説明

ハロゲン化銀乳剤

【課題】高い感度を有し、かつ、経時により感度が増加することの少ない保存性の良好なハロゲン化銀乳剤を提供する。
【解決手段】一般式(I)または(II)で表されるメソイオン化合物の存在下で化学増感することを特徴とするハロゲン化銀写真感光材料。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン化銀乳剤に関し、更に詳しくはハロゲン化銀乳剤の化学増感方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘリウム・ネオンレーザー、アルゴンレーザー、半導体レーザー、発光ダイオード等の光源を用いた走査露光方式によりダイレクトに平版印刷版を製版する銀錯塩拡散転写平版印刷版が知られている。上記光源を用いた走査露光方式によりダイレクトに平版印刷版を製版する銀錯塩拡散転写平版印刷版は、例えば、米国特許第4,501,811号明細書、特開昭59−71055号公報、特開昭59−71056号公報、特開昭60−61752号公報、特開昭60−75838号公報、特開昭60−100148号公報、特開昭61−114235号公報、特開昭63−47756号公報等に記載されている。これによると、露光されたハロゲン化銀結晶は、銀錯塩拡散転写法を利用した現像により化学現像を生起し黒色の銀となり親水性の非画線部を形成し、一方、未露光のハロゲン化銀結晶は現像液中の銀塩錯化剤により銀塩錯体となって表面の物理現像核層まで拡散し、核の存在により物理現像を生起してインキ受容性の物理現像銀を主体とする画線部を形成する。
【0003】
近年、生産性の向上と環境負荷の低減のために、低出力の光源でより高速な走査露光に対応した高感度な平版印刷版であると同時に、塗布現像方式など少量の現像液で短時間での現像が可能な高い現像進行性を有する平版印刷版への要求が一層高まっている。高い現像進行性を達成するためには係る平版印刷版には通常、溶解性の高い塩化銀を主とするハロゲン化銀乳剤が用いられる。しかし、塩化銀が主体のハロゲン化銀乳剤はレーザー走査露光のような高照度露光で低感軟調化を引き起こし易く、また、かぶり濃度も高く、これらの点を改良する様々な技術が開示されている。これらの技術のうち、化学増感法が果たす役割は大きく、種々の化学増感法が開示されている。
【0004】
ハロゲン化銀の化学増感法としてイオウ、セレン、テルル等のカルコゲン化合物によるカルコゲン増感と金化合物による金増感を併用する方法が広く用いられている。しかし、係る併用は高い感度が得られるのと併せてカブリが発生しやいため、カブリ発生を抑えつつ高い感度を得る方法が種々提案されている。特開平9−50088号公報(特許文献1)や特開平11−15096号公報(特許文献2)には、ハロゲン化銀への吸着基であるメルカプト基を有するメソイオン構造を含む置換基と不安定イオウ化合物を含む化合物を用いて化学増感する方法が記載されている。また特許第3323525号公報(特許文献3)や特開2001−281784号公報(特許文献4)には、メソイオンを配位した金化合物により化学増感する方法が提案されている。しかし、上記の方法によって高い感度が得られるように化学増感を行ったハロゲン化銀乳剤を用いた銀錯塩拡散転写平版印刷版は、いずれも版の経時により感度が増加するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−50088号公報
【特許文献2】特開平11−15096号公報
【特許文献3】特許第3323525号公報
【特許文献4】特開2001−281784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は高い感度を有し、かつ、経時により感度が増加することの少ない保存性の良好なハロゲン化銀乳剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の課題は、一般式(I)または(II)で表されるメソイオン化合物の存在下で化学増感することを特徴とするハロゲン化銀乳剤により達成された。
【0008】
【化1】

