説明

ナノ濾過によるウイルス除去

(a)タンパク質溶液に巨大分子を添加する工程;及び(b)前記溶液をナノフィルターに通過させる工程、を含む、感染性粒子からタンパク質溶液を精製する方法が提供される。巨大分子は糖、アミノ酸、グリコール、アルコール、脂質、及びリン脂質の少なくとも3のモノマーのポリマーから選択されて良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタンパク質溶液の精製に関する。とりわけ本発明は、ナノ濾過による感染性粒子からのタンパク質溶液の精製に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの血液は、後天性及び/または先天性の血液学的疾患、並びに生命を脅かす疾患の治療のために使用される広範囲の医学的生成物の供給源である。そのような生成物の例は、イムノグロブリン、第VIII因子、アルブミン、α1抗トリプシン、抗トロンビン、第IX因子、第XI因子、PCC(プロトロンビナーゼ複合体濃縮物)、フィブリノーゲン、及びトロンビンを含む。
【0003】
これらの生成物の原材料であるヒトの血液は、重篤な疾患の伝播に関与する感染性試薬を含むかもしれないので、生成物の無菌性は主要な関心事である。かくして、これらの調製物中に存在するかもしれない肝炎ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、及び伝播可能な海綿状脳障害(TSE)のような感染性試薬の不活性化及び/または除去に、多大な努力が払われている。
【0004】
例えば欧州特許出願第0131740号及び米国特許第4481189号に記載されているように、有機溶媒と界面活性剤で製造過程の物質を処理することによって、脂質被覆ウイルスは有効に不活性化できる。しかしながら、この溶媒−界面活性剤法は、エンベロープを有さないウイルスやTSE試薬には有意な効果を有さないため、低温殺菌、ガンマ線若しくはUVC(<280nm)照射、またはナノ濾過のような他の不活性化法を適用すべきである。
【0005】
これらの不活性化法として、ナノ濾過はより穏やかな方法である。ナノ濾過には、デッドエンド及びクロスフローという二つの操作方法が存在する。
(1)デッドエンド:流体が適用圧の下で膜を通過するように方向付けされる場合、膜孔サイズより大きな粒子は膜の表面に蓄積し、より小さい分子は膜を通過する。
(2)クロスフローナノ濾過(TFNF):流体が膜を横切る差圧を確立する膜の表面に対して接線方向で押し出される際、孔サイズより小さい粒子は膜を通過し、より大きい粒子はクロスフローによって膜を横切って流動を続ける。クロスフローは膜の表面での維持された分子の堆積を避ける。
【0006】
DiLeo, A.J.等 (1992) Biotechnology 10: 185-188は、Viresolve/70(登録商標)膜を使用して、溶液からφX174ファージのような小径(<30nm)のウイルス粒子の除去を記載している。粒子の吸着がウイルス粒子の除去の寄与する度合いを調べるために、2.5mg/mlのヒト血清アルブミン(HSA)をウイルス粒子に添加し、膜に対するウイルスの吸着を競合的に減少させた、ウイルスの保持はHSAタンパク質の存在下で0.5−0.7logまで増大することが見出された。この結果は、膜の粒子保持特性が第一に膜の篩い分け特性の結果であることを示すと著者は述べており、ウイルス保持の増大は、膜表面でのタンパク質濃度の局在の結果である可能性が高い。
【0007】
DiLeo, A.J.等 (1993) Biologicals 21: 275-286は、Viresolve/70(登録商標)膜で実施される更なる実験を記載している。タンパク質の存在は、タンパク質の局在が膜を通過するウイルスに更なる抵抗を付与する濃度局在に従って、モデルウイルスの保持価を増大することをもう一度見出した。
【0008】
Hoffer, L.等 (1995) J. Chromatography 669: 187-196は、Viresolve/70(登録商標)膜を使用する、ヒト血漿からの第IX因子の精製とウイルス除去を記載している。測定された最小のウイルスはイヌパルボウイルスであり(16−18nmの直径)、それは5.2の対数減少値(log reduction value;LRV)で除去された。第IX因子の平均回収%は83±9%であった。
【0009】
国際特許出願第96/00237号(Winge)は、0.2Mから関係する塩を有する溶液の飽和まで、溶液の全塩含量を増大することによる、巨大分子、主にタンパク質、多糖、及びポリペプチドを含む溶液のウイルス濾過方法を記載している。この方法は滞留時間を減少し、溶液を希釈する必要のある度合いを減少し、ウイルス濾過の際の収率を最適化する。開示された方法は、「デッドエンド」法と称されるものの補助でウイルス濾過を容易にし、それは通常使用されるクロスフローのウイルス濾過方法と比較して数個の工程と経済的な利点を達成できる。
【0010】
