説明

バイオポリマー光導波路およびその製造方法

バイオポリマー光導波路の製造方法は、バイオポリマーを提供する工程、バイオポリマーを連続的にほぐして個々のバイオポリマー繊維を抽出する工程、およびほぐした繊維を張力下に置く工程を含む。次いで、張力をかけた繊維を別のポリマーの中にキャストして、バイオポリマー光導波路を形成する。このバイオポリマー光導波路は、バイオポリマーと別のポリマーとの間の屈折率の差によって光を誘導する。この光ファイバーは、生物医学的用途において使用してもよく、かつ伝送性媒体として体内に挿入することが可能である。このバイオポリマー光導波路を製造するために、印刷技術を使用してもよい。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、米国仮特許出願第60/856,297号明細書(出願日:2006年11月3日、発明の名称:「Biopolymer Devices and Methods for Manufacturing the Same」)の優先権の恩典を主張する。
【0002】
政府支援
本発明は、the Air Force Office of Scientific Researchにより交付番号FA95500410363号として与えられた政府支援のもとになされた。本発明に関して政府は一定の権利を保有している。
【0003】
発明の分野
本発明は、バイオポリマー光導波路およびそのようなデバイスを製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0004】
関連技術の説明
光学の分野は、十分に確立されている。光学のいくつかのサブフィールドとしては、回折光学、微小光学、フォトニクス、および導波光学などが挙げられる。研究用途および商業用途のための光学のこれらおよびその他のサブフィールドにおいて、各種の光学デバイスが作製されてきた。例えば、一般的な光学デバイスとしては、回折格子、フォトニック結晶、光流体デバイス、導波路などが挙げられる。
【0005】
光導波路は、光学スペクトル中の電磁波を誘導する物理的構造物である。光導波路の一般的なタイプとしては、光ファイバーおよび方形導波路が挙げられる。光導波路は多くの場合、集積光回路中の構成要素として、または光通信システムにおける伝送(transmission)媒体として使用されている。光導波路は、それらの形状によって、例えば、面状、帯状、ファイバー導波路などに分類することができる。それらはさらに、それらのモード構造によって、例えば、シングルモードまたはマルチモードに分類することもできる。同様にして、光導波路は、屈折率分布によって、例えば、ステップインデックスまたはグラジエントインデックスに分類することもできる。さらには、光導波路は、その材料組成によって、例えばガラス、半導体、またはポリマーに分類することもできる。
【0006】
これらの光学デバイスは、その用途およびその所望される光学的な特性に合わせて、各種の方法を用いて作製される。しかしながら、これらの光学デバイス、およびそれらを製造する際に採用される作製方法には、一般的に、非生分解性材料の顕著な使用が含まれる。例えば、光学デバイスにおいては、ガラス、溶融シリカ、およびプラスチックが一般的に使用される。そのような材料は生分解性でなく、その光学デバイスが使用されなくなって廃棄された後でも、長期間にわたって環境の中に留まる。言うまでもないことであるが、それらの材料のいくつかは、リサイクルおよび再使用することが可能である。しかしながら、リサイクルにおいても、さらなる天然資源を消費することが必要であり、そのような材料に伴う環境コストが増大する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、環境に対するマイナスの影響を最小限とするような光導波路に対する必要性が、充足されないまま残っている。それに加えて、従来からの光導波路によっては得られなかった、さらなる機能的特徴を与える光導波路に対する必要性が、充足されないまま残っている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述のことを考慮に入れて、本発明の目的は、各種の用途において使用することが可能な、新規なバイオポリマー光導波路およびそのような光導波路を製造するための方法を提供することである。
【0009】
本発明の一つの態様は、バイオポリマー導波路デバイスを提供することである。
【0010】
本発明のまた別の態様は、そのようなバイオポリマー導波路デバイスを製造するための方法を提供することである。
【0011】
本発明の一つの利点は、環境に対するマイナスの影響を最小限とするバイオポリマー導波路デバイスを提供する点にある。
【0012】
本発明のまた別の利点は、生体適合性があるバイオポリマー導波路デバイスを提供する点にある。
【0013】
本発明のさらにまた別の利点は、従来からの光導波路によっては得られなかった、さらなる機能的特徴を有するバイオポリマー導波路デバイスを提供する点にある。
【0014】
上記のことに関して、本発明の発明者らは、バイオポリマー、特に絹タンパク質が、新規な構造およびその結果としての機能を与えることを認識するに至った。例えば、材料科学の観点からは、クモおよびカイコによって紡ぎ出される絹は、これまで知られている内では最も強く、最も強靱な天然繊維を代表するものであって、機能化、加工、および生体適合性において各種の機会を提供する。5000年を超える歴史の中で、絹は需要のある織物から、科学的に魅力のある繊維へと移行していった。その特徴によって昔の人々を魅了したのと同様に、絹は、その強度、弾性、および生化学的な性質のために、今日この時代においても大いに注目を集めている。自己集合および集合における水の役割についての知見によって、絹の新規な材料特性が拡張した。それらの知見から、ヒドロゲル、超薄膜、厚膜、コンフォーマルコーティング(conformal coating)、三次元多孔質マトリックス、固形ブロック、ナノスケール直径の繊維、および大きな直径の繊維を製造するための新規な加工方法が得られるようになった。
【0015】
絹ベースの材料は、熱力学的に安定なタンパク質二次構造、別な呼び方ではベータシート(βシート)の天然の物理的架橋を用いて、それらの印象的な機械的性質を達成している。ナノスケールで配列された結晶(βシート)の数が多いことが、高度に水素結合され、結晶ドメインが少ないことと相まって、特有の構造および機能的特徴を与えている。材料を安定化させるための、外部からの架橋反応や後加工による架橋は全く必要としない。絹タンパク質鎖の上に多様なアミノ酸側鎖化学基が存在していることによって、絹を官能化させるための、例えばサイトカイン、モルフォゲン、および細胞結合ドメインなどとの結合化学反応が容易となる。機械的側面、水系加工、機能化の容易さ、多様な加工モード、自己形成架橋、生体適合性、および生分解性を考慮に入れると、この範囲の材料特性および生物学的な界面(biological interface)を提供するような、合成ポリマー系または生物学的に誘導されたポリマー系は、これまで知られていない。
