説明

トンネル覆工コンクリートの養生方法

【課題】トンネルの内壁面を覆う覆工コンクリートの耐久性を効果的に向上させることのできるトンネル覆工コンクリートの養生方法を提供する。
【解決手段】トンネル坑内20bの内壁面20aに沿って試験体用の型枠21を設置してコンクリートを打設することで、覆工コンクリート10の厚さに相当する厚さを備えるコンクリート試験体22をトンネル20の内壁面20aに重ねて形成して、トンネル坑内20bの環境下におけるコンクリート試験体22の厚さ方向中間部分の硬化時の硬化温度を計測することにより、硬化温度のピーク温度を予め検出しておき、少なくとも型枠内養生工程の後の加温湿潤養生工程において、予め検出されたピーク温度〜ピーク温度+10℃の温度で覆工コンクリート10の内面を加温した状態で、覆工コンクリート10の養生を行うようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル覆工コンクリートの養生方法に関し、特にトンネル覆工型枠を設置してコンクリートを打設することにより、トンネルの内壁面を覆って形成されるトンネル覆工コンクリートの養生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
山岳トンネル等のトンネル工事においては、例えばトンネルを掘削した後のトンネルの内壁面にコンクリートを吹き付けて一次覆工を行った後に、トンネル覆工型枠を設置して、当該トンネル覆工型枠とトンネルの内壁面との間の空間にコンクリートを打設することで、所定の厚さの覆工コンクリートを形成するのが一般的である。
【0003】
また、トンネルの内壁面を覆う覆工コンクリートは、脱型後にそのまま放置すると乾燥収縮によるひび割れが発生し、品質が低下してしまうため、形成された覆工コンクリートの表面を湿潤状態に保持して養生を行うことで、覆工コンクリートが乾燥しないようにして、ひび割れを防止できるようにする技術が種々開発されている(例えば、特許文献1)。特許文献1の技術では、トンネル坑内をこれの延長方向に移動可能な公知の移動式セントルを用いてトンネル覆工型枠を設置して、コンクリートを打設することにより、所定の厚さの覆工コンクリートを形成すると共に、移動式セントルに後続して、同じくトンネル坑内を移動可能な養生装置を設置することによって、脱型後の覆工コンクリートの表面を湿潤状態に保持して養生するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−19067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、トンネルの内壁面を覆う覆工コンクリートは、閉じられた空間であるトンネル坑内で施工されることから、トンネル坑内の環境の影響を受けやすいと考えられる。また覆工コンクリートの外側面は、吹き付けコンクリートを挟んでトンネル外周の地山と密着した状態となっているため、当該トンネル外周の地山の温度の影響を受けやすいと考えられる。そして、覆工コンクリートは、養生時に表面が湿潤状態に保持されていたとしても、トンネル坑内の温度環境等による影響を受け、例えばコンクリートの内部とコンクリートのトンネル坑内側の表面との間で、養生時の温度差が大きいと、乾燥収縮によるひび割れとは異なる要因によるひび割が発生したり、コンクリートの耐久性に影響を与えることも考えられることから、養生時における覆工コンクリートのトンネル坑内側の表面の温度を適正に管理して、特に耐久性を向上できるようにする新たな技術の開発が望まれている。
【0006】
本発明は、、養生時における覆工コンクリートのトンネル坑内側の表面の温度を適正に管理して、トンネルの内壁面を覆う覆工コンクリートの耐久性を効果的に向上させることのできるトンネル覆工コンクリートの養生方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、トンネル覆工型枠を設置してコンクリートを打設することにより、トンネルの内壁面を覆って形成されるトンネル覆工コンクリートの養生方法において、設置された前記トンネル覆工型枠とトンネルの内壁面との間の空間にコンクリートを打設した後に、前記型枠を脱型するまでの間、前記トンネル覆工型枠によりコンクリートを支持して行われる型枠内養生工程と、前記トンネル覆工型枠を脱型した後に、形成された覆工コンクリートの内面を加温湿潤状態に保持して行われる加温湿潤養生工程と、さらに前記覆工コンクリートの内面を湿潤状態に保持して行われる湿潤養生工程とを含んで構成されており、前記コンクリートを打設する作業に先立って、トンネルの内壁面に沿って試験体用の型枠を設置してコンクリートを打設することで、前記覆工コンクリートの厚さに相当する厚さを備えるコンクリート試験体をトンネル坑内の内壁面に重ねて形成して、前記トンネル坑内の環境下における前記コンクリート試験体の厚さ方向中間部分の硬化時の硬化温度を計測することにより、該硬化温度のピーク温度を予め検出しておき、少なくとも前記加温湿潤養生工程において、予め検出された前記ピーク温度〜前記ピーク温度+10℃の温度で前記覆工コンクリートの内面を加温した状態で、前記覆工コンクリートの養生を行うトンネル覆工コンクリートの養生方法を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0008】
そして、本発明のトンネル覆工コンクリートの養生方法は、前記型枠内養生工程において、予め検出された前記ピーク温度〜前記ピーク温度+10℃の温度で前記覆工コンクリートの内面を加温した状態で、前記覆工コンクリートの養生を行うことが好ましい。
