説明

ナットの回転抑制構造

【課題】所定の締め付けトルクでナットが締め付けられることと、該締め付けられた状態でナットの回転を抑制することとの両立が可能なナットの回転抑制構造を提供する。
【解決手段】軸方向Aに向かって延びて、ホイールハブ10を回転自在に支持するナックルスピンドル14と、ナックルスピンドル14の雄ねじに螺着されるナット15と、ナット15に対し該ナット15とともに回転するように連結され、ナックルスピンドル14のキー溝14bに係合することにより該ナット15の回転を抑制する回転抑制部材30と、を有し、回転抑制部材30は、軸方向Aを回転中心にして回転可能にナックルスピンドル14が内挿される管状部31と、ナット15に連結されるフランジ32とを有し、管状部31にナックルスピンドル14が内挿され、且つフランジ32がナット15に連結された状態で、管状部31の一部がキー溝14bにかしめられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナットの回転抑制構造であって、例えばナックルスピンドルやアスクルハウジング等の軸部材にホイールハブを取り付けるためのナットに適用されるナットの回転抑制構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両のフロントアクスル部には、ナックルスピンドルに回転自在に支持されるホイールハブが該ナックルスピンドルに対してナットで取り付けられている。図5は、ホイールハブがナットによりナックルスピンドルに取付けられた取付け構造を示す断面図である。
【0003】
図5に示されるように、ホイールハブ10は、該ホイールハブ10の内側に配設されたベアリング11,12によって、ナックル13のナックルスピンドル14に回転自在に支持されている。ナックルスピンドル14には、ホイールハブ10から突出する突出部14aの外側面に図示されない雄ねじが形成され、該突出部14aには、ベアリング11,12に適正な予圧を与える所定の締め付けトルクでナット15が螺着される。
【0004】
また、ホイールハブ10には、ホイール16及びブレーキドラム17が複数のホイールボルト18及びホイールナット19によって固定される。このようなホイールハブ10とナックルスピンドル14との連結構造に対し、特許文献1には、さらにナット15にロックプレートを固定する技術が開示されている。図6は、特許文献1に記載されたナットの回転抑制構造を構成する各構成部材の斜視構造を示した分解斜視図である。
【0005】
図6に示されるように、特許文献1に記載のナットの回転抑制構造において、軸方向Aに沿って延びるナックルスピンドル14には、該ナックルスピンドル14の先端面14cに開口を有するキー溝14bが軸方向Aに沿って延出形成されている。ナット15の端面15aには、3つの雌ねじ20が周方向に沿って120°毎に穿設されている。ロックプレート25は、ナックルスピンドル14が内挿される挿入口26を中心部に有する円板状をなしており、その内縁にはナックルスピンドル14のキー溝14bに係合する係合片27が中心方向に向かって延出形成されている。また、ロックプレート25には、18個のボルト孔28が周方向に沿って20°毎に穿設され、これら18個のボルト孔28のうち3個のボルト孔28は、係合片27がキー溝14bと係合する状態で、ナット15の雌ねじ20と対向するように配置されている。
【0006】
そして、ナックルスピンドル14にホイールハブ10が仮付けされると、ベアリング11,12に適正な予圧を与える所定の締め付けトルクでナックルスピンドル14にナット15が螺着される。次いで、キー溝14bに係合片27が係合された状態でロックプレート25の挿入口26にナックルスピンドル14が内挿され、ボルト孔28を通じてボルト29が雌ねじ20に螺着されることによって、ロックプレート25がナット15に固定される。
【0007】
こうした構造であれば、ナックルスピンドル14のキー溝14bと、ナット15に固定されたロックプレート25の係合片27との係合によって、ナット15の回転が抑制される。しかも、ロックプレート25のボルト孔28がナット15の雌ねじ20よりも狭い間隔で配置されていることから、これら雌ねじ20とボルト孔28との位置が合わせやすくなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実開平05−83451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述したナットの回転抑制構造においては、ロックプレート25には、ナックルスピンドル14のキー溝14bに係合する係合片27を基準にして各ボルト孔28が形成されている。また、所定の締め付けトルクを具現化するナット15の回転量も、その時々に応じて区々である。そのため、ナット15にロックプレート25を固定する際には、ナット15の雌ねじ20とロックプレート25のボルト孔28との位置合わせが必要となる。
