ビームダンプ
【課題】荷電粒子ビームが衝突した際に発生する熱によってダンプターゲットが溶解することのないビームダンプを提供する。
【解決手段】本発明は、照射された荷電粒子ビームのエネルギーを除去するためのビームダンプ10,10’であって、前記荷電粒子ビームが照射されるダンプターゲット11,11’を備え、ダンプターゲット11,11’は、前記荷電粒子ビームが入射する入射凹部15,15’を有する中心部12,12’と、中心部12,12’の周囲に設けられる周囲部13,13’とを備え、中心部12,12’は周囲部13,13’より融点の高い材質から構成され、周囲部13,13’は中心部12,12’より熱伝導率の高い材質から構成されていることを特徴とする。
【解決手段】本発明は、照射された荷電粒子ビームのエネルギーを除去するためのビームダンプ10,10’であって、前記荷電粒子ビームが照射されるダンプターゲット11,11’を備え、ダンプターゲット11,11’は、前記荷電粒子ビームが入射する入射凹部15,15’を有する中心部12,12’と、中心部12,12’の周囲に設けられる周囲部13,13’とを備え、中心部12,12’は周囲部13,13’より融点の高い材質から構成され、周囲部13,13’は中心部12,12’より熱伝導率の高い材質から構成されていることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加速器等で加速されて照射された荷電粒子ビームのエネルギーを除去するためのビームダンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
陽子や電子などを加速して高エネルギーの荷電粒子ビームを取り出すリニアックやシンクロトロン等の加速器を備えた施設において、加速器で加速された荷電粒子ビームのエネルギーをダンプターゲットに衝突させて崩壊、除去させるためにビームダンプが使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図12は従来のビームダンプの一例を示しており、このビームダンプ1は、立方体又は直方体形状の金属製(例えば、鉄製)のダンプターゲット2が建屋内の鉄筋コンクリート製の床に載置されて構成されており、このダンプターゲット2の内部には荷電粒子ビームの入射軸に沿って円柱形状を成す入射凹部3が形成されている。
【0004】
そして、この入射凹部3に入射した高速の荷電粒子ビームは、ダンプターゲット2に衝突する際に熱エネルギーに変換され、この時に発生した熱はダンプターゲット2の内部を熱伝導し、ダンプターゲット2の外表面から熱伝達及び輻射によって周囲の空気に放出され、これにより、ダンプターゲット2は熱的に安定状態を保つようになっている。
【特許文献1】特開平7−335398号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のビームダンプでは、荷電粒子ビームのエネルギーの増大に伴い、ダンプターゲットが融点以上の高温となり、溶融するおそれがあるといった問題があった。
【0006】
特に、上記した図12に示す従来のビームダンプ1では、入射凹部3が荷電粒子ビームの入射軸に沿って円筒形状を成しているため、荷電粒子ビームの入射面が二次元平面(底面4)に集中する上、熱伝導が三次元方向に拡散する(図12中の矢印参照)。したがって、エネルギー密度が高い状態のまま荷電粒子ビームが熱変換され、入射凹部3の底面4付近が融点以上の高温になり易く、溶解し易いといった問題があった。
【0007】
本発明は、上記した課題を解決すべくなされたものであり、荷電粒子ビームが衝突した際に発生する熱によってダンプターゲットが溶解することのないビームダンプを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するため、本発明は、照射された荷電粒子ビームのエネルギーを除去するためのビームダンプであって、前記荷電粒子ビームが照射されるダンプターゲットを備え、該ダンプターゲットは、前記荷電粒子ビームが入射する入射凹部を有する中心部と、該中心部の周囲に設けられる周囲部とを備え、前記中心部は前記周囲部より融点の高い材質から構成され、前記周囲部は前記中心部より熱伝導率の高い材質から構成されていることを特徴とする。
【0009】
本発明に係るビームダンプにおいて、前記中心部は鉄により構成され、前記周囲部は銅により構成されているのがよい。
【0010】
また、前記ダンプターゲットの入射凹部の内面には、該入射凹部が奥行き方向に向かって先細り形状となるように三次元曲面の入射面が形成されているのが好ましい。
