説明

ディーゼル機関の燃料噴射装置

【課題】 エンジンの運転条件の変動に拘らず略一定圧力のパイロット噴射を行うことができ、常に安定したパイロット燃焼を達成できるディーゼル機関の燃料噴射装置を提供する。
【解決手段】 燃焼室2内へメイン噴射に先立ってパイロット噴射を行うディーゼル機関の燃料噴射装置において、シリンダヘッド3に、燃焼室2内へメイン噴射を行うための主噴射ノズル4とパイロット噴射を行うための副噴射ノズル5とを別々に設け、上記主噴射ノズル4に、エンジン運転状態に応じて調圧された燃料を供給する主燃料供給手段8を接続し、上記副噴射ノズル5に、エンジン運転状態に拘らず略一定圧力の燃料を供給する副燃料供給手段15を接続した。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、メイン噴射に先立ってパイロット噴射を行うようにしたディーゼル機関の燃料噴射装置に関する。
【0002】
【従来の技術】ディーゼルエンジンの燃料噴射装置として、燃焼室内へのメイン噴射に先立って少量のパイロット噴射を行うことで、メイン噴射燃料の着火遅れを低減して燃焼初期の熱発生率を抑制し、燃焼騒音およびNOx排出量の低減を図るようにしたものが知られている(特開平5-10154 号公報等)。従来のパイロット噴射は、メイン噴射用の燃料噴射ノズルを用い、その噴射ノズルの弁をメイン噴射に先立って極短時間開閉する等して行っていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかし、このようにパイロット噴射をメイン噴射用の燃料噴射ノズルを用いて行うと、メイン噴射圧はエンジンの回転数や負荷等の運転条件によって変化するため、それに応じてパイロット噴射圧も変化してしまい、安定したパイロット燃焼が確保できない。
【0004】すなわち、メイン噴射圧が高圧となる場合(高負荷・高回転時等)には、パイロット噴射圧(噴射率)も上昇することからパイロット噴射量が増え、却って初期の熱発生率が大きくなって、騒音が高まると共にNOx排出量が増大してしまう。この問題は、高圧噴射が主流となりつつある昨今、特に大きな問題となっている。
【0005】この対策として、パイロット噴射期間(噴射ノズルの開弁期間や噴射ポンプの圧送期間)を短くすることが考えられるが、噴射ポンプや噴射ノズルの応答性には機械的な限界があるため、パイロット噴射期間の微小制御にも限界がある。また、かかるパイロット噴射期間の制御は、噴射サイクル毎または各気筒毎のバラツキが避けられないため、回転変動等の問題が生じやすい。
【0006】他方、メイン噴射圧が低圧となる場合(低負荷・低回転時等)には、噴射ノズルに一般的な多噴孔ノズルを用いると、各噴孔毎にパイロット噴射量にバラツキを生じ、パイロット噴射された燃料と空気との混合が悪化して期待したタイミングでの着火が得られず、パイロット噴射本来の効果(メイン噴射燃料の着火遅れの短縮)が得られなくなることがある。
【0007】以上の事情を考慮して創案された本発明の目的は、エンジンの運転条件の変動に拘らず略一定圧力のパイロット噴射を行うことができ、常に安定したパイロット燃焼を達成できるディーゼル機関の燃料噴射装置を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成すべく本発明は、燃焼室内へメイン噴射に先立ってパイロット噴射を行うディーゼル機関の燃料噴射装置において、シリンダヘッドに、燃焼室内へメイン噴射を行うための主噴射ノズルとパイロット噴射を行うための副噴射ノズルとを別々に設け、上記主噴射ノズルに、エンジン運転状態に応じて調圧された燃料を供給する主燃料供給手段を接続し、上記副噴射ノズルに、エンジン運転状態に拘らず略一定圧力の燃料を供給する副燃料供給手段を接続したものである。
【0009】本発明によれば、メイン噴射を行う主噴射ノズルとパイロット噴射を行う副噴射ノズルとを別々に設け、主噴射ノズルから噴射されるメイン噴射圧を主燃料供給手段によって調圧し、副噴射ノズルから噴射されるパイロット噴射圧を副燃料供給手段によって略一定に制御するようにしたので、エンジンの運転状態に応じてメイン噴射圧を変動させてもそれとは無関係にパイロット噴射圧を略一定圧力に保持できる。よって、エンジンの運転状態の変動、即ちメイン噴射圧の変動に拘らず、略一定のパイロット噴霧を形成でき、安定したパイロット燃焼を確保できる。
【0010】上記燃焼室が、ピストン頂部に凹設されたキャビティからなり、該キャビティ内に、上記副噴射ノズルから噴射されたパイロット噴射を上記主噴射ノズルの下方へ反射させる反射部材を設けてもよい。こうすれば、副噴射ノズルからパイロット噴射された燃料は、反射部材に衝突して微粒子化されて反射し、主噴射ノズルの下方にパイロット噴霧を生成する。そして、このパイロット噴霧が主噴射ノズルから噴射されるメイン噴射燃料に先立って燃焼するため、続くメイン噴射燃料の引火が促進され、その着火遅れが確実に低減される。
