説明

パワートレイン装置

【課題】クラッチハウジングケースの外周面の面剛性を高めつつも、クラッチハウジングケースを型で成形して製造する場合の生産性を向上する。
【解決手段】クラッチハウジングケース4の外周面37には、そのシリンダブロック11側の外縁部21と変速機ハウジングケース3側の外縁部22との間の中間位置で各頂点33が向き合った複数の三角形状の面34が形成されている。この各頂点33が向き合った複数の三角形状の面34の少なくとも一部は、シリンダブロック側の外縁部21又は変速機ハウジングケース3前側の外縁部22をそれぞれ頂点33と対抗する方向の底辺35としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンと、変速機を収納した変速機ハウジングケースと、クラッチを収納したクラッチハウジングケースとを備え、クラッチハウジングケースは、一端部がエンジンに取り付けられ、他端部が変速機ハウジングケースに取り付けられているパワートレイン装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載されるエンジンは、そのクランク軸の回転によって振動を発生させる。それゆえ、エンジンンの端部に取り付けられる変速機にエンジンの振動が伝達される。そのため、エンジンの振動で変速機が大きく振動し、または揺すられて、エンジンと変速機とで構成されるパワートレイン装置の振動が増加するという不具合がある。
また、エンジンと、変速機を収納した変速機ハウジングケースと、クラッチを収納したクラッチハウジングケースとを備え、クラッチハウジングケースは、一端部がエンジンのシリンダブロックに取り付けられ、他端部が変速機ハウジングケースに取り付けられているパワートレイン装置の場合、エンジンの振動により最も振動する変速機ハウジングケースと、その振動源となるエンジンとの間に配置されるクラッチハウジングケースは、振動による荷重を最も受ける。
【0003】
そのため、クラッチハウジングケースの剛性が低い場合には、クラッチハウジングケースの外周面で面外振動又は膜振動を生じやすくなるとともに、エンジンから最も離れた位置に配置されている変速機ハウジングケースが大きく振動しやすくなり、エンジンと変速機とが共振しやすくなって、パワートレイン装置から生じる振動が増加するおそれがある。
【0004】
これに対して、特許文献1に開示の技術では、トランスミッションケースの外周面に補強用リブを設け、その補強用リブを囲んだ外周面の肉厚を変化させることで、膜振動、面外振動の抑制とケースの曲げ剛性を向上しようとしている。
また、特許文献2に開示の技術では、ケースの外周面を屈曲させ、壁面の内外に補強用のリブを配置することで、放射音を低減しようとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許2898379号公報
【特許文献2】特開2010‐224238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、クラッチハウジングケース等を、ダイカストなど、型で成形して製造する場合は、型の抜き方向の制約があり、クラッチハウジングケースの外周面に大量の補強リブを配置することは困難である。また、クラッチハウジングケースの外周面に大量の補強リブを配置することは、クラッチハウジングケースの重量の増大を招いてしまう。さらに、クラッチハウジングケースの外周面の形状により面外振動の周波数特性が決まるため、補強リブを配置することだけでは当該周波数を大きく変えることは困難である。
本発明の目的は、クラッチハウジングケースの外周面の面剛性を高めつつも、クラッチハウジングケースを型で成形して製造する場合の生産性を向上することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の一実施態様は、エンジンと、変速機を収納した変速機ハウジングケースと、クラッチを収納したクラッチハウジングケースとを備え、前記クラッチハウジングケースは、一端部が前記エンジンのシリンダブロックに取り付けられ、他端部が前記変速機ハウジングケースに取り付けられているパワートレイン装置において、前記クラッチハウジングケースの外周面には、前記シリンダブロック側の外縁部と前記変速機ハウジングケース側の外縁部との間の中間位置で各頂点が向き合った複数の三角形状の面が形成されていて、前記頂点が向き合った複数の三角形状の面の少なくとも一部は、前記シリンダブロック側の外縁部又は前記変速機ハウジングケース側の外縁部をそれぞれ前記頂点と対抗する方向の底辺とし、前記頂点が向き合った複数の三角形状の面は、それぞれ前記底辺を含む仮想平面より前記頂点が外側に位置していて、隣り合う前記三角形状の面の境界は外側に向かって山をなしている、ことを特徴とするパワートレイン装置である。