【0016】
他のバイオポリマーまたは合成ポリマーでは、上述のような絹の特徴の範囲に合わせることは不可能ではあるものの、本発明の発明者らは、絹と同様の、または類似した各種の性質を示すいくつかの他のポリマーを同定した。具体的には、キトサン、コラーゲン、ゼラチン、アガロース、キチン、ポリヒドロキシアルカノエート、プラン(pullan)、デンプン(アミロース アミロペクチン)、セルロース、ヒアルロン酸、および関連するバイオポリマー、またはそれらの組み合わせを含む、他の天然バイオポリマーが同定された。バイオポリマー、特に絹の上述の特徴を考慮に入れて、本発明は、各種の新規なバイオポリマー光導波路およびそのようなデバイスを製造するための方法を提供する。
【0017】
本発明の一つの態様においては、バイオポリマー光導波路の一つの製造方法には、バイオポリマーを提供する工程、およびそのバイオポリマーを第二のポリマーの中にキャストしてバイオポリマー光導波路を形成させる工程が含まれる。その第二のポリマーは、そのバイオポリマーの周囲を被覆するポリマーオーバーコートを形成する。そのバイオポリマーと第二のポリマーが異なった屈折率を有しているために、バイオポリマーを使用して、光を第二のポリマーを通して誘導することができる。
【0018】
一つの実施態様においては、そのバイオポリマーは絹であってよく、絹繊維は、絹をほぐして、個々のバイオポリマー繊維を抽出することによって得てもよい。次いでそのほぐした絹繊維を、テンションデバイスまたはくせ取りデバイス中で、張力下に置いてもよい。次いでその絹繊維を、第二のポリマー、例えばポリジメチルシロキサン(PDMS)またはその他の好適なポリマーの中にキャストすればよい。絹繊維の屈折率(n=1.55)は、PDMS(n=1.46)よりも高いために、その組み合わせは、絹がPDMSを通して光を伝送するので、導波路として機能する。言うまでもないことであるが、他のバイオポリマー、例えば、キトサン、コラーゲン、ゼラチン、アガロース、キチン、ポリヒドロキシアルカノエート、プラン、デンプン(アミロース アミロペクチン)、セルロース、ヒアルロン酸、および関連するバイオポリマー、またはそれらの組み合わせを使用してもよいが、但し、その(第二の)ポリマーオーバーコートが、選択されたバイオポリマーよりも低い屈折率を有していなければならない。このようにすれば、その(第二の)ポリマーオーバーコートが、光導波路のバイオポリマーコアに対するクラッド材料として機能すると考えられる。
【0019】
また別の実施態様においては、低強度レーザーアブレーションまたはその他のスムージング技術を使用して、生糸繊維または押出し加工した繊維を前処理またはその他の処理をすることにより、表面粗さを除去してもよい。同様にして、繊維の表面をアブレーション加工して、絹の中に光をカップリングさせるために適した光学表面を与えてもよい。
【0020】
本発明の方法によって各種の形状の導波路を形成させることが可能であるが、それには、円形の断面積を有する同心の導波路が含まれる。同様にして、第二のポリマーをスラブ導波路のガイド層として堆積させ、バイオポリマーをそのスラブの層の間にキャストすれば、方形導波路を形成させることができる。本発明に従って製造された方形のバイオポリマー光導波路は、集積光回路中や、光学デバイスのホストとして使用してもよい。本発明に従って製造された方形バイオポリマー光導波路はさらに、干渉計および波長分割マルチプレクサーの基本構造として使用してもよい。
【0021】
本発明のまた別の実施態様においては、方形の形状を有するバイオポリマー光導波路を、平面印刷技術によって製造してもよい。この実施態様においては、バイオポリマー光導波路の製造方法には、基材を提供する工程、その基材の上に第一のバイオポリマーを印刷する工程、およびその第一のバイオポリマーの上に第二の材料を堆積させてバイオポリマー光導波路を形成させる工程が含まれるが、ここでその第二の材料は第一のバイオポリマーよりも低い屈折率を有している。一つの実施態様においては、その第一のバイオポリマーは絹であってよく、それに対して本発明の他の実施態様においては、タンパク質は基材の上に印刷されてもよい。
【0022】
絹およびその他の生体適合性バイオポリマー光導波路を用いることによって、各種の生物医学的用途が可能となる。例えば、生体適合性有機光ファイバーは、診断用光送達および治療のためにインビボで使用してもよい。バイオポリマー光導波路は、麻痺したり損傷を受けたりしているニューロンのための、光を使用可能とする(light enabled)神経系置換繊維として使用してもよい。本発明の光導波路は、光放射のための伝送媒体として体内に挿入してもよいし、また、絹光ファイバーのメッシュは、センサーアレイから、または体内の別の位置からの情報を中継することができる。
【0023】
同様にして、材料成分として包埋された絹繊維は、材料の表面が良好な状態であるように見える場合でさえも、その材料の損傷、疲労または破損についての、非破壊的指標として役立たせることができる。本発明の方法によって、絹繊維に機能を与えて、誘導された光と有機光ファイバーとの間の好ましい相互作用を可能とすることができる。
【0024】
それに加えて、本発明のバイオポリマー光導波路は、さらなる用途において使用してもよい。例えば、それらのバイオポリマー光導波路は、センサーとして、プロテオ光流体デバイス(proteo−optofluidic device)として、およびそれらのデバイスのサブクラス、例えばタンパク質およびウイルス検出器、フローサイトメーター、フローモニター、アブソーバー、特化チャネル、細胞篩などとして使用してもよい。
【0025】
本発明のこれらおよびその他の利点および特徴は、添付の図面と併せて参照すれば、以下の本発明の好ましい実施態様の詳細な説明から、より明らかになると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一つの実施態様による方法を示す概略フロー図である。
【図2】本発明の一つの実施態様に従って製造したバイオポリマー光導波路の概略図である。
【図3A】本発明によるバイオポリマー光導波路の概略図である。
【図3B】本発明によるバイオポリマー光導波路の写真である。
【図4】本発明のまた別の実施態様に従って製造したバイオポリマー光導波路の概略図である。
【図5】本発明の一つの実施態様による方法を示す概略フロー図である。
【図6】印刷されたタンパク質を使用して導波路のチャネルを形成させる本発明の一つの実施態様に従って製造した、バイオポリマー光導波路の概略図である。
