説明

トランス及び多層基板

【課題】 小型で薄型であり内部電力損失やノイズを低減した平面形状のトランス及び多層基板を提供する。
【解決手段】 一次側導体30と、平面形状の導体で形成された二次側導体46を有し、二次側導体46が1ターンのコイルを構成している。二次側導体46は、絶縁層を介して複数層並列接続して、積層体22を形成している。二次側導体46の引出部38を分ける分割溝50の位置が、並列接続した引出部38の導体間で厚み方向の投影位置が異なり、並列に設けた一方の二次側導体46の一方の極性の引出部38が、対面する他方の二次側導体46の他方の極性の引出部38と、積層体22の厚さ方向に重なる部分を有する。二次側導体46は、銅板やプリント基板の導体で形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、スイッチング電源装置に使用される平面形状の巻線を備えたトランスと、平面形状の巻線を有するトランスの少なくとも一部を含む多層基板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トランスを備えた多層基板は、例えばIC(集積回路)を含むような種々の電子機器に使用されているスイッチング電源に広く使用されている。近年、ICの集積度の増大に伴うICの動作電圧の低下、大電流化等により、スイッチング電源には小型化、高効率化と共に大電流化が求められている。そのため、スイッチング電源に使用されるトランスにも、小型薄型化、伝送効率の向上および損失の低減が求められている。最近は、トランスの小型化のために、ワイヤーをボビンに巻回して構成された巻線型コイルに代わって、プリントコイルや平面コイルが用いられるようになってきた。このトランス2のプリントコイルは、例えば図10に示すように、平板形状の導体を備えた基板を並列方向に重ねた多層基板による積層体4を形成し、積層体4にフェライトコア6を嵌合して構成されている。各層の基板は、表面に銅箔等の導体パターンによりコイルが形成されたプリント基板であり、このプリント基板を積層して積層体4が構成されている。また、平面コイルは、例えば、コイル形状に打ち抜かれた複数の薄い銅板を、絶縁層を介して積み重ねて構成されたものもある。このトランス2のコイルは、二次側導体8の巻線が1ターンのもので、コイルの外部へ接続する引出部10では、巻線を形成する導体の一対の電極間を、分割溝12により分離している。この分割溝12の間隔は、各層とも絶縁を確保できる最小限に狭いものである。
【0003】
さらに、最近は、スイッチング電源におけるスイッチング周波数を高くして、トランスに用いられるコアにおける最大磁束密度を下げることによって、コアを小型化することも図られている。
【0004】
ところで、スイッチング電源における出力電流の増大は、トランスにおいて、巻線による損失である銅損を増大させる。また、スイッチング電源におけるスイッチング周波数の上昇により回路に流れる電流も高周波になり、表皮効果や近接効果の影響により、トランスのコイルを構成する導体の交流抵抗の増大を引き起こす。さらに、スイッチング電源における出力電流の増大とスイッチング周波数の上昇は、トランスの二次巻線に接続される導体パターンにおける損失も増大させる。これは、表皮効果の結果、導体の実効断面積が減少し交流抵抗が増加するコイル周辺で導体損失が増えることによる。
【0005】
トランスにおける銅損を低減させる技術として、銅箔を用いた一次巻線および二次巻線を交互に配置した高周波用トランスでは、電流の流れる方向が互いに逆になる一次巻線と二次巻線とを交互に配置することで、近接効果による電流の集中を抑え交流抵抗が低減される。
【0006】
ところで、ICの動作電圧の低下、大電流化により、スイッチング電源では、出力の低電圧化および大電流化が求められるようになってきた。そのため、スイッチング電源に用いられるトランスでは、二次巻線の巻数は少なくなり、1ターンとされることも多くなってきた。また、電源の薄型要求が多くなり、トランスも薄型にする必要があることと、表皮効果による交流抵抗上昇を抑える目的で、コイルを形成する導体を平板形状にすることがある。このコイルの二次巻線が平板形状であって、1ターンであるトランスの引き出し線の形状は、絶縁が確保できる最小限に一対の電極間の間隔を狭くして形成されていた。また、平板形状の導体を複数層に分けて形成し、並列接続される場合も、各層の導体形状を等しくして、各層の電極間の分割溝位置は、各層の厚み方向の投影位置で互いに同じ箇所に形成されていた。