【0008】
(2)この場合に、前記シリンダブロック側の外縁部及び前記変速機ハウジングケース側の外縁部には、それぞれ前記シリンダブロック又は前記変速機ハウジングケースと前記クラッチハウジングケースとをボルトで締結するための締結部がさらに形成されていて、前記各底辺のうちの少なくとも一部は、少なくともその一端側が前記締結部に連結されている、ことを特徴とするようにしてもよい。
【0009】
(3)また、前記シリンダブロック側の外縁部の前記締結部と前記変速機ハウジングケース側の外縁部の前記締結部との間に形成された補強リブをさらに備え、前記シリンダブロック側の外縁部又は前記変速機ハウジングケース側の外縁部を前記底辺とする前記三角形状の面と隣接していて前記シリンダブロック側の外縁部又は前記変速機ハウジングケース側の外縁部を前記底辺としていない前記三角形状の面の当該底辺が前記補強リブに連結している、ことを特徴とするようにしてもよい。
(4)さらに、前記頂点が向き合った複数の前記三角形状の面は、互いに大きさが異なっている、ことを特徴とするようにしてもよい。
【発明の効果】
【0010】
(1)の実施態様によれば、向き合った頂点は外側に突出し、隣り合う三角形状の面の境界の山も外側に突出して、突出した山が補強リブの役割を果たすので、クラッチハウジングケースの外周面の面剛性を高めることができる。しかし、クラッチハウジングケースの外周面に補強リブは使用していないので、補強リブがクラッチハウジングケースを型で成形して製造する場合の型抜きの障害とはならず、クラッチハウジングケースの生産性を向上することができる。また、クラッチハウジングケースの外周面に補強リブを配置する必要が無いので、クラッチハウジングケースの軽量化を図ることができる。
【0011】
(2)の実施態様によれば、三角形状の面の底辺をクラッチハウジングケースで剛性の高い締結部に連結しているので、三角形状の面で面外振動又は膜振動が発生しても、その振動を締結部に伝達して、クラッチハウジングケースの外周面が過度に振動するのを防止することができる。
(3)の実施態様によれば、シリンダブロック側の外縁部又は変速機ハウジングケース側の外縁部を底辺としていない三角形状の面の当該底辺を補強リブと締結部に連結できるので、当該三角形状の面の剛性をさらに高めて、クラッチハウジングケースの外周面の面外振動(膜振動)や変形をさらに抑制することができる。
【0012】
(4)の実施態様によれば、三角形状の面の大きさや形状を不揃いにすることができ、特定の周波数で面外振動又は膜振動が集中するのを回避し、複数の三角形状の面が共振しやすくなるのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施の形態であるパワートレイン装置の平面図である。
【図2】本発明の一実施の形態であるパワートレイン装置の正面図である。
【図3】本発明の一実施の形態であるパワートレイン装置のクラッチハウジングケースの平面図である。
【図4】本発明の一実施の形態であるパワートレイン装置のクラッチハウジングケースの正面図である。
【図5】本発明の一実施の形態であるパワートレイン装置のクラッチハウジングケースの側面図である。
【図6】本発明の一実施の形態であるパワートレイン装置のクラッチハウジングケースの斜視図である。
【図7】本発明の一実施の形態であるパワートレイン装置のクラッチハウジングケースの部分拡大斜視図である。
【図8】本発明の一実施の形態であるパワートレイン装置のクラッチハウジングケースの部分拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施の形態について説明する。図1は、本発明の一実施の形態であるパワートレイン装置の平面図である。図2は、同パワートレイン装置の正面図である。
このパワートレイン装置1は、車両に搭載される装置であり、エンジン2と、変速機と、クラッチとを備えている。変速機は変速機ハウジングケース3内に収納されている。また、クラッチは、クラッチハウジングケース4内に収納されている。
【0015】
