説明

トンネル換気方法及びトンネル換気装置

【課題】 掘削工事中のトンネルの換気について、動力コストを最小限に抑えながらトンネル中間部分も含み効率的な換気を行えるようにする。
【解決手段】 制御装置15Aにより駆動制御される送風機11で切羽2a付近まで延設された風管12を介して掘削工事中のトンネル2内に外部の空気を送ることにより換気を行うトンネル換気方法において、制御装置15Aがトンネル2内の所定位置に複数配置された空気の汚染状況を検出するセンサ15a,15b,15cからの出力信号を基に汚染空気の位置を検知し、汚染空気の位置に応じて風管12の途中の少なくとも1カ所以上に配置した放風弁14a,14b,14cのうち汚染空気の希釈・排出に適した放風弁14a,14b,14cを選択して開弁操作することにより、風管12の中を流れる空気の一部を途中で放出させて汚染空気の希釈及び排出を促進する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル換気方法及びトンネル換気装置に関し、殊に、掘削工事中のトンネルにおいて、作業により生じた汚染空気を排出してトンネル内の空気を清浄な状態に保つために用いられるトンネル換気方法及びトンネル換気装置に関する。
【背景技術】
【0002】
掘削工事中のトンネルでは、その切羽面においてダイナマイトによる爆破や掘削機による掘削作業に伴い、多量の粉塵や燃焼ガスが連続的に発生するためにトンネル内空気の汚染が顕著である。また、トンネル内を走行する車両からの燃焼ガスや吹き付け工事等に伴う粉塵もこれに加わることになる。そして、この汚染空気がトンネル内に停滞することにより、工事自体に支障を来したり工事作業員の健康を害したりすることが問題となる。
【0003】
この問題に対し、例えば特開平9−28000号公報に記載され、図5に示すようなトンネル換気装置1Cが知られている。このトンネル換気装置1Cは、トンネル2入口側に配置した送風機11から延設された送風用の風管12を、掘削作業中の切羽2a付近でその先端を開口させ、送風機11を駆動させて新鮮な外部空気を送り込むことにより、トンネル2内に生じた汚染空気を外部まで押し出す機能を発揮するものである。
【0004】
また、このトンネル換気装置1Cは、送風機11が制御装置15Cにより駆動制御されるようになっており、制御装置15Cがセンサ15aによる信号で粉塵や有害ガスの発生を検知することにより送風機11を駆動するものであり、汚染空気の発生時に必要とされる送風機11の出力でトンネル2内の空気を換気するようになっている。
【0005】
ところが、このようなトンネル換気装置1Cにおいては、トンネル2内の目的箇所まで新鮮な外部空気を無駄なく送るために、風管12の途中における空気の漏れを最小限に抑えているのが通常であるところ、トンネル2の途中で生じた汚染空気を排出する場合であっても、必要な空気は総て切羽2a付近の先端まで送る必要があることから、換気に要する動力費用が嵩みやすいという問題がある。
【0006】
また、規模が大きくて長いトンネルでは、トンネル中間部分の汚染空気を排出するのに時間を要して汚染空気の滞留時間が長くなりやすいため、種々の弊害が発生しやすい。さらに、トンネル掘削の進行に伴い風管を延伸させる場合には、風管の先端からのみ外部空気を放出する関係で送風を停止する必要が生じるために、例えば可燃性ガスが存在する場合など送風継続の観点からも問題となりやすい。
【0007】
これに対し、特開平5−149100号公報には、第1の送風機から切羽付近まで延設した送風用の風管に並列して、切羽付近からトンネル開口部の第2の送風機まで延設した排気用の風管を配設し、その排気用の風管の途中に開閉操作可能な排気導入用の弁を設けて、トンネル途中の汚染空気を直接排出可能としたトンネル換気装置が提案されている。
【0008】
しかしながら、この装置は切羽付近まで総ての空気を送るための動力を要することに加え、排気用の送風機の動力も要して動力コストが嵩みやすく、且つ、掘削作業の進行に追従するために、送・排気用2系統の風管の延伸作業が必要となるため、工事の効率性の観点からも実際には採用しにくいものである。
【特許文献1】特開平9−28000号公報
