ディジタル/アナログ変換器
【目的】 マイクロコンピュータに内蔵されたタイマから出力される矩形波信号をフィルタに入力することでD/A変換を行うパルス幅変調方式のディジタル/アナログ変換器において、高い応答性と高精度の両方を実現する。
【構成】 矩形波信号は、必要な分解能を表わすビット数(n)を上位ビット数(m)と下位ビット数(k)とに分割して得られる上位ビットの第1信号と下位ビットの第2信号とで構成される。第2信号は、予め設定したプログラムにより、第1信号のビット数(m)を1ビットとして下位ビット数(k)生成される。また、第1信号と第2信号の波形成分によりフィルタの設計条件を決定する。
【構成】 矩形波信号は、必要な分解能を表わすビット数(n)を上位ビット数(m)と下位ビット数(k)とに分割して得られる上位ビットの第1信号と下位ビットの第2信号とで構成される。第2信号は、予め設定したプログラムにより、第1信号のビット数(m)を1ビットとして下位ビット数(k)生成される。また、第1信号と第2信号の波形成分によりフィルタの設計条件を決定する。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、パルス幅変調(PWM)方式のディジタル/アナログ変換器(以下、D/Aコンバータという)に関する。これは、例えば、マイクロコンピュータ(以下、マイコンという)を内蔵した圧力検出器において、マイコンからのディジタル出力を所定のアナログ信号(例えば4〜20mAの電流)に変換するために用いられるが、このような検出器のみに適用が限られるものではない。
【0002】
【従来の技術】従来知られているPWM方式のディジタル/アナログ変換(D/A変換)は、マイコンを用いた回路で次のように行われている。すなわち、図8に示すように、マイコンに内蔵されたPWMタイマ1(或いは通常のICで構成されたタイマ)から出力される矩形波信号(ディジタル信号)を、ローパスフィルタ2に通して所望の出力リプル(変動幅)以下にすることにより、直流電圧出力(アナログ信号)に変換し、この電圧出力を電圧/電流変換器3で、後の処理に必要な電流出力(例えば4〜20mA)に変換している。
【0003】具体的な回路構成としては、図9に示すように、ローパスフィルタ2は、基本的にRC2段のフィルタ21で構成し、このRCフィルタ21に所定の基準電圧源(Vref )22と、上記PWMタイマ1からの矩形波信号でオン・オフ制御されるトランジスタから成るスイッチング素子23とを接続し、スイッチング素子23のオン・オフに応じて基準電圧Vref 又は0(V)を入力する。また、電圧/電流変換器3は、オペアンプ31とその出力でオン・オフするトランジスタ32と出力電流が流れる抵抗33とから成る。
【0004】この方式は、PWMタイマの後段(出力側)に接続されるローパスフィルタとして上記のようなRCフィルタを設ければよいので、構成が簡単で安価なD/Aコンバータが実現できるという利点を有する。以下、このPWM方式D/A変換について、より詳細に説明する。
【0005】まず、上記タイマからのPWM信号は、一般に必要な分解能(D/A変換のフルスケールと等価)をn(ビット),出力比をx(%),タイマのカウントクロック周波数をft (Hz),供給される基準電圧をVref (V)としたとき、T=2n・1/ft (s:秒) …(1)を1PWM周期とし、その1周期内においてタイマカウンタの出力クロック数Cout =2n・x/100 …(2)に相当する時間Tp =Cout・1/ft (s) …(3)の間、基準電圧Vref (V)を出力し、残りの時間 Ti =T−Tp =2n・1/ft −Cout・1/ft (s) …(4) の間は0(V)を出力する矩形波として、出力される。
【0006】後述のように、D/A変換は、この矩形波出力がVref (V)と0(V)とで囲む面積を時間軸方向に積分することにより、実現される。この矩形波が1PWM周期Tで囲む面積は、Pp =Vref・Tp =Vref・Cout・1/ft …(5)となる。
【0007】上記の矩形波出力の例を、図10に示す。これは、n=14(ビット),x=49.80469(%),ft = 4(MHz),Vref = 5(V)の場合であり、これらの数値を上記式(1) 〜(4) に代入すると、T= 214 ・ 1/4000000 =4.096 (ms)
Cout = 214・49.80469/100 =8160Tp =8160 ・ 1/4000000 =2.04(ms)
Ti = 4.096−2.04=2.056 (ms)
の矩形波信号となっている。
【0008】次に、D/A変換は、上記基準電圧Vref の矩形波信号を、後段に接続したフィルタで積分することにより、実現される。上の例(図10)では、この矩形波が完全にフィルタリング(積分)されたとすれば、得られるアナログ電圧は、Vout =Vref・Cout/2n = 5 ・ 8160/214 = 2.490234 (V)
の一定電圧出力値になるはずである。しかしながら、実際のフィルタを設計する場合は、応答時間とのトレードオフにより、出力変動(リップル)を仕様上必要な分解能以下に抑える点が、設計ポイントとなる。
【0009】ここで、後段のローパスフィルタにとって最も厳しい矩形波のフィルタリング条件(すなわち、フィルタの設計条件)は、周波数が最低で振幅が最大の矩形、すなわちデューティ比50:50の矩形波である。このデューティ比50:50の基本矩形波
【0010】
【数1】
のフーリエ級数Wx は、 Wx = 1/2+1/π・Σ1/n・{1−(-1)n}sin(n・x) …(7) (−π≦x≦π; n=1,2,3,・・・・,∞)
であり、後段のフィルタリング条件は、上式においてn=1の正弦波、すなわち Wx(n=1)= 1/2+2/π・sin(x) (−π≦x≦π) …(8) によって決定される。
【0011】前記PWM信号の条件(一PWM周期Tのうち時間Tp の間は基準電圧Vrefを出力し、残りの時間Ti の間は0を出力すること)に従えば、フィルタリング条件を決定する正弦波は、 Wx(n=1)=Vref・{1/2+2/π・sin(n・2π・t/T)} (−T/2 ≦t≦ T/2)
…(9) であり、必要な分解能はVref /2nとなるので、後段のフィルタリング条件は、「周波数1/T,副振幅2・(Vref・2/π)の正弦波を、副振幅Vref /2n まで減衰させること」に相当する(「副振幅」とは振幅の2倍の大きさである)。このフィルタの設計ポイントは、周波数 F=1/T(Hz)において 減衰量 G=20・log{(Vref/2n) /(2・Vref・2/π)}=20・log(π/2n+2) …(10)となる。