【特許文献1】特開2003−272929号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来の技術の場合、二次巻線の導体を形成する場合、1ターンでは、両極の引き出し線をコイルと同一平面上に構成するため、お互いの引き出し線の対向面積を大きくするような形状を作れない問題がある。また、トランスを流れる電流が大きくなるにつれ、巻線による損失である銅損を増大させるものである。さらに、トランスのコイルを構成する導体の交流抵抗は、表皮効果や近接効果の影響で、高周波数になるほど増加するものである。そして、スイッチング電源にけるスイッチング周波数が高周波になったり、トランスを含む回路に流れる電流波形が台形波や矩形波に近い形状であることによる高調波の影響で、トランスの交流銅損を増大させるものである。
【0008】
さらに、前述のように二次巻線の巻数が少なくなると、二次巻線の巻線部分のみならず、二次巻線をトランスの外部の回路へ接続するための引出部の構造が、トランス全体の特性に与える影響が大きくなってくる。例えば、図10に示すトランス2のように、嵌合分割溝12の間隔を、各層とも絶縁を確保できる最小限に狭くすることは、対向部分で電流の向きが逆であり近接効果の影響を低減することはできるが、対向面積が小さく限界がある。また、近接効果、表皮効果により発生する交流抵抗による損失は、近年の高周波数大電流化では無視できないくらい大きなものである。さらに、このトランス2では、各層の二次側導体8の形状を等しくして、2極間の分割溝12位置も2次側導体8と投影方向に等しく形成されるため、対向部分での電流密度が高まり、損失が増大し、トランス2の伝送効率を低下させる。さらに、インダクタンスが大きくなり、磁束の集中が強まり、漏れ磁束を増加させ、周囲の回路のノイズ源となるという問題点があった。
【0009】
この発明は、上記従来技術の問題に鑑みて成されたもので、小型で薄型であり内部電力損失やノイズを低減できるようにした平面形状のトランス及び多層基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は、一次巻線と、平面形状の導体で形成された二次巻線を有するトランスであって、前記二次巻線が1ターンのコイルを構成し、前記二次巻線が絶縁層を介して複数層並列接続して積層体が形成され、前記二次巻線の引出部を分ける分割溝の位置が、並列接続した引出部の導体間で厚み方向の投影位置が異なり、並列に設けた一方の前記二次巻線の一方の極性の引出部が、対面する他方の二次巻線の他方の極性の引出部と前記積層体の厚さ方向に重なる部分を有するトランスである。
【0011】
前記二次巻線を銅板やプリント基板の導体で形成したものである。また、前記一次巻線と前記二次巻線を、多層基板の導体で形成したものでも良い。
【0012】
前記一方の極性の引出部と他方の極性の引出部による重なり幅が、前記引出部の導体の幅の3%以上50%以下である。
【0013】
またこの発明は、スイッチング電源装置を構成するために用いられる多層基板であって、前記多層基板の一部にトランスを備え、このトランスは、一次巻線と、平面形状の導体で形成された二次巻線を有し、前記二次巻線が1ターンのコイルを構成し、前記二次巻線が前記多層基板により絶縁層を介して複数層並列接続され、前記多層基板の前記二次巻線の引出部を分ける分割溝の位置が、並列接続した引出部の導体間で厚み方向の投影位置が異なり、並列に設けた一方の前記二次巻線の一方の極性の引出部が、対面する他方の二次巻線の他方の極性の引出部と前記多層基板の厚さ方向に重なる部分を有する構造である多層基板である。
【発明の効果】
【0014】
この発明のトランス及びこのトランスを設けた多層基板によれば、大電流が流れる導体の交流抵抗を小さくして銅損を低減し、トランスの発熱も抑えることができる。さらに、トランスの内部電力損失を低減することができ、このトランスを使用したスイッチング電源装置の電源効率を向上させることができる。また、内部電力損失を低減させることで、放熱部品を減らし放熱のためのスペースを抑えることもでき、スイッチング電源装置のより小型化も可能になるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、この発明のトランス及び多層基板の第一実施形態について、図1、図2を基にして説明する。この実施形態のトランスは、スイッチング電源のトランスに使用される。
【0016】