【0009】
また、本発明のトンネル覆工コンクリートの養生方法は、前記トンネル覆工型枠は、前記トンネル坑内をこれの延長方向に移動可能な移動式セントルを用いて設置されることが好ましい。
【0010】
さらに、本発明のトンネル覆工コンクリートの養生方法は、前記型枠内養生工程が12〜18時間行なわれ、前記加温湿潤養生工程が48〜72時間行なわれることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明のトンネル覆工コンクリートの養生方法によれば、トンネル坑内で施工される覆工コンクリートの耐久性を効果的に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の好ましい一実施形態に係るトンネル覆工コンクリートの養生方法において使用する、トンネル覆工型枠を設置するための移動式セントルを説明する略横示断面図である。
【図2】本発明の好ましい一実施形態に係るトンネル覆工コンクリートの養生方法において使用する養生装置を説明する略示横断面図である。
【図3】図2に示す養生装置に取り付けられた加温保湿部材の構成を説明する拡大断面図である。
【図4】(a)〜(c)は、本発明の好ましい一実施形態に係るトンネル覆工コンクリートの養生方法の作業工程を説明する略示縦断面図である。
【図5】コンクリート試験体を形成する位置を説明する略示横断面図である。
【図6】コンクリート試験体の構成を説明する、(a)は横断面図、(b)は(a)のA−Aに沿った断面図である。
【図7】比較例2、実施例1、2、及び参考例1において、脱型したコンクリート試験体の表面に保湿養生層を取り付けた状態の横断面図である。
【図8】(a)〜(e)は、比較例1、2、実施例1、2、及び参考例1のコンクリート試験体において各々計測された、厚さ方向中央部分の温度の推移を示すチャートである。
【図9】(a)、(b)は、細孔径分布の測定結果を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の好ましい一実施形態に係るトンネル覆工コンクリートの養生方法は、例えば山岳トンネルを構築するためのトンネル工事において、図1に示すような公知の移動式セントル11を用いて設置されたトンネル覆工型枠12と、好ましくは吹付けコンクリート41(図5参照)による一次覆工によって覆われたトンネル20の内壁面20aとの間の空間に、コンクリートを打設することで形成した覆工コンクリート10を、適正な温度環境の下で養生することにより、特に耐久性に優れた覆工コンクリート10が得られるようにしたものである。
【0014】
すなわち、トンネル20の内壁面20aを覆う覆工コンクリート10は、閉じられた空間であるトンネル坑内20bで施工されることから、トンネル坑内20bの環境の影響を受けやすいと考えられる。また覆工コンクリート10の外側面は、吹き付けコンクリート41を挟んでトンネル外周の地山40と密着した状態となっているため、当該トンネル外周の地山40の温度の影響を受けやすいと考えられる。その一方で、コンクリートを打設した後の覆工コンクリート10の養生時においては、覆工コンクリート10の内部と覆工コンクリート10のトンネル坑内20b側の表面との間の温度差をできるだけ小さく留めることで、覆工コンクリート10の物性うち特に耐久性を効果的に向上できると考えられると共に、乾燥収縮によるひび割れとは異なる要因として、例えば内部ひずみによるひび割の発生を効果的に抑制できると考えられる。本願発明者は、このような合理的な推論の下に、以下のようなトンネル覆工コンクリートの養生方法を開発するに到ったものである。
【0015】
そして、本実施形態のトンネル覆工コンクリートの養生方法は、トンネル覆工型枠12を設置してコンクリートを打設することにより、トンネル20の内壁面20aを覆って形成される覆工コンクリート10の養生方法において、図4(a)〜(c)に示すように、好ましくは移動式セントル11を用いて設置されたトンネル覆工型枠12とトンネル20の内壁面20aとの間の空間にコンクリートを打設した後に、型枠を脱型するまでの間、トンネル覆工型枠12によりコンクリートを支持して行われる型枠内養生工程(図4(a)〜(c)のA参照)と、トンネル覆工型枠12を脱型した後に、形成された覆工コンクリート10の内面を加温湿潤状態に保持して行われる加温湿潤養生工程(図4(b)、(c)のB参照)と、さらに覆工コンクリート10の内面を湿潤状態に保持して行われる湿潤養生工程(図4(c)のC参照)とを含んで構成されている。
【0016】
図5及び図6(a)、(b)に示すように、コンクリートを打設する作業に先立って、トンネル坑内20bの内壁面20aに沿って試験体用の型枠21を設置してコンクリートを打設することで、覆工コンクリート10の厚さに相当する厚さを備えるコンクリート試験体22をトンネル20の内壁面20aに重ねて形成して、トンネル坑内20bの環境下におけるコンクリート試験体22の厚さ方向中間部分の硬化時の硬化温度を計測することにより、該硬化温度のピーク温度を予め検出しておき、少なくとも加温湿潤養生工程(図4(b)、(c)のB参照)において、予め検出されたピーク温度〜ピーク温度+10℃の温度で覆工コンクリート10の内面を加温した状態で、覆工コンクリート10の養生を行うようになっている。
【0017】
また、本実施形態では、好ましくは型枠内養生工程(図4(a)〜(c)のA参照)においても、予め検出されたピーク温度〜ピーク温度+10℃の温度で覆工コンクリート10の内面を加温した状態で、覆工コンクリート10の養生を行うようになっている。
