説明

ハイブリッド式建設機械及びその制御方法

【課題】作業機の負荷の変動に関わらず、複合動作の操作性を確保したハイブリッド式建設機械及びその制御方法を提供する。
【解決手段】旋回体と、旋回体に装設した作業機と、旋回体に搭載したエンジンと、エンジンによって駆動され発電可能な第1の電動機と、エンジンと第1の電動機によって駆動される油圧ポンプと、旋回体を駆動するための第2の電動機と、複数の蓄電デバイスとを有するハイブリッド式建設機械において、作業機と前記旋回体とが複合的に動作する際に、第2の電動機を、複数の蓄電デバイスのうち、選択された少なくとも1つの蓄電デバイスと、選択された少なくとも1つの蓄電デバイスよりも単位重量あたりの出力が高く、蓄積エネルギの低い蓄電デバイスとからの電力によって駆動制御し、油圧ポンプを、前記エンジンにより駆動制御する第1の制御手段を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド式建設機械及びその制御方法に係り、更に詳しくは、エンジンにより駆動され油圧ポンプアシスト用の発電電動機と、旋回体駆動用電動機と、蓄電装置とを備えたハイブリッド式建設機械及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベル等の旋回体を有する建設機械は、従来、エンジンで油圧ポンプを駆動し、油圧ポンプから吐出される油圧にて油圧モータを回転し、慣性体である旋回体を駆動するものが主流であったが、近年に至り、エンジンの燃費向上、騒音レベルの低減及び排ガス量の低減などを図るため、エンジンにより駆動されて発電可能な発電電動機と、キャパシタやバッテリ等の蓄電装置と、蓄電装置からの電気エネルギの供給を受けて駆動する旋回体駆動用電動機とを備えたハイブリッド式の建設機械が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には、旋回体駆動用電動機と発電電動機機の給電線にキャパシタとバッテリを並列に接続し、給電線への給電順序をキャパシタ、発電電動機、バッテリの順に設定する制御手段を設けた建設機械が開示されている。この特許文献1に記載の建設機械は、キャパシタで旋回制動時の回生電力を急速に回収することによりエネルギ効率の向上を図るとともに、エンジンの小型化を図っている。
【0004】
ところで、油圧ショベル等の旋回体を有する建設機械においては、旋回体を旋回させながらブームを上昇させる旋回ブーム上げ動作等の複合動作が頻繁に実行される。この複合動作における旋回ブーム上げ動作において、ブーム負荷であるバケット重量が変化すると、旋回体の旋回速度とブームの上昇速度とのバランスが変化し、オペレータの操作性が低下する場合がある。この旋回体の旋回速度とブームの上昇速度とのバランスの変化を抑制するために、旋回モータの容量を制御することで、エンジンの動力を旋回体とブームとに適切に配分する建設機械の油圧制御装置が開示されている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−242234号公報
【特許文献2】特開2011−038298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ハイブリッド式の建設機械は、一の動力源であるエンジンと他の動力源である発電電動機とを、油圧ポンプの駆動に使用する方式であり、所謂パラレル方式の駆動形態で構成されている。このパラレル方式において、エンジンは発電電動機も同時に駆動する。発電電動機の発電機作用によって生成された電力は、蓄電装置に充電される。一方、エンジンの動力をアシストする必要がある場合には、蓄電装置からの電力が発電電動機に供給される。したがって、パラレル方式では、エンジン動力と蓄電装置の動力(電力)の和によってシステム全体の最大動力(システム最大動力)が決まる。
【0007】
このようなハイブリッド方式の建設機械において、旋回ブームの上げ動作等の複合動作を操作性の低下なしに行うためには、適切な動力配分が必要となる。具体的には、ブームの上昇速度を制御する油圧ポンプと、旋回体の旋回速度を制御する旋回電動機とへ供給する動力において、エンジンと蓄電装置とが有する動力の適切な配分制御が必要になる。
【0008】
特許文献1に記載のハイブリッド式の建設機械は、給電線への給電順序をキャパシタ、発電電動機、バッテリの順に設定しているため、旋回体駆動用電動機への電力がキャパシタだけでは足りない場合、発電電動機からの電力供給が必要となる。この結果、エンジンには、発電電動機の発電負荷と油圧ポンプの駆動負荷がかかるため、燃費を悪化させる虞がある。また、油圧ポンプを駆動するために必要な出力を確保できない虞がある。この場合、操作性を確保する旋回体の旋回速度とブームの上昇速度とのバランスを良好に保つことが難しくなる。
【0009】
本発明は、上述の事柄に基づいてなされたもので、その目的は、旋回体駆動用電動機を有するハイブリッド建設機械において、作業機の負荷の変動に関わらず、旋回体と、この旋回体に装設した作業機との複合動作の操作性を確保したハイブリッド式建設機械及びその制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、第1の発明は、旋回体と、前記旋回体に装設した作業機と、前記旋回体に搭載したエンジンと、前記エンジンによって駆動され発電可能な第1の電動機と、前記エンジンと前記第1の電動機によって駆動される油圧ポンプと、前記油圧ポンプにより生成された動力によって前記作業機を駆動操作する油圧アクチュエータと、前記旋回体を駆動するための第2の電動機と、前記第1及び第2の電動機を駆動する電力の供給及び前記第1及び第2の電動機で生成した電力の充電を行うための複数の蓄電デバイスとを有するハイブリッド式建設機械において、前記作業機と前記旋回体とが複合的に動作する際に、前記第2の電動機を、前記複数の蓄電デバイスのうち、選択された少なくとも1つの蓄電デバイスと、前記選択された少なくとも1つの蓄電デバイスよりも単位重量あたりの出力が高く、蓄積エネルギの低い蓄電デバイスとからの電力によって駆動制御し、前記油圧ポンプを、前記エンジンにより駆動制御する第1の制御手段を備えたものとする。
【0011】
また、第2の発明は、第1の発明において、前記第2の電動機を、前記エンジンにより前記第1の電動機を発電駆動して生成された電力と、前記第1の制御手段で選択された少なくとも1つの蓄電デバイスよりも単位重量あたりの出力が高く、蓄積エネルギの低い蓄電デバイスとからの電力によって駆動制御する第2の制御手段と、前記第1の制御手段で選択された蓄電デバイスの残量に応じて前記第1の制御手段と前記第2の制御手段とを切換える制御切換手段とを更に備えたことを特徴とする。
【0012】
更に、第3の発明は、第2の発明において、前記第1の制御手段が選択されている場合は、前記エンジンのエンジン回転数を第1の回転数で制御し、前記第2の制御手段が選択されている場合は、前記エンジンのエンジン回転数を前記第1の回転数よりも高い第2の回転数で制御するエンジン回転数制御手段を更に備えたことを特徴とする。
【0013】
また、第4の発明は、旋回体と、前記旋回体に装設した作業機と、前記旋回体と前記作業とを操作する為の操作手段と、前記旋回体に搭載したエンジンと、前記エンジンによって駆動され発電可能な第1の電動機と、前記エンジンと前記第1の電動機によって駆動される油圧ポンプと、前記油圧ポンプにより生成された動力によって前記作業機を駆動操作する油圧アクチュエータと、前記旋回体を駆動するための第2の電動機と、前記第1及び第2の電動機を駆動する電力の供給及び前記第1及び第2の電動機で生成した電力の充電を行うための複数の蓄電デバイスとを有するハイブリッド式建設機械の制御方法であって、前記操作手段の操作状態に応じて前記作業機と前記旋回体の複合的な動作の有無を判断する第1の手順と、前記手順により前記作業機と前記旋回体の複合的な動作と判断された場合に、前記第2の電動機を、前記複数の蓄電デバイスのうち、選択された少なくとも1つの蓄電デバイスと、前記選択された少なくとも1つの蓄電デバイスよりも単位重量あたりの出力が高く、蓄積エネルギの低い蓄電デバイスとからの電力によって、駆動制御する第2の手順と、前記油圧ポンプを、前記エンジンにより駆動制御する第3の手順とを実行する第1の制御モードを備えたものとする。
【0014】
更に、第5の発明は、第4の発明において、前記第2の電動機を、前記エンジンにより前記第1の電動機を発電駆動して生成された電力と、前記第1の制御モードで選択された少なくとも1つの蓄電デバイスよりも単位重量あたりの出力が高く、蓄積エネルギの低い蓄電デバイスからの電力とからの電力によって駆動制御する第2の制御モードを備え、前記第1の制御モードで選択された蓄電デバイスの残量に応じて前記第1の制御モードと前記第2の制御モードとを切換えることを特徴とする。
【0015】