【0011】
さらに、前記入射凹部は円錐形状を成していてもよく、また、前記入射凹部の入射面は放物面を形成していてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、荷電粒子ビームがダンプターゲットに衝突した際に発生する熱によって高温となる中心部が融点の高い材質で構成されていると共に、周囲部が熱伝導率の高い放熱性の優れた材質で構成されているため、荷電粒子ビームのエネルギーが増大しても、荷電粒子ビームの衝突時に発生する熱によってダンプターゲットが溶解するおそれがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。
【0014】
図1は本発明の実施の形態に係るビームダンプのダンプターゲットを示す断面図、図2は同ビームダンプのダンプターゲットを示す斜視図である。
【0015】
本発明の実施の形態に係るビームダンプ10は、図示を省略する加速器から加速された荷電粒子ビームが照射されるダンプターゲット11を備えている。このダンプターゲット11は、立方体又は直方体形状を成し、前記荷電粒子ビームが入射する中心部12と、中心部12の周囲に形成される周囲部13とを備えて構成されており、建屋内の鉄筋コンクリート製の床に載置される。
【0016】
ダンプターゲット11の中心部12は、直方体形状を成し、周囲部13より融点の高い材質、例えば鉄(融点1535℃、熱伝導率80.2W/mK)により構成されている。また、中心部12の内部には、中心部12の一側面14から荷電粒子ビームの入射軸に沿って水平方向に入射凹部15が形成されており、入射凹部15の内面にはこの入射凹部15が奥行き方向に向かって先細り形状となるように三次元曲面の入射面16が傾斜して形成されている。図1に示すように、本実施の形態の場合、この入射凹部15は円錐形状を成しているが、入射凹部15に入射される荷電粒子ビームが、面密度一定の理想的なビームの場合、入射凹部15の入射面16は放物面を形成していてもよい。
【0017】
ダンプターゲット11の周囲部13は、中心部12が嵌合可能な通孔17が形成された直方体形状を成しており、中心部12より熱伝導率の高い材質、例えば銅(融点1084℃、熱伝導率401W/mK)により構成されている。
【0018】
なお、ダンプターゲット11の中心部12と周囲部13の材質は、上記した鉄と銅の組合せに限定されるものではなく、例えば、中心部12をステンレス鋼で構成し、周囲部13をアルミニウムで構成する等、鉄と銅以外の他の金属の組合せを選択することも可能である。
【0019】
このような構成を備えたビームダンプ10において、前記加速器で加速された高エネルギーの荷電粒子ビームは、図示を省略する粒子導入管に導かれてダンプターゲット11に照射され、中心部12の入射凹部15に入射する。入射凹部15に入射した荷電粒子ビームは、入射凹部15の全長(図1中のL)の奥から約80%の領域の入射面16全体に満遍なく均一に衝突し、熱エネルギーに変換される。このように、入射凹部15の内面には入射凹部15が奥行き方向に向かって先細り形状となるように三次元曲面の入射面16が形成されているため、熱エネルギーは入射軸に対して放射線状に広範囲に分散される。このため、入射面16の単位面積当たりのエネルギー密度が低下し、入射面16の表面温度を中心部12の融点以下の温度に抑制することができる。
【0020】
その後、上記したように荷電粒子ビームがダンプターゲット11に衝突した時に発生した熱は、ダンプターゲット11の中心部12内を三次元方向に拡散して熱伝導し、さらに、周囲部13内を三次元方向に拡散して熱伝導した後(図1中の矢印参照)、ダンプターゲット11の外表面から熱伝達及び輻射によって周囲の空気に放出される。
【0021】
この時、荷電粒子ビームの衝突時に発生する熱によって中心部12は最も高温になるが、荷電粒子ビームの衝突時に発生する熱の温度より融点の高い鉄によって中心部12が構成されているため、この熱で中心部12が溶解するおそれはない。また、この熱が中心部12から周囲部13に伝導した時にはこの熱の温度が周囲部13の銅の融点以下まで低下しているため、周囲部13が溶解するおそれもない。さらに、周囲部13の銅は熱伝導率が高く、放熱性に優れているため、周囲部13に伝導した熱は効率よく周囲の空気に放出される。
【0022】
次に、図3〜図11を参照しつつ、従来のビームダンプと本発明の実施の形態に係るビームダンプのそれぞれに対してコンピュータを使用して数値実験を行った検証結果について説明する。