【0018】
本実施形態では、トンネル覆工型枠12は、好ましくは移動式セントル11を用いてトンネル20の内壁面20aを内側から覆うように設置される。移動式セントル11は、図1に示すように、例えば特開2009−186184号公報に記載の移動式セントルと同様の構成を備える、公知のトンネル構築用の型枠装置である。移動式セントル11は、主として、トンネル20の内壁面20aとの間に覆工コンクリート10の厚さに相当する幅の空間を保持して配設されるトンネル覆工型枠12と、このトンネル覆工型枠12を支持する支持フレーム13と、トンネル20の底盤部20cにおいてトンネル20の延長方向に敷設されて、支持フレーム13を走行可能に支持する走行レール14とによって構成される。
【0019】
トンネル覆工型枠12は、複数本の伸縮ジャッキ15を介して径方向に進退可能な状態で、支持フレーム13に取り付けられている。トンネル覆工型枠12は、トンネル20の内壁面20aに沿って配置されて、当該内壁面20aとの間に覆工コンクリート10の打設空間を保持した状態から、コンクリートを打設して初期強度が発現された後に、形成された覆工コンクリート10から径方向内側に引き離されることで、脱型されるようになっている。脱型された後のトンネル覆工型枠12は、移動式セントル11と共に走行レール14に沿ってトンネル20の延長方向の前方に移動して、次の施工スパンの覆工コンクリート10の打設作業が行われるようになっている(図4(a)〜(c)のA参照)。
【0020】
本実施形態では、移動式セントル11は、例えば10.5m程度のトンネル20の延長方向の長さを有しており、これによって、例えば10.5m程度の長さを1施工スパンとして、覆工コンクリート10を、トンネル20の延長方向に順次打設しながら形成してゆことができるようになっている。
【0021】
トンネル覆工型枠12を脱型した後に、覆工コンクリート10を加温湿潤状態又は湿潤状態で養生する加温湿潤養生工程や湿潤養生工程は、図2に示すような養生装置16を用いて行われる。養生装置16は、例えば特開2010−19067号公報に記載の養生装置と同様の構成を備える、公知のコンクリート養生用の装置を用いることができる。すなわち、養生装置16は、移動式セントル11に後続して走行レール14の上に複数台配置されるものであり(図4(b)、(c)参照)、本実施形態では、主として、上下に伸縮可能な移動架台17と、トンネル20の内周面20aに沿ったアーチ形状に湾曲変形可能となっていると共に、外周部分に保湿養生層18を備えるシェル構造体19と、移動架台17とシェル構造体19と間に介在して複数設けられた、伸縮可能なターンバックル式のロッド部材や、長さ調整可能なワイヤー部材からなる支持部材23とによって構成される。
【0022】
本実施形態では、シェル構造体19は、図3にも示すように、例えば無負荷の状態では略直線形状であり、設置時に移動架台17に設けられた支持部材23を用いてトンネル20の内周面20aに沿うように湾曲変形(弾性変形)する、トンネル20の周方向に延設すると共にトンネル20の延長方向に間隔をおいて複数本、略平行に配置された枠部材24と、トンネル20の延長方向に延設されてこれらの枠部材24を互いに連結する連結部材(図示せず)と、枠部材24及び連結部材によって支持されてこれらの外周部分に配置される、保湿養生層18及び外面パネル25とを含んで構成される。
【0023】
枠部材24は、例えば、高強度、高靱性、高弾性を有するガラス繊維強化プラスチックからなるパイプ状の部材となっており、略直線形状から容易に湾曲変形すると共に、ロッド部材やワイヤー部材からなる支持部材23の長さを調整することで、トンネル覆工型枠12を脱型した後の覆工コンクリート10の内周面に沿うように変形して、外周部分に配置された保湿養生層18を、覆工コンクリート10の内周面に押し付けるようして密着させることができるようになっている。
【0024】
また、シェル構造体19は、保湿養生層18を覆工コンクリート10の内周面に密着させた状態から、例えばロッド部材からなる支持部材23を短くすると共に、移動架台17を下降させることで、保湿養生層18を覆工コンクリート10の内周面から離間させて、養生装置16を、移動式セントル11に追随させて走行レール14に沿ってトンネル20の延長方向前方に順次移動させることができるようになっている。これによって、前方の施工スパンで移動式セントル11を用いて形成された覆工コンクリート10を、移動式セントル11をさらに前方の施工スパンに移動させた後に、これに後続して養生装置16を移動させて、順次湿潤状態で養生してゆくことができるようになっている。
【0025】
本実施形態では、枠部材24及び連結部材によって支持されてこれらの外周部分に配置される保湿養生層18は、図3に示すように、例えば外面パネル25の外周面に貼り付けられた内側層26と、この内側層26の外周面に積層された保湿マット27とからなり、内側層26と保湿マット27との間には、これらに挟み込まれるようにしてヒータ部材28が配置されている。
【0026】
内側層26は、独立気泡や連続気泡等の空隙を内部に有するスポンジ等の発泡部材からなり、弾力性を有している。保湿マット27は、水分を吸収可能であり、且つ吸収した水分を保持可能な物性を備える、公知の各種の保湿マットを使用することができる。例えば、市販のコンクリート保温・保湿養生用マットである商品名「うるおんマット」(フジモリ産業株式会社製)を使用することができる。
【0027】
