説明

ドットラインプリンタ

【課題】 消費電力の増大を伴うことなく安価に明瞭な印字結果を得るドットラインプリンタを提供する。
【解決手段】 ハンマピン先端の打撃面、すなわち印字動作においてインクリボンを介して印字用紙を打撃するときの接触面に、断面積を縮小させて、印字ハンマの打撃力の面圧を上げるよう作用する凹形状が形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、桁方向に複数並べて配列された印字ハンマ群によりドット印字を行うドットラインプリンタに係り、特にそのハンマ機構部に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ドット印字を行う代表的な印字装置であるドットラインプリンタは、ドット印字を行う印字ハンマを実装したハンマ機構部を、シャトル機構部により桁方向に往復運動させて印字を行うプリンタである。
【0003】
板バネ状の印字ハンマは、板バネの先端にハンマピンを取り付けることによって構成されている。その印字ハンマを非印字位置にて保持するコムヨークが印字ハンマの板バネの上部でハンマピンの装着面と反対の面に対向するように延びており、コムヨークの基端部は印字ハンマを非印字位置に保持するために磁気吸引力を発生する永久磁石と接触している。また、コムヨークには印字ハンマを駆動するための釈放用印字コイルが配置されている。
【0004】
板バネは予め持たせた撓みエネルギーを有した状態でコムヨークに磁気吸引されており、釈放用電磁コイルにより磁気吸引力が打ち消されたときに板バネを開放する。この際、板バネの先端に装着されているハンマピンがインクリボンを介して印字用紙にドット印字を行う。そして、永久磁石の磁気吸引力の復帰により板バネはコムヨークとの接触位置(非印字位置)に戻るまでの一連の動作を繰返すことにより、順次、印字がなされる。
【0005】
図6は、従来のドットラインプリンタにおけるハンマピン11の先端部付近を示す一部斜視図である。ハンマピンは、基部71、先端部72及び接続部73とで構成されており、ハンマピンの先端部72付近は、およそ10億回のドット印字に耐えうるよう耐摩耗性の金属が接合されたものとなっている。この先端部分の直径(D2)は、漢字印字に適したドット径を得るため、0.2mm程度となっている。
【0006】
ドットラインプリンタは一般的に、通常印字モードよりもハンマ機構部の桁方向への移動速度を高速に、また、行方向(用紙搬送方向)への1回毎の紙送り量を増加することで、連続ドットの間引き印字を行った高速印字モードを備えている。
【0007】
高速印字モードによる間引き印字を行った場合、1ドット自体の印字濃度に差は無いが、通常印字モードよりも印字密度が低くなるため、印字結果は通常印字モードに比べると薄い印象を受けることがある。例えば、数字の「1」を印字する場合において、図7に示す通常印字モードでの印字ドット数に対して、図8に示す高速印字モード(間引き印字)の印字ドット数は桁方向及び行方向において、夫々1/2と半減する。
【0008】
また、高速印字モードによる間引き印字を行った場合、隣接するドット間隔(L2)は通常印字モードの隣接するドット間隔(L1)よりも大きくなるため、特に英数字のような比較的単純な文字構成については、不明瞭な印字結果となることがある。そこで、英数字を主として印字する市場向けには、例えば図9に示すように、ドット径を、漢字を主として印字する市場向けよりも拡大することで、隣接するドットが重なるようにして、明瞭な印字結果を得るようにしていた。
【0009】
しかし、ドット径を拡大していくと、ドット印字した場合、ハンマピン先端の打撃面、すなわちハンマピン先端がインクリボンを介して印字用紙に打撃するときの接触面の断面積も大きくなるため、ハンマピン先端の打撃面の面圧、すなわち単位面積当たりの印字ハンマの打撃力が低下し、通常のドット径の印字結果に比べ、ぼやけた印象を受けるという問題があった。これは、印字ハンマのばねエネルギーによる打撃力は同じであっても、印字の圧力(ハンマピンの先端部が印字用紙へ打撃する際の圧力)が面積によって変わるため、ドットの面積が小さいと濃い印字結果に、ドットの面積が大きいと薄い印字結果となることに起因する。