【0023】
図3は数値実験を行った際の従来のビームダンプの計算モデルを示す断面図、図4は同ビームダンプの計算モデルを示す正面図である。この従来のビームダンプ1の計算モデルでは、建屋内において、土中温度が15℃の厚さ5mの土(Soil)5上に厚さ0.5mの鉄筋コンクリート(RC)製の床6を設け、さらに、この床6上に長さ2.5m、幅3m、高さ3mで内部に角柱形状の入射凹部3が形成された鉄製のダンプターゲット2を載置し、ダンプターゲット2の周囲の空気温度を30℃、ダンプターゲット2から空気への表面熱伝達率を20W/m2Kに設定した。
【0024】
図5は上記した従来のビームダンプ1に250KWのエネルギーの荷電粒子ビームを照射した時におけるダンプターゲット2の各領域の温度と時間との関係を検証した結果を示す図、図6は同ビームダンプ1に500KWのエネルギーの荷電粒子ビームを照射した時におけるダンプターゲット2の各領域の温度と時間との関係を検証した結果を示す図であり、図5及び図6中、「CORE」とは入射凹部3の周囲1mの領域、「上部」とはCOREより上方の領域、「下部」とはCOREより下方の領域、「サイド1」とはCOREの正面視左側の領域、「サイド2」とはCOREの正面視右側の領域をそれぞれ示している(図3及び図4参照)。
【0025】
図5から分かるように、ビームダンプ1に250KWのエネルギーの荷電粒子ビームを照射した場合には、ダンプターゲット2のすべての領域で温度が鉄の融点1535℃(図5中のFe−MP)を下回るため、ダンプターゲット2が溶解するおそれはない。しかしながら、図6に示すように、ビームダンプ1に500KWのエネルギーの荷電粒子ビームを照射した場合には、ダンプターゲット2のCOREの領域における最大温度が鉄の融点1535℃(図6中のFe−MP)を超えるため、ダンプターゲット2はCOREの領域で溶解するおそれがある。
【0026】
これに対して、図7は数値実験を行った際の本発明の実施の形態に係るビームダンプの計算モデルを示す断面図、図8は同ビームダンプの計算モデルを示す正面図である。このビームダンプ10’の計算モデルでは、建屋内において、土中温度が15℃の厚さ5mの土(Soil)5上に厚さ0.5mの鉄筋コンクリート(RC)製の床6を設け、さらに、この床6上に長さ2.5m、幅3m、高さ3mで内部に角柱形状の入射凹部15’が形成された鉄製の中心部12’と銅製の周囲部13’とを備えたダンプターゲット11’を載置し、ダンプターゲット11’の周囲の空気温度を30℃、ダンプターゲット11’から空気への表面熱伝達率を20W/m2Kに設定した。
【0027】
図9は上記した本発明の実施の形態に係るビームダンプ10’に250KWのエネルギーの荷電粒子ビームを照射した時におけるダンプターゲット11’の各領域の温度と時間との関係を検証した結果を示す図、図10は同ビームダンプ10’に500KWのエネルギーの荷電粒子ビームを照射した時におけるダンプターゲット11’の各領域の温度と時間との関係を検証した結果を示す図であり、図9及び図10中、「CORE」とはビームダンプ10’の中心部12’の領域、「上部」とは周囲部13’のCOREより上方の領域、「下部」とは周囲部13’のCOREより下方の領域、「サイド1」とは周囲部13’のCOREより正面視左側の領域、「サイド2」とは周囲部13’のCOREより正面視右側の領域をそれぞれ示している(図7及び図8参照)。
【0028】
図9及び図10から分かるように、ビームダンプ10’に対して、250KWのエネルギーの荷電粒子ビームを照射した場合及び500KWのエネルギーの荷電粒子ビームを照射した場合のいずれの場合にも、ダンプターゲット11’の中心部12’のすべての領域で温度が鉄の融点1535℃(図9及び図10中のFe−MP)を下回ると共に、ダンプターゲット11’の周囲部13’のすべての領域で温度が銅の融点1084℃(図9及び図10中のCu−MP)を下回るため、ダンプターゲット11’が溶解するおそれはない。
【0029】
したがって、図11において従来のビームダンプ1と本発明の実施の形態に係るビームダンプ10’の検証結果を比較して示すように、従来のビームダンプ1では、500KWのエネルギーの荷電粒子ビームを照射した場合にダンプターゲット2がCOREの領域で溶解するおそれがあるのに対して、本発明の実施の形態に係るビームダンプ10’では、250KWのエネルギーの荷電粒子ビームを照射した場合及び500KWのエネルギーの荷電粒子ビームを照射した場合のいずれの場合にも、ダンプターゲット11’が溶解するおそれはない。