ヒータ部材28は、シート状に形成された面状発熱体であり、通電することにより発熱して、養生時の覆工コンクリート10を加温できるようになっている。ヒータ部材28は、保湿養生層18のほぼ全域に亘って配置されており、制御機構(図示せず)に接続されている。制御機構は、保湿養生層18の各所に配置された複数の接触温度センサー(図示せず)と接続されており、これらの接触温度センサーが検知する温度に基づいて、ヒータ部材28の加温出力を好ましくはフィードバック制御できるようになっている。
【0028】
本実施形態では、保湿養生層18は、外面パネル25を介在させて枠部材24及び連結部材の外周部分に取り付けられている。外面パネル25が介在していることで、枠部材24や連結部材からの押付け力を、外面パネル25によって面で受けるようにして保湿養生層18に伝えることにより、保湿養生層18を、より安定した状態で覆工コンクリート10の内壁面に密着させることが可能になる。外面パネル25としては、枠部材24の外周面の形状に沿って湾曲することが可能な板材として、例えば多数の凹部と凸部とを並べて備えているキーストンプレートや、波板等を使用することができる。
【0029】
本実施形態では、耐久性に優れた覆工コンクリート10を形成することを意図する所定の施工スパンにおいてコンクリートを打設する作業に先立って、図5及び図6(a)、(b)に示すように、覆工コンクリート10の厚さに相当する厚さを備えるコンクリート試験体22を、トンネル20の内壁面20aに重ねて形成して、このコンクリート試験体22の厚さ方向中間部分の硬化時の硬化温度を計測することにより、硬化時の硬化温度のピーク温度を予め検出しておく。
【0030】
すなわち、形成される覆工コンクリート10の覆工断面の一部である、トンネル20の底盤部20cと近接する一方の側壁部の下端部分20dを、コンクリート試験体22をトンネル20の内壁面20aに重ねて形成する部分として、当該側壁部の下端部分20dに、覆工コンクリート10の厚さに相当する例えば30cmの厚さを有すると共に、例えば高さ90cm、幅90cmの正方形の正面形状を有するコンクリート試験体22を形成する。
【0031】
コンクリート試験体22を形成するには、例えば側壁部の下端部分20dの吹付けコンクリート41が吹き付けられたトンネル20の内壁面20aに防水シート29を取り付けると共に、所定の間隔をおいて試験体用の型枠21を組み立て、さらに温度計測用の熱電対30を、型枠21の内部の所定の位置に取り付けた後に、覆工コンクリート10に用いるコンクリートと同様の配合のコンクリートを型枠21の内部に打設する。コンクリートを打設した後に、トンネル坑内20bの温度環境下において、硬化時の硬化温度がピークを過ぎるまで、型枠21をそのままにしてコンクリート試験体22の養生を行う。
【0032】
ここで、コンクリート試験体22の養生は、コンクリート試験体22の4周の側面部に沿って断熱材31を取り付けておき、これらの断熱材31によって、トンネル坑内20b側の面及び地山40側の面以外の面を覆った状態で行われる。これらの断熱材31は、型枠21を組み立てる際やコンクリートを打設した直後に、コンクリート試験体22の4周の側面部に沿って容易に取り付けることができる。
【0033】
また、温度計測用の熱電対30は、コンクリート試験体22の厚さ方向中間部分として、コンクリート試験体22の厚さ方向中央部分に配置して、当該厚さ方向中央部分におけるコンクリート試験体22の硬化時の硬化温度を計測することが好ましい。コンクリート試験体22の厚さ方向中央部分における硬化時の硬化温度を計測することで、より有効な硬化時のピーク温度を検出することが可能になる。
【0034】
そして、本実施形態では、熱電対30によって硬化温度を計測することにより検出された硬化時のピーク温度に基づいて、打設された覆工コンクリート10の型枠内養生工程及び加温湿潤養生工程において、覆工コンクリート10の内面を加温する温度を設定する。
【0035】
型枠内養生工程は、図4(a)〜(c)のAで示すように、移動式セントル11を用いて覆工コンクリート10が打設された施工スパンにおいて、トンネル覆工型枠12を脱型することなく、トンネル覆工型枠12とトンネル20の内壁面20aとの間に覆工コンクリート10を保持したまま養生を行う工程である。本実施形態では、型枠内養生工程は、コンクリートの打設後に、例えば15時間程度行われる。なお、型枠内養生工程は、例えば12〜18時間程度行うことが好ましい。型枠内養生工程が長過ぎると、工事の進行が遅くなり、短か過ぎると、打設したコンクリートの強度が不足して脱型できなくなる。
【0036】
本実施形態では、好ましくは型枠内養生工程においても、上述のコンクリート試験体22の硬化時に予め検出されたピーク温度〜ピーク温度+10℃の温度の温度で、覆工コンクリート10の内面を加温した状態で、覆工コンクリート10の養生が行なわれる。
【0037】
なお、型枠内養生工程において覆工コンクリート10の内面を加温するには、例えば移動式セントル11を用いて覆工コンクリート10を打設した当該スパンにおける、トンネル坑内20bの前後を、例えば仮設の遮蔽壁で仕切って移動式セントル11の内側に養生室を形成すると共に、形成した養生室の内部にヒータ等の加熱装置を設置して、所定の室内温度となるように加熱することで、覆工コンクリート10の内面を所定の温度で加温することができる。また、移動式セントル11に、トンネル覆工型枠12を加温可能な加熱機構を組み込んでおくことで、覆工コンクリート10の内面を所定の温度で加温することもできる。
【0038】
