説明

ナノサイズの無機微粒子を含有する熱可塑性重合体組成物の製造方法

【課題】透明性に優れると共に剛性、硬度、耐熱性等の特性にも優れる熱可塑性重合体組成物、その製造方法及び当該熱可塑性重合体組成物からなる成形体の提供。
【解決手段】透明な熱可塑性重合体、平均粒径が50nm以下の無機微粒子及び有機溶媒を含有する液状の熱可塑性重合体混合物を、加圧環境下で超臨界流体及び/又は液化ガスに曝露した後、前記加圧環境を減圧して超臨界流体および/または液化ガスの気化および有機溶媒の除去を行って、透明性、剛性、硬度及び耐熱性に優れる熱可塑性重合体組成物を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノサイズの無機微粒子を含有する、透明性に優れ、しかも剛性、硬度、耐熱性などにも優れる熱可塑性重合体組成物およびその製造方法、並びに当該熱可塑性重合体組成物からなる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、透明な有機重合体材料が、その軽量性を活かして、ガラスの代わりに電子や電気機器分野、光学機器分野におけるレンズ材、建材分野のカーポート屋根材などの種々の分野で汎く用いられている。しかしながら、透明な有機重合体材料は、剛性、硬度、耐熱性などの低いものが多く、前記した特性を改善する目的で、無機物との複合化が試みられている。
【0003】
そのような従来技術としては、ラジカル重合成ビニル化合物を、コロイド状シリカ分散系中で、シラン化合物の加水分解・縮合物よりなる重合体の存在下で重合させて、コロイド状シリカを含有する透明な複合体組成物を製造する方法が知られている(特許文献1を参照)。しかしながら、この方法は、原料費が高く、工程も複雑で工業的に有効な方法であると言い難い。しかも、この方法で得られる複合体組成物は、有機重合体とシリカ系網目との相互進入網目構造を有する複合体であるため、溶融成形できず、キャスト法などによって重合と成形を同時に行う必要がある。
【0004】
また、アルキル(メタ)アクリレートおよびアルコシアルキル(メタ)アクリレートの少なくとも1種と、架橋点モノマーを乳化重合または懸濁重合させ、所定の重合度に達した時点にシランカップリン剤で処理したシラン水分散液を添加してシリカ含有アクリル系重合体組成物を製造する方法が知られている(特許文献2を参照)。しかしながら、この方法では、シリカの分散および後架橋のために、架橋点モノマーを用いることが必須であり、更にシリカ粒子を水中に分散させてシランカップリング剤で予め処理する必要があるため、工程が複雑である。しかも、アクリル系重合体組成物中ではシリカ粒子はサブミクロンオーダー以上の粒子サイズで分散しており、それに伴って透明性が高いとは言えない。
【0005】
さらに、透明性を保持しながら弾性率の向上と熱膨張係数の低減を図ることを意図して、コロイダルシリカなどの水性型の無機微粒子を乾燥して粉末とし、その乾燥粉末を、親水性モノマーを含む溶液に分散させた後、親水性モノマーと共重合可能な他のモノマーを添加して共重合させて無機微粒子を含有する複合樹脂組成物を製造する方法が提案されている(特許文献3を参照)。しかしながら、この方法では、水性型の無機微粒子を乾燥して乾燥粉末にした後に、再び親水性モノマーを含む溶液に分散させる必要があるため、工程が煩雑であり、工業的製法としては不向きである。
【0006】
また、近年、超臨界流体または液化ガスが色々な分野で利用されるようになっている。
超臨界流体または液化ガスを有機重合体に利用した技術としては、有機重合体の溶融時に超臨界流体を使用することで、超臨界流体を有機重合体内に溶解させてその可塑化作用によって溶融物を低粘度化して金型などの微細構造部への重合体溶融物の侵入を容易にして微細加工を行う方法が知られている。
さらに、容器内で超臨界二酸化炭素または液化二酸化炭素の存在下に無機微粒子と有機重合体を接触させた後、容器内を減圧して無機微粒子と有機重合体の複合化粒子を製造する方法(特許文献4を参照)などが知られている。
しかしながら、前記特許文献4の方法では、無機微粒子として、粒子サイズがμmオーダーのものが用いられており、この技術によって光学的に透明な材料が得られることは記載されていない。
【0007】
【特許文献1】特開平5−209027号公報
【特許文献2】特開平6−322036号公報
【特許文献3】特開2004−175915号公報
【特許文献4】特開2002−210356号公報
【非特許文献1】「表面技術」、表面技術協会、2000年、第51巻、第3号、p.255−261
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、無機微粒子を含有していて、剛性、硬度、耐熱性などに優れていて、しかも透明性に優れる熱可塑性重合体組成物、それからなる成形体および当該熱可塑性重合体組成物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記した目的を達成するために鋭意検討を重ねてきた。その結果、透明な熱可塑性重合体に、ナノサイズの無機微粒子と有機溶媒を加えて液状の熱可塑性重合体混合物を調製し、その液状の熱可塑性重合体混合物を超臨界流体および/または液化ガスを導入した加圧環境内に入れて、加圧環境下で超臨界流体および/または液化ガスに曝露した後、当該加圧環境を減圧にして超臨界流体および液化ガスを気化すると、無機微粒子が一次粒子の形態で熱可塑性重合体中に極めて均一に分散し、しかも使用した有機溶媒が十分に除かれていて、可視光線の透過率が高く且つヘイズ(曇価)が低くて透明性に優れ、更に剛性、硬度、耐熱性などの物性にも優れる熱可塑性重合体組成物が得られることを見出した。
【0010】
また、本発明者らは、透明な熱可塑性重合体、ナノサイズの無機微粒子および有機溶媒を含有する液状の熱可塑性重合体混合物を加圧環境下で超臨界流体および/または液化ガスに曝露する処理を、熱可塑性重合体混合物を静置した状態で行っても或いは撹拌または混練しながら行っても、透明性、剛性、硬度、耐熱性に優れる熱可塑性重合体組成物が得られることを見出した。
さらに、本発明者らは、前記した熱可塑性重合体組成物の製造に当たっては、ナノサイズの無機微粒子としては、シリカが好ましく用いられることを見出し、それらの知見に基づいて本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、
(1) 透明な熱可塑性重合体、平均粒径が50nm以下の無機微粒子および有機溶媒を含有する液状の熱可塑性重合体混合物を、加圧環境下で超臨界流体および/または液化ガスに曝露した後、前記加圧環境を減圧して超臨界流体および/または液化ガスの気化および有機溶媒の除去を行うことを特徴とする熱可塑性重合体組成物の製造方法である。
