説明

ディーゼルエンジンの燃料リーク感知システム及び感知方法

【課題】液化ガスを燃料とするディーゼルエンジンにおける燃焼室内への燃料リークの発生を感知するディーゼルエンジンの燃料リーク感知システム及び感知方法を提供する。
【解決手段】ディーゼルエンジン2の始動時から一定の期間、吸気行程を除いて排気管10の排気弁9を開放し、燃焼室7に連通する吸気管12及び排気管10にそれぞれ設置した酸素センサー16a、16bの計測値の差が所定値以上であるときに、燃焼室7内への燃料リークの発生を感知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジンの燃料リーク感知システム及び感知方法に関し、更に詳しくは、液化ガスを燃料とするディーゼルエンジンにおける燃焼室内への燃料リークの発生を感知するディーゼルエンジンの燃料リーク感知システム及び感知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンの排ガスによる大気汚染の対策として、従来からの燃料である軽油の代わりに、ジメチルエーテル(DME)などの液化ガスを使用することが検討されている(例えば、特許文献1を参照)。この液化ガスは、軽油よりも粘度が低いため、燃焼室内に燃料を噴射する噴射ノズルのニードル先端のシール状況によっては、燃焼室内に燃料がリークするおそれがある。このような燃料リークがエンジンの停止時に長時間続くと、エンジンの再始動時に初爆で異常燃焼を起こして、最悪の場合にはエンジンが故障するおそれがある。このことは、高圧で燃料を噴射するコモンレール式の噴射装置を用いた場合に一層顕著になる。
【0003】
そこで、上記のような問題を解決するために、液化ガスを燃料とするディーゼルエンジンについて、燃焼室内への燃料リークを感知できるシステム及び方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−239651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、液化ガスを燃料とするディーゼルエンジンにおける燃焼室内への燃料リークの発生を感知するディーゼルエンジンの燃料リーク感知システム及び感知方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成する本発明のディーゼルエンジンの燃料リーク感知システムは、液化ガスを燃料とするディーゼルエンジンの噴射ノズルから燃焼室内への燃料リークを感知する燃料リーク感知システムであって、前記燃焼室に連通する吸気管及び排気管にそれぞれ設置された酸素センサーと、前記酸素センサーの計測値を処理する検出手段と、前記排気管の排気弁を操作する開弁手段とを備え、前記開弁手段は前記ディーゼルエンジンの始動時から一定の期間、吸気行程を除いて排気弁を開放するとともに、前記検出手段は前記酸素センサーの計測値の差が所定値以上であるときに前記燃焼室内への燃料リークの発生を感知することを特徴とするものである。
【0007】
上記のディーゼルエンジンの燃料リーク感知システムにおける一定の期間は、リークした全燃料を確実に計測でき、かつディーゼルエンジンが搭載された車両の機能を妨げることがないように、ディーゼルエンジンの運転の2〜3サイクルとすることが望ましい。
【0008】
また開弁手段としては、デコンプ装置、可変タイミングバルブ機構及び圧縮開放ブレーキのいずれかを用いるようにする。
【0009】
更に、検出手段は警告表示や警報吹鳴などの通知手段を有することが望ましい。
【0010】
上記の目的を達成する本発明のディーゼルエンジンの燃料リーク感知方法は、液化ガスを燃料とするディーゼルエンジンの噴射ノズルから燃焼室内への燃料リークを感知する燃料リーク感知方法であって、前記ディーゼルエンジンの始動時から一定の期間、前記燃焼室の排気弁を吸気行程を除いて開放し、前記燃焼室への吸気中の酸素濃度と、該燃焼室からの排気中の酸素濃度とをそれぞれ計測し、前記吸気中の酸素濃度と前記排気中の酸素濃度との差が所定値以上であるときに燃料リークの発生を感知したと判断することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のディーゼルエンジンの燃料リーク感知システム及び感知方法によれば、ディーゼルエンジンの始動時から一定の期間、吸気行程を除いて排気弁を開放するとともに、吸気管と排気管にそれぞれ設置した酸素センサーの計測値の差が所定値以上であるときに燃焼室内への燃料リークの発生を感知するようにしたので、ディーゼルエンジンの停止中に噴射ノズルから燃焼室内にリークした燃料の量を計測して、燃料リークの発生を感知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1の実施の形態からなるディーゼルエンジンの燃料リーク感知システムの構成図である。