本実施形態では、コンクリート試験体22の硬化時のピーク温度として、例えば29℃が検出された場合に、型枠内養生工程では、ピーク温度又はピーク温度と略同様の温度として、例えば30℃で、覆工コンクリート10の内面を加温するようになっている。ここで、型枠内養生工程において覆工コンクリート10の内面を加温するための所定の温度は、例えばピーク温度〜ピーク温度+10℃の温度とすることが好ましい。型枠内養生工程において覆工コンクリート10の内面を加温する温度をこのような温度とすることで、覆工コンクリート10の耐久性をさらに効果的に向上させることが可能になると共に、トンネル覆工型枠12の脱型までの覆工コンクリート10の初期強度を効果的に向上させることが可能になる。
【0039】
加温湿潤養生工程は、図4(b)、(c)のBで示すように、型枠内養生工程の後にトンネル覆工型枠12を脱型し、移動式セントル11を移動してさらに前方の施工スパンで覆工コンクリート10の打設及び型枠内養生工程を順次行ってゆく間に、移動式セントル11に後続して設置した複数の養生装置16によって、型枠内養生工程に引き続いて、移動式セントル11の後方に残置された覆工コンクリート10を、加温湿潤状態で養生してゆく工程である。本実施形態では、加温湿潤養生工程は、型枠内養生工程の後に、例えば57時間程度行われる。なお、加温湿潤養生工程は、例えば48〜72時間(2〜3日)程度行うことが好ましい。加温湿潤養生工程が長過ぎると、工事の進行が遅くなり、短か過ぎると、形成された覆工コンクリート10にひび割れが発生し易くなる。
【0040】
本実施形態では、移動式セントル11を用いたコンクリートの打設後の型枠内養生工程が例えば15時間であり、養生装置16を用いた加温湿潤養生工程が例えば57時間であることから、移動式セントル11に後続させて4台の養生装置16を設置して、各養生装置16を前方に移動させながら、順次連続して各施工スパンの覆工コンクリート10の加温湿潤養生工程が行われるようになっている。
【0041】
また、本実施形態では、加温湿潤養生工程において、覆工コンクリート10の内面を湿潤状態に保持すると共に、上述のコンクリート試験体22の硬化時に予め検出されたピーク温度〜ピーク温度+10℃の温度で、覆工コンクリート10の内面を加温した状態で、覆工コンクリート10の養生が行なわれる。
【0042】
なお、加温湿潤養生工程において覆工コンクリート10の内面を湿潤状態に保持するには、養生装置16の保湿養生層18の保湿マット27に例えば温水を供給して湿潤させた状態で、覆工コンクリート10の内面に押し付けることで、容易に湿潤状態とすることができる。保湿マット27に温水を継続して供給することで、保湿マット27を長期に亘って湿潤させた状態とすることができる。また、加温湿潤養生工程において覆工コンクリート10の内面を加温するには、養生装置16の保湿養生層18のヒータ部材28に通電して所定の温度で発熱させることで、覆工コンクリート10の内面が予め検出されたピーク温度〜ピーク温度+10℃の温度となるように容易に加温することができる。
【0043】
本実施形態では、コンクリート試験体22の硬化時のピーク温度として、例えば29℃が検出された場合に、加温湿潤養生工程では、ピーク温度〜ピーク温度+10℃の温度として、例えば29℃〜39℃の温度で、覆工コンクリート10の内面を加温するようになっている。ここで、加温湿潤養生工程において覆工コンクリート10の内面を加温するための所定の温度は、ピーク温度〜ピーク温度+10℃の温度とする必要がある。加温湿潤養生工程において覆工コンクリート10の内面を加温する所定の温度をこのような温度とすることで、覆工コンクリート10の耐久性を効果的に向上させることが可能になる。
【0044】
本実施形態では、さらに、加温湿潤養生工程の後に引き続いて、図4(c)のCで示すように、覆工コンクリート10の内面を加温することなく、覆工コンクリート10の内面を湿潤状態に保持して養生する湿潤養生工程が、加温湿潤養生工程で用いた養生装置16と同様の養生装置を用いて、覆工コンクリート10をトンネル坑内20bの温度環境下にクールダウンするための養生工程として行われる。本実施形態では、湿潤養生工程は、加温湿潤養生工程の後に、例えば96時間程度行われる。なお、湿潤養生工程は、例えば4日〜2週間程度行うことが好ましい。湿潤養生工程が長過ぎると、工事の進行が遅くなり、短か過ぎると、形成された覆工コンクリート10にひび割れが発生したり、耐久性が低下するおそれがある。
【0045】
本実施形態では、移動式セントル11を用いたコンクリートの打設後の型枠内養生工程が例えば15時間であり、養生装置16を用いた加温湿潤養生工程が例えば57時間であり、養生装置16を用いた湿潤養生工程が例えば96時間であることから、移動式セントル11に後続させて合計11台の養生装置16を設置して、各養生装置16を前方に移動させながら、順次連続して各施工スパンの覆工コンクリート10の加温湿潤養生工程や湿潤養生工程が行われるようになっている。
【0046】
また、本実施形態では、湿潤養生工程が終了した後に、当該湿潤養生工程が終了した施工スパンから養生装置16を撤去して、覆工コンクリート10の養生を、トンネル坑内20bの環境下で引き続いて行うことができる。
【0047】
