説明

トンネル消火配管構造、トンネル消火配管の分岐構造、トンネル消火配管の断熱構造、およびトンネル消火配管の強度低下防止方法

【課題】 トンネル内への設置作業性に優れ、トンネル火災の消火用の送水配管として使用可能なトンネル消火配管構造等を提供する。
【解決手段】 分岐部9は、分岐管体である管体25、補強層27、断熱層29および防水層31等で構成される。管体25はT字状の樹脂管部材であり、例えばポリエチレン製である。管体25の外周には、補強層27が形成される。補強層27は、管体25の耐内圧を補強するためのものである。また、補強層27の外周には、断熱層29が形成される。断熱層29は、前述の断熱材19と同様の部材を用いることができる。断熱層29は、トンネル内の温度がコンクリート製のハンドホール7内伝達した際に、管体25の温度上昇を抑制するためのものである。断熱層29の外周には、必要に応じて防水層31が設けられる。防水層31は、外部の水が断熱層29に侵入することを防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトンネルにおける火災等の消火に用いられるトンネル消火配管およびトンネル消火配管の分岐構造等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、トンネル内部における火災に対して、トンネル内部には、初期消火用の消火栓が設置される。このようなトンネル内の消火設備は、トンネルの長手方向に所定間隔で設置される消火栓装置が、送水配管によって接続されたものであり、火災の発見者が即座に近傍の消火栓より火災現場に散水して初期消化が行われる(例えば特許文献1、特許文献2)。
【0003】
このような消火に用いられるトンネル送水配管としては、ダクタイル鋳鉄管等の金属管が使用されてきた。このような金属管は、火災時の熱に対しても十分な耐熱性を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−571号公報
【特許文献2】特開2008−55024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような送水配管は、所定長さの金属管を接続しながらトンネル長手方向に対して設置される。しかしながら、金属管は重量があり、長いトンネル全長にわたって送水配管を設置する作業は、接続部が多く作業工数を要し、コスト、工期も要する。
【0006】
一方、送水配管を軽量かつ長尺で対応可能な樹脂製とする方法が考えられる。樹脂製の送水配管とすることで、前述のように長尺配管が得られることから長手方向の接続箇所を大幅に削減することが可能であるため、接続作業が削減され、継手等の部材も削減できる。また、軽量であるため取り扱い性にも優れ、設置後の地盤変化によって送水配管に力が付与された際にも、配管自体の変形能によってこれを吸収できる。このため、継手部に大きな力が付与されず、金属管を用いた際に問題となる継手部での水漏れの恐れや腐食の恐れもない。
【0007】
しかしながら、樹脂製の送水配管は、鋼管ほどの耐熱性を有しないため、火災時に送水配管自体の強度低下等によって、内圧で送水配管が破れるなどの恐れがある。特に、トンネルという閉空間においては、トンネル内部が高温となるため、このトンネル内に敷設された樹脂製の送水配管のいずれかの位置が高温にさらされる恐れがあるが、樹脂製配管そのものは地中埋設されているため、高温にならないが、配管接続部が高温にさらされるため、送水配管と配管接続部をともに樹脂製配管として使用することは困難である。
【0008】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、軽量でトンネル内への設置作業性に優れ、トンネル火災の消火用の送水配管等と接続して使用可能なトンネル消火配管構造等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した目的を達するために第1の発明は、トンネル内に敷設されるトンネル消火配管構造であって、トンネル長手方向に所定間隔で配置され、上方に蓋部が設けられるコンクリート製のハンドホールと、前記蓋部の裏面に設けられる断熱部材と、前記ハンドホール同士の間で土砂に埋設されてハンドホールに接続される樹脂製の送水配管と、前記ハンドホール内部に形成され、前記送水配管と接続されて、前記ハンドホール上方に設けられた消火栓へ分岐させる分岐部と、を有し、前記分岐部は、樹脂製の分岐管体と、前記分岐管体の外周に設けられる補強層と、前記補強層の外周に設けられる断熱層とを具備することを特徴とするトンネル消火配管構造である。