【0012】図10の例において、デューティ比50:50の矩形波のフーリエ級数Wf は、 Wf = 5・{ 1/2+1/π・Σ1/n・{1−(-1)n}sin(n・2π・t/T)} …(11) (−T/2 ≦t≦ T/2; n=1,2,3,・・・・,∞)
となり、矩形波のフィルタリング条件は、上式においてn=1の正弦波Wf(n=1)= 5/2+ 10/π・sin(x) …(12)(−π≦x≦π ∵x= 2π・t/T )
によって決定される。後段のフィルタは、副振幅 VW =2・(5・2/π)≒ 6.3662 (V)
周波数 FW =1/T= 1/4.096 ≒ 244 (Hz)
の正弦波を、仕様上必要な分解能以下の振幅に減衰させることが、設計ポイントになる。
【0013】図10の例では、必要な分解能がn=14ビット長であるので、フィルタの設計ポイントは、周波数 FW ≒ 244(Hz)において 減衰量 GW =20・log{(5/214)/VW } ≒20・log(0.000047937) =−86.4(dB)
となる。ここで、VW =5(V)とすると、フィルタの減衰量はGW =20・log{(5/214)/5 } ≒20・log(0.000061035)=−84.3(dB)
である(図11(A))。
【0014】従って、このPWM出力を使用してD/A変換を実現するために、後段のフィルタを前述のRC2段のローパスフィルタで構成する場合、C=0.1 μF(固定)とすると、R= 910(kΩ)となる。このフィルタ定数でのステップ応答特性は、図11(B)に示すように、63%応答で約 300ms、99.9%応答で約 2sとなり、応答の遅いD/Aコンバータとなる。
【0015】
【発明が解決しようとする課題】上記のような従来のPWM方式では、高分解能のD/Aコンバータを得るためには、■後段のフィルタリング条件としてフィルタ定数を重くするか、或いは、■アクティブフィルタを用いて急峻なフィルタ特性を達成することが必要である。
【0016】■の場合、上記のように、PWMタイマが周波数ft =4MHzのPWMで、8ビットと14ビットのPWM出力を発生するものとすると、8ビットでは、0.25μsec ×28≒64μsec ,14ビットでは、0.25μsec ×214 ≒ 4msec の周期で、データが出力される。つまり、14ビットのPWMのRCフィルタは、周期が長くなるので、精度を高くするためには、8ビットに比べて指数関数的に重いフィルタ定数にしなければならない。このため、出力応答特性の遅れが大きくなり、高精度と共に高い応答性が要求されるD/Aコンバータには適用できないという問題点がある。
【0017】他方、■の場合には、フィルタを構成するオペアンプ等の回路定数部品が高価であるため、実際上採用し難いという問題点がある。
【0018】従って、本発明の目的は、上記のように安価なフィルタを用いるPWM方式のD/Aコンバータにおいて、フィルタ定数を重くする(つまり、応答性を悪くする)ことなく、高分解能を実現できるD/Aコンバータを提供することにある。
【0019】
【課題を解決するための手段】本発明は、前述のPWM信号として所定パルス幅の矩形波信号を出力するPWMタイマと、その出力側に接続したフィルタとを備え、このフィルタに上記矩形波信号を入力することによりディジタル/アナログ変換を行うパルス幅変調方式のディジタル/アナログ変換器であって、上記矩形波信号は、必要な分解能を表わすビット数(n)を上位ビット数(m)と下位ビット数(k)とに分割して得られる上位ビットの第1PWM信号と下位ビットの第2PWM信号とで構成され、第2PWM信号は、予め設定したプログラムにより、第1PWM信号のビット数(m)を1ビットとして下位ビット数(k)生成されることを特徴とする。
【0020】上記ディジタル/アナログ変換器では、第1PWM信号と第2PWM信号の波形成分により上記フィルタ回路の設計条件が決定される。
【0021】
【作用】本発明では、PWMタイマから出力されるPWM信号は、必要な分解能n(ビット)を上位m(ビット)と下位k(ビット)とに分割し(すなわち、n=m+k)、mビットPWM(以下、第1PWMという)波形と、この第1PWM出力波形の1フレーム(1周期)を1ビットとするkビットPWM(以下、第2PWMという)波形とを重ね合わせた矩形波とする。そして、mビットの第1PWM信号は、従来と同様マイコンに内蔵されたタイマ(ハードウエア)で生成すると共に、そのmビットを1ビットとするkビットの第2PWM信号を、マイコンのプログラム(ソフトウエアによるタイマ)により生成する。
【0022】本発明では、例えば、8ビットと14ビットのPWM信号を発生するタイマの場合、8ビットのPWM信号はそのままで、応答性の悪い14ビットのPWM信号をマイコンのソフトウエアで処理する、すなわち、8ビットのPWM信号を1ビットとみなし、マイコンのプログラム上で6ビットのPWMになるように出力することにより、高速化を図ることができる。
【0023】具体的には、14ビットPWM信号の場合、前述のように周期は 4msec で、そのPWM出力電圧は、一定の電圧幅(例えば0Vと5Vの電圧範囲)の時間比例により決定されるので、その電圧変動を所定の電圧値( 5/214≒0.3 mV)以下に抑えるために、RCフィルタの定数は非常に大きな値になり、応答が遅くなってしまう。しかし、8ビットPWMは、デューティ比が50%(2.5 V出力)の場合、周期(64μsec )の半分(32μsec )の時間での5Vと、他の半分(32μsec )の時間での0Vとを合わせて、その周期で(64μsec 毎に)出力することにより、8ビットの精度、すなわち 5/28 ≒19.5mVの分解能を達成する。従って、14ビットPWMと比較すると、8ビットPWMは、電圧分解能が 26 大きく、サイクル時間が 1/26 に短くなるので、フィルタ定数は 1/212(=1/4096)小さく、高速化を図ることができる。
【0024】
【効果】本発明によれば、上記のように、PWM信号のmビットを1ビットとしてマイコンのプログラム上でkビットのPWM信号になるように出力することにより、mビットの速い応答性と高い分解能を持つD/Aコンバータが実現される。
【0025】
【実施例】図1に示すように、本発明のD/Aコンバータに用いられるマイコンは、従来のハードウエアによるPWMタイマ1から出力される矩形波信号を、その上位(m)ビット毎に一まとめにして下位(k)ビット数生成する、ソフトウエアによるPWMタイマ4を備える。これは、マイコンのプログラムで設定される。
【0026】以下、本発明によるPWM方式D/A変換について説明する。