【図2】図1に示すX部の拡大図(反時計回りに90度回転)である。
【図3】本発明の実施の形態からなるディーゼルエンジンの燃料リーク感知方法における吸気行程でのX部の状態を示す拡大図である。
【図4】本発明の実施の形態からなるディーゼルエンジンの燃料リーク感知方法における圧縮行程でのX部の状態を示す拡大図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態からなるディーゼルエンジンの燃料リーク感知システムの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0014】
図1、2は、本発明の第1の実施形態からなるディーゼルエンジンの燃料リーク感知システムを示す。
【0015】
このディーゼルエンジンの燃料リーク感知システム(以下、「燃料リーク感知システム」という。)は、ジメチルエーテル(DME)などの液化ガス1を燃料とするディーゼルエンジン2に装備される。
【0016】
ディーゼルエンジン2において、液化ガス1は高圧ポンプ3によりコモンレール4内で蓄圧され、噴射ノズル5の先端のニードル6を通じて適切なタイミングで燃焼室7内の圧縮空気中に噴射されて燃焼・膨張することでピストン8を押し下げる。燃焼後のガスは、排気弁9の開放時に燃焼室7に連通する排気管10へ送られ、タービン11を回転駆動しつつ大気中へ放出される。その一方で、吸気された空気はタービン11により圧縮され、燃焼室7に連通する吸気管12に介設されたインタークーラ13で冷却された後に、吸気弁14の開放時に燃焼室7内へ導入される。
【0017】
排気管10の排気弁9は、開弁手段15により強制的に開閉されるようになっている。この開弁手段15としては、デコンプ装置、可変タイミングバルブ機構及び圧縮開放ブレーキのいずれかを用いることが望ましい。
【0018】
そして、吸気管12と排気管10には、管内を流れる気体中に含まれる酸素濃度を計測する酸素センサー16a、16bがそれぞれ設けられている。これらの酸素センサー16a、16bは、それぞれ信号線17a、17bを通じて検出手段18に接続されている。なお、図1に示す実施形態では、複数の燃焼室7に分岐する直前の吸気管12、及びそれらの燃焼室7から収束した直後の排気管10に酸素センサー16a、16bを1個ずつ設置しているが、分岐後の吸気管12x及び収束前の排気管10xのそれぞれに設置するようにしてもよい。また検出手段18は、記憶部を備えたCPU(中央演算処理装置)から構成することができるが、既存のECU(エンジンコントロールユニット)に機能を代行させるようにしてもよい。
【0019】
このような燃料リーク感知システムを用いた燃料リーク感知方法を以下に説明する。
【0020】
ディーゼルエンジン2の始動時から一定の期間、開弁手段15を用いて吸気行程を除く行程で排気弁9を開放する。つまり、吸気管12の吸気弁14を開放して燃焼室7内に空気を導入する吸気行程では、図3に示すように排気弁9を閉止する。一方、その後の圧縮行程、膨張行程及び排気行程では、図4に示すように排気弁9を開放するのである。なお、図4は圧縮行程の状態を例示している。また、開弁手段15の動作については、検出手段18やECUにより制御する。
【0021】
上記のように排気弁9を開放・閉止することで、ディーゼルエンジン2の停止中に噴射ノズル5から燃焼室7内へ燃料がリークしていた場合には、そのリークした燃料がピストン8の動作によりそのまま排気管10へ排出されることになる。
【0022】
そして、酸素センサー16a、16bの計測値を検出手段18で処理し、吸気管12の酸素センサー16aの計測値から排気管10の酸素センサー16bの計測値を差し引いた値(酸素濃度差)が、あらかじめ定めた所定値以上となった場合に、噴射ノズル5から燃焼室7内への燃料リークが発生したものと判断する。
【0023】
なお、具体的な酸素濃度差としては、一定の期間内の平均値や最大値を用いるようにする。また、燃焼室7毎の吸気管12x及び排気管10xに取り付けるなど、酸素センサー16a、16bが吸気側及び排気側でそれぞれ複数個になる場合には、それぞれの酸素センサー16a、16b群での計測値の平均値や最大値を算出してから酸素濃度差を求めるようにする。
【0024】
