説明

ビームダンプの積層構造

【課題】空気への放熱量を確保し、熱的に安定状態が保たれるようにすることのできるビームダンプの積層構造を提供する。
【解決手段】ダンプターゲット11の周囲に外側に向かって積層される熱伝導性を有する複数の板状部材13a,13b,13c,13dを備えたビームダンプ10の積層構造であって、対向する板状部材13aと13b、13bと13c、13cと13dの接触面には互いに交差する排気用溝がそれぞれ形成され、板状部材13b,13c,13dには各排気用溝の交差部分に連通する排気用貫通孔が形成され、排気用貫通孔に排気設備19が接続されており、排気設備19によって排気用貫通孔を介して各排気用溝内が排気されて真空状態に保たれることにより、積層された各板状部材13a,13b,13c,13dが固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加速器等で加速されて照射された荷電粒子ビームのエネルギーを除去するためのビームダンプの積層構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
陽子や電子などを加速して高エネルギーの荷電粒子ビームを取り出すリニアックやシンクロトロン等の加速器を備えた施設において、加速器で加速された荷電粒子ビームのエネルギーをダンプターゲットに衝突させて崩壊、除去させるためにビームダンプが使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図7及び図8は従来のビームダンプの一例を示しており、このビームダンプ1は、鉄製で立方体又は直方体形状を成し、荷電粒子ビームが入射されるダンプターゲット2の周囲に複数の板状部材3a,3b,3c,3dが外側に向かって積層されて構成されており、各板状部材3a,3b,3c,3d同士はそれぞれ外周端部において締結具4や溶接により固定され、互いに面接触している。
【0004】
このような構成において、ダンプターゲット2に入射した高速の荷電粒子ビームは、ダンプターゲット2に衝突する際に熱エネルギーに変換され、この時に発生した熱はダンプターゲット2から外側に向かって板状部材3a,3b,3c,3dに次々に熱伝導し、最も外側の板状部材3dの外表面から熱伝達及び輻射によって周囲の空気に放出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−242468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、特に材料力学や生命工学等の最先端技術分野において、より微細な現象を捕えるため、ダンプターゲット2に入射される荷電粒子ビームのエネルギーが増大化の傾向にあるのに対して、ビームダンプ1は小型化の傾向にある。そのため、ビームダンプ1の中心部の温度と外周部の温度の温度勾配が大きくなり、上記した従来のビームダンプ1では、例えば図8の下側の図面に示すように、互いに面接触している内側の板状部材3aと外側の板状部材3bの熱膨張の長さ(図8の上側の図面中の矢印参照)がそれぞれ異なり、両者間に空隙5が生じるようになる(図8の下側の図面参照)。その結果、内側の板状部材3aと外側の板状部材3bとの間の伝熱接触抵抗が小さくなることにより伝熱量が減少し、ビームダンプ1から周囲の空気への放熱量が減少し、熱的に安定状態が保たれなくなるといった問題があった。
【0007】
本発明は、上記した課題を解決すべくなされたものであり、板状部材間の伝熱接触抵抗を増加させて伝熱量を確保することにより、ビームダンプから周囲の空気への放熱量を確保し、熱的に安定状態が保たれるようにすることのできるビームダンプの積層構造を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するため、本発明は、荷電粒子ビームが照射されるダンプターゲットと、該ダンプターゲットの周囲に外側に向かって積層される熱伝導性を有する複数の板状部材とを備えたビームダンプの積層構造であって、前記対向する板状部材の接触面には互いに交差する排気用溝がそれぞれ形成され、前記板状部材には前記各排気用溝の交差部分に連通する排気用貫通孔が形成され、該排気用貫通孔に排気設備が接続されており、該排気設備によって前記排気用貫通孔を介して前記各排気用溝内が排気されて真空状態に保たれることにより、前記積層された各板状部材が固定されるように構成されていることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係るビームダンプの積層構造において、前記対向する板状部材の接触面の各排気用溝は互いに直交するように形成されているのが好ましい。
【0010】
さらに、本発明に係るビームダンプの積層構造において、前記対向する板状部材の間には落下防止用固定手段が設けられており、該落下防止用固定手段は一方の板状部材に固着され、他方の板状部材に遊着されているのが好ましい。
【0011】