【特許文献2】特開平5−149100号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記のような問題点を解決しようとするものであり、掘削工事中のトンネルの換気について、動力コストを最小限に抑えながらトンネル中間部分も含み効率的な換気を行えるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明は、制御装置により駆動制御される送風機で切羽付近まで延設された風管を介して掘削工事中のトンネル内に外部の空気を送ることにより換気を行うトンネル換気方法において、前記制御装置が、トンネル内の所定位置に複数配置された空気の汚染状況を検出するセンサからの出力信号を基に汚染空気の位置を検知し、該汚染空気の位置に応じて前記風管途中の少なくとも1カ所以上に配置した放風弁のうち前記汚染空気の希釈・排出に適した前記放風弁を選択して開弁操作することにより、前記風管中を流れる空気の一部を途中で放出させて前記汚染空気の希釈及び排出を促進させることにした。
【0011】
このように、トンネル中間位置にある汚染空気を希釈・排出させるのに適した放風弁を開弁操作して空気を放出させるようにしたことで、汚染空気を効率的に希釈・排出できるとともに、風管先端まで総ての空気を送出する従来例と比べて換気に伴う動力コストを最小限に抑えることができ、且つ、送風を停止することなく風管を延伸できるようになる。
【0012】
また、この場合に、開弁させる放風弁の選択は、汚染空気が所定の放風弁の前を通過するのを制御装置が検知することにより、その通過された放風弁を選択することによりトンネル入口に向かって後から押し出すようにして汚染空気を効率的に排出することができる。
【0013】
さらに、上述したトンネル換気方法において、その放風弁は集塵機による集塵作業を補助するためのエアカーテンの噴射手段を兼ね、制御装置が汚染空気の位置と集塵機の位置に応じて集塵効率を高めるのに適した放風弁を開弁操作するものとすれば、効率的な集塵を補助しながら良好な換気状態を実現しやすいものとなる。
【0014】
さらにまた、上述したトンネル換気方法において、そのセンサとしてダストセンサまたはメタンガスセンサの少なくとも一方を用いることにすれば、掘削に伴う粉塵または爆発事故の原因となりうるメタンガスなどの位置を検知して、その汚染空気を効率的に希釈・排出することができる。
【0015】
加えて、トンネル入口側に配置される送風機と、この送風機から延設されトンネルの切羽付近まで配置される風管と、この風管の途中で少なくとも1カ所以上に配置され風管内の空気を途中で放出させるための放風弁と、トンネル内に複数配置された空気の汚染状況を検出するセンサと、このセンサによる出力信号を検知するとともに送風機及び放風弁を駆動操作する制御装置とを備えており、上述したトンネル換気方法を実施することを特徴とするトンネル換気装置とすれば、これを掘削工事中のトンネルに配置するだけで上述した本発明の作用・効果を実現できるものとなる。
【発明の効果】
【0016】
トンネル中間位置に存在する汚染空気に対し風管途中の放風弁を開弁させて空気を送出することで、これを希釈・排出させるようした本発明によると、動力コストを最小限に抑えながら、トンネル中間部分も含み効率的な換気を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0018】
図1は、本実施の形態のトンネル換気方法を自動的に実施するトンネル換気装置10Aをトンネル2に配置した状態の縦断面図を示している。以下の説明に用いる図面では、図示の都合上からトンネルの左右(全長方向)を短縮して表現しており、このトンネル2は、例えば400m以上あるような長大なものを想定している。
【0019】
トンネル換気装置10Aは、トンネル2入口側に配置した送風機11と、この送風機11から延設されトンネル2の切羽2a付近まで配置された風管12と、この風管12の途中に所定間隔で配置され内部を流れる空気をトンネル2の途中位置で排出させるための放風弁を備えた放風部14a,14b,14cと、トンネル2内の所定位置に配置され空気の汚染状況を検出するためのセンサ15a,15b,15cと、これらセンサ15a,15b、5cによる出力信号を検知するとともに送風機11及び放風部14a,14b,14cの放風弁を駆動操作する制御装置15Aとを備えてなるものである。
【0020】
