説明

パール調陽極酸化皮膜及びパステルカラー調陽極酸化皮膜の形成方法

【課題】色調に深みがあり、高級感のあるパール調の陽極酸化皮膜又はパステルカラー調の二次電解着色陽極酸化皮膜の形成方法の提供を目的とする。
【解決手段】アルミニウム合金をシュウ酸電解液中にて電解し、金属表面と陽極酸化皮膜との界面が概ね均一になるように均一皮膜を形成した後に、電圧を降下させることで、前記界面に凹部形状からなる膜質調整部分を形成し、膜質の未調整部分の割合が面積比で90〜10%の範囲にすることで界面の未調整部分と調整部分との反射光による干渉により、パール調の色調を得ることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規パール調又はパステルカラー調の陽極酸化皮膜を形成する陽極酸化処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から不透明白色の陽極酸化皮膜(アルマイト皮膜)を形成する方法は公知である。
不透明白色皮膜を得る方法には陽極酸化する主に電解液に基づくものと、主にアルミニウム合金成分に基づくものがある。
電解液に基づくものはクロム酸等の特殊な電解液を用いるものであり、電解液が高価であったり、排水処理が大変で環境負荷が大きいものであった。
また、アルミニウム合金成分に基づくものとしては、例えば特許文献1に銅を0.05〜4.0%含有するアルミニウム合金を用いる不透明陽極酸化皮膜の形成方法を開示する。
しかし、アルミニウム合金成分に基づくものは、一般的に広く採用されている押出材や圧延材とは異なり、特別にアルミニウム合金を鋳造しなければならず、割高になる問題があった。
【0003】
上記に示した電解液に基づくものであってもアルミニウム合金成分に基づくものであっても、いずれも従来はアルマイト皮膜を不透明にするものであって、色調に深みが無く、高級感に劣るものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭52−117844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は色調に深みがあり、高級感のあるパール調の陽極酸化皮膜又はパステルカラー調の二次電解着色陽極酸化皮膜の形成方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るパール調陽極酸化皮膜の形成方法は、アルミニウム合金をシュウ酸電解液中にて電解し、金属表面と陽極酸化皮膜との界面が概ね均一になるように均一皮膜を形成した後に、電圧を降下させることで、前記界面に凹部形状からなる膜質調整部分を形成し、膜質の未調整部分の割合が面積比で90〜10%の範囲にすることで界面の未調整部分と調整部分との反射光による干渉により、パール調の色調を得ることを特徴とする。
ここで、パール調と表現したのは陽極酸化皮膜を通過し、電圧降下により金属表面と陽極酸化皮膜との界面が改質調整された凹部の底部から反射する光と、未だ改質されていない未調整部分の界面から反射する光とが干渉し、真珠に似た色合いが生じることをいう。
【0007】
従って、このような干渉色を得るには、アルミニウム合金素材の表面にある程度の光沢があるのは望ましく、アルミニウム合金は、表面に機械的、化学的及び電気化学的な研磨のいずれかを単独又は複合的に用いて研磨処理を施してあるのが好ましい。
ここで、機械的研磨の代表例にはバフ研磨が挙げられ、化学的研磨の代表例にはリン酸−硝酸系の80〜100℃の浴温に浸漬する方法が代表例として挙げられる。
また、電気化学的研磨の代表例には電解研磨が挙げられる。
【0008】
本発明にあっては、上記パール調の陽極酸化皮膜にいわゆる二次電解着色法を組み合せて、色合いに深みのあるパステルカラー調の陽極酸化皮膜を得ることも可能である。
よって、本発明に係るパステルカラー調陽極酸化皮膜は、アルミニウム合金をシュウ酸電解液中にて電解し、金属表面と陽極酸化皮膜との界面が概ね均一になるように均一皮膜を形成した後に、電圧を降下させることで、前記界面に凹部形状からなる膜質調整部分を形成し、膜質の未調整部分の割合が面積比で90〜10%の範囲に調整し、次に、金属イオンを有する電解液中にて二次電解着色することを特徴とする。
ここで、二次電解着色とは陽極酸化皮膜の微小細孔(ポーラス皮膜)に交流電解等により金属イオンを析出させることでアンバー、ブロンズ、ブルー、レッド等の各種着色を施すことをいう。
二次電解着色浴としての代表例は、Sn浴、Ni浴、Sn−Ni混合浴が挙げられる。
なお、本発明においては、パール調陽極酸化皮膜に染色法にて着色する方法を採用してもよいが、耐候性を考慮すると二次電解着色が好ましい。
【0009】
パステルカラー調陽極酸化皮膜を得る場合にもアルミニウム合金は、表面に機械的、化学的及び電気化学的な研磨のいずれかを単独又は複合的に用いて研磨処理を施してあるのが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、シュウ酸電解液中にてアルミニウム合金に陽極酸化皮膜を形成する際に、均一皮膜を形成した後に単に電圧降下させるだけでなく、電圧降下により改質される金属表面と皮膜との界面部分の調整部分の割合を制御したことにより、パール調の深みのある皮膜を形成することができる。
【0011】
また、本発明においてはパール調の陽極酸化皮膜に二次電解着法を組み合せたことにより、深みのあるパステルカラー調の陽極酸化皮膜を形成することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】陽極酸化皮膜の形成条件とその結果を示す。
【図2】陽極酸化皮膜の着色条件とその結果を示す。
【図3】陽極酸化皮膜の金属表面界面のSEM観察写真を示す。