【0027】まず、従来の技術で説明したように、必要な分解能(D/A変換のフルスケールと等価)をn(ビット),出力比をx(%),第1PWMのタイマのカウントクロック周波数をft (Hz),供給される基準電圧をVref (V),nビット中にVref が出力されるべきカウント数をCout =2n・x/100 …(13)とする。このCout を第1PWM用上位m(ビット)と、第2PWM用下位k(ビット)とに分割し、分割された上位m(ビット)部分のカウント数をCm ,下位k(ビット)部分のカウント数をCk とする。すなわち、
【0028】
【数2】
∴ Cout =Cm・2k +Ck …(15)(Cm には2k のバイアスがかかっている)
実際の矩形波出力は、次の[1] 及び[2] の作業によって形成される。
【0029】[1] 第1PWMのクロック周波数ft にて(Cm +1)クロックのVref (V)を出力し、残りの{2m −(Cm +1)}クロックの0(V)を出力する第1PWM出力波形を、第2PWMによりCk フレーム数(周期)だけ出力する。
【0030】[2] Cm クロックのVref (V)を出力し、残りの(2m −Cm )クロックの0(V)を出力する第1PWM出力波形を、第2PWMにより(2k −Ck )フレーム数(周期)だけ出力する。
【0031】ここで、第1PWMのクロック周波数はft ,分解能(フルスケール)はm(ビット)であるから、第1PWMの周期(1フレーム時間)T1 は、T1 =2m・1/ft (s) …(16)となる。また、上記[1] 及び[2] の作業によって1サイクルを形成しているので、第2PWMの周期T2 (=PWMトータル周期Tt )は、 Tt =T2 =Ck・T1 + (2k −Ck)・T1 =(Ck +2k −Ck)・T1 =2k・(2m・1/ft )=2k+m・1/ft =2n・1/ft =T …(17)となり、前述した従来のPWM周期Tと等しい。
【0032】図2は、本発明において、従来のPWM出力波形の例(図10)と同等の出力を生成するPWM出力波形を示す。ここで、Vref =5(V),n=14(ビット),m=8(ビット),k=6(ビット)
Cout =8160,Cm =127 ,Ck = 32 ,2k = 64 ,ft =4,000,000 (Hz),T1 = 64 (μs), Tt =T2 = 4.096(ms)
である。この場合、第1PWM出力(m=8ビット)は、Cm +1= 128(クロック)の5(V)と、2m −(Cm +1)= 128(クロック)の0(V)とを、Ck =32(フレーム)含む波形であり、第2PWM出力(k=6ビット)は、Cm = 127(クロック)の5(V)と、2m −Cm = 129(クロック)の0(V)とを、2k −Ck =32(フレーム)含む波形である。
【0033】次に、本発明によるPWM出力波形がPWMトータル周期Tt 内でVref (V)と0(V)とで囲む面積をPt を求める。
【0034】まず、PWMトータル周期Tt では、上記のように[1] 及び[2] の作業で1サイクルを形成しているので、上記面積Pt は、[1] の作業で囲まれる面積P1 と[2] の作業で囲まれる面積P2 との和である。ここで、P1 及びP2 は、P1 =Vref・ (Cm +1)・Ck・1/ft …(18)P2 =Vref・Cm ・(2k −Ck)・1/ft …(19)であるから、 Pt =P1 +P2 =Vref・{(Cm +1)・Ck +Cm ・(2k −Ck)}・1/ft =Vref ・(Cm・2k +Ck)・1/ft =Vref・Cout・1/ft …(20)となり、従来の矩形波が1PWM周期Tで囲む面積Pp に等しい。
【0035】従って、本発明によるPWM出力波形を、後段のフィルタで完全に積分したとすれば、得られるアナログ電圧は、従来のものと等しくなる。これは、従来よりも速い応答性をもって同等のアナログ出力が得られるということである。
【0036】D/A変換は、上記のようにPWM出力波形をローパスフィルタに通して積分することによって行われるので、PWMの波形成分により後段のフィルタ条件が決定される。
【0037】このフィルタ条件に関して、本発明によるPWM波形は、前述のように2つのPWM波形が重なり合うことによって構成されているので、後段のローパスフィルタは、2つのPWM波形に対して次の2つのフィルタ条件(1),(2) を満足すればよい。
【0038】(1) 第1PWM波形に対して第1PWM波形は、周期を除いて前述の従来方式による矩形波と基本的に同一である。従って、第1PWM波形を積分するフィルタ条件を決める第1項までのフーリエ級数W1(n=1)は W1(n=1)=Vref・{1/2+2/π・sin(n・2π・t/T1)} (−T/2 ≦t< T/2)
…(21)であり、必要な分解能はVref/2nとなるので、後段のフィルタ条件は、「周波数1/T1 ,副振幅2・(Vref・2/π) の正弦波を、副振幅Vref /2nまで減衰させること」に相当する。
【0039】故に、第1PWM波形に対する後段のフィルタの設計ポイントは、 周波数 F1 =1/T1 =1/ (2m・1/ft)=ft /2m =ft /2n-k (∵n=m+k)
=1/2-k・(ft /2n) =2k・ (ft /2n) =2k・1/T …(22)にて、減衰量 G1 =20・log{(Vref/2n)/( 2・Vref・2/π)}=20・log(π/2n+2) …(23)となる。
【0040】このフィルタ設計ポイントを、前述の従来方式によるPWM出力のフィルタ設計ポイントの式(10)と比較すると、後段のフィルタに必要な減衰量は同じであるが、その周波数は、従来方式での周波数F(=1/T)の2k 倍も高い周波数へシフトしている。
【0041】(2) 第2PWM波形に対して第2PWMの矩形波は多少複雑ではあるが、等価的に以下のように考えられる。
【0042】まず、第1PWMの矩形波は完全に積分されていると仮定する(実際のフィルタは、前述の第1PWM波形のフィルタ条件を満足しているので、この仮定で問題ない)。
【0043】第2PWM波形は、前記[1] 及び[2] の作業により1周期を形成している。ここで、上記仮定によると、第2PWM波形が上記[1] の作業時に出力している電圧Vs1と、上記[2] の作業時に出力している電圧Vs2は、それぞれVs1=Vref・(Cm +1)/2m …(24)Vs2=Vref・Cm /2m …(25)となる。また、第2PWMの周期Tt(=T2)は Tt =2(k+m)・1/ft=2n・1/ft=T (s) …(26)であるから、結果的に第2PWM波形は、周期Tt ,副振幅Vs =Vs1−Vs2の矩形波出力とみなすことができる。
【0044】図2の場合、Vref =5(V),Cm =127 ,2m =256 であるから、Vs1= 5・(127 + 1)/256 =2.5 (V)
Vs2= 5・ 127/256 =2.48(V)
であり、第2PWM波形は、図3に示すようになる。
