説明

トロイダル型無段変速機用外輪の製造方法

【課題】高い伝達効率を確保でき、しかも、優れた耐久性を確保できる構造を実現する為の外輪18bを、能率良く製造可能とする。
【解決手段】前記外輪18bは、外側面に凹部19bを、内側面の中央部に支持軸10aを、この支持軸10aの中心部に外側面側に開口する下流側給油路21を、それぞれ設けて成る。前記凹部19bは、幅方向両側部分に設けられ、断面形状の曲率半径が前記円筒状凸面の曲率半径よりも大きな1対の側方凹曲面部29a、29aを備えたゴシックアーチ状の断面形状を有する。これら両側方凹曲面部29a、29aと、前記下流側給油路21の開口部の中央部基準面33とを、金型の加工面を押し付けてこの加工面の形状を転写する塑性加工により形成する。その後、前記両側方凹曲面部29a、29aと、前記中央部基準面33とを基準とし、外輪軌道及び前記支持軸10aの外周面に仕上加工を施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車用の自動変速機として利用するトロイダル型無段変速機に組み込まれる外輪の製造方法の改良に関する。具体的には、トラニオンに対するパワーローラの変位を円滑に行わせて、高い伝達効率を確保でき、しかも、優れた耐久性を確保できる構造を実現する為の外輪を、能率良く製造できる製造方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
[従来技術の説明]
自動車用変速装置としてトロイダル型無段変速機を使用する事が多くの刊行物に記載され、且つ、一部で実施されて周知である。特に、特許文献1には、各種構造のトロイダル型無段変速機が記載されている。図12に、この特許文献1に記載されており、現在実施されているトロイダル型無段変速機の基本構成を示している。先ず、この従来構造の第1例に就いて、簡単に説明する。1対の入力ディスク1a、1bを入力回転軸2に対し、それぞれがトロイド曲面(断面円弧形の凹面)である入力側内側面3、3同士を互いに対向させた状態で、互いに同心に、且つ、同期した回転を自在に支持している。
【0003】
又、前記入力回転軸2の中間部周囲に、中間部外周面に出力歯車4を固設した出力筒5を、この入力回転軸2に対する回転を自在に支持している。又、この出力筒5の両端部に出力ディスク6、6を、スプライン係合により、この出力筒5と同期した回転自在に支持している。この状態で、それぞれがトロイド曲面である、前記両出力ディスク6、6の出力側内側面7、7が、前記両入力側内側面3、3に対向する。
【0004】
又、前記入力回転軸2の周囲で前記入力側、出力側両内側面3、7同士の間部分(キャビティ)に、それぞれの周面を球状凸面としたパワーローラ8、8を、2個ずつ配置している。これら各パワーローラ8、8は、それぞれトラニオン9、9の内側面に、基半部と先半部とが偏心した支持軸10、10と複数の転がり軸受とを介して、これら各支持軸10、10の先半部周りの回転、及び、これら各支持軸10、10の基半部を中心とする若干の揺動変位自在に支持されている。
【0005】
又、前記各トラニオン9、9は、それぞれの長さ方向(図12の表裏方向)両端部にこれら各トラニオン9、9毎に互いに同心に設けられた傾転軸を中心として揺動変位自在である。これら各トラニオン9、9を揺動(傾斜)させる動作は、油圧式のアクチュエータにより、これら各トラニオン9、9を前記各傾転軸の軸方向に変位させる事により行う。変速時には、前記各アクチュエータへの圧油の給排により、前記各トラニオン9、9を前記各傾転軸の軸方向に変位させる。この結果、前記各パワーローラ8、8の周面と前記入力側、出力側各内側面3、7との接触部(トラクション部)の接線方向に作用する力の方向が変化する(サイドスリップが発生する)ので、前記各トラニオン9、9が前記各傾転軸を中心として揺動変位する。
【0006】
上述の様なトロイダル型無段変速機の運転時には、駆動軸11により一方(図12の左方)の入力ディスク1aを、ローディングカム式の押圧装置12を介して回転駆動する。この結果、前記入力回転軸2の両端部に支持された1対の入力ディスク1a、1bが、互いに近づく方向に押圧されつつ同期して回転する。そして、この回転が、前記各パワーローラ8、8を介して前記両出力ディスク6、6に伝わり、前記出力歯車4から取り出される。
【0007】
前記入力回転軸2と前記出力歯車4との回転速度の比を変える場合で、先ず入力回転軸2と出力歯車4との間で減速を行う場合には、前記各トラニオン9、9を図12に示す位置に揺動させ、前記各パワーローラ8、8の周面を、前記各入力ディスク1a、1bの入力側内側面3、3の中心寄り部分と前記両出力ディスク6、6の出力側内側面7、7の外周寄り部分とにそれぞれ当接させる。反対に、増速を行う場合には、前記各トラニオン9、9を図12と反対方向に揺動させ、前記各パワーローラ8、8の周面を、前記両入力ディスク1a、1bの入力側内側面3、3の外周寄り部分と前記両出力ディスク6、6の出力側内側面7、7の中心寄り部分とにそれぞれ当接させる。前記各トラニオン9、9の揺動角度を中間にすれば、前記入力回転軸2と前記出力歯車4との間で、中間の速度比(変速比)を得られる。
【0008】