また、第6の発明は、第5の発明において、前記第1の制御モードが選択されている場合は、エンジン回転数を第1の回転数で制御し、前記第2の制御モードが選択されている場合は、エンジン回転数を前記第1の回転数よりも高い第2の回転数で制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、旋回体とこの旋回体に装設した作業機とが複合的に動作する際に、バッテリ(単位重量あたりの出力が低く、蓄積エネルギが高い蓄電デバイス)とキャパシタ(単位重量あたりの出力が高く、蓄積エネルギが低い蓄電デバイス)とから電力を旋回体駆動用電動機に供給し、エンジンの動力に応じて油圧ポンプの出力を制御するため、旋回体を駆動するための電力と油圧ポンプを駆動するための動力とを適切に確保することが可能となる。この結果、旋回体とこの旋回体に装設した作業機との複合動作である旋回ブーム上げ動作において旋回体の旋回速度とブームの上昇速度とのバランスを良好に保つことができるので、ハイブリッド式建設機械における複合動作の操作性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のハイブリッド式建設機械及びその制御方法の一実施の形態を適用した油圧ショベルの側面図である。
【図2】本発明のハイブリッド式建設機械及びその制御方法の一実施の形態を構成する電動・油圧機器のシステム構成図である。
【図3】本発明のハイブリッド式建設機械及びその制御方法の一実施の形態を構成する統合コントローラの処理内容を示す機能ブロック図である。
【図4】図3の統合コントローラを構成する直流電圧制御手段とキャパシタ電圧制御手段の処理内容を示す制御ブロック図である。
【図5】本発明のハイブリッド式建設機械及びその制御方法の一実施の形態を構成するバッテリの機能を説明する簡易モデル図である。
【図6】図3の統合コントローラを構成するバッテリ残量推定手段の処理内容を示す制御ブロック図である。
【図7】図3の統合コントローラを構成する制御切換手段の処理内容を示す制御ブロック図である。
【図8】図3の統合コントローラを構成するエンジン回転数制御手段の処理内容を示す制御ブロック図である。
【図9】図8のエンジン回転数制御手段を構成するエンジン回転数指令算出マップの処理内容を示す特性図である。
【図10】図8のエンジン回転数制御手段を構成するエンジン回転数指令算出マップにおけるエンジン回転数の上限値の設定方法を示す表図である。
【図11】本発明のハイブリッド式建設機械及びその制御方法の一実施の形態における旋回動作時の制御方法を示すタイムチャート図である。
【図12】本発明のハイブリッド式建設機械及びその制御方法の一実施の形態における掘削動作時の制御方法を示すタイムチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、ハイブリッド式建設機械として油圧ショベルを例にとって本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。なお、本発明は、旋回体を備えた建設機械全般(作業機械を含む)に適用が可能であり、本発明の適用は油圧ショベルに限定されるものではない。例えば、本発明は旋回体を備えたクレーン車等、その他の建設機械にも適用可能である。図1は本発明のハイブリッド式建設機械及びその制御方法の一実施の形態を適用した油圧ショベルの側面図、図2は本発明のハイブリッド式建設機械及びその制御方法の一実施の形態を構成する電動・油圧機器のシステム構成図、図3は本発明のハイブリッド式建設機械及びその制御方法の一実施の形態を構成する統合コントローラの処理内容を示す機能ブロック図である。
【0019】
図1において、油圧ショベルは走行体10と、走行体10上に旋回可能に設けた旋回体20と、旋回体20に装設した多関節形の作業機30を備えている。
【0020】
走行体10は、一対のクローラ11a,11b及びクローラフレーム12a,12b(図1では片側のみを示す)、各クローラ11a,11bを独立して駆動制御する一対の走行用油圧モータ13、14及びその減速機構等で構成されている。
【0021】
旋回体20は、旋回フレーム21と、旋回フレーム21上に設けられた、原動機としてのエンジン22と、エンジン22により駆動される発電可能な第1の電動機23(以下、アシスト発電モータ23と称する。)と、第2の電動機25(以下、旋回電動モータと称する)と、アシスト発電モータ23及び旋回電動モータ25と電気的に接続される電気二重層のキャパシタ24と、リチウムイオンバッテリ27と、旋回電動モータ25の回転を減速する減速機構26等から構成されている。そして、旋回電動モータ25の駆動力が減速機構26を介して伝達され、その駆動力により走行体10に対して旋回体20(旋回フレーム21)が旋回駆動する。
【0022】
また、旋回体20には作業機30が搭載されている。作業機30は、旋回体20の旋回フレーム21に俯仰動可能に設けたブーム31と、ブーム31を駆動するためのブームシリンダ32と、ブーム31の先端部近傍に回転自在に軸支されたアーム33と、アーム33を駆動するためのアームシリンダ34と、アーム33の先端に回転可能に軸支されたバケット35と、バケット35を駆動するためのバケットシリンダ36等で構成されている。
【0023】
さらに、旋回体20の旋回フレーム21上には、上述した走行用油圧モータ13,14、ブームシリンダ32、アークシリンダ34、バケットシリンダ36等の油圧アクチュエータを駆動するための油圧システム40が搭載されている。油圧システム40は、油圧を発生する油圧源となる油圧ポンプ41及び各アクチュエータを駆動制御するためのコントロールバルブ42(図2)を含み、油圧ポンプ41はエンジン22とアシスト発電モータ23とによって駆動される。
【0024】
次に、油圧ショベルの電動・油圧機器のシステム構成について図2を用いて概略説明する。
エンジン22の動力はアシスト発電モータ23を介して油圧ポンプ41に伝達される。また、コントロールバルブ42は、後述の操作レバーからの指令に応じて、ブームシリンダ32、アームシリンダ34、バケットシリンダ36及び走行用油圧モータ13、14への動作油の吐出量及び吐出方向を制御する。
【0025】
キャパシタ24からの直流電力はチョッパ51によって所定の直流電圧に昇圧されて、旋回電動モータ25を駆動するためのインバータ52、アシスト発電モータ23を駆動するためのインバータ53に入力される。また、バッテリ27からの直流電力はチョッパ56によって所定の直流電圧に昇圧されて、旋回電動モータ25を駆動するためのインバータ52、アシスト発電モータ23を駆動するためのインバータ53に入力される。平滑コンデンサ54は、直流電圧を安定化させるために設けられている。旋回電動モータ25は減速機構26を介して旋回体20を駆動し、アシスト発電モータ23及び旋回電動モータ25の駆動状態(力行しているか回生しているか)によって、キャパシタ24及びバッテリ27は充放電されることになる。
【0026】
統合コントローラ100は、図示しない操作レバー信号、圧力信号、回転速度信号等を用いて、エンジンコントロールユニット57(以下、ECMと称する)、パワーコントロールユニット55(以下、PCUと称する)、油圧コントロールユニット80(以下、MCUと称する)に対して指令信号を出力し、各種制御モードの切り換え、旋回制御、エンジン制御、エネルギーマネジメント、及び電動システムの異常監視等の制御を行う。また、電磁比例弁75は、MCU80からの電気信号を油圧信号に変換するデバイスである。この油圧信号は、コントロールバルブ42を駆動して各アクチュエータへの圧油の流量と方向を制御する。また、この油圧信号は、油圧ポンプ41の斜板の傾転角駆動装置(図示せず)を駆動して、油圧ポンプ41の吐出流量を制御する。
【0027】
次に、上述した統合コントローラ100の処理内容について図3を用いて説明する。
以下に示す処理の内容は、統合コントローラ100にプログラミングされ、予め定められた周期で繰り返し実行される。また、以降の説明において、各モータ23,25の出力は力行側を正の値、回生側(発電側)を負の値として定義し、キャパシタ24やバッテリ27の出力は放電側を正の値、充電側を負の値として定義する。
【0028】
図3において、直流電圧制御手段301は、図2に示すPCU55で検出した直流電圧Vdc(平滑コンデンサ54の両端電圧)の値に応じて、キャパシタ出力指令Pc*を演算する。統合コントローラ100は演算されたキャパシタ出力指令Pc*をPCU55に出力する。PCU55は統合コントローラ100から出力された値に応じてチョッパ51の直流電力を制御して、直流電圧Vdcを所定の範囲内で安定化させる。なお、直流電圧制御手段301の処理内容については後述する。
【0029】
キャパシタ電圧制御手段302は、PCU55で検出したキャパシタ24の電圧Vc、旋回電動モータ25の回転数NsとトルクTs、及び直流電圧制御手段301で演算したキャパシタ出力指令Pc*に応じて、旋回時アシスト出力Psa*とアシストF/B出力指令Pafb*とを演算する。ここで、旋回時アシスト出力Psa*は、旋回電動モータ25の電力をキャパシタ24、バッテリ27、及びアシスト発電モータ23の電力で分担する場合において、バッテリ27とアシスト発電モータ23の出力指令値を演算するためのパラメータである。また、アシストF/B出力指令Pafb*は、キャパシタ24の電圧Vcを所定の範囲内に収束させるために、アシスト発電モータ23の出力指令値を補正するためのパラメータである。なお、キャパシタ電圧制御手段302の処理内容については後述する。
