説明

トンネル施工法、内型枠、トンネル覆工体、及びトンネル構造

【課題】簡易な構成で、覆工体のコンクリートの打ち継ぎ目から生じる漏水を抑制させることが可能なトンネル施工法、その施工法に用いる内型枠、その施工により構築されるトンネル覆工体及びトンネル構造を提供する。
【解決手段】トンネル施工方法は、シールド掘削機の後部に設けられた内型枠28の背面に止水板45を保持させて、内型枠28を、内型枠28の背面と掘削孔の内周面46との間に隙間27ができるように設置する内型枠組立工程S40と、隙間27にコンクリート52を、そのコンクリート52の打ち継ぎ目が止水板45に覆われる位置となるように打設するコンクリート打設工程S50とを、内型枠28を掘進方向に連続して接続しながら交互に繰り返して行い、隙間27に打設されたコンクリート52を止水板45と一体化させて硬化させ、止水板45から内型枠28を離脱させることにより内型枠28を脱型する脱型工程S20と、からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド掘削機を使用して掘削した掘削孔の内周面に覆工体を構築するトンネル施工に係り、特に覆工体のコンクリートの打ち継ぎ目から漏水を抑制させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ECL(Extruded Concrete Lining)工法は、シールド掘削機を使用して掘削を行い、掘削機のテール部において、掘削孔の内周面と掘削機の後部に設けられた内型枠との間にコンクリートを打設して覆工体を構築する工法である。
【0003】
図11は、ECL工法による覆工体の構築工程を示す、掘削機のテール部の拡大断面図である。
図11に示すように、ECL工法では、掘削機が掘進した後にシールドジャッキ22を収縮させて内型枠28を設置するスペースを設ける工程S100と、そのスペースに内型枠28を掘削孔の内周面と隙間27を隔てて既設の内型枠28に掘進方向に連結させて設置する工程S200と、当該隙間27にコンクリート52を加圧打設する工程S300とを繰り返しながら、覆工体50を構築していく。
【0004】
しかしながら、上記のように構築される覆工体を構成するコンクリートは、内型枠28の設置するタイミングよって打設時期が異なることから、覆工体50に打ち継ぎ目54が生じてしまい、打ち継ぎ目54から漏水が発生することがあった。
【0005】
そこで、従来より、例えば、特許文献1、2に開示されるように、覆工体の打ち継ぎ目から生じる漏水を抑制させる技術が提案されている。
【0006】
特許文献1には、鉄筋が背面から突出するように埋設されたプレキャストコンクリート板を用意し、このプレキャストコンクリート板を掘削孔の内周面と隙間を隔てて設置し、その隙間にコンクリートを打設することにより、プレキャストコンクリート背面から突出する鉄筋を一次覆工体の鉄筋として埋設することで、一次覆工体とプレキャストコンクリート板とを一体化させる覆工体の施工方法が開示されおり、この覆工体の施工にあたり、プレキャストコンクリート板間のトンネル軸方向の接合部と、コンクリートの打ち継ぎ目とがずれるように施工することにより、プレキャストコンクリート板がコンクリートの打ち継ぎ目を内周から覆うような配置で設置されることから、防水効果が高められる旨が記載されている。
【0007】
また、特許文献2には、上記ECL工法により、覆工体を地山の安定を確認しながら構築していき、覆工体の内周にシートを設置してシートの内側に二次覆工コンクリートを構築するトンネル施工方法が開示されており、これにより地山から一次覆工体の打ち継ぎ目を通過した地下水をシートにより遮水し、排水溝へと集水させるトンネル覆工体を構築する旨が記載されている。
【特許文献1】特開平5―38117号公報
【特許文献2】特開2006―241800号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1、2に開示される覆工体の施工では、一次覆工体の内側に、プレキャストコンクリートや二次覆工コンクリートを設ける必要があるので、施工コストが嵩むとともに施工期間が長くなる。