【0010】
前記断熱層の外周部には、さらに防水層が形成されてもよい。
【0011】
前記分岐管体は、T字状管材であり、前記分岐管体の両端が前記ハンドホールの内部で前記送水配管と接続され、前記分岐管体の分岐端部が、消火栓と連結される管体と前記ハンドホール内部で接続され、前記管体がトンネル内壁面に沿って前記ハンドホール上方に導出され、前記管体が導出されるトンネル内部と前記ハンドホールの内部との境界には断熱部材が設けられてもよい。前記ハンドホールの外部における前記管体の外周には、断熱材が設けられてもよい。
【0012】
前記補強層は強度と耐熱性を有するポリアリレート繊維などのスーパエンプラ繊維からなるテープで形成され、このポリアリレート繊維が分岐管体の温度上昇による強度低下を補償して、耐圧性を確保しているが、補強層として用いられる繊維としては、ポリアリレート繊維の他、アラミド繊維などがある。前記断熱層は、ポリアリレート繊維と分岐管体の温度上昇を防止するためのもので、セラミックファイバー、ロックウール、グラスウール、架橋発泡ポリエチレン、発泡ウレタン、ケイ酸カルシウムのいずれかを用いることができるが、特に断熱性と施工性を考慮すると、架橋発泡ポリエチレン、発泡ウレタンが望ましい。断熱性を高めるためには発泡倍率が高い方が望ましく、断熱層に防水性を持たせるためには、樹脂の内部の気泡は連通気泡ではなく、独立気泡が望ましい。また、セラミックファイバー、ロックウール、グラスウール等の繊維を使用する場合は、繊維状のマットの形で使用されるため、防水テープは必ず設ける必要があるが、架橋発泡ポリエチレン、発泡ウレタン等のシートを用いる場合は、防水テープは用いる方が望ましいものの、独立気泡の前述の樹脂をも用いれば防水性は確保できるため、必ずしも用いなくても良い。
【0013】
第1の発明によれば、トンネル内に所定間隔で設けられる消火栓へ分岐させる分岐部がコンクリート製のハンドホール内部に設置されており、ハンドホール内部における分岐部は、樹脂製の分岐管体と、分岐管体の外周に設けられた補強層および断熱層により構成されるため、トンネル内部の火災による熱が分岐管体に伝わりにくく、また、分岐管体の外周の補強層によって、分岐管体が破裂等することが防止される。
【0014】
なお、この場合においても、ハンドホール同士を接続する送水配管は埋設されるため、トンネル内の空間と遮断され、埋設土砂が断熱層の役割を果たす。
【0015】
また、断熱層の外周にさらに防水層を設ければ、断熱層に水が浸みこむことによる断熱性能の低下を抑えることができる。防水層は、特に、断熱層が繊維系の断熱材により構成される場合に効果が大きい。
【0016】
また、分岐管体がT字状(三方分岐)であり、両側方が送水配管とコンクリート製のハンドホール内部で接続されることで、継手部からの漏れ等をハンドホール内部で確認することはできる。また、消火栓と接続される管体がハンドホール内部で分岐部端部(送水配管と接続されないT字部分岐端部)と接続される。管体とハンドホール内部で接続されることで、樹脂製の分岐管体がハンドホール外部に露出することがない。
【0017】
また、管体が導出されるトンネル内部と前記ハンドホールの内部との境界に断熱部材が設けられれば、断熱部材により、ハンドホール内部とトンネル壁面との隙間から熱が浸入することがない。
【0018】
また、蓋部の裏面側に断熱部材を更に設ければ、トンネル側からハンドホール内部への熱の伝達が抑制されるため、ハンドホール内部の昇温を抑制し、分岐部の熱による破裂等を防止することができる。
【0019】
第2の発明は、トンネル内に敷設されるトンネル消火配管の分岐構造であって、樹脂製T字状の分岐管体と、前記分岐管体の外周に設けられる補強層と、前記補強層の外周に設けられる断熱層と、を具備し、前記分岐構造は、トンネル内のコンクリート製のハンドホール内部に設置され、前記分岐管体の両端が前記ハンドホールの内部で送水配管と接続され、前記分岐管体の分岐端部が、消火栓と連結される管体と前記ハンドホール内部で接続されることを特徴とするトンネル消火配管の分岐構造である。
【0020】
第2の発明によれば、樹脂製の分岐管体と補強層と断熱層とを有する分岐構造がハンドホール内部に設けられ、送水配管とはコンクリート製のハンドホールの内部で接続され、管体とはハンドホールの内部で接続されるため、樹脂製部分がハンドホールの上方(トンネル内)に露出することがなく、また、送水配管との接続部からの漏れ等をハンドホール内部で確認することはでき、作業性に優れ、構造が簡易な消火配管の分岐構造を得ることができる。