【0010】
この際、特許文献1では、ロックプレート25の係合片27がキー溝14bに係合していることから、ナット15の回転量を調整することが余儀なくされる。こうした回転量の調整は、結局のところ、ベアリング11,12に与えられる予圧を変化させるため、ベアリング11,12の短命化や発熱の増大等といった軸受性能の低下を招く。しかも、近年では、フロントアクスル部の組立性の向上を図るべく、2つのベアリング11,12のインナーレース及びアウターレースを共通化させたユニット型のベアリングが用いられることも少なくない。このユニット型のベアリングにおいては、適正な予圧の範囲が非常に狭いため、上述したナット15の回転量の調整が行われるとなれば軸受性能が著しく低下する虞があった。なお、こうした問題は、フロントアクスル部に限らず、リアアクスル部においても共通した問題である。
【0011】
本発明は、上記実情を鑑みてなされたものであり、その目的は、所定の締め付けトルクでナットが締め付けられることと、該締め付けられた状態でナットの回転を抑制することとの両立が可能なナットの回転抑制構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の態様の一つは、ホイールハブが支持される軸部材と、前記軸部材のうち前記ホイールハブから突出する部分に螺着されるナットと、前記軸部材のうち前記ナットから突出する部分に取り付けられ前記ナットの回転を抑制する回転抑制部材とを有し、前記軸部材は、前記ナットから突出する部分にキー溝を有し、前記回転抑制部材は、前記軸部材のうち前記キー溝が形成された部分が内挿される管状部と、前記管状部と前記ナットとを連結する連結部とを有し、前記管状部は、前記キー溝にかしめ固定されているナットの回転抑制構造である。
【0013】
本発明の態様の一つでは、回転抑制部材の管状部がキー溝にかしめられることによりナットの回転が抑制される。この際、管状部がキー溝にかしめられるまでは、軸部材の軸方向と軸部材の周方向とに回転抑制部材が移動可能になる。すなわち、管状部がキー溝にかしめられるまでは、ナットに連結された回転抑制部材が、ナットとともに、軸部材の軸方向に移動可能になる。そのため、ナットの締め付け位置が定められた後に、該ナットの位置に合わせて回転抑制部材を軸部材に固定することが可能になる。それゆえに、回転抑制部材を軸部材に固定することに際し、ナットの回転量を調整することが必要とされなくなる。ひいては、所定の締め付けトルクで締め付けられた状態でナットの回転を抑制することができる。
【0014】
本発明の態様の一つは、前記連結部が、前記ナットにボルトで螺着されている。
本発明の態様の一つによれば、回転抑制部材がボルトの締め付けによってナットに固定されているため、ナットからボルトが取り外されることにより回転抑制部材とナットとの連結を解除することが可能になる。そのため、キー溝に対する管状部のかしめが解除されれば、回転抑制部材を交換することが可能にもなる。
【0015】
本発明の態様の一つは、前記軸部材のうち前記ナットから突出する部分が、前記回転抑制部材の管内に収容されている。
本発明の態様の一つによれば、軸部材のうちナットから突出する部分が回転抑制部材によって覆われるため、こうした部分に向けた機械的な外力が回転抑制部材に作用することとなる。それゆえに、軸部材に対する機械的な外力から軸部材を保護することも回転抑制部材によって可能となる。
【0016】
本発明の態様の一つは、前記ナットが、多角筒状であり、前記連結部が、前記ナットの嵌入される嵌入凹部を有し、前記ナットの外周面と前記嵌入凹部の内周面との係合により前記連結部と前記ナットとが連結されている。
【0017】
本発明の態様の一つによれば、ナットと連結部とが面接触により連結されるため、ナットと連結部とが点接触により連結される態様と比べて、これらの連結部位に作用するナットの回転力が分散することになる。そのため、軸部材の振動等によるナットの回転力が、ナットと連結部との連結部位に作用する場合であっても、これらの連結状態をより安定に保持することが可能にもなる。
