説明

パルス発生器

【課題】 ダイオードの逆方向非導通特性を利用して1本の同軸ケーブルにて急峻な方形波パルスを発生させるパルス発生器を提供する。
【解決手段】 充電器3と放電スイッチ4とを並列接続してなる回路と、ダイオード8と負荷7とからなる回路とを同軸ケーブル6を介して接続してなることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、数10nsのパルス立上がり時間で、数10kV、数kAの急峻な高電圧、大電流を利用する電子、イオン等の加速器、放電励起型レーザ発振器等に用いられるパルス発生器に関するものである。
【0002】
【従来の技術】図3は、従来の急峻な方形波パルス発生器で、同軸ケーブルをパルス成形ラインおよびパルス伝送ラインに使用した回路図であり、記号は本発明と同じものは同記号としている。図3の回路図に示したように、直流電源1と直列抵抗2とからなる充電器3と同軸ケーブル5(詳細は後述するが、以下パルス成形ラインという)と放電スイッチ4と同軸ケーブル6(以下パルス伝送ラインという)と負荷7からなる回路で、同軸ケーブルの外部導体5b の終端と同軸ケーブルの外部導体6b の始端とが直接接続され接地電位に繋がれている。ここで4の放電スイッチは放電管を図示しているが、サイラトロン、イグナイトロン、電子管および半導体素子を組合せた物など、要求される高電圧大電流に耐える高速制御性のスイッチ機能を有するものであれば何れでもよい。
【0003】図3の回路図について説明すると、充電器3から直流高電圧に充電されたパルス成形ライン5の電荷を放電スイッチ4にてパルス伝送ライン6に急放電すると、パルス成形ライン5のパルス往復伝播時間に相当する方形波電流としてパルス伝送ライン6に送出される。
【0004】一般に、パルス成形ライン5、パルス伝送ライン6、負荷7のそれぞれの接合点にてパルスの反射を抑え、ノイズのない整った形の美しいパルス波形を得るために両ラインの特性インピーダンスZ1 、Z2 および負荷インピーダンスZL は等しく(Z1 =Z2 =ZL )整合されている。
【0005】ここで、25Ωの負荷7に電流波高値1kA、幅100nsのパルス電流を流すパルス発生器において、その必要なパルス成形ライン5およびパルス伝送ライン6におけるパルス伝播速度をα(m/ns)、全長をL(m)とし、充電電圧Vc (V)を求めると、(1)、(2)、(3)式のようになる。但し、両ラインの内外導体間の絶縁材にポリエチレンを使用して特性インピーダンスを25Ωとする。
【0006】
【数1】