放風部14aの拡大部分図を示す図2を参照して、放風部14aは風管12に接続した筒状部材の側面に、電動式の開閉弁である放風弁140を備えており、制御装置15Aによる駆動信号でその開閉及び開度が操作され、その開弁時に、送風機11で送られた外部から導入した新鮮な空気の一部を、トンネル2途中の中間部分で放出するようになっている。尚、現場における柔軟な対応性確保の観点から、この放風弁140は手動でも開閉可能なものとしてもよい。
【0021】
一方、制御装置15Aは、通常は送風機11の駆動制御を行うものであるが、トンネル2内に配置したセンサ15a,15b,15cからの検出信号を連続的に検知しながらトンネル2内における空気の汚染状況、及び汚染空気のトンネル2内における位置を認識するようになっている。尚、これらのセンサ15a,15b,15cとしては、一般的には切削による粉塵を検出するダストセンサが想定されるが、メタン等の燃焼性ガスの充満が危惧される場合にはメタンガスセンサ、或いは一酸化炭素センサでもよく、さらにこれらの機能を併存して備えたものであればより好ましい。
【0022】
そして、制御装置15Aは、検知した汚染空気の位置に応じて風管12途中に配した放風弁14a,14b,14cのうち、汚染空気を希釈・排出させるのに適した位置にあるものを選択しこれを開弁操作して、トンネル2の中間位置における汚染空気の希釈及び排出を促進させるように制御を行う。
【0023】
即ち、風管12先端から放出された空気に押されることにより、トンネル2内部で発生した汚染空気がトンネル2の入口に向かって移動するが、制御装置15Aは、放風部14aのすぐ上流側に配置したセンサ15aにより、汚染空気が放風弁部14aに備えた放風弁140の前方を通過したことを検知する。これにより、制御装置15Aはその通過された放風弁140を開弁操作して、その位置で風管12内を通過する空気の一部をトンネル2内に放出させ、以後、同様に放風部14b,14cにおいても同様の操作を繰り返す。
【0024】
このような制御を制御装置15Aが実行することにより、汚染空気のすぐ上流側で新鮮な空気が放出され、タイムラグを最小限としながら汚染空気を希釈し、トンネル2の出口に向かってこれを押し出して効率的に排気するものである。そして、このように風管12の先端から総ての空気を放出しない構成としたことにより、送風機11の負担が軽減されるために換気に要する動力コストを大きく軽減することができる。
【0025】
また、本実施の形態のトンネル換気方法によると、風管12先端からの放出空気のみで換気する従来例と比べて、トンネル2途中における汚染空気の滞留時間を大きく短縮することができ、且つ、トンネル2の先端部分以外の中間位置で発生した汚染空気に対しても機動的に対応できるようになる。さらに、トンネル掘削作業が進行するに従って風管12の先端を追従して延伸させる場合であっても、総て風管12先端から空気を放出する従来例では送風機11の停止を要していたのに対し、本実施の形態では送風を途中で分岐させることにより送風を継続できる利点もある。
【0026】
次に、本実施の形態のトンネル換気方法を実施する制御装置15Aの動作について、図3のフローチャートを参照して更に詳細に説明する。
【0027】
制御が開始されると、先ず、制御装置15Aは各センサ15a,15b,15cの検出信号から、汚染空気の有無及び位置を測定する(A1)。そして、汚染空気が第1の放風弁14aを通過したか否かを判定し(A2)、通過していれば第1の放風弁14aを開弁させる(A3)。次に、上記同様に汚染空気が第2の放風弁14bを通過したか否かを判定し(A4)、通過していれば第2の放風弁14bを開弁させ、以後、第3の放風弁14cについても同様に行う。
【0028】
このようにして、制御装置15Aはトンネル2内の汚染空気の位置を連続的に認識しながら、そのすぐ上流側の放風弁で外部から導入した空気を放出させることができる。これにより、切羽2aで生じた粉塵は効率的にトンネル2外へ効率的に排出され、またトンネル2途中で生じた汚染空気も最小限の動力で短時間のうちに排出されることになる。
【0029】
図2は、本実施の形態の応用例を示すものである。トンネル掘削においては切羽2aの近傍に集塵機16を配置して作業に伴って生じた粉塵を短時間で捕捉させるのが通常であるが、その集塵効率を上げるために、空気流によるエアカーテンを発生させて粉塵を所定範囲に留める技術が周知となっている。しかし、斯かる技術の場合、トンネル2内を走行する車両により集塵機16のエアカーテンが部分的に破壊され、粉塵の漏洩が生じることがある。