米国特許第6096872号(Van Holten等)は、高イオン強度のバッファーにおいて、ポリソルベート80(登録商標)のような添加剤を使用する、抗Dイムノグロブリンのナノ濾過のための方法を開示している。追加工程は、抗Dタンパク質を濃縮し、存在する添加剤の濃度を減少するための透析濾過を含む。特にこの方法は、(a)アルコール中でヒトの血漿を分画する工程;(b)精製した沈降物IIを再懸濁する工程;(c)添加剤を含む高イオン強度のバッファーと再懸濁した沈降物IIを混合する工程;及び(d)イムノグロブリンについてナノ濾過を実施する工程を含む。
【0011】
米国特許第6773600号(Rosenblatt等)は、
(a)(i)5.0から6.0の間にpHを減らし、30mS/cm未満のイオン強度を達成するように製剤化された低pHで低伝導性のバッファー溶液;
(ii)非イオン性界面活性剤;及び
(iii)クラスレート変更剤
と、タンパク質性材料を混合する工程;並びに
(b)タンパク質性材料についてナノ濾過を実施し、ウイルス粒子を実質的に含まない精製材料を得る工程
を含む、ウイルス病原体のような混在物の除去のための、イムノグロブリンのようなタンパク質性材料の精製方法を開示している
【0012】
好ましくは、クラスレート変更剤は、または4から8のヒドロキシル基を有するポリオール糖または糖アルコールである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】欧州特許出願第0131740号
【特許文献2】米国特許第4481189号
【特許文献3】国際特許出願第96/00237号
【特許文献4】米国特許第6096872号
【特許文献5】米国特許第6773600号
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】DiLeo, A.J.等 (1992) Biotechnology 10: 185-188
【非特許文献2】DiLeo, A.J.等 (1993) Biologicals 21: 275-286
【非特許文献3】Hoffer, L.等 (1995) J. Chromatography 669: 187-196
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一つの特徴点では、感染性粒子からタンパク質溶液を精製する方法が提供される。この方法は、
(a)タンパク質溶液に巨大分子を添加する工程;及び
(b)前記溶液をナノフィルターに通過させる工程
を含み、それによって感染性粒子から実質的に精製されたタンパク質溶液を得る。
【0016】
本発明の別の特徴点は、ナノ濾過の間及び/または最中にタンパク質溶液に巨大分子を添加する工程を含む、ナノ濾過によるタンパク質溶液からの感染性粒子の除去を促進する方法を提供する。
【0017】
用語「感染性粒子」は、生物学的な生物の細胞に感染または伝播できるウイルスまたはプリオンのような微視的粒子を指す。一つの実施態様では、感染性粒子はウイルス粒子である。除去される感染性粒子は、15から80nmの範囲のサイズを有する。別の実施態様では、感染性粒子は80nmより大きい。
【0018】
用語「タンパク質溶液」は、別の物質に溶解した一つ以上のタンパク質からなる均一な混合物を指す。一つの実施態様では、タンパク質を含む溶液は全血から由来する。別の実施態様では、前記溶液は血漿である。タンパク質の他の可能な供給源は、動物タンパク質、及び細胞培養物またはトランスジェニック動物で生産された組換えタンパク質を含む。
【0019】
本発明の方法によって精製されてよいタンパク質は、感染性粒子が潜み、感染性粒子除去フィルターで濾過される全ての治療上有用なタンパク質を含む。一つの実施態様では、前記タンパク質は180kDa未満の分子量を有する。別の実施態様では、前記タンパク質は160kDa未満の分子量を有する。更なる実施態様では、前記タンパク質は150kDa未満、または140kDa未満の分子量を有する。
【0020】
これらのタンパク質は以下のものを含むがこれらに制限されない:
凝固因子:例えば第IX/IXa因子、第VIII因子;プロトロンビン/トロンビン、第VII/VIIa因子、第XI/XIa因子、第XII/XIIa因子、プレカリクレイン、HK、プラスミノーゲン、ウロキナーゼ、プロテインCインヒビター;
抗凝固因子またはそのサブユニット:例えばプロテインC、プロテインS、抗トロンビンIII、ヘパリン補因子II、α2抗プラスミン、プロテインZ;
増殖因子:例えばインスリン様増殖因子1(IGF−1)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF);
神経栄養因子、例えば神経成長因子(NGF)、グリア細胞系由来神経栄養因子(GDNF);
ホルモン:例えばエリスロポエチン、成長ホルモン;
インターフェロン及びインターロイキン:例えばインターフェロンα、β及びγ、インターロイキン1、2、3、及び7
組換えタンパク質:例えば組換え凝固因子または抗凝固因子、組換え成長ホルモン。