そして、上述の構成を備える本実施形態のトンネル覆工コンクリートの養生方法によれば、トンネル坑内20bで施工される覆工コンクリート10の耐久性を効果的に向上させることが可能になる。すなわち、本実施形態によれば、コンクリートを打設する作業に先立って、試験体用の型枠21を設置してコンクリートを打設することで、覆工コンクリート10の厚さに相当する厚さを備えるコンクリート試験体22をトンネル20の内壁面20aに重ねて形成して、トンネル坑内20bの環境下における試験体22の硬化時の硬化温度を予め検出しておき、少なくとも覆工コンクリート10の加温湿潤養生工程において、検出されたピーク温度〜ピーク温度+10℃の温度で覆工コンクリート10の内面を加温した状態で、覆工コンクリート10の養生を行うようになっている。これによって、実際の施工現場におけるトンネル坑内20bの温度環境及びトンネル外周の地山40からの温度の影響を考慮した、ピーク温度〜ピーク温度+10℃の温度で加温した状態で、加温湿潤養生工程を行うことが可能になり、養生時における覆工コンクリート10の内部と覆工コンクリート10のトンネル坑内20b側の表面との間の温度差が大きくならないように効果的に抑制して、覆工コンクリート10の耐久性を効果的に向上させることが可能になる。
【0048】
また、本実施形態では、好ましくは型枠内養生工程においても、予め検出されたピーク温度〜ピーク温度+10℃の温度で覆工コンクリート10の内面を加温した状態で、覆工コンクリート10の養生を行うようになっているので、覆工コンクリート10の初期強度を効果的に向上させて、乾燥収縮によるひび割れとは異なる要因として、例えば内部ひずみによるひび割れの発生を効果的に回避することが可能になると共に、覆工コンクリート10の耐久性をさらに効果的に向上させることが可能になる。
【0049】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることなく種々の変更が可能である。例えば、型枠内養生工程において、予め検出されたピーク温度〜ピーク温度+10℃の温度で覆工コンクリートの内面を加温した状態で、覆工コンクリートの養生を行う必要は必ずしもなく、トンネル覆工型枠は、移動式セントルを用いて設置されるものである必要は必ずしもない。また、養生装置は、上記実施形態の養生装置以外の、公知の種々の養生装置を用いることができる。例えば特開2010−180589号公報に記載の養生システム(養生装置)のように、養生シートを取り付けた支持フレーム(シェル構造体)と、昇降装置(移動架台)とが分離可能で、1台の昇降装置(移動架台)で複数の支持フレーム(シェル構造体)を各々移動させるものを用いることもできる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例及び比較例により、本発明のトンネル覆工コンクリートの養生方法をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0051】
図5及び図6(a)、(b)に示すコンクリート試験体22と同様に、形成される覆工コンクリート10の覆工断面の一部である、トンネル20の底盤部20cと近接する一方の側壁部の下端部分20dの内壁面20aに重ねて、比較例1のコンクリート試験体を形成した。すなわち、側壁部の下端部分20dの吹付けコンクリート41が吹き付けられたトンネル20の内壁面20aに防水シート29を取り付けると共に、所定の間隔をおいて試験体用の型枠21を組み立て、さらに温度計測用の熱電対30を、型枠21の内部の厚さ方向中央部分に配置した後に、覆工コンクリート10に用いるコンクリートと同様の配合のコンクリートを型枠21の内部に打設する。
【0052】
比較例1のコンクリート試験体では、表1に示すように、コンクリートの打設後〜脱型までの15時間、トンネル坑内20bの温度環境及び湿度環境下で養生(型枠内養生工程)を行った後に、脱型して、引き続き同様のトンネル坑内20bの温度環境及び湿度環境下で養生を行った。この間における、コンクリート試験体の厚さ方向中央部分の温度の推移を、熱電対30を用いて計測した。計測結果を図8(a)に示す。また、コンクリート試験体の硬化時の硬化温度のピーク温度を検出して、後述する比較例2、実施例1、2、及び参考例1のコンクリート試験体における養生時の温度を設定した。検出された比較例1のコンクリート試験体の硬化時のピーク温度は29℃だった。
【0053】
なお、比較例1及び後述する比較例2、実施例1、2、及び参考例1において、使用したコンクリートの配合を表2に示す。また、トンネル坑内20bの温度環境は17〜20℃、湿度環境は76〜86%RHだった。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
図5及び図6(a)、(b)に示すコンクリート試験体22と同様に、形成される覆工コンクリート10の覆工断面の一部である、トンネル20の底盤部20cと近接する一方の側壁部の下端部分20dの内壁面20aに重ねて、比較例2のコンクリート試験体を形成した。
【0057】
比較例2のコンクリート試験体では、表1に示すように、コンクリートの打設後〜脱型までの15時間、トンネル坑内20bの温度環境及び湿度環境下で養生(型枠内養生工程)を行った後に脱型し、しかる後に図7に示すように、脱型したコンクリート試験体の表面に保湿養生層32として商品名「うるおんマット」(フジモリ産業株式会社製)を取り付けて、30℃の温水をマットに供給して湿潤させた後に、コンクリートの打設後15〜72時間の間、湿潤養生を行った。この間、新たに温水を供給し続けなかった。コンクリートの打設後72時間以降は、168時間まではマットをそのままにしてトンネル坑内20bの温度環境及び湿度環境下で養生を行った後に、マットを取り外して、さらにトンネル坑内20bの温度環境及び湿度環境下で養生を行った。この間における、コンクリート試験体の厚さ方向中央部分の温度の推移を、熱電対30を用いて計測した。計測結果を図8(b)に示す。