【0021】
第3の発明は、トンネル内に敷設されるトンネル消火配管の分岐構造であって、樹脂製T字状の分岐管体と、前記分岐管体の外周に設けられる補強層を少なくとも具備し、前記分岐構造は、トンネル内のコンクリート製のハンドホール内部に設置され、前記分岐管体の両端が前記ハンドホールの内部で送水配管と接続され、前記分岐管体の分岐端部が、消火栓と連結される管体と前記ハンドホール内部で接続され、少なくとも前記ハンドホールの外部における前記管体の外周には、断熱材が設けられることを特徴とするトンネル消火配管の分岐構造である。ここで、ハンドホールの外部に設ける管体の外周に用いられる断熱材は、断熱材を巻き付けるか、接着するか、あるいは筒状に成形して管体に被せるなど種々の方法により行うことができ、さらにその外周に金属製のベルトなどで固定しても良い。
【0022】
第3の発明によれば、樹脂製の分岐管体と補強層とを有する分岐構造がハンドホール内部に設けられ、送水配管とはコンクリート製のハンドホールの内部で接続され、管体とはハンドホールの内部で接続されるため、樹脂製部分がハンドホールの上方(トンネル内)に露出することがなく、また、トンネル内に露出する消化栓と接続される管体の外周には断熱材が設けられるため、火事の際に、管体に熱が伝達されることを防止することができる。
【0023】
第4の発明は、トンネル内に敷設されるトンネル消火配管の断熱構造であって、蓋部を有するコンクリート製のハンドホールがトンネル長手方向に所定間隔で設置され、前記ハンドホール同士の間は土砂に埋設された樹脂製の送水配管で接続され、前記ハンドホール内部には、前記ハンドホール上方に設けられる消火栓と接続される管体と、前記送水配管とを分岐させる分岐部が形成されたトンネル消火配管に対し、前記蓋部の裏面には、断熱部材が設けられ、前記管体がトンネル内壁面に沿って前記ハンドホール上方に導出され、前記管体が導出されるトンネル内部と前記ハンドホールの内部との境界には断熱部材が設けられ、前記分岐部は、樹脂製の分岐管体と、前記分岐管体の外周に設けられる耐熱性の補強層と、前記補強層の外周に設けられる断熱層とを具備することを特徴とするトンネル消火配管の断熱構造である。
【0024】
第4の発明によれば、蓋部の裏面に断熱部材が設けられるため、ハンドホール内部がトンネル内部から断熱され、ハンドホール内部の温度上昇を抑制することができる。さらに、トンネル内部とハンドホールの内部との境界には断熱部材を設けることで、より確実にハンドホール内部を断熱することができる。また、分岐部の分岐管体の外周部に耐熱性の補強層を設け、補強層の外周に分岐管体および補強層を断熱する断熱層を設けるため、分岐部がハンドホール内部に対して断熱される。したがって、2段階の断熱構造によって、確実に分岐管体の熱による耐圧性の低下による破損等を防止できる。
【0025】
第5の発明は、トンネル内に敷設されるトンネル消火配管の強度低下防止方法であって、トンネル長手方向に所定間隔に蓋部を有するコンクリート製のハンドホールを設置し土砂に埋設された樹脂製の送水配管により前記ハンドホール同士を接続し、前記ハンドホール上方に設けられた消火栓へ接続される管体と前記送水配管とを分岐する分岐部を前記ハンドホール内部に形成し、前記蓋部の裏面に断熱部材を設け、前記管体をトンネル内壁面に沿って前記ハンドホール上方に導出し、前記管体が導出されるトンネル内部と前記ハンドホールの内部との境界に断熱部材を設け、前記分岐部を構成する樹脂製の分岐管体の外周にスーパエンプラ繊維からなる耐熱性のテープを補強層として設け、前記補強層の外周に断熱層を設けることを特徴とするトンネル消火配管の強度低下防止方法である。
【0026】
第5の発明によれば、蓋部の裏面に設けられる断熱部材と、トンネル内部とハンドホールの内部との境界の断熱部材とによって、確実にハンドホール内部をトンネル内部から断熱することができる。また、分岐部の分岐管体の外周部にスーパエンプラ繊維からなる耐熱性のテープを補強層として設け、補強層の外周に分岐管体および補強層の断熱のための断熱層を設けることで、確実に分岐部をハンドホール内部に対して断熱することができる。したがって、2段階の断熱構造によって、確実に分岐管体の熱による強度低下を防止できる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、トンネル内への設置作業性に優れ、トンネル火災の消火用の送水配管等として使用可能なトンネル消火配管構造等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】トンネル消火配管構造1を示す斜視図。
