説明

ヒューズエレメント及びこのヒューズエレメントを備えたヒューズ

【課題】大過電流にも小過電流にも対応可能であり、かつ、大過電流により溶断部が溶断した後には電流を完全に遮断する。
【解決手段】過電流が流れた場合に溶断するヒューズエレメント2であって、銅棒又は銅線に、断面積が他部位より大きい少なくとも2つの大断面積部30a、30bを、当該銅棒又は銅線の長さ方向の中央位置に関して対称となるように設け、前記銅棒又は銅線の大断面積部30aと30bの間の部位のうち少なくとも何れかの部位の表面に、前記中央に関して対称な配置となるように錫を接合してなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
過電流が流れた場合に溶断するヒューズエレメント及びこのヒューズエレメントを備えたヒューズに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、所定の規定値を大幅に上回る電流(大過電流)が流れた場合に、この大過電流により溶断部が瞬間的に発熱して溶けることで溶断する大過電流用ヒューズがある。
【0003】
また、所定の規定値を小幅に上回る電流(小過電流)が所定の時間、継続的に流れた場合に溶断する小過電流用ヒューズがある。この小過電流用ヒューズでは、小過電流が流れることによって溶断部が比較的緩やかに発熱し、その溶断部に接合された低融点の金属(錫等)が溶けて導線の銅と合金化することにより、導線が細くなる。そうすると、溶断部の電気抵抗は増し、溶断部がさらに発熱して溶断に至る。
【0004】
以上のような大過電流用ヒューズと小過電流用ヒューズを組合せると、大過電流にも小過電流にも対応可能なヒューズとなる。例えば、特許文献1に記載のヒューズは、上述の大過電流用ヒューズと小過電流用ヒューズを1つずつ組合せたものである。
【特許文献1】特開昭60−8573号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1に記載されたヒューズでは、大過電流によって溶断する溶断部が一箇所であるため、溶断後に放電等によって再接続が起こり、大過電流を確実に遮断できないおそれがある。
【0006】
本発明は、このような課題に対して、大過電流にも小過電流にも対応可能であり、かつ、大過電流により溶断した後には電流を完全に遮断することが可能なヒューズエレメント及びこのヒューズエレメントを備えたヒューズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、過電流が流れた場合に溶断するヒューズエレメントであって、
銅棒又は銅線に、断面積が他部位より大きい少なくとも2つの大断面積部を、前記ヒューズエレメントの長さ方向の中央位置に関して対称となるように設け、前記銅棒又は銅線の前記大断面積部の間の部位のうち少なくとも何れかの部位の表面に、前記中央に関して対称な配置となるように錫を接合してなることを特徴とするヒューズエレメントである。
【0008】
第2の発明は、前記大断面積部の両側における前記銅棒又は銅線が、湾曲していることを特徴とする第1の発明に記載のヒューズエレメントである。
【0009】
第3の発明は、前記ヒューズエレメントが、一体の前記銅棒又は銅線を切削することにより前記大断面積部を構成してなることを特徴とする第1又は第2の発明に記載のヒューズエレメントである。
【0010】
第4の発明は、第1〜3の発明のうち何れかに記載のヒューズエレメントが容器に収納されてなることを特徴とするヒューズである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、大過電流にも小過電流にも対応可能であり、かつ、大過電流により溶断部が溶断した後には電流を完全に遮断することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は、本発明の一実施形態であるヒューズ1の構成を示す断面図である。同図に示すように、ヒューズ1は、ヒューズエレメント2、接続部40(左接続部40a、右接続部40b)、ガラス管41、透明ケース42、断熱材43、接続用スリーブ44、端子カバー45等により構成される。また、ヒューズエレメント2は、銅線又は銅棒により構成され、この銅線又は銅棒に設けられた小過電流溶断部10、大過電流溶断部20(左溶断部20a、右溶断部20b)、及び大断面積部30(左大断面積部30a、右大断面積部30b)を備える。なお、以下の説明では、ヒューズエレメント2が銅棒3により構成されるものとして説明する。
【0013】
大断面積部30は、断面積が他部位よりも大きい部位であって、銅棒3に少なくとも2つ(本実施形態では2つ;以下、「大断面積部30a、30b」とする)設けられる。2つの大断面積部30a、30bは、それらの長さ及び断面積が互いに等しくなるように構成されており、ヒューズエレメント2の長さ方向中央位置に関して対称に設けられている。
【0014】