【0010】
上述した問題を解決する方法として、間引き印字を行った場合、1ドット自体の印字濃度を、印字ハンマを動作させる時の釈放コイルに与える電流値、または印加時間を増し、印字ハンマの打撃力を上げることで、間引き印字の場合の印字濃度を向上させた例がある(例えば、下記特許文献1参照)。
【0011】
また、ハンマピンのピッチ精度を向上させるために、ハンマピンをハンマスプリングに取り付けた後に加工できるよう、ハンマピンの先端形状を、桁方向と平行な稜線を持たない多角形とした例がある(例えば、下記特許文献2参照)。
【0012】
【特許文献1】特開平02−72963号公報
【特許文献2】特開平04−25469号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前記のように、英数字を主として印字する市場向けのドットラインプリンタにおいて、高速印字モードによる間引き印字を行った場合、隣接するドット間の隙間が大きくなり、印字結果が不明瞭となるのを防ぐため、ハンマピンのドット径を拡大していくと、ハンマピン先端の打撃面の断面積も増加するため、ハンマピン先端の打撃面の面圧が低下し、印字結果はぼやけた印象を受けるという問題があった。
【0014】
この対策として、印字ハンマを動作させる時の釈放コイルに与える電流値、または印加時間を増し、印字ハンマの打撃力を上げることで、間引き印字の場合の印字濃度を向上させる場合、消費電力、及び発熱の増大を伴うという問題があった。
【0015】
また、ハンマピンの先端形状を例えば、四角形、すなわち菱形状とした場合、通常の円形の場合と比べると、ハンマピン先端の打撃面の断面積は小さくなり、ハンマピン先端の打撃面の面圧は高くなるが、ドット中心間の間隔を同じとして比べた場合、ドット外周間の間隔が広がるので、印字結果は薄い印象を受けることがある。ハンマピンの先端形状を五角形以上とした場合には、徐々に円形に近づくので、打撃面の断面積を小さくして、打撃面の面圧を上げる効果は少なくなる。
【0016】
そこで、本発明は消費電力の増大を伴うことなく安価に明瞭な印字結果を得るドットラインプリンタを実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記目的を達成するための本発明の請求項1記載の発明は、桁方向に所定のピッチで並設され、先端にドット印字を行うハンマピンを設けた複数の板バネ状の印字ハンマと、該印字ハンマを非印字位置に保持するために磁気吸引力を発生する永久磁石と、前記印字ハンマを駆動するために各印字ハンマに設けられ、所定の釈放電流が供給されて前記永久磁石の磁界を打ち消す釈放用電磁コイルとを有するハンマ機構部を備えたドットラインプリンタにおいて、前記ハンマピンの打撃面に凹部を形成したことを特徴とする。
【0018】
本発明の請求項2記載の発明は、請求項1記載のドットラインプリンタにおいて、前記ハンマピンの打撃面に半球状の凹部が形成されていることを特徴とする。
【0019】
本発明の請求項3記載の発明は、請求項2記載のドットラインプリンタにおいて、前記半球状の凹部が前記ハンマピンの打撃面の中央部に設けられていることを特徴とする。
【0020】
本発明の請求項4記載の発明は、請求項1記載のドットラインプリンタにおいて、前記ハンマピンの打撃面に溝状の凹形状が形成されていることを特徴とする。
【0021】
本発明の請求項5記載の発明は、請求項1ないし5のいずれかに記載のドットラインプリンタにおいて、前記ハンマピンの先端部の直径をおよそ0.4mmとしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
ハンマピンは、英数字を主として印字する市場向けのドットラインプリンタにおいて、消費電力の増大を伴うことなく、明瞭な印字結果を得られ、品質を損なうことなく安価なドットラインプリンタを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明について図面とともに説明する。