【0021】
一つの実施態様では、前記タンパク質は極性タンパク質である。極性タンパク質は親水性分子を指す。
【0022】
本発明の方法を使用するタンパク質の収率は有利に高く、少なくとも約59、65、71、72、75、80、81、84、85、87、93、94、96、または100%であっても良い。本発明の方法を使用する平均タンパク質回収率は、75−93%の範囲内であると見出された。
【0023】
用語「実質的に精製された」は、感染性粒子除去の効率を指す。一つの実施態様では、感染性粒子除去の効率は4LRV(対数減少値)を超え、または約5、6、7、または8LRVである。
【0024】
用語「巨大分子」の定義は、従来のポリマー及びバイオポリマー、並びに大きな分子量を有する非ポリマー性分子を意味する。本発明の方法で使用できる巨大分子は、一つの実施態様では以下の特性の少なくとも一つを有し、別の実施態様では二つの特性を有し、更なる実施態様では以下の特性の全てを有する:
・生体適合性:非毒性;
・精製を受けるタンパク質と相互作用しないこと;
・水溶性であること。
【0025】
本発明に係る巨大分子は、糖、アミノ酸、グリコール、脂質、またはリン脂質の少なくとも3のモノマーのポリマーであってよい。一つの実施態様では、巨大分子は少なくとも6のモノマーのポリマーである。別の実施態様では、巨大分子は少なくとも9のモノマーのポリマーである。更なる実施態様では、巨大分子は少なくとも12のモノマーのポリマーである。本発明に係る巨大分子の例は、タンパク質(例えばアルブミン、ゼラチン)、ポリサッカリド(例えばデキストラン、キトサン、カラゲーン)、糖アルコールのポリマー(例えばマンニトールポリマー)、リン脂質、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレングリコール(PEG)、セルロース誘導体、ビニルポリマー、及びポリグリコールを含むがこれらに制限されない。巨大分子は、4から8のヒドロキシル基を有するポリオールまたは糖アルコール、あるいは非イオン性界面活性剤を含まない。
【0026】
本発明の一つの実施態様では、巨大分子はアルブミンである。本発明の別の実施態様では、巨大分子はデキストランである。デキストラン分子は各種の分子量を有し、例えば5−80kDaの範囲、または約5、25、及び80kDaであることができる。
【0027】
一つの実施態様では、巨大分子は0.01mg/mlより大きく、2mg/ml以下までの濃度範囲で添加されて良い。別の実施態様では、巨大分子は0.15μMより大きく31μM以下の濃度範囲で添加される。更なる実施態様では、巨大分子はタンパク質溶液の濃度より低い濃度で添加される。
【0028】
ナノ濾過は加圧分離方法に関し、それは半透過性の膜によって形成された選択的分離層で実施されて良い。分離方法の作動力は、膜の分離層で供給物(残留物)と濾過物(透過物)の間での差圧である。
【0029】
本発明の一つの実施態様では、本発明の方法で使用されて良いナノフィルターは、>10ダルトンの粒子サイズのカットオフを有してよい。別の実施態様では、カットオフは>10ダルトンであってよい。別の例は、10ダルトンと3×10ダルトンの範囲のカットオフである。一つの実施態様では、ナノフィルターはViresolve/70(登録商標)またはViresolve/180(登録商標)膜である。
【0030】
前記溶液は、標準的な濾過方法に従ってナノフィルターを通過する。例えば前記溶液は、クロスフローナノ濾過(TFNF)またはデッドエンドナノ濾過のいずれかによって、ナノフィルターを通過してよい。マンニトール及び塩のような安定化剤も、タンパク質溶液に添加されて良い。
【0031】
本発明の更なる特徴点は、本発明の方法によって感染性粒子から精製されたタンパク質溶液である
【0032】
本発明を理解し、実際にどのように実施されて良いかを示すために、添付の図面を参考にして、あくまで非制限的な例として例示的な実施態様がここで記載されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、Viresolve70(登録商標)膜システムのアセンブリーを説明する模式図である。
【図2】図2は、Viresolve70濾過によるMVMp除去に対するHSA濃度の効果(LRV)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以上または以下で引用される特許出願、特許、及び文献の開示は、参考として完全にここに取り込まれる。以下の実施例は制限することなく説明的なものである。
【実施例】
【0035】
物質と方法
ウイルス及び細胞
細胞
A9(ATCC-CCL-1.4)マウス線維芽細胞系を、2mMのL-グルタミン、1%ペニシリン-ストレプトマイシン-アンホテリシンB溶液、0.1%硫酸ゲンタマイシン溶液、及び5%胎児ウシ血清(FCS)を補ったダルベッコ修飾イーグル培地(DMEM)で常法のように維持した(Biological Industries)。