【0058】
図5及び図6(a)、(b)に示すコンクリート試験体22と同様に、形成される覆工コンクリート10の覆工断面の一部である、トンネル20の底盤部20cと近接する一方の側壁部の下端部分20dの内壁面20aに重ねて、実施例1、2、及び参考例1のコンクリート試験体を形成した。
【0059】
実施例1、2、及び参考例1のコンクリート試験体では、表1に示すように、コンクリートの打設後〜脱型までの15時間、コンクリート試験体のトンネル坑内20b側の表面を30℃に加温した状態で養生(型枠内養生工程)を行った後に脱型し、しかる後に図7に示すように、脱型したコンクリート試験体の表面に保湿養生層32として、加温及び保湿機能を備える商品名「加温マット」(テクノプロ株式会社製)を取り付けて、30℃の温水をマットに供給して湿潤させた後に、所定の温度に加温させた状態で、コンクリートの打設後15〜72時間の間、加温湿潤養生(加温湿潤養生工程)を行った。
【0060】
ここで、実施例1のコンクリート試験体では、表面を加温する所定の温度は、比較例1のコンクリート試験体で検出された硬化時のピーク温度と同様の29℃とし、実施例2のコンクリート試験体では、表面を加温する所定の温度は、比較例1のコンクリート試験体で検出された硬化時のピーク温度+10℃である39℃とし、参考例1のコンクリート試験体では、表面を加温する所定の温度は、比較例1のコンクリート試験体で検出された硬化時のピーク温度+20℃である49℃とした。
【0061】
また、コンクリートの打設後15〜72時間、加温湿潤養生工程を行う間、新たに温水を供給し続けなかった。コンクリートの打設後72時間以降は、168時間までは、コンクリート試験体の表面の加温を停止すると共に、マットをそのままにして、トンネル坑内20bの温度環境及び湿度環境下で養生を行った後に、マットを取り外して、さらにトンネル坑内20bの温度環境及び湿度環境下で養生を行った。この間における、実施例1、2、及び参考例1のコンクリート試験体の厚さ方向中央部分の温度の推移を、熱電対30を用いて計測した。計測結果を図8(c)〜(e)に示す。なお、図8(e)のチャートは、他の図8(a)〜(d)のチャートとは、異なるスケールで描かれている。
【0062】
〔若材齢時の反発硬度と圧縮強度の測定〕
若材齢時の反発硬度の測定は、比較例1、2のコンクリート試験体、実施例1、2のコンクリート試験体、及び参考例1のコンクリート試験体に対して、材齢15、18、21、24時間に、5N/mm2低反発用シュミットハンマーPT型を使用して、コンクリート養生面を10回打撃することにより行った。シュミットハンマーによる反発硬度の測定は、JIS A 1155に準じて行った。反発硬度から圧縮強度への変換は、シュミットハンマー用強度変換曲線及び材料学会式を使用した。反発硬度の測定結果及び圧縮強度に変換した推定強度を表3に示す。
【0063】
【表3】

【0064】
表3に示す若材齢時の反発硬度及び圧縮強度の測定結果によれば、所定の温度で加温湿潤養生を行った実施例1、2のコンクリート試験体、及び参考例1のコンクリート試験体は、加温湿潤養生を行わなかった比較例1、2のコンクリート試験体と比較して圧縮強度が大きくなっており、したがって初期強度が向上していることが判明する。
【0065】
〔耐久性に関する測定〕
耐久性に関する測定として、圧縮強度の測定、表面透気度係数の測定、及び細孔径分布の測定を行った。
【0066】
圧縮強度の測定は、比較例1、2のコンクリート試験体、実施例1、2のコンクリート試験体、及び参考例1のコンクリート試験体から各々採取した、材齢28、56、91日の各2本のφ120×240mmのコア試験体について、200kN用コンクリート圧縮試験機を使用した圧縮強度試験により行った。圧縮強度試験は、JIS A 1108に準じて行った。圧縮強度の試験結果を表4に示す。なお、表4において、カッコ内の数値は、比較例1のコンクリート試験体の各材齢時の圧縮強度で正規化した、圧縮強度の比を示すものである。
【0067】
【表4】

【0068】
表4に示す圧縮強度の試験結果によれば、所定の温度で加温湿潤養生を行った実施例1、2のコンクリート試験体、及び参考例1のコンクリート試験体は、加温湿潤養生を行わなかった比較例1、2のコンクリート試験体と比較して、若材齢時だけでなく、91日経過した後も、圧縮強度が大きくなっていることが判明する。
【0069】
表面透気度係数の測定は、比較例1、2のコンクリート試験体、実施例1、2のコンクリート試験体、及び参考例1のコンクリート試験体から各々採取した、材齢28、56、91日のφ120×240mmのコア試験体について、表面透気試験機(トレント法)を使用して行った。試験は、コア試験体の養生面の表面に2重チャンバーで構成されている真空セルを設置して行い、真空セルで吸引することによって表面透気度係数を測定した。表面透気度係数の測定結果を表5に示す。
【0070】
【表5】

【0071】
表5に示す表面透気度係数の測定結果によれば、所定の温度で加温湿潤養生を行った実施例1、2のコンクリート試験体、及び参考例1のコンクリート試験体は、加温湿潤養生を行わなかった比較例1、2のコンクリート試験体と比較して、コンクリートの表層部分が緻密になっており、耐久性が向上していることが判明する。
【0072】
