説明

バイオエタノールの製造装置および製造方法

【課題】バイオマスを原料とし、連続かつ効率的にエタノールを製造するバイオエタノールの製造方法および製造装置を提供する。
【解決手段】本発明のバイオエタノールの製造装置10は、バイオマスに含まれるセルロースおよびヘミセルロースを酵素分解させるための酵素分解槽11と、セルロースおよびヘミセルロースの酵素分解により生成した糖類を発酵させるための発酵槽12と、酵素分解槽11を加熱する加熱装置13と、発酵槽12を冷却する冷却装置14と、を備え、酵素分解槽11と発酵槽12は、第一の流路15および第二の流路16、並びに、これらの流路の途中に設けられた熱交換器17を介して連通し、第二の流路16の途中に、発酵槽12にて生成したエタノールを含む溶液から発酵菌を分離し、かつ、この発酵菌を発酵槽12に戻す発酵菌分離装置18が設けられたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素法を用いたバイオエタノールの製造方法および製造装置に関し、さらに詳しくは、バイオマスを原料とし、連続かつ効率的にエタノールを製造するバイオエタノールの製造方法および製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、世界各国にて、セルロース系バイオマスを原料とするバイオエタノールの製造技術が研究開発されている。セルロース系バイオマスとは、木や草、あるいは、農作物の残渣のことであり、具体的には、建築廃材や間伐材、稲藁やバガス(サトウキビの搾りかす)、トウモロコシの茎や葉などが挙げられる。
バイオマスから生成した糖を発酵させて生産されるバイオエタノールの製造方法としては、濃硫酸法、希硫酸法、酵素法などの開発が行われている。近年、これらの製造方法の中でも、特に、酵素法に注目が集まっている。
【0003】
酵素法は、酵素によりバイオマスに含まれるセルロースとヘミセルロースを分解して糖類を生成し、その糖類を酵母菌などの発酵菌により発酵させてエタノールを生成する方法である。
【0004】
植物細胞中のセルロースとヘミセルロースは、リグニンに保護される形態で存在している。そのため、セルロースとヘミセルロースを酵素分解するためには、初めにリグニンを破壊してセルロースとヘミセルロースを露出させる必要がある。
また、セルロースはグルコースが脱水縮合した単純多糖類であり、ヘミセルロースはグルコース、キシロース、マンノースなどが脱水縮合した複合多糖類である。これらセルロースやヘミセルロースは、結合力が強く、この結合を酵素により加水分解するためには、予めセルロースおよびヘミセルロースの構造を少し分解しておく必要がある。
このようなリグニンの破壊処理、並びに、セルロースおよびヘミセルロースの構造分解処理のことを、前処理と呼んでいる。バイオマスの前処理技術としては、希硫酸分解、水蒸気爆砕、アンモニア爆砕、熱水・超臨界水を用いる方法、微生物分解、微粉砕、化学薬品処理などが考案されている。
【0005】
前処理が施されたバイオマスは、酵素により分解されるが、この酵素分解反応の温度、pH、反応時間などは酵素の特性や性能に応じて調整される。
酵素分解反応速度は、温度が高くなるほど速くなるため、反応操作温度は酵素の耐熱温度とされ、一般には50〜60℃である。
【0006】
セルロースが酵素により加水分解されるとグルコースが生成し、ヘミセルロースが酵素により加水分解されるとグルコース、キシロース、マンノースなどが生成される。
そして、セルロースとヘミセルロースの酵素分解反応により得られた糖類を含む溶液に発酵菌を添加して、糖類を発酵させてエタノールを生成する。
一般に、エタノールの至適発酵温度は30〜35℃であり、これ以上の温度では発酵菌が死滅し、発酵が進まなくなる。
【0007】
このような方法で生成されたエタノールを含む溶液の濃度は数パーセント程度であり、この溶液を濃縮・脱水することによって、無水エタノールが得られる。
一般に、エタノールを含む溶液の濃縮・脱水には、「蒸留+PSA(PressureSwing Adsorption)」あるいは「蒸留+膜分離」プロセスが採用されている。PSAとは、加圧と減圧を繰り返すことにより、ゼオライト(モレキュラーシーブ)などの吸着材に水を吸着させる方式である。
【0008】
ところで、上記の酵素法では、セルロースとヘミセルロースを酵素分解する際、分解生成物のグルコースが酵素分解の反応阻害物質となる。そのため、酵素分解反応が進行し、溶液中のグルコース濃度が高くなるにしたがって、反応速度が低下し、最終的には、あるグルコース濃度に到達した時点で、それ以上反応が進行しなくなる。
このような問題を解決するために、一般的に、酵素分解とエタノール発酵を1つの反応槽内にて同時に進行させる同時糖化発酵法と呼ばれる方法が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
なお、糖化とは、セルロースやヘミセルロースを酵素分解してグルコースなどの糖類を生成するプロセスのことである。
【0009】
この同時糖化発酵法は、以下に示すような方法である。
先ず、反応槽内に前処理が施されたバイオマスと酵素を仕込み、酵素分解反応を進行させる。
酵素分解反応がある程度進行した時点で、反応槽内に発酵菌を投入する。
すると、発酵菌が酵素分解反応により生成したグルコースをエタノールに変換するため、グルコース濃度が下がり、反応阻害要因が減少するので酵素分解反応がさらに進行するとともに、エタノールの生成も進行する。
【特許文献1】特開2002−186938号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記の同時糖化発酵法にも問題があった。
上記のように、糖化(酵素分解反応)の最適温度は、酵素の耐熱温度の50〜60℃であり、一方、発酵の最適温度は、発酵菌の耐熱温度の30〜35℃である。したがって、同時糖化発酵法では、操作温度(反応温度)を、発酵菌の耐熱温度である30〜35℃に設定しなければならず、酵素本来の最大反応速度を発揮できず、非効率的であった。
【0011】
また、セルロースやヘミセルロースの分解酵素は、非常に高価な物質である。したがって、バイオエタノール製造プロセスを実用化するためには、酵素の使用量を削減することが必須課題となる。しかし、同時糖化発酵法では、操作温度に制約があるため、酵素の最大能力を発揮することができないので、むしろ酵素を過剰に使用しなければならないことがある。
【0012】
このような同時糖化発酵法における問題を解決するために、遺伝子組み換え操作により、耐熱性を向上させたエタノール発酵菌の開発が進められている。しかしながら、現在、耐熱性が向上した発酵菌の開発は十分ではない。
【0013】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、バイオマスを原料とし、連続かつ効率的にエタノールを製造するバイオエタノールの製造方法および製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のバイオエタノールの製造装置は、バイオマスに含まれるセルロースおよびヘミセルロースを酵素分解させるための酵素分解槽と、前記セルロースおよびヘミセルロースの酵素分解により生成した糖類を発酵させるための発酵槽と、前記酵素分解槽を加熱する加熱装置と、前記発酵槽を冷却する冷却装置と、を備えたバイオエタノールの製造装置であって、前記酵素分解槽と前記発酵槽は、第一の流路および第二の流路、並びに、該第一の流路および第二の流路の途中に設けられた熱交換器を介して連通し、前記第二の流路の途中に、前記発酵槽にて生成したエタノールを含む溶液から発酵菌を分離し、かつ、該発酵菌を前記発酵槽に戻す発酵菌分離装置が設けられたことを特徴とする。
【0015】
本発明のバイオエタノールの製造装置は、前記第一の流路の途中に、前記酵素分解槽にて生成した糖類を含む溶液から酵素を分離し、かつ、該酵素を前記酵素分解槽に戻す酵素分離装置が設けられたことが好ましい。
【0016】
本発明のバイオエタノールの製造装置は、前記第二の流路の途中、かつ、前記発酵菌分離装置の後段に、前記発酵槽にて生成したエタノールを含む溶液からエタノールを分離するエタノール分離回収装置が設けられたことが好ましい。
【0017】
本発明のバイオエタノールの製造装置は、前記第二の流路の途中、かつ、前記エタノール分離回収装置の後段に、前記エタノール分離回収装置から排出された溶液からセルロースおよびヘミセルロースの酵素分解を阻害する物質を除去する阻害物質除去装置が設けられたことが好ましい。
【0018】