【0009】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、シールド掘削機を使用して掘削した掘削孔の内周面にコンクリートを打設して覆工体を構築するにあたり、簡易な構成で、覆工体のコンクリートの打ち継ぎ目から生じる漏水を抑制させることが可能なトンネル施工法、その施工法に用いる内型枠、その施工により構築されるトンネル覆工体及びトンネル構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するため、本発明は、シールド掘削機を掘進させることにより、その掘削したトンネルの内周面に、場所打ちコンクリートによる覆工体を構築するトンネル施工方法であって、
前記シールド掘削機の後部において、背面に止水板を保持させた内型枠を、前記内型枠の背面と前記トンネルの内周面との間に隙間ができるように設置する工程と、前記隙間にコンクリートを、トンネル軸方向の打ち継ぎ目が前記止水板に覆われる位置となるように打設する工程とを、前記内型枠を前記シールド掘削機の掘進方向に連続して接続しながら交互に繰り返して行い、
前記隙間に打設されたコンクリートを前記止水板と一体化させて硬化させ、前記止水板から前記内型枠を離脱させることにより前記内型枠を脱型することを特徴とする(第1の発明)。
【0011】
本発明のトンネル施工方法によれば、一次覆工体を構成するコンクリートの打ち継ぎ目を覆うように止水板が、一次覆工体の内周面にコンクリートと一体化して設けられるので、打ち継ぎ目からの漏水が抑制される。
また、二次覆工を省略できることから、プレキャストコンクリートや二次覆工コンクリートを設けることが不要となり、施工コストが軽減できるとともに、施工期間の短縮化に寄与する。
【0012】
第2の発明は、シールド掘削機により掘削されたトンネルの内周面に、コンクリートを打設することにより覆工体を構築するための内型枠であって、背面に止水板を着脱可能に保持する保持部を有することを特徴とする。
【0013】
第3の発明は、第2の発明において、前記保持部は、真空吸着により前記止水板を保持することを特徴とする。
本発明のシールド掘削機によれば、簡単な構成で、内型枠を設置する際に、内型枠の背面に止水板を保持させることができ、また、脱型時に止水板を離脱させながら脱型することができる。
【0014】
第4の発明は、シールド掘削機を掘進することにより、その掘削されたトンネルの内周面を場所打ちコンクリートによって覆工したトンネル覆工体であって、少なくとも前記コンクリートのトンネル軸方向の打ち継ぎ目を、その内周側から覆う止水板が設けられていることを特徴とする。
【0015】
第5の発明は、トンネル構造であって、第1の発明のトンネル施工方法により構築されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、シールド掘削機を使用して掘削した掘削孔の内周面にコンクリートを打設して覆工体を構築するにあたり、簡易な構成で、覆工体のコンクリートの打ち継ぎ目から生じる漏水を抑制させることが可能なトンネル施工法、その施工法に用いる内型枠、その施工により構築されるトンネル覆工体及びトンネル構造を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の好ましい一実施形態について図面に基づき詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係るトンネル施工方法に用いるシールドマシン10の側面図である。
【0018】
図1に示すように、シールドマシン10は、前端に土砂を掘削するためのカッターヘッド12と、カッターヘッド12の裏側に掘削土砂を取り込むためのシールドチャンバーと、シールドチャンバー14内に取り込まれた土砂を、シールドマシン10の後方へ排土するためのスクリューコンベア16及び土砂搬出コンベア18とを備える。
【0019】
また、シールドマシン10は、カッターヘッド12の外周から後方に延長する円筒状のスキンプレート20と、スキンプレート20の後端部内側に設置されたシールドジャッキ22及び妻枠ジャッキ24とを備える。
【0020】
スキンプレート20は、トンネルが構築されるまでの間、地山の崩落を防止するとともに地下土水圧に耐える役割を有する。
【0021】
シールドジャッキ22は、スキンプレート20の内周に沿って複数設けられており、掘進時には既設の内型枠の切羽側端部にジャッキ後端を押し当てて伸長する(詳細は後述)。これにより得られる反力は、シールドマシン10が、回転するカッターヘッド12を切羽に押し付け、掘進していくための推進力となる。
【0022】
妻枠ジャッキ24は、シールドジャッキ22よりも外側の位置に複数設けられており、妻枠ジャッキ24の後端には妻枠リング26が取り付けられている。
