説明

パッシブ自動焦点カメラ

【目的】 パッシブ方式で測距を行う自動焦点カメラにおいて、測距が不可能な場合でも撮影を可能とし、かつ高い確率で良質画像を得ることができるようにする。
【構成】 被写体迄の距離をパッシブ方式により測距する測距部13と、この測距部13からの距離データに基づいて自動焦点合わせ動作を行う撮影レンズ駆動部14と、補助光を投射するフラッシュ発光部19と、撮影レンズの絞りを設定する絞り駆動部17とを備える。測距部13は測距が不可能なときに所定の信号を送出し、撮影レンズ駆動部14は所定の信号が送出されたときに予めレンズ固定位置設定部15のメモリ15aに設定された固定焦点位置に設定され、フラッシュ発光部19は所定の信号が送出されたときに発光し、絞り駆動部17は所定の信号が送出されたときに本来の絞り開口よりも小さい絞り開口に設定する。これにより、高い確率で合焦状態での撮影を可能とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はパッシブ方式で被写体迄の距離を測定してAF動作を行うAFカメラに関し、特に測距が不可能な場合にも適切な撮影を可能としたカメラに関する。
【0002】
【従来の技術】近年、AFカメラの測距方式としてパッシブ方式が採用されている。このパッシブ方式は、被写体像をフォトダイオードアレイやフォトセンサアレイ等のフォトセンサに2つの像として結像させ、これらの像の位相差を検出した上で、その位相差に基づいて被写体までの距離を演算して求めるものである。このため、このパッシブ方式では、被写体像をフォトセンサに結像させることが必要であり、被写体輝度が低い場合にはフォトセンサから被写体の結像による光電信号を得ることができず、測距が不可能になる。また、被写体像をフォトセンサに結像した場合でも、2つの像を対比させて両者の位相差が検出できない場合、例えば被写体が均一輝度の平面や複雑なパターンの場合にも測距が不可能になる。
【0003】このように測距が不可能な場合には、従来のパッシブ方式のAFカメラでは、撮影者に警告を与えるとともに撮影が不能となるようにカメラを構成して不良画像の発生を未然に防止する対策がとられているため、特にうす暗い場所での撮影が不可能となる機会が増え、カメラ利用者に不満を与えることになる。このような不具合を解消するために、従来では、AF補助光を用いたパッシブ方式が提案されている。この方式は測光時にLED等の照明光をカメラから被写体に投射し、その反射光を利用して被写体像をフォトセンサに結像させる方式である。この方式では被写体が低輝度の場合でも測距が可能となる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、このAF補助光を利用したパッシブ方式では、AF補助光を投射させる機構をカメラに装備しなければならず、その分カメラの負担になり、カメラの小型化の障害となり、かつ低価格化に不利となる。特に、パッシブ方式を採用するカメラは、構成の簡略化を目的とすること多いため、この種のカメラにAF補助光の装置を装備することはその目的に反することになるという問題がある。本発明の目的は、AF補助光装置を装備することなく、かつその一方で測距が不可能な場合でも高い確率で良質画像を得ることができる撮影を可能としたパッシブAFカメラを提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は、被写体迄の距離をパッシブ方式により測距する測距部と、この測距部で測定した距離データに基づいてAF動作を行う撮影レンズ駆動部とを備えるパッシブAFカメラにおいて、測距部は測距が不可能なときに所定の信号を送出し、撮影レンズ駆動部は前記所定の信号が送出されたときに予め設定された固定焦点位置に設定されるように構成する。この固定焦点位置は、人物のスナップ撮影で最も多用される被写体距離に対応する焦点位置とされる。また、本発明は、更に好ましくは、被写体迄の距離をパッシブ方式により測距する測距部と、この測距部で測定した距離データに基づいてAF動作を行う撮影レンズ駆動部と、被写体に対して補助光を投射するフラッシュ発光部と、撮影レンズの絞りを設定する絞り駆動部とを備えるパッシブAFカメラにおいて、測距部は測距が不可能なときに所定の信号を送出し、撮影レンズ駆動部は前記所定の信号が送出されたときに予め設定された固定焦点位置に設定され、フラッシュ発光部は前記所定の信号が送出されたときに発光し、絞り駆動部は前記所定の信号が送出されたときに本来の絞り開口よりも小さい絞り開口に設定するようにそれぞれ構成される。更に、撮影レンズが多焦点レンズの場合には、その焦点距離に応じて複数の固定焦点位置を選択するように構成する。
【0006】
【実施例】次に、本発明について図面を参照して説明する。図1は本発明が適用されるAFカメラの外観図であり、このAFカメラ1はシャッターボタン2を半押しした状態で測光及び測距を行ない、これに基づいてフラッシュ(ストロボ)3を発光させる準備と撮影レンズ4のAF動作を行い、シャッターボタン2を完全に押し下げたときにシャッターが動作され、かつ必要に応じてフラッシュ3が発光し、所定の撮影が実行されるようになっている。また、このAFカメラ1は測光した被写体の輝度と測距した被写体迄の距離に応じて、撮影時の絞りやシャッター速度が適切となるように自動制御されるように構成される。更に、カメラの一部にはメインスイッチ5や表示部6が設けられる。