【0030】
このように本発明の実施の形態に係るビームダンプによれば、荷電粒子ビームのエネルギーが増大しても、荷電粒子ビームが衝突した際に発生する熱によってダンプターゲットが溶解するおそれがないため、ビームダンプの用途の拡大化を図ることが可能となる。
【0031】
なお、上記した図3〜図11に示すコンピュータによる数値実験では、鉄製の中心部12’の内部に角柱形状の入射凹部15’を形成したダンプターゲット11’を使用して検証したが、図1に示すように円錐形状の入射凹部15を中心部12の内部に形成したダンプターゲット11を使用して検証してもよい。そして、この場合には、荷電粒子ビームが入射面16全体に満遍なく均一に入射し、熱エネルギーが入射軸に対して放射線状に広範囲に分散されるため、ダンプターゲット11の温度をより低く抑制することができる。したがって、ダンプターゲット11はさらに高いエネルギーの荷電粒子ビームの照射にも耐えることができ、ビームダンプの用途のさらなる拡大化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施の形態に係るビームダンプのダンプターゲットを示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るビームダンプのダンプターゲットを示す斜視図である。
【図3】コンピュータを使用して数値実験を行った際の従来のビームダンプの計算モデルを示す断面図である。
【図4】コンピュータを使用して数値実験を行った際の従来のビームダンプの計算モデルを示す正面図である。
【図5】従来のビームダンプに250KWのエネルギーの荷電粒子ビームを照射した時におけるダンプターゲットの各領域の温度と時間との関係を検証した結果を示す図である。
【図6】従来のビームダンプに500KWのエネルギーの荷電粒子ビームを照射した時におけるダンプターゲットの各領域の温度と時間との関係を検証した結果を示す図である。
【図7】コンピュータを使用して数値実験を行った際の本発明の実施の形態に係るビームダンプの計算モデルを示す断面図である。
【図8】コンピュータを使用して数値実験を行った際の本発明の実施の形態に係るビームダンプの計算モデルを示す正面図である。
【図9】本発明の実施の形態に係るビームダンプに250KWのエネルギーの荷電粒子ビームを照射した時におけるダンプターゲットの各領域の温度と時間との関係を検証した結果を示す図である。
【図10】本発明の実施の形態に係るビームダンプに500KWのエネルギーの荷電粒子ビームを照射した時におけるダンプターゲットの各領域の温度と時間との関係を検証した結果を示す図である。
【図11】従来のビームダンプと本発明の実施の形態に係るビームダンプの検証結果を比較して示す図である。
【図12】従来のビームダンプのダンプターゲットを示す断面図である。
【符号の説明】
【0033】
10,10’ ビームダンプ
11,11’ ダンプターゲット
12,12’ 中心部
13,13’ 周囲部
15,15’ 入射凹部
16 入射面
【技術分野】
【0001】
本発明は、加速器等で加速されて照射された荷電粒子ビームのエネルギーを除去するためのビームダンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
陽子や電子などを加速して高エネルギーの荷電粒子ビームを取り出すリニアックやシンクロトロン等の加速器を備えた施設において、加速器で加速された荷電粒子ビームのエネルギーをダンプターゲットに衝突させて崩壊、除去させるためにビームダンプが使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図12は従来のビームダンプの一例を示しており、このビームダンプ1は、立方体又は直方体形状の金属製(例えば、鉄製)のダンプターゲット2が建屋内の鉄筋コンクリート製の床に載置されて構成されており、このダンプターゲット2の内部には荷電粒子ビームの入射軸に沿って円柱形状を成す入射凹部3が形成されている。
【0004】
そして、この入射凹部3に入射した高速の荷電粒子ビームは、ダンプターゲット2に衝突する際に熱エネルギーに変換され、この時に発生した熱はダンプターゲット2の内部を熱伝導し、ダンプターゲット2の外表面から熱伝達及び輻射によって周囲の空気に放出され、これにより、ダンプターゲット2は熱的に安定状態を保つようになっている。