アカゲザルの腎臓から由来するFrhK−4(Wallace R.E等, In vitro 8: 333-341, 1973)連続細胞系を、4mMグルタミン、1%非必須アミノ酸、及び10%FCSを補った4.5g/lグルコース、110mg/lピルビン酸ナトリウム、及び1.1g/l二炭酸ナトリウムを有するDMEMで生育させた。
【0036】
ウイルス
マウスの微小パルボウイルス(MVM(p))を、Jacov Tal博士(Ben-Gurion University)によって提供していただき、A9細胞に伝播させた。ウイルス生産を以前に記載されたように(Tattersal P, Bratton J. (1983))実施した。略記すると、A9細胞を0.1-1感染多重度(multiplicity of infection;MOI)でMVMpで感染させた。過度の細胞変性効果が観察されたら、例えば約30%の細胞が分離したら、細胞と培地を回収し、4℃で1000gで10分間遠心分離した。細胞ペレットをTNFバッファー(Tris-HCl, 50mM pH7.2 NaCl 150mM, EDTA 50mM)に再懸濁し、上述のように1000gで再遠心分離した。この工程を3回繰り返した。最後の遠心分離工程の最後で、細胞ペレットをTEバッファー(Tris-HCl 50mM pH8.7, EDTA 0.5mM)に再懸濁し、次いで液体窒素での凍結と室温での解凍の3サイクルに供した。ウイルスを精製するために、破壊した細胞を4℃で20000gで10分間遠心分離に供した。ウイルスを含む上清を分注し、<−70℃で貯蔵した。使用前にウイルスのストックを0.2μmの濾過(Minisart, Sartorius)、引き続き0.1μmの濾過(Durapore, Millipore)に供した。
【0037】
A型肝炎ウイルス(HAV)(HM175)(Cooper P等, 1978)を、感染させたFrhK−4細胞の上清で生産した。3500rpmで15分間の浄化の後(Sigma 3K2)、細胞を回収してPBSに再懸濁し、2500rpmで10分間超音波浄化した。その後上清を分注し、<−70℃で貯蔵した。第一の遠心分離から得た上清を4℃で19000rpmで7時間の限外濾過によって遠心分離した(Beckman R19)。ペレットを分注したPBSに再懸濁し、<−70℃で貯蔵した。
【0038】
ウイルス滴定と対数減少値(LRV)評価
MVM(p)ウイルスストックと全ての実験サンプルの力価を、TCID50アッセイによって測定した。略記すると、ウイルス/サンプル希釈物を、希釈剤としてA9細胞増殖培地(50μlの最終体積)を使用して96穴プレートに一連の2倍希釈物によって調製した。各ウェルに対して、100μlのA9細胞(5×10)を添加し、プレートを37℃で7〜10日間インキュベートした。高力価のMVM(p)ウイルスを含むサンプルを事前希釈し、上記アッセイを使用して定量した。各ウェルを感染性について調べ、力価を測定し、Spearman-Karber式を使用してミリリットル当たりの50%組織培養物感染用量(TCID50/ml)として表した。HAVサンプル力価をマイナーな変化を施して上述のように測定した;FrhK−4細胞をウェル当たり1×10細胞の濃度で使用し、感染後約10−12日で感染性を測定した。
試験されたサンプルにおいて感染性が検出されなかった場合、より大きな体積のサンプルを最小の非毒性希釈でアッセイし、またはより大量のサンプルを限外遠心分離(Beckman R19ローターで19000rpmで4℃で15時間)に供し、全体積を感染性について試験する。
LRVを以下の式に従って計算した:
LRV=log(第一のサンプル中のウイルス力価×サンプル体積)
−log(第二のサンプル中のウイルス力価×サンプル体積)
【0039】
スパイキング
Viresolve70(登録商標)濾過実験で使用されるサンプルをMVMpまたはHAVでスパイクし、1×10TCID50ユニット/mlより高い最終濃度に達した。スパイキングの割合は10%を超えなかった。スパイクした溶液を、Viresolve70(登録商標)濾過の前に0.2μmフィルター(Millipak40, Millipore)で濾過した。
【0040】
トロンビン定量
トロンビン活性の定量を、わずかに変更したEuropean Pharmacopeia Assay(0903/1997)方法に従って実施した。(4-10IU/ml)の較正曲線を、0.1%のフィブリノーゲン(Enzyme Research Laboratories, Ltd)含量のフィブリノーゲン溶液とトロンビンスタンダードを混合することによって調製した。サンプルのトロンビン濃度を較正曲線から計算し、希釈係数によって掛け算した。
【0041】
全タンパク質濃度の測定
タンパク質濃度をビューレット法(Doumas等, 1981)を使用して測定した。
