説明

ノイズスケルチ回路

【課題】ノイズスケルチ回路における音声ブロッキング防止と妨害波による誤動作防止と云う、相反する課題を同時に解決した、高い信頼性のノイズスケルチ回路を提供することを目的とする。
【解決手段】ノイズフィルタとして中心周波数が異なる複数のバンドパスフィルタを切り替え可能に備え、又は、一つのフィルタの中心周波数を変更可能に構成し、受信待機中においては中心周波数を低くし、希望信号着信後は中心周波数を高くするように構成することによって、待受け時は実質的にスケルチ感度を高め、希望波着信後はスケルチ感度を低下させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受信機のノイズスケルチ回路に関し、詳しくは、音声ブロック現象や妨害信号等による誤動作を防止したノイズスケルチ回路の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信機に限らないが、受信機の復調信号をスピーカによりモニタする際、無信号時に発生する大きな雑音を遮断する手段として、スケルチ回路が備えられることが多い。特に、陸上移動通信システムでは、電界強度の変動による復調音声信号レベルの変動が少ない周波数変調や位相変調方式が採用されているが、これらの変調方式では受信電界強度が小さくなると、その復調メカニズムに起因して、極めて多大の雑音(ノイズ)が発生するので、スケルチ回路は不可欠である。
スケルチ回路としては、ノイズの量に基づいてスケルチ制御を行うノイズスケルチや、送信側で搬送波に重畳したトーン信号を検出して、音声回路の開閉を行うトーンスケルチ方式(CTCSS:Continuous Tone Coded Squelch System)や、デジタルコードスケルチ(DCS:Digital Code Squelch)等が知られているが、ノイズスケルチが原理的に簡便で、安価である。また、スケルチ回路は、無線通信に限らず、有線通信、更には、データ処理装置等においてもノイズ除去手段として使用されることが多い。
受信機のノイズスケルチ回路周辺部の構成は、図4に示すように、受信機の検波出力信号(音声)のレベルを調整するボリューム41、音声信号を必要に応じて遮断するミュートスイッチ42、オーディオアンプ43、スピーカ44からなる音声回路に、スケルチ回路として上記検波出力の一部を分岐してノイズ成分を取り出すノイズフィルタ45、ノイズアンプ46、整流器47、制御部48、からなるスケルチ制御部を付加した構成となっている。
【0003】
図5は、従来の受信機のノイズスケルチ回路周辺部の更に具体的なブロック図であり、図4と同一ブロックは同一符号を付している。この図では、中間周波部(IF部)50と、検波器51、局部発振器53を付加した受信機の構成例を示している。
ノイズスケルチ回路49は、このような回路において、検波信号中に混入するノイズ成分、特に、高い周波数領域のノイズ成分をノイズフィルタ45で抽出するとともにノイズアンプ46で増幅した上で、整流器47で直流化する。その直流信号レベルが一定値以上になると復調信号出力ルート中に設けたスイッチや減衰回路(ミュートスイッチ)42を制御部48により制御して、復調信号(検波信号)の音声増幅回路やスピーカへの伝達を遮断するものである。ここでノイズ成分を正確に検出することがスケルチ機能の信頼性を左右する。
一般的に、ノイズフィルタの中心周波数を低くすると、周波数が低いノイズ成分が通過するので、若干変調度の高い成分を含む正常な信号に対して、スケルチ動作が作動し、希望波信号の復調出力を遮断してしまう音声ブロック障害を生じ易くなり、逆に、ノイズフィルタの中心周波数を高くすると音声ブロック障害には強くなるが、イメージ妨害波等に対して誤動作し易くなる。
このような不具合は、デジタル無線通信システムにおいても発生する。例えば、復調したベースバンド信号にデータを表わすビット信号が連続する場合、その「1」、「0」の並びパターンによって含まれる周波数成分が変化し、「010101・・・」の並びのほうが「111111000000111・・・」より高い周波数成分レベルが大きくなる。このような信号をノイズフィルタによって高域信号成分を取り出し、そのレベルの大きさに応じてスケルチ制御を行えば、ノイズレベルが大きくなってスケルチが閉じてしまうといった不具合を生じる。このような誤動作を防止する手段として、例えば特許文献1が知られている。特許文献1に記載された手段は、復調信号に含まれる周波数成分を検出し、そのレベルに応じてスケルチ開閉の閾値レベルを変化させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−148040公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1の従来の方法のように復調信号の周波数成分に応じて閾値を変更する手段を用いたとしても、ノイズとして検出する信号そのものの信頼性が低い場合は、上述したような音声ブロック障害とイメージ妨害波等による誤動作をともに防止することは困難であった。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、ノイズスケルチ回路における音声ブロック障害防止と妨害波による誤動作防止の、相反する課題を同時に解決することができる、信頼性の高いノイズスケルチ回路を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明はかかる課題を解決するために、請求項1記載のノイズスケルチ回路は、受信信号の検波出力からノイズフィルタを介して高域ノイズ成分を取り出し、所定の閾値と比較した結果に基づいてスケルチ動作をオン/オフするノイズスケルチ回路において、そのノイズフィルタとして中心周波数が異なる複数のバンドパスフィルタを切り替え可能に備え、受信待機中においては中心周波数が低いバンドパスフィルタを選択し、希望信号着信中は、中心周波数が高いバンドパスフィルタを選択するように構成したことを特徴とする。