本発明のバイオエタノールの製造方法は、バイオマスに含まれるセルロースおよびヘミセルロースを酵素分解し、次いで、前記セルロースおよびヘミセルロースの酵素分解により生成した糖類を発酵させることによりエタノールを生成するバイオエタノールの製造方法であって、バイオマスに含まれるリグニンを破壊処理するとともに、当該バイオマスに含まれるセルロースおよびヘミセルロースの構造分解処理する前処理工程と、前記前処理工程にて構造分解処理を施したセルロースおよびヘミセルロースを酵素分解させる酵素分解工程と、前記酵素分解工程にて生成した糖類を発酵させる発酵工程と、前記酵素分解工程にて生成した糖類を含む溶液と、前記発酵工程にて生成したエタノールを含む溶液との熱交換を行う熱交換工程と、前記発酵工程にて生成したエタノールを含む溶液から発酵菌を分離する発酵菌分離工程と、を有することを特徴とする。
【0019】
本発明のバイオエタノールの製造方法は、前記酵素分解工程にて生成した糖類を含む溶液から酵素を分離する酵素分離工程を有することが好ましい。
【0020】
本発明のバイオエタノールの製造方法は、前記発酵工程にて生成したエタノールを含む溶液からエタノールを分離するエタノール分離回収工程を有することが好ましい。
【0021】
本発明のバイオエタノールの製造方法は、前記エタノール分離回収工程にて排出された溶液からセルロースおよびヘミセルロースの酵素分解を阻害する物質を除去する阻害物質除去工程を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明のバイオエタノールの製造装置によれば、酵素分解槽と発酵槽が、第一の流路および第二の流路、並びに、これらの流路の途中に設けられた熱交換器を介して連通し、酵素分解槽と発酵槽において、それぞれ独立に酵素分解反応と発酵を行いながら、熱交換器により、酵素分解槽にて生成した糖類含有溶液と、発酵槽にて生成したエタノール含有溶液との熱交換を行うので、酵素分解槽と発酵槽の間で、互いに反応温度に影響を及ぼすことなく、それぞれの槽において最適温度にて、酵素分解反応と発酵を進行することができる。また、酵素分離装置により、糖類含有溶液から酵素を分離し、この酵素を酵素分解槽に戻して再利用することができるとともに、発酵菌分離装置により、エタノール含有溶液から発酵菌を分離し、この発酵菌を発酵槽に戻して再利用することができる。このように、酵素分解槽と発酵槽の最適温度にて、酵素分解反応と発酵を進行することができるため、従来の同時糖化発酵法と比較して、酵素使用量の削減が可能となり、非常に効率的にエタノールを製造することができる。さらに、エタノール分離回収装置により、発酵槽にて生成したエタノール含有溶液から、エタノールを分離、回収するので、生成したエタノールが酵素分解槽に送り込まれて、酵素分解反応を阻害することを防止できる。また、阻害物質除去装置により、エタノール分離回収装置から排出された溶液に含まれる有機酸などを除去するので、この有機酸などが酵素分解や発酵を阻害することを防止できる。したがって、非常に効率的にエタノールを製造することができる上に、バイオエタノールの連続製造プロセスを実現することができる。
【0023】
本発明のバイオエタノールの製造方法によれば、酵素分解反応と発酵とを、それぞれ独立に行いながら、酵素分解工程にて生成した糖類含有溶液と、発酵工程にて生成したエタノール含有溶液との熱交換を行うので、酵素分解反応と発酵の間で、互いに反応温度に影響を及ぼすことなく、それぞれの反応を最適温度にて進行することができる。また、酵素分離工程により、糖類含有溶液から酵素を分離し、この酵素を酵素分解工程に戻して再利用することができるとともに、発酵菌分離工程により、エタノール含有溶液から発酵菌を分離し、この発酵菌を発酵工程に戻して再利用することができる。このように、酵素分解反応と発酵を最適温度にて進行することができるために、従来の同時糖化発酵法と比較して、酵素使用量を削減することができるから、非常に効率的にエタノールを製造することができる。さらに、エタノール分離回収工程により、発酵工程にて生成したエタノール含有溶液から、エタノールを分離、回収するので、生成したエタノールが酵素分解工程に供給されて、酵素分解反応を阻害することを防止できる。また、阻害物質除去工程により、エタノール分離回収工程にて排出された溶液に含まれる有機酸などを除去するので、この有機酸などが酵素分解や発酵を阻害することを防止できる。したがって、非常に効率的にエタノールを製造することができる上に、バイオエタノールの連続製造プロセスを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明のバイオエタノールの製造装置および製造方法の最良の形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0025】
(1)第一の実施形態
図1は、本発明のバイオエタノールの製造装置の第一の実施形態を示す概略構成図である。
図1中、符号10はバイオエタノールの製造装置(以下、「バイオエタノール製造装置」と言う。)、11は酵素分解槽、12は発酵槽、13は加熱装置、14は冷却装置、15は第一の流路、16は第二の流路、17は熱交換器、18は発酵菌分離装置、19は流路、20は酵素分離装置、21は流路をそれぞれ示している。
【0026】
このバイオエタノール製造装置10は、酵素分解槽11と、発酵槽12と、加熱装置13と、冷却装置14と、第一の流路15と、第二の流路16と、熱交換器17と、発酵菌分離装置18と、酵素分離装置20とから概略構成されている。
酵素分解槽11は、セルロース系バイオマスに含まれるセルロースおよびヘミセルロースを酵素分解させるためのものである。また、酵素分解槽11は、槽内のバイオマスおよび酵素を含む混合物を攪拌するための攪拌装置(図示略)を備えている。
酵素分解槽11の外周面には、酵素分解槽11内の温度を所定温度に加熱し、保温することができる加熱装置13が設けられている。
【0027】
発酵槽12は、酵素分解槽11にてセルロースおよびヘミセルロースの酵素分解により生成した糖類を発酵させるためのものである。また、発酵槽12は、槽内の糖類を含有する溶液および発酵菌を含む混合物を攪拌するための攪拌装置(図示略)を備えている。
発酵槽12の外周面には、発酵槽12内の温度を所定温度に冷却し、保温することができる冷却装置14が設けられている。
【0028】
また、酵素分解槽11と発酵槽12は、第一の流路15および第二の流路16、並びに、これらの流路の途中に設けられた熱交換器17を介して連通している。また、第一の流路15および第二の流路16は、熱交換器17内を貫通している。また、第一の流路15は、酵素分解槽11側から順に、流路15A,15B,15Cから構成されている。同様に、第二の流路16は、発酵槽12側から順に、流路16A,16B,16Cから構成されている。
【0029】
また、酵素分解槽11にてセルロースおよびヘミセルロースの酵素分解により生成した糖類を含有する溶液(以下、「糖類含有溶液」と言うこともある。)は、流路15の途中に設けられた送液ポンプ(図示略)により、流路15A、15B、熱交換器17、流路15Cを順に流れて、発酵槽12へ送り込まれるようになっている。
一方、発酵槽12にて生成したエタノールを含有する溶液(以下、「エタノール含有溶液」と言うこともある。)は、流路16の途中に設けられた送液ポンプ(図示略)により、流路16A、16B、熱交換器17、流路16Cを順に流れて、酵素分解槽11へ送り込まれるようになっている。
【0030】
そして、熱交換器17にて、第一の流路15を流れる糖類含有溶液と、第二の流路16を流れるエタノール含有溶液との間で、熱交換が行われるようになっている。
【0031】
第一の流路15の途中には、酵素分解槽11にて生成した糖類含有溶液から酵素を分離し、かつ、この酵素を、流路21を介して酵素分解槽11に戻す酵素分離装置20が設けられている。
一方、第二の流路16の途中には、発酵槽12にて生成したエタノール含有溶液から発酵菌を分離し、かつ、この発酵菌を、流路19を介して発酵槽12に戻す発酵菌分離装置18が設けられている。
【0032】
発酵菌分離装置18としては、重力沈降分離を用いた固液分離装置、遠心分離装置、液体サイクロン分離装置などが用いられる。
酵素分離装置20としては、チューブラー型、ドラムフィルター型、振動型などの膜分離装置が用いられる。
【0033】
次に、このバイオエタノール製造装置10の作用を説明するとともに、この実施形態のバイオエタノールの製造方法を説明する。
まず、セルロース系バイオマスに含まれるリグニンを破壊処理するとともに、このバイオマスに含まれるセルロースおよびヘミセルロースを構造分解処理する(前処理工程)。
このバイオマスの前処理工程では、希硫酸分解、水蒸気爆砕、アンモニア爆砕、熱水・超臨界水を用いる方法、微生物分解、微粉砕、化学薬品処理などの公知の方法が用いられる。
【0034】
次いで、酵素分解槽11に、前処理工程にて前処理を施したバイオマスと、このバイオマスの分解に適量の酵素と、適量の水を入れる。
水を添加する割合(添加率)は、バイオマスを100重量部とした場合、300重量部〜2000重量部であることが好ましい。
【0035】
セルロースを分解するための酵素としては、セルラーゼが用いられる。
ヘミセルロースを分解するための酵素としては、キシラナーゼやマンナナーゼが用いられる。
