説明

ヒータの温度制御方法及びこれを利用した温度制御装置

【課題】押出機等の加熱において効率的な加熱を行うこととともに資源保護、環境保護の観点からどのような使用条件下においてもヒータの過酷な使用を避け、ヒータの所定の寿命が確保できるようなヒータの温度制御方法及びこれを利用した温度制御装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る温度制御方法は、押出機のシリンダ、金型又は付帯機器等の被加熱体の加熱源に用いられるヒータの温度制御方法であって、前記被加熱体の設定温度に対し、前記ヒータの温度が該ヒータの目標寿命から求められる設定温度を超えないように該ヒータの温度制御を行うことにより実施される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押出機やその付帯機器等に使用されるヒータの温度制御方法及びこれを利用した温度制御装置に係り、特にヒータ寿命が長くなるように加熱することを考慮したヒータの温度制御方法及びこれを利用した温度制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
押出機やこれに付帯するギアポンプ、金型あるいはペレット造粒装置等には、プラスチック材料を所定温度で賦形するためにこれらの機器を加熱するヒータが用いられている。そして、ヒータは、これらの機器に鋳込みヒータとして、またカートリッジヒータとして用いられている。従来、押出機や付帯機器に用いられるヒータの温度制御は、如何に効率的に早く、これらの機器やプラスチック材料を所定温度に加熱するかが重要であり、これらの機器を加熱する際の機器温度やプラスチック材料温度のハンチング又はオーバーシュートや、制御の時間遅れが問題であった。
【0003】
このため、例えば、特許文献1においては、押出機のシリンダ温度制御によって成形樹脂温度を制御する場合に、シリンダの目標温度と実測温度との偏差に、金型に押し出される直前の樹脂の目標樹脂温度と実測値の偏差に基づいて変動する変動係数を乗じて制御する方法を採用し、変動係数を経験豊富な操作員に頼らないでも求めることができる方法が提案されている。
【0004】
また、特許文献2には、金型内部の温度オーバーシュートおよび金型表面の過剰加熱を回避し、金型内部の温度を短時間で設定温度に安定させるために、金型の表面及び内部温度を測定し、先ず金型の表面温度の目標値と実測値との偏差に基づいてヒータをPD制御し、つぎに金型の内部温度の目標値と実測値に基づいてヒータをPID制御する方法が提案されている。
【0005】
一方、特許文献3には、ヒータ断線による異常加熱が生ずると押出成形装置の破損事故につながるので、ヒータ断線等の異常が発生した場合に警報を出す方法が提案されている。このヒータ断線警報方法は、押出成形装置使用時の電圧変動やヒータが温度に依って抵抗値が変化しても確実に警報を出すことができるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11-34149号公報
【特許文献2】特開2003-200426号公報
【特許文献3】特開平11-268103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記に示すように、従来の押出機やその付帯機器等に使用されるヒータの温度制御方法は、これらの機器の効率的な温度制御を如何に行うかを中心とする技術思想を基とし、ヒータの性能を十二分に発揮させ、そのヒータが断線する前に交換すべく断線警報を出す方法が採用されていた。しかし、これらの機器に使用されるヒータの温度制御方法においても、資源保護、環境保護という社会的な観点も必要とされるべきである。
【0008】
また、押出機等の定常的な運転の場合と異なり、起動・停止時にはプロセスの熱バランスが崩れてヒータの異常加熱を生じ易く、ヒータ寿命を短くするばかりでなく樹脂の劣化、発火などの二次的不具合を発生させる懸念がある。例えば、ペレット造粒装置の一種であるアンダーウォーターカッタ装置においては、樹脂を水中に押し出すノズルや金型表面の温度を高温にキープするため高能力ヒータが使用されており、起動又は停止時には必然的にプロセスの熱バランスが崩れ易いという問題がある。さらに、ヒータの断線が生じると、ヒータ交換作業や稼動停止による損失は大きいという問題がある。
【0009】
本発明は、押出機等の加熱において効率的な加熱を行うとともに資源保護、環境保護の観点からどのような使用条件下においてもヒータの過酷な使用を避け、ヒータの所定の寿命が確保できるようなヒータの温度制御方法及びこれを利用した温度制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る温度制御方法は、押出機のシリンダ、金型又は付帯機器等の被加熱体の加熱源に用いられるヒータの温度制御方法であって、前記被加熱体の設定温度に対し、前記ヒータの温度が該ヒータの目標寿命から求められる設定温度を超えないように該ヒータの温度制御を行うことにより実施される。