ビューレット試薬の添加の前に、サンプルをアセトン沈降に供した。サンプルとスタンダードをアセトンで2.5倍に希釈し、5分間インキュベートし、次いで20000gで5分間遠心分離した。激しいボルテックスによりペレットを0.1mlの塩水で再懸濁し、0.9mlの全タンパク質試薬(Sigma)を各サンプルに添加した。室温で15分のインキュベートの後、サンプルとスタンダードの吸光度を分光光度計を使用して540nmで測定した。タンパク質濃度を、スタンダードの結果とサンプルの結果を比較することにより計算した。
【0042】
トロンビン製造工程中サンプル
Ormix生産工場(Tel Aviv, Israel)でクリアプア血漿からトロンビンを通常のように生産する。生産工程の間、生成物を溶媒界面活性剤(1%TnBP/1%Triton-X100)処理に供し、出芽したウイルスを除去する。次いで溶媒と界面活性剤をクロマトグラフィーにより除去し、その後生成物を溶出によって回収する。生成物安定性を増大するため、マンニトールを2%の最終濃度で添加する。HSAを0.2%の最終濃度で添加する。1400−1600ml/分の残留物流同速度と65−70ml/分の透過物流動速度で、生成物を室温でViresolve70(登録商標)濾過に供する。
濾過までサンプルの凍結を維持した。濾過前にサンプルを37℃で解凍した。
【0043】
開始材料及び濾過バッファー
ナノ濾過の際の巨大分子の影響を評価するための、各種の開始材料を調製し、それに従って濾過バッファーを調製した。
【0044】
【表1】

【0045】
Viresolve70(登録商標)モジュールを使用するクロスフローナノ濾過(TFNF)
生産サイズViresolve70(登録商標)モジュールは、0.1mの名目上の膜領域を含む。この実験では、生産膜領域の1/3または1/6を含むスケールダウンしたモジュールを使用し、それに従って条件を調節した。クロスフローナノ濾過を製造者の推奨に従って実施した。略記すると、Viresolve70(登録商標)濾過方法は、2の蠕動性のポンプを含んだ:一方(残留物)を使用してモジュールの間の生成物の循環を生じ、他方(濾過物)を使用して濾過物を吸引してそれを回収した(図1)。1/6スケールダウン比の場合、ポンプを事前に調節して、残留物ポンプについて250±10ml/分、透過物ポンプについて11−12ml/分の所望の流動速度を達成した。1/3スケールダウン比を使用する場合、流動速度を倍にした。生成物の濾過の前に、精製水でモジュールを洗浄し、次いで濾過バッファーで洗浄した。濾過バッファーの含量を、使用される開始材料によって測定した(表1参照)。
【0046】
濾過される1−1.5リットルの開始材料を1/6スケールダウンモジュールで使用し、2−3リットルを1/3スケールダウンモジュールで使用した。Viresolve70(登録商標)濾過の前に、サンプルを0.2μmフィルター(Millipak40, Millipore)で濾過した。上述の流動速度を使用して室温で濾過工程を実施した。開始材料の濾過の最後で、Viresolveモジュールを関連する濾過バッファーで3回洗浄に供し、その後精製水での濾過物と残留物の洗浄を含む清浄化方法を実施した。この工程の間で回収されたサンプルを、MVMpまたはHAV力価、並びにタンパク質及びトロンビン濃度の測定のために使用した(表2)。
【0047】
【表2】

【0048】
結果
小さな出芽していないウイルスの除去とViresolve濾過での生成物回収に対する巨大分子の添加の効果を評価するために、一連のクロスフローナノ濾過実験を実施した。モデルとして、トロンビン精製をViresolve70(登録商標)モジュールを使用して調査した。実験の第一の部分は、製造者の流束偏位プロトコールを使用してViresolve70(登録商標)(1/3ft2)システムについて操作条件を最適化するようにデザインした。実験は以下のように実施した:実験の当日に、トロンビン溶液を37℃で解凍し、次いで500cmの0.2μmポリエーテルスルホンフィルター(CH5925PPZK, PALL)で濾過した。供給容器に300mlの濾過したトロンビン溶液を満たした。残留物ポンプを流動速度を500ml/分に設定し、生成物を30分間膜に対して再循環させた。次いで透過物ポンプを3.5、5、10、15、20、25、及び30ml/分の流動速度を達成するように設定し、各流動速度について透過物が30分間で残留物ラインに戻るように(前再循環)操作した。残留物(R)と透過物(P)のサンプルを各流動速度について回収し、−70℃で貯蔵した。
次いで膜をMillipore操作方法に従って清浄化した。
凍結サンプルを解凍し、そのタンパク質濃度度トロンビン活性について試験した、
膜の清浄化の後の第一の時間と、新たな膜を使用する第二の時間で、実験を二度繰り返した。
最も高いタンパク質回収とトロンビンの測定値に従って、最適な流動速度を選択した。
製造者の説明書に従ってViresolve710モジュールで完全性試験を実施した。
得られた結果は、最も優れた透過物流動速度は20−25ml/分であることを示した(表3及び4参照)。これらの流動速度では、平均のトロンビンとタンパク質回収率は、それぞれ約93%及び75%であった。
【0049】
【表3】

