説明

トロリ線の曲線引装置用アーム支持装置およびアーム支持装置と吊架線支持装置との組み合わせ

【課題】 曲線引装置用のアームの上下位置を微調整可能に支持するアーム支持装置を提供する。
【解決手段】アーム支持装置1は、振止パイプ5に固定される支持装置本体10と、これに上下位置調整自在に取り付けられるブラケット組立体11とを具備する。支持装置本体10は、振止パイプ5に固定される取付部12と、それから左右に斜め下方へ延びる腕部13と、それから屈曲して鉛直方向へ延びるブラケット接続部14を持つ。ブラケット組立体11は、上下位置調整手段を介してブラケット接続部14に上下位置調整自在に接続される。ブラケット組立体11は、アーム7の基端側を軸支するブラケット本体15と、これをブラケット接続部14に支持するブラケット支持部材16と、これらの両者間に係合してブラケット本体15の上下位置を調整する位置調整部材17とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、トロリ線を可動ブラケットに引き留める曲線引装置用のアームを上下位置微調整可能に支持するアーム支持装置と、このアーム支持装置と組み合わせて使用される吊架線支持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、曲線引装置のアーム支持装置として、例えば図8に示すものが知られている(特許文献1参照)。アーム支持装置1は、電車線を電柱Pに吊垂支持するための可動ブラケット2に固定されている。可動ブラケット2は、水平主パイプ3と、傾斜主パイプ4と、振止パイプ5とを具備する。水平主パイプ3は、基端側において電柱Pに取付バンドBで固定され、碍子Gを介して水平方向に延びる。傾斜主パイプ4は、同じく基端側において電柱Pに取付バンドBで固定され、碍子Gを介して斜め上方に延び、水平主パイプ3の先端部に結合され、水平主パイプ3と協働してトラスを形成する。振止パイプ5は、水平主パイプ3と傾斜主パイプ4との間に架設され水平主パイプ3の下方を水平に延びる。アーム支持装置1は、上部が振止パイプ5に固定され、下部において曲線引装置6のアーム7を支持する。アーム7は、先端部において、イヤ8を介してトロリ線Tを把持する。トロリ線Tを吊支する吊架線Mは、可動ブラケット2の水平主パイプ3上に設けられた吊架線支持装置9によってトロリ線Tの上方に支持される。
【特許文献1】実開平5−82644号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
電車の高速化が進むと、トロリ線の支持装置毎のわずかな高さや偏位の不正がトロリ線の硬点を形成し、局部摩耗を招来する。このため、トロリ線を把持している箇所の上下位置を微調整する必要が生じる。
上記従来のアーム支持装置は、アーム7の支持位置を上下に調整できる構造になっていない。アーム7の支持位置を上下に調整するには、上下2つの取付バンドBの位置を変更するしかない。しかし、上下2つの取付バンドBの位置を微調整することは実質的に不可能である。
したがって、この出願に係る発明は、曲線引装置用のアームの上下位置を微調整可能に支持するアーム支持装置と、アームの上下位置に合わせて吊架線の上下位置を微調整可能に支持するために、アーム支持装置と組み合わせて使用される吊架線支持装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するため、この出願に係る発明においては、振止パイプに固定される支持装置本体と、この支持装置本体に上下位置調整自在に取り付けられるブラケット組立体とを具備させてアーム支持装置を構成する。支持装置本体は、上端側において振止パイプに固定される取付部と、この取付部から振止パイプの下方を左右に斜め下方へ延びる腕部と、この腕部の下端から屈曲して鉛直方向へ延びブラケット組立体を支持するブラケット接続部とを具備する。ブラケット組立体は、上下位置調整手段を介してブラケット接続部に上下位置調整自在に接続される。
上記ブラケット組立体は、アームの基端側を軸支するブラケット本体と、このブラケット本体をブラケット接続部に上下方向に相対移動自在に支持するブラケット支持部材と、ブラケット接続部とブラケット本体の両者間に係合してブラケット接続部に対してブラケット本体の上下位置を調整する位置調整部材とを具備するものとすることができる。