請求項2記載のノイズスケルチ回路は、検波出力からノイズフィルタを介して高域ノイズ成分を取り出し、所定の閾値と比較した結果に基づいてスケルチ動作をオン/オフするノイズスケルチ回路において、そのノイズフィルタとして可変リアクタンス素子を含み、その制御によって中心周波数を変更可能なものとし、受信待機中においては中心周波数を低くし、希望信号着信中は、中心周波数を高くするように構成したことを特徴とする。
請求項3記載のノイズスケルチ回路は、検波出力からノイズフィルタを介して高域ノイズ成分を取り出し、所定の閾値と比較した結果に基づいてスケルチ動作をオン/オフするノイズスケルチ回路において、上記ノイズフィルタとして複数のインダクタ又は/及びキャパシタを切替可能に備え、その切替制御によって中心周波数を変更可能とし、受信待機中においては中心周波数を低くし、希望信号着信中は、中心周波数を高くするように切替制御したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明は上述したように、ノイズフィルタとして中心周波数が異なる複数のバンドパスフィルタを切り替え可能に備え、又は、一つのフィルタの中心周波数を変更可能に構成し、受信待機中においては中心周波数を低くし、希望信号着信中は中心周波数を高くするように構成したので、待受け時は実質的にスケルチ感度を高め、希望波着信中はスケルチ感度を低下させることになる。従って、受信待機時は、スケルチ感度が高くなり、イメージ妨害波混入によってノイズ成分が若干減少してもスケルチがオフ状態(音声信号が出力される状態)にならないので、妨害波による誤動作を防止することができる。また、希望信号着信中はスケルチ感度が低下するので、変調レベルが若干大きな音声信号に対してもスケルチ動作がオン状態(音声信号が遮断される状態)にならないので、音声ブロック障害が防止される。このように本発明によれば、音声ブロック防止と妨害波による誤動作防止の、相反する課題を同時に解決することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係るノイズスケルチ回路を備えた受信機の一実施例を示すブロック図。
【図2】本発明の他の実施例のノイズスケルチ回路を備えた受信機のブロック図。
【図3】(a)、(b)は本発明において使用するノイズフィルタの例を示す回路図。
【図4】従来のノイズフィルタを備えた受信機のブロック図。
【図5】従来のノイズフィルタを備えた受信機のブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載される構成要素、種類、組み合わせ、形状、その相対配置などは特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する主旨ではなく単なる説明例に過ぎない。
図1は本発明の一実施例のノイズスケルチ回路を含む無線機の要部ブロック図である。この例に示すノイズスケルチ回路1は、検波信号を二つのフィルタに切替える第一のスイッチ2と第二のスイッチ3と、これら二つのスイッチ間に配置した、中心周波数が異なる二つのノイズフィルタ(高域フィルタ)4、5と、ノイズを増幅するノイズアンプ6と、ノイズを直流化する整流器7と、この直流信号のレベルを予め設定した閾値と比較し、閾値レベルを上回った場合ミュートスイッチを開(スケルチ動作オン)にする制御部8を含んでいる。
なお、受信検波信号の一部が、ボリューム9、ミュートスイッチ10、オーディオアンプ11、スピーカ12を含む音声回路に供給されることは、上記図4、図5と同様であるが、動作には違いがないので説明は省略する。
この回路の特徴は、中心周波数が異なる二つのノイズフィルタをスイッチ2、3により切替えるように構成した点である。即ち、受信待機中、つまり着信信号がなくノイズ成分が多い状態においては、中心周波数が低い方のノイズフィルタに切替え、着信信号が検出されて(あるいは、ノイズ成分が小さくなって)スケルチ動作がオフ(音声信号がスピーカから出力される)状態においては、中心周波数が高い方のノイズフィルタに切替える。この制御によれば、ノイズが多い状態では中心周波数が低いので等価的にスケルチ感度が高い状態となり、イメージ妨害や他の妨害電波に対してもノイズ音声がスピーカから出力されにくくなる。一方、着信があってスケルチがオフの状態では、中心周波数が高くなり等価的なスケルチ感度が低くなるので、音声ブロック現象が発生しにくくなる。
【0010】
図2は本発明の変形実施例を示すブロック図であり、この例の特徴は、ノイズフィルタ13として、中心周波数が電子的に切替可能になっている点である。図1において説明したように、受信待受け状態でノイズ成分が多い状態においては、ノイズフィルタの中心周波数を低い方に制御し、着信信号が検出されてノイズ成分が小さくなり、音声信号がスピーカから出力される状態においては、ノイズフィルタの中心周波数を高い方に制御する。