【0050】
【表4】

【0051】
最適な流動速度が決定してから、生産スケールダウンした条件を使用してトロンビン濾過を評価できた。これらの実験のために、供給容器に300mlのトロンビン溶液を充填し、サンプル(T)を採取した。
再循環ポンプを500ml/分の流動速度に設定し、生成物を30分間再循環した。ホールドアップ体積に到達するまで、流束偏位実験により決定された最適流束でバッチボリュームを加工した。サンプルを供給容器(C)と透過物(P)から回収した。溶液を3×ホールドアップ体積で適切なバッファーで透析濾過し、有意な生成物の希釈なしでできるだけ多くのタンパク質量を回収し、更なる透過物サンプル(P)を回収した。
透析濾過の前後でのサンプル中のタンパク質濃度とトロンビン活性を測定し、透析濾過の有無でのタンパク質回収を決定した。Viresolve70モジュールを4℃で維持し、膜の完全性を試験するために製造者の推奨に従って完全性試験を実施した。
得られた結果は、平均のトロンビン回収が約96%であり、平均のタンパク質回収が約77%であることを示した(表5及び6参照)。更に、透析濾過工程(W)は、トロンビン活性の更に3−5%の回収を導いた。
【0052】
【表5】

【0053】
【表6】

【0054】
Viresolve70(登録商標)を使用するトロンビンクロスフローの条件が設定されてから、ウイルスを除去する前記システムの効率を実験できた。
以下に記載される第一の実験では、最適な流束偏位を使用した。使用されるモジュールの名目上の膜領域は1/3ftまたは1/6ftであった。それ故それに従って、濾過される生成物の体積と流動速度を調節した。
実施される全ての実験では、濾過されるトロンビン製造工程サンプルを、1×10TCID50ユニット/mlより大きい最終濃度にMVM(p)またはHAVでスパイクした(詳細については方法のセクションを参照)。スパイクした溶液を0.2μmフィルターで濾過し、第一の濾過前サンプル(L1及びL2)をウイルス滴定のための取り出した。残余のスパイクした材料を事前に平衡化したViresolve70(登録商標)膜で、関連する濾過バッファーを使用して濾過した。残留物体積が100−250mlに達するまで、濾過工程を進行させた。全濾過物を回収し、ウイルス滴定のためにサンプルを取り出した(F)。関連する濾過バッファーを使用してフィルターの洗浄を繰り返して濾過工程を続けた。洗浄工程の濾過物をそれぞれ別個に回収し、更なるサンプルをウイルス滴定のために回収し(W)、または以前の濾過物と組み合わせた(従ってこれらのサンプルのウイルス力価を計算した)。全工程からの残留物をこの段階で回収し、サンプルをウイルス滴定のために取り出した(R)。濾過後、全てのモジュールを洗浄し、モジュール製造者(Millipore)によって特定された完全性試験のために完全性を試験した。
【0055】
【表7】

【0056】
得られた結果は、最適条件下で、トロンビンとタンパク質回収に関して、このシステムを使用するパルボウイルスの除去は非常に有効であることを示した(図7参照)。得られた結果は更に、以前の実験で報告されたものより予測できないほど良好であった(Hoffer等, 1995, DiLeo等, 1992, DiLeo等, 1993, Jernberg等, 1996, Adamson, 1998)。
これらの結果を評価し、改良された減少の結果についてのメカニズムを明確にするために、一連の実験を実施した。
第一セットの実験は、ウイルス除去に対するアルブミン濃度の寄与を評価するようにデザインされた。20mg/mlのマンニトールを補った、2mg/ml、1mg/ml、0.2mg/ml、及び0.01mg/mlの4種の濃度のアルブミン溶液を使用した。これらの溶液を、上述の条件と方法を使用して、HAVまたはMVM(p)でスパイクした。しかしながらMVMでの実験の間、濾過の最初で固定した流動速度を維持した(最悪の条件;濾過の間の圧力を増大する)。逆にHAVについては、濾過の最初で流動速度を固定し、圧力を増大することなく濾過を実施した。得られた結果は、約6.0の対数減少値(LRV)のMVM(p)について以前に得られた値を実際に繰り返すことができたことを示した(表8及び図2参照)。興味深いことに、0.2−2mg/mlの濃度でのHSAの添加は、MVM(p)除去の値に同様な効果を示した。しかしながら20倍低い濃度(0.01mg/ml)でのHSAの添加、または開始材料からのアルブミンの省略は、実質的により低いMVM(p)の除去を導き(それぞれ約5.0または4.7の対数減少値)、アルブミンのような巨大分子が改良された対数減少値に役割を有することを示した。各種のアルブミン溶液で、トロンビンのモル濃度は5.4μMであることは注目に値した。これらの結果は、MVM(p)の除去を改良するために、トロンビンのモル濃度と比較してより低濃度のHSAを使用することで十分であることを示唆している。