【0030】
第1の制御手段311は、キャパシタ電圧制御手段302で演算した旋回時アシスト出力Psa*に応じて、第1のバッテリ出力指令Pb1*と第1のアシスト出力指令Pa1*を演算する。同様に、第2の制御手段312は、キャパシタ電圧制御手段302で演算した旋回時アシスト出力Psa*に応じて、第2のバッテリ出力指令Pb2*と第2のアシスト出力指令Pa2*を演算する。なお、第1の制御手段311、第2の制御手段312の処理内容については後述する。
【0031】
バッテリ残量推定手段313は、PCU55で検出したバッテリ27の電圧Vb、電流Ib、温度Tbに応じて、バッテリ充電状態SOCを演算する。なお、バッテリ残量推定手段313の処理内容については後述する。
【0032】
制御切換手段314は、第1の制御手段311、第2の制御手段312で演算した第1のバッテリ出力指令Pb1*と第1のアシスト出力指令Pa1*、第2のバッテリ出力指令Pb2*と第2のアシスト出力指令Pa2*と、バッテリ残量推定手段313で演算したバッテリ充電状態SOCに応じて、バッテリ出力指令Pb*、アシストF/F出力指令Paff*を演算する。統合コントローラ100はバッテリ出力指令Pb*をPCU55に出力する。PCU55は統合コントローラ100から出力された値に応じてチョッパ56の直流電力を制御して、バッテリ27の充放電電流を制御する。なお、制御切換手段314の処理内容については後述する。
【0033】
統合コントローラ100は、制御切換手段314で演算したアシストF/F出力指令Paff*に、キャパシタ電圧制御手段302で演算したアシストF/B出力指令Pafb*を加算することにより、アシスト出力指令Pa*を演算する。統合コントローラ100はアシスト出力指令Pa*をPCU55に出力する。PCU55は統合コントローラ100から出力された値に応じてインバータ53の直流電力を制御して、アシスト発電モータ23の力行/発電電力を制御する。
【0034】
また、図3において、旋回操作レバー321の入力によって発生される油圧パイロット信号は、例えば圧力センサのような油圧→電気信号変換デバイス331によって変換されて、旋回パイロット圧Pdsとして統合コントローラ100に入力される。同様に、作業機30(ブーム31、アーム33、バケット35等)の操作レバー322の入力によって発生される油圧パイロット信号は、油圧→電気信号変換デバイス332によって変換されて、フロントパイロット圧Pdfとして統合コントローラ100に入力される。
【0035】
エンジン回転数制御手段315は、アシスト出力指令Pa*、ECM57で検出したエンジン回転数Ne、MCU80で検出した油圧ポンプ41の吐出圧Pdp、旋回パイロット圧Pds、および、フロントパイロット圧Pdf等の入力信号に応じて、油圧ポンプ41の負荷を考慮しつつ、可能な限り燃費を低減でき、かつ、排気性能の良い運転を行うために、エンジン回転数指令Ne*、油圧ポンプ出力指令Pp*を演算する。統合コントローラ100はエンジン回転数指令Ne*をECM57に出力する。ECM57は統合コントローラ100から出力された値に応じてエンジン22のトルクを制御して、エンジン22の回転数を制御する。
【0036】
また、統合コントローラ100はポンプ出力指令Pp*をMCU80に出力する。MCU80は統合コントローラ100から出力された値に応じて電磁比例弁75を介してコントロールバルブ42を制御すると共に、油圧ポンプ41の斜板の傾転角駆動装置(図示せず)を駆動して、油圧ポンプ41の吐出流量を制御して油圧ポンプ41の負荷を調節する。なお、エンジン回転数制御手段315の処理内容については後述する。
【0037】
次に、統合コントローラ100を構成する各制御手段の処理内容について図を用いて説明する。図4は図3の統合コントローラを構成する直流電圧制御手段とキャパシタ電圧制御手段の処理内容を示す制御ブロック図である。図4において、図1乃至図3に示す符号と同符号のものは同一部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0038】
直流電圧制御手段301は、インバータ/チョッパの機器仕様に基づいて予め定められた直流電圧指令Vdc*と直流電圧Vdcとの偏差を減算器400で求め、この減算器400からの偏差に応じてPID制御器401のPID制御等のフィードバック制御によりキャパシタ出力指令Pc*を演算する。
【0039】
キャパシタ電圧制御手段302は、旋回電動モータ25の回転数Nsと旋回電動モータトルク25のTsとを乗算器402で乗算し、この乗算器402からの乗算値を単位変換器403で所定の単位に変換して旋回電動モータ出力Psを演算する。
【0040】
次に、旋回電動モータ出力Psの下限を制限器404でゼロリミットした値と、所定の旋回パターンに基づいて定められた旋回時アシスト出力上限cPsaHighの低い方を低値選択器405で選択して旋回力行時(Ps≧0)の旋回時アシスト出力Psa*を演算する。同様に、旋回電動モータ出力Psの上限を制限器406でゼロリミットした値と、所定の旋回パターンに基づいて定められた旋回時アシスト出力下限cPsaLowの高い方を高値選択器407選択して旋回回生時(Ps≦0)の旋回時アシスト出力Psa*を演算する。
【0041】
低値選択器405からの値と高値選択器407からの値は加算器408で加算されて、旋回時アシスト出力Psa*が演算される。旋回電動モータ出力Psからこの旋回時アシスト出力Psa*を減算器409で減算することにより、キャパシタF/F出力指令Pcff*を算出する。
【0042】
また、キャパシタ電圧制御手段302は、キャパシタ電圧Vcがキャパシタ電圧指令Vc*に収束するように、キャパシタ電圧Vcとキャパシタ電圧指令Vc*との偏差を減算器410で求め、この減算器410からの偏差に応じてPID制御器411のPID制御等のフィードバック制御によりキャパシタF/B出力指令Pcfb*を演算する。
【0043】
ここで、旋回体20の速度が低い場合には、旋回電動モータ25への力行電力の供給に備えてキャパシタ電圧Vcを高くしておく必要があり、旋回体20の速度が高い場合には、旋回電動モータ25からの回生電力の供給に備えてキャパシタ電圧Vcを低くしておく必要がある。このため、キャパシタ電圧指令Vc*は、旋回電動モータ回転数Nsの絶対値|Ns|に応じて設定されることが望ましい。このため、キャパシタ電圧指令Vc*は、旋回電動モータ回転数Nsを入力とし、上述した特性に出力を設定した関数発生器412によって、設定されている。
【0044】
さらに、キャパシタ電圧制御手段302は、キャパシタF/F出力指令Pcff*とキャパシタF/B出力指令Pcfb*を加算器413で加算してキャパシタ出力要求Pc**を演算し、キャパシタ出力要求Pc**とキャパシタ出力指令Pc*との偏差を減算器414で求め、この減算器414からの偏差に応じてPID制御器415のPID制御等のフィードバック制御によりアシストF/B出力指令Pafb*を演算する。
【0045】
以上説明したように、直流電圧制御手段301の演算結果に基づき、PCU55がチョッパ51の直流電力を制御してキャパシタ24の充放電電流を制御することにより直流電圧Vdcの安定化を図ることができる。
【0046】
また、キャパシタ電圧制御手段302により、旋回電動モータ25の電力をキャパシタ24とそれ以外(バッテリ27とアシスト発電モータ23)で分担しつつ、キャパシタ電圧Vcをキャパシタ電圧指令値Vc*に収束させるためのアシスト発電モータ23の出力補正値(アシストF/B出力指令Pafb*)を演算することができる。すなわち、直流電圧制御手段301とキャパシタ電圧制御手段302により直流電圧Vdcの安定化制御とキャパシタ24の充放電管理を適切に両立することが可能となる。
【0047】
次に、第1の制御手段311と第2の制御手段312の処理内容について説明する。図3に示すように、第1の制御手段311は、キャパシタ電圧制御手段302で演算した旋回時アシスト出力Psa*に応じて、行列式による演算式数1にしたがい、第1のバッテリ出力指令Pb1*と第1のアシスト出力指令Pa1*とを演算する。
【0048】
【数1】

【0049】
演算式数1から分かるように、第1の制御手段311は、旋回電動モータ25の電力をキャパシタ24とバッテリ27とで分担するためのバッテリ27とアシスト発電モータ23の出力指令値を演算している。このとき、バッテリ27の放電出力を正の値、充電出力を負の値としているため、第1のバッテリ出力指令Pb1*に旋回時アシスト出力Psa*をそのまま代入することになる。
【0050】