【図7】8%絹濃度の体積と膜厚との間の関係を示すグラフである。
【図8A】絹から作製したバイオポリマー膜の写真である。
【図8B】図8Aのバイオポリマー膜の反射率のプリズム結合角度依存性を示すグラフである。
【図8C】図8Aのバイオポリマー膜の光の透過率(transmission)の測定値を示すグラフである。
【図9】RBCをドープした絹光学デバイスの内部におけるヘモグロビン機能の保持性を示す結果のグラフである。
【図10】絹、キトサン、およびコラーゲンの中にキャストされた回折性バイオポリマーデバイスを示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
発明の詳細な説明
以下において詳しく説明するように、本発明によるバイオポリマー光導波路デバイスは、絹のようなバイオポリマーを使用して作製した。これに関しては、使用された絹はカイコ絹であった。しかしながら、各種の絹、例えばクモの糸、トランスジェニック絹、および遺伝子改変された絹、それらの変種および組み合わせなどが存在し、それらを、バイオポリマー光導波路を得るために、本発明における代用品として使用してもよい。
【0028】
さらに、絹に代えて、その他の生分解性ポリマーを使用してもよい。例えば、さらなるバイオポリマー、例えばキトサンは、所望の機械的性質を示し、水中で加工することが可能であり、一般的には光学的用途のための清澄な膜を形成する。その他のバイオポリマー、例えばキトサン、コラーゲン、ゼラチン、アガロース、キチン、ポリヒドロキシアルカノエート、プラン、デンプン(アミロース アミロペクチン)、セルロース、ヒアルロン酸、および関連するバイオポリマー、またはそれらの組み合わせを、特定の用途および組み合わせにおいては代わりに使用してもよいし、合成生分解性ポリマー、例えばポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリヒドロキシアルカノエート、および関連するコポリマーを選択的に使用してもよい。それらのポリマーのいくつかは、水中ではそれほど容易には加工されない。それにも関わらず、そのようなポリマーは、それ自体で、他のポリマーとの組み合わせで、または絹との組み合わせで使用してもよく、特にバイオポリマー光学デバイスにおいて使用してよい。
【0029】
図1は、本発明の一つの実施態様による、バイオポリマー光導波路の製造方法を示すフロー図10の概略図である。ステップ11においてバイオポリマーマトリックス溶液が提供されているならば、プロセスは下のステップ16に進む。そうでない場合には、ステップ12においてバイオポリマーを提供する。そのバイオポリマーが絹である例では、カイコ(Bombyx mori)の繭からセリシンを抽出することによってバイオポリマーを提供してもよい。ステップ14において、そのバイオポリマーを加工して、バイオポリマーマトリックス溶液を得る。
【0030】
ステップ16においては、バイオポリマーマトリックス溶液を加工して、バイオポリマー絹繊維、生糸繊維、または押出し加工した繊維を得る。絹の例においては、ステップ16において絹フィブロイン水溶液を例えば8.0重量%に処理してから、それを用いてバイオポリマー光導波路を製造する。言うまでもないことであるが、他の実施態様においては、その溶液濃度を、例えば浸透ストレス技術また乾燥技術により希釈するかまたは濃縮することによって、極めて希薄な濃度(およそ1重量%)から極めて高い濃度(最高30重量%まで)まで変化させてもよい。この点に関しては、他の実施態様においては、用途に合わせて、得られるバイオポリマー光導波路の可撓性または強度を最適化させるために、各種の重量パーセントの溶液を使用してもよい。絹フィブロイン水溶液の製造については、国際公開公報第2005/012606号(発明の名称:Concentrated Aqueous Silk Fibroin Solution and Uses Thereof)に詳しい記載がある。
【0031】
バイオポリマー絹繊維が提供されたら、任意のステップ18において、その絹繊維を連続的にほぐして、個々の絹繊維を抽出してもよい。任意のステップ20において、そのほぐしたバイオポリマー(絹)繊維を、テンションデバイスまたはくせ取りデバイス、例えば型枠要素、ターンバックル、クランプセットなどを用いて、張力下に置く。
【0032】
繊維はさらに、以下の特許に開示されているようにして合成的に形成させることもできる:国際公開公報第04000915号A2(発明の名称:Silk Biomaterials and Methods of Use Thereof)、国際公開公報第9315244号A1(発明の名称:Fiber−Spinnable Solutions of Silkworm Fibroin);および/または米国特許第5,252,285号(発明の名称:Process For Making Silk Fibroin Fibers)(全て参照により本明細書に組み入れられる)。
【0033】
任意のステップ22において、絹バイオポリマー生糸繊維または押出し加工した繊維を処理して、表面粗さを除去する。この任意のスムージング処理は、低強度レーザーアブレーション技術を使用するか、または表面粗さをさらに低下させるかまたは除去するためのその他のスムージング技術を使用して実施してもよい。さらに、絹バイオポリマーの未加工のまたは押出し加工した繊維の面をアブレーション加工して、絹コアの中に光をカップリングさせるための改良された光学表面を与えてもよい。
【0034】
ステップ24においては、繊維を、ポリマーオーバーコートとして機能してバイオポリマー光導波路を形成する第二のポリマー、例えばポリジメチルシロキサン(PDMS)などの中にキャストする。言うまでもないことであるが、それを用いてバイオポリマー繊維コアのオーバーコートを形成するための他の材料を使用してもよい。ステップ26においては、そのキャスト繊維およびポリマーオーバーコートを乾燥させると、バイオポリマー光導波路の製造方法は完了する。
【0035】
図2に概略的に示したように、第二の材料202が、そのバイオポリマーの周囲を被覆するポリマーオーバーコートを形成する。バイオポリマー絹繊維の屈折率(n=1.55)の方が、PDMSオーバーコートクラッディング(n=1.46)よりも高いために、その組み合わせが導波路200として機能し、絹バイオポリマー繊維がコア204として働いて、光波(矢印298、299で示す)を第二の材料202を通して伝送する。言うまでもないことであるが、他のバイオポリマー、例えば、キトサン、コラーゲン、ゼラチン、アガロース、キチン、ポリヒドロキシアルカノエート、プラン、デンプン(アミロース アミロペクチン)、セルロース、ヒアルロン酸、および関連するバイオポリマー、またはそれらの組み合わせをコア204として使用してもよいが、但し、その第二の材料(オーバーコート)202が、選択されたバイオポリマーよりも低い屈折率を有していなければならない。このようにして、第二の材料202、例えばPDMSポリマーオーバーコートが、光導波路200のバイオポリマーコア204に対するクラッド材料202として機能すると考えられる。