HAV(27−32nm)はMAM(p)(18−26nm)と比較して大きいウイルスなので、一般的にHAVについての減少値はより高かった(>7.0LRV)。MVMについて示されたように、0.2−2mg/mlの濃度でHSAは、HAVの対数減少値に関して同様な影響を有した。更に、MVMを含むランでの初期流動速度を維持するために使用された増大した圧力は、ウイルス除去を減少しなかった。
【0057】
【表8】

【0058】
【表9】

【0059】
除去方法におけるアルブミンの改良を更に試験するために、次のセットの実験を実施した。ウイルス除去に対する以下の溶液の影響を調べた:0.2mg/mlのアルブミンと20mg/mlのマンニトールを含むトロンビン溶液、マンニトール溶液、DMEM培地。この方法のために使用される条件及びスパイキング方法は上述の通りであった。
得られた結果は、HSAの省略に加えてトロンビンを省略すると、ウイルス除去値の更なる減少が得られ(2.84LRV)、最も低い減少値はDMEM培地(Biological Industries)を使用すると得られた(1.72LRV)。
【0060】
【表10】

【0061】
ウイルス除去に対する他の巨大分子の添加の効果を評価し、分子サイズがウイルス除去に対していかなる効果を有するかを評価するために、同じモル濃度で各種の分子サイズを有するデキストラン溶液を使用した。これらの分子を上述のような製造工程サンプルに添加した。スパイキングと濾過方法は、上述の条件に従って実施した。
得られた結果は、第一の実験では、0.23mg/mlの最終濃度で80kDaのデキストランを使用した場合、MVM(p)力価において約6.2logが見出された。ウイルス除去値に対する同様な影響は、より小さいサイズのデキストラン分子(5kDa、25kDa)を同じモル比で使用した場合でも見出され、濾過後のMVM(p)力価は約6.1−6.2logの間で再び減少した。
【0062】
【表11】

【0063】
流動速度の増大がウイルス除去値に影響するかを評価するために、透過物流動速度を25ml/分に増大し、濾過工程の間で維持した。その結果は、流動速度の増大はMVM(p)除去値にかろうじてわずかな影響を有し(表12)、約5.7対数減少値の減少を得たことが示された
【0064】
【表12】

【0065】
更に、各種の濾過の平均流動速度を測定すると(表13参照)、トロンビンに加えて巨大分子(即ちアルブミンまたはデキストラン)を含む溶液で、流動速度は劇的に減少することが見出された。トロンビン溶液に2.0mg/mlの最終濃度でヒトアルブミンを補うと、初期流動速度の約46%である5.4ml/分の最低平均流動速度に達した。アルブミンの最終濃度を0.2mg/mlとした場合、または等モル濃度の各種のサイズのデキストラン分子を使用した場合、初期流動速度の63%から約74%の間に達した。平均流動速度のこれらの際は、以前の実験で記載されたようにウイルス除去値には影響を有さなかった。しかしながら、トロンビン溶液に巨大分子を添加しない場合、またはバッファー(例えばDMEM、バッファー+マンニトール)のみを使用した場合、平均流動速度は初期流動速度に近かった。
【0066】
【表13】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)タンパク質溶液に巨大分子を添加する工程;及び
(b)前記溶液をナノフィルターに通過させる工程
を含み、それによって感染性粒子から実質的に精製されたタンパク質溶液を得る、感染性粒子からタンパク質溶液を精製する方法。
【請求項2】
感染性粒子がウイルス粒子である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記溶液が全血から由来する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記溶液が血漿である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
工程(b)の後の精製したタンパク質の回収率が59−100%の範囲にある、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
工程(b)の後の精製したタンパク質の回収率が75−93%の範囲にある、請求項1または2に記載の方法。
【請求項7】
工程(b)の後の粒子の対数減少値(LRV)が約4−8である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項8】
粒子が15から80nmのサイズ範囲にある、請求項1または2に記載の方法。
【請求項9】
粒子が80nmより大きい、請求項1または2に記載の方法。
【請求項10】
