説明

トリートの製造方法

【課題】並列配置されたモノフィラメントからなるコードのカレンダーによる圧延工程において、コード種の切替時間の短縮と、打込み品質の確保とを両立させたトリートの製造方法を提供する。
【解決手段】複数本にて引き揃えた束を単位として互いに並行に配列されたモノフィラメントコード1に、カレンダー10を用いて未加硫ゴム2を被覆してトリート3を製造する方法である。カレンダー10の上流側にフラットプレスロール21およびインサータ22を配置して、複数本のスチールモノフィラメント1を、フラットプレスロール21およびインサータ22を介して整列させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトリートの製造方法(以下、単に「製造方法」とも称する)に関し、詳しくは、互いに並行に配列された複数本のスチールモノフィラメントに、カレンダーを用いて未加硫ゴムを被覆してトリートを製造する方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、互いに並行に配列された複数本のスチールコードに、カレンダーを用いて未加硫ゴムを被覆してトリートを製造するに際しては、図6に示すように、溝付きプレスロール101とコムロール102とを組み合わせて用いることでスチールコード1を整列させて、打ち込み状態を確保してきた。ここで、溝付きプレスロールとは、ロール表面に周方向に沿って、スチールコードの打込み状態に応じた溝が形成されたロールをいい、コムロール(櫛ロール)とは、ロール表面に周方向に沿って、底辺および両側面が直線からなる凹状の溝が、スチールコードの打込み状態に応じて形成されたロールをいう(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平07−237271号公報(特許請求の範囲等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、スチールコードとして並列配置したスチールモノフィラメントを用いたトリートの場合、トリート内に含まれるコード本数が、例えば3000本以上と、一般的な撚りコード対比で膨大となり、かつ、線径が、一般的な撚りコード対比で1/4程度となる。溝付きプレスロールを用いてスチールコードを整列させる際には、ロール表面の溝にコードを埋め込む準備作業が必要となるので、モノフィラメントのトリートを製造する場合、モノフィラメントが溝付きプレスロールに間違いなく埋め込まれているかどうかの目視確認が非常に困難であり、コード種を切替える際の作業時間として、一般的な撚りコードのトリート対比で7倍程度となる140分もの時間を要し、実用上支障を生じていた。
【0005】
これに対し、コード種の切替時間の短縮を目的として、溝付きプレスロールをフラットプレスロールに変更することも考えられるが、この場合、切替時間は一般的な撚りコードと同等となるものの、コードの打込み品質が悪化してしまうという問題が生ずる。よって、モノフィラメントを用いたkカレンダーによる圧延工程において、これら二律背反の関係にある、コード種の切替時間の短縮と打込み品質の確保との両立を図ることが求められていた。
【0006】
そこで本発明の目的は、並列配置されたモノフィラメントからなるコードのカレンダーによる圧延工程において、コード種の切替時間の短縮と、打込み品質の確保とを両立させたトリートの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討した結果、従来用いられている打込み状態の保持治工具である溝付きプレスロールおよびコムロールに代えて、プラットプレスロールおよびインサータを用いるものとすることで、上記課題を解決できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明のトリートの製造方法は、複数本にて引き揃えた束を単位として互いに並行に配列されたモノフィラメントコードに、カレンダーを用いて未加硫ゴムを被覆してトリートを製造する方法において、
前記カレンダーの上流側にフラットプレスロールおよびインサータを配置して、前記複数本のスチールモノフィラメントを、該フラットプレスロールおよびインサータを介して整列させることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、上記構成としたことにより、並列配置されたモノフィラメントからなるコードのカレンダーによる圧延工程において、コード種の切替時間の短縮と、打込み品質の確保とを両立させたトリートの製造方法を実現することが可能となった。なお、インサータを、カレンダー製法における整列治具として適用した例は、これまで知られていない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明のトリートの製造方法の一実施形態に係る説明図である。
【図2】本発明に係るトリートの一例を示す幅方向断面図である。
【図3】(a),(b)は、本発明に係るインサータの一例を示す説明図である。
【図4】図1中のフラットプレスロールおよびインサータ近傍の構成の一例を示す拡大図である。
【図5】図1中のフラットプレスロールおよびインサータ近傍の構成の他の例を示す拡大図である。
【図6】従来のトリートの製造方法に係る説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明のトリートの製造方法の一実施形態に係る説明図である。また、図2は、本発明に係るスチールモノフィラメントのトリートの一例を示す概略断面図である。本発明は、複数本、例えば、2〜6本、図示例では6本にて引き揃えた束を単位として互いに並行に配列されたモノフィラメントコード1に、カレンダーを用いて未加硫ゴム2を被覆して、図2に示すようなトリート3を製造する方法の改良に係るものである。