【0012】
そして、本発明は、
(2) 液状の熱可塑性重合体混合物を静置させた状態で超臨界流体および/または液化ガスに曝露するか、或いは液状の熱可塑性重合体混合物を撹拌または混練しながら超臨界流体および/または液化ガスに曝露する前記(1)の製造方法;
(3) 透明な熱可塑性重合体が、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂およびアクリル/スチレン共重合体樹脂から選ばれる少なくとも1種である前記(1)または(2)の製造方法;
(4) 無機微粒子がシリカである前記(1)〜(3)のいずれかの製造方法;
(5) 超臨界流体が、超臨界二酸化炭素、超臨界亜酸化窒素、超臨界エタン、超臨界プロパンおよび超臨界水からなる群から選ばれる超臨界流体であり、液化ガスが、液化二酸化炭素、液化亜酸化窒素、液化エタンおよび液化プロパンからなる群から選ばれる液化ガスである前記(1)〜(4)のいずれかの製造方法;および、
(6) 液状の熱可塑性重合体混合物が、透明な熱可塑性重合体100質量部に対して無機微粒子を10〜55質量部および有機溶媒を150〜1000質量部の割合で含有する液状の熱可塑性重合体混合物である前記(1)〜(5)のいずれかの製造方法;
である。
【0013】
さらに、本発明は、
(7) 前記(1)〜(6)のいずれかの製造方法により製造される熱可塑性重合体組成物;
(8) ナノインデンテーション法に従って求めた弾性率が8GPa以上および同法に従って求めた硬度が0.35GPa以上という要件のいずれか一方または両方を満足する前記(7)の熱可塑性重合体組成物;
(9) 可視光線領域の光線透過率が85%以上およびヘイズが3%以下である前記(7)または(8)の熱可塑性重合体組成物;および、
(10) 前記(7)〜(9)のいずれかの熱可塑性重合体組成物よりなる成形体;
である。
【発明の効果】
【0014】
本発明による場合は、透明な熱可塑性重合体にナノサイズの無機微粒子および有機溶媒を混合して調製した液状の熱可塑性重合体混合物を、加圧環境下で超臨界流体および/または液化ガスに曝露した後、当該加圧環境を減圧下にして超臨界流体および/または液化ガスを気化させるという極めて簡単な工程および操作を行うだけで、超臨界流体および液化ガスの気化と同時に有機溶媒が一緒に除去されて、無機微粒子が熱可塑性重合体中に極めて均一に分散し、しかも使用した有機溶媒が十分に除かれていて、可視光線の透過率が高く且つヘイズ(曇価)が低くて透明性に優れ、更に剛性、硬度、耐熱性などの物性にも優れる熱可塑性重合体組成物を得ることができる。
【0015】
本発明により得られる熱可塑性重合体組成物は、前記した優れた特性を活かして、高い透明性、剛性、硬度、耐熱性などが要求される種々の用途、例えば、電子や電気機器分野、光学機器分野におけるレンズ材、建材分野のカーポート屋根材、表層材などの種々の用途に有効に使用することができる。
特に、本発明の熱可塑性重合体組成物は、その極めて高い可視光線透過率、低いヘイズ、高い力学物性、表面硬度などを活かして、ガラス代替材の各種物品の表層材、たとえば自動車のグレージング材などとして好適である。
そして、本発明の熱可塑性重合体組成物を成形して得られる本発明の成形体は、表面研磨処理、帯電防止処理、ハードコート処理、その他の後処理を行うことが可能であり、必要に応じてそれらの処理を行うことで、上記した用途やその他の用途に有効に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明では熱可塑性重合体として、透明な熱可塑性重合体であればいずれも使用でき、そのうちでも、無機材料(無機微粒子など)を含有しない状態における、後述の実施例に記載する方法で測定した可視光線の全光線透過率が85%以上、特に90%以上で、且つヘイズが3%以下、特に2%以下である熱可塑性重合体が好ましく用いられる。
【0017】
本発明で用い得る透明な熱可塑性重合体の代表例としては、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、オレフィン系重合体、ポリエステル系重合体、ポリアミド系重合体、ポリカーボネート系樹脂、ポリエーテル系樹脂などを挙げることができる。より具体的には、(メタ)アクリル系樹脂、メチル(メタ)アクリレートとスチレンの共重合樹脂(MS樹脂)、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリルとスチレンの共重合樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリルとブタジエンとスチレンの共重合樹脂(ABS樹脂)、ポリカーボネート(PC)、ポリ4−メチルペンテン(PMP)、環状オレフィン重合体(COP)、オレフィンと環状オレフィンとの共重合体(COC)、ポリプロピレンやポリエチレンなどのポリオレフィン(PO)、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートやその他の熱可塑性ポリエステル(PES)および各種ポリアミド(PA)などを挙げることができる。これらの熱可塑性重合体は単独で使用してもよいし、または混合によって透明性が失われない限りは2種または3種以上を混合して使用してもよい。
【0018】
上記した熱可塑性重合体のうちでも、本発明の特徴をより効果的に発揮できることから、本発明では、透明な熱可塑性重合体として、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂およびアクリル/スチレン共重合体樹脂から選ばれる透明熱可塑性樹脂の1種または2種以上が好ましく用いられる。
【0019】
前記したアクリル系樹脂としては、メタクリル系単量体および/またはアクリル系単量体に由来する構造単位を50質量%以上、更に65質量%以上、特に80〜100質量%の割合で含有するアクリル系樹脂が好ましく用いられる。アクリル系樹脂を構成するメタクリル系単量体および/またはアクリル系単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n−アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸と炭素数1〜12の直鎖または分岐を有する脂肪族アルコールとのエステル;シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘプチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸と炭素数5〜7の環状アルコールとのエステル;フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸と芳香族アルコールとのエステル類などを挙げることができる。アクリル系樹脂は、前記した(メタ)アクリル系単量体の1種のみから形成されていてもよいし、または2種以上から形成されていてもよい。