また、酵素を添加する割合(添加率)は、バイオマスを100重量部とした場合、0.1重量部〜10重量部であることが好ましい。
【0036】
次いで、攪拌装置によりバイオマス、酵素および水の混合物を攪拌しながら、pHを調整し、この混合物を50〜60℃に保持することにより、前処理工程にて構造分解処理を施したセルロースおよびヘミセルロースを酵素分解させて、グルコース、マンノース、キシロースなどの糖類を生成する(酵素分解工程)。
この酵素分解工程では、セルロースおよびヘミセルロースの酵素分解を、例えば、50〜60℃にて24時間〜72時間程度行う。
なお、バイオエタノールの製造開始時には、糖類の発酵が未だ行われていないので、酵素分解槽11内の温度を適温に加熱するために、熱交換器17における第一の流路15を流れる糖類含有溶液と、第二の流路16を流れるエタノール含有溶液との間の熱交換による熱が利用されることがない。したがって、バイオエタノールの製造開始時には、酵素分解槽11内の温度を適温に加熱するために、加熱装置13のみが用いられる。
【0037】
次いで、ある程度、酵素分解反応が進行した時点で、第一の流路15および酵素分離装置20を介して、酵素分解工程にて生成した糖類含有溶液を発酵槽12へ送り込む。
酵素分離装置20では、糖類含有溶液に含まれる酵素が分離され、分離された酵素は発酵槽12には送り込まれずに、流路21を介して酵素分解槽11へ戻される(酵素分離工程)。これにより、酵素分解槽11中の酵素の濃度をほぼ一定に保つことができるので、酵素分解反応を安定に継続することができる上に、高価な酵素を無駄にすることなく繰り返し利用できる。
【0038】
また、セルロースおよびヘミセルロースの酵素分解が進行し、糖類含有溶液が発酵槽12へ送り込まれると、酵素分解槽11の液量が減少する。そこで、酵素分解槽11に、新たに適量の水を加えて、酵素分解を継続する。
ところで、上述のように、セルロースとヘミセルロースを酵素分解する際、分解生成物のグルコースが酵素分解の反応阻害物質となるため、酵素分解が進行し、酵素分解槽11中のグルコースの濃度が高くなるにしたがって、酵素分解が進行しなくなる。そこで、生成した糖類含有溶液を発酵槽12へ送り込むとともに、酵素分解槽11に、新たに水を加えると、酵素分解槽11中のグルコースの濃度が低下するので、酵素分解反応が再び進行する。また、新たに水を加える際、必要に応じて、酵素を追加補給してもよい。
【0039】
次いで、上述の酵素分解槽11における酵素分解反応、酵素分解反応により生成した糖類含有溶液の発酵槽12への送出、および、酵素分解槽11への水の追加を適当回数繰り返し、発酵槽12が糖類含有溶液で満たされた時点で、発酵槽12に発酵菌を投入し、攪拌装置により糖類含有溶液および発酵菌の混合物を攪拌しながら、30〜35℃に保持することにより、酵素分解工程にて生成した糖類を発酵する(発酵工程)。
なお、糖類の発酵開始時には、エタノールが十分に生成していないため、熱交換器17における糖類含有溶液と、エタノール含有溶液との間の熱交換が行われていない。したがって、糖類の発酵開始時には、発酵槽12内の温度を適温に冷却するために、冷却装置14のみが用いられる。
【0040】
グルコース、マンノース、キシロースなどの糖類を発酵させてエタノールを生成するための発酵菌としては、酵母菌、ザイモモナス、遺伝子組換大腸菌などが用いられる。
また、発酵菌(酵母菌)は、10〜10cell/mlであることが好ましい。
【0041】
次いで、熱交換器17を介して、酵素分解槽11と発酵槽12との間で、酵素分解工程にて生成した糖類含有溶液と、発酵工程にて生成したエタノール含有溶液とを循環させる。これによって、熱交換器17により、糖類含有溶液とエタノール含有溶液との熱交換を行う(熱交換工程)。
なお、糖類含有溶液中のグルコース濃度が所定濃度、例えば、1重量%以下になったら、糖類含有溶液とエタノール含有溶液との循環を開始する。
【0042】
なお、糖類含有溶液とエタノール含有溶液との熱交換の効率を100%に設定することはできないため、酵素分解槽11から発酵槽12へ送り込まれる糖類含有溶液は、発酵操作温度(発酵に適した温度:30〜35℃)より若干高くなっており、一方、発酵槽12から酵素分解槽11へ送り込まれるエタノール含有溶液は、酵素分解操作温度(酵素分解に適した温度:50〜60℃)より若干低くなっている。
そのため、酵素分解槽11と発酵槽12との間で、糖類含有溶液とエタノール含有溶液の循環(熱交換)を開始したら、加熱装置13により酵素分離槽11内の温度を酵素分解操作温度まで加熱し、一方、冷却装置14により発酵槽12内の温度を発酵操作温度まで冷却する。また、仮に熱交換の効率を100%にすることができたとしても、エタノール発酵は発熱反応であるため、冷却装置14により発酵槽12内の温度を発酵操作温度まで冷却する必要がある。
【0043】
また、発酵工程にて生成したエタノール含有溶液は、第二の流路16および発酵菌分離装置18を介して、酵素分離槽11へ送り込まれているため、発酵菌分離装置18では、エタノール含有溶液に含まれる発酵菌が分離され、分離された発酵菌は酵素分離槽11には送り込まれずに、流路19を介して発酵槽12へ戻される(発酵菌分離工程)。これにより、発酵槽12中の発酵菌の濃度をほぼ一定に保つことができるので、エタノール発酵を安定に継続することができる。
【0044】
そして、セルロースおよびヘミセルロースの酵素分解反応が進行しなくなった時点で、糖類含有溶液とエタノール含有溶液の循環を停止する。なお、セルロースおよびヘミセルロースの酵素分解反応が進行しなくなるまでの間に、エタノール発酵も十分に進行している。
次いで、酵素分解槽11および発酵槽12から全溶液を抜き出して、この溶液をエタノールの濃縮・脱水工程へ送り、エタノールを回収する。
【0045】
上記の一連の工程が終了した後、酵素分解槽11と発酵槽12を洗浄し、再び同じ操作を繰り返す。
【0046】
この実施形態のバイオエタノール製造装置10を用いたバイオエタノールの製造方法によれば、酵素分解槽11と発酵槽12が、第一の流路15および第二の流路16、並びに、これらの流路の途中に設けられた熱交換器17を介して連通し、酵素分解槽11と発酵槽12において、それぞれ独立に酵素分解反応と発酵を行いながら、熱交換器17により、酵素分解槽11における酵素分解反応にて生成した糖類含有溶液と、発酵槽12における発酵工程にて生成したエタノール含有溶液との熱交換を行うので、酵素分解槽11と発酵槽12の間で、互いに反応温度に影響を及ぼすことなく、それぞれの最適温度にて、酵素分解反応と発酵を進行することができる。また、酵素分離装置20により、糖類含有溶液から酵素を分離し、この酵素を酵素分解槽11に戻して再利用することができるとともに、発酵菌分離装置18により、エタノール含有溶液から発酵菌を分離し、この発酵菌を発酵槽12に戻して再利用することができる。このように、それぞれの最適温度にて、酵素分解反応と発酵を進行することができるため、従来の同時糖化発酵法と比較して、酵素使用量を削減することができるから、従来の同時糖化発酵法において、酵素分解反応温度と発酵温度が異なるためにエタノールの製造効率が悪いという問題を解決し、非常に効率的にエタノールを製造することができる。
【0047】
なお、この実施形態では、第一の流路15の途中に酵素分離装置20が設けられたバイオエタノール製造装置10を例示したが、本発明のバイオエタノールの製造装置はこれに限定されず、酵素分離装置が設けられていなくてもよい。
【0048】
(2)第二の実施形態
図2は、本発明のバイオエタノールの製造装置の第二の実施形態を示す概略構成図である。
図2中、符号30はバイオエタノール製造装置、31は酵素分解槽、32は発酵槽、33は加熱装置、34は冷却装置、35は第一の流路、36は第二の流路、37は熱交換器、38は発酵菌分離装置、39は流路、40は酵素分離装置、41は流路、42はエタノール分離回収装置、43は阻害物質除去装置をそれぞれ示している。
【0049】
このバイオエタノール製造装置30は、酵素分解槽31と、発酵槽32と、加熱装置33と、冷却装置34と、第一の流路35と、第二の流路36と、熱交換器37と、発酵菌分離装置38と、酵素分離装置40、エタノール分離回収装置42、阻害物質除去装置43とから概略構成されている。
酵素分解槽31は、セルロース系バイオマスに含まれるセルロースおよびヘミセルロースを酵素分解させるためのものである。また、酵素分解槽31は、槽内のバイオマスおよび酵素を含む混合物を攪拌するための攪拌装置(図示略)を備えている。
酵素分解槽31の外周面には、酵素分解槽31内の温度を所定温度に加熱し、保温することができる加熱装置33が設けられている。
【0050】
発酵槽32は、酵素分解槽31にてセルロースおよびヘミセルロースの酵素分解により生成した糖類を発酵させるためのものである。また、発酵槽32は、槽内の糖類を含有する溶液および発酵菌を含む混合物を攪拌するための攪拌装置(図示略)を備えている。