第2の制御手段312は、キャパシタ電圧制御手段302で演算した旋回時アシスト出力Psa*に応じて、行列式による演算式数2にしたがい、第2のバッテリ出力指令Pb2*と第2のアシスト出力指令Pa2*を演算する。
【0051】
【数2】

【0052】
演算式数2から分かるように、第2の制御手段312は、旋回電動モータ25の電力をキャパシタ24とアシスト発電モータ23とで分担するためのバッテリ27とアシスト発電モータ23の出力指令値を演算している。このとき、アシスト発電モータ23の力行出力を正の値、発電出力を負の値としているため、第2のアシスト出力指令Pa2*は、旋回時アシスト出力Psa*の符合を反転させて代入することになる。
【0053】
以上説明したように、第1の制御手段311により、旋回電動モータ25の電力をキャパシタ24とバッテリ27とで分担するためのバッテリ27とアシスト発電モータ23の出力指令値が求まる。同様に、第2の制御手段312により、旋回電動モータ25の電力をキャパシタ24とアシスト発電モータ23とで分担するためのバッテリ27とアシスト発電モータ23の出力指令値が求まる。
【0054】
次に、バッテリ残量推定手段313の処理内容について図5と図6とを用いて説明する。図5は本発明のハイブリッド式建設機械及びその制御方法の一実施の形態を構成するバッテリの機能を説明する簡易モデル図、図6は図3の統合コントローラを構成するバッテリ残量推定手段の処理内容を示す制御ブロック図である。図5及び図6において、図1乃至図4に示す符号と同符号のものは同一部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0055】
PCU55によって検出されるバッテリ27の電圧Vbは、図5に示すようにバッテリ27の内部抵抗rによる損失を含んだ電圧である。したがって、バッテリ27の実際の残量に相当するバッテリ27の開路電圧OCVは、以下の演算式数3で表わされる。
【0056】
【数3】

【0057】
図6において、バッテリ残量推定手段313は、演算式数3を実現するために、PCU55で検出したバッテリ電圧Vbに、バッテリ27の電流Ibと内部抵抗rとを乗算器500で乗算した値を加算器501で加算することによりバッテリ開路電圧OCVを演算している。バッテリ残量SOCは、関数発生器502でバッテリ開路電圧OCVの値に応じて所定の値に正規化(例えば、0〜100%)することにより求めている。ここで、バッテリ残量SOCは温度依存性が高く、低温時には容量が低下し、高温時には容量が増大することから、関数発生器502は、PCU55で検出したバッテリ27の温度Tbに応じてバッテリ残量SOCの値を補正演算している。
【0058】
上述したバッテリ残量推定手段313によりバッテリ27の残量の推定が可能となる。
【0059】
次に、制御切換手段314の処理内容を図7を用いて説明する。図7は図3の統合コントローラを構成する制御切換手段の処理内容を示す制御ブロック図である。図7において、図1乃至図6に示す符号と同符号のものは同一部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0060】
制御切換手段314は、キャパシタ電圧制御手段302で演算した旋回時アシスト出力Psに応じて旋回電動モータ25の力行/回生を判定し、旋回力行時には配分パラメータαdrvを選択し(α=αdrv)、旋回回生時には配分パラメータαbrkを選択する(α=αbrk)ことにより、電力配分パラメータαを演算する。
【0061】
旋回力行時の配分パラメータαdrvは、関数発生器602で設定され、旋回モータ25の力行電力に対してバッテリ27から放電する電力を決めるためのパラメータである。例えば、バッテリ残量SOCが40〜100%の範囲にある場合は、アシスト発電モータ23の発電を抑えてキャパシタ24とバッテリ27で電力を供給するため、αdrv=1とする。また、バッテリ残量SOCが低下し、40%以下になると、バッテリ残量SOCの低下度合いに応じてバッテリ27で供給していた電力をアシスト発電モータ23で補うように、αdrvを徐々に低下させる(αdrv=1→0)。さらに、バッテリ残量SOCが30%以下になると、バッテリ27の放電を抑えてキャパシタ24とアシスト発電モータ23で電力を供給するため、αdrv=0とする。
【0062】
同様に、旋回回生時の配分パラメータαbrkは、関数発生器603で設定され、旋回電動モータ25の回生電力に対してバッテリ27に充電する電力を決めるためのパラメータである。例えば、バッテリ残量SOCが0〜60%の範囲にある場合は、アシスト発電モータ23の力行を抑えてキャパシタ24とバッテリ27で電力を回収するため、αbrk=1とする。また、バッテリ残量SOCが増加し、60%以上になると、バッテリ残量SOCの増加度合いに応じてバッテリ27で回収していた電力をアシスト発電モータ23で補うように、αbrkを徐々に低下させる(αbrk=1→0)。さらに、バッテリ残量SOCが70%以上になると、バッテリ27の充電を抑えてキャパシタ24とアシスト発電モータ23で電力を回収するため、αbrk=0とする。
【0063】
次に、制御切換手段314は、キャパシタ電圧制御手段302で演算した旋回モータ出力Psに応じて旋回モータの力行/回生をアナログスイッチ604で判定する。アナログスイッチ604は、旋回力行時には配分パラメータαdrvを選択し(α=αdrv)、旋回回生時には配分パラメータαbrkを選択する(α=αbrk)ことにより、電力配分パラメータαを演算する。
【0064】
制御切換手段314における電力配分処理601は、第1の制御手段311により演算した第1のバッテリ出力指令Pb1*、第1のアシスト出力指令Pa1*、および、第2の制御手段312により演算した第2のバッテリ出力指令Pb2*、第2のアシスト出力指令Pa2*に応じて、バッテリ出力指令Pb*とアシストF/F出力指令Paff*とを演算する。
【0065】
ここで、制御切換手段314における電力配分処理601の処理内容について詳細に説明する。上述したように、電力配分パラメータαは、旋回電動モータ25の力行/回生電力に対してバッテリ27の放電/充電電力を決定するパラメータである。したがって、電力配分処理601は、バッテリ出力指令Pb*とアシストF/F出力指令Paff*とを以下の演算式数4及び演算式数5に基づいて算出している。
【0066】
【数4】

【0067】
【数5】

【0068】
演算式数4及び演算式数5に演算式数1、演算式数2の結果を代入することにより演算式数6及び演算式数7が得られる。
【0069】
【数6】

【0070】
【数7】

【0071】
演算式数6及び演算式数7からわかるように、電力配分パラメータαの値に応じて、旋回時アシスト出力Psa*をバッテリ出力指令Pb*とアシストF/F出力指令Paff*に配分することが可能である。
【0072】
以上説明したように、制御切換手段314により、旋回力行時、かつ、バッテリ残量SOCの値が高い場合には、電力配分パラメータαが1に設定されて旋回電動モータ25の力行電力をキャパシタ24とバッテリ27で供給することが可能となる。また、旋回力行時、かつ、バッテリ残量SOCの値が低い場合には、電力配分パラメータαが0に設定されて旋回電動モータ25の電力をキャパシタ24とアシスト発電モータ23で供給することが可能となる。
【0073】
同様に、旋回回生時、かつ、バッテリ残量SOCの値が高い場合には、電力配分パラメータαが0に設定されて旋回電動モータ25の回生電力をキャパシタ24とアシスト発電モータ23で回収することが可能となる。また、旋回力行時、かつ、バッテリ残量SOCの値が低い場合には、電力配分パラメータαが0に設定されて旋回電動モータ25の電力をキャパシタ24とバッテリ27で回収することが可能となる。
【0074】
次に、エンジン回転数制御手段315の処理内容を図8を用いて説明する。図8は図3の統合コントローラを構成するエンジン回転数制御手段の処理内容を示す制御ブロック図である。図8において、図1乃至図7に示す符号と同符号のものは同一部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0075】
エンジン回転数制御手段315は、ECM57で検出したエンジン22の回転数Neに基づき、予め定められた油圧ポンプ41の流量特性等を用いて油圧ポンプ41の吐出流量Qdpを推定演算する。また、この油圧ポンプ41の吐出流量QdpとMCU80で検出した油圧ポンプ41の吐出圧Pdpに基づき、予め定められた油圧ポンプ41の出力特性等を用いて油圧ポンプ41の出力Ppを演算する。さらに、この油圧ポンプ41の出力Ppからアシスト出力指令Pa*を減算器700で減算することによりエンジン22に要求される出力Peを演算する。
【0076】