【図2】トンネル消火配管構造1を示す断面図。
【図3】分岐部9を示す拡大図であり、(a)は立面図、(b)は平面図。
【図4】図3(a)のA部であり、分岐部9における管体の構成を示す斜視図。
【図5】図3(a)のA部であり、分岐部9における管体の構成を示す断面図。
【図6】分岐部9を示す拡大図であり、(a)は立面図、(b)は平面図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。図1は、トンネル消火配管構造1を示す斜視図であり、図2は縦断面図である。トンネル消火配管構造1は、消火栓13と、消火栓13同士を接続し、各消火栓13に送水可能な送水配管5等から構成される。
【0030】
消火栓13は、トンネル内部において所定間隔で設置される。消火栓13同士は、トンネル外部からトンネル全長にわたって設けられる送水配管5で接続される。送水配管5は樹脂製であり、たとえばポリエチレン製である。送水配管5を流れる消火用水は、消火栓13近傍の分岐部9(図2)で分岐され、各消火栓13に送水される。
【0031】
トンネル内部には、車両等が通行する車道の外側に、監視員通路等が設けられる。この部位には、下部に送水配管5が埋設され、送水配管5が河砂等の土砂で埋設されたのち、上方にコンクリートが設けられる。なお、送水配管5には、図示を省略した送水部がトンネル外部に接続されており、所定量の水を送水することができる。
【0032】
消火栓13は、たとえばトンネル内に50m毎に設置される。消火栓13は送水配管5と分岐部9で接続されている。分岐部9は、コンクリート製のハンドホール7内部に設置されており分岐部9と送水配管5とは継手11で接続される。なお、分岐部9の詳細は後述する。
【0033】
通常、トンネル3内で火災が発生すると、40分以内に消防車等の消火車両による消火が行われる。消火栓13は、消防車等の到着までの間の初期消火に用いられる。したがって、水道水や専用の消火用水が用いられ、消火用水としては、約40分間の放水量が確保されている。すなわち、トンネル消火配管構造1は、初期消火までの間に消火活動を行うことができればよい。このため、消火栓13は、火災発生から40分間の間に稼働可能であれば良い。
【0034】
トンネル消火配管構造1は、例えば以下のように施工される。まず、トンネル側部に送水配管5の設置部として、たとえばコンクリートにより溝を形成する。送水配管5の設置部の所定距離ごとにハンドホールを形成する。ハンドホール7は、例えば、設置される消火栓13の設置間隔で設置される。例えば、ハンドホール7は50m毎に設置される。なお、ハンドホール7はコンクリート製である。ハンドホール7は三方を側壁で囲まれており、開口側面がトンネル内壁面側に当接するように設置される。
【0035】
次に、送水配管5をトンネル長手方向に設置する。この場合、例えば送水配管5は内径100mmφであれば150m程度の長尺のものが使用できる。したがって、送水配管5をトンネル長手方向に設置し、ハンドホール設置部で切断すれば良い。このようにすることで、送水配管同士を接続する必要がないので、送水配管5の設置工事が容易で、工事費用の低下が可能になる。
【0036】
ハンドホール7内部には分岐部9が設置される。分岐部9は前述の送水配管5と継手11により接続される。継手11としては、たとえば熱融着継手が用いられる。なお、送水配管5と分岐部9との接続は、フランジ等によって接続してもよい。送水配管5と分岐部9とが接続されたのち、送水配管5は河砂等で埋設される。ハンドホール7内部の分岐部9には、後述する補強層等が形成され、さらに鋼管等の管体が接続される。ハンドホール7上方には消火栓13が設置され、鋼管と接続される。なお、送水配管5の埋設部上方にはコンクリート等の蓋が設けられ、ハンドホール7の上方には鉄製等の蓋が設けられる。以上により、トンネル消火配管構造1が構築される。
【0037】
次に、分岐部9について説明する。ここで、実際の火災現場近傍においては、800から1200℃といった極めて高温の雰囲気となる場合があるが、ハンドホールの外部の雰囲気温度としては、現実的には火災時に消火活動を行うために作業員が近づくことができる温度を考慮すれば良い。ハンドホール近傍の温度が極めて高い温度にさらされるような場合には、そもそも、初期消火活動をするための作業者(通常は、一般の通行者等)が消火栓に近づくこともできないためである。また、ハンドホールの内部の分岐部の温度は、火災発生から40分後までの間に80℃以下に抑えるよう断熱を施す。これはトンネル消火配管および分岐部は80℃下での長期(1000時間)耐圧特性を有しているからである。そもそもトンネル消火設備は水を使った消火設備であり100℃を超えると管内水が水蒸気となり消火できなくなる。