図1は実施形態に係るハンマピン先端部付近の一部断面図、図3はドットラインプリンタ全体の概略構成図、図4はハンマ機構部の拡大断面図である。
【0024】
まず、図3を用いてドットラインプリンタの全体の概略構成について説明する。図3に示したハンマ機構部50の両端部は夫々直動軸受53によってスライド自在に支持され、シャトル機構部51によって桁方向に往復駆動される。
【0025】
板バネ10とハンマピンを11備えた印字ハンマ52は、図3に示すように、桁方向に所定のピッチで多数配列されている。各印字ハンマ52の打撃力を受けるプラテン17は、インクリボン15および印字用紙16を介してハンマ機構部50と対向するように所定のギャップを設けて配置されている。
【0026】
エンドレス状のインクリボン15の大部分はリボンカセット54に収容されており、リボンブレーキ59によって予め張力を与えられたインクリボン15は、複数本のリボンガイド56を経由してリボンドライブローラ55によって巻き取られ再びリボンカセット54に戻る機構になっている。
【0027】
シャトル機構部51は、シャトルモータ57と、それによって回転駆動されるクランク機構58とを有し、そのクランク機構58の一部にハンマ機構部50が連結されている。
【0028】
ハンマ機構部50の詳細を図4に示す。印字ハンマ52は、板バネ10の先端にハンマピン11を取り付けることによって構成されている。その印字ハンマ52を非印字位置にて保持するコムヨーク14が、印字ハンマ52の板バネ10の上部でハンマピン11の装着面と反対の面に対向するように延びており、コムヨーク14の基端部は印字ハンマ52を非印字位置に保持するために磁気吸引力を発生する永久磁石13と接触している。また、コムヨーク14には印字ハンマ52を駆動するための釈放用印字コイル12が配置されている。
【0029】
前記板バネ10は予め持たせた撓みエネルギーを有した状態でコムヨーク14に磁気吸引されており、釈放用電磁コイル12により磁気吸引力が打ち消されたときに板バネ10を開放する。この際、板バネ10の先端に装着されているハンマピン11がインクリボン15を介して印字用紙16にドット印字を行う。そして、永久磁石13の磁気吸引力の復帰により板バネ10はコムヨーク14との接触位置(非印字位置)に戻るまでの一連の動作を繰返すことにより、順次、印字がなされる。
【0030】
炭素工具鋼よりなる基部61、白金族系材料よりなる先端部62、及び炭素工具鋼よりなる接続部63で構成されるハンマピン11は、先端部62付近に耐摩耗性金属(白金族系材料)を抵抗溶接などにより溶着し、その後円筒研削により所定の先端形状に仕上げることによって形成される。そして、本発明においては、前記ハンマピンの先端部、すなわち印字動作において、インクリボンを介して印字用紙を打撃するときの接触面(打撃面)の断面積を縮小させる先端形状が形成されていることを特徴とする。上記のハンマピン先端の打撃面を縮小させる先端形状は、従来のハンマピンの加工工程にハンマピン先端の打撃面の研削加工の工程を追加することで形成される。
【0031】
本発明の一例として、図1に示すように、ハンマピン11の先端部62の打撃面に、半球状の凹形状64を形成する。このときの先端部分の直径(D1)は、従来のものに比べ、およそ2倍の直径を有する。具体的な寸法としては、0.4mm程度である。すなわち、ハンマピンの先端部の打撃面について、ハンマピンの先端部の外径を、従来の0.2mmから0.4mmと大きくし、かつこの外径の増加に伴う断面積の増加を抑えるよう、ハンマピンの先端部の打撃面の一部に凹部を形成した。
【0032】
上記構成によれば、ハンマピン11の先端部62の打撃面、すなわち印字動作においてインクリボンを介して印字用紙を打撃するときの接触面の断面積が、ドット径の外形寸法を、大きい直径を維持したまま縮小できるため、ハンマピン先端の打撃面が平面の場合に比べて、同じ印字ハンマの打撃力に対して、面圧を上げることができ、明瞭な印字結果を得ることができる。
【0033】