【0036】
図2では、本発明のバイオポリマー光導波路200の中を光波298、299がどのようにして誘導されるかを説明している。バイオポリマー繊維のコア204の受光錐(acceptance cone)250の範囲内に入る、入射光線299を、導波路200を通して伝送させるが、一方では、バイオポリマー繊維のコア204の受光錐250の範囲外となる入射光線298は、第二の材料のクラッディング202の中で失われる。
【0037】
図2に見られるように、本発明のバイオポリマー光導波路200は、円形の断面を有する細長い形状に製造することができ、この場合、バイオポリマーコア204と、第二の材料のオーバーコートクラッディング202、例えばPDMSとが、長手方向の軸xに沿って同心のバイオポリマー導波路200を形成している。
【0038】
本発明の一つの実施態様による絹から作製したバイオポリマー光導波路300の概略図を図3Aに、写真を図3Bに示す。先に述べたように、絹繊維304は、ポリマーオーバーコート材料302の中に包埋されている。絹繊維304とそれを取り囲むポリマーオーバーコート材料302(図3Bに示す例おいてはPDMSである)との間の屈折率が異なっているために、絹繊維304の屈折率によって導波路300を実現させることが可能となっている。
【0039】
言うまでもないことであるが、本発明のバイオポリマー光導波路は、さらなる形状であっても同様に製造することができる。例えば、図4に示したように、バイオポリマー光導波路に第一のバイオポリマー404とポリマーオーバーコート402とを含み、それらが平面の軸(Z軸)に沿って方形のスラブ導波路400を形成するようにしてもよい。
【0040】
本発明の方法によって各種の形状の導波路を形成させることが可能であるが、それには、図2に示したような円形の断面積を有する同心の導波路が含まれる。同様にして、図4に見られるような方形導波路を形成させてもよいが、この場合、第二のポリマー402をスラブ導波路400のガイド層として堆積させ、バイオポリマー404をそのスラブの層の間にキャストする。本発明に従って製造された方形のバイオポリマー光導波路は、集積光回路中や、光学デバイスのホストとして使用してもよい。本発明に従って製造された方形バイオポリマー光導波路はさらに、干渉計および波長分割マルチプレクサーの基本構造として使用してもよい。
【0041】
方形導波路の物理的パラメーターは、電気的な動作特性を決めるのに役立つ。図4における幅の広い壁aの寸法が、動作の周波数範囲に影響するが、それに対して、狭い壁bの寸法は、その導波路の破壊電圧と、同様にしてピーク電力処理能力を決めるのに役立つ。
【0042】
インビボ診断用光送達構成要素および治療用送達構成要素としての使用に加えて、本発明の光ファイバーは、光放射のための伝送性(transmissive)媒体として体内に挿入してもよいし、また絹光ファイバーのメッシュは、センサーから、または体内の別の位置からの情報を中継することもできる。
【0043】
同様にして、包埋された絹繊維は、材料の表面の外観が全く損傷を示していない場合でさえも、その材料の損傷、疲労、または破損についての、非破壊的指標として役立たせることができる。
【0044】
本発明のまた別の実施態様においては、方形の形状を有するバイオポリマー光導波路を、平面印刷技術によって製造してもよい。この実施態様を図5で説明するが、ここでバイオポリマー光導波路の製造方法500には、ステップ502における基材を提供する工程が含まれる。
【0045】
その基材は、光学デバイス、例えばレンズ、マイクロレンズアレイ、光学格子、パターン発生器、ビームリシェーパー、およびその他の光学デバイスのためのテンプレートであってよい。ステップ502において提供された基材は、バイオポリマー光学デバイス(上述の例では導波路)の製造におけるモールドとして、使用される。その基材の表面は、バイオポリマー光学デバイスの上に形成される、所望の特徴的な様相を有している。この点に関しては、その基材は、製造されるバイオポリマー光学デバイスにおいて望まれる光学的な特徴に合わせて、光学デバイスの表面上の適切なナノパターンであってもよいし、例えばナノパターン化光学格子のような光学デバイスであってもよい。
【0046】
ステップ504においては、その基材の上に第一のバイオポリマーを印刷する。その第一のバイオポリマーは、インクジェット式の印刷を使用して基材の上に印刷するのがよい。その印刷プロセスによって基材の上にキャストされる第一のバイオポリマー印刷媒体として、バイオポリマーマトリックス水溶液を使用してもよい。次いでステップ506において、バイオポリマーマトリックス水溶液を乾燥させて、バイオポリマーマトリックス水溶液を固相に転移させてもよい。これに関しては、バイオポリマーマトリックス水溶液をある一定時間、例えば24時間かけて乾燥させてよく、場合によっては、バイオポリマーマトリックス水溶液の乾燥を促進させるために、弱い加熱を加えてもよい。乾燥させると、基材の表面上に固化されたバイオポリマー膜が形成される。バイオポリマー膜の厚みは、基材に塗布したバイオポリマーマトリックス溶液の体積に依存する。
【0047】
バイオポリマーマトリックス溶液の溶媒を蒸発させてから、場合によっては、ステップ508において、その固化されたバイオポリマー膜をアニールさせてもよい。このアニールステップは、水蒸気環境中、例えば水蒸気で充満されたチャンバー内で、所望の材料特性に応じて時間を変えて実施してもよい。典型的には、アニールにかける時間は、例えば2時間〜2日の範囲とするのがよく、真空環境中または複数の環境の組み合わせの中で実施してもよい。適当な乾燥時間の後では、そのバイオポリマー膜は、好適な印刷された絹バイオポリマー層である。
【0048】
任意のステップ510において、その印刷された絹バイオポリマー層を処理して、表面粗さを除去してもよい。この任意のスムージング処理は、低強度レーザーアブレーション技術を使用するか、または表面粗さをさらに低下させるか、または除去するためのその他のスムージング技術を使用して実施してもよい。さらに、絹バイオポリマー層の面をアブレーション加工して、絹コアの中に光をカップリングさせるための改良された光学表面を与えてもよい。
【0049】
ステップ512において、第一のバイオポリマーの上に第二の材料を堆積させて、バイオポリマー光導波路を形成させる。その第二の材料は、第一のバイオポリマーよりも低い屈折率を有している。一つの実施態様においては、その第一のバイオポリマーが絹であってよく、それに対して本発明の他の実施態様においては、タンパク質が基材の上に印刷されてもよい。同様にして、一つの実施態様においては、その第二の低屈折率材料がポリジメチルシロキサン(PDMS)であるが、その一方で他の実施態様においては、他の材料を使用してもよい。