【0018】
本発明の態様の一つは、前記軸部材は、前記管状部から突出する部分を有し、前記軸部材の軸方向では、該突出する部分の途中に前記キー溝の端部を有し、前記キー溝は、前記管状部からはみ出す部分を有し、前記軸部材の軸方向では、前記はみ出す部分の長さが前記嵌入凹部の深さよりも小さい。
【0019】
本発明の態様の一つによれば、回転抑制部材が軸方向に移動し、かしめられた部分がキー溝の端部に当接したとしても、嵌入凹部にナットが嵌入された状態が維持されることになる。そのため、回転抑制部材の軸方向への移動では回転抑制部材とナットとの連結が解除され難くなる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明におけるナットの回転抑制構造を具体化した第1実施形態の概略構成を示す斜視図。
【図2】第1実施形態における回転抑制部材の連結部とナットとが連結された状態を示す斜視図。
【図3】本発明におけるナットの回転抑制構造を具体化した第2実施形態の概略構成を示す斜視図。
【図4】第2実施形態における回転抑制部材の連結部とナットとが連結された状態を示す斜視図。
【図5】従来例において、フロントアクスル部におけるホイールハブ付近の断面構造を示す断面図。
【図6】特許文献1に記載されたナットの回転抑制構造の基本構造を説明するための説明図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(第1実施形態)
以下、本発明のナットの回転抑制構造を具体化した第1実施形態について、図1及び図2を参照して説明する。なお、第1実施形態において、図5及び図6における部材と同様の部材については同様の符号を付すことによりその詳細な説明は省略する。
【0022】
図1に示されるように、第1実施形態において、ホイールハブ10を回転自在に支持する軸部材としてのナックルスピンドル14には、該ホイールハブ10から突出する突出部14aの外側面に図示されない雄ねじが形成されている。またナックルスピンドル14には、先端面14cに開口を有するキー溝14bが軸方向Aに沿って延出形成されている。
【0023】
ナックルスピンドル14の雄ねじに螺着されるナット15は、いわゆる六角ナットであって、当接面である端面15aには3つの雌ねじ20が周方向に沿って120°毎に穿設されている。
【0024】
ナット15の回転を抑制する回転抑制部材30は、ナックルスピンドル14が内挿される管状部31と、管状部31の端部に一体形成された円板状のフランジ32とで構成されている。管状部31は、ナックルスピンドル14が内挿された状態で該管状部31が軸方向Aを回転中心として回転可能な大きさに形成されており、また、軸方向Aにおける長さがナット15から突出する突出部14aの長さよりも長くなるように形成されている。
【0025】
連結部としてのフランジ32には、ナット15に形成された雌ねじ20の各々の対応するように、3つの貫通孔33が周方向に沿って120°毎に穿設されている。そして、貫通孔33と雌ねじ20とが互いに向かい合う位置で、フランジ32の貫通孔33を通じてナット15の雌ねじ20にボルト29が螺着されると、これによって、回転抑制部材30がナット15に固定される。なお、回転抑制部材30は、厚さ1.6mmのSPCC(冷間圧延鋼板)をプレス加工等で成型することによって管状部31とフランジ32とが一体形成される。
【0026】
次に、回転抑制部材30の取り付け手順について図2を参照して説明する。回転抑制部材30は、まず、フランジ32がナット15側に配置された状態で管状部31にナックルスピンドル14が内挿される。次に、回転抑制部材30は、管状部31にナックルスピンドル14が内挿されたまま軸方向Aを回転中心として回転させられて、フランジ32の貫通孔33とナット15の雌ねじ20との位置あわせが行なわれる。その後、回転抑制部材30は、フランジ32の貫通孔33を通じてナット15の雌ねじ20にボルト29が螺着されることによってナット15に固定される。
【0027】
そして、図2に示されるように、ナット15に固定された回転抑制部材30は、例えばたがねとハンマー等の工具を用いて、キー溝14bに対向する管状部31の部位であるかしめ部35が該キー溝14bにかしめられる。すなわち、回転抑制部材30は、ナット15に固定されたあと、ナックルスピンドル14のキー溝14bにかしめ部35がかしめられる。そして回転抑制部材30は、そのかしめられた管状部31のかしめ部35とキー溝14bとが係合することによって、ナット15の回転を抑制する。