【0007】図2はその内部構成を示すブロック図である。同図において、制御部11はマイクロコンピュータチップで構成される。この制御部11にはメインスイッチ5(MAIN)及び前記シャータボタン2の押し込みにより段階的にオンされるスイッチSWS,SWRが接続される。また、この制御部11には後述する各部が接続されてそれぞれ所定の動作を行うように構成される。測光部12は被写体の輝度をフォトセル等により測光し、測光データを制御部11に入力させる。また、測距部13は被写体迄の距離を測定するために、パッシブ型の測距部として構成される。このパッシブ型の測距部は公知のように外光三角方式(或いはTTL方式)を採用することができ、フォトダイオードアレイやフォトセンサアレイの出力に基づいて測距を実行し、得られた測距データを制御部11に入力させる。
【0008】また、撮影レンズ駆動部14は前記測距部13からの測距データに基づいて撮影レンズ4のフォーカス機構を駆動させ、被写体に対して焦点を合わせる動作を実行する。この撮影レンズ駆動部14にはレンズ固定位置設定部15が関係付けられており、このレンズ固定位置設定部15からの信号が入力されたときに、撮影レンズ駆動部14はこの信号に基づいて撮影レンズ4を設定された焦点位置に固定する。なお、前記レンズ固定位置設定部15には固定焦点位置を記憶するメモリ15aが設けられ、このメモリ15aに対して固定焦点位置をマニュアル操作又はプリセット操作により設定するための操作部16が関係される。更に、絞り駆動部17及びシャッター駆動部18は、前記測光部12からの測光データや、測距部13からの測距データに基づいて制御部11で設定される絞り値、シャッター速度により図外の絞り機構及びシャッター機構を駆動させる。
【0009】また、フラッシュ発光部19はここでは自動フラッシュ装置として構成されており、シャッターボタン2の操作に連動してフラッシュ3を発光させ、かつ被写体からの反射光を測光してその反射光量が所定量に達したときにフラッシュ発光を停止させ、適正な露出を得るように構成される。更に、表示部6は絞り値,シャッター速度等を表示するとともに、測距が不可能な場合をも表示することができる。なお、図2には示されていないが、撮影レンズ4が多焦点レンズ(ズームレンズ)として構成されている場合には、ズーム駆動部が設けられ、所望の焦点距離での撮影を行うことができるように構成される。
【0010】次に、以上の構成のカメラの撮影動作を説明する。先ず、図3は測距可能な被写体輝度のレベルL1と、フラッシュ撮影が必要とされる被写体輝度のレベルL2との関係を示す図であり、測距可能な輝度レベルL1はフラッシュ撮影が必要とされる輝度レベルL2よりも低いレベルにあることが判る。図4は第1実施例のフローチャートである。シャッターボタン2を半押しすると、測距部13がパッシブ方式の測距を実行する(ステップS11,以下同様)。この測距において被写体の測距が可能であれば、次に測光部12が被写体の測光を行う(S12)。そして、測光値Dを輝度レベルL2と比較し(S13)、比較の結果から測光値Dが輝度レベルL2よりも高くてフラッシュ光が不要な輝度以上のときには直ちにAF動作による撮影が実行される(S14)。このAF撮影では、撮影レンズ駆動部14を駆動させて焦点合わせを行い、その後絞り駆動部17により適正絞りに設定し、かつシャッター駆動部18を動作させて適正シャッータ速度により撮影が実行される。また、ステップS13において測光値Dが輝度レベルL2よりも低くてフラッシュ光が必要とされる輝度の場合には、フラッシュ発光部19を駆動させ(S15)、フラッシュ光を用いたAF撮影が実行される(S14)。
【0011】一方、測距部13において被写体の測距が不能な場合、この場合には被写体輝度が輝度レベルL1より低いか、被写体が特殊な輝度パターンをしている場合であり、この場合には直ちに撮影レンズ駆動部14を駆動させて撮影レンズ4を固定焦点状態とする(S16)。この固定焦点位置は、予め操作部16のマニュアル操作或いはプリセット操作によりレンズ固定位置設定部15のメモリ15aに設定されている。その上で、被写体を測光部12において測光し(S17)、得られた測光値Dを輝度レベルL2と比較し(S18)、比較の結果から測光値Dが輝度レベルL2よりも高くてフラッシュ光が不要な輝度以上のときには直ちに絞り駆動部17を動作させ、測光値に基づいて設定される本来の絞り値よりも1段以上絞り込んだ絞り値に設定し(S19)、この絞り値に応じてシャッター速度が調整され、シャッター駆動部18により撮影が実行される(S20)。一方、測光値Dが輝度レベルL2よりも低くてフラッシュ光が必要とされる輝度の場合には、フラッシュ発光部19を駆動させ(S21)、フラッシュ光を用いた撮影が実行されるが、この場合にも固定された焦点位置のデータとフラッシュ光の強度との関係により設定される本来の絞り値よりも1段以上絞り込んだ絞りに設定して撮影が実行される(S19,S20)。