【0011】
また、本発明に係る温度制御方法は、押出機のシリンダ、金型又は付帯機器等の被加熱体の加熱源に用いられるヒータの温度制御方法であって、前記被加熱体の設定温度SV1と該被加熱体の実測温度PV1に基づくPID制御出力値O1に対し、前記ヒータの設定温度SV2と該ヒータの実測温度PV2に基づくPID制御補正出力値O2を減じた温度制御値O1-O2により該ヒータの温度制御を行うことにより実施される。
【0012】
本発明に係るヒータの温度制御装置は、押出機のシリンダ、金型又は付帯機器等の被加熱体の温度を測定する温度センサと、前記被加熱体の加熱源に用いられるヒータの温度を測定するヒータ温度センサと、前記被加熱体の設定温度と前記温度センサからの入力値に基づき温度制御値を求める温度制御器と、前記ヒータの設定温度と前記ヒータ温度センサからの入力値に基づき温度補正値を求める温度リミット演算器と、前記温度制御値から前記温度補正値を減じた値により前記ヒータの温度を制御する出力リミッタと、を有してなる。
【0013】
上記ヒータの温度制御装置は、ヒータの設定温度がヒータの寿命曲線に基づいて求められるものであるのがよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のヒータの温度制御によれば、押出機やこれに付帯する機器に使用されるヒータについて、どのような使用条件下においてもヒータの過酷な使用を避け、ヒータの所定の寿命を確保することができ、起動・停止時のプロセスの熱バランスが崩れ易い場合にもヒータの異常加熱を防止し、樹脂の劣化、発火などの二次的不具合の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】ヒータ寿命曲線の例を示すグラフである。
【図2】アンダーウォーターカッタ装置が付帯した押出機の概要を示す模式図(a)と、アンダーウォーターカッタ装置の金型部のノズル側から見た部分拡大図(b)である。
【図3】本発明に係るヒータの温度制御装置の構成を示す模式図である。
【図4】図3に示す温度制御装置によりヒータを温度制御する場合の、ヒータ、金型の温度制御の様子を示すグラフである。
【図5】ヒータ寿命を考慮しないでヒータを制御する場合のヒータ、金型の温度制御の様子を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。本発明に係るヒータの温度制御方法は、押出機のシリンダ、金型又は付帯機器等の被加熱体の加熱源に用いられるヒータの温度制御方法であり、被加熱体の温度制御が、押出しされる樹脂の温度の目標設定値を設けて被加熱体の温度制御がされ、その温度制御は樹脂温度の目標設定値と実測値、被加熱体の温度の目標設定値と実測値に基づいて行われる点においては、公知の方法が使用される。しかしながら、本発明においては、被加熱体の目標設定値までの加熱条件おいて、ヒータの温度が所定の設定温度を超えないで加熱が行われるように温度制御されるようになっている。このヒータ設定温度は、ヒータの寿命曲線から求めるのがよい。
【0017】
すなわち、本ヒータの温度制御方法は、ヒータが図1に示す寿命曲線を有する場合において、例えばヒータ寿命を2×103hrとする場合は、ヒータの温度が870℃を超えないように被加熱体の温度制御を行う。図1に示すように、ヒータの寿命はヒータ温度により対数的に減少しており、ヒータ温度がヒータの寿命を左右する重要な因子であることが解る。従って、本ヒータの温度制御方法によれば、ヒータの寿命をほぼ知ることができるのでヒータを適切な時期に交換することができ、押出機の稼動においてヒータ断線による不要なトラブルの発生を防止することができる。
【0018】
本ヒータの温度制御方法は、図2に示す押出機10において好適に実施することができる。図2は、アンダーウォーターカッタ装置20を付帯した押出機10を示し、アンダーウォーターカッタ装置20の金型25の温度制御を行う場合の例を示す。押出機10は、図2(a)に示すように、シリンダ11、主モータ13、減速機15及びギアポンプ17を有している。
【0019】
また、図2(b)に示すように、金型25のノズル26には樹脂の吐出口27が設けられ、金型加熱用のヒータ28が設けられている。そして、金型の温度を検出する金型温度センサ31と、ヒータの温度を検出するヒータ温度センサ36が設けられている。
【0020】
図3は、ヒータの温度制御装置50を示し、金型25に設けられたヒータ28が出力リミッタ56からの出力により制御されるようになっている。このヒータの温度制御装置50において、温度制御器52は、金型(被加熱体)25の設定温度(SV値)と金型温度センサ(温度センサ)31からの入力値(PV値)に基づき温度制御値を求めることができるようになっている。温度リミット演算器54は、ヒータ28の設定温度とヒータ温度センサ36からの入力値に基づき温度補正値を求めることができるようになっている。