一方で、エンジン回転数制御手段315の複合動作判定手段は、旋回パイロット圧Pdsとフロントパイロット圧Pdfに応じて旋回体20と作業機30の複合動作の存否を判定する。例えば、旋回体20を操作するための操作レバー321の状態を示す旋回パイロット圧Pdsが所定値以上のときは、オペレータにより旋回動作が実施されていると判定する。また、作業機30を操作するための操作レバー322の状態を示すフロントパイロット圧Pdfが所定値以上のときは、オペレータにより作業機30(ブーム31、アーム33、バケット35)の動作が行われていると判定する。複合動作判定手段は、これらの条件がすべて成立している場合に、オペレータにより旋回体20と作業機30の複合動作が行われているものとして複合動作判定フラグをセット(fSwgBmUp=1)する。また、これらの条件のいずれかが非成立の場合には、旋回体20と作業機30の複合動作が行われていないものとして複合動作判定フラグをクリア(fSwgBmUp=0)する。
【0077】
また、エンジン回転数制御手段315は、上述したエンジン要求出力Peと複合動作判定フラグfSwgBmUpとを入力として、エンジン回転数指令Ne*を算出するエンジン回転数指令算出マップ701を有している。エンジン回転数指令算出マップ701の詳細については後述する。
【0078】
さらに、エンジン回転数制御手段315は、エンジン回転数指令Ne*とエンジン回転数Neの偏差eNeを、減算器702で求め、この減算器からの偏差eNeに応じて油圧ポンプ41の出力を制限する制御を行う。例えば、エンジン回転数Neがエンジン回転数指令Ne*に対して徐々に低下し、偏差eNeが所定値以上になった場合には、油圧ポンプ41が過負荷状態であると判定する。そして、偏差eNeが所定値よりも小さくなるように、油圧ポンプ41の出力指令Pp*を演算し、このポンプ出力指令Pp*をMCU80に出力する。
【0079】
次に、エンジン回転数指令算出マップ701の処理内容を図9及び図10を用いて説明する。図9は図8のエンジン回転数制御手段を構成するエンジン回転数指令算出マップの処理内容を示す特性図、図10は図8のエンジン回転数制御手段を構成するエンジン回転数指令算出マップにおけるエンジン回転数の上限値の設定方法を示す表図である。図9及び図10において、図1乃至図8に示す符号と同符号のものは同一部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0080】
図9の横軸はエンジン要求出力Peを示しており、縦軸はエンジン回転数指令Ne*を示している。ここで、エンジン最小出力PeMinは、待機状態(オペレータによる操作が行われていない状態)における油圧ポンプ41の引き摺り損失にエアコン等の補機を駆動するための負荷を加算した値に相当する。このときのエンジン回転数指令Ne*は、エンジン22がエンジン最小出力PeMinを出力可能な回転数NeMinとして設定される。
【0081】
また、エンジン最大出力PeMaxは、エンジン22の最大出力に相当する。このときのエンジン回転数指令Ne*は、エンジン22がエンジン最大出力PeMaxを出力可能な回転数NeMaxとして設定される。さらに、エンジン回転数指令算出マップ701は、エンジン22の出力特性に応じて予め設定したテーブルになっており、エンジン要求出力Peに対して燃費と排気が最良となるエンジン回転数指令Ne*が算出設定されている。
【0082】
ここで、図3に示す制御切換手段314において、第1の制御手段311で演算したバッテリ27とアシスト発電モータ23の出力指令値が選択されている場合には、旋回電動モータ25の電力をキャパシタ24とバッテリ27とで分担しているため、アシスト出力指令Pa*はアシストF/B出力指令Pafb*のみとなる。このときのエンジン要求出力Pe1は、図8に示すように油圧ポンプ41の出力Ppからアシスト出力指令Pa*を減算するので、以下の演算式数8で表される。
【0083】
【数8】

【0084】
また、図3に示す制御切換手段314において、第2の制御手段312で演算したバッテリ27とアシスト発電モータ23の出力指令値が選択されている場合には、旋回電動モータ25の電力をキャパシタ24とアシスト発電モータ23とで分担しているため、アシスト出力指令Pa*はアシストF/B出力指令Pafb*にアシストF/F出力指令Paff*(=−Psa*)を加算した値となる。このときのエンジン要求出力Pe2は以下の演算式数9で表わされる。
【0085】
【数9】

【0086】
演算式数8と演算式数9とを比較すると、旋回電動モータ25が力行している場合には、Psa*>0となるため、第1の制御手段311で演算したバッテリ27とアシスト発電モータ23の出力指令値が選択されている場合に比べ、第2の制御手段312で演算したバッテリ27とアシスト発電モータ23の出力指令値が選択されている場合の方が、エンジン要求出力Peが高くなり、エンジン回転数指令算出マップ701で算出したエンジン回転数指令Ne*が高く設定されることになる(Ne1<Ne2)。
【0087】
以上説明したように、制御切換手段314により第1の制御手段311で演算したバッテリ27とアシスト発電モータ23の出力指令値が選択され、旋回電動モータ25の力行電力をキャパシタ24とバッテリ27の放電電力により供給している場合には、エンジン回転数制御手段315によってエンジン回転数Neを第1の回転数(Ne1)で制御することが可能となる。
【0088】
また、制御切換手段314により第2の制御手段312で演算したバッテリ27とアシスト発電モータ23の出力指令値が選択され、旋回電動モータ25の力行電力をキャパシタ24の放電電力とアシスト発電モータ23の回生電力により供給している場合には、エンジン回転数制御手段315によってエンジン回転数Neを第2の回転数Ne2で制御することが可能となる。
【0089】
さらに、エンジン回転数指令算出マップ701には、複合動作判定フラグの値に応じてエンジン回転数上限NeLmtが設けられている。以下にエンジン回転数上限NeLmtの設定方法を説明する。
【0090】
図9において、作業機30(ブーム31、アーム33、バケット35)の単独動作で必要なエンジン22の出力をPeHigh(<PeMax)とし、この出力に対応するエンジン回転数をNeHigh(<NeMax)とする。このとき、バッテリ残量SOCが高く、旋回電動モータ25の力行電力をキャパシタ24とバッテリ27の放電電力で供給する場合には、旋回体20と作業機30の複合動作で必要なエンジン出力は、作業機30の単独動作で必要なエンジン出力と同じである。
【0091】
一方、バッテリ残量SOCが低く、旋回電動モータ25の力行電力をキャパシタ24の放電電力とアシスト発電モータ23の発電電力とで供給する場合には、エンジン22によりアシスト発電モータ23を発電駆動するため、旋回体20と作業機30の複合動作で必要なエンジン出力は、作業機30の単独動作で必要なエンジン出力PeHighよりも大きくなる。
【0092】
ここで、制御誤差や種々の外乱によってアシストF/B出力指令Pafb*の値が変化すると、演算式数8、演算式数9からわかるように、エンジン要求出力Peの値が変化する。このとき、エンジン要求出力Peは、作業機30の単独動作に必要なエンジン出力PeHighよりも高くなるので、エンジン回転数指令Ne*を増加(>NeHigh)させる必要があるが、エンジン回転数を増加させると燃費が悪化する。したがって、エンジン回転数を抑えて低燃費運転を行う場合には、エンジン回転数に所定の上限値を設定し、図8で示したポンプ出力制限により油圧ポンプ41の出力を調節して制御誤差や種々の外乱を抑制することが望ましい。
【0093】
例えば、バッテリ残量SOCが高い場合や、バッテリ残量SOCが低く、かつ、旋回体20と作業機30の複合動作が行われていない場合には、エンジン22の出力を作業機30の単独動作で必要なエンジン出力PeHighで制限するため、図10に示すように、エンジン回転数上限NeLmtをNeHighに設定する。
【0094】
また、バッテリ残量SOCが低く、かつ、旋回体20と作業機30の複合動作が行われている場合には、エンジン22が最大出力PeMaxを出力できるようにエンジン回転数上限NeLmtをNeMaxに設定する。
【0095】
このように、旋回体20、作業機30を操作するための操作レバー(操作手段)321、322の操作状態に応じて旋回体20と作業機30の複合動作を判定する。この判定に応じてエンジン回転数の上限値を設定することにより、バッテリ残量SOCが低く、かつ、旋回電動モータ25の力行電力をキャパシタ24の放電電力とアシスト発電モータ23の回生電力で供給する場合のみ、エンジン回転数を増加させて油圧ポンプ41を駆動するために必要なエンジン出力を確保することができ、その他の場合においては、エンジン回転数の増加を抑えて低燃費運転を実現することができる。
【0096】
次に、本発明のハイブリッド式建設機械及びその制御方法の一実施の形態の制御方法について図11及び図12を用いて説明する。図11は本発明のハイブリッド式建設機械及びその制御方法の一実施の形態における旋回動作時の制御方法を示すタイムチャート図、図12は本発明のハイブリッド式建設機械及びその制御方法の一実施の形態における掘削動作時の制御方法を示すタイムチャート図である。図11及び図12において、図1乃至図10に示す符号と同符号のものは同一部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0097】