この実施形態のトランス20は、コイルを形成した導体パターンを有した積層体22を備え、積層体22は、図2に示すように、表面に平板形状または銅箔などの導体によりコイルを形成した基板24が、複数重なり形成されている。基板24は、一次巻線を形成した一次側導体30や二次巻線を形成した二次側導体46の導体パターンが表面に設けられている。そして、一次側導体30や二次側導体46を挟み込むようにして、積層体22と適宜な隙間を設けてフェライトコア26が嵌合し、トランス20を構成している。
【0017】
このトランス20のコイルを形成した積層体22は、図1、図2に示すように、上面からみると、積層体22を構成する基板24の一端部近傍に矩形のスルーホール28が2つ、長手方向端部の縁に平行に設けられている。また、このスルーホール28は、積層体22を形成する各基板24表面の一次側導体30に繋がった一次側端子部32に接続している。そして、一次側端子部32には、図1(a)に示すL字状の一次側端子部材34が挿通され、スルーホール28を介して積層体22の内部で一次側端子部32と一次側端子部材34が電気的に接続している。
【0018】
積層体22を形成する基板24の中央より僅かに図面上方には、円形の貫通穴36が設けられ、この貫通穴36の両側に位置する基板24の長手方向の縁は、貫通穴36と同心円の円周上に一致するように円形に膨らんだ形状を成している。この貫通穴36には、フェライトコア26の中足が挿通される。
【0019】
積層体22の基板24には、図2(c)、(d)に示すように、一次側導体30による一次巻線が貫通穴36の周囲に形成されている。一次側導体30は、各基板24に2ターンずつ形成され、貫通穴36の近傍のスルーホール52で直列に接続され、4ターンのコイルを形成している。そして、図2(c)、(d)に示す各一次側導体30の一方の端部が各々一次側端子部32につながり、スルーホール28を介して一対の一次側端子部材34に繋がっている。
【0020】
また、積層体22の2次側は、図2(a)、(b)に示すように、基板24表面に形成された二次側導体46が貫通穴36の周囲に形成され、各々1ターンの二次巻線を形成している。積層体22を形成する基板24には、積層体22の一次側導体30が設けられた縁の反対側に、二次側導体46から延長された引出部38を備える。引出部38の端部近傍には、矩形のスルーホール40が短手方向と平行に2つ設けられている。このスルーホール40は、積層体22を形成する基板24表面の二次側端子部42を貫通して形成され、二次側端子部材44が嵌合して接続されている。この二次側端子部42は、積層体22を形成する基板24表面に設けられた二次側導体46から延長されている。この実施形態では、二次側端子部42のスルーホール40に挿通された二次側端子部材44は、図1(a),(c)に示すように、T字状をしており、二次側端子部材44と2層の二次側導体46がスルーホール40を介して電気的に接続している。
【0021】
この実施形態の1ターンの二次巻線を形成した二次側導体46の両端は、基板24表面で僅かな隙間である分割溝50を設けた状態で引出部38を形成し、引出部38の端部が二次側端子部42となっている。二次側導体46は、図1(c)の断面図にあるように、絶縁層を挟んで各々独立に2層設けられ、トランス20は、一次側導体30と二次側導体46による一次巻線と二次巻線との巻数比が4:1になっている。二次巻線は、図2(a),(b)の2層構成になっており、図2(a),(b)に示すように各層の基板24の引出部38の分割溝50の位置は、図2(a)では引出部38の中心線から右側へ位置がずれ、図2(b)では左にずれた位置であり、互いに基板24の厚み方向の投影位置が重なり合わないように各々所定間隔離れて設けられている。なお、積層体22は、さらに基板24による層を増やしても良く、その場合、図2(a)の層と図2(b)の層が互いに交互に複数層並列に構成されると良い。
【0022】
次に、このトランス20の動作について説明する。この実施形態のトランス20に電流を流すと、二次側導体46のそれぞれ引出部38では、分割溝50で分割された引出部38の互いに積層した基板24に電流が流れる。そして引出部38のうち互いに電流の流れる方向が異なる引出部の、対向する面積は各分割溝50間の幅となり、広い範囲で互いに逆方向の電流の流れが近接して対面する。このるため、それぞれの極性の引出部38が発生する磁束をお互いに打ち消すような動作をし、近接効果の影響を効果的に低減する。
【0023】