【0028】
次に、第1実施形態におけるナットの回転抑制構造の作用について説明する。上述したように、回転抑制部材30には、管状部31のかしめ部35がナックルスピンドル14のキー溝14bにかしめられることに先行して、回転抑制部材30の回転による貫通孔33と雌ねじ20の位置あわせ、及びナット15に対する回転抑制部材30の固定が行なわれる。これによって、回転抑制部材30がナット15に固定される際、既に所定の締め付けトルクで締め付けられたナット15の回転量を調整すること、それを回避することができる。
【0029】
また、ナット15に対し回転抑制部材30がボルト29によって固定されていることから、ナット15から離間するように回転抑制部材30が軸方向Aに沿って移動することを抑えることができる。
【0030】
また、管状部31は、軸方向Aにおける長さがナット15から突出する突出部14aの長さよりも長くなるように形成されている。そのため、回転抑制部材30がナット15に連結されると、突出部14aの外側面が管状部31によって覆われる。その結果、ナックルスピンドル14の側面を機械的な外力から保護することができる。
【0031】
ところで、締め付け後に回転が抑制されるナットとして、ナットの雌ねじに例えば樹脂からなる抵抗材がコーティングされたナットも実用化されている。このナットは、締め付けにともなって抵抗材が変形し、その変形によって回転抵抗が増大することによってナットの回転を抑制している。また、上述した管状部31をナット15そのものに一体形成することも可能である。
【0032】
しかしながら、これらのナットは、所定の締め付けトルクで締め付けられた状態からの回転が抑制されるものの、その回転を抑制するにあたりナットの一部が確実に変形することになる。たとえ一部とはいえ変形してしまったナットは、その機械的な信頼性が著しく低下するため、ナックルスピンドル14から一旦取り外されたものを再利用することは回避されるべきである。つまり、例えば車両の点検等でナックルスピンドル14からナットを取り外す必要があるときには、その都度、新しいナットを用意する必要がある。
【0033】
ナックルスピンドル14に螺着されるナットは、その大きさが比較的大きく値段もそれ相応に高いものであるため、ナックルスピンドル14から取り外される度に交換が必要となれば、車両の所有者に対して大きな負担を強いることになる。
【0034】
この点、上述した構成であれば、ナックルスピンドル14にナット15を取り付ける際にナット15の一部が変形することがないことから、ナット15を再利用することが可能である。ただし、回転抑制部材30は、ナット15が取り外される度に交換する必要があるが、ナット15に比べれば安価であるため車両の所有者に対する負担を軽減することができる。
以上説明したように、第1実施形態のナットの回転抑制構造によれば、以下に列挙する効果が得られるようになる。
【0035】
(1)第1実施形態によれば、回転抑制部材30がナット15に固定される際、所定の締め付けトルクで締め付けられたあとでナット15の回転量を調整すること、それを回避することができる。それゆえに、所定の締め付けトルクで締め付けられた状態でナットの回転を抑制することができる。
【0036】
(2)第1実施形態によれば、ナット15に対して回転抑制部材30がボルト29によって固定されていることから、ナット15から離間するように回転抑制部材30が軸方向Aに沿って移動することを抑えることができる。
【0037】
(3)第1実施形態によれば、回転抑制部材30がナット15に連結されると、突出部14aの外側面が管状部31によって覆われることから、ナックルスピンドル14の外側面を機械的な外力から保護することができる。
【0038】
(4)第1実施形態によれば、ナックルスピンドル14からナット15を取り外したとしても、交換が必要となるのは安価な回転抑制部材30であって、高価なナット15は再利用することができる。それゆえに、車両の所有者に対する負担を軽減することができる。
【0039】
(第2実施形態)
次に、本発明のナットの回転抑制構造を具体化した第2実施形態について、図3及び図4を参照して説明する。なお、第2実施形態においても、図5及び図6における部材と同様の部材については同様の符号を付すことによりその詳細な説明は省略する。また、第2実施形態は、ナットに対する回転抑制部材の連結方法が第1実施形態とは異なるため、その異なる部分について詳細に説明する。