また、上記ブラケット本体は、ブラケット接続部の前後の側面に沿う平行一対の軸受板部と、これら軸受板部の基端側を接続する接続板部とを具備するものとし、ブラケット接続部には、左右方向に貫通する上下方向の長孔と、左右方向に突出するボルト受け座とを設けて構成できる。また、ブラケット組立体のブラケット支持部材には、当接部と支持ボルトとを具備させ、当接部は、接続板部と対向しこの接続板部との間でブラケット接続部を左右方向に挟んで当該ブラケット接続部に当接させ、支持ボルトは、当接部から突出してブラケット接続部の長孔を貫通し、ブラケット本体の接続板部を締め付けるように構成できる。接続板部には、ブラケット接続部の長孔に対応するボルト孔と、ボルト受け座に上下方向に対向する対応ボルト受け座を設け、ブラケット接続部のボルト受け座とブラケット本体のボルト受け座との間に渡される調整ボルトとナットとにより、ブラケット接続部に対するブラケット組立体の上下位置を整するように構成できる。
この出願に係る発明は、さらに、上記アーム支持装置と組み合わせて使用される吊架線支持装置を提供する。吊架線支持装置は、本体と吊架線保持部材とを具備する。本体は、可動ブラケットの水平主パイプに固定されるベース部材と、このベース部材から鉛直方向に立ち上がる左右一対の起立ボルトとを具備する。吊架線保持部材は、起立ボルトを挿通させる一対のボルト孔を左右両側に有し、起立ボルトに螺合されるナットにより起立ボルト上の上下位置を定められる。吊架線支持装置は、アーム支持装置のブラケット組立体に同調させて吊架線保持部材の上下位置を調整できる。
【発明の効果】
【0005】
この出願に係る発明のアーム支持装置によれば、支持装置本体の鉛直方向に垂下するブラケット接続部に対して、ブラケット組立体が、上下位置調整手段を介して上下位置調整自在に接続されているから、電柱に支持されている可動ブラケット自体の取付位置を移動させることなく、トロリ線の支持位置を簡易にしかも精密に微調整することができる。
また、この出願に係る発明のアーム支持装置と吊架線支持装置との組み合わせによれば、アーム支持装置によるトロリ線支持位置の微調整に同調させて、吊架線の支持位置を上下方向に微調整することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
図面を参照してこの発明の実施の形態を説明する。図1はアーム支持装置と吊架線支持装置の設置状態の正面図、図2はアーム支持装置の正面図、図3はアーム支持装置の側面図、図4はアーム支持装置の斜視図、図5は吊架線支持装置の正面図、図6は吊架線支持装置の側面図、図7は吊架線支持装置の一部の斜視図である。
【0007】
図において、アーム支持装置1を支持する可動ブラケット2の構成は、図5に示す従来のものと同等であるから、同一構成部に同一の符号を付して説明を省略する。
【0008】
図1,2において、曲線引装置6は、アーム7とイヤ8とを具備する。イヤ8はアーム7の先端部に設けられ、トロリ線Tを把持する。アーム7は、トロリ線Tの延線方向である前後方向に対して直交する左右方向に延び、基端側においてアーム支持装置1に支持される。アーム支持装置1は、可動ブラケット2の左右方向水平に延びる振止パイプ5に支持される。
【0009】
アーム支持装置1は、振止パイプ5に固定される支持装置本体10と、この支持装置本体10に上下位置調整自在に取り付けられるブラケット組立体11とを具備する。
【0010】
支持装置本体10は、上端側において振止パイプ5に固定される取付部12と、この取付部12から振止パイプ5の下方を左右に斜め下方へ延びる腕部13と、この腕部13の下端から屈曲して鉛直方向へ延びるブラケット接続部14とを具備する。取付部12は、振止パイプ5上の左右方向の位置を選択して固定され、それによって、アーム7に牽引されるトロリ線Tの左右方向の位置が定められる。ブラケット接続部14は、上下位置調整手段を介してブラケット組立体11を上下位置調整自在に支持する。ブラケット組立体11の上下位置調整よって、アーム7に牽引されるトロリ線Tの高さ位置が調整される。
【0011】
ブラケット組立体11は、ブラケット本体15と、ブラケット支持部材16と、位置調整部材17とを具備する。ブラケット本体15は、アーム7の基端側を軸支する。ブラケット支持部材16は、ブラケット本体15をブラケット接続部14に上下方向に相対移動自在に支持する。位置調整部材17は、ブラケット接続部14とブラケット本体15の両者間に係合して、ブラケット接続部14に対してブラケット本体15の上下位置を調整することができる。