発酵槽32の外周面には、発酵槽32内の温度を所定温度に冷却し、保温することができる冷却装置34が設けられている。
【0051】
また、酵素分解槽31と発酵槽32は、第一の流路35および第二の流路36、並びに、これらの流路の途中に設けられた熱交換器37を介して連通している。また、第一の流路35および第二の流路36は、熱交換器37内を貫通している。また、第一の流路35は、酵素分解槽31側から順に、流路35A,35B,35Cから構成されている。同様に、第二の流路36は、発酵槽32側から順に、流路36A,36B,36C,36D,36Eから構成されている。
【0052】
また、酵素分解槽31にてセルロースおよびヘミセルロースの酵素分解により生成した糖類含有溶液は、流路35の途中に設けられた送液ポンプ(図示略)により、流路35A、35B、熱交換器37、流路35Cを順に流れて、発酵槽32へ送り込まれるようになっている。
一方、発酵槽32にて生成したエタノール含有溶液は、流路36の途中に設けられた送液ポンプ(図示略)により、流路36A,36B,36C,36D、熱交換器37、流路36Eを順に流れて、酵素分解槽31へ送り込まれるようになっている。
【0053】
そして、熱交換器37にて、第一の流路35を流れる糖類含有溶液と、第二の流路36を流れるエタノール含有溶液との間で、熱交換が行われるようになっている。
【0054】
第一の流路35の途中には、酵素分解槽31にて生成した糖類含有溶液から酵素を分離し、かつ、この酵素を、流路41を介して酵素分解槽31に戻す酵素分離装置40が設けられている。
一方、第二の流路36の途中には、発酵槽32にて生成したエタノール含有溶液から発酵菌を分離し、かつ、この発酵菌を、流路39を介して発酵槽32に戻す発酵菌分離装置38が設けられている。また、第二の流路36の途中、かつ、発酵菌分離装置38の後段に、発酵槽32にて生成したエタノール含有溶液からエタノールを分離するエタノール分離回収装置42が設けられている。さらに、第二の流路36の途中、かつ、エタノール分離回収装置42の後段に、エタノール分離回収装置42から排出された溶液からセルロースおよびヘミセルロースの酵素分解を阻害する物質を除去する阻害物質除去装置43が設けられている。
【0055】
エタノール分離回収装置42としては、蒸留装置、蒸留装置と吸着材を組み合わせた装置、蒸留装置と膜分離装置を組み合わせた装置などが用いられる。
阻害物質除去装置43としては、活性汚泥処理、メタン発酵処理、吸着処理などが用いられる。
【0056】
次に、このバイオエタノール製造装置30の作用を説明するとともに、この実施形態のバイオエタノールの製造方法を説明する。
まず、セルロース系バイオマスに含まれるリグニンを破壊処理するとともに、このバイオマスに含まれるセルロースおよびヘミセルロースの構造分解処理する(前処理工程)。
このバイオマスの前処理工程では、希硫酸分解、水蒸気爆砕、アンモニア爆砕、熱水・超臨界水を用いる方法、微生物分解、微粉砕、化学薬品処理などの公知の方法が用いられる。
【0057】
次いで、酵素分解槽31に、前処理工程にて前処理を施したバイオマスと、このバイオマスの分解に適量の酵素と、適量の水を入れる。
【0058】
次いで、攪拌装置によりバイオマス、酵素および水の混合物を攪拌しながら、この混合物を50〜60℃に保持することにより、前処理工程にて構造分解処理を施したセルロースおよびヘミセルロースを酵素分解させて、グルコース、マンノース、キシロースなどの糖類を生成する(酵素分解工程)。
この酵素分解工程では、セルロースおよびヘミセルロースの酵素分解を、例えば、50〜60℃にて24時間〜72時間程度行う。
なお、バイオエタノールの製造開始時には、糖類の発酵が未だ行われていないので、酵素分解槽31内の温度を適温に加熱するために、熱交換器37における第一の流路35を流れる糖類含有溶液と、第二の流路36を流れるエタノール含有溶液との間の熱交換による熱が利用されることがない。したがって、バイオエタノールの製造開始時には、酵素分解槽31内の温度を適温に加熱するために、加熱装置33のみが用いられる。
【0059】
次いで、ある程度、酵素分解反応が進行した時点で、第一の流路35および酵素分離装置40を介して、酵素分解工程にて生成した糖類含有溶液を発酵槽32へ送り込む。
酵素分離装置40では、糖類含有溶液に含まれる酵素が分離され、分離された酵素は発酵槽32には送り込まれずに、流路41を介して酵素分解槽31へ戻される(酵素分離工程)。これにより、酵素分解槽31中の酵素の濃度をほぼ一定に保つことができるので、酵素分解反応を安定に継続することができる上に、高価な酵素を無駄にすることなく繰り返し利用できる。
【0060】
また、セルロースおよびヘミセルロースの酵素分解が進行し、糖類含有溶液が発酵槽32へ送り込まれると、酵素分解槽31の液量が減少する。そこで、酵素分解槽31に、新たに適量の水を加えて、酵素分解を継続する。
ところで、上述のように、セルロースとヘミセルロースを酵素分解する際、分解生成物のグルコースが酵素分解の反応阻害物質となるため、酵素分解が進行し、酵素分解槽31中のグルコースの濃度が高くなるにしたがって、酵素分解が進行しなくなる。そこで、生成した糖類含有溶液を発酵槽32へ送り込むとともに、酵素分解槽31に、新たに水を加えると、酵素分解槽31中のグルコースの濃度が低下するので、酵素分解反応が再び進行する。
【0061】
次いで、上述の酵素分解槽31における酵素分解反応、酵素分解反応により生成した糖類含有溶液の発酵槽32への送出、および、酵素分解槽31への水の追加を適当回数繰り返し、発酵槽32が糖類含有溶液で満たされた時点で、発酵槽32に発酵菌を投入し、攪拌装置により糖類含有溶液および発酵菌の混合物を攪拌しながら、30〜35℃に保持することにより、酵素分解工程にて生成した糖類を発酵する(発酵工程)。
なお、糖類の発酵開始時には、エタノールが十分に生成していないため、熱交換器37における糖類含有溶液と、エタノール含有溶液との間の熱交換が行われていない。したがって、糖類の発酵開始時には、発酵槽32内の温度を適温に冷却するために、冷却装置34のみが用いられる。
【0062】
次いで、ある程度、エタノール発酵が進行した時点で、第二の流路36および発酵菌分離装置38を介して、発酵工程にて生成したエタノール含有溶液をエタノール分離回収装置42へ送り込む。
また、発酵工程にて生成したエタノール含有溶液は、第二の流路36および発酵菌分離装置38を介して、エタノール分離回収装置42へ送り込まれているため、発酵菌分離装置38では、エタノール含有溶液に含まれる発酵菌が分離され、分離された発酵菌はエタノール分離回収装置42には送り込まれずに、流路39を介して発酵槽32へ戻される(発酵菌分離工程)。これにより、発酵槽32中の発酵菌の濃度をほぼ一定に保つことができるので、エタノール発酵を安定に継続することができる。
【0063】
次いで、エタノール分離回収装置42により、発酵工程にて生成したエタノール含有溶液から、エタノールを分離、回収し(エタノール分離回収工程)、エタノールが除去された溶液を排出して、阻害物質除去装置43へ送り込む。
なお、発酵工程にて生成したエタノールも、グルコースと比較すると影響が小さいものの、酵素分解反応の阻害物質となる。そこで、エタノール分離回収装置42により、発酵工程にて生成したエタノールを反応系から順次除去することが好ましい。
【0064】
次いで、阻害物質除去装置43により、エタノール分離回収工程にて排出された溶液からセルロースおよびヘミセルロースの酵素分解を阻害する物質を除去する(阻害物質除去工程)。
なお、発酵槽32にてエタノールを生成するにともなって、若干量のギ酸、酢酸などの有機酸やその他の有機物が生成する。バイオエタノール製造装置30を長時間に渡って連続操作する場合、この有機酸が反応系内に蓄積され、酵素分解や発酵を阻害する可能性がある。そこで、必要に応じて、阻害物質除去装置43により、エタノールが除去された溶液から有機酸などを除去することが好ましい。
【0065】
次いで、熱交換器37を介して、酵素分解槽31と発酵槽32との間で、酵素分解工程にて生成した糖類含有溶液と、エタノール分離回収工程にて排出されたエタノールが除去された溶液とを循環させる。これによって、熱交換器37により、糖類含有溶液とエタノールが除去された溶液との熱交換を行う(熱交換工程)。
【0066】
なお、糖類含有溶液とエタノールが除去された溶液との熱交換の効率を100%に設定することはできないため、酵素分解槽31から発酵槽32へ送り込まれる糖類含有溶液は、発酵操作温度(発酵に適した温度:30〜35℃)より若干高くなっており、一方、エタノール分離回収装置42から酵素分解槽31へ送り込まれるエタノール含有溶液は、酵素分解操作温度(酵素分解に適した温度:50〜60℃)より若干低くなっている。
そのため、酵素分解槽31と発酵槽32との間で、糖類含有溶液とエタノールが除去された溶液の循環(熱交換)を開始したら、加熱装置33により酵素分離槽31内の温度を酵素分解操作温度まで加熱し、一方、冷却装置34により発酵槽32内の温度を発酵操作温度まで冷却する。