このように、ディーゼルエンジン2の始動時から一定の期間、吸気行程を除いて排気弁9を開放するとともに、吸気管12と排気管10の酸素センサー16a、16bの計測値の差が所定値以上であるときに燃焼室7内への燃料リークの発生を感知するようにしたので、ディーゼルエンジン2の停止中に噴射ノズル5から燃焼室7内にリークした燃料の量を計測して、燃料リークの発生を感知することができる。また、その燃料リークの感知を受けて、エンジン停止などの適切な処置をとることで、ディーゼルエンジン2の停止時における長時間の燃料リークに起因するエンジン再始動時の初爆の異常燃焼を防止して、ディーゼルエンジン2が損傷を受けないようにすることができる。
【0025】
吸気行程を除いて排気弁9を開放する一定の期間については、リークした全燃料を確実に計測でき、かつディーゼルエンジン2が搭載された車両の機能を妨げることがないように、ディーゼルエンジン2の運転の2〜3サイクルとすることが望ましい。
【0026】
図5は、本発明の第2の実施形態からなる燃料リーク感知システムの構成を示す。
【0027】
この燃料リーク感知システムは、図1の燃料リーク感知システムの構成に、検出手段18により制御される通知手段19を設置したものである。この通知手段19としては、ディーゼルエンジン2が搭載された車両の運転手等に対して警告を表示するディスプレイや警報を吹鳴する警報器などが例示され、検出手段18が燃料リークを感知したときに自動的に起動される。
【0028】
このように通知手段19を設けることで、車両の運転手などが燃料リークの発生を即座に知ることができるので、エンジン停止などの適切な処置をとることが容易になる。
【符号の説明】
【0029】
1 液化ガス
2 ディーゼルエンジン
3 高圧ポンプ
4 コモンレール
5 噴射ノズル
6 ニードル
7 燃焼室
8 ピストン
9 排気弁
10 排気管
11 タービン
12 吸気管
13 インタークーラ
14 吸気弁
15 開弁手段
16a、16b 酸素センサー
17a、17b 信号線
18 検出手段
19 通知手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液化ガスを燃料とするディーゼルエンジンの噴射ノズルから燃焼室内への燃料リークを感知する燃料リーク感知システムであって、
前記燃焼室に連通する吸気管及び排気管にそれぞれ設置された酸素センサーと、前記酸素センサーの計測値を処理する検出手段と、前記排気管の排気弁を操作する開弁手段とを備え、
前記開弁手段は前記ディーゼルエンジンの始動時から一定の期間、吸気行程を除いて排気弁を開放するとともに、前記検出手段は前記酸素センサーの計測値の差が所定値以上であるときに前記燃焼室内への燃料リークの発生を感知することを特徴とするディーゼルエンジンの燃料リーク感知システム。
【請求項2】
前記一定の期間が、前記ディーゼルエンジンの運転の2〜3サイクルである請求項1に記載のディーゼルエンジンの燃料リーク感知システム。
【請求項3】
前記開弁手段が、デコンプ装置、可変タイミングバルブ機構及び圧縮開放ブレーキのいずれかである請求項1又は2に記載のディーゼルエンジンの燃料リーク感知システム。
【請求項4】
前記検出手段が通知手段を有する請求項1〜3のいずれかに記載のディーゼルエンジンの燃料リーク感知システム。
【請求項5】
液化ガスを燃料とするディーゼルエンジンの噴射ノズルから燃焼室内への燃料リークを感知する燃料リーク感知方法であって、
前記ディーゼルエンジンの始動時から一定の期間、前記燃焼室の排気弁を吸気行程を除いて開放し、前記燃焼室への吸気中の酸素濃度と、該燃焼室からの排気中の酸素濃度とをそれぞれ計測し、前記吸気中の酸素濃度と前記排気中の酸素濃度との差が所定値以上であるときに燃料リークの発生を感知したと判断することを特徴とするディーゼルエンジンの燃料リーク感知方法。
【請求項6】
前記一定の期間が、前記ディーゼルエンジンの運転の2〜3サイクルである請求項5に記載のディーゼルエンジンの燃料リーク感知方法。
【請求項7】
前記燃料リークを感知したときに外部へ通知する請求項5又は6に記載のディーゼルエンジンの燃料リーク感知方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−19320(P2013−19320A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153224(P2011−153224)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)