まず、旋回動作時の制御方法を図11を用いて説明する。図11において、横軸は時間を示していて、縦軸の(a)〜(h)は上から順に旋回電動モータ25の出力Ps、アシスト発電モータ23の出力Pa、キャパシタ24の出力Pc、バッテリ27の出力Pb、エンジン22に対する要求出力Pe、エンジン22の回転数Ne、キャパシタ24の電圧Vc、バッテリ27の残量SOCを示している。また、図の実線は、バッテリ残量SOCが高い場合(70%以上)の制御方法を示しており、点線は、バッテリ残量SOCが低い場合(30%以下)の制御方法を示している。
【0098】
最初に、バッテリ残量SOCが高い場合(70%以上)の制御方法について説明する。
時刻t1において、オペレータが旋回操作レバー321を加速方向に操作すると、図11(a)に示すように旋回電動モータ25の力行出力(Ps>0)が増加し、旋回体20が加速する(旋回力行)。このとき、図11(h)のバッテリ残量SOCが高いので、バッテリ出力Pbは、図11の(d)に示すようにキャパシタ電圧制御手段302で演算した旋回時アシスト出力Psa*(=cPsaHigh)まで徐々に増加する。一方、バッテリ残量SOCは、徐々に低下していく。
【0099】
時刻t2において、図11(d)のバッテリ出力Pbが旋回時アシスト出力Psa*に達すると、旋回電動モータ出力Psに対する不足分を補うため、直流電圧制御手段301によりキャパシタ24の放電出力(Pc>0)が、図11の(c)に示すように徐々に増加していく。このとき、旋回電動モータ25の力行電力をキャパシタ24とバッテリ27の放電電力とで分担している状態となり、キャパシタ電圧Vcとバッテリ残量SOCが徐々に減少する。また、エンジン要求出力Peが増加しないため、エンジン回転数Neは最小回転数NeMinを保持することになる。
【0100】
時刻t3において、オペレータが旋回操作レバー321を減速方向に操作すると、図11(a)の旋回電動モータ出力Psが回生方向(Ps<0)に切り換わり、旋回体20が減速する(旋回回生)。このとき、バッテリ残量SOCが高いので、図11(d)のバッテリ出力Pbをゼロに制限し、アシスト発電モータ23の力行出力(Pa>0)をキャパシタ電圧制御手段302で演算した旋回時アシスト出力Psa*を反転させた値(=(−1)×cPsaLow)まで増加させる。
【0101】
したがって、アシスト発電モータ23の力行出力により、エンジン要求出力Peが減少する。また、旋回電動モータ出力Psに対する不足分を補うため、直流電圧制御手段301により、図11(c)のキャパシタ出力Pcが充電方向(Pc<0)に切り換わる。旋回体20が減速していくと、旋回電動モータ25の回生出力(Ps<0)が徐々に減少し、キャパシタ24の充電出力(Pc<0)が徐々に減少していく。このとき、旋回電動モータ25の回生電力をキャパシタ24の充電電力とアシスト発電モータ23の力行電力とで分担している状態となり、キャパシタ電圧Vcは徐々に増加することになる。
【0102】
時刻t4において、旋回電動モータ25の回生出力がアシスト発電モータ23の力行出力を賄える範囲内になると、図11(c)のキャパシタ出力Pcがゼロとなり、旋回電動モータ25の回生出力の減少に応じてアシスト発電モータ23の力行出力が徐々に減少していく。その後、時刻t5において、旋回体20が停止すると、図11(a)の旋回電動モータ出力Psと図11(b)のアシスト発電モータ出力Paがゼロとなり、旋回動作は終了となる。
【0103】
次に、バッテリ残量SOCが低い場合(30%以下)の制御方法について説明する。
【0104】
時刻t1において、オペレータが旋回操作レバー321を加速方向に操作すると、図11(a)に示すように旋回電動モータ25の力行出力(Ps>0)が増加し、旋回体20が加速する(旋回力行)。このとき、図11(h)のバッテリ残量SOCが低いので、図11(d)のバッテリ出力Pbをゼロに制限し、図11(b)のアシスト発電モータ23の発電出力(Pa<0)をキャパシタ電圧制御手段302で演算した旋回時アシスト出力Psa*を反転させた値(=(−1)×cPsaHigh)まで徐々に増加させる。したがって、アシスト発電モータ23を発電駆動するため、図11(e)のエンジン要求出力Peが増加し、図11(f)のエンジン回転数Neが徐々に増加(NeMin→NeSwg)していく。
【0105】
時刻t2において、図11(d)に示すようにアシスト発電モータ出力Paが旋回時アシスト出力Psa*を反転させた値に達すると、旋回電動モータ出力Psに対する不足分を補うため、直流電圧制御手段301によりキャパシタ24の放電出力(Pc>0)が図11(c)に示すように徐々に増加していく。このとき、旋回電動モータ25の力行電力をキャパシタ24の放電電力とアシスト発電モータ23の発電電力とで分担している状態となり、キャパシタ電圧Vcが徐々に減少する。また、エンジン要求出力Peが増加しているため、エンジン回転数Neは旋回力行時エンジン回転数NeSwgを保持することになる。
【0106】
時刻t3において、オペレータが旋回操作レバー321を減速方向に操作すると、図11(a)の旋回電動モータ出力Psが回生方向(Ps<0)に切り換わり、旋回体20が減速する(旋回回生)。このとき、バッテリ残量SOCが低いので、図11(b)のアシスト発電モータ出力Paをゼロに制限し、図11(d)のバッテリ27の充電出力(Pb<0)をキャパシタ電圧制御手段302で演算した旋回時アシスト出力Psa*(=cPsaLow)まで増加させる。したがって、アシスト発電モータ23を発電駆動する必要が無くなるため、エンジン要求出力Peが減少し、エンジン回転数Neが減少(NeSwg→NeMin)する。
【0107】
また、旋回電動モータ出力Psに対する不足分を補うため、直流電圧制御手段301により図11(c)のキャパシタ出力Pcが充電方向(Pc<0)に切り換わる。旋回体20が減速していくと、旋回電動モータ25の回生出力(Ps<0)が徐々に減少し、キャパシタ24の充電出力(Pc<0)が徐々に減少していく。このとき、旋回電動モータ25の回生電力をキャパシタ24とバッテリ27の充電電力で分担している状態となり、キャパシタ電圧Vcとバッテリ残量SOCは徐々に増加することになる。
【0108】
時刻t4において、旋回電動モータ25の回生出力がバッテリ27の充電出力を賄える範囲内になると、図11(c)のキャパシタ出力Pcがゼロとなり、旋回電動モータ25の回生出力の減少に応じてバッテリ27の充電出力が徐々に減少していく。その後、時刻t5において、旋回体20が停止すると、図11(a)の旋回電動モータ出力Psと図11(d)のバッテリ出力Pbとがゼロとなり、旋回動作は終了となる。
【0109】
以上説明したように、本発明の一実施の形態に係わる油圧ショベルでは、バッテリ27から電力を供給して旋回電動モータ25を力行させる第1の制御モードと、エンジン22によりアシスト発電モータ23を発電駆動して生成された電力によって旋回電動モータ25を力行させる第2の制御モードを、バッテリ残量SOCに応じて切換え、第1の制御モードが選択されている場合はエンジン回転数Neが第1の回転数(NeMin)で制御され、第2の制御モードが選択されている場合はエンジン回転数Neが第1の回転数(NeMin)よりも高い第2の回転数(NeSwg)で制御されている。
【0110】
次に、本発明のハイブリッド式建設機械における掘削動作時の制御方法を図12を用いて説明する。掘削動作においては、ブーム31、アーム33、バケット35等の作業機30を操作して掘削する作業から始まり、掘削した土砂をダンプに積み込むために旋回体20を加速させながらブーム31を上昇させる複合動作が実施される。その後、旋回体20を減速させながらバケット35を操作して土砂をダンプに放土する。
【0111】
図12において、横軸は時間を示していて、縦軸の(a)〜(h)は上から順に旋回電動モータ25の出力Ps、アシスト発電モータ23の出力Pa、キャパシタ24の出力Pc、バッテリ27の出力Pb、エンジン22に対する要求出力Pe、エンジン22の回転数Ne、キャパシタ24の電圧Vc、バッテリ27の残量SOCを示している。また、図の実線は、バッテリ残量SOCが高い場合(70%以上)の制御方法を示しており、点線は、バッテリ残量SOCが低い場合(30%以下)の制御方法を示している。
【0112】
最初に、バッテリ残量SOCが高い場合(70%以上)の制御方法について説明する。
時刻t0において、オペレータが操作レバー322を操作して作業機30(ブーム31、アーム33、バケット35)を動作させて掘削を開始すると、油圧ポンプ41の出力Ppが増加するため、図12(e)のエンジン要求出力Peが作業機30の単独動作で必要なエンジン出力PeHighまで増加し、図12(f)のエンジン回転数Neはこの出力に対応する回転数NeHighまで増加する。
【0113】