【0007】
【数2】


【0008】
【数3】


【0009】このため、放電スイッチ4は充電電圧50kVに充分耐え、かつ電流波高値1kA、パルス幅100nsを通電しうる高速制御性が要求され、多くの場合、サイラトロン、イグナイトロン、電子管並びに半導体素子を組合せたスタックが使用されている。放電スイッチ4には高速制御をつかさどるための駆動回路が必要であり、それぞれの駆動回路を含め、充電電圧に相当する高電位に絶縁設置され、その駆動回路に接地電位から絶縁した駆動用の電源を供給し制御することが要求される。
【0010】その一例として、図4は放電スイッチ4として代表的な水素ガス入りサイラトロンを使用した時のブロック構成を示し、最も単純なサイラトロン4a はガラスまたはセラミックからなる真空容器内に主放電を行う陽極(アノード)Aと陰極(カソード)Kと放電制御をつかさどるグリッドGと陰極面から自由電子を放出可能な温度に加熱するフィラメントFより構成されており、真空容器内には極希薄な水素ガスが封入されている。このようなサイラトロン4a を駆動するために、補助電源4b としてカソード面Kを加熱するフイラメント電源Ef 、カソード面Kを負電界とし電子の放出を抑えるグリッドバイアス電源EC 、放電開始時にカソード面Kを瞬時に正電界として電子の放出を促すためのパルス発生器PG とパルストランスPT からなるグリッドパルス電源等が必要になる。サイラトロン4a およびその補助電源4b が高電位点に設置された場合、接地電位から補助電源4b を働かせるための電源供給および制御信号を伝達する手段として、充電電圧相当(50kV)の高耐圧を有する絶縁変圧器Tr や光ファイバーL1 、L2等によるトランスミッションラインが必要になる。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】同軸ケーブル5、6を各々パルス成形ラインとパルス伝送ラインとに使用し急峻な方形波パルスを発生させる従来のパルス発生器では、パルス成形ラインとパルス伝送ラインとして高電圧(数10kV)で長尺(数10m)の同軸ケーブルが2本必要である。更に放電スイッチを高電位点に設置するため主放電スイッチとその駆動回路とを接地電位から絶縁する必要があった。
【0012】上記の理由から、これまでは長尺の高圧ケーブルを大形のリールに巻回し収容せねばならず、また、放電スイッチ(放電スイッチ本体とその駆動回路一式)を絶縁架台に載せ、周囲物体より隔離し、更に駆動回路の電源として絶縁変圧器を介して電力供給し、制御用として絶縁された光ファイバー等による通信ラインが必要で、パルス発生器の寸法、重量が大きく、かつ高価な物になるなどの問題が生じていた。
【0013】
【課題を解決するための手段】本発明は、パルス伝送ラインと負荷との間に逆方向のダイオードを直列接続し、パルス伝送ラインに直流充電して該パルス伝送ラインの始端側で放電スイッチを短絡(接地)放電させることにより、パルス伝送ラインの長さに比例したパルスを発生させるものである。
【0014】すなわち、充電器3と放電スイッチ4とを並列接続してなる回路と、ダイオード8と負荷7とからなる回路とを同軸ケーブル6を介して接続してなることを特徴とするパルス発生器である。
【0015】
【発明の実施の形態】上記のように本発明は、パルス伝送ラインに直接充電し、その始端側で短絡放電しパルス電圧、電流を発生させることでパルス成形ラインを必要とせず、かつ、放電スイッチおよびその駆動回路を接地電位に置くことができる。
【0016】
【実施例1】図1は本発明の回路の一実施例を示す回路図である。負荷7はパルス伝送ライン6と直列接続され、前記パルス伝送ライン6を介して、直流電源1と直列抵抗2とからなる充電器3に接続され、サイラトロン、イグナイトロン、電子管または半導体素子等を必要に応じ直並列接続した高速制御性を有する放電スイッチ4が上記充電器3に並列接続され、パルス伝送ラインの外部導体6b の始端と放電スイッチ4と充電器3との共通接続点が接地されている。ダイオード8はパルス伝送ラインの中心導体6a と負荷7との間に充電電圧とは逆方向に直列接続されている。また、パルス伝送ラインの外部導体6b の終端と負荷7との直列接続点は接地されている。(本回路構成では、負荷側で接地しなくともパルス伝送ラインの外部導体6b の始端が接地されており、負荷側の接続点ではほぼ接地電位となるため非接地での使用も可能である。)
【0017】図1において、パルス伝送ライン6に充電器3より直流高電圧を充電後、放電スイッチ4を点弧すると、パルス伝送ラインに蓄えられた電荷に(4)式で示す放電電流IP (A)が流れ始める。
【0018】
【数4】


【0019】図2は、放電電流IP がパルス伝送ライン6を伝播して行く状態を経過時間毎に示したもので、図2R>2(a)はパルス伝送ラインの位置を始端P、終端Qとして示す。図2(b)は、放電開始前のパルス伝送ラインのPQ間の各位置における電圧V、電流Iを示したもので、パルス伝送ラインの全長に電圧VC が充電されており、電流は流れていないことを示し、パルス進行過程を図2(c)、(d)、(e)、(f)、(g)に示している。なお電流波高値は放電スイッチ4の順方向で示しており、パルス進行方向を示す矢印とは一致しない。図2(c)は、放電開始とともにパルス伝送ラインに蓄えられた電荷が該パルス伝送ラインの始端側から終端側に向けてパルス伝播速度で放電が進行して行く状態を示す。換言すれば放電の進行点で順次、パルス伝送ラインの内外導体間の分布容量に電圧の形で蓄えられていた静電エネルギーがゼロとなり、パルス伝送ラインの中心導体6a を通じてパルス伝送ラインの外部導体6b に還流する放電電流により作られる磁気エネルギーに変換されつつ進行波として進んでいる。図2(d)は、更に放電が進行し終端に達した時点での状態を示しており、パルス伝送ラインの充電電圧は全てゼロとなり、パルス伝送ライン全体には放電電流IP が流れており、当初充電された全静電エネルギーが磁気エネルギーに変換された状態になる。図2(e)は、次の瞬間に、磁気エネルギーの慣性により放電電流IP はパルス伝送ラインの中心導体6b の終端に接続されたダイオード8の順方向電流となり、負荷7を通じて流れ始めた状態を示す。即ち、この時刻から負荷7に短絡電流IP に比例したパルス電流が流れ始め、負荷7の両端には負極性のパルス電圧が誘起される。この状態は丁度、電流波高値IP のパルス電流が進行してきて、終端で負荷7に衝突し、負荷7に流れる電流IL と、反射波としてパルス伝送ラインを逆方向に流れ始める反射電流Ir とが流れ始め、それぞれの分流は負荷インピーダンスZL とパルス伝送ラインの特性インピーダンスZC とで決り、負荷電流IL と反射電流Ir とは(5)、(6)式で示される。
【0020】
【数5】