符号11は、エンジン2における複数本のシリンダから構成されるシリンダブロックである。また、符号12は、エンジン2のクランク軸である。符号13は、クランク軸12の軸線を示しており、クランク軸12の軸方向と直交する方向を矢印14で示し、クランク軸12の回転方向を矢印15で示している。また、図2においては、車両の上方向を矢印16で示している。
【0016】
クラッチハウジングケース4の図2における左右方向の一端部は、その外縁部21において、エンジン2のシリンダブロック11に取り付けられている。また、クラッチハウジングケース4の図2における左右方向の他端部は、その外縁部22において、変速機ハウジングケース3に取り付けられている。これらの取り付けはボルトによる部材同士の締結により行われている。符号23は、ボルトによる締結部を示している。
【0017】
このような構成のパワートレイン装置1において、エンジン2の振動により最も振動するのは変速機ハウジングケース3である。図1、図2には、この場合の変速機ハウジングケース3が揺れる方向を矢印17で示している。そして、振動源となるエンジン2と変速機ハウジングケース3との間に配置されるクラッチハウジングケース3は、振動による荷重を最も受けることになる。そこで、振動により大きな荷重を受けるクラッチハウジングケース3の外周面の面剛性を高めるための構造について以下に説明する。
【0018】
図3は、本発明の一実施の形態であるパワートレイン装置のクラッチハウジングケースの平面図である。図4は、同クラッチハウジングケースの正面図である。図5は、同クラッチハウジングケースの側面図である。図6は、同クラッチハウジングケースの斜視図である。図7は、同クラッチハウジングケースの部分拡大斜視図である。図8は、図7のX‐X切断拡大矢視図である。
【0019】
クラッチハウジングケース4の外周面37には、そのシリンダブロック11側の外縁部21と変速機ハウジングケース3側の外縁部22との間の中間位置で各頂点33が向き合った複数の三角形状の面34が形成されている。この各頂点33が向き合った複数の三角形状の面34のうちの少なくとも一部は、シリンダブロック側の外縁部21又は変速機ハウジングケース3側の外縁部22をそれぞれ頂点33と対抗する方向の底辺35としている。すなわち、頂点33が向き合った複数の三角形状の面34の一部は、シリンダブロック11側の外縁部21又は変速機ハウジングケース3側の外縁部22をそれぞれ頂点33と対抗する方向の底辺35としていて、他の一部は、シリンダブロック11側の外縁部21と変速機ハウジングケース3側の外縁部22との間の中間位置を頂点33と対抗する方向の底辺35としている。
【0020】
そして、頂点33が向き合った複数の三角形状の面34は、それぞれその頂点33と対抗する方向の底辺35を含む仮想平面より頂点33がクラッチハウジングケース4の外側に位置していて(特に図8を参照)、隣り合う三角形状の面34の境界36はクラッチハウジングケース4の外側に向かって山をなしている。
【0021】
よって、向き合った頂点33はクラッチハウジングケース4の外側に突出し、隣り合う三角形状の面34の境界36の山もクラッチハウジングケース4の外側に突出して、境界36の突出した山の形状が補強リブの役割を果たすので、クラッチハウジングケース4の外周面37の面剛性を高めることができる。しかし、クラッチハウジングケース4の外周面37に補強リブは使用していないので、補強リブがクラッチハウジングケース4を型で成形して製造する場合の型抜きの障害となることはなく、クラッチハウジングケース4の生産性を向上することができる。また、クラッチハウジングケース4の外周面37に大量の補強リブを配置する必要が無いので、クラッチハウジングケース4の軽量化を図ることができる。
【0022】
また、前述のとおり、シリンダブロック11側の外縁部21及び変速機ハウジングケース3側の外縁部22には、それぞれシリンダブロック11又は変速機ハウジングケース3と、クラッチハウジングケース4とをボルトで締結するための締結部23が形成されている。そして、三角形状の面34の頂点33と対抗する方向の各底辺35のうちの少なくとも一部は、少なくともその一端側が締結部23に連結されている。なお、符号45は締結部23をボルトで締結するためのボルト孔である。
【0023】
このように、三角形状の面34の頂点33と対抗する方向の底辺35をクラッチハウジングケース4で剛性の高い締結部23に連結しているので、三角形状の面34で面外振動又は膜振動が発生しても、その振動を締結部23に伝達してクラッチハウジングケース4の外周面37が過度に振動するのを防止することができる。