【0050】
先に説明し、図5に概略的に示したように、その第二の材料が、そのバイオポリマーの周囲を被覆するポリマーオーバーコートを形成する。バイオポリマー絹繊維の屈折率(n=1.55)の方が、PDMSオーバーコートクラッディング(n=1.46)よりも高いために、その組み合わせが導波路として機能し、絹バイオポリマー繊維がコアとして働いて、光を第二の材料を通して伝送する。言うまでもないことであるが、他のバイオポリマー、例えば、キトサン、コラーゲン、ゼラチン、アガロース、キチン、ポリヒドロキシアルカノエート、プラン、デンプン(アミロース アミロペクチン)、セルロース、ヒアルロン酸、および関連するバイオポリマー、またはそれらの組み合わせを使用してもよいが、但し、その第二の材料(オーバーコート)が、選択されたバイオポリマーよりも低い屈折率を有していなければならない。このようにして、第二の材料、例えばPDMSポリマーオーバーコートが、光導波路のバイオポリマーコアに対するクラッド材料として機能すると考えられる。
【0051】
第一のバイオポリマー材料は、各種効果的な方法で基材の上に堆積させてよい。例えば、第一のバイオポリマー材料は、インクジェット技術、例えばインクジェット式のプリンターを用いて基材の上に印刷してもよい。第一のバイオポリマーを第一のバイオポリマーの各種の厚みの層を形成させることにより、基材の上に印刷してもよい。第一のバイオポリマーの印刷では、オーバーレイ印刷技術を繰り返し使用して、所望の用途に合わせて、バイオポリマー導波路の厚みを増やしてもよい。次いで、その印刷された絹コアの上に(第二の)低屈折率材料を堆積させる。先に説明したように、高い屈折率を有するタンパク質または他のバイオポリマーを、導波路のコア材料として使用してもよい。
【0052】
上述の印刷実施態様を図6に概略的に示す。それに見られるように、基材650を提供し、タンパク質導波路コア604を、インクジェット技術を使用して基材650の上に印刷する。次いで、その印刷されたタンパク質導波路コア604の上に低屈折率材料602を堆積させる。所望の印刷されたタンパク質導波路の実験的な寸法をベースに、材料を印刷するためにインクジェット塗布を使用してもよい。先に説明したように、バイオポリマー導波路の厚みを増加させるためには、印刷されるタンパク質導波路コア604の個々の線をオーバーレイ印刷することが必要となる場合がある。
【0053】
実験を実施して、各種のバイオポリマー光導波路を製造することによって、上述の方法の検証を行った。8重量%の絹濃度の絹フィブロイン水溶液の体積と、得られる絹の膜厚との間の関係を図7のグラフ30に示しているが、その絹フィブロイン水溶液は、およそ10平方センチメートルの基材の表面上にキャストした。X軸は絹フィブロイン溶液の体積(単位mL)を示し、Y軸は得られた膜の厚み(単位μm)を示している。
【0054】
言うまでもないことであるが、膜の性質、例えば厚みおよびバイオポリマー含量、さらには光学的な特徴は、そのプロセスで使用されるフィブロインの濃度、堆積させる絹フィブロイン水溶液の体積、およびキャスト溶液を乾燥させてその構造を固定させるための堆積後(post−deposition)プロセスなどに基づいて、変化させることができる。得られたバイオポリマー光導波路の光学的品質を確保し、バイオポリマー光導波路の各種の特性、例えば透明度、構造的剛性、および可撓性を維持するためには、それらのパラメーターを正確に調節することが望ましい。さらに、バイオポリマーマトリックス溶液に対する添加剤を使用して、バイオポリマー光導波路の特徴、例えば、形態、安定性などを変化させてもよいが、そのようなものとしてはポリエチレングリコール、コラーゲンなどが知られている。
【0055】
10μmの厚みを有するパターン化されていないバイオポリマー膜を、絹フィブロイン水溶液を使用して上述の方法で製造し、Metricon Corporation製の走査型プリズム結合反射率計で特性解析した。図8Aに、製造され特性解析された、パターン化されていないバイオポリマー膜34を示す。バイオポリマー膜34の屈折率を測定すると、633nmでn=1.55であったが、これは通常のボロシリケートガラスの屈折率よりもやや高い。測定された屈折率は、例えば空気−絹バイオフォトニック結晶(BPC)において光学的に使用するための妥当なコントラストを与えるには、十分に高いことが確認された(Δnfibroin−Δnair=0.55)。パターン化されていない絹の膜34の特性解析が、図8Bのグラフ36に示されているが、これからは明らかに、反射率のプリズム結合角度依存性が認められる。グラフ36における振動は、導波光の中へのカップリングによるものであって、導波路材料として絹が使用できることを示している。
【0056】
さらに、パターン化されていない絹の膜34を解析して、透明度を求めた。図8Cは、各種の波長における絹の膜34を通過する光の透過率の測定値を示すグラフ38である。透過率の測定から、パターン化されていない絹の膜34が、可視スペクトル全体にわたって高い透明性を有していたことがわかる。比較のために、コラーゲン、およびポリジメチルシロキサン(PDMS)で同様の厚みの膜をキャストした。自立性についての構造的な安定性が劣っていることが見出され、また得られたバイオポリマー光学デバイスは、薄膜として実施したときに、自立性がなかった。しかしながら、そのようなバイオポリマーでも、構造的な安定性が重要と考えられないような他の用途では使用できる。
【0057】
ここで重要なことは、各種の厚みを有する成形膜を、上述の図1および図5の方法を使用してナノスケールのパターン化を行って、ナノパターン化バイオポリマー光学デバイスを得ることである。
【0058】
本発明に関連して使用するとき、「ナノパターン化」という用語は、バイオポリマー光学デバイスの表面上に得られる極めて小さなパターニングを指す。そのパターニングは、そのサイズがナノメートルスケール(すなわち、10−9メートル)で適切に測定しうる、例えば100nm〜数ミクロンの範囲のサイズであるような、構造的な特徴を有している。さらに、本発明のバイオポリマー光学デバイスには、各種の異なった光学デバイス、例えばレンズ、回折格子、フォトニック結晶、導波路などを組み入れてもよい。
【0059】