例えばハンドホールの内部空間が蓋部の断熱材によって断熱されており、さらに、補強層と分岐配管が断熱層に保護されているために、火災発生時にも、分岐配管の耐圧性低下を補償することが可能になる。
【0038】
図3(a)は分岐部9の拡大立面図であり、図3(b)は、分岐部9の平面図である。なお、図3(b)においては、蓋部17の透視図である。分岐部9はT字状であり、両側端がハンドホール7の側壁部(側面)を貫通する送水配管5とハンドホール7内部で接続される。したがって、分岐部9の両側端近傍および継手11は、ハンドホール7の内部に位置する。
【0039】
一方、図3(b)に示すように、分岐部9の分岐端部(T字状の分岐部でありトンネル壁面方向に向いて配置される)は、鋼管15と、例えば互いのフランジ同士で接続される。ハンドホール7内部で分岐部9と接続される鋼管15は、ハンドホール7内でトンネル壁面方向に配設され、トンネル壁面22に沿って上方に屈曲されてハンドホール7の外部(トンネル内部)に導出される。なお、トンネル壁面(内壁面)は、ハンドホール7設置部においてややくぼんでおり、ハンドホール7との間に鋼管15が導出可能な空間が形成される。鋼管15は、ハンドホール7の上方の図示を省略した消火栓と接続される。なお、鋼管15はハンドホール7上方に露出するため、火災時には鋼管15を伝って熱が伝わる恐れがある。このため、鋼管15と分岐部9との接続部には、耐熱性のパッキン等が施される。
【0040】
トンネル壁面22とハンドホール7(蓋部17)との間には、隙間が形成される。鋼管15と当該隙間(すなわち、鋼管15とトンネル壁面22およびハンドホールの蓋部17との隙間であって、鋼管15導出位置におけるトンネル内部側とハンドホール内部側との境界部)には、必要に応じて断熱材21が設けられる。断熱材21は、トンネル内部側とハンドホール内部側との境界部を通じて、トンネルからの熱がハンドホール7内部に伝達することを抑制する。断熱材21はセラミックファイバー、ロックウール、グラスウール等の繊維系断熱材や、架橋発泡ポリエチレン、発泡ウレタン等の発泡系断熱材、ケイ酸カルシウム等の無機系断熱材が使用できる。また、断熱材21としては、熱膨張性耐火材を使用できる。熱膨張性耐火材は、火災時の熱で加熱されると、12〜20倍に体積膨張し、かつ膨張した状態で耐火性を保持するもので、このようなものとしては例えば、ブチルゴム等のベース樹脂と、熱膨張性黒鉛などの熱膨張材と、ポリカーボネートなどの加熱によって炭化物などの残渣を生成する樹脂からなる公知の組成物を用いることができる。市販品では、古河テクノマテリアル社製のダンシールD(商品名)などがある。この他、ドイツのバイエル社製のフォモックス(登録商標)、米国の3M社製のファイヤーバリア(商品名)なども使用可能である。
【0041】
蓋部17の下面には、必要に応じて断熱材19が設けられる。断熱材19も断熱材21と同様の材質を選定可能であるが、板状の断熱材を用いる方が、設置が容易である。
【0042】
次に、分岐部9の断面構成について説明する。図4は図3のA部拡大図であり、分岐部9のA部の断面構成を示す斜視図、図5は同様に分岐部9の構成を示す断面図である。分岐部9は、分岐管体である管体25、補強層27、断熱層29および防水層31等で構成される。
【0043】
管体25はT字状の樹脂管材であり、例えばポリエチレン製である。管体25の外周には、補強層27が形成される。補強層27は、管体25の耐内圧特性を向上(補強)するためのものである。補強層27は、たとえばポリアリレート繊維のテープが巻きつけられる。補強層27としては、たとえば、スーパ繊維製のテープであるクラレ社製のベクトラン(登録商標)を使用することができる。ベクトラン(登録商標)は、難燃性で、耐クリープ性にも優れていて、熱分解温度も450℃以上と高く、火災発生時、分岐部温度が80℃の温度でも、消火配管の耐圧性を保つのに十分な強度(たとえば約1200MPa)を有する。また、ハンドホールの内部には、通常、外部からの水の浸入はないが、万一ハンドホールの蓋の隙間等から水が浸入したとしても、防水テープにより保護されているために特に問題がなく、ベクトラン(登録商標)自体も湿熱環境に対する強力保持率にも優れているために補強用テープとして好適に用いることができる。なお、ポリアリレート繊維製テープの巻き付けは、例えば、テープ幅方向の端部同士をラップさせるように巻きつけてもよく、または、多少のギャップを設けて巻きつけてもよい。また、ポリアリレート繊維製テープを正逆2重に巻きつけるなど、複数回巻きつけて補強層27を形成してもよい。なお、ポリアリレート繊維製テープの巻き付け方法は、ポリアリレート繊維製テープの強度や必要とされる耐内圧に応じて適宜決定される。