【0011】また、上記副噴射ノズルが、上記反射部材に向けて形成された単一の噴孔を有していてもよい。こうすれば、従来のように多噴孔ノズルを用いてパイロット噴射圧を低圧にした場合に生じる噴孔毎のバラツキの問題がなくなり、上記噴孔からパイロット噴射された全ての燃料は、上記反射部材によって的確に主噴射ノズルの下方に導かれる。
【0012】
【発明の実施の形態】以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0013】図1に示すように、ディーゼルエンジンの各気筒のピストン1頂部には、燃焼室としてのキャビテイ2が凹設されている。このキャビテイ2に臨むシリンダヘッド3には、主噴射ノズル4と副噴射ノズル5とがそれぞれ取り付けられている。主噴射ノズル4は通常のメイン噴射を行い、副噴射ノズル5はメイン噴射に先立って少量のパイロット噴射を行う。図中、6は冷却水通路である。
【0014】主噴射ノズル4の内部には、当該ノズル4に供給される燃圧がある設定値を超えたときに開弁すると共に燃料の供給が止まると閉弁する公知のニードル弁(図示せず)が収容されている。主噴射ノズル4の先端部には、図2および図3に示すように、上記ニードル弁が開弁したとき、燃料をキャビティ2に向けて噴射するための噴孔7が、複数放射状に形成されている。上記噴孔7は、図2に示すように6個等間隔に限られず、2個以上で不等間隔でもよい。
【0015】主噴射ノズル4には、主燃料供給手段としての列型噴射ポンプ8が配管9を介して接続されている。列型噴射ポンプ8は、ディーゼルエンジンのクランク軸と連動して駆動され、エンジンの運転状態(回転数・負荷等)に応じて調圧された燃料を主噴射ノズル4へ供給する。これにより、主噴射ノズル4から噴射されるメイン噴射の噴射圧力は、エンジンの運転状態に合せて20〜200MPa程度の範囲で可変される。列型噴射ポンプ8には、燃料タンク10内の燃料が配管11を介して供給される。また、列型噴射ポンプ8には、各気筒の主噴射ノズル4にメイン噴射燃料を供給する配管9aが取り付けられている。
【0016】他方、副噴射ノズル5の内部には、通電により開弁される公知の電磁弁(図示せず)が設けられている。電磁弁は、制御部12によってピストン1の圧縮上死点近傍において、主噴射ノズル4からのメイン噴射に先立って開弁される。これにより、主噴射ノズル4からのメイン噴射に先立って、副噴射ノズル5からパイロット噴射される。副噴射ノズル5の先端部には、図2および図3に示すように、上記電磁弁が開弁したとき、燃料をキャビティ2に噴射するための単一の噴孔13が下方に向けて形成されている。副噴射ノズル5は、図2に示すように、主噴射ノズル4から放射状に噴射されるメイン燃料14と干渉しないように、噴射されたメイン燃料14の間の位置に配置されている。
【0017】副噴射ノズル5には、副燃料供給手段としてのフューエルレール15が配管16を介して接続されている。フューエルレール15は、エンジンの運転状態に拘らず略一定圧力の燃料を副噴射ノズル5に供給する。すなわち、フューエルレール15には、電磁ポンプ17によって燃料タンク10内の燃料が配管18を介して供給され、内部の燃圧が調圧弁19によって一定の圧力(30MPa 程度)に保たれる。これにより、副噴射ノズル5から噴射されるパイロット噴射の噴射圧力は、エンジン運転状態に拘らず常に30MPa 程度に保持される。尚、パイロット噴射の噴射圧は30MPa に限られないが、メイン噴射の噴射圧力の低圧領域相当か、それよりも低く設定するのが望ましく、10〜30 MPa程度の範囲内で設定すると好ましい。調圧弁19からリリーフされた燃料は、配管20を通って燃料タンク10に戻る。また、フューエルレール15には、各気筒の副噴射ノズル5にパイロット噴射燃料を供給する配管16aが取り付けられている。
【0018】上記キャビティ2には、副噴射ノズル5の噴孔下方に位置させて、副噴射ノズル5から噴射されたパイロット燃料を上記主噴射ノズル4の下方へ反射させる反射部材21が形成されている。反射部材21は、図2R>2に示すように主噴射ノズル4から放射状に噴射されるメイン燃料14と干渉しないように、噴射されたメイン燃料14の間の位置に配置されている。反射部材21には、図3に示すように上方から見て三日月状に形成されると共に側方から見て斜面状に形成された反射面22が形成されている。反射面22は、副噴射ノズル5から噴射されたパイロット燃料を微粒子化して主噴射ノズル4の下方のメイン噴霧領域(メイン噴射により形成される)に集まるように反射させ、そのメイン噴霧領域に球形に近い形のパイロット噴霧23を形成するものである。なお、反射部材21とキャビティ側壁との間には、キャビティ内を周回するスワールの通路が確保されている。
【0019】以上の構成からなる本実施形態の作用を述べる。
【0020】主噴射ノズル4から噴射されるメイン噴射圧は、エンジン運転状態(回転数や負荷)に応じて適宜調圧(20〜200MPa)されるものの、副噴射ノズル5から噴射されるパイロット噴射圧は、エンジン運転状態に拘らず略一定(30MPa )に保持される。