【特許文献1】特開平7−335398号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のビームダンプでは、荷電粒子ビームのエネルギーの増大に伴い、ダンプターゲットが融点以上の高温となり、溶融するおそれがあるといった問題があった。
【0006】
特に、上記した図12に示す従来のビームダンプ1では、入射凹部3が荷電粒子ビームの入射軸に沿って円筒形状を成しているため、荷電粒子ビームの入射面が二次元平面(底面4)に集中する上、熱伝導が三次元方向に拡散する(図12中の矢印参照)。したがって、エネルギー密度が高い状態のまま荷電粒子ビームが熱変換され、入射凹部3の底面4付近が融点以上の高温になり易く、溶解し易いといった問題があった。
【0007】
本発明は、上記した課題を解決すべくなされたものであり、荷電粒子ビームが衝突した際に発生する熱によってダンプターゲットが溶解することのないビームダンプを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するため、本発明は、照射された荷電粒子ビームのエネルギーを除去するためのビームダンプであって、前記荷電粒子ビームが照射されるダンプターゲットを備え、該ダンプターゲットは、前記荷電粒子ビームが入射する入射凹部を有する中心部と、該中心部の周囲に設けられる周囲部とを備え、前記中心部は前記周囲部より融点の高い材質から構成され、前記周囲部は前記中心部より熱伝導率の高い材質から構成されていることを特徴とする。
【0009】
本発明に係るビームダンプにおいて、前記中心部は鉄により構成され、前記周囲部は銅により構成されているのがよい。
【0010】
また、前記ダンプターゲットの入射凹部の内面には、該入射凹部が奥行き方向に向かって先細り形状となるように三次元曲面の入射面が形成されているのが好ましい。
【0011】
さらに、前記入射凹部は円錐形状を成していてもよく、また、前記入射凹部の入射面は放物面を形成していてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、荷電粒子ビームがダンプターゲットに衝突した際に発生する熱によって高温となる中心部が融点の高い材質で構成されていると共に、周囲部が熱伝導率の高い放熱性の優れた材質で構成されているため、荷電粒子ビームのエネルギーが増大しても、荷電粒子ビームの衝突時に発生する熱によってダンプターゲットが溶解するおそれがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。
【0014】
図1は本発明の実施の形態に係るビームダンプのダンプターゲットを示す断面図、図2は同ビームダンプのダンプターゲットを示す斜視図である。
【0015】
本発明の実施の形態に係るビームダンプ10は、図示を省略する加速器から加速された荷電粒子ビームが照射されるダンプターゲット11を備えている。このダンプターゲット11は、立方体又は直方体形状を成し、前記荷電粒子ビームが入射する中心部12と、中心部12の周囲に形成される周囲部13とを備えて構成されており、建屋内の鉄筋コンクリート製の床に載置される。
【0016】
ダンプターゲット11の中心部12は、直方体形状を成し、周囲部13より融点の高い材質、例えば鉄(融点1535℃、熱伝導率80.2W/mK)により構成されている。また、中心部12の内部には、中心部12の一側面14から荷電粒子ビームの入射軸に沿って水平方向に入射凹部15が形成されており、入射凹部15の内面にはこの入射凹部15が奥行き方向に向かって先細り形状となるように三次元曲面の入射面16が傾斜して形成されている。図1に示すように、本実施の形態の場合、この入射凹部15は円錐形状を成しているが、入射凹部15に入射される荷電粒子ビームが、面密度一定の理想的なビームの場合、入射凹部15の入射面16は放物面を形成していてもよい。
【0017】
ダンプターゲット11の周囲部13は、中心部12が嵌合可能な通孔17が形成された直方体形状を成しており、中心部12より熱伝導率の高い材質、例えば銅(融点1084℃、熱伝導率401W/mK)により構成されている。
【0018】
なお、ダンプターゲット11の中心部12と周囲部13の材質は、上記した鉄と銅の組合せに限定されるものではなく、例えば、中心部12をステンレス鋼で構成し、周囲部13をアルミニウムで構成する等、鉄と銅以外の他の金属の組合せを選択することも可能である。
【0019】