【0044】
なお、T字状の管体25に補強層27(補強テープ)を巻きつける際、ちょうどT字管の分岐部位近傍(中央部近傍)は、特に力が加わる部位でもあるため、確実に補強層27を形成する必要がある。
【0045】
T字管の分岐部位近傍には、トンネル軸方向(送水配管敷設方向)の管部とこれと垂直な水平方向(ハンドホール内部においてトンネル壁面方向)の管部との両方の根本部にかかるように補強テープを巻きつけ、または、両根本部を覆うように、たすき状に巻きつけてもよい。補強テープは、1本のテープをそれぞれの根本部が覆われるように巻きつけてもよく、または、数本のテープを別々に(例えば水平管部と鉛直管部とを別々に)巻きつけてもよい。さらに、巻きつけ位置を多少ずらしながら、複数回巻きつけてもよい。ここで、補強層27に用いるテープの片面に粘着剤を塗布しておけば、テープに巻き付け時の張力だけでなく、粘着剤の張力により、テープがずれるのを防止することができる。
【0046】
なお、補強層27(補強テープ)をロングピッチで全体に巻きつけることで、分岐部位近傍の補強をおこなってもよく、補強テープを複数層巻きつけることで、より確実に管体の補強を行うことができる。
【0047】
図4、図5に示すように、補強層27の外周には、断熱層29が形成される。断熱層29は、前述の断熱材19と同様の部材を用いることができる。断熱層29は、トンネル内の温度がハンドホール7内に伝達した際に、管体25の温度上昇を抑制するためのものである。
【0048】
なお、本発明におけるトンネル消火配管構造は、前述の通り、例えば、所定時間、火災より40分間問題なく稼働すれば良い。管体25は80℃で長期耐圧特性を有している。このため、火災から40分の間、80℃を超えることがないように断熱し、この際、管体25が破裂等しないように補強する必要がある。補強層27および断熱層29はこのような基準で適宜設計される。なお、断熱層29は、ハンドホール7内部にのみ設けられれば良く、ハンドホール7より突出した部位には、管体25が直接砂に埋設されれば良いため、埋設した砂により十分な断熱効果が得られる。すなわち、ハンドホール7内部に位置する送水配管5および送水配管5と分岐部9との接続部(継手11)も同様に、補強層27および断熱層29が形成される。
【0049】
断熱層29の外周には、必要に応じて防水層31が設けられる。防水層31は、外部の水が断熱層29に侵入することを防止する。防水層31としては、耐熱性の高いポリイミド、フッ化樹脂製等のテープや、架橋ポリエチレンの熱収縮チューブ等を用いることができる。
【0050】
特に、断熱層29として繊維系の断熱材を用いた場合には、断熱層に水が浸みこみやすく、これにより断熱性能が著しく低下するため、繊維系断熱材を用いた場合には防水層31を設けることが望ましい。
【0051】
以上説明したように、本実施形態のトンネル消火配管構造1によれば、樹脂製の送水配管5および分岐部9(分岐管体)を用いるため、敷設作業が容易であり、送水配管5同士の継手も削減できるため、コスト的にも有利である。また、ハンドホール7外部の送水配管5は砂によって埋設されるため、砂が断熱層の役割を果たし、火災発生40分後までに送水配管5が80℃以上にはならず、このため送水配管5が破裂することがない。
【0052】
一方、ハンドホール7内部は空間であるため、火災の熱がハンドホール内部に伝わりやすいが、ハンドホール内部に設置される分岐部9には断熱層が設けられるため、ハンドホール7内部がトンネル内部から断熱される。さらに、分岐部9は、耐熱性の補強層27および断熱層29が設けられるため、火災発生から初期消火期間において、管体25が80℃以上となることがない。また、管体25の外周の補強層27によって、管体25の温度上昇に伴う強度低下に対して、十分な耐内圧特性を確保することができる。
【0053】
また、断熱層29の外周に防水層31を設けることで、水によって断熱層29の断熱特性が低下することがない。
【0054】