【0021】すなわち、メイン噴射を行う主噴射ノズル4とパイロット噴射を行う副噴射ノズル5とを別々に設けたので、エンジンの運転状態に応じて主噴射ノズル4から噴射されるメイン噴射圧を変化させても、副噴射ノズル5からのパイロット噴射圧がその影響を受けることがなくなり、パイロット噴射を常にこれに適した噴射圧で行うことができる。この結果、エンジンの運転状態の変動、即ちメイン噴射圧の変動に拘らず、略一定圧力のパイロット噴射が達成され、安定したパイロット燃焼を確保できる。
【0022】特に、メイン噴射圧が高圧となる場合(高回転・高負荷時等)にも、パイロット噴射圧を低圧に維持できるので、制御部12によるパイロット噴射量の制御(副噴射ノズル5内の電磁弁の制御)が容易となると共に、噴射サイクル毎、気筒毎の制御バラツキを小さくすることができる。また、パイロット噴射圧を低圧に維持する場合には、副噴射ノズル5として例えばガソリンエンジン用の安価な低圧用インジェクタを採用することができ、装置全体を低コストで構成できる。
【0023】また、副噴射ノズル5からパイロット噴射された燃料は、反射部材21の反射面22に衝突して微粒子化され、主噴射ノズル4の下方のメイン噴霧領域に略球状のパイロット噴霧23を生成する。そして、このパイロット噴霧23が主噴射ノズル4から噴射されるメイン噴射燃料14に先立って燃焼するので、次いで主噴射ノズルから噴射されるメイン噴射燃料14の引火が促進され、その着火遅れが短縮される。
【0024】また、上記副噴射ノズル5が、上記反射部材21に向けて形成された単一の噴孔13を有しているので、従来のように多噴孔ノズルを用いてパイロット噴射圧を低圧にした場合に生じる噴孔毎のバラツキの問題がなくなるのみならず、このように低圧のパイロット噴射が可能になるので、パイロット燃焼が穏やかになり、パイロット燃焼騒音が低減する。
【0025】また、上記単一の噴孔13から噴射されたパイロット燃料は、全て反射部材21の反射面22によって主噴射ノズル4下方のメイン噴霧領域に導かれ略球状のパイロット噴霧23となるので、多噴孔ノズルを用いてパイロット噴射を行っていた従来と比べ、パイロット噴霧23の分布が均等に改善される。よって、バランスよく均等にパイロット燃焼が行われ、HCの増大やメイン噴霧の引火バラツキが抑えられる。
【0026】また、上記パイロット噴霧23は、反射部材21の反斜面22によって十分微粒子化された燃料によって形成されるため、燃え残りが少なくなりスモークの増加も抑止できる。
【0027】なお、主噴射ノズル4および主燃料供給手段(列型噴射ポンプ8)として、公知のコモンレール噴射システムを適用してもよい。
【0028】
【発明の効果】以上説明したように本発明に係るディーゼルエンジンの燃料噴射装置によれば、エンジンの運転状態に拘らず略一定圧のパイロット噴射を行うことができるので、安定したパイロット燃焼を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態を示すディーゼルエンジンの燃料噴射装置のシステム全体図である。
【図2】主噴射ノズルからのメイン噴射と副噴射ノズルとの一関係を示す図である。
【図3】主噴射ノズルと副噴射ノズルと反射部材とを示す図であり、(a) は側面図、(b) は (a)の b-b線断面図である。
【符号の説明】
2 燃焼室としてのキャビティ
3 シリンダヘッド
4 主噴射ノズル
5 副噴射ノズル
8 主燃料供給手段としての列型噴射ポンプ
13 噴孔
15 副燃料供給手段としてのフューエルレール
21 反射部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】 燃焼室内へメイン噴射に先立ってパイロット噴射を行うディーゼル機関の燃料噴射装置において、シリンダヘッドに、燃焼室内へメイン噴射を行うための主噴射ノズルとパイロット噴射を行うための副噴射ノズルとを別々に設け、上記主噴射ノズルに、エンジン運転状態に応じて調圧された燃料を供給する主燃料供給手段を接続し、上記副噴射ノズルに、エンジン運転状態に拘らず略一定圧力の燃料を供給する副燃料供給手段を接続したことを特徴とするディーゼル機関の燃料噴射装置。
【請求項2】 上記燃焼室が、ピストン頂部に凹設されたキャビティからなり、該キャビティ内に、上記副噴射ノズルから噴射されたパイロット燃料を上記主噴射ノズルの下方へ反射させる反射部材を設けた請求項1記載のディーゼル機関の燃料噴射装置。
【請求項3】 上記副噴射ノズルが、上記反射部材に向けて形成された単一の噴孔を有する請求項2記載のディーゼル機関の燃料噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開平10−184487
【公開日】平成10年(1998)7月14日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平8−345738
【出願日】平成8年(1996)12月25日
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)