【0012】
図1に示すように、本発明においては、カレンダー10の上流側にフラットプレスロール21およびインサータ22を配置して、複数本のモノフィラメントコード1をこれらフラットプレスロール21およびインサータ22を介して整列させる点が重要である。従来の溝付きプレスロールではなくフラットプレスロールを用いるものとしたことで、溝付きプレスロール表面へのモノフィラメントコード1の埋め込み作業を撤廃することができるので、コード種の切替時間を大幅に短縮して、従来と同等程度とすることが可能となるとともに、作業者の軽労化を図ることが可能となった。また、フラットプレスロールとともにインサータを用いるものとしたことで、フラットプレスロールの直前までコード打込み状態を適切に確保することができ、その後のコーティングゴムへの転写時におけるコードの打込みの乱れの発生を防止して、打込み品質を確保することが可能となった。よって、これにより、上記並列配置されたモノフィラメントコード1のカレンダーによる圧延工程において、コード種の切替時間を従来程度に抑えつつ、打込み品質を確保することが可能となった。
【0013】
本発明において用いるフラットプレスロール21は、従来の溝付きプレスロールとは異なり、表面に溝を有しない平坦な形状のロールである。フラットプレスロール21としては、表面にゴムライニングが施された汎用の金属製のものを用いることができ、モノフィラメントコード1は、表面のゴムライニングにより、弾性的に保持される。フラットプレスロール1の外径は、製造条件により適宜選定することができるが、例えば、200〜300mm程度のものを好適に用いることができる。
【0014】
図3(a),(b)に、本発明に係るインサータの一例を示す説明図を示す。図示するように、インサータ22は、並列配置されたモノフィラメントコード1を、所定本数からなる束ごとに、所定のピッチで引き揃えるための複数の孔部22Aを、コード通過方向に沿って有する。この孔部22Aの寸法としては、モノフィラメントコード1の束が通過可能なものであれば特に制限はないが、好ましくは、高さがモノフィラメントコード1のコード径+(コード径×10〜80%)mm程度、幅がモノフィラメントコード1のコード幅+(コード径×10〜20%)mm程度とする。孔部22Aの寸法がトリート厚み方向ないしトリート幅方向に大きすぎると、モノフィラメントコード1の束が乱れて、打込み品質が低下するおそれがある。また、孔部22Aの形状についても、コードの通過に支障がない限り、特に制限はなく、図示するような矩形の他、矩形の角部を落とした形状などであってもよい。
【0015】
図4に、図1中のフラットプレスロール21およびインサータ22近傍の拡大図を示す。図示する例では、カレンダー10の上流側に、インサータ22およびフラットプレスロール21が順次配置されており、複数本のモノフィラメントコード1は、インサータ22で整列された後、フラットプレスロール21を介してカレンダー10に移送される。この場合、フラットプレスロール21は、カレンダー10を構成する第1〜第4ロール11〜14のうち、第3ロール13に近接して配置される。フラットプレスロール21は表面に溝を有しない平坦な形状であるので、表面に担持されたモノフィラメントコード1は、第3ロール13との近接部位において、第3ロール13上の未加硫ゴム2に埋め込まれる。よって、フラットプレスロール21と第3ロール13との間の距離は、実質的にゼロとする。
【0016】
また、この場合、モノフィラメントコード1が第3ロール13に巻き付けられた後、第3ロール13を離れて第2ロール12に巻き付けられるまでの、モノフィラメントコード1の第3ロール13への巻付け角度αは、例えば、60°以上、好適には60〜77°程度とすることができる。この巻付け角度αが大きいほど、モノフィラメントコード1の未加硫ゴム2への埋め込みを確実に行うことができ、好ましい。
【0017】
さらに、この場合、フラットプレスロール21とインサータ22との間の距離としては、インサータ22の出口からモノフィラメントコード1がフラットプレスロール21に接するまでの距離xで、5〜10mm程度とすることができる。この距離xがある程度あったほうが、接触のおそれがなく安全である一方、長すぎると、いったん整列されたモノフィラメントコード1に再び乱れが生ずるおそれがあり、いずれも好ましくない。
【0018】
図5に、本発明の他の実施の形態に係るフラットプレスロール21およびインサータ22近傍の拡大図を示す。図示する例では、カレンダー10の上流側に、フラットプレスロール21およびインサータ22が順次配置されており、複数本のモノフィラメントコード1は、フラットプレスロール21を介してインサータ22に誘導され、インサータ22で整列された後に、カレンダー10に移送される。この場合は、インサータ22が第3ロール13に近接して配置される。インサータ22で配列されたモノフィラメントコード1は、第3ロール13上で未加硫ゴムに埋め込まれる。
【0019】
また、この場合、モノフィラメントコード1が第3ロール13に巻き付けられた後、第3ロール13を離れて第2ロール12に巻き付けられるまでの、モノフィラメントコード1の第3ロール13への巻付け角度βは、例えば、40°以上、好適には40〜60°程度とすることができる。この巻付け角度βが大きいほど、モノフィラメントコード1の未加硫ゴムへの埋め込みを確実に行うことができ、好ましい。
【0020】