この実施形態のトランス20によれば、近接効果の影響を低減し、交流抵抗値を小さくできる。また、引出部38の磁束密度が低下し漏れ磁束が小さくなるため、低損失でノイズの発生も抑えることができるものである。従って、このトランス20を使用したスイッチング電源装置では、内部電力損失が低減し、効率が向上すると共に発熱も抑えることができるため、スイッチング電源の放熱板の部品点数が減り、より高効率で小型化も可能になるものである。
【0024】
次に、この発明の第二実施形態について、図3を基に説明する。ここで、上記実施形態と同様の部材は同一の符号を付して説明を省略する。この実施形態のトランスは、図3に示すように、二次側導体46を3層にしたものである。
【0025】
図3(a)〜(c)は、積層体22を形成する3層それぞれの基板24の表面に、銅箔により形成された二次側導体46を示す。図3(a)は、二次側導体46による1ターンの二次巻線が形成され、二次側導体46の引出部38において、基板24の長手方向中心線に対して図面上で右側にずれた位置に分割溝50が設けられ、二次巻線の両端が各二次側端子部42に繋がっている。図3(b)も、二次側導体46により1ターンの二次巻線が形成され、二次側導体46の引出部38において、基板24の長手方向中心線に対して図面上で左側にずれた位置に分割溝50が設けられ、二次巻線の両端が各二次側端子部42に繋がっている。図3(c)は、二次側導体46により1ターンの二次巻線が形成され、二次側導体46の引出部38において、基板24の長手方向中心線に沿って分割溝50が設けられ、二次巻線の両端が各二次側端子部42に繋がっている。この基板24を、絶縁層を挟んで複数重ねて積層体22を形成している。積層体22の各基板24の引出部38の断面は、図3(d)に示すように、基板24の面方向の分割溝50の位置が各々異なる位置に設けられている。即ち、厚さ方向に並列接続した各々の二次側導体46の引出部38は、各基板24に形成された分割溝50の厚み方向投影位置が、隣り合う二次側導体46同士では重なりを持たず、異なる位置に形成されている。
【0026】
この実施形態のトランス20によれば、3層以上に基板24を重ねた場合も、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。なお、各基板24の分割溝50は、互いに中心線に対して対称である必要はなく、引出部38において対向する基板24同士で、互いに異なる極性の導体が重なり合うように、分割溝50の位置を面方向にずらした構造であれば良い。
【0027】
次に、この発明の第三実施形態について、図4、図5を基に説明する。ここで上記実施形態と同様の部材は同一の符号を付して説明を省略する。この実施形態のトランス20は、図4に示すように、表面に銅箔の導体による回路パターン等が設けられた回路基板58を、厚み方向に絶縁層を挟んで重ねて形成された多層基板から成る積層体56に、フェライトコア26が組み合わされて形成されている。
【0028】
この積層体56を形成する回路基板58表面には、コイルを形成する一次側導体30と二次側導体46が形成されている。そして、この二次側導体46の引出部38は、分割溝50により分かれて二次側端子部42につながり、それぞれ2個の整流素子52がスルーホール54を介して各層の二次側端子部42に接続されている。積層体56の各層の二次側導体46は、各々並列に設けられたコイルを構成し、重なり合う二次側導体46が互いに、このスルーホール54にて並列に回路に接続されている。また、この実施形態においても、トランス20の複数層の二次側導体46の引出部38では、厚み方向に並列に隣接する二次側導体46の各層の分割溝50が互いに重ならない位置に設けられている。また、このトランス20の一次側導体30は、厚み方向にスルーホール60にて接続されている。
【0029】
この回路基板58に形成された回路は、例えば図5(a)に示すシングルフォワード式電源装置や、図5(b)に示すハーフブリッジ倍電流整流式電源装置である。図5(a)に示す回路は、入力端子間に設けられた入力コンデンサC1と、トランス20の一次巻線である一次側導体30に直列に接続されたスイッチ素子SW1が設けられている。また二次側には、二次側導体46に接続された整流素子であるダイオードD1,D2が設けられ、ダイオードD2のカソード側であって二次側導体46のドットのある端子がチョークコイルL1の一端に接続され、チョークコイルL1の他端とダイオードD2のアノード間に出力コンデンサC2が接続されるとともに出力端子に繋がっている。
【0030】