上述の様なトロイダル型無段変速機の運転時には、動力の伝達に供される各部材、即ち、入力側、出力側各ディスク1a、1b、6と前記各パワーローラ8、8とが、前記押圧装置12が発生する押圧力(推力)に基づいて弾性変形する。そして、この弾性変形に伴って、前記各ディスク1a、1b、6が軸方向に変位する。又、前記押圧装置12が発生する押圧力は、前記トロイダル型無段変速機により伝達するトルクが大きくなる程大きくなり、それに伴って前記各部材の弾性変形量も多くなる。従って、前記トルクの変動に拘らず、前記入力側、出力側各側面3、7と前記各パワーローラ8、8の周面との接触状態を適正に維持する為に、これら各パワーローラ8、8を前記各トラニオン9、9に対し、前記各ディスク1a、1b、6の軸方向に変位させる機構が必要になる。図12に記載した従来構造の第1例の場合には、前記各パワーローラ8、8を支持した前記各支持軸10、10の先半部を、同じく基半部を中心として揺動変位させる事により、前記各パワーローラ8、8を前記軸方向に変位させる様にしている。
【0009】
この様な従来構造の第1例の場合、前記各パワーローラ8、8を前記軸方向に変位させる為の構造が複雑で、部品製作、部品管理、組立作業が何れも面倒になり、コストが嵩む事が避けられない。この様な問題を解決する為の技術として前記特許文献1には、図13〜16に示す様な構造が記載されている。この従来構造の第2例の特徴は、トラニオン9aに対してパワーローラ8aを、入力側、出力側各ディスク1a、1b、6(図12参照)の軸方向の変位を可能に支持する部分の構造にあり、トロイダル型無段変速機全体としての構造及び作用は、前述の図12に示した従来構造の第1例と同様である。
【0010】
前記従来構造の第2例を構成するトラニオン9aは、両端部に互いに同心に設けられた1対の傾転軸13、13と、これら両傾転軸13、13同士の間に存在し、少なくとも前記入力側、出力側両ディスク1a、1b、6の径方向(図14〜16の上下方向)に関する内側(図14〜16の上側)の側面を円筒状凸面14とした、支持梁部15とを備える。前記両傾転軸13、13は、それぞれラジアルニードル軸受16、16を介して、ヨーク(周知構造である為、図示せず)或いは揺動フレームの支持板部(特許文献1の図71、72の符号13、14参照)に、揺動を可能に支持する。
【0011】
又、前記円筒状凸面14の中心軸イは、図14、15に示す様に、前記両傾転軸13、13の中心軸ロと平行で、これら両傾転軸13、13の中心軸ロよりも、前記各ディスク1a、1b、6の径方向に関して外側(図14〜16の下側)に存在する。又、前記支持梁部15と前記パワーローラ8aの外側面との間に設けるスラスト玉軸受17を構成する外輪18の外側面に、部分円筒面状の凹部19を、この外側面を径方向に横切る状態で設けている。そして、この凹部19と、前記支持梁部15の円筒状凸面14とを係合させ、前記トラニオン9aに対して前記外輪18を、前記各ディスク1a、1b、6の軸方向に関する揺動変位を可能に支持している。前記凹部19の断面形状の曲率半径r19は前記円筒状凸面14の断面形状の曲率半径r14以上(r19≧r14)として、これら凹部19と円筒状凸面14とを、全面若しくはこの凹部19の底部近傍部分で、直接当接させている。
【0012】
又、前記外輪18の内側面中央部に支持軸10aを、この外輪18と一体に固設して、前記パワーローラ8aをこの支持軸10aの周囲に、ラジアルニードル軸受20を介して、回転自在に支持している。又、前記外輪18及び前記支持軸10aの内部に、前記スラスト玉軸受17及び前記ラジアルニードル軸受20に潤滑油を供給する為の下流側給油路21を、前記支持梁部15の内部に、この下流側給油路21に繋がる上流側給油路22を、それぞれ設けている。尚、この下流側球油路21が、特許請求の範囲に記載した中心孔に相当する。これら両給油路21、22は、前記凹部19の中央部に形成した凹孔31を介して、前記外輪18の揺動変位に拘らず互いに連通する様にし、更に、前記支持梁部15の外部に、前記上流側給油路22に繋がる給油パイプ23を設けている。この給油パイプ23の上流側端部は、前記トラニオン9aの端部に設けた、同期ケーブルを架け渡す為のプーリ24の内径側に開口させ、このプーリ24の内径側を通じて、潤滑油の供給を可能にしている。
【0013】
更に、前記トラニオン9aの内側面のうち、前記支持梁部15の両端部と前記両傾転軸13、13との連続部に、互いに対向する1対の段差面25、25を設けている。そして、これら両段差面25、25と、前記スラスト玉軸受17を構成する外輪18の外周面とを、当接若しくは近接対向させて、前記パワーローラ8aからこの外輪18に加わるトラクション力を、前記両段差面25、25のうち何れかで支承可能としている。
【0014】
上述の様に構成する従来構造の第2例のトロイダル型無段変速機によれば、前記パワーローラ8aを前記各ディスク1a、1b、6の軸方向に変位させて、構成各部材の弾性変形量の変化に拘らず、このパワーローラ8aの周面と前記各ディスク1a、1b、6との接触状態を適正に維持できる構造を、簡単で低コストに構成できる。