時刻t1において、掘削が終了すると、掘削した土砂をダンプに積み込むために、オペレータが旋回操作レバー321を加速方向に操作すると同時に、操作レバー322を操作し、旋回体20を加速させながらブーム31を上げていく(旋回力行・ブーム上げ)。すると、図12(a)に示すように旋回電動モータ25の力行出力(Ps>0)が増加して旋回体20が加速すると同時に、油圧ポンプ41の出力Ppが増加して図12(e)のエンジン要求出力Peは作業機30の単独動作で必要なエンジン出力PeHighで保持され、図12(f)のエンジン回転数Neもこの出力に対応する回転数NeHighで保持される。
【0114】
このとき、図12(h)のバッテリ残量SOCが高いので、バッテリ出力Pbは図12(d)に示すようにキャパシタ電圧制御手段302で演算した旋回時アシスト出力Psa*(=cPsaHigh)まで徐々に増加し、バッテリ残量SOCが徐々に低下していく。
【0115】
時刻t2において、図12(d)に示すようにバッテリ出力Pbが旋回時アシスト出力Psa*に達すると、旋回電動モータ出力Psに対する不足分を補うため、直流電圧制御手段301によりキャパシタ24の放電出力(Pc>0)が図12(c)に示すように徐々に増加していく。このとき、旋回電動モータ25の力行電力をキャパシタ24とバッテリ27の放電電力で分担している状態となり、図12(g)のキャパシタ電圧Vcと図12(h)のバッテリ残量SOCが徐々に減少する。また、図12(f)のエンジン回転数Neを、作業機30の単独動作で必要なエンジン出力PeHighに対応する回転数NeHighで保持しているため、油圧ポンプ41を駆動するために必要なエンジン22の出力を確保できている。
【0116】
その後、時刻t3において、掘削した土砂をダンプに放土するために、オペレータが旋回操作レバー321を減速方向に操作すると同時に、操作レバー322を操作し、旋回体20を減速させながらバケット35を回動させて放土する(旋回回生・放土)。すると、図12(a)の旋回電動モータ出力Psが回生方向(Ps<0)に切り換わり、旋回体20が減速する。このとき、バッテリ残量SOCが高いので、図12(d)のバッテリ出力Pbをゼロに制限し、アシスト発電モータ23の力行出力(Pa>0)を、キャパシタ電圧制御手段302で演算した旋回時アシスト出力Psa*を反転させた値(=(−1)×cPsaLow)まで増加させる。
【0117】
また、バケット35の回動により油圧ポンプ41の出力Ppが必要となるが、アシスト発電モータ23の力行出力により、エンジン要求出力Peは作業機30の単独動作で必要なエンジン出力PeHighよりも減少する。したがって、エンジン回転数Neは、この出力に対応する回転数NeHighよりも減少する。
【0118】
また、旋回電動モータ出力Psに対する不足分を補うため、直流電圧制御手段301により図12(c)のキャパシタ出力Pcが充電方向(Pc<0)に切り換わる。旋回体20が減速していくと、旋回電動モータ25の回生出力(Ps<0)が徐々に減少し、キャパシタ24の充電出力(Pc<0)が徐々に減少していく。このとき、旋回電動モータ25の回生電力を、キャパシタ24の充電電力とアシスト発電モータ23の力行電力とで分担している状態となり、キャパシタ電圧Vcは徐々に増加することになる。
【0119】
時刻t4において、旋回電動モータ25の回生出力がアシスト発電モータ23の力行出力を賄える範囲内になると、図12(c)のキャパシタ出力Pcがゼロとなり、旋回電動モータ25の回生出力の減少に応じてアシスト発電モータ23の力行出力が徐々に減少していく。
【0120】
その後、時刻t5において、旋回体20が停止してバケット35の操作が完了すると、図12(a)の旋回電動モータ出力Psと図12(b)のアシスト発電モータ出力Paがゼロとなる。また、図12(e)のエンジン要求出力Peが最小出力PeMinに減少するため、図12(f)のエンジン回転数Neが最小回転数NeMinに減少し、掘削動作は終了となる。
【0121】
次に、バッテリ残量SOCが低い場合(30%以下)の制御方法について説明する。
時刻t0において、オペレータが操作レバー322を操作して作業機30(ブーム31、アーム33、バケット35)を動作させて掘削を開始すると、油圧ポンプ41の出力Ppが増加するため、図12(e)のエンジン要求出力Peが作業機30の単独動作で必要なエンジン出力PeHighまで増加し、図12(f)のエンジン回転数Neはこの出力に対応する回転数NeHighまで増加する。
【0122】
時刻t1において、掘削が完了すると、掘削した土砂をダンプに積み込むために、オペレータが旋回操作レバー321を加速方向に操作すると同時に、操作レバー322を操作し、旋回体20を加速させながらブーム31を上げていく(旋回力行・ブーム上げ)。すると、図12(a)に示すように旋回電動モータ25の力行出力(Ps>0)が増加し、旋回体20が加速すると同時に、油圧ポンプ41の出力Ppが増加する。
【0123】
このとき、図12(h)に示すようにバッテリ残量SOCが低いので、図12(d)のバッテリ出力Pbをゼロに制限し、アシスト発電モータ23の発電出力(Pa<0)をキャパシタ電圧制御手段302で演算した旋回時アシスト出力Psa*を反転させた値(=(−1)×cPsaHigh)まで徐々に増加させる。このように、エンジン22により油圧ポンプ41の出力Ppを確保しながらアシスト発電モータ23を発電駆動するため、図12(e)のエンジン要求出力Peは最大出力PeMax(>PeHigh)まで徐々に増加し、図12(f)のエンジン回転数Neはこの出力に対応する回転数NeMaxまで徐々に増加する。
【0124】
時刻t2において、図12(b)に示すようにアシスト発電モータ出力Paが、旋回時アシスト出力Psa*を反転させた値に達すると、旋回電動モータ出力Psに対する不足分を補うため、直流電圧制御手段301によりキャパシタ24の放電出力(Pc>0)が図12(c)に示すように徐々に増加していく。このとき、旋回電動モータ25の力行電力をキャパシタ24の放電電力とアシスト発電モータ23の発電電力とで分担している状態となり、キャパシタ電圧Vcが徐々に減少する。
【0125】
また、図12(f)のエンジン回転数Neを、最大出力PeMaxに対応する回転数NeMaxまで増加させているため、油圧ポンプ41を駆動するために必要なエンジン22の出力を確保できている。
【0126】
その後、時刻t3において、掘削した土砂をダンプに放土するために、オペレータが旋回操作レバー321を減速方向に操作すると同時に、操作レバー322を操作し、旋回体20を減速させながらバケット35を回動させて放土する(旋回回生・放土)。すると、図12(a)の旋回電動モータ出力Psが回生方向(Ps<0)に切り換わり、旋回体20が減速する(旋回回生)。
【0127】
このとき、バッテリ残量SOCが低いので、図12(b)のアシスト発電モータ出力Paをゼロに制限し、バッテリ27の充電出力(Pb<0)をキャパシタ電圧制御手段302で演算した旋回時アシスト出力Psa*(=cPsaLow)まで増加させる。
【0128】
また、バケット35の回動により油圧ポンプ41の出力Ppが必要となるが、アシスト発電モータ23の発電出力がゼロになるため、図12(e)のエンジン要求出力Peは作業機30の単独動作で必要なエンジン出力PeHighまで減少し、図12(f)のエンジン回転数Neはこの出力に対応する回転数NeHighまで減少する。
【0129】
また、旋回電動モータ出力Psに対する不足分を補うため、直流電圧制御手段301により図12(c)のキャパシタ出力Pcが充電方向(Pc<0)に切り換わる。旋回体20が減速していくと、旋回電動モータ25の回生出力(Ps<0)が徐々に減少し、キャパシタ24の充電出力(Pc<0)が徐々に減少していく。このとき、旋回電動モータ25の回生電力をキャパシタ24とバッテリ27の充電電力とで分担している状態となり、キャパシタ電圧Vcとバッテリ残量SOCは徐々に増加することになる。
【0130】
時刻t4において、旋回電動モータ25の回生出力がバッテリ27の充電出力を賄える範囲内になると、図12(c)のキャパシタ出力Pcがゼロとなり、旋回電動モータ25の回生出力の減少に応じてバッテリ27の充電出力が徐々に減少していく。その後、時刻t5において、旋回体20が停止してバケット35の回動が完了すると、図12(a)の旋回電動モータ出力Psと図12(b)のアシスト発電モータ出力Paがゼロとなる。また、図12(e)のエンジン要求出力Peが最小出力PeMinに減少するため、図12(f)のエンジン回転数Neが最小回転数NeMinに減少し、掘削動作は終了となる。
【0131】
以上説明したように、本発明の一実施形態に係わる油圧ショベルでは、バッテリ27からの電力を旋回電動モータ25に供給して旋回電動モータ25を力行させる第1の制御モードと、エンジン22によりアシスト発電モータ23を発電駆動して生成された電力によって旋回電動モータ25を力行させる第2の制御モードとを、バッテリ残量SOCに応じて切換え、第1の制御モードが選択されている場合はエンジン回転数Neが第1の回転数(NeHigh)で制御され、第2の制御モードが選択されて作業機30と旋回体20の複合動作が行われている場合はエンジン回転数Neが第1の回転数(NeHigh)よりも高い第2の回転数(NeMax)で制御されている。