【0012】したがって、このカメラでは、測距が不能な場合には撮影レンズが無条件に固定焦点状態となり、撮影が実行される。このため、この種のカメラで最も使用頻度の高い人物のスナップ撮影距離に固定焦点位置を予め設定しておけば、パッシブ方式の測距部での測距が不可能な場合でも、撮影不能状態となることが回避でき、かつ高い確率で焦点の合った撮影が実行されることになる。また、このとき同時に絞り値を1段以上、絞り込んだ撮影を行うことで、固定焦点位置と被写体との間に距離の誤差が生じている場合でも、絞り込みによる被写界深度の増大を利用して合焦撮影の確率を高めることが可能となる。更に、被写体輝度が低くて測距が不可能な場合にはフラッシュ光を併用し、かつ絞り値を1段以上絞り込んだ撮影を行うことで、同様にして絞り込みによる被写界深度を利用して合焦の確率を高めることができる。
【0013】また、撮影レンズ4がズームレンズの場合には、その焦点距離のデータを制御部11に入力させ、撮影レンズに設定させる固定焦点位置を、撮影レンズの焦点距離の変化に対応してそれぞれ設定された複数の位置から選択するようにしてもよい。これにより、被写体迄の距離が大きく異なる場合でも、通常のスナップ撮影では被写体迄の距離に応じて撮影レンズの焦点距離が追従して変化されることが多いため、被写体迄の距離に合わせた適切な固定焦点位置に設定することが可能となり、合焦の確率を更に高めることができる。特に、フラッシュ光を使用した撮影においては、フラッシュ光の到達距離を考慮して固定焦点位置を可変させることで、実際に支障のない合焦状態での撮影が可能となる。
【0014】図5は本発明の第2実施例のフローチャートである。ここでは、最先に測光を行い(S31)、その測光値Dを測距可能な輝度レベルL1と比較し、測光値が輝度レベルL1よりも高いか低いかを判定する(S32)。高い場合には更に測光値を輝度レベルL2と比較し(S33)、輝度レベルL2よりも高い場合には直ちに測距を行う(S34)。また、輝度レベルL2よりも低い場合にはフラッシュ発光部19を駆動させた上で(S35)、測距動作を行う(S34)。合焦点(像ずれ量)の検出が可能な場合には、撮影レンズを駆動して焦点合わせを実行し(S36)、次いで適正絞りに設定する(S37)。また、被写体が一様なパターンの場合や、被写体の輝度パターンが特殊な場合のように、パターンの比較による合焦が不可能な場合には、撮影レンズを固定焦点位置に設定し(S38)、かつ絞り値を1段以上絞り込む(S39)。しかる上でシャッター駆動部によりフラッシュ光を用いずに、或いは用いて撮影を実行する(S40)。
【0015】一方、ステップS32において測光値が測距可能な輝度レベルL1よりも低い場合には、撮影レンズを固定焦点状態に設定する(S41)。そして、この場合にはフラッシュ撮影輝度レベルL2よりも当然に低いために、フラッシュ発光部を駆動させ(S42)、かつ同時に絞りを1段以上絞り込んだ上で(S43)、シャッター駆動部を駆動させフラッシュ光を用いた撮影を実行する(S44)。これにより、第1実施例と同様に、測距が不可能な場合には撮影レンズが無条件に固定焦点状態となり、かつ絞りが1段以上絞り込まれた状態で撮影が実行される。したがって、被写界深度が大きくなり、焦点の合う確率が高い状態での撮影を可能とし、撮影不能を回避してカメラ使用者の不満を解消することができる。
【0016】
【発明の効果】以上説明したように本発明は、パッシブ方式により測距するAFカメラにおいて、測距が不可能なときに撮影レンズを予め設定された固定焦点位置に設定するように構成したことにより、測距が不可能な場合でも撮影を可能とし、かつ確率的には焦点の合った良質の撮影画像を得ることができ、カメラ使用者の不満を解消することができる。特に、固定焦点位置は、人物のスナップ撮影で最も多用される被写体距離に対応する焦点位置に設定することで、この種のAFカメラにおける合焦の確率を更に高めることができる。また、測距が不可能なときには、フラッシュを発光させ、同時に絞りを本来の絞り開口よりも小さい絞り開口に設定することで、測距が不可能となることが多い被写体が低輝度の場合における撮影不能を回避し、かつその際の合焦の確率を高めた良質の撮影画像を得ることができる。更に、撮影レンズが多焦点レンズの場合には、その焦点距離に応じて複数の固定焦点位置を選択することで、被写体に対する合焦の確率を更に高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明を適用したパッシブAFカメラの全体構成を示す斜視図である。
【図2】図1のカメラの内部構成を示すブロック図である。
【図3】フラッシュ撮影輝度レベルと測距可能輝度レベルを示す図である。
【図4】本発明の第1実施例の動作を説明するためのフローチャートである。
【図5】本発明の第2実施例の動作を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
1 パッシブAFカメラ
2 シャッターボタン
3 フラッシュ
4 撮影レンズ
11 制御部
12 測光部
13 測距部
14 撮影レンズ駆動部
15 レンズ固定位置設定部
17 絞り駆動部
18 シャッター駆動部
19 フラッシュ発光部