小過電流溶断部10は、大断面積部30a及び30bの間の部位の周囲に錫を接合されて構成される。なお、本出願における「錫」とは、純粋な錫のみならず、錫を主成分として、少量の銀や銅等の他の金属を含有した合金も含まれるものとする。錫は、大断面積部30a及び30bの間の全長に亘って接合してもよいし、あるいは、大断面積部30a及び30bの間に部分的に接合してもよい。部分的に接合する場合は、錫の接合部を、ヒューズエレメント2の長さ方向中央部に関して対称な配置となるように設けるものとする。
【0015】
小過電流溶断部10に、継続的な小過電流(例えば1,000A未満)が流れると、この電流による発熱によって錫が溶けて銅線の銅と合金化することにより、銅線の銅の部分が細くなる。そうすると、小過電流溶断部10の電気抵抗は増し、小過電流溶断部10がさらに発熱する。加えて、銅の融点は約1,100℃であるが、銅が溶けた錫(融点は約230℃)と合金化すると融点が数百℃低下するので、さらに溶けやすくなる。すなわち、銅線が細くなり電気抵抗が増加することによる発熱量増加と、銅が錫と合金化することによる融点低下とにより小過電流溶断部10は溶断する。なお、小過電流溶断部10は、例えば、100Aの電流が10分以上流れた場合、160Aの電流が40秒以上流れた場合、あるいは、400Aの電流が6秒以上流れた場合等に溶断するように設計される。
【0016】
大過電流溶断部20は、大断面積部30a、30bの、銅棒3の端部側に接続された2つの部位(以下、それぞれ「左溶断部20a」及び「右溶断部20b」とする)である。大過電流溶断部20に、定格電流を大きく上回る大過電流(例えば、3,000A以上)が流れた場合に、銅線が急激に発熱することにより瞬間的に溶断する。左溶断部20aと右溶断部20bは、大過電流が流れたときに同時に溶断されるように、同じ長さかつ同じ断面積に構成されている。なお、大過電流溶断部20(左溶断部20a、右溶断部20b)は、直線状であってもよいが、発熱による熱膨張を吸収してヒューズエレメント2に過大な応力が作用するのを防止し、また、ヒューズエレメント2の全長を小さくしてヒューズ1を小型化するために、湾曲した形状を有することが好ましい。
【0017】
接続部40(40a、40b)は、ヒューズエレメント2の両端に接続されると共に、接続スリーブ44によって電線100に接続している。より具体的には、接続部40aは、左溶断部20aの図1中左側に設けられ、接続部40bは、右溶断部20bの図1中右側に設けられる。また、接続部40a、40bは、導電性の接続用スリーブ44によって外部導線100に接続され、この接続用スリーブ44の周囲は、端子カバー45によって覆われている。
【0018】
ヒューズエレメント2は、筒状のガラス管41に収納され、ガラス管41は透明ケース42によって保護される。また、ガラス管41の両端は断熱材43によって封止されている。
【0019】
なお、小過電流溶断部10、大過電流溶断部20、大断面積部30を備えるヒューズエレメント2及び接続部40は、銅棒3を切削することによって製作された一体の部材であることが好ましい。すなわち、例えば、大面積部30の断面と同じあるいは少し大きい断面の銅棒3を用いて、大小過電流溶断部10と大過電流溶断部20に相当する箇所において銅棒3の周囲を切削することにより小過電流溶断部10と大過電流溶断部20を構成し、大断面積部30及び接続部40に相当する部位においては、切削せず、または、少しだけ切削することで大断面積部30及び接続部40を構成する。この場合、小過電流溶断部10には、切削した後に、錫を接合させる。このように、ヒューズエレメント2及び接続部40を切削により製作することで、銅棒3の接合箇所がなくなり、接合部における接触不良等による性能劣化や耐久性の低下等の不具合を防止できる。ただし、本発明はこれに限らず、小過電流溶断部10、大断面積部30(30a、30b)、及び大過電流溶断部20(20a、20b)を別部材で構成し、それらを圧着等により接合して製作してもよい。
【0020】
次に大過電流及び小過電流がそれぞれ流れたときのヒューズエレメント2の作用について説明する。
【0021】
図2には、大過電流が流れたときのヒューズエレメント2の温度分布を温度分布曲線51で示している。なお、上記のようにヒューズエレメント2の大過電流溶断部20は湾曲した形状であるのが好ましいが、同図では温度分布を簡潔に示すため、大過電流溶断部20を直線状の形状として示している。
【0022】
小過電流溶断部10は、周囲に錫が接合されているので熱容量が大きく、大断面積部30も大断面積であるので熱容量が大きい。このため、瞬間的に大過電流が流れたときに大断面積部30及び小過電流溶断部10の温度は上昇しにくく、大断面積部30の両側の大過電流溶断部20a、20bの温度が上昇し易くなる。その結果、図2に温度分布曲線51で示すように、大過電流溶断部20a、20bで高温となり、これら大過電流溶断部20a、20bにおいて溶断が生ずる。このとき、上記のごとく、大過電流溶断部20a、20bの長さ及び断面積が互いに等しいので、大過電流溶断部20a、20bの温度上昇の度合いも同じとなり、溶断は同時に生ずることになる。すなわち、大過電流による溶断が2箇所で同時に生ずるので、溶断時の放電による再接続が生じにくく、これにより、大過電流を確実に遮断することができる。
【0023】