【0040】
図3に示されるように、第2実施形態において、ナックルスピンドル14には、先端面14cよりも基端側にキー溝14bの端部である閉塞部14dが形成されている。ナット15は、いわゆる六角ナットであって、当接面である端面15aが平坦な面に形成されている。
【0041】
回転抑制部材40は、ナックルスピンドル14が内挿される管状部41と、管状部41の基端に一体形成された角柱形状の連結部42とで構成されている。連結部42には、管状部41とは反対側の面にナット15が嵌入される嵌入凹部43が形成されている。嵌入凹部43は、正十二角形に基づく星形多角形を底面とする角柱形状に形成されており、連結部42の外形も、嵌入凹部43の形状に応じた星形多角形の角柱形状に形成されている。すなわち、回転抑制部材40は、嵌入凹部43にナット15が嵌入することにより、ナット15の外周面と嵌入凹部43の内周面との係合により連結部42とナット15とが連結される。
【0042】
また、第2実施形態のナックルスピンドル14は、回転抑制部材40にナット15が嵌入された状態で該回転抑制部材40の管状部41よりも軸方向A側に先端面14cが配置されるように形成されている。そして、ナックルスピンドル14のキー溝14bは、先端面14cにおける開口が閉塞部14dによって塞がれることで、管状部41からはみ出す部分の軸方向Aにおける長さが嵌入凹部43の深さよりも短くなるように形成されている。
【0043】
次に、回転抑制部材40の取り付け手順について図4を参照して説明する。回転抑制部材40は、まず、連結部42がナット15側に配置された状態で管状部41にナックルスピンドル14が内挿される。次に、回転抑制部材40は、管状部41にナックルスピンドル14が内挿されたまま軸方向Aを回転中心として回転させられて、嵌入凹部43にナット15が嵌入されるように、ナット15に対する位置あわせが行なわれる。その後、回転抑制部材40は、嵌入凹部43にナット15が嵌入されることによって該ナット15に連結される。
【0044】
そして、図4に示されるように、ナット15に連結された回転抑制部材40は、例えばたがねとハンマー等の工具を用い、キー溝14bに対向する管状部41の部位であるかしめ部45が該キー溝14bにかしめられる。すなわち、回転抑制部材40は、嵌入凹部43にナット15が嵌入されたあと、ナックルスピンドル14のキー溝14bに管状部41のかしめ部45がかしめられる。そして回転抑制部材40は、そのかしめられた管状部41のかしめ部45とキー溝14bとが係合することによって、ナット15の回転を抑制する。
【0045】
次に、第2実施形態におけるナットの回転抑制構造の作用について説明する。上述したように、回転抑制部材40は、管状部41の一部がナックルスピンドル14のキー溝14bにかしめられることに先行して、ナット15に対して連結される。すなわち、回転抑制部材40がナット15に連結される際、既に所定の締め付けトルクで締め付けられたナット15の回転量を調整すること、それを回避することができる。また、キー溝14bは、回転抑制部材40にナット15が嵌入されている状態で、管状部41の先端から軸方向A側への長さが嵌入凹部43の深さよりも短くなるように形成されている。そのため、回転抑制部材40が軸方向Aに沿って移動し、かしめられた管状部41のかしめ部45が閉塞部14dに当接したとしても、嵌入凹部43からナット15が抜出することが防止される。
【0046】
以上説明したように、第2実施形態のナットの回転抑制構造によれば、第1実施形態に記載した(1)(4)の効果に加えて、以下に列挙する効果が得られるようになる。
【0047】
(5)嵌入凹部43にナット15が嵌入することにより回転抑制部材40とナット15とが連結される。その結果、ボルト締め等を行なうことなく回転抑制部材40とナット15とが連結されることから、回転抑制部材40の取り付けに関する作業性を向上させることができる。
【0048】
(6)また、ナット15外側面と嵌入凹部43の内側面とが面接触した状態にあるため、ナット15の外側面と嵌入凹部43の内側面とが点接触する場合に比べて、これらの連結部位を通じて連結部42に作用するナット15の回転力が分散されることとなる。その結果、ナット15と連結部42との連結状態をより安定に保持することが可能にもなる。
【0049】