【0132】
上述した本発明のハイブリッド式建設機械及びその制御方法の一実施の形態によれば、旋回体20とこの旋回体20に装設した作業機30とが複合的に動作する際に、バッテリ27(単位重量あたりの出力が低く、蓄積エネルギが高い蓄電デバイス)とキャパシタ24(単位重量あたりの出力が高く、蓄積エネルギが低い蓄電デバイス)とから電力を旋回電動モータ25に供給し、エンジン22の動力に応じて油圧ポンプ41の出力を制御するため、旋回体20を駆動するための電力と油圧ポンプ41を駆動するための動力とを適切に確保することが可能となる。この結果、旋回体20とこの旋回体20に装設した作業機30との複合動作である旋回ブーム上げ動作において旋回体20の旋回速度とブーム31の上昇速度とのバランスを良好に保つことができるので、ハイブリッド式建設機械における複合動作の操作性を確保することができる。
【0133】
また、上述した本発明のハイブリッド式建設機械及びその制御方法の一実施の形態によれば、バッテリ残量が低下していない場合は、バッテリ27から旋回電動モータ25に電力を供給し、エンジン回転数を下げることにより、バッテリ使用時の燃費低減効果を最大限に高めることができる。さらに、バッテリ残量が低下している場合は、エンジン22の動力でアシスト発電モータ23を発電駆動して旋回電動モータ25に電力を供給し、エンジン回転数を上げることにより、油圧ポンプ41の動力制限を最小限に抑えることが可能となる。
【0134】
更に、上述した本発明のハイブリッド式建設機械及びその制御方法の一実施の形態によれば、バッテリ残量SOCが低下した場合に、旋回電動モータ25の力行電力をキャパシタ24とバッテリ27の放電電力とで分担する第1の制御モードからキャパシタ24の放電電力とエンジン22でアシスト発電モータ23を発電駆動して生成された電力とで分担する第2の制御モードに変更することができる。このとき、制御切換手段314の電力配分処理601により、バッテリ残量SOCに基づく配分パラメータαに応じてバッテリ27とアシスト発電モータ23の出力指令値をリニアに切り換えているため、制御方式のスムーズな変更が可能となる。
【0135】
また、上述した本発明のハイブリッド式建設機械及びその制御方法の一実施の形態によれば、第1の制御モードと第2の制御モードとでキャパシタ24の出力Pcに差異が生じないようにバッテリ27とアシスト発電モータ23の出力指令値を算出しているため、キャパシタ24の電圧Vcの挙動がほぼ同等になる。この結果、バッテリ27よりも単位重量あたりの出力が高く、蓄積エネルギの低いキャパシタ24を適切に活用しながら、バッテリ27をプラグイン構成にする等の建設機械の設計の汎用性を確保することができる。
【0136】
さらに、上述した本発明のハイブリッド式建設機械及びその制御方法の一実施の形態によれば、旋回電動モータ25の力行電力をキャパシタ24とバッテリ27の放電電力とで分担する第1の制御モードでは、エンジン回転数Neを低回転領域(〜NeHigh)で制御しているため、バッテリ27を使用する場合の燃費低減効果を高めることができる。
【0137】
また、上述した本発明のハイブリッド式建設機械及びその制御方法の一実施の形態によれば、旋回電動モータ25の力行電力をキャパシタ24の放電電力とエンジン22でアシスト発電モータ23を発電駆動して生成された電力とで分担する第2の制御モードでは、エンジン回転数Neを高回転領域(〜NeMax)で制御しているため、バッテリ残量SOCが低下した場合でも油圧ポンプ41を駆動するために必要なエンジン出力を確保することができる。
【符号の説明】
【0138】
10 走行体
20 旋回体
22 エンジン
23 アシスト発電モータ(第1の電動機)
24 キャパシタ
25 旋回電動モータ(第2の電動機)
27 バッテリ
30 作業機
31 ブーム
41 油圧ポンプ
42 コントロールバルブ
100 統合コントローラ
311 第1の制御手段
312 第2の制御手段
313 バッテリ残量推定手段
314 制御切換手段
315 エンジン回転数制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
旋回体と、前記旋回体に装設した作業機と、前記旋回体に搭載したエンジンと、前記エンジンによって駆動され発電可能な第1の電動機と、前記エンジンと前記第1の電動機によって駆動される油圧ポンプと、前記油圧ポンプにより生成された動力によって前記作業機を駆動操作する油圧アクチュエータと、前記旋回体を駆動するための第2の電動機と、前記第1及び第2の電動機を駆動する電力の供給及び前記第1及び第2の電動機で生成した電力の充電を行うための複数の蓄電デバイスとを有するハイブリッド式建設機械において、
前記作業機と前記旋回体とが複合的に動作する際に、
前記第2の電動機を、前記複数の蓄電デバイスのうち、選択された少なくとも1つの蓄電デバイスと、前記選択された少なくとも1つの蓄電デバイスよりも単位重量あたりの出力が高く、蓄積エネルギの低い蓄電デバイスとからの電力によって駆動制御し、
前記油圧ポンプを、前記エンジンにより駆動制御する第1の制御手段を備えた
ことを特徴とするハイブリッド式建設機械。
【請求項2】
請求項1に記載のハイブリッド式建設機械において、
前記第2の電動機を、前記エンジンにより前記第1の電動機を発電駆動して生成された電力と、前記第1の制御手段で選択された少なくとも1つの蓄電デバイスよりも単位重量あたりの出力が高く、蓄積エネルギの低い蓄電デバイスとからの電力によって駆動制御する第2の制御手段と、
前記第1の制御手段で選択された蓄電デバイスの残量に応じて前記第1の制御手段と前記第2の制御手段とを切換える制御切換手段とを更に備えた
ことを特徴とするハイブリッド式建設機械。
【請求項3】
請求項2に記載のハイブリッド式建設機械において、
前記第1の制御手段が選択されている場合は、前記エンジンのエンジン回転数を第1の回転数で制御し、前記第2の制御手段が選択されている場合は、前記エンジンのエンジン回転数を前記第1の回転数よりも高い第2の回転数で制御するエンジン回転数制御手段を更に備えた
ことを特徴とするハイブリッド式建設機械。
【請求項4】
旋回体と、前記旋回体に装設した作業機と、前記旋回体と前記作業とを操作する為の操作手段と、前記旋回体に搭載したエンジンと、前記エンジンによって駆動され発電可能な第1の電動機と、前記エンジンと前記第1の電動機によって駆動される油圧ポンプと、前記油圧ポンプにより生成された動力によって前記作業機を駆動操作する油圧アクチュエータと、前記旋回体を駆動するための第2の電動機と、前記第1及び第2の電動機を駆動する電力の供給及び前記第1及び第2の電動機で生成した電力の充電を行うための複数の蓄電デバイスとを有するハイブリッド式建設機械の制御方法であって、
前記操作手段の操作状態に応じて前記作業機と前記旋回体の複合的な動作の有無を判断する第1の手順と、
前記手順により前記作業機と前記旋回体の複合的な動作と判断された場合に、前記第2の電動機を、前記複数の蓄電デバイスのうち、選択された少なくとも1つの蓄電デバイスと、前記選択された少なくとも1つの蓄電デバイスよりも単位重量あたりの出力が高く、蓄積エネルギの低い蓄電デバイスとからの電力によって、駆動制御する第2の手順と、
前記油圧ポンプを、前記エンジンにより駆動制御する第3の手順とを実行する第1の制御モードを備えた
ことを特徴とするハイブリッド式建設機械の制御方法。
【請求項5】
請求項4に記載のハイブリッド式建設機械の制御方法において、
前記第2の電動機を、前記エンジンにより前記第1の電動機を発電駆動して生成された電力と、前記第1の制御モードで選択された少なくとも1つの蓄電デバイスよりも単位重量あたりの出力が高く、蓄積エネルギの低い蓄電デバイスからの電力とからの電力によって駆動制御する第2の制御モードを備え、

前記第1の制御モードで選択された蓄電デバイスの残量に応じて前記第1の制御モードと前記第2の制御モードとを切換える
ことを特徴とするハイブリッド式建設機械の制御方法。
【請求項6】
請求項5に記載のハイブリッド式建設機械の制御方法において、
前記第1の制御モードが選択されている場合は、エンジン回転数を第1の回転数で制御し、前記第2の制御モードが選択されている場合は、エンジン回転数を前記第1の回転数よりも高い第2の回転数で制御する
ことを特徴するハイブリッド式建設機械の制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2013−87456(P2013−87456A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−227246(P2011−227246)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】