【0021】
【数6】


【0022】一般的には、ノイズのない整った美しい方形波を得るため両インピーダンスの値は等しく整合され(ZC =ZL )、負荷電流IL と反射電流Ir とは等しく、それぞれ進行波電流IP の1/2となる。負荷7の両端の負荷電圧VL は(4)、(5)式より、(7)式となり、その極性は充電電圧の逆極性となる。
【0023】
【数7】


【0024】同時にパルス伝送ラインの終端の内外導体間にも同じ電圧が加わり、当初充電された極性とは逆で電圧波高値がVc/2 のパルス電圧として始端に向け進行波として進む。進行波の波頭部は始端から終端に向う電流波高値IP と終端から始端に逆行する電流波高値(−IP/2) の電流進行波とが衝突しあいながら始端に向けパルス伝播速度で進行する。図2(f)は、この進行波(反射波)がさらに進み、パルス伝送ラインの始端に達したときの状態を示す。丁度この瞬間に放電スイッチ4の両端に充電時の極性と反転した電圧(−VC /2)が現れ、放電スイッチ4には逆極性の電流(−IP /2)が流れようとするが、放電スイッチ4の整流機能(逆電流阻止)により後続電流は遮断され、ターンオフ状態になる。図2(g)は、放電スイッチ4がターンオフ後の状態を示し、始端側からのパルス流入は断たれ、パルス伝送ライン上の進行波は該パルス伝送ラインのパルス伝播速度で始端から後退し、終端からダイオード8を通じて負荷7に吸収されて行く。その後は図示しないがパルス伝送ライン上の進行波が全ての負荷7に吸収された状態で、パルス伝送ライン上のエネルギーは完全に消滅し、負荷7へのパルス放出は完了する。
【0025】上記のパルス発生機構から明らかなように、パルス出力は放電スイッチ4が放電開始後パルス伝送ラインのパルス伝播時間経過後に負荷7の端子間に負極性のパルス電圧、電流として立上がり、該パルス伝送ラインを往復するパルス伝播時間の間、定電圧、定電流の方形波パルスとして出力される。上記結果からパルス成形ラインを使用することなく、パルス伝送ラインに直接充電し方形波パルスを発生させることができ、かつ放電スイッチ4を一端接地系に使用することができる。
【0026】
【発明の効果】本発明により、パルス成形ラインを使用することなく、単一の同軸ケーブルに直接充電し方形波パルスを発生させることができ、かつ放電スイッチおよびその駆動回路部を接地電位に置くことができ、パルス発生器を小形、軽量化できるので工業的、実用的にその価値は極めて大きいものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の回路の一実施例を示す回路図である。
【図2】本発明の回路の一実施例の電圧、電流波形図である。
【図3】従来の回路の一実施例を示す回路図である。
【図4】従来のサイラトロン使用時のブロック構成を示す回路図である。
【符号の説明】
1 直流電源
2 直列抵抗
3 充電器
4 放電スイッチ
4a サイラトロン
4b 補助電源
5 同軸ケーブル(パルス成形ライン)
5a 同軸ケーブルの中心導体
5b 同軸ケーブルの外部導体
6 同軸ケーブル(パルス伝送ライン)
6a 同軸ケーブルの中心導体
6b 同軸ケーブルの外部導体
7 負荷
8 ダイオード

【特許請求の範囲】
【請求項1】 充電器(3)と放電スイッチ(4)とを並列接続してなる回路と、ダイオード(8)と負荷(7)とからなる回路とを同軸ケーブル(6)を介して接続してなることを特徴とするパルス発生器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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