さらに、シリンダブロック11側の外縁部21の締結部23と、変速機ハウジングケース3側の外縁部22の締結部23との間に形成された補強リブ41を備えている。そして、シリンダブロック11側の外縁部21又は変速機ハウジングケース3側の外縁部22を頂点33と対抗する方向の底辺35とする三角形状の面34と隣接していて、シリンダブロック11側の外縁部21又は変速機ハウジングケース3側の外縁部22を頂点33と対抗する方向の底辺35とはしていない三角形状の面34の当該底辺35が補強リブ41に連結している。
【0024】
このように、シリンダブロック11側の外縁部21又は変速機ハウジングケース3側の外縁部22を頂点33と対抗する方向の底辺35としていない三角形状の面34の当該底辺35を補強リブ41と締結部23に連結できるので、当該三角形状の面34の剛性をさらに高めて、クラッチハウジングケース4の外周面37の面外振動(膜振動)や変形をさらに抑制することができる。
【0025】
さらに、頂点33が向き合った複数の三角形状の面34は、互いに大きさが異なっている。
このような構成により、頂点33が向き合った各三角形状の面34の大きさや形状を不揃いにすることができ、特定の周波数で面外振動又は膜振動が集中するのを回避し、複数の三角形状の面34が共振しやすくなるのを防止することができる。
【符号の説明】
【0026】
1 パワートレイン装置
2 エンジン
3 変速機ハウジングケース
4 クラッチハウジングケース
11 シリンダブロック
23 締結部
31 シリンダブロック側の外縁部
32 変速機ハウジングケース側の外縁部
33 頂点
34 三角形状の面
35 頂点と対抗する方向の底辺
36 境界
41 補強リブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、変速機を収納した変速機ハウジングケースと、クラッチを収納したクラッチハウジングケースとを備え、前記クラッチハウジングケースは、一端部が前記エンジンのシリンダブロックに取り付けられ、他端部が前記変速機ハウジングケースに取り付けられているパワートレイン装置において、
前記クラッチハウジングケースの外周面には、前記シリンダブロック側の外縁部と前記変速機ハウジングケース側の外縁部との間の中間位置で各頂点が向き合った複数の三角形状の面が形成されていて、
前記頂点が向き合った複数の三角形状の面の少なくとも一部は、前記シリンダブロック側の外縁部又は前記変速機ハウジングケース側の外縁部をそれぞれ前記頂点と対抗する方向の底辺とし、
前記頂点が向き合った複数の三角形状の面は、それぞれ前記底辺を含む仮想平面より前記頂点が外側に位置していて、隣り合う前記三角形状の面の境界は外側に向かって山をなしている、
ことを特徴とするパワートレイン装置。
【請求項2】
前記シリンダブロック側の外縁部及び前記変速機ハウジングケース側の外縁部には、それぞれ前記シリンダブロック又は前記変速機ハウジングケースと前記クラッチハウジングケースとをボルトで締結するための締結部がさらに形成されていて、
前記各底辺のうちの少なくとも一部は、少なくともその一端側が前記締結部に連結されている、
ことを特徴とする請求項1に記載のパワートレイン装置。
【請求項3】
前記シリンダブロック側の外縁部の前記締結部と前記変速機ハウジングケース側の外縁部の前記締結部との間に形成された補強リブをさらに備え、
前記シリンダブロック側の外縁部又は前記変速機ハウジングケース側の外縁部を前記底辺とする前記三角形状の面と隣接していて前記シリンダブロック側の外縁部又は前記変速機ハウジングケース側の外縁部を前記底辺としていない前記三角形状の面の当該底辺が前記補強リブに連結している、
ことを特徴とする請求項2に記載のパワートレイン装置。
【請求項4】
前記頂点が向き合った複数の前記三角形状の面は、互いに大きさが異なっている、ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかの一に記載のパワートレイン装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2013−92165(P2013−92165A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−232744(P2011−232744)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】