また、分岐部9と送水配管5との継手部11がハンドホール内部に位置することで、継手部11からの水漏れ等をハンドホール7で確認することができ、継手部11も同様に補強および断熱が施されるため、確実に分岐部の熱による破損等を防止することができる。さらに、鋼管15との接続部をハンドホール7内部とすることで、分岐部の一部がハンドホール7の上方に露出することがなく、火災等によるトンネル内から受ける熱の影響を抑制することができる。なお、ハンドホール7内部に位置する鋼管15に対しても、断熱層を形成してもよい。ハンドホール外部から鋼管を熱伝導により伝わる熱がハンドホール7内部に放熱することにより、ハンドホール内部の温度上昇を抑制するためである。
【0055】
また、鋼管15が配設されるトンネル壁面と蓋部17との隙間に断熱材21を設けることで、当該隙間を通ってハンドホール内部に熱が侵入することがなく、さらに、蓋部17の裏面に断熱材19を設けることで、トンネルからハンドホール7内部への熱の伝導を抑えることができる。すなわち、本発明においては、蓋部17の断熱材19による断熱と、分岐部9における耐熱性の補強層および管体および補強層を断熱する断熱層29による断熱によって、樹脂管体を確実にトンネル内部から断熱するとともに樹脂管体の強度低下を防止することができる。
【0056】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0057】
たとえば、図6に示すように、管体15にも断熱材33を設けてもよい。図6(a)は分岐部9近傍の拡大立面図であり、図6(b)は、分岐部9の平面図である。なお、図6(b)においては、蓋部17の透視図である。トンネル内で火災が発生すると、トンネル内の熱により管体15が高温となる。前述の通り、管体15は通常鋼管であるため、ハンドホール7外部(トンネル内部)における鋼管15が加熱されると、鋼管15の熱伝導により、熱がハンドホール7内部に伝わる。したがって、ハンドホール7内部の温度を上昇させるとともに、分岐部9との接続部において、分岐管体が損傷するためである。
【0058】
なお、断熱材33としては、例えばセラミックファイバー、ロックウール、グラスウール等の繊維系断熱材や、架橋発泡ポリエチレン、発泡ウレタン等の発泡系断熱材、ケイ酸カルシウム等の無機系断熱材が使用できる。また、断熱材33として繊維系の断熱材を用いた場合には、断熱層に水が浸みこみやすく、これにより断熱性能が著しく低下するおそれがある。このため、断熱材33として繊維系断熱材を用いた場合には断熱材33の外周にさらに防水層を設けることが望ましい。
【0059】
また、各断熱材はそれぞれ別個に設けることもできる。例えば、上述した断熱材33のみを設け、断熱材19、21および断熱層29を形成しなくてもよい。この場合には、ハンドホール内部の温度上昇からの断熱はできないが、少なくともハンドホール7外部における管体15の温度上昇を抑えることができ、この結果、ハンドホール7内部の温度上昇を抑制することが可能である。このように、要求される耐熱性等に応じて、上述した断熱材、断熱層は、それぞれ単独で使用してもよく、また、任意の組み合わせで用いてもよい。
【0060】
また、ハンドホール7内部には、T字状の分岐部以外の分岐部を設けてもよく、また、単にストレートの管体(送水配管)を設けて、ハンドホール内部に位置する送水配管に補強層および断熱層等を設けてもよい。また、必要に応じて、適宜、補強層等以外の構成を分岐部9に加えてもよい。
【符号の説明】
【0061】
1………トンネル消火配管構造
3………トンネル
5………送水管
7………ハンドホール
9………分岐部
11………継手
13………消火栓
15………鋼管
17………蓋部
19………断熱材
21………断熱材
22………トンネル壁面
23………砂
25………管体
27………補強層
29………断熱層
31………防水層
33………断熱材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル内に敷設されるトンネル消火配管構造であって、
トンネル長手方向に所定間隔で配置され、上方に蓋部が設けられるコンクリート製のハンドホールと、
前記蓋部の裏面に設けられる断熱部材と、
前記ハンドホール同士の間で土砂に埋設されてハンドホールに接続される樹脂製の送水配管と、
前記ハンドホール内部に形成され、前記送水配管と接続されて、前記ハンドホール上方に設けられた消火栓へ分岐させる分岐部と、
を有し、
前記分岐部は、
樹脂製の分岐管体と、前記分岐管体の外周に設けられる補強層と、前記補強層の外周に設けられる断熱層とを具備することを特徴とするトンネル消火配管構造。