【0045】従って、第2PWM波形のフィルタ条件を決めるフーリエ級数W2(n=1)(デューティ比50:50 の波形、すなわちCk =2k/2 =2k-1 のときの波形)は、 W2(n=1)= (Vs1+Vs2)/2 +Vs・{2/πsin(n・2π・t/Tt)} =Vref・{(2・Cm+1)/2(m+1)} +{(Vs1−Vs2) ・{2/πsin(n・2π・t/Tt)} =Vref・{(2・Cm+1)/2(m+1)}+ {Vref・{(Cm +1)/2m} −Vref・ (Cm/2m) ・{2/πsin(n・2π・t/Tt)} =Vref・{(2・Cm+1)/2(m+1)} +{(Cm+1)−Cm}/2m・Vref・ {2/πsin(n・2π・t/Tt)} =Vref・{(2・Cm+1)/2(m+1)} +(1/2m) ・Vref・{ 2/πsin(n・2π・t/Tt)} …(27) (−Tt/2≦t< T/2)
となる。図4は、この波形を示す。
【0046】必要な分解能はVref/2nであるから、第2PWMのフィルタ条件は、「周波数1/Tt(=1/T) ,副振幅 2・(1/2m)・( Vref・2/π) の正弦波を、副振幅Vref /2n まで減衰させること」に相当する。
【0047】故に、第2PWM波形に対する後段のフィルタの設計ポイントは、周波数 F2 =1/T にて 減衰量 G2 =20・log{(Vref/2n)/(2・(1/2m)・Vref・2/π)} =20・log{(π/2n+2)/(1/2m)} =20・log{(π/2n+2)・2m)} =20・log{(π/2n+2)+20・log(2m) …(28)となる。このフィルタ設計ポイントを前述の従来方式によるPWM出力のフィルタ設計ポイントの式(10)と比較すると、後段のフィルタの設計周波数は同じであるが、その減衰量は、従来よりも20・log(2m)だけ軽減されている(∵2m >1)。
【0048】上記(1),(2) の条件をフィルタの設計ポイントとしてまとめると、図5(A)に示すようになる。すなわち、図2の例の場合、n=14(bit) ,m=8(bit),k=6(bit),ft =4,000,000(Hz) ,T=2n・1/ft(s) =4.096(ms)であるから、図11(A)に示した従来のフィルタ設計ポイントとの対比において、本発明における第1PWMのフィルタ設計ポイントは、 周波数 F1 =1/T1 =2k・(1/T) =26・(1/4.096・10-3) =15.625(kHz) (従来の周波数の2n=64倍へシフト)
減衰量 G1 =20・log (π/2n+2)=20・log (π/214+2) ≒20・log(0.000047937) =−86.4(dB) (従来と同一)
第2PWMのフィルタ設計ポイントは、 周波数 F2 =1/T=1/4.096(ms) ≒244(Hz) (従来と同一)
減衰量 G2 =20・log{(π/2n+2)+20・log(2m) ≒20・log(0.000047937) +20・log(256) =−86.4(dB) +48.2(dB) =−38.2(dB) (従来より48(dB) 軽減)
となる。
【0049】ここで図6及び図7を参照して、本発明におけるPWMタイマによりPWM出力を生成する動作を説明する。
【0050】まず、マイコン内に設定される記憶部(バッファ)を次のように定義する。
【0051】
x :出力したいカウント値をセットしておくバッファxm :xの上位mビットを保存しておくバッファxk :xの下位kビットを保存しておくバッファC :ソフトウエアによるPWM出力用バッファD :ハードウエアによるPWM出力用バッファ図6に示す基本動作では、初めのステップ1でCを0にセットし(C=0)、次のステップ2で演算を実行する。そして、ステップ3で、演算の結果を出力したいカウント値をxにセットして、初めに戻る。
【0052】次に、図7は、ハードウエアのPWMタイマに対する割り込み動作を示す。この動作では、初めのステップ11で“C=0?”を判定する。C=0ならば、次のステップ12及び13で、xの上位mビットをxm に、xの下位kビットをxk にそれぞれ格納する。一方、ステップ11の判定でC=0でないときは、次のステップ14において“C≧xk ?”を判定する。これが“YES”ならば、ステップ15でxm をDにセットし、“NO”ならば、ステップ16で(xm +1)をDにセットする。そして、ステップ17でC=C+1、すなわちバッファCの値に1を加える。次に、ステップ18において“C≧2k ?”を判定し、“NO”ならば、初めに戻り、“YES”ならば、ステップ19でC=0、すなわちCを0にセットして、初めに戻る。
【0053】本発明によれば、上記のような第1PWM出力及び第2PWM出力を用いてD/A変換を行うので、PWMタイマの後段に設けられるフィルタを前述のRC2段のローパスフィルタで構成した場合、前記と同様にC=0.1 μFで固定したとき、抵抗値は、従来の方式ではR= 910(kΩ) であったが、本発明ではR=68(kΩ) となる。
【0054】この定数におけるステップ応答特性は、図5R>5(B)に示すように、63%応答で約 22 ms,99.9%応答で約 200msである。従って、本発明によれば、従来の方式(図11(B))と比較して、応答が約10倍も速いD/Aコンバータが得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の基本構成を示す図。
【図2】本発明におけるPWM波形の例を示す図。
【図3】図2の第1PWM波形に対する第2PWM波形を示す図。
【図4】第2PWM波形のフィルタ条件を決めるフーリエ級数の波形を示す図。
【図5】本発明によるフィルタ設計ポイント及び応答特性を示す図。
【図6】本発明の基本動作を示すフローチャート。
【図7】本発明においてPWMタイマに対する割り込み動作を示すフローチャート。
【図8】従来のD/Aコンバータの基本構成を示す図。
【図9】図8の具体的な回路構成を示す図。
【図10】従来のPWM波形の例を示す図。
【図11】従来のフィルタ設計ポイント及び応答特性を示す図。
【符号の説明】
1…ハードウエアによるPWMタイマ、2…ローパスフィルタ、3…電圧/電流変換器、4…ソフトウエアによるPWMタイマ、21…RCフィルタ、22…抵抗、23…スイッチング素子、31…オペアンプ、32…トランジスタ、33…抵抗。
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、パルス幅変調(PWM)方式のディジタル/アナログ変換器(以下、D/Aコンバータという)に関する。これは、例えば、マイクロコンピュータ(以下、マイコンという)を内蔵した圧力検出器において、マイコンからのディジタル出力を所定のアナログ信号(例えば4〜20mAの電流)に変換するために用いられるが、このような検出器のみに適用が限られるものではない。
【0002】
【従来の技術】従来知られているPWM方式のディジタル/アナログ変換(D/A変換)は、マイコンを用いた回路で次のように行われている。すなわち、図8に示すように、マイコンに内蔵されたPWMタイマ1(或いは通常のICで構成されたタイマ)から出力される矩形波信号(ディジタル信号)を、ローパスフィルタ2に通して所望の出力リプル(変動幅)以下にすることにより、直流電圧出力(アナログ信号)に変換し、この電圧出力を電圧/電流変換器3で、後の処理に必要な電流出力(例えば4〜20mA)に変換している。
【0003】具体的な回路構成としては、図9に示すように、ローパスフィルタ2は、基本的にRC2段のフィルタ21で構成し、このRCフィルタ21に所定の基準電圧源(Vref )22と、上記PWMタイマ1からの矩形波信号でオン・オフ制御されるトランジスタから成るスイッチング素子23とを接続し、スイッチング素子23のオン・オフに応じて基準電圧Vref 又は0(V)を入力する。また、電圧/電流変換器3は、オペアンプ31とその出力でオン・オフするトランジスタ32と出力電流が流れる抵抗33とから成る。
【0004】この方式は、PWMタイマの後段(出力側)に接続されるローパスフィルタとして上記のようなRCフィルタを設ければよいので、構成が簡単で安価なD/Aコンバータが実現できるという利点を有する。以下、このPWM方式D/A変換について、より詳細に説明する。
【0005】まず、上記タイマからのPWM信号は、一般に必要な分解能(D/A変換のフルスケールと等価)をn(ビット),出力比をx(%),タイマのカウントクロック周波数をft (Hz),供給される基準電圧をVref (V)としたとき、T=2n・1/ft (s:秒) …(1)を1PWM周期とし、その1周期内においてタイマカウンタの出力クロック数Cout =2n・x/100 …(2)に相当する時間Tp =Cout・1/ft (s) …(3)の間、基準電圧Vref (V)を出力し、残りの時間 Ti =T−Tp =2n・1/ft −Cout・1/ft (s) …(4) の間は0(V)を出力する矩形波として、出力される。
【0006】後述のように、D/A変換は、この矩形波出力がVref (V)と0(V)とで囲む面積を時間軸方向に積分することにより、実現される。この矩形波が1PWM周期Tで囲む面積は、Pp =Vref・Tp =Vref・Cout・1/ft …(5)となる。
【0007】上記の矩形波出力の例を、図10に示す。これは、n=14(ビット),x=49.80469(%),ft = 4(MHz),Vref = 5(V)の場合であり、これらの数値を上記式(1) 〜(4) に代入すると、T= 214 ・ 1/4000000 =4.096 (ms)
Cout = 214・49.80469/100 =8160Tp =8160 ・ 1/4000000 =2.04(ms)
Ti = 4.096−2.04=2.056 (ms)
の矩形波信号となっている。
【0008】次に、D/A変換は、上記基準電圧Vref の矩形波信号を、後段に接続したフィルタで積分することにより、実現される。上の例(図10)では、この矩形波が完全にフィルタリング(積分)されたとすれば、得られるアナログ電圧は、Vout =Vref・Cout/2n = 5 ・ 8160/214 = 2.490234 (V)
の一定電圧出力値になるはずである。しかしながら、実際のフィルタを設計する場合は、応答時間とのトレードオフにより、出力変動(リップル)を仕様上必要な分解能以下に抑える点が、設計ポイントとなる。
【0009】ここで、後段のローパスフィルタにとって最も厳しい矩形波のフィルタリング条件(すなわち、フィルタの設計条件)は、周波数が最低で振幅が最大の矩形、すなわちデューティ比50:50の矩形波である。このデューティ比50:50の基本矩形波
【0010】
【数1】
のフーリエ級数Wx は、 Wx = 1/2+1/π・Σ1/n・{1−(-1)n}sin(n・x) …(7) (−π≦x≦π; n=1,2,3,・・・・,∞)
であり、後段のフィルタリング条件は、上式においてn=1の正弦波、すなわち Wx(n=1)= 1/2+2/π・sin(x) (−π≦x≦π) …(8) によって決定される。
【0011】前記PWM信号の条件(一PWM周期Tのうち時間Tp の間は基準電圧Vrefを出力し、残りの時間Ti の間は0を出力すること)に従えば、フィルタリング条件を決定する正弦波は、 Wx(n=1)=Vref・{1/2+2/π・sin(n・2π・t/T)} (−T/2 ≦t≦ T/2)
…(9) であり、必要な分解能はVref /2nとなるので、後段のフィルタリング条件は、「周波数1/T,副振幅2・(Vref・2/π)の正弦波を、副振幅Vref /2n まで減衰させること」に相当する(「副振幅」とは振幅の2倍の大きさである)。このフィルタの設計ポイントは、周波数 F=1/T(Hz)において 減衰量 G=20・log{(Vref/2n) /(2・Vref・2/π)}=20・log(π/2n+2) …(10)となる。
【0012】図10の例において、デューティ比50:50の矩形波のフーリエ級数Wf は、 Wf = 5・{ 1/2+1/π・Σ1/n・{1−(-1)n}sin(n・2π・t/T)} …(11) (−T/2 ≦t≦ T/2; n=1,2,3,・・・・,∞)
となり、矩形波のフィルタリング条件は、上式においてn=1の正弦波Wf(n=1)= 5/2+ 10/π・sin(x) …(12)(−π≦x≦π ∵x= 2π・t/T )
によって決定される。後段のフィルタは、副振幅 VW =2・(5・2/π)≒ 6.3662 (V)
周波数 FW =1/T= 1/4.096 ≒ 244 (Hz)
の正弦波を、仕様上必要な分解能以下の振幅に減衰させることが、設計ポイントになる。
【0013】図10の例では、必要な分解能がn=14ビット長であるので、フィルタの設計ポイントは、周波数 FW ≒ 244(Hz)において 減衰量 GW =20・log{(5/214)/VW } ≒20・log(0.000047937) =−86.4(dB)
となる。ここで、VW =5(V)とすると、フィルタの減衰量はGW =20・log{(5/214)/5 } ≒20・log(0.000061035)=−84.3(dB)
である(図11(A))。
【0014】従って、このPWM出力を使用してD/A変換を実現するために、後段のフィルタを前述のRC2段のローパスフィルタで構成する場合、C=0.1 μF(固定)とすると、R= 910(kΩ)となる。このフィルタ定数でのステップ応答特性は、図11(B)に示すように、63%応答で約 300ms、99.9%応答で約 2sとなり、応答の遅いD/Aコンバータとなる。
【0015】
【発明が解決しようとする課題】上記のような従来のPWM方式では、高分解能のD/Aコンバータを得るためには、
【0016】
【0017】他方、
【0018】従って、本発明の目的は、上記のように安価なフィルタを用いるPWM方式のD/Aコンバータにおいて、フィルタ定数を重くする(つまり、応答性を悪くする)ことなく、高分解能を実現できるD/Aコンバータを提供することにある。
【0019】
【課題を解決するための手段】本発明は、前述のPWM信号として所定パルス幅の矩形波信号を出力するPWMタイマと、その出力側に接続したフィルタとを備え、このフィルタに上記矩形波信号を入力することによりディジタル/アナログ変換を行うパルス幅変調方式のディジタル/アナログ変換器であって、上記矩形波信号は、必要な分解能を表わすビット数(n)を上位ビット数(m)と下位ビット数(k)とに分割して得られる上位ビットの第1PWM信号と下位ビットの第2PWM信号とで構成され、第2PWM信号は、予め設定したプログラムにより、第1PWM信号のビット数(m)を1ビットとして下位ビット数(k)生成されることを特徴とする。
【0020】上記ディジタル/アナログ変換器では、第1PWM信号と第2PWM信号の波形成分により上記フィルタ回路の設計条件が決定される。
【0021】
【作用】本発明では、PWMタイマから出力されるPWM信号は、必要な分解能n(ビット)を上位m(ビット)と下位k(ビット)とに分割し(すなわち、n=m+k)、mビットPWM(以下、第1PWMという)波形と、この第1PWM出力波形の1フレーム(1周期)を1ビットとするkビットPWM(以下、第2PWMという)波形とを重ね合わせた矩形波とする。そして、mビットの第1PWM信号は、従来と同様マイコンに内蔵されたタイマ(ハードウエア)で生成すると共に、そのmビットを1ビットとするkビットの第2PWM信号を、マイコンのプログラム(ソフトウエアによるタイマ)により生成する。
【0022】本発明では、例えば、8ビットと14ビットのPWM信号を発生するタイマの場合、8ビットのPWM信号はそのままで、応答性の悪い14ビットのPWM信号をマイコンのソフトウエアで処理する、すなわち、8ビットのPWM信号を1ビットとみなし、マイコンのプログラム上で6ビットのPWMになるように出力することにより、高速化を図ることができる。
【0023】具体的には、14ビットPWM信号の場合、前述のように周期は 4msec で、そのPWM出力電圧は、一定の電圧幅(例えば0Vと5Vの電圧範囲)の時間比例により決定されるので、その電圧変動を所定の電圧値( 5/214≒0.3 mV)以下に抑えるために、RCフィルタの定数は非常に大きな値になり、応答が遅くなってしまう。しかし、8ビットPWMは、デューティ比が50%(2.5 V出力)の場合、周期(64μsec )の半分(32μsec )の時間での5Vと、他の半分(32μsec )の時間での0Vとを合わせて、その周期で(64μsec 毎に)出力することにより、8ビットの精度、すなわち 5/28 ≒19.5mVの分解能を達成する。従って、14ビットPWMと比較すると、8ビットPWMは、電圧分解能が 26 大きく、サイクル時間が 1/26 に短くなるので、フィルタ定数は 1/212(=1/4096)小さく、高速化を図ることができる。
【0024】
【効果】本発明によれば、上記のように、PWM信号のmビットを1ビットとしてマイコンのプログラム上でkビットのPWM信号になるように出力することにより、mビットの速い応答性と高い分解能を持つD/Aコンバータが実現される。
【0025】
【実施例】図1に示すように、本発明のD/Aコンバータに用いられるマイコンは、従来のハードウエアによるPWMタイマ1から出力される矩形波信号を、その上位(m)ビット毎に一まとめにして下位(k)ビット数生成する、ソフトウエアによるPWMタイマ4を備える。これは、マイコンのプログラムで設定される。
【0026】以下、本発明によるPWM方式D/A変換について説明する。
【0027】まず、従来の技術で説明したように、必要な分解能(D/A変換のフルスケールと等価)をn(ビット),出力比をx(%),第1PWMのタイマのカウントクロック周波数をft (Hz),供給される基準電圧をVref (V),nビット中にVref が出力されるべきカウント数をCout =2n・x/100 …(13)とする。このCout を第1PWM用上位m(ビット)と、第2PWM用下位k(ビット)とに分割し、分割された上位m(ビット)部分のカウント数をCm ,下位k(ビット)部分のカウント数をCk とする。すなわち、
【0028】
【数2】
∴ Cout =Cm・2k +Ck …(15)(Cm には2k のバイアスがかかっている)
実際の矩形波出力は、次の[1] 及び[2] の作業によって形成される。
【0029】[1] 第1PWMのクロック周波数ft にて(Cm +1)クロックのVref (V)を出力し、残りの{2m −(Cm +1)}クロックの0(V)を出力する第1PWM出力波形を、第2PWMによりCk フレーム数(周期)だけ出力する。
【0030】[2] Cm クロックのVref (V)を出力し、残りの(2m −Cm )クロックの0(V)を出力する第1PWM出力波形を、第2PWMにより(2k −Ck )フレーム数(周期)だけ出力する。
【0031】ここで、第1PWMのクロック周波数はft ,分解能(フルスケール)はm(ビット)であるから、第1PWMの周期(1フレーム時間)T1 は、T1 =2m・1/ft (s) …(16)となる。また、上記[1] 及び[2] の作業によって1サイクルを形成しているので、第2PWMの周期T2 (=PWMトータル周期Tt )は、 Tt =T2 =Ck・T1 + (2k −Ck)・T1 =(Ck +2k −Ck)・T1 =2k・(2m・1/ft )=2k+m・1/ft =2n・1/ft =T …(17)となり、前述した従来のPWM周期Tと等しい。
【0032】図2は、本発明において、従来のPWM出力波形の例(図10)と同等の出力を生成するPWM出力波形を示す。ここで、Vref =5(V),n=14(ビット),m=8(ビット),k=6(ビット)
Cout =8160,Cm =127 ,Ck = 32 ,2k = 64 ,ft =4,000,000 (Hz),T1 = 64 (μs), Tt =T2 = 4.096(ms)
である。この場合、第1PWM出力(m=8ビット)は、Cm +1= 128(クロック)の5(V)と、2m −(Cm +1)= 128(クロック)の0(V)とを、Ck =32(フレーム)含む波形であり、第2PWM出力(k=6ビット)は、Cm = 127(クロック)の5(V)と、2m −Cm = 129(クロック)の0(V)とを、2k −Ck =32(フレーム)含む波形である。