即ち、トロイダル型無段変速機の運転時に、入力側、出力側各ディスク1a、1b、6、各パワーローラ8aの弾性変形に基づき、これら各パワーローラ8aをこれら各ディスク1a、1b、6の軸方向に変位させる必要が生じると、これら各パワーローラ8aを回転自在に支持している前記スラスト玉軸受17の外輪18が、外側面に設けた部分円筒面状の凹部19と前記支持梁部15の円筒状凸面14との当接面を滑らせつつ、この円筒状凸面14の中心軸イを中心として揺動変位する。この揺動変位に基づき、前記各パワーローラ8aの周面のうちで、前記各ディスク1a、1b、6の軸方向片側面と転がり接触する部分が、これら各ディスク1a、1b、6の軸方向に変位し、前記接触状態を適正に維持する。
【0015】
前述した通り、前記円筒状凸面14の中心軸イは、変速動作の際に前記各トラニオン9aの揺動中心となる前記両傾転軸13、13の中心軸ロよりも、前記各ディスク1a、1b、6の径方向に関して外側に存在する。従って、前記円筒状凸面14の中心軸イを中心とする揺動変位の揺動半径は、前記変速動作の際の揺動半径よりも大きく、前記入力ディスク1a、1bと前記出力ディスク6との間の変速比の変動に及ぼす影響は少ない(無視できるか、容易に修正できる範囲に留まる)。
【0016】
上述の様な従来構造の第2例を実施する場合に、図16の(A)に示す様に、前記凹部19の断面形状の曲率半径r19を、前記円筒状凸面14の断面形状の曲率半径r14よりも大きく(r19>r14)する事が一般的である。この理由は、これら両曲率半径r19、r14を互いに等しく(r19=r14)すると、前記凹部19の内面と前記円筒状凸面14とが、互いに対向する部分の全面に亙り当接し、この当接部に潤滑油を送り込み難くなる為である。前記凹部19の内面と前記円筒状凸面14とは、大きな面圧で当接した状態のまま、互いに揺動変位する為、前記当接部への潤滑油の送り込みが不良になると、金属接触に基づく過大な摩耗を発生し易くなる。
【0017】
但し、前記円筒状凸面14の断面形状の曲率半径r14よりも大きく(r19>r14)した場合にも、次の(1)(2)の様な問題を生じる。
(1) 前記凹部19の内面と前記円筒状凸面14とが局部的に摩耗し易い。
(2) 前記スラスト玉軸受17の耐久性を確保しにくい。
このうちの(1) の問題が生じる理由は、前記凹部19の内面と前記円筒状凸面14とが、図16の(A)に示す様に、この凹部19の底部若しくは底部近傍のみで、ほぼ線接触に近い状態で接触し、接触部の面圧が高くなる為である。
【0018】
又、前記(2) の問題が生じる理由は、前記パワーローラ8aから前記スラスト玉軸受17に加わる大きなスラスト荷重に基づき、前記外輪18が、その内側面側を部分凸円筒とする方向に弾性変形する為である。トロイダル型無段変速機の技術分野で周知の様に、本発明の対象となるハーフトロイダル型のトロイダル型無段変速機の運転時に前記スラスト玉軸受17には、前記パワーローラ8aから大きなスラスト荷重が加わる。そして、このスラスト荷重に基づいて前記スラスト玉軸受17を構成する外輪18が、図16の(B)に誇張して示す様に、前記凹部19の内面を前記円筒状凸面14に倣わせる(これら両面をほぼ全面に亙り当接させる)方向に弾性変形する。そして、この弾性変形に伴って、前記外輪18の内側面に設けた外輪軌道28と、前記パワーローラ8aの外側面に設けた内輪軌道27との距離が、前記外輪18の円周方向に関して不同になる。そして、これら両軌道28、27の距離の相違に伴って、これら両軌道28、27と各玉26、26(図12参照)の転動面との転がり接触部の面圧が、前記外輪18の円周方向に関して著しく不同になる。具体的には、前記トラニオン9aの長さ方向(前記支持梁部15の軸方向)反対側2箇所位置で、前記両軌道28、27と前記各玉26、26の転動面との転がり接触部の面圧が過大になる。この結果、これら両軌道28、27の転がり疲れ寿命が、前記長さ方向反対側2箇所位置で著しく短くなり、トロイダル型無段変速機の耐久性確保の上で障害になる。
【0019】
[先発明の説明]
上述の様な事情に鑑みて、スラスト玉軸受を構成する外輪の外側面に形成した凹部の内面と、トラニオンを構成する支持梁部に設けた円筒状凸面との接触面積を確保して、これら両面の摩耗を抑え、しかも、前記外輪の弾性変形を抑えて、前記スラスト玉軸受の耐久性を確保し、トロイダル型無段変速機全体としての耐久性を向上させる構造として、特願2009−267177に開示された発明がある。本発明の製造方法は、この先発明に係るトロイダル型無段変速機に組み込む外輪の製造方法に関するものであるから、先ず、前記先発明に係るトロイダル型無段変速機の構造及び作用に就いて、図17〜20により説明する。
【0020】
前記先発明に係る構造では、外輪18aの外側面に、この外輪18aの径方向に貫通する(両端部がこの外輪18aの外周面の径方向反対位置に開口する)状態で形成した凹部19aの内面を、単一円筒面ではなく、1対の側方凹曲面部29、29と中央凹曲面部30とを滑らかに連続させた、ゴシックアーチ状の断面形状を有するものとしている。このうち、前記両側方凹曲面部29、29は、前記凹部19aの幅方向両側部分に設けられており、断面形状の曲率半径r29が、トラニオン9aを構成する支持梁部15の円筒状凸面14の外周面の曲率半径r14よりも大きい(r29>r14)。これに対して、前記中央凹曲面部30は、前記凹部19aの幅方向中央部に設けられており、断面形状の曲率半径r30が、前記円筒状凸面14の外周面の曲率半径r14よりも小さい(r30<r14)。それぞれが上述の様な曲率半径r29、r30を有する、前記両側方凹曲面部29、29と前記中央凹曲面部30とは、これら両側方凹曲面部29、29のこの中央側端縁とこの中央凹曲面部の両側縁30とで互いの接線を共有する状態により、滑らかに連続している。