さらにまた、本発明に係るビームダンプの積層構造において、隣接する板状部材の間には熱膨張吸収用の隙間が設けられているのが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、板状部材間の伝熱接触抵抗を減少させて伝熱量を確保することにより、ビームダンプから周囲の空気への放熱量を確保し、熱的に安定状態を保つことができる。
【0013】
また、板状部材同士を締結具や溶接接合等の固定手段で固定する必要がなくなるため、ビームダンプの組立て作業の簡素化を図ることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態に係るビームダンプの積層構造を示す正面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係るビームダンプの板状部材を示す平面図である。
【図4】本発明の実施の形態に係るビームダンプの別の板状部材を示す平面図である。
【図5】本発明の実施の形態に係るビームダンプの板状部材が積層された状態を示す斜視図である。
【図6】本発明の実施の形態に係るビームダンプの板状部材に設けられる落下防止用固定手段を示す断面図である。
【図7】従来のビームダンプを示す正面図である。
【図8】従来のビームダンプの板状部材の作用を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。
【0016】
先ず、図1〜図6を参照しつつ、本発明の実施の形態に係るビームダンプの積層構造について説明する。ここで、図1は本発明の実施の形態に係るビームダンプの積層構造を示す正面図、図2は図1のA−A断面図、図3は同ビームダンプの板状部材を示す平面図、図4は同ビームダンプの別の板状部材を示す平面図で、図5は同ビームダンプの板状部材が積層された状態を示す斜視図、図6は同ビームダンプの板状部材に設けられる落下防止用固定手段を示す断面図である。
【0017】
本発明の実施の形態に係るビームダンプ10は、図示を省略する加速器から加速された荷電粒子ビームが照射されるダンプターゲット11を備えており、建屋内の鉄筋コンクリート製の床に載置される。ダンプターゲット11は、例えば鉄等の金属製であり、直方体形状を成し、その内部には、正面から荷電粒子ビームの入射軸に沿って水平方向に入射凹部12が形成されている。
【0018】
ダンプターゲット11の周囲には、例えば鉄等の金属製の複数の板状部材13a,13b,13c,13dが外側四方向に向かって積層されて構成されている。各板状部材13a,13b,13c,13d同士は互いに面接触しており、最も内側の板状部材13aはダンプターゲット11に溶接接合或いは締結具等により固定されている。
【0019】
対向する板状部材13a,13b,13c,13dの接触面には互いに直交するように排気用溝14がそれぞれ形成されている。この排気用溝14は、例えば、最も内側の板状部材13aの外側接触面と内側から3番目の板状部材13cの両側接触面では、図3に示すようにビームダンプ10の周方向に沿って平行に複数形成され、また、内側から2番目の板状部材13bの両側接触面と最も外側の板状部材13dの内側接触面では、図4に示すようにビームダンプ10の軸方向に沿って平行に複数形成されている。
【0020】
最も内側の板状部材13aを除く板状部材13b,13c,13dには各排気用溝14の交差部分に連通するように排気用貫通孔15が穿設されており、この排気用貫通孔15を介して積層された各板状部材13a,13b,13c,13dの排気用溝14が連通するようになっている。また、内側から2番目及び3番目の隣接する板状部材13b,13b、13c,13cの間にはそれぞれ熱膨張吸収用の隙間16b,16cが設けられ、この隙間16b,16cの幅は外側の隙間16cの方が内側の隙間16bより広くなるように形成されている。
【0021】
図6に示されているように、対向する板状部材13aと13b、13bと13c、13cと13dの間にはそれぞれ落下防止用固定手段としてのボルト20が取り付けられているのが好ましく、このボルト20は一方の板状部材(例えば、内側の板状部材13a、13b、13c)に螺着され、他方の板状部材(例えば、外側の板状部材13b、13c、13d)に遊着されている。これにより、板状部材13a,13b,13c,13dの落下を防止することができると共に、板状部材13aと13b、13bと13c、13cと13dの間の熱膨張長さの違いを吸収し、板状部材13a,13b,13c,13dの熱膨張時にボルト20に無理な力が作用するのを防止できるようになっている。
【0022】
また、各排気用貫通孔15にはそれぞれ排気管17が接続されており、各排気管17は排気ファン18に接続され、各排気管17と排気ファン18により排気設備19が構成されている。これにより、排気ファン18が駆動すると、各排気管17及び各排気用貫通孔15を介して各排気用溝14内が排気されて真空状態に保たれることにより、積層された各板状部材13a,13b,13c,13dが互いに密着されて固定されるようになっている。
【0023】