【0012】
支持装置本体10のブラケット接続部14は、前後方向に相対向する平行一対の側板14aと、それの左右方向一方の縁部(図において右縁部)を直角に接続する背板14bとを有する溝型部材で構成される。背板14bには、左右方向に貫通する上下方向の長孔14cが形成され、また背板14bの右側外側面には、ボルト受け座14dが突設される。
【0013】
図において、ブラケット本体15は、ブラケット接続部14の前後の側板14aの外側面に沿う平行一対の軸受板部18と、これら軸受板部18の基端側(図において右縁部)を直角に接続する接続板部19とを具備する。接続板部19は、ブラケット接続部14の長孔14cに対応するボルト孔19aと、ボルト受け座14dを貫通させる開口19bと、ボルト受け座14dに上下方向に対向する対応ボルト受け座19cを有する。アーム7の基端部は、一対の軸受板部18の間に受け入れられ、軸受孔18a,18bに挿通されるボルト20,21で支持される。
【0014】
ブラケット支持部材16は、当接板部22と支持ボルト23とを具備する。当接板部22は、ブラケット本体15の接続板部19と対向し、それとの間でブラケット接続部14の背板14bを左右方向に挟んで背板14bの左内側面に当接する。支持ボルト23は、この当接板部22の側面から突出して、ブラケット接続部14の長孔14cとブラケット本体15のボルト孔19aを貫通し、ナット24と協働して接続板部19を締め付ける。
【0015】
位置調整部材17は、ボルト25とナット26で構成される。ボルト25は、ボルト受け座14d,19c間に挿通され、ナット26と協働して、ブラケット接続部14に対するブラケット組立体11の上下位置を調整する。
【0016】
吊架線支持装置9は、可動ブラケット2の水平主パイプ3上に固定される本体27と、この本体27上に、吊架線Mを把持しつつ、上下位置を調整自在に支持される吊架線保持材28とを具備する。水平主パイプ3上における本体27の固定位置は、トロリ線Tの真上になるように設定される。
【0017】
図5ないし図7に示すように、本体27は、水平主パイプ3を把持するベース部材29と、このベース部材29から鉛直方向に立ち上がる左右一対の起立ボルト30とを具備する。吊架線保持部材28は、受板31、樋状金具32、当て板33、U字ボルト34、ナット35を具備する。
【0018】
受板31は、本体の起立ボルト30を挿通させる一対のボルト孔31aを左右両側に有し、調整ナット36により起立ボルト30上の上下位置を調整可能に構成される。樋状金具32は、それの溝部に吊架線Mを挿通させるように、受板31の中央上部に溶着される。受板31は、樋状金具32の両側部に、U字ボルト34を通すための挿通孔31bを有する。当て板33は、左右両側にU字ボルト34の挿通孔33aを有し、吊架線Mを挟んで樋状金具32の上方に対向し、ナット35の締め付けにより吊架線Mを把持する。
【0019】
アーム支持装置1における取付部12の左右位置調整により、アーム7の左右位置、即ちこれに把持されるトロリ線Tの左右位置が調整され、またブラケット組立体11の上下位置調整により、トロリ線Tの上下に支持位置が調整される。この位置調整の際に、トロリ線Tの左右位置、高さ位置に同調させて、吊架線Mの支持位置を吊架線支持装置9により上下左右方向に微調整する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係るアーム支持装置の設置状態の正面図である。
【図2】本発明に係るアーム支持装置の正面図である。
【図3】本発明に係るアーム支持装置の側面図である。
【図4】アーム支持装置の斜視図である。
【図5】吊架線支持装置の正面図である。
【図6】吊架線支持装置の側面図である。
【図7】吊架線支持装置の一部の斜視図である。
【図8】従来のアーム支持装置の正面図である。
【符号の説明】
【0021】
1 アーム支持装置
2 可動ブラケット
3 水平主パイプ
4 傾斜主パイプ
5 振止パイプ
6 曲線引装置
7 アーム
8 イヤ
9 吊架線支持装置
10 支持装置本体
11 ブラケット組立体
12 取付部
13 腕部
14 ブラケット接続部
15a 側板
15b 背板
15c 長孔
15d ボルト受け座
15 ブラケット本体
16 ブラケット支持部材
17 位置調整部材
18 軸受板部
18a 軸受孔