【0009】
一般式(I)中、nは2〜5までの数を表し、R、R及びRは脂肪族炭化水素基を表す。
【0010】
【化2】

【0011】
一般式(II)中、R、R及びRは水素原子または脂肪族炭化水素基を表し、該脂肪族炭化水素基の炭素数は1〜8であることが好ましい。また、R、R及びRの少なくとも1つは、該脂肪族炭化水素基が有する水素原子がカルボン酸もしくはその塩、スルホン酸もしくはその塩、ホスホン酸もしくはその塩のいずれかで置換された脂肪族炭化水素基を表す。
【発明の効果】
【0012】
高い感度を有し、かつ経時により感度が増加することの少ない保存性の良好なハロゲン化銀乳剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のハロゲン化銀写真乳剤のハロゲン組成として塩化銀、塩臭化銀、塩ヨウ臭化銀等、種々の組成のものを用いることができるが、中でも銀錯塩拡散転写平版印刷版に好適に利用される塩化銀が主体のハロゲン化銀乳剤、具体的には95モル%以上の塩化銀からなる塩ヨウ化銀、塩ヨウ臭化銀を含有するハロゲン化銀において、本発明の効果はとりわけ顕著に表れる。
【0014】
本発明に用いられるハロゲン化銀乳剤粒子の形成はこれまで知られている様々な方法を用いることができる。すなわち、酸性法、中性法、アンモニア法等のいずれでもよく、また可溶性銀塩と可溶性ハロゲン化物を反応させる形式としてはシングルジェット法、ダブルジェット法、それらの組み合わせ等のいずれを用いてもよい。ダブルジェット法の一の形式としてハロゲン化銀の生成される液相中のpAgを一定に保つ方法、すなわちコントロールド・ダブルジェット法を用いることもできる。また、英国特許第1,535,016号明細書、特公昭48−36890号公報、特公昭52−16364号公報等に記載されているように硝酸銀やハロゲン化アルカリ水溶液の添加速度を粒子形成速度に応じて変化させる方法や、米国特許第4,242,445号明細書、特開昭55−158124号公報等に記載されているように水溶液濃度を変化させる方法を用いて臨界過飽和度を超えない範囲において早く成長させる方法を用いることもできる。また、粒子の内部(コア部)と外側(シェル部)からなるコアシェル粒子等、多層構造粒子を用いることもできる。
【0015】
本発明のハロゲン化銀写真乳剤に用いられるハロゲン化銀粒子は、高照度相反則不軌を低減させる目的で水溶性イリジウム化合物を含有することが好ましい。水溶性イリジウム化合物はハロゲン化銀乳剤の物理熟成時の任意の時点で添加することによってハロゲン化銀粒子中にドープすることができる。水溶性イリジウム化合物としては、塩化イリジウム(III)・n水和物(n:整数)、塩化イリジウム(IV)・n水和物(n:整数)、ヘキサブロモイリジウム(III)酸カリウム、ヘキサクロロイリジウム(III)酸アンモニウム・n水和物、ペンタクロロ(5−メチルチアゾロ)イリジウム(III)酸カリウムなど種々のものが使用できる。好ましい水溶性イリジウム化合物の量はハロゲン化銀1モル当り1×10−7〜1×10−5モルの範囲である。
【0016】
本発明のハロゲン化銀写真乳剤のハロゲン化銀粒子は写真特性の硬調化のために水溶性ロジウムまたは/及びルテニウム化合物を含有させることができる。水溶性ロジウムまたは/及びルテニウム化合物はハロゲン化銀中でイリジウムトラップよりも深い電子トラップを形成し、光電子を半永久的に捕捉することにより足部の感度を低下させて硬調化することができる。水溶性ロジウムまたは/及びルテニウム化合物はハロゲン化銀乳剤の物理熟成時の任意の時点で添加することによってハロゲン化銀粒子中にドープすることができる。本発明に用いられる水溶性ロジウムまたは/及びルテニウム化合物としては、塩化ロジウム(III)・n水和物(n:整数)、ヘキサクロロロジウム(III)酸カリウム1水和物、塩化ルテニウム(III)・n水和物(n:整数)、ペンタクロロニトロシルルテニウム(III)酸カリウム、ヘキサブロモルテニウム(III)酸カリウムなど種々のものが使用できる。好ましい水溶性ロジウムまたは/及びルテニウム化合物の量はハロゲン化銀1モル当り1×10−8〜1×10−5モルの範囲である。
【0017】
本発明の一般式(I)または(II)で表されるメソイオン化合物は特許文献2に記載されているような不安定イオウ化合物ではなく、それ自体がイオウ増感剤として作用するわけではない。従って本発明において、一般式(I)または(II)で表されるメソイオン化合物の存在下で化学増感するとは、一般式(I)または(II)で表されるメソイオン化合物自体の作用により化学増感を行うことを意味するのではなく、一般式(I)または(II)で表されるメソイオン化合物の存在下で一般式(I)または(II)で表されるメソイオン化合物以外の化学増感作用を有する化合物により化学増感を行うことを意味する。
【0018】
以下、本発明の一般式(I)または(II)で表されるメソイオン化合物について説明する。
【0019】
【化3】