さらに、この場合、インサータ22と第3ロール13との間の距離は、インサータ22の入口から第3ロール13表面までの距離yで、70〜80mm程度であることが好ましい。この距離yがある程度あったほうが、接触のおそれがなく安全である一方、長すぎると、いったん整列されたモノフィラメントコード1に再び乱れが生ずるおそれがあり、いずれも好ましくない。
【0021】
本発明においては、上記フラットプレスロール21およびインサータ22をカレンダー10の上流側に配置する以外の点については、特に制限されるものではなく、常法に従い実施することが可能である。
【0022】
例えば、カレンダー10は、複数のロールを備え、整列されたモノフィラメントコード1の両面に未加硫ゴム2をコーティングするものである。図示する例では、カレンダー10は、モノフィラメントコード1を挟んで、上側に第1ロール11および第2ロール12からなる上側ロール対、および、下側に第3ロール13および第4ロール14からなる下側ロール対の、計4個のロールを備えるが、その他の構成のものであってもよく、特に制限はない。ここで、各ロールは、図示しないモータの駆動により矢印方向に回転され、整列されたモノフィラメントコード1には、搬送されながら一定の厚さに未加硫ゴム2がコーティングされるようになっている。
【0023】
なお、未加硫ゴム2が両面にコーティングされたモノフィラメントコード1、すなわち、トリート3は、その後、図示しないコンベア等によって次工程へと搬送され、使用される。
【0024】
クリールスタンド30は、複数段かつ複数列のクリール31を備えており、各クリール31には、それぞれモノフィラメントコード1が巻き付けられている。クリールスタンド30のコード送り出し方向には、ガイド板や櫛歯ロール等からなる整列部32が配置されており、この整列部32を通過させることで、複数本のモノフィラメントコード1は一定の間隔で水平に整列される。
【0025】
整列部32の下流側には、互いに軸線が平行である上側ロール40Aと下側ロール40Bとからなるブレーキロール40が配置されており、整列部32を通過したモノフィラメントコード1は、これら上側ロール40Aと下側ロール40Bとの間で挟持される。これら上側ロール40Aおよび下側ロール40Bは、回転時にブレーキ力(抵抗)を付与するブレーキ装置(図示せず)を備えており、このブレーキ力により、カレンダー10とブレーキロール40との間において、モノフィラメントコード1に一定のテンションが付与される。なお、クリール31にブレーキを掛ける場合には、ブレーキロール40は省くこともできる。
【0026】
本発明の製造方法において、各クリールに巻き付けられたモノフィラメントコード1は、カレンダー10側に引っ張られ、整列部32を通過して一列に配列された後、ブレーキロール40、フラットプレスロール21およびインサータ22を介して、カレンダー10に移送される。カレンダー10においては、回転する上側ロール対と下側ロール対とによりモノフィラメントコード1が挟持搬送されながら、その両面に未加硫ゴム2が圧着されて、トリートが製造される。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。
<実施例>
図1に示すように、カレンダー10の上流側にフラットプレスロール21およびインサータ22を配置して、スチールモノフィラメントをこれらフラットプレスロール21およびインサータ22を介して整列させながら、トリートの製造を行った。モノフィラメントコードは6本にて引き揃えた束を単位とし、コード径は0.225mm、束間距離は0.77mmであった。また、装置全体に含まれるフィラメントの総本数は3720本であった。さらに、コードの走行速度は35m/minとした。
【0028】
フラットプレスロール21としては、表面にゴムライニングが施されていないメタル製(材質)の外径300mmのものを用い、インサータ22としては、図3に示すような、束間距離に対応する複数の孔部22A(高さ:0.4mm,幅:1.36mm)を有するものを用いた。また、フラットプレスロール21とインサータ22との間の距離xは10mmとし、モノフィラメントコード1の第3ロール13への巻付け角度αは77°とした。
【0029】
結果として、得られたトリートの打込み品質は問題ないレベルであって、コード種の切替時間は23分であった。
【0030】
<従来例>
図6に示すように、カレンダー10の上流側に溝付きプレスロール101およびコムロール102を配置して、スチールモノフィラメントをこれらプレスロール101およびコムロール102を介して整列させながら、トリートの製造を行った。
【0031】
結果として、コード種の切替時間は20分であったが、得られたトリートの打込み品質は不十分なものであった。
【符号の説明】
【0032】
1 モノフィラメントコード
2 未加硫ゴム
3 トリート
10 カレンダー
11 第1ロール
12 第2ロール
13 第3ロール
14 第4ロール
21 フラットプレスロール
22 インサータ
22A 孔部
30 クリールスタンド
31 クリール
32 整列部
40 ブレーキロール
40A 上側ロール
40B 下側ロール
101 溝付きプレスロール
102 コムロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本にて引き揃えた束を単位として互いに並行に配列されたモノフィラメントコードに、カレンダーを用いて未加硫ゴムを被覆してトリートを製造する方法において、
前記カレンダーの上流側にフラットプレスロールおよびインサータを配置して、前記複数本のスチールモノフィラメントを、該フラットプレスロールおよびインサータを介して整列させることを特徴とするトリートの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate