説明

トロリ線の引き止め装置

【課題】 剛体電車線区間とカテナリ電車線区間に大きな移行設備を設けず、カテナリ電車線区間のトロリ線の終端部に大きな応力集中を生じさせずにこれを引き止める。
【解決手段】 短径間剛体架台2と支持板3とでカテナリ電車線のトロリ線T1の終端部を引き止める。短径間剛体架台2は、基端側で構築物に支持され、カテナリ電車線区間側Cへ延び、トロリ線T1の終端部を所定長さにわたって下端部で把持する。支持板3は、基端側で短径間剛体架台2の先端側に接続され、カテナリ電車線区間C側へ所定長さ延び、下端でトロリ線T1を支持する。短径間剛体架台2は、剛体電車線区間Rの終端部と所定距離にわたって並行し、基端部において先端側が上下方向に揺動可能に構築物に支持される。支持板3は、金属又は合成樹脂製で、基端側から先端側へ向かって徐々にその上下方向の幅が縮小し、下縁部において複数の把持部材8を介してトロリ線T1を把持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、吊架線下にトロリ線を懸垂して支持するカテナリ電車線区間と、剛体架台下に上下方向に固定してトロリ線を支持する剛体電車線区間との連結部においてカテナリ電車線のトロリ線を引き止める装置に関する。
【背景技術】
【0002】
剛体電車線では、トロリ線を、延線方向に張力を加えることなく、上下方向に固定して支持するのに対し、カテナリ電車線では、トロリ線を、延線方向に所定の張力を付与しつつ上下方向に所定の自由度を持って吊支する。このため、例えば、トンネル内の剛体電車線区間とトンネル外のカテナリ電車線区間との連結部には、図8に示すようなオーバーラップ区間が設けられる。図においてトンネルT内に設けられた剛体電車線21は、端部が約40mにわたってトンネル外に引き出され、構築物に支持される。一方、トンネル外のカテナリ電車線22の端部は、約30mにわたってトンネル外の剛体電車線21と並行して架設される。カテナリ電車線22のトロリ線23は、剛体電車線21と30
mmの高低差を有するが、オーバーラップ区間において、約20mの間で徐々に引き上げられ、電車のパンタグラフが両電車線区間の連結部を円滑に通過できるようになっている。このようなオーバーラップ区間には長距離の支持設備を必要とするため、在来線等の狭小トンネル区間に剛体電車線を導入する障害となっている。
移行区間に余分な設備を必要としない連結方式として、カテナリ電車線のトロリ線の終端部を剛体電車線のトロリ線の終端部と直接接続する形式が提案されている(例えば特許文献1参照)。この方式においては、剛体架台の上部を、その一端から他端に向かって徐々に下方へ深く切り欠くことによって先細りに形成されたスプリングポールを剛体電車線区間の終端部に接続し、これにカテナリ電車線のトロリ線を直接延線して支持させるものである。
【特許文献1】米国特許第5,957,254号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
剛体電車線区間のトロリ線をカテナリ電車線区間のトロリ線と直接接続する方式は、以下の問題点がある。(1)パンタグラフの通過に伴って、スプリングポールの先端部付近においてトロリ線の応力集中が起こる。(2)トンネルに曲線区間がある場合は、スプリングポールに曲線引金具が必要になる。(3)長大トンネルでは、剛体電車線区間に電車線の温度伸縮を吸収するためのエキスパン・ジョイントを設ける必要があり、ここでトロリ線の張力をどのように引き止めるかを考慮する必要がある。
したがって、この出願の発明は、剛体電車線区間のトロリ線とカテナリ電車線区間のトロリ線を直接接続することなく、また剛体電車線区間とカテナリ電車線区間との移行部に大きな移行設備を設けることなく、さらにはカテナリ電車線区間のトロリ線の終端部の引き止め部付近に大きな大きな応力集中を生じさせることなく、トロリ線を引き止める装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
課題を解決するため、この出願の発明においては、短径間剛体架台2と支持板3とでカテナリ電車線のトロリ線T1の終端部を引き止めるようにした。短径間剛体架台2は、基端側において構築物に支持され、カテナリ電車線区間側Cへ延び、カテナリ電車線のトロリ線T1の終端部を所定長さにわたって下端部で把持する。支持板3は、基端側が短径間剛体架台2の先端側に接続され、カテナリ電車線区間C側へトロリ線T1の上方に沿って所定長さ延び、下端において当該トロリ線T1を支持する。短径間剛体架台2は、剛体電車線区間Rの終端部と所定距離にわたって並行するように配置され、基端部において先端側が上下方向に揺動できるようにトンネル壁面等の構築物に支持される。支持板3は、金属又は合成樹脂製で、基端側から先端側へ向かって徐々にその上下方向の幅が縮小する形状とし、下縁部において複数の把持部材8を介してトロリ線T1を把持する。
【発明の効果】
【0005】
この出願の発明においては、剛体電車線区間のトロリ線とカテナリ電車線区間のトロリ線を直接接続しないから、剛体架台部分の曲線引を考慮したり、剛体電車線区間のエキスパン・ジョイントとトロリ線の張力負担構造との兼ね合いを考慮したりする必要がなく、移行部に大きなオーバーラップ設備を設けずに、またトロリ線の引き止め部付近に大きな大きな応力集中を生じさせることなく、カテナリ電車線区間のトロリ線を引き止めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
図面を参照してこの発明の実施の形態を説明する。図1は本発明のトロリ線の引き止め装置を示す正面図、図2は同平面図、図3は図1におけるIII−III断面図、図4は図1におけるIV−IV断面図、図5は図2におけるV−V断面図、図6本発明のトロリ線の引き止め装置基端部の正面図、図7は同平面図である。
【0007】
図1、図2において、吊架線下にトロリ線T1を懸垂して支持するカテナリ電車線区間Cと、剛体架台S下に上下方向に固定してトロリ線T2を支持する剛体電車線区間Rとの間に、連結部Jが設けられる。カテナリ電車線区間Cのトロリ線T1の終端は、連結部Jにおいて引き止め装置1によってトンネルの壁面等の構築物に引き止められる。
【0008】
引き止め装置1は、短径間剛体架台2と支持板3とを具備する。短径間剛体架台2は、剛体電車線区間Rの終端部における剛体架台Sと所定距離にわたって並行するように配置され、基端部において先端側が上下方向に揺動できるようにトンネルの壁面のような構築物に支持される。短径間剛体架台2は、アルミ合金のような金属製で、図3に示すように、上部のフランジ2aと、このフランジ2aから下方へ垂直に互いに平行に延出した一対の把持片2bとを具備し、断面が略Π型の型材からなる。カテナリ電車線区間Cのトロリ線T1の終端部は、一対の把持片2bの下縁部間に把持され、短径間剛体架台2の下に支持される。この短径間剛体架台2は、剛体架台Sと同一構造の短尺のものである。短径間剛体架台2の基端部は、接続金具4を介して、トンネルの壁面のような構築物に固定されたブラケット5に、ピン5aで枢止される。トロリ線T1の終端は、接続金具4の端に沿って上方へ湾曲され、イヤ6で係止される。
【0009】
支持板3は、基端側において、短径間剛体架台2の先端側に、接続板7を介して接続され、トロリ線T1の上方に沿ってカテナリ電車線区間C側へ所定長さ延び、下端において当該トロリ線T1を支持する。支持板3は、アルミ合金等の金属又はポリカーボネート等の合成樹脂製で、基端側から先端側へ向かって徐々にその上下方向の幅が縮小する形状で、下縁部において複数の把持部材8を介してトロリ線T1を把持する。一対の接続板7は、図3に示すように、基端側において短径間剛体架台の一対の把持片2bの間に挿入されてこれにねじ止めされる。支持板3の基端側は、一対の接続板7の先端側に挟まれてねじ止めされる。
【0010】
カテナリ電車線区間Cから剛体電車線区間Rへ進行する電車のパンタグラフは、トロリ線T1に接しながら進行し、連結部Jにおいて、支持板3の下部を経て、短径間剛体架台2の下部に至り、終結するトロリ線T1から離れる。この間パンタグラフは、連結部Jにおいて並行する剛体電車線区間Rの終端部(図2)のトロリ線T2にも接し、短径間剛体架台2を通過して、剛体電車線区間Rへ移行する。
【0011】