このような構成を備えたビームダンプ10において、前記加速器で加速された高エネルギーの荷電粒子ビームは、図示を省略する粒子導入管に導かれてダンプターゲット11に照射され、中心部12の入射凹部15に入射する。入射凹部15に入射した荷電粒子ビームは、入射凹部15の全長(図1中のL)の奥から約80%の領域の入射面16全体に満遍なく均一に衝突し、熱エネルギーに変換される。このように、入射凹部15の内面には入射凹部15が奥行き方向に向かって先細り形状となるように三次元曲面の入射面16が形成されているため、熱エネルギーは入射軸に対して放射線状に広範囲に分散される。このため、入射面16の単位面積当たりのエネルギー密度が低下し、入射面16の表面温度を中心部12の融点以下の温度に抑制することができる。
【0020】
その後、上記したように荷電粒子ビームがダンプターゲット11に衝突した時に発生した熱は、ダンプターゲット11の中心部12内を三次元方向に拡散して熱伝導し、さらに、周囲部13内を三次元方向に拡散して熱伝導した後(図1中の矢印参照)、ダンプターゲット11の外表面から熱伝達及び輻射によって周囲の空気に放出される。
【0021】
この時、荷電粒子ビームの衝突時に発生する熱によって中心部12は最も高温になるが、荷電粒子ビームの衝突時に発生する熱の温度より融点の高い鉄によって中心部12が構成されているため、この熱で中心部12が溶解するおそれはない。また、この熱が中心部12から周囲部13に伝導した時にはこの熱の温度が周囲部13の銅の融点以下まで低下しているため、周囲部13が溶解するおそれもない。さらに、周囲部13の銅は熱伝導率が高く、放熱性に優れているため、周囲部13に伝導した熱は効率よく周囲の空気に放出される。
【0022】
次に、図3〜図11を参照しつつ、従来のビームダンプと本発明の実施の形態に係るビームダンプのそれぞれに対してコンピュータを使用して数値実験を行った検証結果について説明する。
【0023】
図3は数値実験を行った際の従来のビームダンプの計算モデルを示す断面図、図4は同ビームダンプの計算モデルを示す正面図である。この従来のビームダンプ1の計算モデルでは、建屋内において、土中温度が15℃の厚さ5mの土(Soil)5上に厚さ0.5mの鉄筋コンクリート(RC)製の床6を設け、さらに、この床6上に長さ2.5m、幅3m、高さ3mで内部に角柱形状の入射凹部3が形成された鉄製のダンプターゲット2を載置し、ダンプターゲット2の周囲の空気温度を30℃、ダンプターゲット2から空気への表面熱伝達率を20W/m2Kに設定した。
【0024】
図5は上記した従来のビームダンプ1に250KWのエネルギーの荷電粒子ビームを照射した時におけるダンプターゲット2の各領域の温度と時間との関係を検証した結果を示す図、図6は同ビームダンプ1に500KWのエネルギーの荷電粒子ビームを照射した時におけるダンプターゲット2の各領域の温度と時間との関係を検証した結果を示す図であり、図5及び図6中、「CORE」とは入射凹部3の周囲1mの領域、「上部」とはCOREより上方の領域、「下部」とはCOREより下方の領域、「サイド1」とはCOREの正面視左側の領域、「サイド2」とはCOREの正面視右側の領域をそれぞれ示している(図3及び図4参照)。
【0025】
図5から分かるように、ビームダンプ1に250KWのエネルギーの荷電粒子ビームを照射した場合には、ダンプターゲット2のすべての領域で温度が鉄の融点1535℃(図5中のFe−MP)を下回るため、ダンプターゲット2が溶解するおそれはない。しかしながら、図6に示すように、ビームダンプ1に500KWのエネルギーの荷電粒子ビームを照射した場合には、ダンプターゲット2のCOREの領域における最大温度が鉄の融点1535℃(図6中のFe−MP)を超えるため、ダンプターゲット2はCOREの領域で溶解するおそれがある。
【0026】
これに対して、図7は数値実験を行った際の本発明の実施の形態に係るビームダンプの計算モデルを示す断面図、図8は同ビームダンプの計算モデルを示す正面図である。このビームダンプ10’の計算モデルでは、建屋内において、土中温度が15℃の厚さ5mの土(Soil)5上に厚さ0.5mの鉄筋コンクリート(RC)製の床6を設け、さらに、この床6上に長さ2.5m、幅3m、高さ3mで内部に角柱形状の入射凹部15’が形成された鉄製の中心部12’と銅製の周囲部13’とを備えたダンプターゲット11’を載置し、ダンプターゲット11’の周囲の空気温度を30℃、ダンプターゲット11’から空気への表面熱伝達率を20W/m2Kに設定した。
【0027】