18b 軸受孔
19 接続板部
19a ボルト孔
19c ボルト受け座
20 ボルト
21 ボルト
22 当接板部
23 支持ボルト
24 ナット
25 ボルト
26 ナット
27 吊架線支持装置の本体
28 吊架線保持材
29 ベース部材
30 起立ボルト
31 受板
31a ボルト孔
32 樋状金具
33 当て板
33a ボルト挿通孔
34 U字ボルト
35 ナット
36 調整ナット
B 取付バンド
M 吊架線
P 電柱
T トロリ線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端側においてトロリ線を把持し、トロリ線の延線方向である前後方向に対して直交する左右方向に延びる、曲線引装置のアームの基端側を、支持構造物に支持された可動ブラケットの左右方向水平に延びる振止パイプに支持するためのアーム支持装置であって;前記振止パイプに固定される支持装置本体と;この支持装置本体に上下位置調整自在に取り付けられるブラケット組立体とを具備し;前記支持装置本体は、上端側において前記振止パイプに固定される取付部と、この取付部から前記振止パイプの下方を左右に斜め下方へ延びる腕部と、この腕部の下端から屈曲して鉛直方向へ延び前記ブラケット組立体を支持するブラケット接続部とを具備し;前記ブラケット組立体は、上下位置調整手段を介して前記ブラケット接続部に上下位置調整自在に接続されることを特徴とするトロリ線の曲線引装置用アーム支持装置。
【請求項2】
前記ブラケット組立体は、前記アームの基端側を軸支するブラケット本体と;このブラケット本体を前記ブラケット接続部に上下方向に相対移動自在に支持するブラケット支持部材と;前記ブラケット接続部とブラケット本体の両者間に係合してブラケット接続部に対してブラケット本体の上下位置を調整する位置調整部材とを具備することを特徴とする請求項1に記載のトロリ線の曲線引装置用アーム支持装置。
【請求項3】
前記ブラケット本体は、前記ブラケット接続部の前後の側面に沿う平行一対の軸受板部と、これら軸受板部の基端側を接続する接続板部とを具備し;前記ブラケット接続部は、左右方向に貫通する上下方向の長孔と、左右方向に突出するボルト受け座とを有し;前記ブラケット本体の接続板部は、前記ブラケット接続部の長孔に対応するボルト孔と、前記ボルト受け座に上下方向に対向する対応ボルト受け座を有し;前記ブラケット組立体のブラケット支持部材は、前記接続板部と対向し当該接続板部との間で前記ブラケット接続部を左右方向に挟んで当該ブラケット接続部に当接する当接部と、この当接部から突出して前記ブラケット接続部の長孔と前記ブラケット本体のボルト孔を貫通し、前記ブラケット本体の接続板部を締め付ける支持ボルトとを具備し;前記ブラケット接続部のボルト受け座と前記ブラケット本体のボルト受け座との間に渡される調整ボルトとナットとにより、ブラケット接続部に対する前記ブラケット組立体の上下位置が調整されることを特徴とする請求項1に記載のトロリ線の曲線引装置用アーム支持装置。
【請求項4】
請求項1に記載のアーム支持装置と、前記トロリ線の上方に並行して架設される吊架線を前記可動ブラケットの振止パイプの上方に左右方向水平に延びる水平主パイプに支持するための吊架線支持装置との組み合わせであって;前記吊架線支持装置は、前記水平主パイプに固定される本体と;この本体上に上下位置を調整自在に支持される吊架線保持材とを具備し;前記本体は、水平主パイプを把持するベース部材と、このベース部材から鉛直方向に立ち上がる左右一対の起立ボルトとを具備し;前記吊架線保持部材は、前記本体の起立ボルトを挿通させる一対のボルト孔を左右両側に有し、吊架線を把持して、調整ナットにより前記起立ボルト上の上下位置を調整可能に構成され;前記アーム支持装置のブラケット組立体と前記吊架線保持部材とを同調させて上下位置を調整可能とされることを特徴とするトロリ線の曲線引装置用アーム支持装置と吊架線支持装置との組み合わせ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−247232(P2008−247232A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−91672(P2007−91672)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(000001890)三和テッキ株式会社 (134)