また、図5(b)に示すハーフブリッジ倍電流整流式電源装置は、一次側には、入力端子間に設けられた入力コンデンサC3と、入力コンデンサC3の両端に接続されたコンデンサC4,C5の直列回路と、コンデンサC4,C5の直列回路の両端に接続され直列に設けられたスイッチ素子SW2,SW3とを備えている。そして、トランス20の一次巻線である一次側導体30のドットのある側がコンデンサC4,C5の中点に接続され、ドットのない側がスイッチ素子SW2,SW3の中点に接続されている。また、二次側には、二次側導体46の両端が、整流素子であるダイオードD3,D4の各カソードに接続されているとともにチョークコイルL2,L3の各一端に各々接続されている。そして、チョークコイルL2,L3の他端がともに出力コンデンサC6の一端に接続され、ダイオードD3,D4の各アノードがともに出力コンデンサC6の他端に接続され、出力端子に繋がっている。
【0031】
この実施形態のトランス20を設けた多層基板から成る回路基板58は、二次側導体46の巻線数を1ターンとして整流できる方式であれば全ての電源回路に用いることができるものである。
【0032】
次に、この発明の第四実施形態について、図6を基に説明する。ここで上記実施形態と同様の部材は同一の符号を付して説明を省略する。この実施形態も複数の基板により形成された積層体22から成るコイルを備えたもので、基板24には、図6に示すように、銅箔により二次側導体46と一次側導体30が設けられている。そして、二次側導体46の引出部38には、貫通穴36から二次側端子部42にかけて分割溝50が設けられている。この分割溝50は、屈折した曲部60を備えたもので、二次側導体46の引出部38に設けられた分割溝50の位置について、厚み方向の隣り合う二次側導体46同士で、分割溝50が重ならない位置に設けられている。
【0033】
この実施形態のトランス20においても上記実施形態と同様の効果を得ることができるもので、分割溝50の形状や長さ等は問わないものである。
【0034】
なお、この発明のトランス及び多層基板は上記実施形態に限定されるものではなく、二次側導体の引出部に形成される分割溝と、並列に形成され積層されて隣接する他極の二次側導体の引出部の分割溝が、厚み方向に投影した位置が異なり、引出部の互いに対向した他方の極同士の導体の重なりが、導体幅または導体面積の3〜50%であればよい。
【0035】
またこの発明は、積層体によりコイルが形成されたトランス及びこのトランスを備えた多層基板であればよいため、多層基板やコアの形状等は適宜設定可能である。
【実施例1】
【0036】
次に、この発明の一実施例のトランスについてシミュレーションにより測定した結果について、図7〜図9を基に説明する。この実施例1によるトランス20は、図7(a)に示すように、二次側導体46の引出部38、分割溝50の位置を積層体22の長手方向中心線から線対称にずらした位置に設けたものである。この二次側導体46は、厚さ方向に絶縁層を挟んで並列に4層設けられている。そして、図7(b)に示すように、1層目と3層目の分割溝50の位置と2層目と4層目の分割溝50の位置を、図面上で水平方向にそれぞれ等しく設定している。
【0037】
この実施例のトランス20について、引出部38の導体の抵抗値をシミュレーションにより検証した。検証にあたり、4層のそれぞれの二次側導体46と分割溝50について、水平方向の重なり幅をw、二次側導体46の厚さをt、引出部38の導体の水平方向の幅をLとし、シミュレーションによる演算では、重なり幅wを変化させて、導体の厚さt=0.105mm、分割溝幅S=0.2mm、引出部38の水平方向の幅L=11.8mmとして抵抗値を求めた。
【0038】
この実施例1の、交流抵抗値の変化を図8のグラフに示す。このグラフでは、重なりがない場合は、電流周波数が600kHzと6MHzの場合の交流抵抗値が、表皮効果及び近接効果の影響で直流抵抗値の10倍から40倍になっている。また、分割溝幅S=0.2mmであるため、重なりがない場合を、重なり幅=−0.2mmとなっている。
【0039】
このグラフから、重なり幅w=約5.8mmで抵抗値の極小値をとっている。これは、この実施例1の引出部の水平方向の全体幅の約50%にあたる。重なり幅wを50%以上取ると、一方の電極の引出部が細すぎて、その部分の抵抗値が増加する影響が出るため、グラフに示すように抵抗値が上昇し始める。従って、重なり幅wは、50%以下で効果を発揮することが確認できた。
【0040】
また、重なり幅wを0.3mm程度に設定するだけで、従来の重なりのない場合の交流抵抗値よりも600kHzで約20%、6MHzで約30%低減する効果を確認できた。