【0021】
前記外輪18aと前記トラニオン9aとは、この外輪18a側の凹部19aにこのトラニオン9a側の支持梁部15を内嵌する状態に組み合わせる。この様に組み合わせた状態で、この支持梁部15の円筒状凸面14と前記両側方凹曲面部29、29とが、この支持梁部15の外周面に関する円周方向2箇所位置で当接する。これら両当接部に関する中心角θは、前記各曲率半径r29、r30、r14の比に基づいて任意に調節できる。この中心角θが大きくなる程、前記外輪18aが前述の図16の(B)に示す様に弾性変形するのを阻止する効果が大きくなる。但し、前記中心角θが大きくなる程、前記両側方凹曲面部29、29同士の間隔を拡げる方向に加わる力が大きくなり、前記凹部19aの底部乃至はその近傍部分に加わる引っ張り応力が大きくなる。逆に、前記中心角θを小さくする程、前記両側方凹曲面部29、29同士の間隔を拡げる方向に加わる力を抑え、前記凹部19aの底部乃至はその近傍部分に加わる引っ張り応力を小さくできる。但し、前記中心角θを小さくする程、前記外輪18aが前述の図16の(B)に示す様に弾性変形するのを阻止する効果が小さくなる。そこで、前記中心角θを、前記外輪18aの弾性変形を抑え、前記凹部19aの底部乃至はその近傍部分に加わる引っ張り応力が過大にならない範囲で、適正に規制する。具体的には、前記中心角θが90度±30度の範囲に収まる様に、前記各曲率半径r29、r30、r14の比を定める。
【0022】
上述の様に構成する先発明に係る構造によれば、十分な耐久性を有するトロイダル型無段変速機を実現できる。
即ち、先発明のトロイダル型無段変速機の場合には、スラスト玉軸受17aを構成する前記外輪18aの外側面に形成した凹部19aの内面と前記支持梁部15に設けた円筒状凸面14とを、これら両面の円周方向に関して2箇所位置で当接させている。この為、前記凹部19aの内面と前記円筒状凸面14との接触面積を確保して、これら両面の接触部の面圧を低く抑え、これら両面の摩耗を抑える事ができる。
【0023】
又、前記凹部19aの内面と前記円筒状凸面14とを、前記支持梁部15の円周方向に離隔した2箇所位置で当接させている為、前記外輪18aに大きなスラスト荷重が加わった場合にも、この外輪18aが、前述の図16の(B)に示す様に、内側面側が凸円筒面となる様に弾性変形する事を抑えられる。言い換えれば、前記外輪18aの内側面の高さが、周方向に関して変化しない状態にできる。従って、この外輪18aの内側面に設けた外輪軌道28と、前記パワーローラ8aの外側面に設けた内輪軌道27との間隔を、これら両軌道28、27の円周方向に関して、実質的に一定にできる(不同になる程度を抑えられる)。この為、前記両軌道28、27と前記各玉26、26の転動面との転がり接触部の面圧が、部分的に過大になる事を防止できる。この結果、前記スラスト玉軸受17aの耐久性、延いてはこのスラスト玉軸受17aを組み込んだトロイダル型無段変速機の耐久性を確保できる。
【0024】
更に、先発明に係る構造の場合には、前記両側方凹曲面部29、29の中央側端縁と前記中央凹曲面部30の両側縁とを滑らかに連続させているので、前記支持梁部15の円筒状凸面14との押し付け合いに伴って、前記両側方凹曲面部29、29同士の間に互いに離れる方向の大きな力が加わった場合でも、前記凹部19aの底部若しくはその近傍に加わる引っ張り応力を低減できる。この結果、前記外輪18aに亀裂等の損傷が発生する事を防止できる。又、前記中央凹曲面部30を設ける事で、前記凹部19aの底部若しくはその近傍に加わる引っ張り応力を低減できる分、前記外輪18aの損傷防止性能を同じとした場合に、前記中心角θを大きくする事が可能になる。そして、この中心角θを大きくする事により、前記外輪18aの弾性変形を抑える効果を大きくできる。
【0025】
上述の様に、先発明に係る構造は、トラニオンに対するパワーローラの変位を円滑に行わせて、高い伝達効率を確保でき、しかも、優れた耐久性を確保する面から、大きな効果がある。但し、この為の構造を構成する、前記外輪18aの製造コストを抑える面から、問題がある。即ち、前述の図16の(A)に示した従来構造の様に、外輪18の外側面に、全幅に亙って曲率半径が一定である、内面が部分凹円筒面状である凹部19を形成するのであれば、一般的な回転工具を使用する事で、工業的手法によりこの凹部19を容易に形成できる。一方、ゴシックアーチ状の断面形状を有する前記凹部19aを形成するのは、外周面の断面形状を同形状とした(母線形状が同じで凹凸が逆である)砥石による研削加工によったり、或は、ワイヤカット放電加工による事が一般的手法としては考えられる。但し、これらの方法は、何れも加工能率が悪く、前記外輪18aの製造コストが嵩む原因となる。
【0026】
特に、この外輪18aは、内側面のうちで前記支持軸10aを囲む部分に形成した前記外輪軌道28を、焼き入れ硬化させる必要がある。そして、この焼き入れ硬化の為の熱処理に伴って、前記外輪18aの外径寄り部分が、図21に矢印α、αで示す方向に変形する傾向になる。この変形の方向及び量は、焼き入れ条件等、種々の条件で異なり、仕上加工時の取り代のばらつきが多くなる為、上述の様な砥石による研削加工やワイヤカット放電加工では、加工能率の低下、延いては製造コストの増大が著しくなり易い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0027】
【特許文献1】特開2008−25821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、トラニオンに対するパワーローラの変位を円滑に行わせて、高い伝達効率を確保でき、しかも、優れた耐久性を確保できる構造を実現する為の外輪を、能率良く製造できる製造方法を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0029】
本発明の製造方法の対象となるトロイダル型無段変速機用外輪は、支持梁部の円筒状凸面と係合させる事によりトラニオンに対し、揺動変位を可能に支持すると共にパワーローラを回転自在に支持すべく、外側面に径方向に貫通する凹部を、内側面の中央部に支持軸を、この支持軸の中心部に外側面側に開口する中心孔を、それぞれ設けて成る。前記凹部は、幅方向両側部分に設けられ、断面形状の曲率半径が前記円筒状凸面の曲率半径よりも大きな1対の側方凹曲面部を備えたゴシックアーチ状の断面形状を有する。そして、前記支持軸の周囲にラジアル軸受を介して配置されるパワーローラの内側面に形成したスラスト内輪軌道と、内側面に形成したスラスト外輪軌道との間に、複数の転動体を設置した状態で使用される。
【0030】
この様なトロイダル型無段変速機用外輪を造る為の本発明の製造方法は、前記凹部のうちで前記支持梁部の円筒状凸面と当接する、断面形状がゴシックアーチ状の部分のうちの、少なくとも前記支持梁部の円筒状凸面と当接する部分を、金型の加工面の表面形状を転写する塑性加工により形成する。
これと同時に、前記凹部の内面に位置して前記外側面の中心となる、前記中心孔の開口部に中央部基準面を、前記ゴシックアーチ状の部分を加工する金型のうちの他の部分に設けた第二の加工面を押し付けてこの第二の加工面の形状を転写する塑性加工により形成する。
その後、前記ゴシックアーチ状の部分と前記中央部基準面とを基準として、前記外輪軌道及び前記支持軸の外周面に仕上加工を施す。
【0031】
上述の様な本発明のトロイダル型無段変速機用外輪の製造方法を実施する場合に好ましくは、請求項2に記載した発明の様に、前記凹部の内面のうちで、前記支持梁部の円筒状凸面と当接する部分を他の部分よりも突出させた中間素材を形成した後、この他の部分よりも突出した部分、及び、前記中心孔の開口部にのみ、前記金型の加工面を押し付ける。
【発明の効果】
【0032】
上述の様に構成する本発明のトロイダル型無段変速機用外輪の製造方法によれば、トラニオンに対するパワーローラの変位を円滑に行わせて、高い伝達効率を確保でき、しかも、優れた耐久性を確保できる構造を実現する為の外輪を、能率良く製造できる。
即ち、凹部のうちで前記支持梁部の円筒状凸面と当接する部分、及び、中心孔の開口部の中央部基準面の塑性加工は、金型の加工面を中間素材のうちの加工すべき部分に押し付けてこの加工面の形状をこれら加工すべき部分に転写する事により、容易且つ迅速に行える。前記金型の加工面は高精度に加工する必要があるが、1個の金型を造れば、多数の外輪を加工できる為、この加工面の加工が面倒であっても、トロイダル型無段変速機用外輪を製造する事に関する能率が低下し、このトロイダル型無段変速機用外輪の製造コストが嵩む事にはならない。
【0033】
又、前記凹部のうちで前記支持梁部の円筒状凸面と当接する部分、及び、中心孔の開口部の中央部基準面部分を塑性加工により仕上げた状態では、これら両部分の表面精度及び互いの位置関係の精度が十分に高くなる。この為、これら両部分を基準として、外輪軌道及び支持軸の外周面に仕上加工を施せば、これら外輪軌道及び支持軸の外周面を十分な精度で、能率良く仕上げられる。
又、請求項2に記載した様に、前記凹部の内面のうちで、他の部分よりも突出した部分にのみ、前記金型の加工面を押し付ければ、加工面積を小さく抑えて、この金型やプレス装置の負荷を軽減できるだけでなく、被加工物である前記外輪中の残留応力を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を説明する為、外輪を外側面から見た状態で示す斜視図。
【図2】同じく外輪単体で示す断面図。
【図3】同じくトラニオンと組み合わせた状態で示す断面図。
【図4】凹部のうちで支持梁部の円筒状凸面と当接する部分、及び、中心孔の開口部の中央部基準面部分を塑性加工した後、外輪軌道及び支持軸の外周面に仕上げ加工を施す為、加工装置の保持部に装着する途中の状態を示す斜視図。
【図5】同じく装着した状態を示す断面図。
【図6】装着後、支持軸の外周面に仕上加工を施す状態を示す斜視図。
【図7】同じく外輪軌道に仕上加工を施す状態を示す斜視図。
【図8】これら仕上加工を精度良く行う為に考慮すべき寸法を説明する為の断面図。
【図9】仕上加工後の外輪をトラニオンに組み付けてパワーローラユニットとした状態を示す斜視図。
【図10】更にパワーローラを組み付けた状態を示す斜視図。
【図11】本発明の実施の形態の第2例を示す、図1と同様の図。
【図12】従来構造の第1例を示す断面図。
【図13】従来構造の第2例を示す、スラスト玉軸受を介してパワーローラを支持したトラニオンを、各ディスクの径方向外側から見た斜視図。
【図14】同じく、ディスクの周方向から見た状態で示す正面図。
【図15】同じく断面図。
【図16】パワーローラからスラスト玉軸受にスラスト荷重が加わる前の状態を示す状態(A)と、スラスト荷重が加わった後の状態(B)とを示す、図14のX−X断面図。
【図17】先発明に係る構造の1例を示す、スラスト玉軸受を介してパワーローラを支持したトラニオンを、各ディスクの径方向内側から見た斜視図。
【図18】図17の拡大Y−Y断面図。
【図19】スラスト玉軸受を構成する外輪を取り出し、図17と反対側から見た状態で示す斜視図。
【図20】図18からスラスト玉軸受を構成する外輪を取り出した状態で示す断面図。
【図21】外輪軌道の熱処理に伴って外輪が変形する状態を説明する為の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0035】
[実施の形態の第1例]
図1〜10は、本発明の実施の形態の第1例を示しており、このうちの図1〜2は、本発明の製造方法により造られるトロイダル型無段変速機用の外輪18bを示している。この外輪18bは、前述の先発明に係るトロイダル型無段変速機に組み込まれる外輪18a(図19〜20参照)と同様、外側面に、前記外輪18bの径方向に貫通する状態で形成した凹部19bの内面を、単一円筒面ではなく、1対の側方凹曲面部29a、29aと中央凹曲面部30aとを連続させた、ゴシックアーチ状の断面形状を有するものとしている。これら各凹曲面29a、30aの断面形状に関する曲率半径と、前記外輪18bを組み付けるべき、図3、9、10に示したトラニオン9bの支持梁部15aの円筒状凸面14aの断面形状の曲率半径との関係は、前記先発明の場合と同様である。
【0036】
特に、本発明の製造方法により造られる前記外輪18bの場合には、トロイダル型無段変速機を組み立てた状態で前記円筒状凸面14aと当接する、前記両側方凹曲面部29a、29a部分を、他の部分、即ち、前記中央凹曲面部30aよりも、少しだけ突出させている。従って、これら各凹曲面部29a、30a同士の間には、それぞれ段差部32、32が存在する。これら両段差部32、32の高さ、即ち、前記両側方凹曲面部29a、29aが前記中央凹曲面部30aよりも突出している量は、次述するこれら両側方凹曲面部29a、29aを、前記ゴシックアーチ形状を構成する非同心の部分円筒面形状とすべく、これら両側方凹曲面部29a、29aを金型で押圧して塑性変形させる際に、この金型がこれら両側方凹曲面部29a、29a以外の部分と干渉しない範囲で、できるだけ小さくする。一般的な乗用車用のトロイダル型無段変速機に組み込む、前記外輪18bの場合、前記両段差部32、32の高さは、例えば0.5〜2mm程度確保すれば足りる。
【0037】
上述の様な各凹曲面部29a、30aを含む、前記外輪18bの外面形状は、素材となる金属材料(炭素鋼)製の素材を、鍛造加工により順次変形させ、図1〜2に記載した形状に近付ける事により得る。そして、本発明の特徴である、前記両側方凹曲面部29a、29aを、ゴシックアーチ形状を構成する非同心の部分円筒面形状とする直前の、中間素材とする。この中間素材を得るまでの工程は、金型による鍛造加工の分野で広く知られている方法と、基本的には同じである。各工程で使用する金型(パンチ及びダイス)の形状を、得るべき前記外輪18bに合わせて規制する事は勿論である。又、特許請求の範囲に記載した中心孔である、下流側給油路21は、前記中間素材を鍛造加工により形成した後、ボール盤等を使用した切削加工(ドリル加工)により形成する。尚、前記中間素材のうちで外輪軌道28となるべき部分は、高周波焼き入れ等の部分焼き入れにより、熱処理硬化させておく。
【0038】
上述の様な中間素材を、前記素材に鍛造加工と一部切削加工とを施す事により得た後、この中間素材の外側面側に仕上加工用の金型を押し付ける。この金型の加工面、即ち、この中間素材の一部に押し付けて表面形状をこの中間素材に転写する部分の形状は、次の(1)〜(3)の特徴を有する。
(1) 前記両側方凹曲面部29a、29a(図2の破線ハ、ハに沿った部分)を、ゴシックアーチ形状を構成する非同心の部分凹円筒面形状とすべく、この部分凹円筒面形状と凹凸が逆転した部分凸円筒面形状を、前記両側方凹曲面部29a、29aとなるべき部分に突き当てられる部分に設けている。
(2) 前記部分凸円筒面形状部分が、前記両側方凹曲面部29a、29aとなるべき部分に突き当てられた状態で、前記下流側給油路21の開口部(図2の破線ニに沿った部分)に突き当てられる部分に、この部分を部分円すい状凹面に塑性変形させる、外周面を円すい状若しくは部分円すい状の凸面とした凸部を設けている。
(3) 前記(2)に記載した凸部の中心軸と、前記(1)に記載した1対の部分凸円筒面形状部分との位置関係を、完成後の前記外輪18bに於ける、前記支持軸10aの中心軸と前記両側方凹曲面部29a、29aとの位置関係に一致させている。
【0039】
表面形状が上述の(1)〜(3)の特徴を有するものである、前記金型を前記中間素材に押し付けて、前記両側方凹曲面部29a、29aを、ゴシックアーチ形状を構成する非同心の部分凹円筒面形状に塑性加工すると共に、前記下流側給油路21の開口部を部分円すい状凹面である、中央部基準面33に塑性変形させる。前記金型の各部の形状及び位置関係は、厳密に規制されているので、この金型の各部の形状を転写された、前記中間素材に関しても、前記両側方凹曲面部29a、29aと前記中央部基準面33との形状及び位置関係は、所望通り厳密に規制されたものとなる。この様にして得られたものが、外輪軌道28及び支持軸10aの外周面を除き、完成後の前記外輪18bと同じ表面性状及び寸法を有する、最終中間素材となる。尚、この最終中間素材のうち、前記支持軸10aの先端面の中央部には、例えば図1、4、5に示す様な円すい凹面状の受凹部39を、切削加工等により形成する。この受凹部39の形成作業は、例えば前記支持軸10aを旋盤等の回転高速機械のチャックに把持した状態で切削工具をこの支持軸10aの先端面に突き当てる事により行う。何れにしても、前記受凹部39は、厳密に、この支持軸10aの先端面中央部に位置させる。
【0040】
以上の準備が完了した後、前記両側方凹曲面部29a、29aと前記中央部基準面33とを基準として、前記外輪軌道28、及び、前記支持軸10aの外周面に仕上加工を施す。本例の場合、この仕上加工は、図4〜7の様にして行う。
先ず、図4→図5に示す様にして、前記最終中間素材を、工作機械の主軸の先端部に設けたチャック34に組み付ける。この際、前記両側方凹曲面部29a、29aと前記中央部基準面33とを基準として利用する事により、前記最終中間素材の位置決めを図る。具体的には、前記支持軸10aの中心軸と前記主軸の回転中心とを一致させると共に、この支持軸10aの軸方向に関する、前記最終中間素材の位置決めを図る。
【0041】
この為に、前記チャック34の前面の径方向反対側2個所位置に配置した1対のVブロック35、35同士の間に、外径を厳密に規制した円柱状のスペーサ36を掛け渡す。又、このスペーサ36の中央部を径方向に貫通する状態で形成したスライド孔37にがたつきなく挿通した位置決め用受ピン38の先端部に設けたテーパ面を、前記中央部基準面33に係合させる。又、前記主軸と同心に配置された位置決め用押ピン40の先端に形成したテーパ面を、前記受凹部39に係合させる。前記位置決め用受ピン38は、前記主軸及び前記位置決め用押ピン40と同心に配置されており、圧縮ばね41等の弾性部材により、或は流体圧式のアクチュエータ(図示せず)により、前記位置決め用押ピン40に向かう方向の弾力を付与されている。従って、この位置決め用押ピン40の先端面と前記受凹部39とを係合させ、更にこの位置決め用押ピン40により前記最終中間素材を、前記位置決め用受ピン38を押し込めつつ前記チャック34の先端面に向け押圧すれば、前記支持軸10aの中心軸と前記主軸の回転中心とを一致させると共に、この支持軸10aの軸方向に関する、前記最終中間素材の位置決めを図れる。この状態で、前記塑性加工によりこの最終中間素材に形成された、前記両側方凹曲面部29a、29aと前記スペーサ36の外周面とが当接する。
【0042】
そこで、図6〜7に示す様にして、前記外輪軌道28、及び、前記支持軸10aの外周面に仕上加工を施す。このうち、この支持軸10aの外周面の仕上加工は、前記主軸と共に前記最終中間素材を回転させつつ、図6に示す様に、切削工具42により前記支持軸10aの外周面を削り取る事により行う。又、前記外輪軌道28の仕上加工は、前記主軸と共に前記最終中間素材を回転させつつ、図7に示す様に、外周面の母線形状を、完成後の前記外輪軌道28の母線形状に一致させた(凹凸が逆である)砥石43を、この砥石43の中心軸周りに回転させつつ、この外輪軌道28とすべき部分に押し付ける事により行う。
【0043】
上述の様に構成する本例の製造方法の場合には、前記凹部19bのうちで前記支持梁部15aの円筒状凸面14aと当接する前記両側方凹曲面部29a、29a部分、及び、前記下流側給油路21の開口部の中央部基準面33部分の塑性加工を、金型の加工面を中間素材のうちの加工すべき部分に押し付ける事により、容易且つ迅速に行える。この為、前記トラニオン9bに対するパワーローラの変位を円滑に行わせて、高い伝達効率を確保でき、しかも、優れた耐久性を確保できる構造を実現する為の前記外輪18bを、能率良く製造できる。この結果、優れた性能を有するトロイダル型無段変速機の低廉化に寄与できる。
【0044】
特に、前記外輪18bは、単一のトロイダル型無段変速機に複数個設けられて、それぞれがパワーローラを回転自在に支持すると共に、変速比の変更時にこれら各パワーローラの傾転角を一致させる(同期安定性を確保する)為、各部の寸法を厳密に一致させる必要がある。例えば、図8に示した、スラスト玉軸受17(図12参照)を構成する前記外輪軌道28のピッチ円直径D、前記外輪18bの傾転中心から前記スラスト玉軸受17を構成する各玉26、26の中心までの高さH、前記支持軸10aの外径d、各部の対称性等は、厳密に規制する必要がある。本例の製造方法によれば、これら各寸法D、H、d及び各部の対称性を、比較的容易に、且つ、高精度に規制できる。尚、これら各部の対称性とは、前記ピッチ円直径Dの中心と、前記支持軸10aの外径dの中心と、前記両側方凹曲面部29a、29aと係合したスペーサ36の中心(支持梁部15aの中心軸、或いは、これら両側方凹曲面部29a、29aの幅方向中央位置でも同じ)とが一致する程度を言う。言い換えれば、前記支持軸10aの外周面に関する中心軸の延長線上から、前記ピッチ円直径Dの中心及び前記スペーサ36の中心がずれている程度を言う。これら各中心が一致するほど、言い換えれば前記対称性が良好であるほど、前記各パワーローラの同期安定性を良好にできる。