各種のナノパターン化バイオポリマー光学デバイスが、絹フィブロイン溶液を用いた上述の本発明の方法を使用して満足のいくレベルで製造された。それらのデバイスには、導波路、レンズ、マイクロレンズアレイ、光学格子、パターン発生器、およびビームリシェーパーが含まれる。具体的には、絹フィブロインの水溶液を、その上にパターンを有する特定の基材の上にキャストした。その基材の表面をTeflon(商標)で被覆しておいて、バイオポリマーマトリックス溶液が液相から固相へと転移した後に、均質に剥離されるようにした。バイオポリマー光学デバイスにおいて高度に規定されたナノパターン化構造を形成させるための、本発明のバイオポリマーキャスト方法の性能が、本発明の光導波路をキャストすることによって検証された。210nmもの低い寸法と、20nm未満の局所的表面粗さを有する、規則的にパターン化された特徴が得られた。先にも述べたように、スムージング技術をさらに使用して、バイオポリマー光導波路の表面粗さをさらに低下させるか、または除去してもよい。
【0060】
光学的に平坦な表面上にキャストした絹の膜の粗さを測定すると、2.5〜5ナノメートルの間の二乗平均平方根粗さの値と測定されたが、このことは、633nmの波長では、優にλ/50未満の表面粗さであることを意味している。パターン化された絹回折光学素子の原子間力顕微鏡画像は、適切なモールドで絹の膜をキャストおよびリフトさせることによって得られる超微細加工のレベルを示している。それらの画像は、数百ナノメートル範囲の解像度を示し、コーナーの鮮鋭度からは、数十ナノメートルまでの細かい忠実なパターニングの可能性が示唆される。
【0061】
各種の厚みの純粋な絹の膜に633nmの光を導くことによって得られる、絹スラブ導波路を通過させる際の光学的損失を測定した。光学的損失の測定値は、膜の散乱に依存して0.25〜0.75dB/cmの範囲で変化した。絹溶液の純度と表面全体にわたる層の均質性とを調節することによって、損失をそれら測定値よりかなり低い値にまで下げることができる。
【0062】
生体適合性材料をそのように規則的にパターニングさせることによって、フォトニックバンドギャップを与え、有機物を介して光を処理し、しかも機械的には頑強な光学デバイスを得るために使用することが可能な光学デバイスを製造することが可能となる。それらのデバイスは、本明細書全体で説明しているように、包埋される光学素子の可撓性とタンパク質基材の特有の多様性とが組み合わさっている。本発明によって多くのメリットが得られるが、それには、絹のようなバイオポリマー有機特性を、有機マトリックスの中に包埋された回折および伝送性光学素子の性能と組み合わせて、生物学的に活性な光学素子を作り出すことが含まれる。絹は、分解の調節が可能で、生体適合性で、そして構造的に強い媒体を与え、それを用いて、本発明による光学デバイスを作製することができる。
【0063】
上述の本発明の方法を使用して、伝送性のナノパターン化回折性バイオポリマー光学デバイスを作製した。それらの光学デバイスには、バイオポリマー光導波路、絹ディフューザー、ラインパターン発生器、およびクロスパターン発生器が含まれる。そのような光学デバイスは、適切に形成された波長スケールの表面構造を使用して、光干渉を利用する、予め決められた一次元または二次元の光パターンを作り出す。従来からの材料で作製されたそのような光学デバイスは、いくつかの使用例を挙げれば、画像形成、分光法、ビームサンプリングおよびトランスフォーメーション、ならびに計量法などに適用されてきた。例えば絹バイオポリマーのような生物学的マトリックスの中での光の送達を調節するためにこのアプローチ方法を拡張することによって、基材の中にフォトンを最適にカップリングさせたり、意図的な光学的な識別性、干渉、または読取りが可能となったりする。
【0064】
本発明によるバイオポリマー光導波路の顕著な利点は、それらが完全に有機で、生体適合性であるので、光導波路を生物学的に活性化された状態とする性能があることである。例えば絹の光導波路の場合には、水をベースとする加工を用いることができる。このことによって、導波路の細胞生存性が向上し、生体適合性についても同様である。
【0065】
ナノパターン化バイオポリマー光学デバイスの生体適合性を確認する目的で、上述のような図1および図5に従って製造した本発明による絹回折格子の中に、赤血球(RBC)を組み入れた。そのRBC−絹フィブロイン溶液は、1mLの80%ヘマトクリットヒトRBC溶液と、5mLの8%絹溶液とを組み合わせることによって調製した。その混合物を、600ライン/mmの光学格子上にキャストし、一晩かけて放置乾燥させた。その膜を、光学格子から取り外し、2時間アニールさせた。そうして得られたRBCをドープした絹回折格子の中には、格子構造が観察された。
【0066】
次いで、そのRBCをドープした絹回折格子を試験して、回折次数を観察した。光伝送実験(optical transmission experiment)を実施して、ヘモグロビン(RBC中に含まれる酸素運搬タンパク質)が、絹回折格子のマトリックスの中でその活性を維持しているかどうかを調べた。図9にその結果のグラフ160を示すが、それは、RBCをドープした絹回折格子の中でヘモグロビン機能が維持されていることを示している。X軸は波長(単位nm)に相当し、Y軸は、RBCをドープした絹回折格子による吸光度を示している。
【0067】
具体的には、RBCをドープした絹回折格子を、蒸留水を充填した石英キュベットの中に挿入し、吸光度曲線を観察した。その結果を、結果のグラフ160の中の線(b)HbOによって示す。図から判るように、線(b)HbOによって示される吸光度曲線は、オキシヘモグロビンの吸収に典型的な二つのピークを示した。次いで、そのキュベットの中に窒素ガスの気泡を通して、ヘモグロビンを脱酸素化させた。15分後に、オキシヘモグロビンの特性吸収ピークが吸光度曲線から消えた。この結果を、結果のグラフ160の中の線(a)Hbによって示す。これらの結果は、次いでキュベットへの窒素の流れを止めると、その結果として、オキシヘモグロビンのピークが再び現れるということで、さらに確認した。その結果を、結果のグラフ160の中の線(c)HbOによって示す。
【0068】
先にも説明したように、代わりのバイオポリマーを使用して、本発明によるナノパターン化バイオポリマー光学デバイスを作製してもよい。図10は、異なった材料を使用してキャストした他の回折性バイオポリマー光学デバイスを示す、写真180を示している。具体的には、キトサン光学デバイス182と、コラーゲン光学デバイス184をさらに、本発明に従って製造した。キトサンに関しては、絹と同様の光回折特性が観察された。
【0069】
上述の説明と、例に挙げて示し説明したナノパターン化バイオポリマー光学デバイスとから、本発明が、生分解性ナノパターン化バイオポリマー光学デバイスを提供することは明らかである。本質的に生体適合性であり、水の中で加工することが可能で、調節された寿命で分解することが可能な、高品質のナノパターン化バイオポリマー光学デバイスが製造された。先にも説明したとおり、本発明のナノパターン化バイオポリマー光学デバイスは、小さな有機物質を組み入れることによって、生物学的に活性化させてもよい。例えば、その小有機物質は、複合タンパク質、例えば赤血球中のヘモグロビンおよび酵素、例えばペルオキシダーゼであってよい。本発明は、ペプチド、酵素、細胞、抗体、または関連の系の形の不安定な生物学的受容体を直接的に組み入れることが可能になることから、光学デバイスの汎用性を広げ、そのような光学デバイスを生物学的検知デバイスとして機能させることも可能となる。したがって、その有機物質は以下のものであってよい:核酸、色素、細胞、(さらに付属書Iに記載されているような)抗体、酵素、例えば、ペルオキシダーゼ、リパーゼ、アミロース、オルガノホスフェートデヒロドゲナーゼ、リガーゼ、制限エンドヌクレアーゼ、リボヌクレアーゼ、DNAポリメラーゼ、グルコースオキシダーゼ、ラッカーゼ、細胞、ウイルス、バクテリア、タンパク質、分子認識のためのペプチド、小分子、薬剤、色素、アミノ酸、ビタミン、抗酸化剤、植物細胞、哺乳動物細胞など、DNA、RNA、RNAi、脂質、ヌクレオチド、アプタマー、炭水化物、光学活性発色団(ベータカロチンまたはポルフィリンを含む)、発光性有機化合物、例えばルシフェリン、カロチンおよび発光性無機化合物、化学色素、抗生物質、酵母、抗真菌剤、抗ウイルス剤、および複合体、例えばヘモグロビン、電子伝達鎖補酵素およびレドックス成分、集光性化合物、例えばクロロフィル、フィコビリタンパク質、バクテリオロドプシン、プロトロドプシン(protorhodopsin)、およびポルフィリン、ならびに関連の電子的に活性な化合物、またはそれらの組み合わせ。
【0070】
本発明のナノパターン化バイオポリマー光学デバイスは、生体適合性および生分解性が最重要視される環境科学および生命科学において容易に使用することができる。例えば、上述のようなナノパターン化バイオポリマー光学デバイスは、自然環境、例えば人体の中でのモニターを行うのに、存在を感じさせずに使用することができるし、生体内に植え込んでも後日そのデバイスを回収する必要がない可能性もある。本発明のナノパターン化バイオポリマー光学デバイスの分解寿命は、製造プロセスを介して、例えば溶液マトリックスキャストの比率および量を調節することによって、調節することができる。さらに、本発明のナノパターン化バイオポリマー光学デバイスは、環境中に分散させることが可能であり(この場合もまたそれらを後日回収する必要はない)、それによって、検知および検出のための新規で有用なデバイスが提供される。
【0071】
本発明の態様および実施態様についてのここまでの記述は、例示と説明のために提供してきたが、それが全てではなく、開示されたそのままの形に本発明を限定することを意図したものでもない。当業者ならば、上述の教示を読めば、それらの実施態様のある種の修正、順序の入れ替え、追加、および組み合わせが可能であるか、または本発明の実施からもたらされてもよいことは認識するところであると考えられる。したがって、本発明には、添付の特許請求の範囲内に入る各種の修正および等価の変形もまた包含されている。
【0072】
付属書I
絹の膜中における抗体の安定性
材料
抗IL−8モノクローナル抗体(IgG1)は、eBioscience,Inc.から購入した。ヒトポリクローナル抗体IgGおよびヒトIgG ELISA Quantitation Kitは、Bethyl Laboratories Inc.から購入した。研究において使用したその他の全ての化学薬剤は、Sigma−Aldrich(St.Louis,MO)から購入した。
【0073】
絹の膜中への抗体の捕捉−ヒトポリクローナル抗体IgG
167mLの6%絹溶液と混合した10mLのIgG(1mg/mL)で、絹の膜中IgG濃縮物(1mg/g絹)を作製する。100μLの混合IgG溶液を、96ウェルプレートのそれぞれのウェルに添加し、カバーを開けて、換気フードの中に一晩置いた。その乾燥させた膜は、メタノールを用いて処理するか、未処理のままとした。メタノール処理の場合には、ウェルを90%メタノール溶液中に5分間浸漬させ、換気フードの中で乾燥させた。次いで、乾燥させた96ウェルプレートの全部を、4℃、室温、および37℃で保存した。
【0074】
抗IL−8モノクローナル抗体(IgG1)
83mLの6%絹溶液と混合した0.5mLのIgG1(1mg/mL)で、絹の膜中IgG1濃縮物(0.1mg/g絹)を作製する。50μLの混合IgG1溶液を、96ウェルプレートのウェルに添加し、カバーを開けて、換気フードの中に一晩置いた。その乾燥させた膜は、メタノールを用いて処理するか、未処理のままとした。メタノール処理の場合には、ウェルを90%メタノール溶液中に5分間浸漬させ、換気フードの中で乾燥させた。次いで、乾燥させた96ウェルプレートの全部を、4℃、室温、および37℃で保存した。
【0075】
抗体測定
統計解析のため、同一の条件下で調製した5個のウェルについて測定した。純粋な絹(抗体なし)を対照として使用した。
【0076】
メタノール非処理試料の場合には、100μLのPBS緩衝液(pH7.4)を、ウェルに添加し、それを室温で30分間さらにインキュベートして、膜を完全に溶解させた。次いで、溶液の一定分量を、抗体測定にかけた。メタノール処理試料については、100μLのHFIPをそれぞれのウェルに添加し、それを室温で2時間さらにインキュベートして、膜を完全に溶解させた。その絹HFIP溶液を、換気フード中で一晩乾燥させた。以後のステップはメタノール非処理試料の場合と同様であって、PBS緩衝液を添加し、抗体測定のために溶液をピペットで移した。
【0077】
ELISA
ポリスチレン(96ウェル)マイクロタイタープレートを、抗原コーティング緩衝液(重炭酸塩緩衝液、50mM、pH9.6)中で調製した10μg/mLの濃度の100μLの抗原抗ヒトIgG−アフィニティを用いてコーティングし、次いで室温で保存して一晩インキュベートした。次いでTBS−T緩衝液を用いて、それらのウェルを3回洗浄した。1%のBSA(TBS中)を各ウェル200μLずつ用いて非占有部位(unoccupied site)をブロックし、次いで室温で30分間インキュベートした。次いでTBS−Tを用いて、それらのウェルを3回洗浄した。次いで、段階希釈の血清100μLを用いて、試験ウェルおよび対照ウェルを希釈した。それぞれの希釈は、TBS緩衝液中で実施した。それぞれの希釈に対応する、段階希釈のブランクもまた存在させた。次いでそのプレートを、室温で1時間インキュベートした。プレートを、TBS−T緩衝液を用いて再び洗浄した(5回)。結合された抗体について、抗ヒトIgG−HRP(1:100,000)の適切な結合体を用いて試験し、その100μLをそれぞれのウェルの中にコーティングし、室温で1時間維持した。TBS−Tを用いてプレートを(5回)洗浄した後に、それぞれのウェルに100μLのTMBを添加し、室温で5〜20分間インキュベートした。それぞれのウェルの450nmでの吸光度を、VersaMaxマイクロプレートリーダー(Molecular devices、Sunnyvale,CA)を用いて測定した。