【0033】次に、本発明によるPWM出力波形がPWMトータル周期Tt 内でVref (V)と0(V)とで囲む面積をPt を求める。
【0034】まず、PWMトータル周期Tt では、上記のように[1] 及び[2] の作業で1サイクルを形成しているので、上記面積Pt は、[1] の作業で囲まれる面積P1 と[2] の作業で囲まれる面積P2 との和である。ここで、P1 及びP2 は、P1 =Vref・ (Cm +1)・Ck・1/ft …(18)P2 =Vref・Cm ・(2k −Ck)・1/ft …(19)であるから、 Pt =P1 +P2 =Vref・{(Cm +1)・Ck +Cm ・(2k −Ck)}・1/ft =Vref ・(Cm・2k +Ck)・1/ft =Vref・Cout・1/ft …(20)となり、従来の矩形波が1PWM周期Tで囲む面積Pp に等しい。
【0035】従って、本発明によるPWM出力波形を、後段のフィルタで完全に積分したとすれば、得られるアナログ電圧は、従来のものと等しくなる。これは、従来よりも速い応答性をもって同等のアナログ出力が得られるということである。
【0036】D/A変換は、上記のようにPWM出力波形をローパスフィルタに通して積分することによって行われるので、PWMの波形成分により後段のフィルタ条件が決定される。
【0037】このフィルタ条件に関して、本発明によるPWM波形は、前述のように2つのPWM波形が重なり合うことによって構成されているので、後段のローパスフィルタは、2つのPWM波形に対して次の2つのフィルタ条件(1),(2) を満足すればよい。
【0038】(1) 第1PWM波形に対して第1PWM波形は、周期を除いて前述の従来方式による矩形波と基本的に同一である。従って、第1PWM波形を積分するフィルタ条件を決める第1項までのフーリエ級数W1(n=1)は W1(n=1)=Vref・{1/2+2/π・sin(n・2π・t/T1)} (−T/2 ≦t< T/2)
…(21)であり、必要な分解能はVref/2nとなるので、後段のフィルタ条件は、「周波数1/T1 ,副振幅2・(Vref・2/π) の正弦波を、副振幅Vref /2nまで減衰させること」に相当する。
【0039】故に、第1PWM波形に対する後段のフィルタの設計ポイントは、 周波数 F1 =1/T1 =1/ (2m・1/ft)=ft /2m =ft /2n-k (∵n=m+k)
=1/2-k・(ft /2n) =2k・ (ft /2n) =2k・1/T …(22)にて、減衰量 G1 =20・log{(Vref/2n)/( 2・Vref・2/π)}=20・log(π/2n+2) …(23)となる。
【0040】このフィルタ設計ポイントを、前述の従来方式によるPWM出力のフィルタ設計ポイントの式(10)と比較すると、後段のフィルタに必要な減衰量は同じであるが、その周波数は、従来方式での周波数F(=1/T)の2k 倍も高い周波数へシフトしている。
【0041】(2) 第2PWM波形に対して第2PWMの矩形波は多少複雑ではあるが、等価的に以下のように考えられる。
【0042】まず、第1PWMの矩形波は完全に積分されていると仮定する(実際のフィルタは、前述の第1PWM波形のフィルタ条件を満足しているので、この仮定で問題ない)。
【0043】第2PWM波形は、前記[1] 及び[2] の作業により1周期を形成している。ここで、上記仮定によると、第2PWM波形が上記[1] の作業時に出力している電圧Vs1と、上記[2] の作業時に出力している電圧Vs2は、それぞれVs1=Vref・(Cm +1)/2m …(24)Vs2=Vref・Cm /2m …(25)となる。また、第2PWMの周期Tt(=T2)は Tt =2(k+m)・1/ft=2n・1/ft=T (s) …(26)であるから、結果的に第2PWM波形は、周期Tt ,副振幅Vs =Vs1−Vs2の矩形波出力とみなすことができる。
【0044】図2の場合、Vref =5(V),Cm =127 ,2m =256 であるから、Vs1= 5・(127 + 1)/256 =2.5 (V)
Vs2= 5・ 127/256 =2.48(V)
であり、第2PWM波形は、図3に示すようになる。
【0045】従って、第2PWM波形のフィルタ条件を決めるフーリエ級数W2(n=1)(デューティ比50:50 の波形、すなわちCk =2k/2 =2k-1 のときの波形)は、 W2(n=1)= (Vs1+Vs2)/2 +Vs・{2/πsin(n・2π・t/Tt)} =Vref・{(2・Cm+1)/2(m+1)} +{(Vs1−Vs2) ・{2/πsin(n・2π・t/Tt)} =Vref・{(2・Cm+1)/2(m+1)}+ {Vref・{(Cm +1)/2m} −Vref・ (Cm/2m) ・{2/πsin(n・2π・t/Tt)} =Vref・{(2・Cm+1)/2(m+1)} +{(Cm+1)−Cm}/2m・Vref・ {2/πsin(n・2π・t/Tt)} =Vref・{(2・Cm+1)/2(m+1)} +(1/2m) ・Vref・{ 2/πsin(n・2π・t/Tt)} …(27) (−Tt/2≦t< T/2)
となる。図4は、この波形を示す。
【0046】必要な分解能はVref/2nであるから、第2PWMのフィルタ条件は、「周波数1/Tt(=1/T) ,副振幅 2・(1/2m)・( Vref・2/π) の正弦波を、副振幅Vref /2n まで減衰させること」に相当する。
【0047】故に、第2PWM波形に対する後段のフィルタの設計ポイントは、周波数 F2 =1/T にて 減衰量 G2 =20・log{(Vref/2n)/(2・(1/2m)・Vref・2/π)} =20・log{(π/2n+2)/(1/2m)} =20・log{(π/2n+2)・2m)} =20・log{(π/2n+2)+20・log(2m) …(28)となる。このフィルタ設計ポイントを前述の従来方式によるPWM出力のフィルタ設計ポイントの式(10)と比較すると、後段のフィルタの設計周波数は同じであるが、その減衰量は、従来よりも20・log(2m)だけ軽減されている(∵2m >1)。
【0048】上記(1),(2) の条件をフィルタの設計ポイントとしてまとめると、図5(A)に示すようになる。すなわち、図2の例の場合、n=14(bit) ,m=8(bit),k=6(bit),ft =4,000,000(Hz) ,T=2n・1/ft(s) =4.096(ms)であるから、図11(A)に示した従来のフィルタ設計ポイントとの対比において、本発明における第1PWMのフィルタ設計ポイントは、 周波数 F1 =1/T1 =2k・(1/T) =26・(1/4.096・10-3) =15.625(kHz) (従来の周波数の2n=64倍へシフト)