【0023】
妻枠リング26は、スキンプレート20の内周面と内型枠の背面との隙間27(以下、テールボイド27という)を塞いだ状態で、妻枠ジャッキ24の伸縮により前後に移動することが可能であり、テールボイド27に打設するコンクリートを密閉するとともに加圧するためのものである(詳細は後述)。なお、妻枠リング26には、コンクリートをテールボイド27に充填するための充填孔が形成されており、充填孔にはコンクリートポンプからコンクリートを圧送するコンクリート圧送管が接続されている(図示しない)。
【0024】
また、シールドマシン10は、カッターヘッド12の後方に、内型枠28の脱型、移動、組み立てを行うエレクタ装置30を備える。エレクタ装置30は、エレクタ本体32とガイドレール34によって構成される。
【0025】
図2は、エレクタ装置30のトンネル軸に垂直な方向の断面図である。
図2に示すように、エレクタ本体32は、例えば、環形状を有し、その内周に設けられる車輪等からなる駆動部36により、トンネル中央部のトンネル軸方向に延長するように配置されるガイドレール34に沿って前後に移動可能に支持されている。
【0026】
エレクタ本体32の外周には、複数の伸縮ジャッキ38が、エレクタ本体32の外周面に対して法線方向に伸縮するように設けられており、その先端は内型枠28を着脱できるようになっている。
【0027】
内型枠28は、その背面が地山と隙間(テールボイド27、図1参照)を隔てて設置され、その隙間(テールボイド27)にコンクリートを打設及び硬化させることにより地山の内周面に覆工体を形成するための金属製の型枠である。内型枠28は、円筒形状のリング40を周方向に分割(本実施形態では8分割)した湾曲状のピースとなっており、その形状及びサイズによって、例えばB型とK型との種類がある。
【0028】
これらB型内型枠28bとK型内型枠28kは、周方向に交互に組み合わされてリング40が形成されるようになっている。B型内型枠28bは、その周方向の端面Tbが内周側に向くように傾斜し、K型内型枠28kは、その周方向の端面Tkが外周側に向けて、B型内型枠28bの端面Tbと同じ傾斜角度だけ傾斜している。
【0029】
図3は、内型枠28の組み立て・脱型時における伸縮ジャッキの伸縮手順を示す図である。
図3に示すように、内型枠28をリング状に組み立てる際には、先ず、B型内型枠28bが取り付けられた伸縮ジャッキ38を伸長させてB型内型枠28bを定位置に設置し、次いで、K型内型枠28kが取り付けられた伸縮ジャッキ38を伸長させて、K型内型枠28kを先に設置されたB型内型枠28b間に設置する。すなわち、内型枠28の端面が上記のように傾斜していることにより、各内型枠28が密着して組み上げられ、打設されるコンクリートが接続部から流出することのない、堅固なリング40が形成される。なお、内型枠28の周方向及びトンネル軸方向のピース間は、ボルト等により連結できるようになっている。
【0030】
一方、内型枠28の脱型の際には、組み立てる際の逆の手順で、K型内型枠28kが取り付けられた伸縮ジャッキ38を収縮させてK型内型枠28kを脱型し、次いで、B型内型枠28bが取り付けられた伸縮ジャッキ38を収縮させてB型内型枠28bを脱型する。
【0031】
図4は、すべての伸縮ジャッキ38を収縮させたときのエレクタ装置30の断面図である。
図4に示すように、すべての伸縮ジャッキ38を収縮させたときは、K型内型枠28kの外側にB型内型枠28bの一部が重なるようにしてエレクタ本体32の中心方向に畳まれる。そして、エレクタ装置30は、この状態で内型枠28を搬送する。
【0032】
図5は、内型枠28の拡大断面図である。
図5に示すように、内型枠28は、その背面側に板材41を着脱可能な吸着パット42を有している。吸着パット42には、外部の真空ポンプに繋がるホース44が接続されており、真空ポンプを作動させることにより吸着パット42に吸着対象物(後述するように、本実施形態では、止水板45)を真空吸着し、真空ポンプを停止させることにより吸着対象物を取り外すことができる。
【0033】
本実施形態に係るトンネル施工方法では、このような内型枠28をリング状に組み立て、トンネル軸方向に複数連結して使用する。
【0034】
次に、上記シールドマシン10を用いた本実施形態に係るトンネル施工方法について説明する。