トロリ線T1の終端部は、パンタグラフの押し上げ力に対して、短径間剛体架台2の自重によりこれに対抗しつつ、その先端側が上下方向に揺動することと、支持板3の弾性によりトロリ線T1の上下振動に柔軟に追随し、また支持板3により、短径間剛体架台2に向かって徐々に剛性を増すようになっている。このため、パンタグラフの通過時に、トロリ線T1の終端部の特定箇所に歪みが集中することがない。
【産業上の利用可能性】
【0012】
この発明は、例えば、電気鉄道における在来線の狭小トンネル区間をカテナリ電車線から剛体電車線に設備変更する場合に、両電車線のオーバーラップ部に適用することにより、設備の小型化に資することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のトロリ線の引き止め装置を示す正面図である。
【図2】本発明のトロリ線の引き止め装置を示す平面図である。
【図3】図1におけるIII−III断面図である。
【図4】図1におけるIV−IV断面図である。
【図5】図1におけるV−V断面図である。
【図6】本発明のトロリ線の引き止め装置の基端部の正面図である。
【図7】本発明のトロリ線の引き止め装置の基端部の平面図である。
【図8】従来の剛体電車線区間とカテナリ電車線区間との連結部の説明図である。
【符号の説明】
【0014】
1 引き止め装置
2 短径間剛体架台
2a フランジ
2b 把持片
3 支持板
4 接続金具
5 ブラケット
5a ピン
6 イヤ
7 接続板
8 把持部材
C カテナリ電車線区間
R 剛体電車線区間
J 連結部
T1 カテナリ電車線区間のトロリ線
T2 剛体電車線区間のトロリ線
S 剛体架台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吊架線下にトロリ線を懸垂して支持するカテナリ電車線区間と、剛体架台下に上下方向に固定してトロリ線を支持する剛体電車線区間との連結部においてカテナリ電車線のトロリ線を引き止める装置であって、
基端側において構築物に支持され前記カテナリ電車線のトロリ線の終端部を所定長さにわたって下端部で把持するようにカテナリ電車線区間側へ延びる短径間剛体架台と、この短径間剛体架台の先端側に基端側が接続され前記トロリ線の上方に沿ってカテナリ電車線区間側へ所定長さ延び下端において当該トロリ線を支持する支持板とを具備し、
前記短径間剛体架台は、前記剛体電車線の終端部と所定距離にわたって並行するように配置され、基端部において先端側が上下方向に揺動できるように構築物に支持され、
前記支持板は、金属又は合成樹脂製で、基端側から先端側へ向かって徐々にその上下方向の幅が縮小する形状で、下縁部において複数の把持部材を介して前記トロリ線を把持することを特徴とするトロリ線の引き止め装置。
【請求項2】
前記短径間剛体架台は、金属製で、上部のフランジと、このフランジから下方へ垂直に互いに平行に延出した一対の把持片とを具備する断面略Π型の型材からなり、
前記トロリ線は、前記一対の把持片の下縁部間に把持されて前記短径間剛体架台の下に支持され、
前記短径間剛体架台の先端側と前記支持板の基端側との間に一対の接続板が介設され、これら一対の接続板は基端側において前記一対の把持片の間に挿入されて把持片にねじ止めされ、支持板の基端側は一対の接続板に挟まれてねじ止めされることにより、前記短径間剛体架台の先端側に接続されることを特徴とする請求項1に記載のトロリ線の引き止め装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−196953(P2007−196953A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−20679(P2006−20679)
【出願日】平成18年1月30日(2006.1.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年9月9日 社団法人電気学会発行の「電気学会研究会資料」に発表
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(000001890)三和テッキ株式会社 (134)