説明

ネズミの忌避方法

【課題】警戒心が強く学習能力が高いネズミにも優れた忌避効果を発揮するとともに、忌避範囲が広く、かつ忌避期間を長期にわたり持続させることのできるネズミの忌避方法を提供すること。
【解決手段】ネズミの存在する空間内に、揮散成分を揮散させること、及び、前記空間内に前記ネズミの忌避成分の少なくとも1種を含有するネズミ忌避材を用いること、とを含むことを特徴とするネズミの忌避方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮散成分又は発煙装置および忌避材を用いたネズミの忌避方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、置き型ネズミ忌避材としては、種々のものが知られており、モノテルペン類を使用したもの(特許文献1)、レモングラス油、ラベンダー油、オレンジ油、シトロネロール、ゲラニオール、等を使用したもの(特許文献2)、テルピネン、テルピネオール、p−サイメンを使用したもの(特許文献3)等が挙げられる。
しかし、特許文献1〜3に開示される置き型ネズミ忌避材は、ニオイを揮発させてネズミを忌避させることを原理とするものであるが、忌避範囲が狭く、また警戒心が強く学習能力が高いネズミにはその効果が不十分であった。
【0003】
また、従来から、煙により獣害虫を忌避することが検討されている。例えば、木粉や澱粉等からなる成形物に着火し、発煙せしめて鳥類を忌避すること(特許文献4)、害虫の生息場所を燻煙して、害虫を追い出し、設置した粘着材で捕獲、駆除すること(特許文献5)等が知られている。
しかし鳥類や害虫とネズミとは習性、行動、さらに刺激に対する反応等も異なるうえ、上記文献にはネズミに適用することについて記載はない。
【0004】
【特許文献1】特開平3−181402号公報
【特許文献2】特開2002−60308号公報
【特許文献3】特開平4−288003号公報
【特許文献4】実開昭59−227808号公報
【特許文献5】特開平5−331014号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって本発明の目的は、警戒心が強く学習能力が高いネズミにも優れた忌避効果を発揮するとともに、忌避範囲が広く、かつ忌避期間を長期にわたり持続させることのできるネズミの忌避方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、ネズミの存在する空間内にネズミ忌避材を用いる前に、揮散成分を揮散させること又は発煙装置により煙を発煙させることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成することができた。
すなわち本発明は以下のとおりである。
ネズミの存在する空間内に、揮散成分を揮散させること又は発煙装置により煙を発煙させること、及び前記空間内に前記ネズミの忌避成分の少なくとも1種を含有するネズミ忌避材を用いること、とを含むことを特徴とするネズミの忌避方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、ネズミの存在する空間内に、揮散成分を揮散させること又は発煙装置により煙を発煙させることを含む。これにより、該空間内全体にネズミの行動惹起効果、及び/又は忌避効果をもたらすことができ、従来の課題がまず解決される。更に前記空間内に前記ネズミの忌避成分の少なくとも1種を含有するネズミ忌避材を用いることでネズミが再び戻ってくることを防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0009】
(揮散成分)
本発明に用いる揮散成分としては、空気中に揮散され、ネズミの行動を撹乱させることによりネズミの警戒心が欠落させ得るものであれば特に制限は無く、揮散装置により揮散されることが好ましい。
本発明に使用される揮散成分は特に限定されるものではないが、例えば、わさび成分(イソチオシアン酸アリル)、月桃抽出物、モノテルペン類、ハッカ油、ローズマリー油、レモングラス油、ラベンダー油、オレンジ油等の精油成分、メトキサジアゾン、ピラゾロンオレンジ、アゾベンゼンアゾビスイソブチロニトリル、アゾ色素などのアゾ化合物のうち臭いがあり、常温で揮散するもの等を挙げることができる。
揮散装置としては、常温又は加熱下において揮散成分を揮散するものが好ましく、例えば、特開平11−127754号公報に記載の揮散装置を用いることができる。本発明においては、例えば200℃〜500℃に熱した板上で揮散成分を加熱することが好ましい。
【0010】
(煙の発煙)
本発明においては、ネズミの存在する空間内に発煙装置により煙を発煙させることが好ましい。本発明に使用される発煙装置は特に限定されるものではないが、例えば燻煙剤を用いた装置、燻蒸剤を用いた装置、発煙筒等が挙げられ、バクチク等の煙と音を生じるものも用いることができる。
このような装置をネズミの生息、活動場所に置いたり、屋根裏や床下等の狭い場所では、別の場所で発生させた煙をパイプ等で供給して用いることができる。
【0011】
煙には、ネズミ忌避成分を含有させる。煙自体が忌避作用を有するものでもよい。ネズミ忌避成分としては、例えば、わさび成分(イソチオシアン酸アリル)、月桃抽出物、モノテルペン類、ハッカ油、ローズマリー油、レモングラス油、ラベンダー油、オレンジ油等の精油成分が挙げられる。