図6は、本実施形態に係るトンネル施工方法による覆工体の構築の手順を示す図である。なお、本図は、シールドマシン10の後方のトンネル上部を代表して示しているが、掘削孔の全内周について同様な工程が行われる。
【0035】
図6に示すように、本実施形態に係るトンネル施工方法では、掘進工程S10と、脱型工程S20と、内型枠移動工程S30と、内型枠組立工程S40と、コンクリート打設工程S50とを繰り返すことによりトンネル覆工体を構築していく。
【0036】
掘進工程S10では、上述したように、シールドマシン10のカッターヘッド12を切羽に押し付けて回転させるとともに、既設の内型枠28の切羽側端部にシールドジャッキ22の後端22aを押し当てて伸長することにより、地盤を前方に掘進していく。ここで、掘進する距離は、例えば施工に用いる内型枠28の幅と同程度になるようにする。
【0037】
また、掘進時には、シールドジャッキ22の伸長にともなって、妻枠リング26の位置が移動しないように妻枠ジャッキ24の伸長も行う。
【0038】
掘進の終了後には、シールドジャッキ22を収縮させて、シールドジャッキ22の後端22aと既設の内型枠28の切羽側端部28aとの間に、新たな内型枠28を設置するための空間を確保する。
【0039】
脱型工程S20では、エレクタ装置30により、既設の内型枠28のうち最後尾の内型枠28を脱型する。具体的には、エレクタ本体32を最後尾の内型枠28付近に移動させて、伸縮ジャッキ38を伸長してその先端に最後尾の内型枠28を固定させ、最後尾の内型枠28の周方向及びトンネル軸方向のピース間を連結するボルト等を撤去する。そして、上述したようにK型内型枠28kが固定された伸縮ジャッキ38を収縮させた後、B型内型枠28bが固定された伸縮ジャッキ38を収縮させることにより、最後尾における全周囲の内型枠28を脱型する。伸縮ジャッキ38の収縮後には、各内型枠28の背面に付着したコンクリートをれん棒等を用いて剥がす(ケレン作業)。
【0040】
内型枠移動工程S30では、エレクタ本体32により脱型工程S20で脱型された内型枠28を、ガイドレール34上を移動させて前方の新たな設置位置まで搬送する。
内型枠組立工程S40では、内型枠28を定位置に設置する前に、先ず各内型枠28背面の吸着パット42に止水板45を吸着させる。
【0041】
止水板45としては、遮水性を有し、フレッシュコンクリートと接触するように設置したときにコンクリートの硬化時にコンクリートと一体化するものであれば、どのようなものでもよい。
【0042】
止水板45には、例えば、内型枠28の背面と同じサイズを有し、その背面と同じ曲率で湾曲に形成されたもの用いる。すなわち、内型枠28の背面と同形状に形成した止水板45を内型枠28の背面に沿うようにして吸着パット42に吸着させるのである。
【0043】
なお、止水板45として、例えば、高強度ビニロン繊維が配合されたセメントボード(株式会社大林組製のスムースボード)やPVA(ポリビニルアルコール)繊維が配合されたセメントボード(株式会社クラレ製のパワロンボード)等の柔軟性を有する材料からなるものを用いる場合には、特に湾曲に形成されてなくてもよい。
【0044】
そして、伸縮ジャッキ38を伸長させて、背面に止水板45を吸着させた各内型枠28を、止水板45と掘削孔の内周面46との間に隙間ができるように掘進工程S10で確保した空間に設置する。
【0045】
この際、上述したようにB型内型枠28bが固定された伸縮ジャッキ38を伸長させた後、K型内型枠28kが固定された伸縮ジャッキ38を伸長させて、内型枠28の周方向及びトンネル軸方向のピース間をボルト等で連結する。これにより、既設の内型枠28の前方に新たな内型枠28が設置される。そして、新たな内型枠28の設置が完了した後、伸縮ジャッキ38の先端と内型枠28との固定を解除し、伸縮ジャッキ38を収縮させる。伸縮ジャッキ38を収縮したエレクタは、最後尾の内型枠28付近に移動させて次の脱型工程S20に備える。
【0046】
なお、吸着パット42による止水板45の吸着は、後述のコンクリート打設工程S50でコンクリートの打設により流されないように、コンクリートの打設完了まで継続させることが好ましい。
【0047】
コンクリート打設工程S50では、コンクリートポンプからコンクリート圧送管を介してテールボイド27にコンクリートを打設し、この打設にともなって妻枠ジャッキ24を徐々に収縮させる。その際、コンクリートが地山に密着するように、妻枠ジャッキ24によって妻枠リング26を介して、コンクリートを加圧させながら収縮させることが好ましい。これにより、テールボイド27に打設されるコンクリートを密実化することができる。