【0067】
この実施形態では、発酵槽32にて生成したエタノール含有溶液を、エタノール分離回収装置42に連続的に送り込み、エタノールを回収するとともに、エタノール分離回収装置42から排出されたエタノールが除去された溶液を阻害物質除去装置43に連続的に送り込み、有機酸などを除去して、有機酸などが除去された溶液を酵素分解槽31に送り込むという一連の工程を繰り返すことにより、酵素分解工程、発酵工程およびエタノール分離回収工程を連続的に行うことが可能となる。
【0068】
次に、バイオエタノール製造装置30を用いて、酵素分解工程、発酵工程およびエタノール分離回収工程を連続的に行う方法を説明する。
この方法では、酵素分解槽31と同様な構成の酵素分解槽を複数設ける。
それぞれの酵素分離槽では、セルロースおよびヘミセルロースの酵素分解反応を行うが、それぞれの酵素分解槽において、酵素分解反応の開始時期をずらすことにより、全ての発酵分解槽が1つの反応系を形成した、擬似的な連続酵素分解反応系を構築する。
【0069】
ここでは、具体例として、酵素分解槽を3基(第一の酵素分解槽、第二の酵素分解槽、第三の酵素分解槽)設けた場合を例示する。
まず、第一の酵素分解槽にて、セルロースおよびヘミセルロースの酵素分解反応を開始する。
この第一の酵素分解槽における酵素分解反応が約1/2進行した時点で、第二の酵素分解槽にて、酵素分解反応を開始する。
次いで、第一の酵素分解槽における酵素分解反応が終了した時点で、第三の酵素分解槽にて、酵素分解反応を開始する。この時点で、第二の酵素分解槽における酵素分解反応が約1/2進行しているものとする。
そして、第一の酵素分解槽を洗浄し、新たに酵素分解反応の準備をする。
次いで、第二の酵素分解槽における酵素分解反応が終了した時点で、再び第一の酵素分解槽にて、酵素分解反応を開始する。この時点で、第三の酵素分解槽における酵素分解反応が約1/2進行しているものとする。
このように、3基の酵素分解槽における酵素分解反応の開始時期をずらし、上記の一連の工程を繰り返すことにより、擬似的な連続酵素分解反応系を構築することができる。
【0070】
この実施形態のバイオエタノール製造装置30を用いたバイオエタノールの製造方法によれば、上述の第一の実施形態の作用効果に加えて、エタノール分離回収装置42により、発酵工程にて生成したエタノール含有溶液から、エタノールを分離、回収するので、生成したエタノールが酵素分解槽31に送り込まれて、酵素分解反応を阻害することを防止できる。また、阻害物質除去装置43により、エタノール分離回収工程にて排出された溶液に含まれる有機酸を除去するので、この有機酸が酵素分解や発酵を阻害することを防止できる。したがって、非常に効率的にエタノールを製造することができる上に、従来の同時糖化発酵法では不可能であった、バイオエタノールの連続製造プロセスを実現することができる。
【0071】
(3)第三の実施形態
図3は、本発明のバイオエタノールの製造装置の第三の実施形態を示す概略構成図である。
図3中、符号50はバイオエタノール製造装置、51は酵素分解槽、52は発酵槽、53は加熱装置、54は冷却装置、55は第一の流路、56は第二の流路、57は熱交換器、58は発酵菌分離装置、59は流路、60は酵素分離装置、61は流路、62はエタノール分離回収装置をそれぞれ示している。
【0072】
このバイオエタノール製造装置50は、酵素分解槽51と、発酵槽52と、加熱装置53と、冷却装置54と、第一の流路55と、第二の流路56と、熱交換器57と、発酵菌分離装置58と、酵素分離装置60、エタノール分離回収装置62とから概略構成されている。
酵素分解槽51は、セルロース系バイオマスに含まれるセルロースおよびヘミセルロースを酵素分解させるためのものである。また、酵素分解槽51は、槽内のバイオマスおよび酵素を含む混合物を攪拌するための攪拌装置(図示略)を備えている。
酵素分解槽51の外周面には、酵素分解槽51内の温度を所定温度に加熱し、保温することができる加熱装置53が設けられている。
【0073】
発酵槽52は、酵素分解槽51にてセルロースおよびヘミセルロースの酵素分解により生成した糖類を発酵させるためのものである。また、発酵槽52は、槽内の糖類を含有する溶液および発酵菌を含む混合物を攪拌するための攪拌装置(図示略)を備えている。
発酵槽52の外周面には、発酵槽52内の温度を所定温度に冷却し、保温することができる冷却装置54が設けられている。
【0074】
また、酵素分解槽51と発酵槽52は、第一の流路55および第二の流路56、並びに、これらの流路の途中に設けられた熱交換器57を介して連通している。また、第一の流路55および第二の流路56は、熱交換器57内を貫通している。また、第一の流路55は、酵素分解槽51側から順に、流路55A,55B,55Cから構成されている。同様に、第二の流路56は、発酵槽52側から順に、流路56A,56B,56C,56Dから構成されている。
【0075】
また、酵素分解槽51にてセルロースおよびヘミセルロースの酵素分解により生成した糖類含有溶液は、流路55の途中に設けられた送液ポンプ(図示略)により、流路55A、55B、熱交換器57、流路55Cを順に流れて、発酵槽52へ送り込まれるようになっている。
一方、発酵槽52にて生成したエタノール含有溶液は、流路56の途中に設けられた送液ポンプ(図示略)により、流路56A、56B、熱交換器57、流路56C、56Dを順に流れて、酵素分解槽51へ送り込まれるようになっている。
【0076】
そして、熱交換器57にて、第一の流路55を流れる糖類含有溶液と、第二の流路56を流れるエタノール含有溶液との間で、熱交換が行われるようになっている。
【0077】
第一の流路55の途中には、酵素分解槽51にて生成した糖類含有溶液から酵素を分離し、かつ、この酵素を、流路61を介して酵素分解槽51に戻す酵素分離装置60が設けられている。
一方、第二の流路56の途中には、発酵槽52にて生成したエタノール含有溶液から発酵菌を分離し、かつ、この発酵菌を、流路59を介して発酵槽52に戻す発酵菌分離装置58が設けられている。また、第二の流路56の途中、かつ、発酵菌分離装置58および熱交換器57の後段に、発酵槽52にて生成したエタノール含有溶液からエタノールを分離するエタノール分離回収装置62が設けられている。
【0078】
エタノール分離回収装置62としては、蒸留装置、蒸留装置と吸着材を組み合わせた装置、蒸留装置と膜分離装置を組み合わせた装置などが用いられる。
【0079】
次に、このバイオエタノール製造装置50の作用を説明するとともに、この実施形態のバイオエタノールの製造方法を説明する。
まず、セルロース系バイオマスに含まれるリグニンを破壊処理するとともに、このバイオマスに含まれるセルロースおよびヘミセルロースの構造分解処理する(前処理工程)。
このバイオマスの前処理工程では、希硫酸分解、水蒸気爆砕、アンモニア爆砕、熱水・超臨界水を用いる方法、微生物分解、微粉砕、化学薬品処理などの公知の方法が用いられる。
【0080】
次いで、酵素分解槽51に、前処理工程にて前処理を施したバイオマスと、このバイオマスの分解に適量の酵素と、適量の水を入れる。
【0081】
次いで、攪拌装置によりバイオマス、酵素および水の混合物を攪拌しながら、この混合物を50〜60℃に保持することにより、前処理工程にて構造分解処理を施したセルロースおよびヘミセルロースを酵素分解させて、グルコース、マンノース、キシロースなどの糖類を生成する(酵素分解工程)。
この酵素分解工程では、セルロースおよびヘミセルロースの酵素分解を、例えば、50〜60℃にて24時間〜72時間程度行う。
なお、バイオエタノールの製造開始時には、糖類の発酵が未だ行われていないので、酵素分解槽51内の温度を適温に加熱するために、エタノール分離回収装置62から排出された溶液の熱が利用されることがない。したがって、バイオエタノールの製造開始時には、酵素分解槽51内の温度を適温に加熱するために、加熱装置53のみが用いられる。
【0082】
次いで、ある程度、酵素分解反応が進行した時点で、第一の流路55および酵素分離装置60を介して、酵素分解工程にて生成した糖類含有溶液を発酵槽52へ送り込む。
酵素分離装置60では、糖類含有溶液に含まれる酵素が分離され、分離された酵素は発酵槽52には送り込まれずに、流路61を介して酵素分解槽51へ戻される(酵素分離工程)。これにより、酵素分解槽51中の酵素の濃度をほぼ一定に保つことができるので、酵素分解反応を安定に継続することができる上に、高価な酵素を無駄にすることなく繰り返し利用できる。
【0083】
また、セルロースおよびヘミセルロースの酵素分解が進行し、糖類含有溶液が発酵槽52へ送り込まれると、酵素分解槽51の液量が減少する。そこで、酵素分解槽51に、新たに適量の水を加えて、酵素分解を継続する。