【0020】
また、アクリル系樹脂は、前記した(メタ)アクリル系単量体に由来する構造単位と共に、必要に応じて、他の共重合可能な単量体に由来する構造単位を、本発明の効果を損なわない範囲内(一般的にはアクリル系樹脂の質量に対して50質量%以下、更には35質量%以下、特に20質量%以下の割合)で有していてもよい。
アクリル系樹脂が含有することのできる他の単量体に由来する構造単位としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテンなどのオレフィン類;クロトン酸、フタル酸、マレイン酸、イタコン酸などの不飽和酸類の塩または炭素数1〜18のモノアルキルエステル類もしくはジアルキルエステル類;アクリルアミド、炭素数1〜18のN−アルキルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、2−アクリルアミドプロパンスルホン酸塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンまたはその酸塩などのアクリルアミド類;メタクリルアミド、炭素数1〜18のN−アルキルメタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、2−メタクリルアミドプロパンスルホン酸塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンまたはその酸塩などのメタクリルアミド類;N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミドなどのN−ビニルアミド類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル類;炭素数1〜18のアルキル鎖を有するアルキルビニルエ−テル、ヒドロキシアルキルビニルエ−テル、アルコキシアルキルビニルエ−テルなどのビニルエ−テル類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、臭化ビニルなどのハロゲン化ビニル類;トリメトキシビニルシランなどのビニルシラン類;酢酸アリル、塩化アリル、アリルアルコ−ル、ジメチルアリルアルコ−ルなどのアリル化合物などに由来する構造単位を挙げることができる。アクリル系樹脂は、前記した他の単量体の1種または2種以上に由来する構造単位を有していることができる。
【0021】
また、スチレン系樹脂としては、スチレンに由来する構造単位を50質量%以上、更に65質量%以上、特に80〜100質量%の割合で含有するスチレン系樹脂が好ましく用いられる。
スチレン系樹脂は、スチレンに由来する構造単位と共に、必要に応じて、他の共重合可能な単量体に由来する構造単位を、本発明の効果を損なわない範囲内(一般的にはスチレン系樹脂の質量に対して50質量%以下、更には35質量%以下、特に20質量%以下の割合)で有することができる。
スチレン系樹脂が含有することのできる他の単量体に由来する構造単位としては、例えば、エチレン、プロピレンなどのα−オレフィン;ブタジエン、イソプレンなどのジエン類;塩化ビニルなどのハロゲン化ビニル類;ビニルエーテル類、(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリルアミド類、(メタ)アクリロニトリル類、マレイミド類などに由来する構造単位を挙げることができ、スチレン系樹脂は、前記した他の単量体の1種または2種以上に由来する構造単位を有することができる。
スチレン系樹脂が、スチレンと他の単量体との共重合体である場合は、ガラス転移温度が30℃以上のスチレン系共重合体がコストの点から好ましく用いられる。
【0022】
本発明では、透明な熱可塑性重合体として、メタクリル酸メチルに由来する構造単位およびスチレンに由来する構造単位のうちの一方または両方を、80重量%以上の割合で含有する熱可塑性重合体が、高い透明性、高い弾性率、高い硬度などの点から特に好ましく用いられる。これに該当する熱可塑性重合体としては、例えば、メタクリル酸メチル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、メタクリル酸メチルとスチレンの共重合体樹脂などを挙げることができる。
【0023】
本発明において、透明な熱可塑性重合体組成物として好ましく用いられるアクリル系樹脂およびスチレン系樹脂の分子量は特に制限されず、熱可塑性重合体組成物の用途などに応じて適する分子量を有するものを選択して使用することができる。
アクリル系樹脂としては、一般的に数平均分子量が1,000〜1,000,000、更には10,000〜500,000、特に20,000〜200,000のものが、熱可塑性重合体組成物から得られる成形体の強度、耐熱性、成形性などの点から好ましく用いられる。アクリル系樹脂の分子量が低すぎると、熱可塑性重合体組成物から得られる成形体の強度(特に低温での衝撃強度)に劣るようになり、一方分子量が高すぎると、熱可塑性重合体組成物の溶融粘度が高くなり過ぎて、溶融成形時の流動性が悪くなり、成形性が劣るようになり、成形の際に欠肉などのある不良品が多発し易くなる。
ここで、アクリル系樹脂の前記数平均分子量は、各アクリル系樹脂を溶解可能な溶媒(通常はテトラヒドロフランなど)に溶解した後、ゲルパーミションクロマトグラフィー(GPC)により、基準物質としてポリメタアクリル酸メチルを使用して換算した値ある。
【0024】
また、スチレン系樹脂としては、一般的に数平均分子量が1,000〜1,000,000、更には10,000〜500,000、特に20,000〜200,000のものが、熱可塑性重合体組成物から得られる成形体の強度、耐熱性、成形性などの点から好ましく用いられる。スチレン系樹脂の分子量が低すぎると、熱可塑性重合体組成物から得られる成形体の強度(特に低温での衝撃強度)に劣るようになり、一方分子量が高すぎると、熱可塑性重合体組成物の溶融粘度が高くなり過ぎて、溶融成形時の流動性が悪くなり、成形性が劣るようになり、成形の際に欠肉などのある不良品が多発し易くなる。
