説明

トロリ線の曲線引装置

【課題】 従来と同等の強度を有しながら、慣性質量を大幅に低減できるトロリ線の曲線引装置を提供する。
【解決手段】トロリ線の曲線引装置1は、アルミ又はアルミ合金で一体に成形されたアーム2有し、このアーム2が、従来の引手金具とイヤ取り付け金具とを含む構造である。アーム2は、支持構造物へ接続される基端側の接続部4と、イヤ3を保持する先端側のイヤ保持部5と、両者間を湾曲して延びるアーム主体部6とを具備する。アーム主体部6は、上下一対のフランジ7と、フランジ部間を接続するウェブ8とを具備する。フランジ7の幅寸法とウェブ8の高さ寸法は、アーム主体部6において最大応力を受ける長さ方向中間部付近の所定範囲の部位Pから先端側へ向かうにしたがって徐々に縮小している。当該幅寸法と高さ寸法は、部位Pから基端側へ向かっても徐々に縮小させ、あるいは基端までは一定とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電車線路の曲線区間等において、トロリ線をその延線方向に直交する水平方向の所定位置に定位させるために、支持構造物に対してトロリ線を引き留める曲線引装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の曲線引装置として、例えば特許文献1に記載されたものが知られている。この曲線引装置を図4に示す。曲線引装置31は、アルミ管を湾曲させてなるアームパイプ32と、アームパイプ32の基端側に接続された引手金具33と、アームパイプ32の先端側に接続されたイヤ取り付け金具34と、イヤ取り付け金具34に設けられたイヤ片35とを具備する。引手金具33とイヤ取り付け金具34は、、アルミ合金鋳物で構成され、いずれもアームパイプ32に圧縮接続される。引手金具33は支持構造物に支持された支持パイプFに支持金具Sを介して接続される。イヤ片35は、トロリ線Tを把持する。
曲線引装置の引張り加重による曲げモーメント線図は、図4にMで示すとおりであり、アームパイプ32の中間部で最大、両端部で最小となる。
【特許文献1】実開平6−003727号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来の曲線引装置におけるアームパイプ32の断面形状は、全長にわたって同一であり、曲げモーメントが最大となる中間部付近における応力により決定されるため、両端部付近では過剰な強度を有し非効率的形状となる。イヤ取り付け金具34は、異種金属間に生じる電蝕を防止するために、アルミ青銅の鋳物で作られ、またアームパイプ32との接続箇所が存在するために比較的大重量となる。トロリ線Tの把持部が、大きな慣性質量を持つと、そこが硬点となり、パンタグラフの高速走行に不具合を生じる。この曲線引装置においては、過剰に大型のアームパイプ32とアルミ青銅鋳物のイヤ取り付け金具34が、慣性質量低減の妨げとなっている。
したがって、この出願に係る発明は、従来と同等の強度を有しながら、慣性質量を大幅に低減することができるトロリ線の曲線引装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するため、この出願に係る発明においては、従来の引手金具とイヤ取り付け金具とを含むアームが、アルミ又はアルミ合金で一体に成形されるトロリ線の曲線引装置を提供する。アームは、支持構造物へ接続される基端側の接続部と、イヤを保持する先端側のイヤ保持部と、接続部とイヤ保持部との間に、上方に湾曲しつつ延びるアーム主体部とを具備する。アーム主体部は、上下一対のフランジと、これらフランジ部間を接続するウェブとを具備する。フランジの幅寸法とウェブ高さ寸法は、アーム主体部において最大応力を受ける長さ方向中間部付近の所定範囲の部位から先端側へ向かうにしたがって徐々に縮小している。フランジの幅寸法とウェブの高さ寸法は、アーム主体部における前記所定範囲の部位から基端側へ向かっても徐々に縮小させ、あるいは基端までは一定とすることができる。
また、この出願に係る発明においては、上記アームのイヤ保持部に、イヤを保持するための上下方向の貫通孔が形成され、この貫通孔には、鍔付きカラーを介してイヤ片が挿入され、鍔付きカラーとイヤ保持部との間には、電蝕防止のための電気絶縁部材が介設されるトロリ線の曲線引装置を提供する。
【発明の効果】
【0005】
この出願に係る発明の装置によれば、アームの断面形状を、質量に対する強度効率の高いものとし、またイヤ保持部をアーム主体部と一体化して接続部材を排除することにより、慣性質量の低減を図り、パンタグラフ通過時のトロリ線応力を低減することができる。また、鍔付きカラーとアームのイヤ保持部との間の異種金属腐食を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
図面を参照してこの発明の実施の形態を説明する。図1は曲線引装置の正面図、図2はアームの断面図、図3はアームのイヤ保持部の断面図である。