【0020】
一般式(I)中、nは2〜5までの数を表し、R、R及びRは脂肪族炭化水素基を表し、該脂肪族炭化水素基の炭素数は1〜10であることが好ましい。また、R、R及びRの脂肪族炭化水素基の水素原子は、カルボン酸もしくはその塩、スルホン酸もしくはその塩、ホスホン酸もしくはその塩、アミン、アンモニア、複素環等で置換されていてもよく、複素環としては、1,3−ジオキサン、イミダゾール、ピペリジン等が挙げられる。
【0021】
本発明の一般式(I)で表されるメソイオン化合物の具体例を以下に示す。
【0022】
【化4】

【0023】
【化5】

【0024】
一般式(II)中、R、R及びRは水素原子または脂肪族炭化水素基を表し、該脂肪族炭化水素基の炭素数は1〜8であることが好ましい。また、R、R及びRの少なくとも1つは、該脂肪族炭化水素基が有する水素原子がカルボン酸もしくはその塩、スルホン酸もしくはその塩、ホスホン酸もしくはその塩のいずれかで置換された脂肪族炭化水素基を表す。
【0025】
本発明の一般式(II)で表されるメソイオン化合物の具体例を以下に示す。
【0026】
【化6】

【0027】
本発明の一般式(I)または(II)で表されるメソイオン化合物は化学熟成時の任意の時期に一括または分割して添加することができるが、本発明の一般式(I)または(II)で表されるメソイオン化合物の全添加量の少なくとも10質量%は化学増感剤の添加時迄に添加することが好ましい。本発明の一般式(I)または(II)で表されるメソイオン化合物の使用量は、使用するハロゲン化乳剤のハロゲン組成や粒径、化学増感剤の種類と使用量、化学熟成温度、化学熟成時間、化学熟成時のpHやpAg等の化学熟成条件により異なるが、ハロゲン化銀1モル当り10−6〜10−2モル、より好ましくは10−5〜10−3モルの範囲とすることが好ましい。
【0028】
本発明の一般式(I)または(II)で表されるメソイオン化合物の存在下で行われる化学増感に用いられる化学増感剤としてイオウ増感剤や金増感剤を挙げることができるが、イオウ増感剤と金増感剤を併用して用いることが好ましい。好ましいイオウ増感剤としては、P.Grafkides著、Chimie et Physique Photographique(Paul Momtel社刊、1987年、第5版)、Research Disclosure誌307巻307105号などに記載されているチオ硫酸ナトリウム、チオアセトアミド、4−オキソ−オキサゾリジン−2−チオンなどのイオウ増感剤などを用いることができる。好ましい金増感剤としては塩化金酸、塩化金酸カリウム、チオシアン化金酸カリウム、硫化金などの無機の金化合物、米国特許第2642361号明細書、米国特許第5049484号明細書、米国特許第5049485号明細書、米国特許第5169751号明細書、米国特許第5252455号明細書、ベルギー特許第691857号明細書などに記載の有機金化合物を用いることができる。
【0029】
本発明の一般式(I)または(II)で表されるメソイオン化合物の存在下で行われる化学増感の条件としては特に制限がないが、熟成温度は40℃〜90℃の間、好ましくは45℃〜80℃の間であり、pHは4〜9の間、好ましくは5〜8の間、pAgは6〜11の間、好ましくは7〜10の間である。
【0030】
本発明のハロゲン化銀乳剤は、光源の波長に応じて、当業界で知られる種々の分光増感色素を含有することができる。それらの色素にはシアニン色素、メロシアニン色素、複合シアニン色素、複合メロシアニン色素、ホロホーラーシアニン色素、ヘミシアニン色素、スチリル色素及びヘミオキサノール色素等がある。これらの色素は単独で用いても組み合わせて用いてもよい。例えば、特開平2−251853号公報、特開平4−9853号公報、特開平7−36191号公報、特開2000−267217号公報、特開2001−350267号公報、特開2003−195441号公報などに記載の増感色素が好ましく用いられる。