細孔径分布の測定は、比較例1、2のコンクリート試験体、実施例1、2のコンクリート試験体、及び参考例1のコンクリート試験体から各々採取した、材齢28、56、91日のφ120×240mmのコア試験体について、測定範囲3mm〜200μmの水銀圧入式ポロシメーターを使用して行った。試験は、コア試験体を粉砕して、2〜5mmのモルタル塊を採取し、採取したモルタル塊を24時間以上に真空引きによって乾燥させて試料を作製し、作製したモルタル分の試料約6.2gを、水銀圧入式ポロシメーターに供して細孔径分布を測定した。細孔径分布を測定結果を図9(a)、(b)に示す。なお、図9(a)は、コンクリート表面から0〜10mmの深さの細孔量であり、図9(b)は、コンクリート表面から45〜55mmの深さの細孔量である。
【0073】
図9(a)、(b)に示す細孔径分布を測定結果によれば、湿潤養生を行った比較例2、実施例1、2のコンクリート試験体、及び参考例1のコンクリート試験体は、湿潤養生を行わなかった比較例1のコンクリート試験体と比較して、コンクリート表面から0〜10mmの総細孔容積量(300μm以下)は6〜14%減少していることがことが判明する。逆に、孔径の小さいゲル空隙(0.01μm以下)は、比較例2、実施例1、2のコンクリート試験体、及び参考例1のコンクリート試験体では増加し、0.01〜2μmの毛細管空隙は、比較例2、実施例1、2のコンクリート試験体、及び参考例1のコンクリート試験体では減少している。このことから、コンクリートの空隙構造は、湿潤養生を行った比較例2、実施例1、2のコンクリート試験体、及び参考例1のコンクリート試験体の方が、湿潤養生を行わなかった比較例1のコンクリート試験体と比較して、密になっていることが判明する。これによって、湿潤養生を行うことにより水和反応が促進され、コンクリートが緻密になることが判明する。
【0074】
以上のことから、本発明のトンネル覆工コンクリートの養生方法に係る実施例1、2のコンクリート試験体、及び参考例1のコンクリート試験体によれば、脱型時の強度発現の増加を図ることが可能になると共に、長期的にはコンクリートの表層部分が緻密になっており、耐久性が向上することが判明する。なお、参考例1のように、加温湿潤養生工程において覆工コンクリートを加温する温度が高すぎると、加温湿潤養生工程後の湿潤養生工程でのクールダウンによる温度低下量が大きくなり過ぎて、ひび割れが発生する可能性が高くなると考えられる。
【符号の説明】
【0075】
10 覆工コンクリート
11 移動式セントル
12 トンネル覆工型枠
13 支持フレーム
14 走行レール
15 伸縮ジャッキ
16 養生装置
17 移動架台
18 保湿養生層
19 シェル構造体
20 トンネル
20a トンネルの内壁面
20b トンネル坑内
20c トンネルの底盤部
20d トンネルの一方の側壁部の下端部分
22 コンクリート試験体
23 支持部材
24 枠部材
25 外面パネル
26 内側層
27 保湿マット
28 ヒータ部材
29 防水シート
30 熱電対
31 断熱材
32 保湿養生層
40 トンネル外周の地山
41 吹き付けコンクリート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル覆工型枠を設置してコンクリートを打設することにより、トンネルの内壁面を覆って形成されるトンネル覆工コンクリートの養生方法において、
設置された前記トンネル覆工型枠とトンネルの内壁面との間の空間にコンクリートを打設した後に、前記型枠を脱型するまでの間、前記トンネル覆工型枠によりコンクリートを支持して行われる型枠内養生工程と、前記トンネル覆工型枠を脱型した後に、形成された覆工コンクリートの内面を加温湿潤状態に保持して行われる加温湿潤養生工程と、さらに前記覆工コンクリートの内面を湿潤状態に保持して行われる湿潤養生工程とを含んで構成されており、
前記コンクリートを打設する作業に先立って、トンネル坑内の内壁面に沿って試験体用の型枠を設置してコンクリートを打設することで、前記覆工コンクリートの厚さに相当する厚さを備えるコンクリート試験体をトンネルの内壁面に重ねて形成して、前記トンネル坑内の環境下における前記コンクリート試験体の厚さ方向中間部分の硬化時の硬化温度を計測することにより、該硬化温度のピーク温度を予め検出しておき、
少なくとも前記加温湿潤養生工程において、予め検出された前記ピーク温度〜前記ピーク温度+10℃の温度で前記覆工コンクリートの内面を加温した状態で、前記覆工コンクリートの養生を行うトンネル覆工コンクリートの養生方法。
【請求項2】
前記型枠内養生工程において、予め検出された前記ピーク温度〜前記ピーク温度+10℃の温度で前記覆工コンクリートの内面を加温した状態で、前記覆工コンクリートの養生を行う請求項1記載のトンネル覆工コンクリートの養生方法。
【請求項3】
前記トンネル覆工型枠は、前記トンネル坑内をこれの延長方向に移動可能な移動式セントルを用いて設置される請求項1又は2記載のトンネル覆工コンクリートの養生方法。
【請求項4】
前記型枠内養生工程は12〜18時間行なわれ、前記加温湿潤養生工程は48〜72時間行なわれる請求項1〜3のいずれか1項記載のトンネル覆工コンクリートの養生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−23876(P2013−23876A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−158740(P2011−158740)
【出願日】平成23年7月20日(2011.7.20)
【出願人】(000140292)株式会社奥村組 (469)
【Fターム(参考)】