このような構成を備えたビームダンプ10において、前記加速器で加速された高エネルギーの荷電粒子ビームは、図示を省略する粒子導入管に導かれてダンプターゲット11に照射され、入射凹部12に入射する。入射凹部12に入射した荷電粒子ビームは、ダンプターゲット11に衝突し、熱エネルギーに変換される。その後、この熱は、ダンプターゲット11内を三次元方向に拡散し、外側に向かって板状部材13a,13b,13c,13dに次々に熱伝導し、最も外側の板状部材13dの外表面から熱伝達及び輻射によって周囲の空気に放出される。
【0024】
この時、荷電粒子ビームの衝突時に発生する熱によってビームダンプ10の内側程、高熱となり、互いに面接触している内側と外側の板状部材13aと13b、13bと13c、13cと13dとでは熱膨張の長さが異なってくるが、両者13aと13b、13bと13c、13cと13dの間は排気用溝14内が排気されて真空状態に保たれることにより密着されており、さらに、隣接する板状部材13b,13b、13c,13c、13d,13dの間にそれぞれ熱膨張吸収用の隙間16b,16cが設けられているため、両者13aと13b、13bと13c、13cと13dの間に空隙が生じることはない。その結果、内側と外側の板状部材13aと13b、13bと13c、13cと13dとの間の伝熱接触抵抗が増加し、内側の板状部材から外側の板状部材へ確実に熱を伝導させることができるため、ビームダンプ10から周囲の空気へ常に一定の熱流速で放熱することができ、熱的に安定状態が保たれるようになる。
【0025】
したがって、荷電粒子ビームのエネルギーが増大しても、荷電粒子ビームが衝突した際に発生する熱によってダンプターゲットが溶解するおそれがなく、また、ビームダンプ10の小型化を図ることができ、ビームダンプの用途の拡大化を図ることが可能となる。
【0026】
さらにまた、内側と外側の板状部材13aと13b、13bと13c、13cと13dは排気用溝14内が排気されて真空状態に保たれることにより結合されるため、板状部材同士13aと13b、13bと13c、13cと13dを締結具や溶接接合等の固定手段で固定する必要がなくなり、ビームダンプ10の組立て作業の簡素化を図ることもできる。
【0027】
なお、上記した本発明の実施の形態では、対向する板状部材の接触面の各排気用溝14は互いに直交するように形成されているが、各排気用溝14は互いに交差するように形成されていれば、必ずしも直交していなくてもよい。
【0028】
また、最も内側の板状部材13aはダンプターゲット11に対して溶接接合或いは締結具等によって固定されているが、ダンプターゲット11の外側接触面と最も内側の板状部材13aの内側接触面にそれぞれ排気用溝14を形成すると共に最も内側の板状部材13aに排気用貫通孔15を穿設し、ダンプターゲット11と最も内側の板状部材13aとの間の排気用溝14内を排気して真空状態に保つことにより両者を結合するように構成してもよい。
【符号の説明】
【0029】
10 ビームダンプ
11 ダンプターゲット
13a,13b,13c,13d 板状部材
14 排気用溝
15 排気用貫通孔
16b,16c 隙間
19 排気設備
20 ボルト(落下防止用固定手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームが照射されるダンプターゲットと、該ダンプターゲットの周囲に外側に向かって積層される熱伝導性を有する複数の板状部材とを備えたビームダンプの積層構造であって、
前記対向する板状部材の接触面には互いに交差する排気用溝がそれぞれ形成され、前記板状部材には前記各排気用溝の交差部分に連通する排気用貫通孔が形成され、該排気用貫通孔に排気設備が接続されており、該排気設備によって前記排気用貫通孔を介して前記各排気用溝内が排気されて真空状態に保たれることにより、前記積層された各板状部材が固定されるように構成されていることを特徴とするビームダンプの積層構造。
【請求項2】
前記対向する板状部材の接触面の各排気用溝は互いに直交するように形成されている請求項1に記載のビームダンプの積層構造。
【請求項3】
前記対向する板状部材の間には落下防止用固定手段が設けられており、該落下防止用固定手段は一方の板状部材に固着され、他方の板状部材に遊着されている請求項1又は2に記載のビームダンプの積層構造。
【請求項4】
隣接する板状部材の間には熱膨張吸収用の隙間が設けられている請求項1〜3のいずれか1の請求項に記載のビームダンプの積層構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2010−232153(P2010−232153A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−81577(P2009−81577)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000001317)株式会社熊谷組 (551)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【出願人】(307029319)エーテック株式会社 (6)
【Fターム(参考)】