【0031】
本発明の一般式(I)または(II)で表されるメソイオン化合物の存在下で化学増感することにより高い感度を有し、かつ経時による感度の増加することの少ない、保存性の良好なハロゲン化銀乳剤が得られるが、本発明のこの効果は、95モル%以上の塩化銀からなるハロゲン組成のハロゲン化銀乳剤が用いられる場合にとりわけ著しい。95モル%以上の塩化銀からなるハロゲン組成のハロゲン化銀乳剤を用いるのに好適なものの代表例としては銀錯塩拡散転写平版印刷版を挙げることができる。銀錯塩拡散転写平版印刷版の代表的な実施態様は、特公昭48−30562号公報、特公昭53−21602号公報、特開昭54−103104号公報等に記載される。それらによれば、支持体及びその上にハレーション防止を兼ねた下塗り層、ハロゲン化銀乳剤層、物理現像核層からなる感光材料を画像露光し、現像処理を行うと潜像が形成されているハロゲン化銀は乳剤層中で黒化銀となる。同時に、潜像が形成されていないハロゲン化銀は現像処理液中に含まれるハロゲン化銀錯化剤の作用で溶解し、感光材料の表面に拡散する。溶解し拡散した銀錯塩が表面層の物理現像核の上に現像主薬の還元作用によって銀画像として析出する。得られた銀画像のインキ受理性を強化させるために現像処理に続いて必要ならば感脂化処理が施された後、オフセット印刷機にセットされ、印刷物へとインキ画像が転写される。
【0032】
本発明のハロゲン化銀乳剤を用いた平版印刷版の第二の代表的な実施態様は、特開昭63−260491号公報、特開平3−116151号公報、特開平4−282259号公報等に記載の方法である。それらによれば、粗面化され陽極酸化されたアルミニウム板を支持体とし、その上に物理現像核を担持し、更にその上に感光性ハロゲン化銀乳剤層を設けられる。係る平版印刷版を像露光し、銀錯塩拡散転写現像した後、ハロゲン化銀乳剤層を温水で洗浄して除去し、印刷版を作製するものである。拡散転写現像された物理現像核上の銀画像は、感脂化処理が施された後、オフセット印刷機にセットされ、印刷物へとインキ画像が転写される。係る平版印刷版においては、該ハロゲン化銀乳剤像を良好に洗浄、除去するためには、ハロゲン化銀乳剤層は実質的に硬膜剤を含まないゼラチン等の親水性バインダーであることが好ましい。
【0033】
本発明のハロゲン化銀乳剤を用いた平版印刷版は、平版印刷版の製造工程、保存中あるいは写真処理中のカブリを防止し、あるいは写真性能を安定化させる目的で、安定剤、例えば、1−フェニル−5−メルカプトテトラゾールのようなメルカプトテトラゾール化合物や4−ヒドロキシ−6−メチル(1,3,3a,7)テトラアザインデンのようなテトラアザインデン化合物などの複素環化合物を含有させることができる。
【0034】
本発明のハロゲン化銀乳剤を用いた平版印刷版には、ハロゲン化銀乳剤層その他の親水性コロイド層に無機または有機の硬膜剤を含有することができる。例えばクロム塩(クロムミョウバンなど)、アルデヒド類、(ホルムアルデヒド、グリオキサールなど)、N−メチロール化合物、ジオキサン誘導体(2,3−ジヒドロキシジオキサンなど)、活性ビニル化合物、活性ハロゲン化合物(2,4−ジクロロ−6−ヒドロキシ−s−トリアジンなど)などを単独または組み合わせて用いることができる。
【0035】