減衰量 G1 =20・log (π/2n+2)=20・log (π/214+2) ≒20・log(0.000047937) =−86.4(dB) (従来と同一)
第2PWMのフィルタ設計ポイントは、 周波数 F2 =1/T=1/4.096(ms) ≒244(Hz) (従来と同一)
減衰量 G2 =20・log{(π/2n+2)+20・log(2m) ≒20・log(0.000047937) +20・log(256) =−86.4(dB) +48.2(dB) =−38.2(dB) (従来より48(dB) 軽減)
となる。
【0049】ここで図6及び図7を参照して、本発明におけるPWMタイマによりPWM出力を生成する動作を説明する。
【0050】まず、マイコン内に設定される記憶部(バッファ)を次のように定義する。
【0051】
x :出力したいカウント値をセットしておくバッファxm :xの上位mビットを保存しておくバッファxk :xの下位kビットを保存しておくバッファC :ソフトウエアによるPWM出力用バッファD :ハードウエアによるPWM出力用バッファ図6に示す基本動作では、初めのステップ1でCを0にセットし(C=0)、次のステップ2で演算を実行する。そして、ステップ3で、演算の結果を出力したいカウント値をxにセットして、初めに戻る。
【0052】次に、図7は、ハードウエアのPWMタイマに対する割り込み動作を示す。この動作では、初めのステップ11で“C=0?”を判定する。C=0ならば、次のステップ12及び13で、xの上位mビットをxm に、xの下位kビットをxk にそれぞれ格納する。一方、ステップ11の判定でC=0でないときは、次のステップ14において“C≧xk ?”を判定する。これが“YES”ならば、ステップ15でxm をDにセットし、“NO”ならば、ステップ16で(xm +1)をDにセットする。そして、ステップ17でC=C+1、すなわちバッファCの値に1を加える。次に、ステップ18において“C≧2k ?”を判定し、“NO”ならば、初めに戻り、“YES”ならば、ステップ19でC=0、すなわちCを0にセットして、初めに戻る。
【0053】本発明によれば、上記のような第1PWM出力及び第2PWM出力を用いてD/A変換を行うので、PWMタイマの後段に設けられるフィルタを前述のRC2段のローパスフィルタで構成した場合、前記と同様にC=0.1 μFで固定したとき、抵抗値は、従来の方式ではR= 910(kΩ) であったが、本発明ではR=68(kΩ) となる。
【0054】この定数におけるステップ応答特性は、図5R>5(B)に示すように、63%応答で約 22 ms,99.9%応答で約 200msである。従って、本発明によれば、従来の方式(図11(B))と比較して、応答が約10倍も速いD/Aコンバータが得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の基本構成を示す図。
【図2】本発明におけるPWM波形の例を示す図。
【図3】図2の第1PWM波形に対する第2PWM波形を示す図。
【図4】第2PWM波形のフィルタ条件を決めるフーリエ級数の波形を示す図。
【図5】本発明によるフィルタ設計ポイント及び応答特性を示す図。
【図6】本発明の基本動作を示すフローチャート。
【図7】本発明においてPWMタイマに対する割り込み動作を示すフローチャート。
【図8】従来のD/Aコンバータの基本構成を示す図。
【図9】図8の具体的な回路構成を示す図。
【図10】従来のPWM波形の例を示す図。
【図11】従来のフィルタ設計ポイント及び応答特性を示す図。
【符号の説明】
1…ハードウエアによるPWMタイマ、2…ローパスフィルタ、3…電圧/電流変換器、4…ソフトウエアによるPWMタイマ、21…RCフィルタ、22…抵抗、23…スイッチング素子、31…オペアンプ、32…トランジスタ、33…抵抗。
【特許請求の範囲】
【請求項1】所定パルス幅の矩形波信号を出力するタイマと、該タイマの出力側に接続したフィルタとを備え、該フィルタに前記矩形波信号を入力することによりディジタル/アナログ変換を行うパルス幅変調方式のディジタル/アナログ変換器において、前記矩形波信号は、必要な分解能を表わすビット数(n)を上位ビット数(m)と下位ビット数(k)とに分割して得られる上位ビットの第1信号と下位ビットの第2信号とで構成され、前記第2信号は、予め設定したプログラムにより、前記第1信号のビット数(m)を1ビットとして前記下位ビット数(k)生成されることを特徴とするディジタル/アナログ変換器。
【請求項2】請求項1記載のディジタル/アナログ変換器において、前記第1信号と前記第2信号の波形成分により前記フィルタ回路の設計条件を決定するようにしたことを特徴とするディジタル/アナログ変換器。
【請求項1】所定パルス幅の矩形波信号を出力するタイマと、該タイマの出力側に接続したフィルタとを備え、該フィルタに前記矩形波信号を入力することによりディジタル/アナログ変換を行うパルス幅変調方式のディジタル/アナログ変換器において、前記矩形波信号は、必要な分解能を表わすビット数(n)を上位ビット数(m)と下位ビット数(k)とに分割して得られる上位ビットの第1信号と下位ビットの第2信号とで構成され、前記第2信号は、予め設定したプログラムにより、前記第1信号のビット数(m)を1ビットとして前記下位ビット数(k)生成されることを特徴とするディジタル/アナログ変換器。
【請求項2】請求項1記載のディジタル/アナログ変換器において、前記第1信号と前記第2信号の波形成分により前記フィルタ回路の設計条件を決定するようにしたことを特徴とするディジタル/アナログ変換器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図6】
【図4】
【図5】
【図8】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
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【図10】
【図11】
【公開番号】特開平8−213910
【公開日】平成8年(1996)8月20日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−16156
【出願日】平成7年(1995)2月2日
【出願人】(000006666)山武ハネウエル株式会社 (1,808)
【公開日】平成8年(1996)8月20日
【国際特許分類】
【出願日】平成7年(1995)2月2日
【出願人】(000006666)山武ハネウエル株式会社 (1,808)
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