【0012】
本発明では、上記のようなネズミ忌避成分とともに、アゾジカルボンアミドが熱分解して発生する煙(以下、AC煙という)をネズミの存在する空間内に導入するのがとくに好ましい。煙量は、空間内に45cpm以上、好ましくは100cpm以上、より好ましくは200cpm以上となるように空間内に拡散させるのがよい。AC煙は、少量でもネズミに対して強い忌避効果を発揮する。
【0013】
アゾジカルボンアミドとしては、200℃前後で熱分解して煙を発生するものが好ましく、アゾジカルボンアミドの他に、アゾビスイソブチロニトリル、アゾ色素などのアゾ化合物のうち臭いがあり、常温で揮散するもの等が挙げられる。
【0014】
煙量は、ネズミの行動を撹乱させ、ネズミの警戒心を欠落させるに十分な量であれば特に制限は無く、例えば、空間内に45cpm以上、好ましくは100cpm以上、より好ましくは200cpm以上となるように空間内に拡散させるのがよい。煙は、少量でもネズミに対して強い忌避効果を発揮し、ネズミの行動を撹乱させやすい。
煙には前期揮散成分を含有させてもよい。
【0015】
ガス発生剤であるアゾジカルボンアミド(以下、AC煙という場合がある)としては、200℃前後で熱分解して煙を発生するものが好ましく、例えば、ユニフォームAZ(大塚化学社製)、セルマイクCE(三協化成)等が挙げられる。
【0016】
本発明における煙量とは、屋内、倉庫、床下等における床面からの高さが10〜30cm付近において、デジタル粉じん計で測定した1分間の平均粉塵量(cpm)を意味し、具体的には、例えば、デジタルダストインジケーター モデル P−3(柴田化学社製)により測定することができる。
本発明においては、例えば、煙の発生から30分間、任意の間隔で複数回の測定を行い、その平均値を煙量とする。
上記のAC煙の煙量を発生させるには、アゾジカルボンアミドを20〜50mに対して0.2g以上、好ましくは1〜30gを用いればよい。
【0017】
また以下の図1に示すような二重容器を用いた装置等では、容器を加熱するだけでも煙が多少発生するので、AC煙の煙量としては、アゾジカルボンアミドが容器内にある時と、ない時とで煙量をそれぞれ測定し、その差をアゾジカルボンアミドを熱分解して発生する煙の煙量とするものである。
【0018】
本発明において、アゾジカルボンアミドの熱分解は、例えば、アゾジカルボンアミドを図1に示した発煙装置の容器に収容し、該容器の外側に配置された加熱手段により加熱することにより行うことができる。
【0019】
容器としては、例えば、プラスチック容器、紙容器、金属容器、セラミック容器、ガラス容器等が挙げられる。また、加熱手段としては、例えば、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、塩化マグネシウム、塩化アルミニウム、塩化カルシウム、塩化鉄等の加水発熱物質と水との反応を用いる加水発熱方式(図1参照)、炭化鉄、鉄粉と塩素酸アンモニウムの混合物、鉄と硫酸カリウムとの混合物等の酸化反応により発熱する金属類を用いる空気酸化発熱方式、ニクロム線、正特性サーミスタ、半導体ヒータ等のヒータを用いる電気加熱方式、白金触媒方式等が挙げられる。
【0020】
図示される発煙装置1は、有底円筒状の外容器2を備えており、その底部から側部にかけて加水発熱物質Aが収容されている。また、外容器2の内部は、仕切部材4により2つの空間に区画されている。外容器2は、底部に複数の通水孔を有し、通水孔は通水性を有する部材、例えば不織布シート3によって塞がれている。使用に際して、自己発熱装置1を水Wが入った容器8に入れることにより、水Wが通水孔を通じて外容器2に流入し、更に不織布シート3を浸透して加水発熱物質Aと接触し、そのとき発生した反応熱によりアゾジカルボンアミドBが加熱されて分解し、発生したAC煙が熱溶融フィルム7の通気孔や蓋部材6の開口部を通じて外部(室内等)に放出される。
【0021】
本発明のネズミ忌避方法においては、揮散成分を揮散させること又は発煙装置により煙を発煙させた後にネズミ忌避材を設置することが好ましい。
なお、揮散又は発煙は2回以上繰り返してもよい。ネズミの学習効果によって、忌避成分の不快な記憶が長期にわたり持続することになり、結果としてネズミ忌避材の効果も長期間持続する。
また、ネズミ忌避材を設置し、数週間〜数ヶ月おきに揮散又は発煙させることも好ましい。
【0022】
(ネズミ忌避材の設置)
前記空間内に前記ネズミの忌避成分の少なくとも1種を含有するネズミ忌避材を設置する。ネズミ忌避材としては特に制限されないが、発煙に使用した煙中のネズミ忌避成分を少なくとも1種含有する必要がある。好ましくは、前記煙中のネズミ忌避成分と全く同一であるのがよい。これにより、学習効果の高いネズミは、煙による忌避効果を記憶しているので、煙と同じ忌避成分を含むネズミ忌避材を極端に不快に感じることになり、ネズミ忌避材の効果が格段に高まり忌避効果が持続する。
【0023】
本発明で使用されるネズミ忌避材は、忌避材を徐々に揮散するものが好ましく、具体例としては、忌避材の揮散性の向上と揮散の持続性向上とゲルの保形性の維持とを図ることができるゲル製品等を好適に使用することができる。
【0024】