ところで、上述のように、セルロースとヘミセルロースを酵素分解する際、分解生成物のグルコースが酵素分解の反応阻害物質となるため、酵素分解が進行し、酵素分解槽51中のグルコースの濃度が高くなるにしたがって、酵素分解が進行しなくなる。そこで、生成した糖類含有溶液を発酵槽52へ送り込むとともに、酵素分解槽51に、新たに水を加えると、酵素分解槽51中のグルコースの濃度が低下するので、酵素分解反応が再び進行する。
【0084】
次いで、上述の酵素分解槽51における酵素分解反応、酵素分解反応により生成した糖類含有溶液の発酵槽52への送出、および、酵素分解槽51への水の追加を適当回数繰り返し、発酵槽52が糖類含有溶液で満たされた時点で、発酵槽52に発酵菌を投入し、攪拌装置により糖類含有溶液および発酵菌の混合物を攪拌しながら、30〜35℃に保持することにより、酵素分解工程にて生成した糖類を発酵する(発酵工程)。
なお、糖類の発酵開始時には、エタノールが十分に生成していないため、熱交換器57における糖類含有溶液と、エタノール含有溶液との間の熱交換が行われていない。したがって、糖類の発酵開始時には、発酵槽52内の温度を適温に冷却するために、冷却装置54のみが用いられる。
【0085】
次いで、ある程度、エタノール発酵が進行した時点で、第二の流路56および発酵菌分離装置58を介して、発酵工程にて生成したエタノール含有溶液をエタノール分離回収装置62へ送り込む。
また、発酵工程にて生成したエタノール含有溶液は、第二の流路56および発酵菌分離装置58を介して、エタノール分離回収装置62へ送り込まれているため、発酵菌分離装置58では、エタノール含有溶液に含まれる発酵菌が分離され、分離された発酵菌はエタノール分離回収装置62には送り込まれずに、流路59を介して発酵槽52へ戻される(発酵菌分離工程)。これにより、発酵槽52中の発酵菌の濃度をほぼ一定に保つことができるので、エタノール発酵を安定に継続することができる。
【0086】
次いで、熱交換器57を介して、酵素分解槽51と発酵槽52との間で、酵素分解工程にて生成した糖類含有溶液と、エタノール分離回収工程にて排出されたエタノールが除去された溶液とを循環させる。これによって、熱交換器57により、第一の流路55を流れる糖類含有溶液と、第二の流路56を流れるエタノール含有溶液との熱交換を行う(熱交換工程)。
なお、発酵槽52から排出されたエタノール含有溶液の温度の温度は、30〜35℃であるが、後段のエタノール分離回収装置62におけるエタノール分離回収工程では、操作温度が100℃付近であるから、エタノール含有溶液をできるかぎり高い温度にてエタノール分離回収装置62に送り込むことにより、バイオエタノール製造プロセス全体の熱効率を向上させることができる。したがって、この熱交換工程では、第一の流路55を流れる糖類含有溶液の熱により、第二の流路56を流れるエタノール含有溶液の温度を上げた後、このエタノール含有溶液をエタノール分離回収装置62へ送り込む。また、エタノール分離回収装置62から排出される溶液の温度は40〜50℃である。
【0087】
また、糖類含有溶液とエタノールが除去された溶液との熱交換の効率を100%に設定することはできないため、酵素分解槽51から発酵槽52へ送り込まれる糖類含有溶液は、熱交換器57を介しても、発酵操作温度(発酵に適した温度:30〜35℃)より若干高くなっており、一方、エタノール分離回収装置62から酵素分解槽51へ送り込まれるエタノール含有溶液は、酵素分解操作温度(酵素分解に適した温度:50〜60℃)より若干低く(40〜50℃)なっている。
そのため、酵素分解槽51と発酵槽52との間で、糖類含有溶液とエタノールが除去された溶液の循環(熱交換)を開始したら、加熱装置53により酵素分離槽51内の温度を酵素分解操作温度まで加熱し、一方、冷却装置54により発酵槽52内の温度を発酵操作温度まで冷却する。
【0088】
次いで、エタノール分離回収装置62により、発酵工程にて生成したエタノール含有溶液から、エタノールを分離、回収する(エタノール分離回収工程)。
次いで、エタノール分離回収装置62から、エタノールが除去された溶液を排出し、第二の流路56を介して、酵素分解槽51へ送り込む。
【0089】
この実施形態では、発酵槽52にて生成したエタノール含有溶液を、エタノール分離回収装置62に連続的に送り込み、エタノールを回収する工程を繰り返すことにより、酵素分解工程、発酵工程およびエタノール分離回収工程を連続的に行うことが可能となる。
【0090】
次に、バイオエタノール製造装置50を用いて、酵素分解工程、発酵工程およびエタノール分離回収工程を連続的に行う方法を説明する。
この方法では、酵素分解槽51と同様な構成の酵素分解槽を複数設ける。
それぞれの酵素分離槽では、セルロースおよびヘミセルロースの酵素分解反応を行うが、それぞれの酵素分解槽において、酵素分解反応の開始時期をずらすことにより、全ての発酵分解槽が1つの反応系を形成した、擬似的な連続酵素分解反応系を構築する。
【0091】
ここでは、具体例として、酵素分解槽を3基(第一の酵素分解槽、第二の酵素分解槽、第三の酵素分解槽)設けた場合を例示する。
まず、第一の酵素分解槽にて、セルロースおよびヘミセルロースの酵素分解反応を開始する。
この第一の酵素分解槽における酵素分解反応が約1/2進行した時点で、第二の酵素分解槽にて、酵素分解反応を開始する。
次いで、第一の酵素分解槽における酵素分解反応が終了した時点で、第三の酵素分解槽にて、酵素分解反応を開始する。この時点で、第二の酵素分解槽における酵素分解反応が約1/2進行しているものとする。
そして、第一の酵素分解槽を洗浄し、新たに酵素分解反応の準備をする。
次いで、第二の酵素分解槽における酵素分解反応が終了した時点で、再び第一の酵素分解槽にて、酵素分解反応を開始する。この時点で、第三の酵素分解槽における酵素分解反応が約1/2進行しているものとする。
このように、3基の酵素分解槽における酵素分解反応の開始時期をずらし、上記の一連の工程を繰り返すことにより、擬似的な連続酵素分解反応系を構築することができる。
【0092】
この実施形態のバイオエタノール製造装置50を用いたバイオエタノールの製造方法によれば、上述の第一の実施形態の作用効果に加えて、エタノール分離回収装置62により、発酵工程にて生成したエタノール含有溶液から、エタノールを分離、回収するので、生成したエタノールが酵素分解槽51に送り込まれて、酵素分解反応を阻害することを防止できる。したがって、非常に効率的にエタノールを製造することができる上に、従来の同時糖化発酵法では不可能であった、バイオエタノールの連続製造プロセスを実現することができる。
【0093】
(4)第四の実施形態
図4は、本発明のバイオエタノールの製造装置の第四の実施形態を示す概略構成図である。
図4中、符号70はバイオエタノール製造装置、71は酵素分解槽、72は発酵槽、73は加熱装置、74は冷却装置、75は第一の流路、76は第二の流路、77は第一の熱交換器、78は発酵菌分離装置、79は流路、80は酵素分離装置、81は流路、82はエタノール分離回収装置、83は阻害物質除去装置、84は第二の熱交換器をそれぞれ示している。
【0094】
このバイオエタノール製造装置70は、酵素分解槽71と、発酵槽72と、加熱装置73と、冷却装置74と、第一の流路75と、第二の流路76と、第一の熱交換器77と、発酵菌分離装置78と、酵素分離装置80、エタノール分離回収装置82、阻害物質除去装置83、第二の熱交換器84とから概略構成されている。
酵素分解槽71は、セルロース系バイオマスに含まれるセルロースおよびヘミセルロースを酵素分解させるためのものである。また、酵素分解槽71は、槽内のバイオマスおよび酵素を含む混合物を攪拌するための攪拌装置(図示略)を備えている。
酵素分解槽71の外周面には、酵素分解槽71内の温度を所定温度に加熱し、保温することができる加熱装置73が設けられている。
【0095】
発酵槽72は、酵素分解槽71にてセルロースおよびヘミセルロースの酵素分解により生成した糖類を発酵させるためのものである。また、発酵槽72は、槽内の糖類を含有する溶液および発酵菌を含む混合物を攪拌するための攪拌装置(図示略)を備えている。
発酵槽72の外周面には、発酵槽72内の温度を所定温度に冷却し、保温することができる冷却装置74が設けられている。
【0096】
また、酵素分解槽71と発酵槽72は、第一の流路75および第二の流路76、並びに、これらの流路の途中に設けられた第一の熱交換器77および第二の熱交換器84を介して連通している。また、第一の流路75および第二の流路76は、第一の熱交換器77内を貫通し、第二の流路76は、第二の熱交換器84内を貫通している。また、第一の流路75は、酵素分解槽71側から順に、流路75A,75B,75Cから構成されている。同様に、第二の流路76は、発酵槽72側から順に、流路76A,76B,76C,76D,76E,76F,76Gから構成されている。
【0097】
また、酵素分解槽71にてセルロースおよびヘミセルロースの酵素分解により生成した糖類含有溶液は、流路75の途中に設けられた送液ポンプ(図示略)により、流路75A、75B、第一の熱交換器77、流路75Cを順に流れて、発酵槽72へ送り込まれるようになっている。