図A:2種の異なったフォーマットで調製し、3種の異なった温度で保存した絹の膜中での初期活性に対する抗体IgG1活性

図B:2種の異なったフォーマットで調製し、3種の異なった温度で保存した絹の膜中での初期活性に対する抗体IgG活性

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一のバイオポリマーを提供する工程;および
前記第一のバイオポリマーを第二のポリマーの中にキャストしてバイオポリマー光導波路を形成させる工程であって、前記第二のポリマーが、前記第一のバイオポリマーに近接したポリマーオーバーコートクラッディングを形成し、前記第一のバイオポリマーおよび前記第二のポリマーが異なった屈折率を有している、工程
を含む、バイオポリマー光導波路の製造方法。
【請求項2】
第一のバイオポリマーを提供する工程が、第一のバイオポリマーをほぐして、個々のバイオポリマー繊維を抽出することを含む、請求項1に記載のバイオポリマー光導波路の製造方法。
【請求項3】
第一のバイオポリマーに張力をかける工程をさらに含む、請求項2に記載のバイオポリマー光導波路の製造方法。
【請求項4】
第一のバイオポリマーが絹である、請求項1に記載のバイオポリマー光導波路の製造方法。
【請求項5】
第二のポリマーがポリジメチルシロキサン(PDMS)である、請求項4に記載のバイオポリマー光導波路の製造方法。
【請求項6】
第一のバイオポリマーが第二のポリマーよりも高い屈折率を有する、請求項1に記載のバイオポリマー光導波路の製造方法。
【請求項7】
第一のバイオポリマーを処理して表面粗さを除去する工程をさらに含む、請求項1に記載のバイオポリマー光導波路の製造方法。
【請求項8】
第一のバイオポリマーを処理して表面粗さを除去する工程が、レーザーアブレーションを用いて実施される、請求項7に記載のバイオポリマー光導波路の製造方法。
【請求項9】
第一のバイオポリマーとポリマーオーバーコートとが、長手方向の軸に沿って同心のバイオポリマー導波路を形成する、請求項1に記載のバイオポリマー光導波路の製造方法。
【請求項10】
第一のバイオポリマーとポリマーオーバーコートとが、平面の軸に沿って方形スラブ導波路を形成する、請求項1に記載のバイオポリマー光導波路の製造方法。
【請求項11】
第一のバイオポリマーが、キトサン、コラーゲン、ゼラチン、アガロース、キチン、ポリヒドロキシアルカノエート、プラン(pullan)、デンプン(アミロース アミロペクチン)、セルロース、ヒアルロン酸、および関連するバイオポリマーからなる群、またはそれらの組み合わせより選択される、請求項1に記載のバイオポリマー光導波路の製造方法。
【請求項12】
基材を提供する工程;
前記基材の上に第一のバイオポリマーを印刷する工程;
前記第一のバイオポリマーの上に第二の材料を堆積させてバイオポリマー光導波路を形成させる工程であって、前記第二の材料が前記第一のバイオポリマーよりも低い屈折率を有する、工程
を含む、バイオポリマー光導波路の製造方法。
【請求項13】
基材の上に第一のバイオポリマーを印刷する工程が、第一のバイオポリマーの層を形成させることを含み、前記第一のバイオポリマーがタンパク質である、請求項12に記載のバイオポリマー光導波路の製造方法。
【請求項14】
第一のバイオポリマーを印刷する工程が、インクジェットプリンターを使用して実施される、請求項13に記載のバイオポリマー光導波路の製造方法。
【請求項15】
第一のバイオポリマーをオーバーレイ印刷して、バイオポリマー導波路の厚みを増やす工程をさらに含む、請求項12に記載のバイオポリマー光導波路の製造方法。
【請求項16】
第一のバイオポリマーが絹である、請求項12に記載のバイオポリマー光導波路の製造方法。
【請求項17】
第二のポリマーがポリジメチルシロキサン(PDMS)である、請求項16に記載のバイオポリマー光導波路の製造方法。
【請求項18】
第一のバイオポリマーを処理して表面粗さを除去する工程をさらに含む、請求項12に記載のバイオポリマー光導波路の製造方法。
【請求項19】
第一のバイオポリマーを処理して表面粗さを除去する工程が、レーザーアブレーションを用いて実施される、請求項18に記載のバイオポリマー光導波路の製造方法。
【請求項20】
第一のバイオポリマーが、キトサン、コラーゲン、ゼラチン、アガロース、キチン、ポリヒドロキシアルカノエート、プラン、デンプン(アミロース アミロペクチン)、セルロース、ヒアルロン酸、および関連するバイオポリマーからなる群、またはそれらの組み合わせより選択される、請求項12に記載のバイオポリマー光導波路の製造方法。
【請求項21】
基材が、光学デバイスのためのテンプレートである、請求項12に記載のバイオポリマー光導波路の製造方法。
【請求項22】
基材が、レンズ、マイクロレンズアレイ、光学格子、パターン発生器、およびビームリシェーパーのうちの少なくとも一つのためのテンプレートである、請求項21に記載のバイオポリマー光導波路の製造方法。
【請求項23】
第一のバイオポリマー;および
前記第一のバイオポリマーを被覆してバイオポリマー光導波路を形成させる第二の材料であって、前記第一のバイオポリマーよりも低い屈折率を有する第二の材料
を含む、バイオポリマー光導波路。
【請求項24】
バイオポリマー光導波路が、インビボ診断用光送達デバイスである、請求項23に記載のバイオポリマー光導波路。
【請求項25】
インビボ診断用光送達デバイスが、損傷を受けたニューロンのための、光を使用可能とする(light enabled)神経系置換物である、請求項24に記載のバイオポリマー光導波路。
【請求項26】
バイオポリマー光導波路が、センサーからの情報を中継する光放射のための伝送性(transmissive)媒体である、請求項23に記載のバイオポリマー光導波路。
【請求項27】
伝送性媒体が、体内の位置からの情報を中継する、請求項26に記載のバイオポリマー光導波路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2010−509644(P2010−509644A)
【公表日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−536415(P2009−536415)
【出願日】平成19年11月5日(2007.11.5)
【国際出願番号】PCT/US2007/083605
【国際公開番号】WO2008/127401
【国際公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(303043726)トラスティーズ オブ タフツ カレッジ (26)
【Fターム(参考)】