また、大過電流溶断部20と小過電流溶断部10との間に大断面積部30が設けられていることで、溶断時のアーク放電による高熱が小過電流溶断部10に伝達されにくい。このため、アーク放電による高熱で錫が蒸発することを防止でき、これにより、密閉されたガラス管41内の圧力上昇によるガラス管41の破裂を防止できる。
【0024】
図3には、小過電流が流れたときのヒューズエレメント2の温度分布を温度分布曲線52で示している。なお、同図においても図2と同様の理由で大過電流溶断部20を直線状の形状として示している。
【0025】
小過電流が流れたときには、ヒューズエレメント2の温度上昇は緩やかに生じるので、ヒューズエレメント2の熱は接続部40を介して、熱容量が大きい電線側へ逃げやすい。このとき、ヒューズエレメント2の両端に近いほど熱が逃げやすいので、図3に温度分布曲線52で示すように、ヒューズエレメント2の両端に近いほど温度は低くなり、中央部の小過電流溶断部10において温度が高くなる。このため、小過電流溶断部10において接合された錫が溶けることにより、銅が錫と合金化して融点が下がり、銅自体も溶けて溶断する。つまり、小過電流時に小過電流溶断部10が溶断することとなり、小過電流が一定時間、継続して流れた場合に、その小過電流を確実に遮断することができる。
【0026】
以上の通り、本実施形態のヒューズ1は、大過電流溶断部20を構成する左溶断部20aと右溶断部20bとが、同じ長さで同じ断面積に構成されているので、大過電流が流れた際には、同時に2箇所で溶断することとなり、これにより、大過電流により溶断した場合に放電等による再接続を防止することができる。また、小過電流が継続的に流れた際にも小過電流溶断部10が溶断することで、小過電流も確実に遮断することができる。
【0027】
また、大断面積部30により、大過電流が流れたときに大過電流溶断部20において生じた熱が、小過電流溶断部10に接合された錫に伝達されるのが抑制されるので、錫の蒸発を防止し、錫の蒸発に伴う圧力上昇によるガラス管41の破裂を防止できる。
【0028】
また、ヒューズエレメント2及び接続部40を、単一の銅棒を切削することにより製作することで、各部10〜40の接続点において接触不良等が生じることがなく、耐久性等の性能に優れたものとすることができる。
【0029】
さらに、大過電流溶断部20を湾曲した形状に形成することで、小過電流溶断部10や大過電流溶断部20の発熱による熱膨張や外部から与えられる荷重等に対しても、それらを湾曲によって吸収することができると共に、その全長を短くしてヒューズ1の小型化を図ることが可能となる。
【0030】
ところで、上記実施形態では大断面積部30を2つ設けたが、本発明はこれに限らず、3つ以上の大断面積部30を設けてもよい。この場合、ヒューズエレメント2の長さ方向中央部に関して対称となるように、長さ及び断面積が互いに等しい大断面積部30を設け、錫の接合部も、銅棒3の長さ方向中央部に関して対称な配置となるように設ければよい。
【0031】
なお、以上の実施形態の説明は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施形態であるヒューズ1の構成を示す図である。
【図2】大過電流が流れたときのヒューズエレメント2の温度分布を示す図である。
【図3】小過電流が流れたときのヒューズエレメント2の温度分布を示す図である。
【符号の説明】
【0033】
1 ヒューズ
2 ヒューズエレメント
3 銅棒
10 小過電流溶断部
20 大過電流溶断部
30 大断面積部
40 接続部
41 ガラス管
42 透明ケース
43 断熱材
44 接続用スリーブ
45 端子カバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
過電流が流れた場合に溶断するヒューズエレメントであって、
銅棒又は銅線に、断面積が他部位より大きい少なくとも2つの大断面積部を、前記ヒューズエレメントの長さ方向の中央位置に関して対称となるように設け、前記銅棒又は銅線の前記大断面積部の間の部位のうち少なくとも何れかの部位の表面に、前記中央に関して対称な配置となるように錫を接合してなることを特徴とするヒューズエレメント。
【請求項2】
前記大断面積部の両側における前記銅棒又は銅線は、湾曲していることを特徴とする請求項1に記載のヒューズエレメント。
【請求項3】
前記ヒューズエレメントは、一体の前記銅棒又は銅線を切削することにより前記大断面積部を構成してなることを特徴とする請求項1又は2記載のヒューズエレメント。
【請求項4】
請求項1〜3のうち何れかに記載のヒューズエレメントが容器に収納されてなることを特徴とするヒューズ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−293908(P2008−293908A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−140552(P2007−140552)
【出願日】平成19年5月28日(2007.5.28)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【出願人】(000104397)カワソーテクセル株式会社 (2)
【Fターム(参考)】