前記タンパク質が180000ダルトン以下の分子量を有する、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記タンパク質が極性タンパク質である、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記タンパク質が(a)凝固因子;(b)抗凝固因子またはそれらのサブユニット;(c)増殖因子;(d)神経栄養因子;(e)ホルモン;(f)インターフェロン;(g)インターロイキン;及び(h)組換えタンパク質の群から選択される、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記タンパク質が第IX因子、プロトロンビン、第VII因子、第X因子、第XI因子、第XII因子、及びそれらの活性化したチモーゲン、プレカリクレイン、HK、プラスミノーゲン、ウロキナーゼ、プロテインCインヒビター、プロテインC、プロテインS、抗トロンビンIII、ヘパリン補因子II、α2抗プラスミン、プロテインZ、インスリン様増殖因子1(IGF−1)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、神経成長因子(NGF)、グリア細胞系由来神経栄養因子(GDNF)、エリスロポエチン、成長ホルモン、インターフェロンα、β及びγ、インターロイキン1、2、3、及び7、組換え凝固因子または抗凝固因子、組換え成長ホルモンから選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
タンパク質がトロンビンである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記巨大分子が糖、アミノ酸、グリコール、アルコール、脂質、及びリン脂質の少なくとも3のモノマーのポリマーから選択される、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記巨大分子がタンパク質、ポリサッカリド、糖アルコール、リン脂質、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレングリコール(PEG)、セルロース誘導体、ビニルポリマー、及びグリコールから選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記巨大分子がデキストランである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
デキストランが5−80kDaの範囲にある、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記巨大分子がアルブミンである、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
0.01mg/mlより大きく2mg/ml以下の濃度範囲内で巨大分子を添加する、請求項1から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
0.15μMより大きく31μM以下の濃度範囲内で巨大分子を添加する、請求項1から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
タンパク質溶液の濃度より低い濃度で巨大分子を添加する、請求項1から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記ナノフィルターが>10ダルトンの粒子サイズカットオフを有する、請求項1から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記ナノフィルターが10ダルトンから3×10ダルトンの間の粒子サイズカットオフを有する、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記ナノフィルターがViresolve/70(登録商標)膜またはViresolve/180(登録商標)膜である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
クロスフローナノ濾過(TFNF)によって溶液がナノフィルターを通過する、請求項1から25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
デッドエンドナノ濾過によって溶液がナノフィルターを通過する、請求項1から25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
請求項1から27のいずれか一項に記載の方法により、感染性粒子から精製されたタンパク質溶液。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−541482(P2009−541482A)
【公表日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−517600(P2009−517600)
【出願日】平成19年6月25日(2007.6.25)
【国際出願番号】PCT/IL2007/000764
【国際公開番号】WO2008/001353
【国際公開日】平成20年1月3日(2008.1.3)
【出願人】(504438853)オムリクス・バイオフアーマシユーチカルズ・インコーポレーテツド (5)
【Fターム(参考)】