【0045】
尚、上述の様にして造った前記外輪18bは、図9に示す様に前記トラニオン9aの支持梁部15aと組み合わせ、更に、前記外輪軌道28上に、複数個の玉26、26(図12参照)を介してパワーローラ8aを配置する事により、前記スラスト玉軸受17を構成する。そして、図10に示す様なパワーローラユニットとする。
【0046】
[実施の形態の第2例]
図11は、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例の場合には、外輪18cの外側面に形成した凹部19cの両側部分にそれぞれ形成した1対の側方凹曲面部29b、29bのうち、前記外輪18cの径方向中間部のみを、中央凹曲面部30b及びこれら両側方凹曲面部29b、29bのこの外輪18cの径方向両端部よりも突出させている。
この為本例の場合には、前記両側方凹曲面部29b、29bのうちで支持梁部15aの円筒状凸面14a(図3参照)と当接する部分を、ゴシックアーチ形状を構成する部分凹円筒面状に加工する際に要する力を、上述した実施の形態の第1例の場合に比べても、より一層低減できる。
その他の部分の構成及び作用は、上述した実施の形態の第1例と同様であるから、同等部分に関する図示並びに説明は省略する。
【符号の説明】
【0047】
1a、1b 入力ディスク
2 入力回転軸
3 入力側内側面
4 出力歯車
5 出力筒
6 出力ディスク
7 出力側内側面
8、8a パワーローラ
9、9a トラニオン
10、10a 支持軸
11 駆動軸
12 押圧装置
13 傾転軸
14、14a 円筒状凸面
15、15a 支持梁部
16 ラジアルニードル軸受
17、17a スラスト玉軸受
18、18a、18b、18c 外輪
19、19a、19b、19c 凹部
20 ラジアルニードル軸受
21 下流側給油路
22 上流側給油路
23 給油パイプ
24 プーリ
25 段差面
26 玉
27 内輪軌道
28 外輪軌道
29、29a、29b 側方凹曲面部
30、30a、30b 中央凹曲面部
31 凹孔
32 段差部
33 中央部基準面
34 チャック
35 Vブロック
36 スペーサ
37 スライド孔
38 位置決め用受ピン
39 受凹部
40 位置決め用押ピン
41 圧縮ばね
42 切削工具
43 砥石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持梁部の円筒状凸面と係合させる事によりトラニオンに対し揺動変位を可能に支持すと共にパワーローラを回転自在に支持すべく、外側面に径方向に貫通する凹部を、内側面の中央部に支持軸を、この支持軸の中心部に外側面側に開口する中心孔を、それぞれ設けて成り、前記凹部は、幅方向両側部分に設けられ、断面形状の曲率半径が前記円筒状凸面の曲率半径よりも大きな1対の側方凹曲面部を備えたゴシックアーチ状の断面形状を有するものであり、前記支持軸の周囲にラジアル軸受を介して配置されるパワーローラの内側面に形成したスラスト内輪軌道と、内側面に形成したスラスト外輪軌道との間に転動体を設置した状態で使用されるトロイダル型無段変速機用外輪の製造方法であって、前記凹部のうちで前記支持梁部の円筒状凸面と当接する、断面形状がゴシックアーチ状の部分のうちの、少なくとも前記支持梁部の円筒状凸面と当接する部分を、金型の加工面の表面形状を転写する塑性加工により加工すると同時に、前記凹部の内面に位置して前記外側面の中心となる、前記中心孔の開口部に中央部基準面を、前記ゴシックアーチ状の部分を加工する金型のうちの他の部分に設けた第二の加工面を押し付けてこの第二の加工面の形状を転写する塑性加工により形成した後、前記ゴシックアーチ状の部分と前記中央部基準面とを基準として、前記外輪軌道及び前記支持軸の外周面に仕上加工を施す事を特徴とする、トロイダル型無段変速機用外輪の製造方法。
【請求項2】
前記凹部の内面のうちで、前記支持梁部の円筒状凸面と当接する部分を他の部分よりも突出させた中間素材を形成した後、この他の部分よりも突出した部分、及び、前記中心孔の開口部にのみ、前記金型の加工面を押し付ける、請求項1に記載したトロイダル型無段変速機用外輪の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2012−107644(P2012−107644A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−254923(P2010−254923)
【出願日】平成22年11月15日(2010.11.15)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】