一方、発酵槽72にて生成したエタノール含有溶液は、流路76の途中に設けられた送液ポンプ(図示略)により、流路76A、76B、第二の熱交換器77、流路76C、76D、第二の熱交換器84、流路76E、流路76F、第二の熱交換器84、流路76Gを順に流れて、酵素分解槽71へ送り込まれるようになっている。
【0098】
そして、第一の熱交換器77にて、第一の流路75を流れる糖類含有溶液と、第二の流路76を流れるエタノール含有溶液との間で、熱交換が行われるようになっている。
また、第二の熱交換器84にて、第二の流路76を流れるエタノール含有溶液同士で、熱交換が行われるようになっている。
【0099】
第一の流路75の途中には、酵素分解槽71にて生成した糖類含有溶液から酵素を分離し、かつ、この酵素を、流路81を介して酵素分解槽71に戻す酵素分離装置80が設けられている。
一方、第二の流路76の途中には、発酵槽72にて生成したエタノール含有溶液から発酵菌を分離し、かつ、この発酵菌を、流路79を介して発酵槽72に戻す発酵菌分離装置78が設けられている。また、第二の流路76の途中、かつ、発酵菌分離装置78および第一の熱交換器77の後段に、発酵槽72にて生成したエタノール含有溶液からエタノールを分離するエタノール分離回収装置82が設けられている。さらに、第二の流路76の途中、かつ、エタノール分離回収装置82および第二の熱交換器84の後段に、エタノール分離回収装置82から排出された溶液からセルロースおよびヘミセルロースの酵素分解を阻害する物質を除去する阻害物質除去装置83が設けられている。
【0100】
エタノール分離回収装置82としては、蒸留装置、蒸留装置と吸着材を組み合わせた装置、蒸留装置と膜分離装置を組み合わせた装置などが用いられる。
阻害物質除去装置83としては、活性汚泥処理、メタン発酵処理、吸着処理などが用いられる。
【0101】
次に、このバイオエタノール製造装置70の作用を説明するとともに、この実施形態のバイオエタノールの製造方法を説明する。
まず、セルロース系バイオマスに含まれるリグニンを破壊処理するとともに、このバイオマスに含まれるセルロースおよびヘミセルロースの構造分解処理する(前処理工程)。
このバイオマスの前処理工程では、希硫酸分解、水蒸気爆砕、アンモニア爆砕、熱水・超臨界水を用いる方法、微生物分解、微粉砕、化学薬品処理などの公知の方法が用いられる。
【0102】
次いで、酵素分解槽71に、前処理工程にて前処理を施したバイオマスと、このバイオマスの分解に適量の酵素と、適量の水を入れる。
【0103】
次いで、攪拌装置によりバイオマス、酵素および水の混合物を攪拌しながら、この混合物を50〜60℃に保持することにより、前処理工程にて構造分解処理を施したセルロースおよびヘミセルロースを酵素分解させて、グルコース、マンノース、キシロースなどの糖類を生成する(酵素分解工程)。
この酵素分解工程では、セルロースおよびヘミセルロースの酵素分解を、例えば、50〜60℃にて24時間〜72時間程度行う。
なお、バイオエタノールの製造開始時には、糖類の発酵が未だ行われていないので、酵素分解槽71内の温度を適温に加熱するために、エタノール分離回収装置62から排出された溶液の熱、および、第二の熱交換器84における第二の流路76を流れるエタノール含有溶液同士の熱交換による熱が利用されることがない。
したがって、バイオエタノールの製造開始時には、酵素分解槽71内の温度を適温に加熱するために、加熱装置73のみが用いられる。
【0104】
次いで、ある程度、酵素分解反応が進行した時点で、第一の流路75および酵素分離装置80を介して、酵素分解工程にて生成した糖類含有溶液を発酵槽72へ送り込む。
酵素分離装置80では、糖類含有溶液に含まれる酵素が分離され、分離された酵素は発酵槽72には送り込まれずに、流路81を介して酵素分解槽71へ戻される(酵素分離工程)。これにより、酵素分解槽71中の酵素の濃度をほぼ一定に保つことができるので、酵素分解反応を安定に継続することができる上に、高価な酵素を無駄にすることなく繰り返し利用できる。
【0105】
また、セルロースおよびヘミセルロースの酵素分解が進行し、糖類含有溶液が発酵槽72へ送り込まれると、酵素分解槽71の液量が減少する。そこで、酵素分解槽71に、新たに適量の水を加えて、酵素分解を継続する。
ところで、上述のように、セルロースとヘミセルロースを酵素分解する際、分解生成物のグルコースが酵素分解の反応阻害物質となるため、酵素分解が進行し、酵素分解槽71中のグルコースの濃度が高くなるにしたがって、酵素分解が進行しなくなる。そこで、生成した糖類含有溶液を発酵槽72へ送り込むとともに、酵素分解槽71に、新たに水を加えると、酵素分解槽71中のグルコースの濃度が低下するので、酵素分解反応が再び進行する。
【0106】
次いで、上述の酵素分解槽71における酵素分解反応、酵素分解反応により生成した糖類含有溶液の発酵槽72への送出、および、酵素分解槽71への水の追加を適当回数繰り返し、発酵槽72が糖類含有溶液で満たされた時点で、発酵槽72に発酵菌を投入し、攪拌装置により糖類含有溶液および発酵菌の混合物を攪拌しながら、30〜35℃に保持することにより、酵素分解工程にて生成した糖類を発酵する(発酵工程)。
なお、糖類の発酵開始時には、エタノールが十分に生成していないため、第一の熱交換器77における糖類含有溶液と、エタノール含有溶液との間の熱交換が行われていない。したがって、糖類の発酵開始時には、発酵槽72内の温度を適温に冷却するために、冷却装置74のみが用いられる。
【0107】
次いで、ある程度、エタノール発酵が進行した時点で、第二の流路76および発酵菌分離装置78を介して、発酵工程にて生成したエタノール含有溶液をエタノール分離回収装置82へ送り込む。
また、発酵工程にて生成したエタノール含有溶液は、第二の流路76および発酵菌分離装置78を介して、エタノール分離回収装置82へ送り込まれているため、発酵菌分離装置78では、エタノール含有溶液に含まれる発酵菌が分離され、分離された発酵菌はエタノール分離回収装置82には送り込まれずに、流路79を介して発酵槽72へ戻される(発酵菌分離工程)。これにより、発酵槽72中の発酵菌の濃度をほぼ一定に保つことができるので、エタノール発酵を安定に継続することができる。
【0108】
次いで、第一の熱交換器77および第二の熱交換器84を介して、酵素分解槽71と発酵槽72との間で、酵素分解工程にて生成した糖類含有溶液と、エタノール分離回収工程にて排出されたエタノールが除去された溶液とを循環させる。これによって、第一の熱交換器77により、第一の流路75を流れる糖類含有溶液と、第二の流路76を流れるエタノール含有溶液との熱交換を行うとともに、第二の熱交換器84により、第二の流路76を流れるエタノール含有溶液同士の熱交換を行う(熱交換工程)。
なお、発酵槽72から排出されたエタノール含有溶液の温度の温度は、30〜35℃であるが、後段のエタノール分離回収装置82におけるエタノール分離回収工程では、操作温度が100℃付近であるから、エタノール含有溶液をできるかぎり高い温度にてエタノール分離回収装置82に送り込むことにより、バイオエタノール製造プロセス全体の熱効率を向上させることができる。したがって、第一の熱交換器77における熱交換工程では、第一の流路75を流れる糖類含有溶液の熱により、第二の流路76を流れるエタノール含有溶液の温度を上げた後、このエタノール含有溶液をエタノール分離回収装置82へ送り込む。また、エタノール分離回収装置82から排出される溶液の温度は40〜50℃であるが、後段の阻害物質除去装置83における阻害物質除去工程では、操作温度が30℃付近であるから、エタノール分離回収装置82から排出された溶液を冷却する必要がある。したがって、第二の熱交換器84における熱交換工程では、阻害物質除去装置83から排出された溶液により、阻害物質除去装置83に送り込まれる直前の溶液を冷却した後、この溶液を阻害物質除去装置83へ送り込む。
【0109】
また、糖類含有溶液とエタノールが除去された溶液との熱交換の効率を100%に設定することはできないため、酵素分解槽71から発酵槽72へ送り込まれる糖類含有溶液は、第一の熱交換器77を介しても、発酵操作温度(発酵に適した温度:30〜35℃)より若干高くなっており、一方、エタノール分離回収装置62から酵素分解槽51へ送り込まれるエタノール含有溶液は、第二の熱交換器84を介しても、酵素分解操作温度(酵素分解に適した温度:50〜60℃)より若干低くなっている。
そのため、酵素分解槽71と発酵槽72との間で、糖類含有溶液とエタノールが除去された溶液の循環(熱交換)を開始したら、加熱装置73により酵素分離槽71内の温度を酵素分解操作温度まで加熱し、一方、冷却装置74により発酵槽72内の温度を発酵操作温度まで冷却する。
【0110】