【0030】
そこで、図のように集塵機16よりもトンネル2の入口側に配置した放風部14aから、所定量の空気を放射状に放出させることにより、風管12由来のエアカーテンを粉塵の進行方向を遮るように形成させ、粉塵の拡散をさらに阻止させながら集塵効率をより高めることが可能となる。
【0031】
この場合、送気量Q4及び集塵気6の処理風量Q3は、センサ信号に応じて予め定められた運転に制御するともに、放風部14aにおける放風弁140の開度操作と送風機11の駆動操作によって放風風量Q2と切羽放風量Q1とを制御するものとして、適切なタイミングで風管12由来のエアカーテン効果を発揮させることにより、良好なトンネル換気を実現することが可能となる。尚、各運転風量の設定や各放風弁の開度調整、制御信号の取り込みは、現場の状況に合わせて任意に設定又は調整できるようにすればよい。
【0032】
以上、述べたように、本発明により、掘削工事中のトンネルの換気について、動力コストを最小限に抑えながらトンネル中間部分も含み効率的な換気が行えるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施の形態を示す縦断面図。
【図2】図1の放風部の拡大部分図。
【図3】図1の制御装置の動作を説明するためのフローチャート。
【図4】図1の実施の形態の応用例を示す縦断面図。
【図5】従来例を示す縦断面図。
【符号の説明】
【0034】
2 トンネル、2a 切羽、10A,10B トンネル換気装置、11 送風機、12 風管、14a,14b,14c 放風部、15A,15B 制御装置、15a,15b,15c センサ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御装置により駆動制御される送風機で切羽付近まで延設された風管を介して掘削工事中のトンネル内に外部の空気を送ることにより換気を行うトンネル換気方法において、前記制御装置が、トンネル内の所定位置に複数配置された空気の汚染状況を検出するセンサからの出力信号を基に汚染空気の位置を検知し、該汚染空気の位置に応じて前記風管途中の少なくとも1カ所以上に配置した放風弁のうち前記汚染空気の希釈・排出に適した前記放風弁を選択して開弁操作することにより、前記風管中を流れる空気の一部を途中で放出させて前記汚染空気の希釈及び排出を促進させることを特徴とするトンネル換気方法。
【請求項2】
前記開弁させる放風弁の選択を、前記汚染空気が所定の前記放風弁の前を通過を前記制御装置が検知することにより行うことを特徴とする請求項1に記載したトンネル換気方法。
【請求項3】
前記放風弁が集塵機による集塵作業を補助するためのエアカーテンの噴射手段を兼ねるとともに、前記制御装置が前記汚染空気の位置と前記集塵機の位置に応じて集塵効率を高めるのに適した前記放風弁を開弁操作することを特徴とする請求項1または2に記載したトンネル換気方法。
【請求項4】
前記センサがダストセンサまたはメタンガスセンサの少なくとも一方であることを特徴とする請求項1,2または3に記載したトンネル換気方法。
【請求項5】
前記トンネルの入口側に配置される前記送風機と、該送風機から延設され前記トンネルの切羽付近まで配置される前記風管と、該風管の途中で少なくとも1カ所以上に配置され該風管内の空気を途中で放出させるための前記放風弁と、前記トンネル内に複数配置された空気の汚染状況を検出する前記センサと、該センサによる出力信号を検知するとともに前記送風機及び前記放風弁を駆動操作する前記制御装置とを備えており請求項1,2,3または4に記載したトンネル換気方法を実施することを特徴とするトンネル換気装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−270288(P2009−270288A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−120144(P2008−120144)
【出願日】平成20年5月2日(2008.5.2)
【出願人】(000005924)株式会社三井三池製作所 (43)