーブルを更新する歪補償制御部を備え、電力増幅部で発生する歪を補償して、歪の少ない信号を出力する。
【符号の説明】
【0039】
1:複素乗算部、 2:D/A変換部、 3:アップコンバータ、 4:電力増幅部、 5:結合器、 6:ダウンコンバータ、 7:A/D変換部、 8:レート変換部、 9:歪補償制御部、 10:歪補償テーブル、 11:低次歪算出部、 12:高次歪生成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
増幅部で発生する歪をディジタル信号処理によって補償するディジタル・プリディストーション方式において、
所定サンプリングレートのディジタルの入力信号に対して、その信号レベルに応じた歪補償係数を用いて歪補償処理を行い、
歪補償処理された信号をディジタル信号からアナログ信号に変換し、
アナログ信号に変換された信号を前記増幅部により増幅し、
増幅された信号を前記所定サンプリングレートより低いサンプリングレートでアナログ信号からディジタル信号に変換し、
ディジタル信号に変換された信号のサンプリングレートを前記所定サンプリングレートに変換し、
サンプリングレートが変換された信号から予め設定された次数の低次歪を算出し、
サンプリングレートが変換された信号に、算出された低次歪から推定される当該低次歪より高次の高次歪を付加し、
高次歪が付加された信号と前記入力信号との比較結果に基づいて、前記歪補償係数を更新する、
ことを特徴とするディジタル・プリディストーション方式。
【請求項2】
増幅部で発生する歪をディジタル信号処理によって補償するディジタル・プリディストーション方式の歪補償機能を有する増幅装置において、
歪の補償に用いる歪補償係数を信号レベルに対応付けて保持する歪補償係数テーブルと、
前記歪補償係数テーブルを参照して、所定サンプリングレートのディジタルの入力信号に対して、その信号レベルに対応する歪補償係数を複素乗算する複素乗算部と、
前記複素乗算部により処理された信号をディジタルからアナログの信号に変換するD/A変換部と、
前記D/A変換部により処理された信号をアップコンバートするアップコンバータと、
前記アップコンバータにより処理された信号を増幅する前記増幅部と、
前記増幅部により処理された信号をダウンコンバートするダウンコンバータと、
前記ダウンコンバータにより処理された信号を前記所定サンプリングレートより低いサンプリングレートでアナログからディジタルの信号に変換するA/D変換部と、
前記A/D変換部により処理された信号のサンプリングレートを前記所定サンプリングレートに変換するレート変換部と、
前記レート変換部により処理された信号から予め設定された次数の低次歪を算出する低次歪算出部と、
前記レート変換部により処理された信号に、前記低次歪算出部により算出された低次歪から推定される当該低次歪より高次の高次歪を付加する高次歪生成部と、
前記高次歪生成部により処理された信号と前記入力信号との比較結果に基づいて、前記歪補償係数テーブルを更新する歪補償制御部と、
を備えたことを特徴とする増幅装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−98758(P2013−98758A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−239950(P2011−239950)
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【出願人】(000001122)株式会社日立国際電気 (5,007)
【Fターム(参考)】