本発明のネズミ忌避材は、有効成分としてローズマリーオイルを使用することが好ましい。使用し得るローズマリーオイルとしては、例えば、ローズマリー・シネオール、ローズマリー・ベルベノン、ローズマリー・カンファー等を挙げることができる。
【0025】
また、ローズマリーオイルの他に、P−シメン、γ−テルピネン、酢酸ヘキシル、テルピネオール及びオレンジオイルの少なくとも1種類を配合することができる。これら第2成分を併用する場合、ローズマリーオイルは有効成分全量の20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましい。
【0026】
更に、必要に応じてその他の成分も配合可能であり、例えば、着色剤、紫外線吸収剤、防腐剤、酸化防止剤等を適量配合してもよい。
【0027】
ネズミ忌避材の製剤例としては、例えば、燻蒸剤、ゲル化剤、噴射剤、粉剤、粒剤、顆粒剤、液剤、シート剤等を挙げることができる。尚、ローズマリーオイル及び第2成分は、これらの製剤に適する有効量となるようにその配合量や使用量が選択される。
本発明において、ネズミ忌避材としては、ゲル製品を用いることが好ましい。
【0028】
ゲル製品は、容器と、キャップと、揮散性薬剤を含有したゲルと、から構成されるもので、ゲルが充填された容器にキャップを取り付けられていることが好ましい。
【0029】
ゲルは、例えば、上記ネズミ忌避成分、ゲル化剤(例えば、寒天、カラギナーン、ジェランガム、キサンタンガム等)、溶媒(例えば、水、アルコール、多価アルコール等)等を、加熱して均一に混合し、容器に充填した後、冷却固化させることで、ゲル強度100gf/cm以上に製造することができる。また、必要に応じて、界面活性剤(例えば、POE硬化ヒマシ油、POEアルキルエーテル、POE・POPブロックポリマー、SG−3(松本油脂製)等の非イオン系、脂肪族カルボン酸塩、ジアルキル硫酸塩、アルキルリン酸塩等の陰イオン系、アルキルアミン塩、第四級アンモニウム塩等の陽イオン系、アルキルベタイン等の両性系、アミン酸系、等の各種界面活性剤)、防腐剤(例えば、パラベン、ビオサイド(商品名)等)、酸化防止剤(例えば、BHT、BHA、ポリフェノール、ビタミン等)、着色剤(例えば、黄色、青色、赤色、緑色、紫色、橙色等)、紫外線吸収剤、消泡剤等を配合してもよい。
【0030】
前記ネズミ忌避材を用いる場所は任意であるが、ネズミの存在する空間内の空気対流区域および/または前記空間内の暗部であることが好ましい。なお、空気対流区域の例としては、空間内に設置された点検口、通風口、配管付近等が挙げられ、これらからは前記空間外部からの空気が通常流れ込んでいる。また、前記空間内の暗部とは、空間内において相対的に光の当たらない場所を意味する。
【0031】
本発明において忌避対象となるネズミは、例えばクマネズミ、ドブネズミ、ハツカネズミ、マウス、ラット等が挙げられる。
【実施例】
【0032】
以下に実施例によって本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0033】
〔実施例1〕
150平米(10m×15m)の広さがある食品工場事務所の天井裏に侵入したクマネズミの捕獲を試みた。図1に示す、発煙装置付きの忌避材(忌避成分としてハッカオイルとローズマリーオイルを含む)を、25平米あたり1個、合計6個を使用した結果、翌日よりネズミの存在が認められなくなった。その後、2ヶ月間はネズミの存在はなかったが、2ヶ月後より再びネズミが侵入し暴れだした。そこで、再び同じ発煙式忌避材を使用し、同時に忌避成分としてハッカオイル、ローズマリーオイルを使用したゲル式の忌避材を天井に8個設置したところ、6ヶ月経過後もネズミの再侵入は認められていない。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】アゾジカルボンアミドを熱分解して煙を発生させる装置の一形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0035】
1 発煙装置
2 外容器
3 不織布シート
4 仕切部材
6 蓋部材
7 熱溶融フィルム
8 容器
A 加水発熱物質
B アゾジカルボンアミド
W 水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネズミの存在する空間内に、揮散成分を揮散させること、及び、前記空間内に前記ネズミの忌避成分の少なくとも1種を含有するネズミ忌避材を用いること、とを含むことを特徴とするネズミの忌避方法。
【請求項2】
ネズミの存在する空間内に、発煙装置により煙を発煙させること、及び、前記空間内に前記ネズミの忌避成分の少なくとも1種を含有するネズミ忌避材を用いること、とを含むことを特徴とするネズミの忌避方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−23939(P2009−23939A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−188280(P2007−188280)
【出願日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【出願人】(000100539)アース製薬株式会社 (191)
【Fターム(参考)】