【0041】
以上から、重なり幅wは、引出部の水平方向の幅Lの3%以上50%以下で効果を発揮することが確認できた。特に、導体のパターン設計上3%以上25%以下の範囲で重なりを形成することが好ましい。
【0042】
また、この実施例の構造により、図9のグラフに示すように、インダクタンスの低下も確認できた。図9のグラフから、重なり幅w=約5.8mmで極小値をとっていることが確認できる。これは、図8の場合と同じく、この実施例1の引出部の水平方向の全幅の約50%にあたる。また、重なり幅wを0.3mmと小さく形成するだけで、重なりのない場合と比較して大幅な低減効果が確認できた。これは、引出部の重なりにより、磁束密度の集中が少なく漏れ磁束が少ないことを示す。これにより、漏れ磁束が原因で発生するノイズの低減にもなるものである。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】この発明の第一実施形態のトランスを示す左側面図(a)、部分破断平面図(b)、A−A断面図(c)である。
【図2】この実施形態の積層体を形成する各基板を示す平面図である。
【図3】この発明の第二実施形態の積層体の各基板を示す平面図(a)(b)(c)と、積層体の引出部の断面図である。
【図4】この発明の第三実施形態の二次側導体の引出部に整流素子を設けた多層基板を示す概略平面図である。
【図5】この実施形態の多層基板に設けられるシングルフォワード式電源の回路(a)と、ハーフブリッジ倍電流整流式電源を示す回路(b)の回路図である。
【図6】この発明の第四実施形態の基板の二次側導体の引出部の形状を示す平面図である。
【図7】この発明の実施例1の積層体の構造を示す概略平面図(a)と断面図(b)である。
【図8】この発明の実施例1の交流抵抗比の変化を示すグラフである。
【図9】この発明の実施例1のインダクタンス比の変化を示すグラフである。
【図10】従来の多層基板によるトランスを示す左側面図(a)、部分破断平面図(b)、B−B断面図(c)である。
【符号の説明】
【0044】
20 トランス
22 積層体
24 基板
26 フェライトコア
30 一次側導体
38 引出部
42 二次側端子部
46 二次側導体
50 分割溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次巻線と、平面形状の導体で形成された二次巻線を有するトランスにおいて、前記二次巻線が1ターンのコイルを構成し、前記二次巻線が絶縁層を介して複数層並列接続して積層体が形成され、前記二次巻線の引出部を分ける分割溝の位置が、並列接続した引出部の導体間で厚み方向の投影位置が異なり、並列に設けた一方の前記二次巻線の一方の極性の引出部が、対面する他方の二次巻線の他方の極性の引出部と前記積層体の厚さ方向に重なる部分を有することを特徴とするトランス。
【請求項2】
前記二次巻線を銅板で形成したことを特徴とする請求項1記載のトランス。
【請求項3】
上記二次巻線をプリント基板の導体で形成したことを特徴とする請求項1記載のトランス。
【請求項4】
前記一次巻線と前記二次巻線を多層基板の導体で形成したことを特徴とする請求項1記載のトランス。
【請求項5】
前記一方の極性の引出部と他方の極性の引出部による重なり幅が、前記引出部の導体の幅の3%以上50%以下であることを特徴とする請求項1,2,3または4記載のトランス。
【請求項6】
スイッチング電源装置を構成するために用いられる多層基板であって、前記多層基板の一部にトランスを備え、このトランスは、一次巻線と、平面形状の導体で形成された二次巻線を有し、前記二次巻線が1ターンのコイルを構成し、前記二次巻線が前記多層基板により絶縁層を介して複数層並列接続され、前記多層基板の前記二次巻線の引出部を分ける分割溝の位置が、並列接続した引出部の導体間で厚み方向の投影位置が異なり、並列に設けた一方の前記二次巻線の一方の極性の引出部が、対面する他方の二次巻線の他方の極性の引出部と前記多層基板の厚さ方向に重なる部分を有する構造であることを特徴とする多層基板。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−108415(P2006−108415A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−293447(P2004−293447)
【出願日】平成16年10月6日(2004.10.6)
【出願人】(000103208)コーセル株式会社 (80)
【Fターム(参考)】