次いで、エタノール分離回収装置82により、発酵工程にて生成したエタノール含有溶液から、エタノールを分離、回収し(エタノール分離回収工程)、エタノールが除去された溶液を排出して、阻害物質除去装置83へ送り込む。
なお、発酵工程にて生成したエタノールも、グルコースと比較すると影響が小さいものの、酵素分解反応の阻害物質となる。そこで、エタノール分離回収装置82により、発酵工程にて生成したエタノールを反応系から順次除去することが好ましい。
【0111】
次いで、阻害物質除去装置83により、エタノール分離回収工程にて排出された溶液からセルロースおよびヘミセルロースの酵素分解を阻害する物質を除去する(阻害物質除去工程)。
なお、発酵槽72にてエタノールを生成するにともなって、若干量のギ酸、酢酸などの有機酸やその他の有機物が生成する。バイオエタノール製造装置70を長時間に渡って連続操作する場合、この有機酸が反応系内に蓄積され、酵素分解や発酵を阻害する可能性がある。そこで、必要に応じて、阻害物質除去装置83により、エタノールが除去された溶液から有機酸などを除去することが好ましい。
【0112】
この実施形態では、発酵槽72にて生成したエタノール含有溶液を、エタノール分離回収装置82に連続的に送り込み、エタノールを回収するとともに、エタノール分離回収装置82から排出されたエタノールが除去された溶液を阻害物質除去装置83に連続的に送り込み、有機酸などを除去して、有機酸などが除去された溶液を酵素分解槽71に送り込むという一連の工程を繰り返すことにより、酵素分解工程、発酵工程およびエタノール分離回収工程を連続的に行うことが可能となる。
【0113】
次に、バイオエタノール製造装置70を用いて、酵素分解工程、発酵工程およびエタノール分離回収工程を連続的に行う方法を説明する。
この方法では、酵素分解槽71と同様な構成の酵素分解槽を複数設ける。
それぞれの酵素分離槽では、セルロースおよびヘミセルロースの酵素分解反応を行うが、それぞれの酵素分解槽において、酵素分解反応の開始時期をずらすことにより、全ての発酵分解槽が1つの反応系を形成した、擬似的な連続酵素分解反応系を構築する。
【0114】
ここでは、具体例として、酵素分解槽を3基(第一の酵素分解槽、第二の酵素分解槽、第三の酵素分解槽)設けた場合を例示する。
まず、第一の酵素分解槽にて、セルロースおよびヘミセルロースの酵素分解反応を開始する。
この第一の酵素分解槽における酵素分解反応が約1/2進行した時点で、第二の酵素分解槽にて、酵素分解反応を開始する。
次いで、第一の酵素分解槽における酵素分解反応が終了した時点で、第三の酵素分解槽にて、酵素分解反応を開始する。この時点で、第二の酵素分解槽における酵素分解反応が約1/2進行しているものとする。
そして、第一の酵素分解槽を洗浄し、新たに酵素分解反応の準備をする。
次いで、第二の酵素分解槽における酵素分解反応が終了した時点で、再び第一の酵素分解槽にて、酵素分解反応を開始する。この時点で、第三の酵素分解槽における酵素分解反応が約1/2進行しているものとする。
このように、3基の酵素分解槽における酵素分解反応の開始時期をずらし、上記の一連の工程を繰り返すことにより、擬似的な連続酵素分解反応系を構築することができる。
【0115】
この実施形態のバイオエタノール製造装置70を用いたバイオエタノールの製造方法によれば、上述の第一の実施形態の作用効果に加えて、エタノール分離回収装置82により、発酵工程にて生成したエタノール含有溶液から、エタノールを分離、回収するので、生成したエタノールが酵素分解槽71に送り込まれて、酵素分解反応を阻害することを防止できる。また、阻害物質除去装置83により、エタノール分離回収工程にて排出された溶液に含まれる有機酸を除去するので、この有機酸が酵素分解や発酵を阻害することを防止できる。したがって、非常に効率的にエタノールを製造することができる上に、従来の同時糖化発酵法では不可能であった、バイオエタノールの連続製造プロセスを実現することができる。
【0116】
また、上述の第一、第二、第三および第四の実施形態では、複数の発酵槽を直列に設けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】本発明のバイオエタノールの製造装置の第一の実施形態を示す概略構成図である。
【図2】本発明のバイオエタノールの製造装置の第二の実施形態を示す概略構成図である。
【図3】本発明のバイオエタノールの製造装置の第三の実施形態を示す概略構成図である。
【図4】本発明のバイオエタノールの製造装置の第四の実施形態を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0118】
10,30,50,70・・・バイオエタノール製造装置、11,31,51,71・・・酵素分解槽、12,32,52,72・・・発酵槽、13,33,53,73・・・加熱装置、14,34,54,74・・・冷却装置、15,35,55,75・・・第一の流路、16,36,56,76・・・第二の流路、17,37,57・・・熱交換器、18,38,58,78・・・発酵菌分離装置、19,39,59,79・・・流路、20,40,60,80・・・酵素分離装置、21,41,61,81・・・流路、42,62,82・・・エタノール分離回収装置、43,83・・・阻害物質除去装置、77・・・第一の熱交換器、84・・・第二の熱交換器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマスに含まれるセルロースおよびヘミセルロースを酵素分解させるための酵素分解槽と、前記セルロースおよびヘミセルロースの酵素分解により生成した糖類を発酵させるための発酵槽と、前記酵素分解槽を加熱する加熱装置と、前記発酵槽を冷却する冷却装置と、を備えたバイオエタノールの製造装置であって、
前記酵素分解槽と前記発酵槽は、第一の流路および第二の流路、並びに、該第一の流路および第二の流路の途中に設けられた熱交換器を介して連通し、
前記第二の流路の途中に、前記発酵槽にて生成したエタノールを含む溶液から発酵菌を分離し、かつ、該発酵菌を前記発酵槽に戻す発酵菌分離装置が設けられたことを特徴とするバイオエタノールの製造装置。
【請求項2】
前記第一の流路の途中に、前記酵素分解槽にて生成した糖類を含む溶液から酵素を分離し、かつ、該酵素を前記酵素分解槽に戻す酵素分離装置が設けられたことを特徴とする請求項1に記載のバイオエタノールの製造装置。
【請求項3】
前記第二の流路の途中、かつ、前記発酵菌分離装置の後段に、前記発酵槽にて生成したエタノールを含む溶液からエタノールを分離するエタノール分離回収装置が設けられたことを特徴とする請求項1または2に記載のバイオエタノールの製造装置。
【請求項4】
前記第二の流路の途中、かつ、前記エタノール分離回収装置の後段に、前記エタノール分離回収装置から排出された溶液からセルロースおよびヘミセルロースの酵素分解を阻害する物質を除去する阻害物質除去装置が設けられたことを特徴とする請求項3に記載のバイオエタノールの製造装置。
【請求項5】
バイオマスに含まれるセルロースおよびヘミセルロースを酵素分解し、次いで、前記セルロースおよびヘミセルロースの酵素分解により生成した糖類を発酵させることによりエタノールを生成するバイオエタノールの製造方法であって、
バイオマスに含まれるリグニンを破壊処理するとともに、当該バイオマスに含まれるセルロースおよびヘミセルロースの構造分解処理する前処理工程と、
前記前処理工程にて構造分解処理を施したセルロースおよびヘミセルロースを酵素分解させる酵素分解工程と、
前記酵素分解工程にて生成した糖類を発酵させる発酵工程と、
前記酵素分解工程にて生成した糖類を含む溶液と、前記発酵工程にて生成したエタノールを含む溶液との熱交換を行う熱交換工程と、
前記発酵工程にて生成したエタノールを含む溶液から発酵菌を分離する発酵菌分離工程と、を有することを特徴とするバイオエタノールの製造方法。
【請求項6】
前記酵素分解工程にて生成した糖類を含む溶液から酵素を分離する酵素分離工程を有することを特徴とする請求項5に記載のバイオエタノールの製造方法。
【請求項7】
前記発酵工程にて生成したエタノールを含む溶液からエタノールを分離するエタノール分離回収工程を有することを特徴とする請求項5または6に記載のバイオエタノールの製造方法。
【請求項8】
前記エタノール分離回収工程にて排出された溶液からセルロースおよびヘミセルロースの酵素分解を阻害する物質を除去する阻害物質除去工程を有することを特徴とする請求項7に記載のバイオエタノールの製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−100713(P2009−100713A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−277920(P2007−277920)
【出願日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【出願人】(000004411)日揮株式会社 (94)
【Fターム(参考)】