【特許請求の範囲】
【請求項1】 被写体迄の距離をパッシブ方式により測距する測距部と、この測距部で測定した距離データに基づいてAF動作(自動焦点合せ動作)を行う撮影レンズ駆動部とを備えるパッシブAF(自動焦点)カメラにおいて、前記測距部は測距が不可能なときに所定の信号を送出し、前記撮影レンズ駆動部は前記所定の信号が送出されたときに予め設定された固定焦点位置に設定されるように構成したことを特徴とするパッシブAFカメラ。
【請求項2】 固定焦点位置は、人物のスナップ撮影で最も多用される被写体距離に対応する焦点位置である請求項1のパッシブAFカメラ。
【請求項3】 被写体迄の距離をパッシブ方式により測距する測距部と、この測距部で測定した距離データに基づいてAF動作を行う撮影レンズ駆動部と、被写体に対して補助光を投射するフラッシュ発光部と、撮影レンズの絞りを設定する絞り駆動部とを備えるパッシブAFカメラにおいて、前記測距部は測距が不可能なときに所定の信号を送出し、前記撮影レンズ駆動部は前記所定の信号が送出されたときに予め設定された固定焦点位置に設定され、前記フラッシュ発光部は前記所定の信号が送出されたときに発光し、前記絞り駆動部は前記所定の信号が送出されたときに本来の絞り開口よりも小さい絞り開口に設定するようにそれぞれ構成したことを特徴とするパッシブAFカメラ。
【請求項4】 撮影レンズが多焦点レンズであり、その焦点距離に応じて複数の固定焦点位置を選択するように構成してなる請求項3のパッシブAFカメラ。

【図1】
image rotate


【図3】
image rotate


【図2】
image rotate


【図4】
image rotate


【図5】
image rotate