本発明のハロゲン化銀乳剤を用いた平版印刷版のハロゲン化銀乳剤層や他の親水性コロイド層には、塗布助剤、帯電防止、スベリ性改良、乳化分散、接着防止及び写真特性改良(例えば、現像促進、硬調化、増感)など種々の目的で界面活性剤を含んでよい。例えばサポニン(ステロイド系)、アルキレンオキサイド誘導体(ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールアルキルエーテル類など)、グリシドール誘導体(アルケニルコハク酸ポリグリセリドなど)、多価アルコールの脂肪酸エステル類、糖のアルキルエステル類などの非イオン性界面活性剤;アルキルカルボン酸塩、アルキル硫酸エステル類、アルキリン酸エステル類などのような、カルボキシル基、スルホ基、ホスホ基、硫酸エステル基、リン酸エステル基等の酸性基を含むアニオン界面活性剤;アミノ酸類、アミノアルキルスルホン酸類、アミノアルキル硫酸またはリン酸エステル類などの両性界面活性剤;脂肪族あるいは芳香族第4級アンモニウム塩類、ピリジニウム、イミダゾリウムなどの複素環第4級アンモニウム塩類などのカチオン界面活性剤を用いることができる。
【0036】
上記したような本発明のハロゲン化銀乳剤を用いた銀錯塩拡散転写平版印刷版の現像に用いる現像処理液には、アルカリ性物質、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、第三リン酸ナトリウム等、保恒剤としての亜硫酸塩、ハロゲン化銀溶剤、例えばチオ硫酸塩、チオシアン酸塩、環状イミド、2−メルカプト安息香酸、アミン等、粘稠剤、例えばヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等、カブリ防止剤、例えば臭化カリウム、特開昭47−26201号公報に記載の化合物等、現像主薬、例えばハイドロキノン類、カテコール、1−フェニル−3−ピラゾリジノン等、現像変性剤、例えばポリオキシアルキレン化合物、オニウム化合物等を含むことができる。更に現像処理液には、米国特許第3,776,728号明細書に記載の如き表面銀層のインキ乗りをよくする化合物等を使用することができる。また、特開昭56−27151号公報、特開昭57−86835号公報に記載されているように、現像液の保存性及びランニング処理適性を向上させるために、現像液には実質的に現像主薬を含有せず、平版印刷版に現像可能な量の現像主薬を含有させて、アルカリ性活性化現像液で処理することもできる。
【実施例】
【0037】
<ハロゲン化乳剤の作製>
コントロールド・ダブルジェット法により、ハロゲン化銀1モル当り8.2×10−7モルの[IrCl(HO)]2−と1.2×10−7モルの[RhCl3−をドープした塩化銀99.4モル%、ヨウ化銀0.6モル%の平均粒径0.30μmの立方体のハロゲン化銀乳剤粒子を作製した。上記ハロゲン化銀乳剤粒子を含む溶液を通常の方法により沈澱、水洗、脱水、再溶解し、表1に記載の本発明のメソイオン化合物(M−1)、(M−3)、(M−7)、(M−9)または、比較例として本発明のメソイオン化合物を加えないか、あるいは比較の化合物1〜3を加えた後、ハロゲン化銀1モル当り1.5×10−5モルのチオ硫酸ナトリウムと4.0×10−5モルの塩化金酸を用いて、pH=5.6、pAg=5.6で70℃60分間化学熟成した後、カブリ防止剤として4−ヒドロキシ−9−メチル−1,3,3a,7−テトラアザインデン及び1−フェニル−5−メルカプトテトラゾールを加え、ハロゲン化銀乳剤を作製した。その後、特公平7−27210号公報に記載の増感色素(A)及び増感色素(E)を用いて赤色光に対する分光増感を行った。
【0038】
【表1】