【請求項2】
前記断熱層の外周部には、さらに防水層が形成されることを特徴とする請求項1記載のトンネル消火配管構造。
【請求項3】
前記分岐管体は、T字状管材であり、前記分岐管体の両端が前記ハンドホールの内部で前記送水配管と接続され、
前記分岐管体の分岐端部が、消火栓と連結される管体と前記ハンドホール内部で接続され、前記管体がトンネル内壁面に沿って前記ハンドホール上方に導出され、
前記管体が導出されるトンネル内部と前記ハンドホールの内部との境界には断熱部材が設けられることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のトンネル消火配管構造。
【請求項4】
前記ハンドホールの外部における前記管体の外周には、断熱材が設けられることを特徴とする請求項3記載のトンネル消火配管構造。
【請求項5】
前記補強層はポリアリレート繊維で形成され、
前記断熱層は、セラミックファイバー、ロックウール、グラスウール、架橋発泡ポリエチレン、発泡ウレタン、ケイ酸カルシウムのいずれかであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のトンネル消火配管構造。
【請求項6】
トンネル内に敷設されるトンネル消火配管の分岐構造であって、
樹脂製T字状の分岐管体と、前記分岐管体の外周に設けられる補強層と、前記補強層の外周に設けられる断熱層と、を具備し、
前記分岐構造は、トンネル内のコンクリート製のハンドホール内部に設置され、前記分岐管体の両端が前記ハンドホールの内部で送水配管と接続され、前記分岐管体の分岐端部が、消火栓と連結される管体と前記ハンドホール内部で接続されることを特徴とするトンネル消火配管の分岐構造。
【請求項7】
トンネル内に敷設されるトンネル消火配管の分岐構造であって、
樹脂製T字状の分岐管体と、前記分岐管体の外周に設けられる補強層を少なくとも具備し、
前記分岐構造は、トンネル内のコンクリート製のハンドホール内部に設置され、前記分岐管体の両端が前記ハンドホールの内部で送水配管と接続され、前記分岐管体の分岐端部が、消火栓と連結される管体と前記ハンドホール内部で接続され、
少なくとも前記ハンドホールの外部における前記管体の外周には、断熱材が設けられることを特徴とするトンネル消火配管の分岐構造。
【請求項8】
トンネル内に敷設されるトンネル消火配管の断熱構造であって、
蓋部を有するコンクリート製のハンドホールがトンネル長手方向に所定間隔で設置され、前記ハンドホール同士の間は土砂に埋設された樹脂製の送水配管で接続され、前記ハンドホール内部には、前記ハンドホール上方に設けられる消火栓と接続される管体と、前記送水配管とを分岐させる分岐部が形成されたトンネル消火配管に対し、
前記蓋部の裏面には、断熱部材が設けられ、
前記管体がトンネル内壁面に沿って前記ハンドホール上方に導出され、前記管体が導出されるトンネル内部と前記ハンドホールの内部との境界には断熱部材が設けられ、
前記分岐部は、樹脂製の分岐管体と、前記分岐管体の外周に設けられる耐熱性の補強層と、前記補強層の外周に設けられる断熱層とを具備することを特徴とするトンネル消火配管の断熱構造。
【請求項9】
トンネル内に敷設されるトンネル消火配管の強度低下防止方法であって、
トンネル長手方向に所定間隔に蓋部を有するコンクリート製のハンドホールを設置し
土砂に埋設された樹脂製の送水配管により前記ハンドホール同士を接続し、
前記ハンドホール上方に設けられた消火栓へ接続される管体と前記送水配管とを分岐する分岐部を前記ハンドホール内部に形成し、
前記蓋部の裏面に断熱部材を設け、
前記管体がトンネル内壁面に沿って前記ハンドホール上方に導出し、前記管体が導出されるトンネル内部と前記ハンドホールの内部との境界に断熱部材を設け、
前記分岐部を構成する樹脂製の分岐管体の外周にスーパーエンプラ繊維からなる耐熱性のテープを補強層として設け、前記補強層の外周に断熱層を設けることを特徴とするトンネル消火配管の強度低下防止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−167510(P2011−167510A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−10211(P2011−10211)
【出願日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(508044933)株式会社エフエムシー (3)
【Fターム(参考)】