ここで、スチレン系樹脂の前記数平均分子量は、各スチレン系樹脂を溶解可能な溶媒(通常はテトラヒドロフランなど)に溶解した後、ゲルパーミションクロマトグラフィー(GPC)により、基準物質としてポリスチレンを使用して換算した値ある。
【0025】
本発明で用いる透明な熱可塑性重合体の製法は特に制限されず、従来から知られている方法で製造することができ、また市販されているものをそのまま用いても何ら構わない。
何ら限定されるものではないが、本発明で用いる透明な熱可塑性重合体は、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などの公知の方法で製造することができ、そのうちでも無溶媒またはアルコ−ルやケトン類などの溶液中で重合する塊状重合や溶液重合法が通常採用される。溶液重合時に溶媒を用いる場合は、アルコ−ル類としてはメチルアルコ−ル、エチルアルコ−ル、プロピルアルコ−ルなどが、ケトン類としてはアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどが、その他の溶媒としてはジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、トルエン、キシレンなどが用いられるがこれらに限定されるものではない。また、これらの溶媒の2種またはそれ以上を混合して用いることもできる。
【0026】
また、透明な熱可塑性重合体がアクリル系樹脂やスチレン系樹脂などのラジカル重合性単量体の重合物である場合は、重合に用いる重合開始剤(ラジカル重合)も特に制限されず、従来から用いられているものを使用することができる。何ら限定されるものではないが、透明な熱可塑性重合体、特にアクリル系樹脂およびスチレン系樹脂などのラジカル重合性単量体からなる熱可塑性重合体の製造に用い得るラジカル重合開始剤の具体例としては、第三ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイドなどの有機ハイドロパーオキサイド類からなる酸化剤と、含糖ピロリン酸鉄処方、スルホキシレート処方、含糖ピロリン酸鉄処方/スルホキシレート処方の混合処方などの還元剤との組み合わせによるレドックス系の開始剤;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリル、ジメチル−2,2'−アゾビスイソブチレート等のアゾ化合物;ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイドなどの有機過酸化物などを挙げることができ、通常は、有機過酸化物系のラジカル重合開始剤が好ましく用いられる。これらのラジカル重合開始剤の使用量は、通常、単量体100質量部に対して0.01〜5質量部程度である。また、重合は、窒素、アルゴンなどの不活性ガス気流下またはバブリング下に実施することが好ましい。
透明な熱可塑性重合体が、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエーテルなどの縮合重合や開環重合などで得られる熱可塑性重合体である場合は、これらの熱可塑性重合体をするために従来知られている方法を採用して製造することができ、または市販のものを購入して使用してもよい。
【0027】
本発明では無機微粒子として、透明な熱可塑性重合体に配合したときに、無機微粒子自体に起因する斑点や色を発生しない、平均粒径が50nm以下の無機固体微粒子を用いる。無機微粒子の平均粒径が50nmよりも大きいと、可視光線の透過率の低下、ヘイズの上昇などが生じ易くなる。無機微粒子の平均粒径は1〜30nmであることが好ましい。
本明細書でいう「無機微粒子の平均粒径」は、動的光散乱法によって測定される平均粒径をいい、その詳細は以下の実施例に記載するとおりである。
【0028】
本発明で用い得る無機微粒子の具体例としては、平均粒径が50nm以下の、シリカ(二酸化ケイ素)、アルミナ(酸化アルミニウム)、ジルコニア(酸化ジルコニウム)、チタニア(二酸化チタン)、酸化銅、酸化亜鉛、カーボンナノチューブ、ナノダイアなどを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。平均粒径が50nm以下の前記した無機微粒子は、通常、当該無機微粒子を有機溶媒中に分散させた分散液の形で種々のものが市販されており、本発明ではそのような市販の無機微粒子分散液を用いることができる。
そのうちでも、本発明では、無機微粒子として、平均粒径が50nm以下のシリカが、樹脂中への分散の容易性、コストなどの点から好ましく用いられる。
【0029】
また、透明な熱可塑性重合体および無機微粒子と混合して液状の熱可塑性重合体混合物を調製するのに用いる有機溶媒としては、熱可塑性重合体を溶解し且つ無機微粒子を良好に分散させ得る有機溶媒であればいずれも使用可能であり、使用する熱可塑性重合体の種類や無機微粒子の種類などに応じて、それぞれの状況に適した有機溶媒を使用するのがよい。限定されるものではないが、本発明で使用し得る有機溶媒の具体例としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;プロパン、n−ブタン、イソブタン、n−ペンタン、イソペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、イソオクタン、デカン、ヘキサデカンなどの脂肪族炭化水素溶媒;塩化エチレン、塩化メチレン、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素溶媒;テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類;メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノールなどのアルコール類;酢酸メチル、酢酸エチルなどのエステル類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類などを挙げることができる。有機溶媒は1種類のみを使用してもまたは2種以上を混合して使用してもよい。
そのうちでも、環境への負荷の低減、工業的な規模での入手の容易さなどを考慮するとトルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素溶媒、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類、メチルエチルケトンなどのケトン類が好ましく用いられる。
【0030】
上記した透明な熱可塑性重合体、平均粒径が50nm以下の無機微粒子および有機溶媒を混合して、液状の熱可塑性重合体混合物を調製する。