【0007】
図1において、曲線引装置1は、基端側において支持構造物に支持されるアーム2と、このアーム2の先端側に取り付けられ、トロリ線を把持するイヤ片3とを具備する。
【0008】
アーム2は、アルミ又はアルミ合金鋳物で一体に成形され、基端側の接続部4と、先端側のイヤ保持部5と、両者間に延びるアーム主体部6とを具備する。基端側の接続部4は、電車線柱のような支持構造物に支持された支持パイプFに支持金具Sを介して接続される。アーム主体部6は、中間部が上方に湾曲している。図2に示すように、アーム主体部6は、断面ほぼH型で、上下一対のフランジ7と、これらフランジ部7間を接続するウェブ8とを具備する。図2(A),(B),(C)は、それぞれ図1のA部、B部、C部の断面を示す。ウェブ8の高さ寸法とフランジ7の幅寸法は、アーム主体部6において最大の応力を受ける部位、すなわち長さ方向中間部付近の位置P1−P2間の部位Pから先端側へ向かうにしたがって徐々に縮小している。図示の実施形態において、ウェブ8の高さ寸法とフランジ7の幅寸法は、部位Pより基端側においては同一に設定されているが、これをモーメント線図Mに対応させて、基端側へ向かうにしたがって徐々に縮小させてもよい。
アーム主体部6の断面積が先端側において縮小しており、かつアーム主体部6とイヤ保持部5とが一体に構成され、接続部材が省略されているので、トロリ線Tにかかる慣性質量が相対的に低減される。
【0009】
アーム2のイヤ保持部5には、イヤ3を保持するための上下方向の貫通孔9が形成される。イヤ3は、一対のイヤ片を上部でヒンジ結合してなり、両イヤ片間でトロリ線Tを挟持する。貫通孔9には、鍔付きカラー10を介してイヤ片3が挿入される。カラー10は、アルミ青銅製のイヤ3に電位が近く、電蝕が生じにくい金属、例えばステンレス鋼で構成される。イヤ3は、トロリ線Tの温度変化に伴う変位に追従できるように、鍔付きカラー10に対して鉛直方向の軸周りに回転自在に組み込まれる。鍔付きカラー10とイヤ保持部5との間には、電蝕防止のための電気絶縁部材11がコーティング等の手段で介設される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る曲線引装置の正面図である。
【図2】図1におけるA部、B部、C部の断面図である。
【図3】本発明に係る曲線引装置のイヤ保持部の断面図である。
【図4】従来の曲線引装置の正面図である。
【符号の説明】
【0011】
1 曲線引装置
2 アーム
3 イヤ
4 接続部
5 イヤ保持部
6 アーム主体部
7 フランジ
8 ウェブ
9 貫通孔
10 鍔付きカラー
11 電気絶縁部材
T トロリ線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基端側において支持構造物に支持されるアームと;このアームの先端側に取り付けられ、トロリ線を把持するイヤ片とを具備し;前記アームは、アルミ又はアルミ合金で一体に成形され;前記支持構造物へ接続される基端側の接続部と;前記イヤを保持する先端側のイヤ保持部と;前記接続部とイヤ保持部との間に、上方に湾曲しつつ延びるアーム主体部とを具備し;当該アーム主体部は、上下一対のフランジと;これらフランジ部間を接続するウェブとを具備し;前記フランジの幅寸法とウェブの高さ寸法が、当該アーム主体部における最大応力を受ける長さ方向中間部付近の所定範囲の部位から先端側へ向かうにしたがって徐々に縮小していることを特徴とするトロリ線の曲線引装置。
【請求項2】
前記アーム主体部におけるフランジの幅寸法とウェブの高さ寸法が、基端側から当該アーム主体部における最大応力を受ける長さ方向中間部付近の所定範囲の部位まで一定で、当該所定範囲の部位から先端側へ向かうにしたがって徐々に縮小していることを特徴とする請求項1に記載のトロリ線の曲線引装置。
【請求項3】
前記アーム主体部におけるフランジの幅寸法とウェブの高さ寸法が、当該アーム主体部における最大応力を受ける長さ方向中間部付近の所定範囲の部位を境に、先端側および基端側へ向かうにしたがって徐々に縮小していることを特徴とする請求項1に記載のトロリ線の曲線引装置。
【請求項4】
前記アームのイヤ保持部には、前記イヤ片を保持するための上下方向の貫通孔が形成され;この貫通孔には、鍔付きカラーを介して前記イヤ片が挿入され;当該鍔付きカラーと前記イヤ保持部との間には、電蝕防止のための電気絶縁部材が介設されることを特徴とする請求項1に記載のトロリ線の曲線引装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−247231(P2008−247231A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−91671(P2007−91671)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(000001890)三和テッキ株式会社 (134)