この制御によっても、図1の場合と同様に、音声ブロック障害と、イメージ妨害波による誤動作の相反する性能を、ともに満たし得るスケルチ回路を実現することができる。
なお、ノイズフィルタの中心周波数を切替える際の判断としては、ノイズスケルチ電圧(ノイズを整流して生成した直流電圧)が一定値以下になったこと、若しくは、受信高周波回路や、中間周波増幅回路において検出する電界強度信号が一定値以上になったこと等に基づいて判断することができる。
【0011】
図3(a)、(b)は上記図2に示した、中心周波数を切り替え可能なノイズフィルタ13の例を示した回路図である。図3(a)は、ノイズフィルタ21の入出力端に、可変容量ダイオードVC1、VC2を接続し、ノイズ周波数に対して大きな抵抗を持つインダクタ(コイル)L1、L2(又は抵抗器でもよい)を介して、制御電圧Vcontを印加する。この制御信号は制御部8あるいは、図示を省略したCPUにおいて生成した信号であってもよい。なお、コンデンサC1、C2は直流カット用である。
この回路においても、上述したように、受信待受け状態でノイズ成分が多い状態においては、可変容量ダイオードの制御電圧を低くすることによって(容量値を大きくし)ノイズフィルタの中心周波数を低い方に制御し、また、着信信号が検出されてノイズ成分が小さくなり、音声信号がスピーカから出力される状態においては、制御電圧Vcontを高くして、ノイズフィルタの中心周波数を高い方に制御する。この制御によっても、図1の場合と同様に、音声ブロック障害とイメージ妨害波による誤動作の両方に対し、防止する性能を満たし得るスケルチ回路を実現することができる。
【0012】
図3(b)は、同様にノイズフィルタの中心周波数を切替えるもので、可変容量ダイオードに代えて、コイルLとコンデンサCを切替スイッチSW1乃至SW4により切替えるように構成したものである。なお、切替スイッチSW1乃至SW4の制御信号も、同様にCPUや制御部8において生成すればよい。このコイルやコンデンサの値は、順次値が異なるものを並べ、中心周波数を低く、又は、高くする方向に応じて必要なものに切替える。あるいは、切替スイッチSWの操作によって、接続されるコンデンサやコイルの数が変化することによって、その値が増減するように構成してもよい。また、電子的な切替手段としては、半導体スイッチが好適であるが、それ以外のものであっても構わない。
なお、以上説明したノイズスケルチ回路において、ノイズフィルタの中心周波数を切替える際の変化量は、スケルチのオン/オフの「ばたつき」が発生しないような範囲で設定すべきであろう。つまり、ノイズフィルタの中心周波数を切替えると、ノイズの量が変化し、等価的にスケルチ感度が変化するので、スケルチ回路動作のオン/オフがばたつくことが考えられる。もし、そのような虞が有る場合は、スケルチ動作オンからオフへの切替と、オフからオンへの切替とにおける閾値にステリシスを持たせることによって、両者間のばたつきを防止するように構成することもできる。
あるいは、中心周波数の切替に応じて変化するスケルチ感度の変化を補うように、ノイズアンプの利得を変化させて、実質的なスケルチ感度を一定に保つような制御も、ばたつき防止に有用であろう。
【0013】
以上、本発明について説明したが、これらの実施例に限定する必要はなく、種々変形が可能である。また、フィルタをデジタルフィルタに置き換え、プログラムによってフィルタ機能を制御するものであってもよく、その場合は、ノイズ成分をデジタル信号に変換したうえで必要な処理を行えばよい。
【符号の説明】
【0014】
1 ノイズ制御回路、2、3、SW1乃至SW4 切替スイッチ、4、5、13、20、21、30 ノイズフィルタ、6 ノイズアンプ、7 検波器、8 制御部、9 ボリューム、10 ミュートスイッチ、11 オーディオアンプ、12 スピーカ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信信号の検波出力からノイズフィルタを介して高域ノイズ成分を取り出し、所定の閾値と比較した結果に基づいてスケルチ動作をオン/オフするノイズスケルチ回路において、前記ノイズフィルタとして中心周波数が異なる複数のバンドパスフィルタを切り替え可能に備え、受信待機中においては中心周波数が低いバンドパスフィルタを選択し、希望信号着信中は、中心周波数が高いバンドパスフィルタを選択するように構成したことを特徴とするノイズスケルチ回路。
【請求項2】
検波出力からノイズフィルタを介して高域ノイズ成分を取り出し、所定の閾値と比較した結果に基づいてスケルチ動作をオン/オフするノイズスケルチ回路において、前記ノイズフィルタとして可変リアクタンス素子を含み、その制御によって中心周波数を変更可能なものとし、受信待機中においては中心周波数を低くし、希望信号着信中は、中心周波数を高くするように構成したことを特徴とするノイズスケルチ回路。
【請求項3】
検波出力からノイズフィルタを介して高域ノイズ成分を取り出し、所定の閾値と比較した結果に基づいてスケルチ動作をオン/オフするノイズスケルチ回路において、前記ノイズフィルタとして複数のインダクタ又は/及びキャパシタを切替可能に備え、その切替制御によって中心周波数を変更可能とし、受信待機中においては中心周波数を低くし、希望信号着信中は、中心周波数を高くするように切替制御したことを特徴とするノイズスケルチ回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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