液状の熱可塑性重合体混合物の調製に当たっては、粒径が50nm以下の無機微粒子の配合量は、透明な熱可塑性重合体100質量部に対して、を0.1〜100質量部であることが好ましく、5〜60質量部であることがより好ましく、10〜50質量部であることが更に好ましい。無機微粒子の配合量が少なすぎると、熱可塑性重合体組成物およびそれから得られる成形体の剛性、硬度、耐熱性などの向上効果が不十分になる。一方、無機微粒子の配合量が多すぎると、コストの上昇、可視光線の透過率の低下およびヘイズの上昇に伴う透明性の低下などが生じ易くなる。
特に、透明な熱可塑性重合体としてアクリル系樹脂および/またはスチレン系樹脂を用い、当該熱可塑性重合体100質量部に対して粒径が50nm以下の無機微粒子を10〜50質量部の割合で用いて本発明の熱可塑性重合体組成物を製造すると、ナノインデンテーション法に従って求めた弾性率が8GPa以上および同法により測定した硬度が0.35GPa以上という要件の少なくとも一方、大抵の場合は両方を満足する熱可塑性重合体組成物を得ることができる。
ここで、「ナノインデンテーション法による弾性率および硬度」の求め方については、以下の実施例に記載するとおりである。
【0031】
また、液状の熱可塑性重合体混合物を調製する際の有機溶媒の使用量は、透明な熱可塑性重合体100質量部に対して、150〜1000質量部が好ましく、150〜500質量部がより好ましく、180〜500質量部が更に好ましい。有機溶媒の使用量が少なすぎると、熱可塑性重合体、無機微粒子および有機溶媒を含有する液状の熱可塑性重合体混合物を超臨界流体および/または液化ガスに曝露しても無機微粒子の均一分散化効果が得られにくくなり、しかも均一に混合することが困難になる。一方、有機溶媒の使用量が多すぎると、高コストとなり、しかも液状の熱可塑性重合体混合物を超臨界流体および/または液化ガスに曝露した後の有機溶媒の除去に長い時間を要するようになり、更に有機溶媒の除去が十分に行われなくなる。
【0032】
液状の熱可塑性重合体混合物は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、例えば熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐侯安定剤、可塑剤、着色剤、離型剤、滑剤、香料、フィラー、界面活性剤などの従来から知られている添加剤の1種または2種以上を含有することができる。液状の熱可塑性重合体混合物が前記した添加剤などを含有する場合は、その含有量は、熱可塑性重合体の質量に対して、20重量%以下であることが好ましく、10重量%以下であることがより好ましく、5重量%以下であることがさらに好ましい。
【0033】
液状の熱可塑性重合体混合物の調製方法は特に制限されず、透明な熱可塑性重合体が有機溶媒中に均一に溶解し且つ無機微粒子が凝集などを生ずることなく、液状の熱可塑性重合体混合物中に均一に分散し、必要に応じて添加される添加剤をも液中に均一に含有させ得ることのできる方法であればいずれの方法を採用してもよい。一般的には、透明な熱可塑性重合体を有機溶媒中に20〜100℃、特に40〜80℃の温度で溶解させた後に、そこに無機微粒子を添加するか、または無機微粒子の有機溶媒分散液を当該分散媒ごと添加する方法などが好ましく採用される。この混合操作は、無機微粒子が凝集せずに一次粒子状で液中に分散するように、撹拌下に行うことが好ましい。
【0034】
上記で調製した無機微粒子を含有する液状の熱可塑性重合体混合物を、加圧環境下で超臨界流体または液化ガスに曝露するか或いは超臨界流体と液化ガスの混合物に曝露する。
ここで、本明細書における「液状の熱可塑性重合体混合物を、加圧環境下で超臨界流体および/または液化ガスに曝露する」とは、液状の熱可塑性重合体混合物を、超臨界流体および/または液化ガスを含む加圧容器などの加圧環境下に入れて、超臨界流体および/または液化ガスに曝す(接触させる)ことを意味する。
【0035】
超臨界流体および液化ガスとしては、液状の熱可塑性重合体混合物に含まれる熱可塑性重合体、無機微粒子および有機溶媒、場合により含まれる他の成分の変性や変質などを生じない超臨界流体および/または液化ガスのいずれもが使用できる。
本発明で使用し得る超臨界流体の具体例としては、超臨界二酸化炭素、超臨界亜酸化窒素、超臨界エタン、超臨界プロパン、超臨界水などを挙げることができる。そのうちでも、本発明では、超臨界流体として、超臨界二酸化炭素、超臨界エタンが、超臨界流体にし易いなどの点から好ましく用いられる。
また、液化ガスの具体例としては、液化二酸化炭素、液化亜酸化窒素、液化エタン、液化プロパンなどを挙げることができ、そのうちでも、液化二酸化炭素が安全性の点から好ましく用いられる。
特に、本発明では、超臨界二酸化炭素が超臨界流体にし易い点から好ましく用いられる。
【0036】
液状の熱可塑性重合体混合物を超臨界流体および/または液化ガスに曝露する際の超臨界流体または液化ガスの条件(温度およ圧力)は、超臨界流体または液化ガスを形成している成分(本来の気体成分)の種類などによって異なり得る。
超臨界二酸化炭素および/または液化二酸化炭素を用いる場合は、温度が20〜200℃、圧力が4〜20MPa、特に温度が30〜130℃、圧力5〜8MPaであることが、熱可塑性重合体組成物中での発泡が生じない点から好ましい。
また、超臨界亜酸化窒素および/または液化亜酸化窒素を用いる場合は、温度が20〜200℃、圧力が4〜20MPa、特に温度が35〜130℃、圧力5〜8MPaであることが好ましく、超臨界エタンおよび/または液化エタンを用いる場合は、温度が20〜200℃、圧力が4〜20MPa、特に温度が30〜130℃、圧力5〜8MPaであることが好ましく、超臨界プロパンおよび/または液化プロパンを用いる場合は、温度が20〜200℃、圧力が4〜20MPa、特に温度が90〜130℃、圧力5〜8MPaであることが好ましく、超臨界水を用いる場合は、温度が100〜300℃、圧力が20〜40MPa、特に温度が150〜250℃、圧力22〜30MPaであることが好ましい。
【0037】
液状の熱可塑性重合体混合物を加圧環境下で超臨界流体および/または液化ガスに曝露するに当たっては、超臨界流体および/または液化ガスの環境下に液状の熱可塑性重合体混合物を静置させた状態で行ってもよいし、或いは液状の熱可塑性重合体混合物を超臨界流体および/または液化ガスを含む加圧環境内で撹拌、混練、移動などのような外部応力を加えて動かしながら行ってもいずれでもよい。