【図4】陽極酸化皮膜の金属表面界面の模式図及び未調整部分の割合Rを求める式を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態例を以下実験結果に基づいて説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
図1の表に示す合金成分からなるアルミニウム合金のビレットを用いて押出材を製作した。
実施例1〜6は、押出材の表面をバフ研磨し、その後に化学研磨をした。
化学研磨は、リン酸60〜80%,硝酸1〜3%の液組成,85〜95℃,30〜180秒間浸漬処理した。
その後に常法に従い、水洗い,酸洗浄及び水酸をし、シュウ酸濃度25〜35g/l,浴温25〜35℃にて表に示した条件にて陽極酸化した。
陽極酸化は、1段目41〜48Vの範囲にて20分間電解し、その後に16〜18Vに電圧降下させ、所定時間皮膜の改質調整をした。
このようにして得られた陽極酸化皮膜を測定した膜厚,色差,光沢,未調整部分の割合を表に示す。
ここで膜厚は、うず電流式膜厚計(LZ−300C,ケット科学研究所)にて測定した。
色差は、色測色差計(CR−400,KONICA MINOLTA)を用いてL*a*b*法にて測定表示した。
光沢は反射角20°のグロス値(マイクロ−トリ−グロス,Gardner)を測定した。
未調整部分の割合Rは、例えば図3に実施例1,2,3の例を示すようにSEM(JSM6700F,JOEL)の観察像から、図4に示す計算式に基づいて求めた。
なお、分かりやすくするために図4は図3に示した観察像を模式的に表現したものである。
実施例1〜6のいずれもパール調の陽極酸化皮膜が形成されていて、未調整部分の割合Rが90〜10%の範囲がよいことが分かる。
その中でも実施例1よりも実施例2の方がパール調が強く、実施例2よりも実施例3〜6の方がパール調が強く現れていたことから、未調整部分の割合は好ましくはR=65〜10%、さらに望ましくはR=50〜10%がよい。
また、実施例1〜6の中で相対比較すると、L*=65以上、a*=±5,b*=±5の範囲、好ましくはL*=75以上、a*=±3,b*=±3の範囲がパール調に近いことも明らかになった。
【0014】
これに対して比較例1は、化学研磨の替わりに苛性ソーダによるアルカリエッチング処理し、その後にシュウ酸電解液を用いて1段目の条件で電解し、2段目の条件に電圧降下したが、金属表面の荒れが大きく未調整の割合が測定できなかった。
また、パール調の深みが殆ど認められなかった。
比較例2及び比較例3は、アルミニウム合金の表面に機械的又は化学的に凹部を形成した場合に光の干渉によるパール調が得られるか調査したものであり、比較例2はブラスト処理にて機械的に凹部を形成した場合で、比較例3は化学的に凹部を形成した場合であるがいずれもパール調は生じなかった。
【0015】
図2の表に示す実施例7〜9は、シュウ酸電解液中にて、1段目及び、電圧降下させた2段目の条件で陽極酸化処理した皮膜に、公知のSn浴又はNi浴を用いて液温25℃にて交流電解することで着色した。
この結果、真珠のような深みと着色による色調が結合したパステルカラー調の皮膜が形成された。
【0016】
本発明に用いるアルミニウム合金は、概ね均一な陽極酸化皮膜が形成されるものであれば特に限定されない。
一般的には日本工業規格(JIS)にて定められている1000系,5000系及び6000系のアルミニウム合金が対象になる。
合金成分的には、Si及びMnは添加量が多いと陽極酸化皮膜中に析出物として取り込まれ、皮膜の透明度が低下するのでSiは1%以下、Mnは0.5%以下が好ましい。
また、アルミニウム合金中には一般的に不純物としてFeが含まれている場合が多いが、Fe成分も皮膜の透明度に影響を与えるので、0.2%以下、好ましくは0.1%以下がよい。
Cu成分は、化学研磨処理時に光沢性を向上させるので、0.05%以上含まれているのが好ましいが、0.3%を超えると皮膜が不均一になる恐れがある。
よって、Cu成分は0.05〜0.3%,好ましくは0.05〜0.2%の範囲がよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金をシュウ酸電解液中にて電解し、金属表面と陽極酸化皮膜との界面が概ね均一になるように均一皮膜を形成した後に、電圧を降下させることで、前記界面に凹部形状からなる膜質調整部分を形成し、膜質の未調整部分の割合が面積比で90〜10%の範囲にすることで界面の未調整部分と調整部分との反射光による干渉により、パール調の色調を得ることを特徴とするパール調陽極酸化皮膜の形成方法。
【請求項2】
アルミニウム合金は、表面に機械的、化学的及び電気化学的な研磨のいずれかを単独又は複合的に用いて研磨処理を施してあることを特徴とする請求項1記載のパール調陽極酸化皮膜の形成方法。
【請求項3】
アルミニウム合金をシュウ酸電解液中にて電解し、金属表面と陽極酸化皮膜との界面が概ね均一になるように均一皮膜を形成した後に、電圧を降下させることで、前記界面に凹部形状からなる膜質調整部分を形成し、膜質の未調整部分の割合が面積比で90〜10%の範囲に調整し、次に、金属イオンを有する電解液中にて二次電解着色することを特徴とするパステルカラー調陽極酸化皮膜の形成方法。
【請求項4】
アルミニウム合金は、表面に機械的、化学的及び電気化学的な研磨のいずれかを単独又は複合的に用いて研磨処理を施してあることを特徴とする請求項3記載のパステルカラー調陽極酸化皮膜の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−229537(P2010−229537A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−81217(P2009−81217)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000100791)アイシン軽金属株式会社 (137)