【0048】
また、テールボイド27へのコンクリートの打設は、トンネル軸方向の打ち継ぎ目が、内型枠28背面に吸着された止水板45に覆われる位置となるように行う。すなわち、止水板45のトンネル軸方向の端辺45aと、コンクリートの打設の終了面となる妻枠リング26の後面26aとの位置がずれるようにする。なお、コンクリート打設後には、内型枠28の背面の吸着パット42による止水板45の吸着を解除する。これにより、脱型工程S20での内型枠28の脱型を円滑に行うことできる。
【0049】
このように、掘進工程S10、脱型工程S20、内型枠移動工程S30、内型枠組立工程S40、コンクリート打設工程S50を繰り返し実施することにより、順次テールボイド27に打設されたコンクリートが、止水板45と一体化して硬化していき、掘削孔の内周に覆工体50が構築される。
【0050】
なお、本実施形態に係るトンネルの施工方法は、主に、比較的堅固で掘削後に掘削孔が自立するような地山に覆工体を構築する場合に適用される。したがって、覆工体には鉄筋を配筋する必要はない。
【0051】
また、本実施形態に係るトンネルの施工方法では、内型枠28により組み立てられるリング40をトンネル軸方向に複数連結し、最後尾の内型枠28を脱型して最前部に設置しながら上記の工程を繰り返す。ここで、その脱型位置のコンクリートは、最後尾に配置された内型枠28が脱型される時には硬化している必要がある。そのため、内型枠28で構成されるリング40の連結数は、コンクリートの養生時間が充分に確保できるように考慮して設定する。
【0052】
また、シールドジャッキ22によるシールドマシン10を掘進させるための推進力の反力は、設置された内型枠28の背面と打設されたコンクリートとの摩擦で受けることになるので、内型枠28で構成されるリング40の連結数は、当該摩擦力がマシンを掘進させるために必要な推進力よりも大きくなるように設定する。
【0053】
以上説明したように本実形態に係るトンネル施工方法によれば、シールド掘削機の後部に設けられた内型枠28の背面に止水板45を保持させて、内型枠28を、内型枠28の背面と掘削孔の内周面46との間に隙間27ができるように設置する内型枠組立工程S40と、隙間27にコンクリート52を、そのコンクリート52の打ち継ぎ目が止水板45に覆われる位置となるように打設するコンクリート打設工程S50とを、内型枠28を掘進方向に連続して接続しながら交互に繰り返して行い、隙間27に打設されたコンクリート52を止水板45と一体化させて硬化させ、止水板45から内型枠28を離脱させることにより内型枠28を脱型する脱型工程S20と、からなることにより、止水板45が、覆工体を構成するコンクリートの打ち継ぎ目を覆うように、覆工体の内周面46にコンクリートと一体化して設けられるので、打ち継ぎ目からの漏水が抑制される。
【0054】
また、二次覆工を省略できることから、上述の特許文献1,2に記載されるようなプレキャストコンクリートや二次覆工コンクリートを設けることが不要となり、施工コストが軽減できるとともに施工期間の短縮化に寄与する。
【0055】
また、トンネル内周全体が止水板45により覆われることになるので美観にも優れ、トンネル内の内装も同時に完了することができる。
【0056】
なお、本実施形態によれば、止水板45として、内型枠28の背面と同じサイズに形成したもの用いるとしたが、これに限らず、内型枠28の背面の幅よりも短く形成したサイズのものを用いてもよい。つまり、少なくともコンクリートのトンネル軸方向の打ち継ぎ目を止水板45によって覆うことができればよい。
【0057】
また、幅を短く形成した止水板45を用いる場合には、コンクリート打設工程S50における、コンクリートをテールボイド27に打設するルートを変更してもよい。すなわち、上記のように妻枠リング26に形成された充填孔を介してコンクリートを打設するに限らず、内型枠組立工程S40で内型枠28の背面の吸着パット42に止水板45を吸着させたときに、内型枠28の背面のうち止水板45により覆われない領域に、内型枠28の内背面を貫通する充填孔を予め形成しておき、コンクリート圧送管を当該内型枠28の充填孔に接続することにより、内型枠28の充填孔を介してコンクリートを打設してもよい。
【0058】