液状の熱可塑性重合体混合物を静置させた状態で超臨界流体および/または液化ガスに曝露する場合は、液状の熱可塑性重合体混合物への超臨界流体および/または液化ガスの侵入が比較的短時間で円滑に行われるように、液状の熱可塑性重合体混合物を膜状などの表面積の大きな状態にして曝露処理を行うことが好ましく、膜状の場合は、厚さが0.001〜2mm、特に0.01〜1mm程度の膜状にしておくことが好ましい。
また、液状の熱可塑性重合体混合物に撹拌、混練、移動などのような外部応力を加えながら超臨界流体および/または液化ガスに曝露する場合にも、熱可塑性重合体混合物と超臨界流体および/または液化ガスとの接触が多くなるような状態で外部応力を加えながら曝露を行うことが好ましい。
【0038】
液状の熱可塑性重合体混合物の超臨界流体および/または液化ガスへの曝露時間は、熱可塑性重合体混合物の量、熱可塑性重合体の種類、有機溶媒の種類、超臨界流体および/または液化ガスの種類、温度、圧力、曝露処理を静置状態で行うかまたは動かしながら行うかなどのそれぞれの状況に応じて異なり得るが、一般的には、1分間〜2時間、特に10分間〜1時間程度にすることが好ましい。
【0039】
超臨界流体および/または液化ガスへの曝露に用いる装置は特に制限されず、例えば、超臨界オートクレーブ、超臨界剪断装置などの加圧環境を形成し得る装置を使用することができる。
【0040】
次いで、超臨界流体および/または液化ガスへの曝露が終わった後、熱可塑性重合体混合物中に含まれている有機溶媒を除去する。有機溶媒の除去は、曝露処理を行った加圧環境内を減圧(放圧)して、超臨界流体および/または液化ガスを気化させることによって行うことができる。減圧によって超臨界流体および/または液化ガスが気化する際に、熱可塑性重合体混合物中に含まれていた有機溶媒が、超臨界流体および/または液化ガスの気化によって生成した気体中に一緒に取り込まれて、当該気体と一緒になって熱可塑性重合体が熱可塑性重合体組成物から放散する。
曝露処理後の減圧の程度は、超臨界流体および/または液化ガスが気化する圧力であればいずれでもよいが、一般的には常圧にすることが、操作が簡単で便利である。
また、曝露処理後の減圧時の温度も特に制限されず、超臨界流体および/または液化ガスの気化が容易に行われ得る温度であればいずれでもよく、一般的には室温にすることが、操作が簡単で便利である。
曝露処理を行った環境内を減圧(放圧)して超臨界流体および/または液化ガスを気化させた後に、熱可塑性重合体組成物中に未だ有機溶媒が残っている場合は、熱可塑性重合体組成物を減圧の状態(条件下)で乾燥処理して、有機溶媒を除去すればよい。しかし、本発明の方法による場合は、超臨界流体および/または液化ガスの気化と一緒に、熱可塑性重合体組成物中に含まれている有機溶媒の除去が完全にまたはほぼ完全に行われるので、有機溶媒を除去するための更なる後処理を行うことは殆ど必要がない。
【0041】
十分には解明してないが、超臨界流体および/または液化ガスへの曝露処理時に、超臨界流体および/または液化ガスが、液状の熱可塑性重合体混合物中に侵入していって、熱可塑性重合体混合物に含まれる無機微粒子を、熱可塑性重合体混合物中に凝集することなく一次粒子の状態でより均一に分散させるように作用して無機微粒子の均一な分散状態が熱可塑性重合体組成物中でそのまま維持され、しかも超臨界流体および/または液化ガスの気化時に有機溶媒が同時に完全またはほぼ完全に除去されることによって、可視光線の透過率が高く且つヘイズが小さくて透明性に優れ、しかも剛性、硬度、耐熱性などの特性にも優れる本発明の熱可塑性重合体組成物が得られるものと推測される。
【実施例】
【0042】
以下に、本発明を実施例などによって具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されない。以下の実施例および比較例において、無機微粒子の平均粒径、熱可塑性重合体組成物中の無機微粒子の含有率、熱可塑性重合体組成物から得られた試料(試験片)の弾性率、硬度、可視光線透過率およびヘイズは、以下のようにし求めた。
【0043】
(1)無機微粒子の平均粒径:
透過型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製「H−7100FA」)を使用して、加速電圧100KVにて観察し、測定範囲内の無機微粒子の全量(約1000個)の粒径を測定し、その平均値を採って無機微粒子の平均粒径とした。
【0044】
(2)熱可塑性重合体組成物中の無機微粒子の含有率:
以下の実施例または比較例で得られた熱可塑性重合体組成物を熱プレス成形して得られたシートの一部(W0)(g)(約5g)を採取し、それをルツボに入れて500℃で3時間強熱した時の残分の質量(W1)(g)を測定して、式:(W1/W0)×100から、熱可塑性重合体組成物中の無機微粒子の含有率(質量%)を求めた。
【0045】
(3)弾性率および硬度:
ナノインデンテーション法(非特許文献1を参照)に従って、以下の方法により熱可塑性重合体組成物(熱可塑性重合体組成物から得られた熱プレスシート)の弾性率および硬度を求めた。
(i) 株式会社神藤金属工業所製のプレス装置「AYS−10」]の金型(型キャビテイ容積:縦×横×深さ=60mm×150mm×1mm)内に、以下の実施例または比較例で得られた熱可塑性重合体組成物を平らに充填し(充填量約11g)、230℃で3分間溶融した後、プレス圧力980N(100kgf)で熱プレス成形して、厚さ1mmのシートを作製した。
(ii) 走査型プローブ顕微鏡[日本電子(株)製「JSPM−4200型」]を使用し、上記(i)で作製したシートから採取した試験片(厚さ1mm)に、Berkovich型圧子を500μNの荷重で垂直に5秒間かけて押し込み、次いで5秒間かけて引き抜いた時の加荷−除荷曲線から算出した。
具体的には、前記した加荷−除荷曲線は、例えば、図1のようになるので、当該図1に基づいて、弾性率を除荷曲線の初期傾きから算出し、また硬度を最大押込み深さから非特許文献1に記載されているのと同様の手法を用いて求めた。
【0046】
(4)可視光線領域における全光線透過率およびヘイズ:
上記(3)の(i)で作製した厚さ1mmのシートから試験片(厚さ)を採取し、ヘーズメータ[(株)村上色彩技術研究所製「HR−100」]を使用して、波長400〜750nmにおける可視光線領域における全光線透過率およびヘイズ(全線透過率に対する入射光束から平均2.5度を越えて逸れた拡散透過光の百分比)(ASTM D883)を求めた。
【0047】
《実施例1》