(7)キー溝14bは、回転抑制部材40にナット15が嵌入されている状態にて、管状部41からはみ出す部分の軸方向Aにおける長さが嵌入凹部43の深さよりも短くなるように形成されている。その結果、軸方向Aへの回転抑制部材40の移動が閉塞部14dによって抑制されたとしても、嵌入凹部43にナット15が嵌入された状態が維持されることから、ナット15と回転抑制部材40との連結が解除されること、それを防止することができる。
【0050】
(8)連結部42の外形が嵌入凹部43の形状に合わせた星形多角形の角柱形状であることから、その外形を目安としてナット15と回転抑制部材40との位置あわせを行なうことができる。
なお、上記実施形態は、以下のように適宜変更して実施することもできる。
【0051】
・第2実施形態のナックルスピンドル14において、閉塞部14dが割愛された構成であってもよい。ただし、嵌入凹部43にナット15を嵌入させるだけで、走行中の振動等によって回転抑制部材40が軸方向Aに沿って移動しないほど、これらが強固に連結されることが好ましい。
【0052】
・第1及び第2実施形態においてナット15は、多角筒状であればよく、六角ナットに限らず例えば八角ナット等であってもよい。なお、第2実施形態においては、ナットの形状に応じて連結部42の外形が変更されることが好ましい。
・第1実施形態において回転抑制部材30の管状部31は、軸方向Aにおける長さが、ナット15から突出する突出部14aの長さよりも短くてもよい。
【0053】
・第1実施形態において回転抑制部材30は、ボルト締めによりナット15に連結される。また、第2実施形態において回転抑制部材40は、嵌入凹部43にナット15が嵌入されることによりナット15に連結される。回転抑制部材とナットとの連結方法は、ナットの回転とともに回転抑制部材が回転するのであれば、これらに限られるものではない。
【符号の説明】
【0054】
A…軸方向、10…ホイールハブ、11…ベアリング、12…ベアリング、13…ナックル、14…ナックルスピンドル、14a…突出部、14b…キー溝、14c…先端面、14d…閉塞部、15…ナット、15a…端面、16…ホイール、17…ブレーキドラム、18…ホイールボルト、19…ホイールナット、20…雌ねじ、25…ロックプレート、26…挿入口、27…係合片、28…ボルト孔、29…ボルト、30…回転抑制部材、31…管状部、32…フランジ、33…貫通孔、35…かしめ部、40…回転抑制部材、41…管状部、42…連結部、43…嵌入凹部、45…かしめ部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホイールハブが支持される軸部材と、
前記軸部材のうち前記ホイールハブから突出する部分に螺着されるナットと、
前記軸部材のうち前記ナットから突出する部分に取り付けられ前記ナットの回転を抑制する回転抑制部材とを有し、
前記軸部材は、前記ナットから突出する部分にキー溝を有し、
前記回転抑制部材は、前記軸部材のうち前記キー溝が形成された部分が内挿される管状部と、前記管状部と前記ナットとを連結する連結部とを有し、
前記管状部は、前記キー溝にかしめ固定されている
ナットの回転抑制構造。
【請求項2】
前記連結部は、前記ナットにボルトで螺着されている
請求項1に記載のナットの回転抑制構造。
【請求項3】
前記軸部材のうち前記ナットから突出する部分が、前記回転抑制部材の管内に収容されている
請求項1または2に記載のナットの回転抑制構造。
【請求項4】
前記ナットが、多角筒状であり、
前記連結部が、前記ナットの嵌入される嵌入凹部を有し、
前記ナットの外周面と前記嵌入凹部の内周面との係合により前記連結部と前記ナットとが連結されている
請求項1〜3のいずれか一項に記載のナットの回転抑制構造。
【請求項5】
前記軸部材は、
前記管状部から突出する部分を有し、前記軸部材の軸方向では、該突出する部分の途中に前記キー溝の端部を有し、
前記キー溝は、
前記管状部からはみ出す部分を有し、前記軸部材の軸方向では、前記はみ出す部分の長さが前記嵌入凹部の深さよりも小さい
請求項4に記載のナットの回転抑制構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−57370(P2013−57370A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−196204(P2011−196204)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(000005463)日野自動車株式会社 (1,484)