また、本実施形態によれば、覆工体の内周面に連続的に止水板45が設けられることになるが、これに限らず、施工経路に予め帯水層や水脈等の存在位置が分かっている場合には、その位置に相当する部分にのみ止水板45を保持させて施工するとしてもよい。これにより、止水板45の材料コストや施工の手間を軽減することができる。
【0059】
また、本実施形態に係るトンネル施工方法に用いるシールドマシン10のエレクタ装置30及び内型枠28の構成を、以下のようにしてもよい。
【0060】
図7は、内型枠28の一部がエレクタ本体32上でトンネル軸方向に移動可能なエレクタ装置300を示す側面図である。
図7に示すように、エレクタ本体32は、ガイドレール34上をトンネル軸方向に移動するメインフレーム32aと、メインフレーム32a内をトンネル軸方向に移動するサブフレーム32bとからなる。
メインフレーム32aは、ガイドレール34の周囲を取り囲むように設置され、ガイドレール34上をトンネル軸方向に移動できるようになっている。また、サブフレーム32bは、メインフレーム32aの両側方に設置され、メインフレーム32a内をトンネル軸方向に移動できるようになっている。
【0061】
図8は、図7に示すメインフレーム32aのA−A断面図である。
図8に示すように、メインフレーム32aには、上下方向の内型枠28を組立・脱型するための鉛直方向に伸縮する伸縮ジャッキ380aが左右に複数設置されており、その先端を上下に配置する内型枠28と固定し、伸縮ジャッキ380aを伸縮させることにより、上下方向の内型枠28を組立・脱型できるようになっている。
【0062】
また、メインフレーム32aには、斜め方向の内型枠28を組立・脱型するための伸縮ジャッキ380bが複数設置されており、内型枠28はこれら伸縮ジャッキ380bの先端との固定できるようになっている。なお、これら伸縮ジャッキ380bとメインフレーム32aとの連結部分J1は、伸縮ジャッキ380bが当該連結部分を支点として回動可能に支承されている。
【0063】
また、斜め方向の内型枠28の組立・脱型用として、これら伸縮ジャッキ380bとともに、エレクタ本体から延長してその先端が内型枠28と固定されるリンク382が設置されている。なお、リンク382とエレクタ本体との連結部分J2は、リンク382が当該連結部分を支点として回動可能に支承されている。
【0064】
このように、斜め方向の内型枠28は、複数の伸縮ジャッキ380bとリンク382とにより固定されることから、当該伸縮ジャッキ380bを伸縮させることにより、斜め方向の内型枠28を所定の位置に安定させて設置できるようになっている。
【0065】
図9は、図7に示すサブフレーム32bのB−B断面図である。
図9に示すように、サブフレーム32bは、水平方向に伸縮する伸縮ジャッキ380cが複数設置されており、その先端を水平方向に配置される内型枠28と固定しジャッキを伸縮させることにより、水平方向に配置される内型枠28を組立・脱型できるようになっている。
【0066】
図10は、エレクタ装置300を用いた内型枠28の組み立て・脱型の手順を示し、同図(a)はメインフレーム32aによる内型枠28の組立脱型の図、同図(b)はサブフレーム32bによる内型枠28の組立脱型の図である。
【0067】
図10(a)に示すように、組み立ての際には、先ずメインフレーム32aを所定の位置に移動させて、上下の内型枠28、斜め方向の内型枠28の順で、伸縮ジャッキ380a及び伸縮ジャッキ380bを伸長させて各内型枠28を定位置に組み立てる。次いで、図10(b)に示すように、サブフレーム32bをメインフレーム32aと同位置に移動させ、伸縮ジャッキ380cを伸長させて、水平方向の内型枠28を、既に組み立てられた斜め方向の内型枠28間に挿入する。その後、ボルト等により内型枠28間を連結し、内型枠28を伸縮ジャッキ380a〜380cの先端から取り外すことにより、内型枠28の組み立てが完了する。
【0068】
一方、脱型の際には、組み立ての逆の手順を行う。すなわち、メインフレーム32a及びサブフレーム32bを脱型する内型枠28の位置に移動させ、各伸縮ジャッキ380a〜380cの先端に内型枠28を取り付け、内型枠28間の連結解除を行う。そして、先ず、伸縮ジャッキ380cを伸縮させて水平方向の内型枠28を脱型し、脱型後にはサブフレーム32bをトンネル軸方向に移動させる。次いで、伸縮ジャッキ380bを伸縮させて斜め方向の内型枠28、伸縮ジャッキ380aを伸縮させて上下の内型枠28の順で脱型することにより脱型が完了する。