(1) 冷却管、温度計、滴下漏斗および撹拌機を備えた容量500mLのセパラブルフラスコ内を窒素で置換した後、ポリメタクリル酸メチル(株式会社クラレ製「パラペットHR−L」、数平均分子量=50,000)44gを仕込み、それにメチルエチルケトン89gを加えて60℃で溶解した後、シリカ分散液[日産化学工業(株)製「IPA−ST−S」、2−プロパノールにシリカを分散した分散液、シリカ含有量=25質量%、シリカの平均粒径=9.5nm(粒径範囲ほぼ8〜11nm)]19.6gを滴下漏斗にて25℃で1時間かけて滴下して、シリカ粒子が1次粒子状で分散した液状のポリメタクリル酸メチル混合物を調製した。
(2) 上記(1)で得られた液状のポリメタクリル酸メチル混合物を、ガラス基板上に厚さ0.2mmに均等にキャストした後、直ちに耐圧容器に入れ、そこに二酸化炭素を温度30℃で圧力が8MPaになるまで導入して二酸化炭素を超臨界二酸化炭素にし、その状態に30分間保持した後、耐圧容器の内圧を1時間かけて徐々に常圧に戻した。
【0048】
(3) 次いで、耐圧容器からポリメタクリル酸メチル組成物膜が付着したガラス基板を取り出し、ガラス基板からポリメタクリル酸メチル組成物膜を剥離して回収した後、そのポリメタクリル酸メチル組成物を用いて上記した方法で熱プレス成形にてシート(厚さ1mm)を製造した。
(4) 上記(3)で得られたシート中の無機微粒子(シリカ)の含有量を上記した方法で測定したところ、10.2質量%であった。
また、上記(3)で得られたシートを用いて弾性率、硬度、可視光線領域における全光線透過率およびヘイズを上記した方法で求めたところ、下記の表1に示すとおりであった。
【0049】
《実施例2》
(1) 実施例1の(1)で使用したのと同じシリカ分散液[日産化学工業(株)製「IPA−ST−S」]の添加量を94.8gとする以外は、実施例1の(1)〜(3)と同様の操作を行って、プレスシートを製造した。
(2) 上記(1)で得られたシート中の無機微粒子(シリカ)の含有量を上記した方法で測定したところ、34.7質量%であった。
また、上記(1)で得られたシートを用いて弾性率、硬度、可視光線領域における全光線透過率およびヘイズを上記した方法で測定したところ、下記の表1に示すとおりであった。
【0050】
《実施例3》
(1) 実施例1の(1)で使用したのと同じシリカ分散液[日産化学工業(株)製「IPA−ST−S」]の添加量を9.3gとする以外は、実施例1の(1)〜(3)と同様の操作を行って、プレスシートを製造した。
(2) 上記(1)で得られたシート中の無機微粒子(シリカ)の含有量を上記した方法で測定したところ、5.1質量%であった。
また、上記(1)で得られたシートを用いて弾性率、硬度、可視光線領域における全光線透過率およびヘイズを上記した方法で測定したところ、下記の表1に示すとおりであった。
【0051】
《実施例4》
(1) 実施例1の(2)において、耐圧容器内に二酸化炭素を30℃で、圧力5MPaになるまで導入して液化二酸化炭素にした以外は実施例1の(1)〜(3)と同様の操作を行って、プレスシートを製造した。
(2) 上記(1)で得られたシート中の無機微粒子(シリカ)の含有量を上記した方法で測定したところ、10.2質量%であった。
また、上記(1)で得られたシートを用いて弾性率、硬度、可視光線領域における全光線透過率およびヘイズを上記した方法で測定したところ、下記の表1に示すとおりであった。
【0052】
《比較例1》
(1) 実施例1の(1)において、シリカ分散液を添加しなかった以外は、実施例1の(1)〜(3)と同様の操作を行って、プレスシートを製造した。
(2) 上記(1)で得られたシートを用いて弾性率、硬度、可視光線領域における全光線透過率およびヘイズを上記した方法で測定したところ、下記の表1に示すとおりであった。
【0053】
《比較例2》
(1) 実施例1の(1)と全く同じ操作を行って、シリカ粒子が1次粒子状で分散した液状のポリメタクリル酸メチル混合物を調製した。
(2) 上記(1)で得られた液状のポリメタクリル酸メチル混合物をガラス基板上に厚さ0.2mmに均等にキャストした後、容器に入れ、温度30℃で、容器内の空気を二酸化炭素によって大気圧下で完全に置換し、大気圧下で二酸化炭素ガスにて1時間処理し、次いで容器内を減圧下にして有機溶媒を留去した。
(3) 次いで、容器からポリメタクリル酸メチル組成物膜が付着したガラス基板を取り出し、ガラス基板からポリメタクリル酸メチル組成物膜を剥離して回収した後、そのポリメタクリル酸メチル組成物を用いて実施例1の(3)と同様にして熱プレス成形してシート(厚さ1mm)を製造した。
(4) 上記(3)で得られたシート中の無機微粒子(シリカ)の含有量を上記した方法で測定したところ、10.1質量%であった。
また、上記(3)で得られたシートを用いて弾性率、硬度、可視光線領域における全光線透過率およびヘイズを上記した方法で求めたところ、下記の表1に示すとおりであった。
【0054】
《比較例3》
(1) 冷却管、温度計、滴下漏斗および撹拌機を備えた容量1リットルのセパラブルフラスコ内を窒素ガスで置換した後、ポリメタクリル酸メチル(株式会社クラレ製「パラペットHR−L」、数平均分子量=50,000)44gを仕込み、それにメチルエチルケトン372gを加えて60℃で溶解した後、実施例1の(1)で使用したのと同じシリカ分散液[日産化学工業(株)製「IPA−ST−S」]97.8gを滴下漏斗にて25℃で1時間かけて滴下して、シリカ粒子が1次粒子状で分散した液状のポリメタクリル酸メチル混合物を調製した。
(2) 上記(1)で得られた液状のポリメタクリル酸メチル混合物をヘキサン20リットル中に投入し、析出物をポリメタクリル酸メチル組成物として濾別・回収し、そのポリメタクリル酸メチル組成物を用いて実施例1の(3)と同様にして熱プレス成形してシート(厚さ1mm)を製造した。
(3) 上記(2)で得られたシート中の無機微粒子(シリカ)の含有量を上記した方法で測定したところ、10.2質量%であった。
また、上記(2)で得られたシートを用いて弾性率、硬度、可視光線領域における全光線透過率およびヘイズを上記した方法で求めたところ、下記の表1に示すとおりであった。
【0055】
【表1】

【0056】
上記の表1の結果にみるように、実施例1〜4では、透明な熱可塑性重合体(ポリメタクリル酸メチル)、平均粒径が50nm以下の無機微粒子(シリカ微粒子)および有機溶媒を含有する液状の熱可塑性重合体混合物を、加圧環境下で超臨界流体または液化ガスに曝した後に、超臨界流体または液化ガスを気化して有機溶媒を除去したことによって、全光線透過率が高く且つヘイズが小さくて透明性に優れ、しかも弾性率が高くて剛性に優れ、且つ硬度の高い熱可塑性重合体組成物が得られている。
特に、実施例1、2および4では、平均粒径が50nm以下の無機微粒子(シリカ微粒子)を、熱可塑性重合体100質量部に対して10〜50質量%の範囲内の量で配合していることによって、剛性(弾性率)および硬度のより高い熱可塑性重合体組成物が得られている。