なお、ハンマピン11については、ドット径の中央部付近を中空とするので、ドット径の中央部がインクリボンを介して印字用紙を直接打撃することは無いが、実際の印字結果はハンマピン先端の打撃面の周囲に、インクリボンからインクがにじんで付着した状態になっており、実際のドット印字結果が中央部の中空部64による白抜きを発生させることにはならないため、実用上は問題ない。
【0034】
その他の例として、図5に示すように、ハンマピン11先端の打撃面に、ネジの頭部のような溝状の凹形状62を形成しても同様の効果を得ることができる。
【0035】
このような構成であっても、ドット径の外径寸法は変えずに、ハンマピン先端の打撃面の断面積が縮小されるため、同様の効果が得られる。
【0036】
以上の説明では、ハンマピン先端の打撃面に半球状の凹形状、または溝状の凹形状を形成した場合について説明したが、ドット径の外径寸法を減らさずにハンマピン先端の打撃面の断面積を縮小させる形状であれば、他の形状でも良い。
【産業上の利用可能性】
【0037】
比較的単純な文字構成である英数字を主として印字する市場向けのドットラインプリンタにおいて、ハンマピン先端の打撃面の形状を工夫し、1ドットの印字結果を明瞭にすることで、消費電力の増大を伴うことなく、良好な印字結果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の一例となるハンマピンの一部断面図である。
【図2】図1のハンマピンの斜視図である。
【図3】ドットラインプリンタの全体の概略構成図である。
【図4】ハンマ機構部の拡大断面図である。
【図5】本発明の他の例となるハンマピンの斜視図である。
【図6】従来のハンマピンの一例となる斜視図である。
【図7】従来のドットラインプリンタにおける通常印字モードの印字結果の一例である。
【図8】従来のドットラインプリンタにおける高速印字モードの印字結果の一例である。
【図9】従来のドットラインプリンタにおける高速印字モードの印字結果の一例である。
【符号の説明】
【0039】
10は板バネ、11はハンマピン、12は釈放用電磁コイル、13は永久磁石、14はコムヨーク、15はインクリボン、16は印字用紙、17はプラテン、50はハンマ機構部、51はシャトル機構部、52は印字ハンマ、53は直動軸受、54はリボンカセット、55はリボンドライブローラ、56はリボンガイド、57はシャトルモータ、58はクランク機構、59はリボンブレーキ、61は半球状の凹形状、62はハンマピン基部、63はハンマピン接続部、64は溝状の凹形状、71はハンマピン先端部、72はハンマピン基部、73ハンマピン接続部である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
桁方向に所定のピッチで並設され、先端にドット印字を行うハンマピンを設けた複数の板バネ状の印字ハンマと、該印字ハンマを非印字位置に保持するために磁気吸引力を発生する永久磁石と、前記印字ハンマを駆動するために各印字ハンマに設けられ、所定の釈放電流が供給されて前記永久磁石の磁界を打ち消す釈放用電磁コイルとを有するハンマ機構部を備えたドットラインプリンタにおいて、
前記ハンマピンの打撃面に凹部を形成したことを特徴とするドットラインプリンタ。
【請求項2】
請求項1記載のドットラインプリンタにおいて、
前記ハンマピンの打撃面は半球状の凹部が形成されていることを特徴とするドットラインプリンタ。
【請求項3】
請求項2記載のドットラインプリンタであって、
前記半球状の凹部は前記ハンマピンの打撃面の中央部に設けられていることを特徴とするドットラインプリンタ。
【請求項4】
請求項1記載のドットラインプリンタにおいて、
前記ハンマピンの打撃面は溝状の凹形状が形成されていることを特徴とするドットラインプリンタ。
【請求項5】
請求項1ないし5のいずれかに記載のドットラインプリンタにおいて、
前記ハンマピンの先端部の直径をおよそ0.4mmとしたことを特徴とするドットラインプリンタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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