【0069】
なお、エレクタ装置によって組立・脱型される内型枠28も同様に、その背面に上記説明した吸着パットが備えられており、組み立ての際には止水板をその吸着パットに吸着させて組み立て、脱型の際には止水板を離脱しながら脱型する。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本実施形態に係るトンネル施工方法に用いるシールドマシン10の側面図である。
【図2】エレクタ装置30のトンネル軸に垂直な方向の断面図である。
【図3】内型枠28の組み立て・脱型時における伸縮ジャッキの伸縮手順を示す図である。
【図4】すべての伸縮ジャッキ38を収縮させたときのエレクタ装置30の断面図である。
【図5】内型枠28の拡大断面図である。
【図6】本実施形態に係るトンネル施工方法による覆工体の構築の手順を示す図である。
【図7】内型枠28の一部がエレクタ本体32上でトンネル軸方向に移動可能なエレクタ装置300を示す側面図である。
【図8】図7に示すメインフレーム32aのA−A断面図である。
【図9】図7に示すサブフレーム32bのB−B断面図である。
【図10】エレクタ装置300を用いた内型枠28の組み立て・脱型の手順を示し、同図(a)はメインフレーム32aによる内型枠28の組立脱型の図、同図(b)はサブフレーム32bによる内型枠28の組立脱型の図である。
【図11】ECL工法による覆工体の構築工程を示す、掘削機のテール部の拡大断面図である。
【符号の説明】
【0071】
10 シールドマシン 12 カッターヘッド
14 シールドチャンバー 16 スクリューコンベア
18 土砂搬出コンベア 20 スキンプレート
22 シールドジャッキ 24 妻枠ジャッキ
26 妻枠リング 27 隙間(テールボイド)
28 内型枠 28b B型内型枠
28k K型内型枠 30 エレクタ装置
32 エレクタ本体 32a メインフレーム
32b サブフレーム 34 ガイドレール
36 駆動部 38 伸縮ジャッキ
40 リング 41 板材
42 吸着パット 44 ホース
45 止水板 50 覆工体
52 コンクリート 54 打ち継ぎ目
300 エレクタ装置 380a,380b,380c 伸縮ジャッキ
382 リンク S10 掘進工程
S20 脱型工程 S30 内型枠移動工程
S40 内型枠組立工程 S50 コンクリート打設工程
Tb,Tk 端面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールド掘削機を掘進させることにより、その掘削したトンネルの内周面に、場所打ちコンクリートによる覆工体を構築するトンネル施工方法であって、
前記シールド掘削機の後部において、背面に止水板を保持させた内型枠を、前記内型枠の背面と前記トンネルの内周面との間に隙間ができるように設置する工程と、前記隙間にコンクリートを、トンネル軸方向の打ち継ぎ目が前記止水板に覆われる位置となるように打設する工程とを、前記内型枠を前記シールド掘削機の掘進方向に連続して接続しながら交互に繰り返して行い、
前記隙間に打設されたコンクリートを前記止水板と一体化させて硬化させ、前記止水板から前記内型枠を離脱させることにより前記内型枠を脱型することを特徴とするトンネル施工方法。
【請求項2】
シールド掘削機により掘削されたトンネルの内周面に、コンクリートを打設することにより覆工体を構築するための内型枠であって、
背面に止水板を着脱可能に保持する保持部を有することを特徴とする内型枠。
【請求項3】
前記保持部は、真空吸着により前記止水板を保持することを特徴とする請求項2に記載の内型枠。
【請求項4】
シールド掘削機を掘進することにより、その掘削されたトンネルの内周面を場所打ちコンクリートによって覆工したトンネル覆工体であって、
少なくとも前記コンクリートのトンネル軸方向の打ち継ぎ目を、その内周側から覆う止水板が設けられていることを特徴とするトンネル覆工体。
【請求項5】
請求項1に記載のトンネル施工方法により構築されたトンネル構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−228391(P2009−228391A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−78588(P2008−78588)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】