【0057】
《実施例5〜8》
(1) 実施例1〜4において、ポリメタクリル酸メチルの代わりに、メタクリル酸メチル/スチレン共重合体(メタクリル酸メチルの含有割合=60モル%、電気化学工業株式会社製「TX−400−300S」)を用いた以外は、実施例1〜4と同じ操作を行って、熱可塑性重合体組成物よりなるプレスシートをそれぞれ製造した。
(2) 上記(1)で得られたそれぞれのシート中の無機微粒子(シリカ)の含有量を上記した方法で測定したところ、下記の表2に示すとおりであった。
また、上記(1)で得られたそれぞれのシートを用いて弾性率、硬度、可視光線領域における全光線透過率およびヘイズを上記した方法で求めたところ、下記の表2に示すとおりであった。
【0058】
《比較例4および5》
(1) 比較例1および2において、ポリメタクリル酸メチルの代わりに、メタクリル酸メチル/スチレン共重合体(メタクリル酸メチルの含有割合=60モル%、電気化学工業株式会社製「TX−400−300S」)を用いた以外は、比較例1および2と同じ操作を行って、熱可塑性重合体組成物よりなるプレスシートをそれぞれ製造した。
(2) 比較例5については、上記(1)で得られたシート中の無機微粒子(シリカ)の含有量を上記した方法で測定したところ、下記の表2に示すとおりであった。
また、上記(1)で得られたそれぞれのシートを用いて弾性率、硬度、可視光線領域における全光線透過率およびヘイズを上記した方法で求めたところ、下記の表2に示すとおりであった。
【0059】
【表2】

【0060】
上記の表2の結果にみるように、実施例5〜8では、透明な熱可塑性重合体[メタクリル酸メチル/スチレン共重合体)、平均粒径が50nm以下の無機微粒子(シリカ微粒子)および有機溶媒を含有する液状の熱可塑性重合体混合物を、加圧環境下で超臨界流体または液化ガスに曝した後に、超臨界流体または液化ガスを気化して有機溶媒を除去したことによって、全光線透過率が高く且つヘイズが小さくて透明性に優れ、しかも弾性率が高くて剛性に優れ、且つ硬度の高い熱可塑性重合体組成物が得られている。
特に、実施例5、6および8では、平均粒径が50nm以下の無機微粒子(シリカ微粒子)を、熱可塑性重合体100質量部に対して10〜50質量%の範囲内の量で配合していることによって、剛性(弾性率)および硬度のより高い熱可塑性重合体組成物が得られている。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明による場合は、透明な熱可塑性重合体にナノサイズの無機微粒子および有機溶媒を混合して調製した液状の熱可塑性重合体混合物を、加圧環境下で超臨界流体および/または液化ガスに曝露した後、当該加圧環境を減圧下にして超臨界流体および/または液化ガスを気化させるという極めて簡単な工程および操作を行うだけで、可視光線の透過率が高く且つヘイズ(曇価)が低くて透明性に優れ、しかも剛性、硬度、耐熱性などの物性にも優れる熱可塑性重合体組成物を円滑に得ることができる。
そして、本発明により得られる前記した優れた特性を兼ね備える熱可塑性重合体組成物は、高い透明性、剛性、表面硬度、耐熱性などが要求される、電子や電気機器分野、光学機器分野におけるレンズ材、建材分野のカーポート屋根材、各種表層材などの種々の用途に有効に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】熱可塑性重合体組成物のナノインデンテーション法による弾性率および硬度の求め方を説明した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明な熱可塑性重合体、平均粒径が50nm以下の無機微粒子および有機溶媒を含有する液状の熱可塑性重合体混合物を、加圧環境下で超臨界流体および/または液化ガスに曝露した後、前記加圧環境を減圧して超臨界流体および/または液化ガスの気化および有機溶媒の除去を行うことを特徴とする熱可塑性重合体組成物の製造方法。
【請求項2】
液状の熱可塑性重合体混合物を静置させた状態で超臨界流体および/または液化ガスに曝露するか、或いは液状の熱可塑性重合体混合物を撹拌または混練しながら超臨界流体および/または液化ガスに曝露する請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
透明な熱可塑性重合体が、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂およびアクリル/スチレン共重合体樹脂から選ばれる少なくとも1種である請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
無機微粒子がシリカである請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
超臨界流体が、超臨界二酸化炭素、超臨界亜酸化窒素、超臨界エタン、超臨界プロパンおよび超臨界水からなる群から選ばれる超臨界流体であり、液化ガスが、液化二酸化炭素、液化亜酸化窒素、液化エタンおよび液化プロパンからなる群から選ばれる液化ガスである請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
液状の熱可塑性重合体混合物が、透明な熱可塑性重合体100質量部に対して無機微粒子を10〜55質量部および有機溶媒を150〜1000質量部の割合で含有する液状の熱可塑性重合体混合物である請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法により製造される熱可塑性重合体組成物。
【請求項8】
ナノインデンテーション法に従って求めた弾性率が8GPa以上および同法に従って求めた硬度が0.35GPa以上という要件のいずれか一方または両方を満足する請求項7に記載の熱可塑性重合体組成物。
【請求項9】
可視光線領域の光線透過率が85%以上およびヘイズが3%以下である請求項7または8に記載の熱可塑性重合体組成物。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれか1項に記載の熱可塑性重合体組成物よりなる成形体。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2008−163124(P2008−163124A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−352496(P2006−352496)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】