【0039】
<平版印刷版の作製>
175μmの下引き済みポリエチレンテレフタレートフィルムの片面に平均粒径3.5μmのシリカ粉末(富士シリシア化学(株)製SY435)を含有するマット化層を設け、裏面とした。反対側の面(表面)をコロナ放電加工後、カーボンブラック0.08g/m、平均粒径3.5μmのシリカ粉末(富士シリシア化学(株)製SY435)0.3g/m及び硬膜剤として2,4−ジクロロ−6−ヒドロキシ−s−トリアジンナトリウム0.15g/mを含む下塗り層(ゼラチン3.5g/m)と、その上に上記の本発明のハロゲン化銀乳剤(1)〜(4)及び比較のハロゲン化銀乳剤(5)〜(8)を硝酸銀として1.2g/m(ゼラチン0.8g/m)になるように、特開2006−55703号公報等に記載のカーテン塗布装置を用いて二層同時塗布を行った。硬膜剤として下塗り層には2,4−ジクロロ−6−ヒドロキシ−s−トリアジンナトリウムを0.15g/m、ハロゲン化銀乳剤層にはメチロール化尿素化合物を0.3g/m加えた。
【0040】
【化7】

【0041】
【化8】

【0042】
【化9】

【0043】
塗布乾燥後、40℃で7日間加温したハロゲン化銀乳剤層の上に下記の物理現像核塗液を、特開平8−194315号公報等に記載されているようなスライドビード塗布方式の塗布機で塗布、乾燥して40℃2日間加温し本発明の平版印刷版(1)〜(4)及び比較の平版印刷版(5)〜(8)を作製した。
【0044】
<物理現像核塗液>
物理現像核として硫化パラジウムを特開平8−211614号公報の実施例1に準じて調整した。親水性ポリマーとして、同公報に記載の親水性ポリマー(P−2)を10mg/m、現像主薬としてハイドロキノンを0.6g/m、硬膜剤として10質量%ホルマリン溶液0.3g/mを含有する。
【0045】
上記平版印刷版を50℃60%RH(相対湿度)で2週間強制加温した。フレッシュ(未加温)の平版印刷版と上記強制加温した平版印刷版をそれぞれ三菱製紙(株)製の赤色LD出力機FREDIA Eco(露光波長:660nm、露光方式:内面ドラム:現像ユニット塗布現像方式)で3000dpiで製版を行った。塗布方式内蔵プロセッサーにより下記組成の銀錯塩拡散転写現像液で30℃20秒間現像処理後、下記組成の中和液で20秒間中和処理した。塗布現像時の現像液の塗布量は平版印刷版1m当り30mlとなるように調整した。
【0046】
<転写現像液>
水 700質量部
水酸化カリウム 20質量部
無水亜硫酸ナトリウム 50質量部
2−メルカプト安息香酸 1.5質量部
2−アミノエチルアミノエタノール 15質量部
水を加えて 1000質量部
とする。
【0047】
<中和液>
水 600質量部
クエン酸 10質量部
クエン酸ナトリウム 35質量部
コロイダルシリカ(20質量%分散液 5質量部
エチレングリコール 5質量部
水を加えて 1000質量部
とする。
【0048】
感度は反射濃度1.30を与えるのに必要なレーザー出力値の逆数で表し、比較の平版印刷版(5)のFreshサンプルの感度を100とした時の相対感度で表した。
【0049】
表1から明らかなように、本発明の一般式(I)または(II)で表されるメソイオン化合物の存在下で化学増感されたハロゲン化銀乳剤を用いた平版印刷版は、経時による感度増加が少なく、良好な保存性を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)または(II)で表されるメソイオン化合物の存在下で化学増感することを特徴とするハロゲン化銀乳剤。
【化1】

一般式(I)中、nは2〜5までの数を表し、R、R及びRは脂肪族炭化水素基を表す。
【化2】

一般式(II)中、R、R及びRは水素原子または脂肪族炭化水素基を表し、該脂肪族炭化水素基の炭素数は1〜8であることが好ましい。また、R、R及びRの少なくとも1つは、該脂肪族炭化水素基が有する水素原子がカルボン酸もしくはその塩、スルホン酸もしくはその塩、ホスホン酸もしくはその塩のいずれかで置換された脂肪族炭化水素基を表す。

【公開番号】特開2011−22230(P2011−22230A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−165329(P2009−165329)
【出願日】平成21年7月14日(2009.7.14)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】