【0021】
すなわち、例えば、金型25の設定温度SV1、金型の実測温度PV1とし、ヒータ28の設定温度SV2、ヒータ28の実測温度PV2とすると、温度制御器52により金型25の設定温度SV1と金型の実測温度PV1とに基づくPID制御出力値O1を求める。温度リミット演算器54により、ヒータ28の設定温度SV2とヒータ28の実測温度PV2とに基づくPID制御補正出力値O2を求める。そして、求められたPID制御出力値O1からPID制御補正出力値O2を減じた温度制御値O1-O2を出力リミッタ56に入力し、出力リミッタ56はこの入力値に基づいてヒータ28の温度制御を行う。ヒータ28の設定温度SV2は、上述のように、ヒータ28の寿命曲線から求めるのがよい。また、PID制御を行う場合、微分要素を強くしてオーバーシュートを抑えるようにするのがよい。なお、本例のヒータ28の設定温度SV2は、800℃になっている。
【0022】
本ヒータの温度制御装置50によりヒータの温度制御を行った場合の、ヒータ、金型の温度制御の様子を図4に示す。図4において、横軸は制御開始後の時間、縦軸は金型25又はヒータ28の温度と、温度制御器52、温度リミット演算器54又は出力リミッタ56の出力を示す。図4から解るように、ヒータ温度は800℃以下に抑えられており、金型温度は12min経過後に300℃になっている。なお、図4において、出力リミッタ56の出力は白丸印(ヒータ制御出力)で示す。
【0023】
ヒータ温度を考慮しない従来方法でヒータ28の温度を制御した場合のヒータ、金型の温度制御の様子を図5に示す。図5によると、金型温度が300℃に達する時間は8minである。これに対し、図4に示すヒータの温度制御装置50による場合、金型温度が300℃に達する時間は12minである。しかし、図5に示す金型温度曲線は、オーバーシュート又はハンチングをしており、ヒータの温度曲線を見ると、最高値が900℃に達している。従って、図5の場合のヒータ温度制御方法と図4に示す本願発明のヒータ温度制御方法におけるヒータの寿命を図1に基づいて試算すると、図5の場合のヒータ制御方法によるヒータの寿命は、図4に示すヒータ温度制御方法の場合のヒータ寿命の約1/10になっていることが解る。
【符号の説明】
【0024】
10 押出機
11 シリンダ
13 主モータ
15 減速機
17 ギアポンプ
20 アンダーウォーターカッタ装置
25 金型
26 ノズル
27 吐出口
28 ヒータ
31 金型温度センサ
36 ヒータ温度センサ
50 ヒータの温度制御装置
52 温度制御器
54 温度リミット演算器
56 出力リミッタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
押出機のシリンダ、金型又は付帯機器等の被加熱体の加熱源に用いられるヒータの温度制御方法であって、
前記被加熱体の設定温度に対し、前記ヒータの温度が該ヒータの目標寿命から求められる設定温度を超えないように該ヒータの温度制御を行う温度制御方法。
【請求項2】
押出機のシリンダ、金型又は付帯機器等の被加熱体の加熱源に用いられるヒータの温度制御方法であって、
前記被加熱体の設定温度SV1と該被加熱体の実測温度PV1に基づくPID制御出力値O1に対し、
前記ヒータの設定温度SV2と該ヒータの実測温度PV2に基づくPID制御補正出力値O2を減じた温度制御値O1-O2により該ヒータの温度制御を行う温度制御方法。
【請求項3】
押出機のシリンダ、金型又は付帯機器等の被加熱体の温度を測定する温度センサと、
前記被加熱体の加熱源に用いられるヒータの温度を測定するヒータ温度センサと、
前記被加熱体の設定温度と前記温度センサからの入力値に基づき温度制御値を求める温度制御器と、
前記ヒータの設定温度と前記ヒータ温度センサからの入力値に基づき温度補正値を求める温度リミット演算器と、
前記温度制御値から前記温度補正値を減じた値により前記ヒータの温度を制御する出力リミッタと、を有するヒータの温度制御装置。
【請求項4】
ヒータの設定温度は、ヒータの寿命曲線に基づいて求められる温度であることを特徴とする請求項3に記載のヒータの温度制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−236349(P2012−236349A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107154(P2011−107154)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(000004215)株式会社日本製鋼所 (840)
【Fターム(参考)】