図9は上記した本発明の実施の形態に係るビームダンプ10’に250KWのエネルギーの荷電粒子ビームを照射した時におけるダンプターゲット11’の各領域の温度と時間との関係を検証した結果を示す図、図10は同ビームダンプ10’に500KWのエネルギーの荷電粒子ビームを照射した時におけるダンプターゲット11’の各領域の温度と時間との関係を検証した結果を示す図であり、図9及び図10中、「CORE」とはビームダンプ10’の中心部12’の領域、「上部」とは周囲部13’のCOREより上方の領域、「下部」とは周囲部13’のCOREより下方の領域、「サイド1」とは周囲部13’のCOREより正面視左側の領域、「サイド2」とは周囲部13’のCOREより正面視右側の領域をそれぞれ示している(図7及び図8参照)。
【0028】
図9及び図10から分かるように、ビームダンプ10’に対して、250KWのエネルギーの荷電粒子ビームを照射した場合及び500KWのエネルギーの荷電粒子ビームを照射した場合のいずれの場合にも、ダンプターゲット11’の中心部12’のすべての領域で温度が鉄の融点1535℃(図9及び図10中のFe−MP)を下回ると共に、ダンプターゲット11’の周囲部13’のすべての領域で温度が銅の融点1084℃(図9及び図10中のCu−MP)を下回るため、ダンプターゲット11’が溶解するおそれはない。
【0029】
したがって、図11において従来のビームダンプ1と本発明の実施の形態に係るビームダンプ10’の検証結果を比較して示すように、従来のビームダンプ1では、500KWのエネルギーの荷電粒子ビームを照射した場合にダンプターゲット2がCOREの領域で溶解するおそれがあるのに対して、本発明の実施の形態に係るビームダンプ10’では、250KWのエネルギーの荷電粒子ビームを照射した場合及び500KWのエネルギーの荷電粒子ビームを照射した場合のいずれの場合にも、ダンプターゲット11’が溶解するおそれはない。
【0030】
このように本発明の実施の形態に係るビームダンプによれば、荷電粒子ビームのエネルギーが増大しても、荷電粒子ビームが衝突した際に発生する熱によってダンプターゲットが溶解するおそれがないため、ビームダンプの用途の拡大化を図ることが可能となる。
【0031】
なお、上記した図3〜図11に示すコンピュータによる数値実験では、鉄製の中心部12’の内部に角柱形状の入射凹部15’を形成したダンプターゲット11’を使用して検証したが、図1に示すように円錐形状の入射凹部15を中心部12の内部に形成したダンプターゲット11を使用して検証してもよい。そして、この場合には、荷電粒子ビームが入射面16全体に満遍なく均一に入射し、熱エネルギーが入射軸に対して放射線状に広範囲に分散されるため、ダンプターゲット11の温度をより低く抑制することができる。したがって、ダンプターゲット11はさらに高いエネルギーの荷電粒子ビームの照射にも耐えることができ、ビームダンプの用途のさらなる拡大化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施の形態に係るビームダンプのダンプターゲットを示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るビームダンプのダンプターゲットを示す斜視図である。
【図3】コンピュータを使用して数値実験を行った際の従来のビームダンプの計算モデルを示す断面図である。
【図4】コンピュータを使用して数値実験を行った際の従来のビームダンプの計算モデルを示す正面図である。
【図5】従来のビームダンプに250KWのエネルギーの荷電粒子ビームを照射した時におけるダンプターゲットの各領域の温度と時間との関係を検証した結果を示す図である。
【図6】従来のビームダンプに500KWのエネルギーの荷電粒子ビームを照射した時におけるダンプターゲットの各領域の温度と時間との関係を検証した結果を示す図である。
【図7】コンピュータを使用して数値実験を行った際の本発明の実施の形態に係るビームダンプの計算モデルを示す断面図である。
【図8】コンピュータを使用して数値実験を行った際の本発明の実施の形態に係るビームダンプの計算モデルを示す正面図である。
【図9】本発明の実施の形態に係るビームダンプに250KWのエネルギーの荷電粒子ビームを照射した時におけるダンプターゲットの各領域の温度と時間との関係を検証した結果を示す図である。
【図10】本発明の実施の形態に係るビームダンプに500KWのエネルギーの荷電粒子ビームを照射した時におけるダンプターゲットの各領域の温度と時間との関係を検証した結果を示す図である。
【図11】従来のビームダンプと本発明の実施の形態に係るビームダンプの検証結果を比較して示す図である。
【図12】従来のビームダンプのダンプターゲットを示す断面図である。
【符号の説明】
【0033】
10,10’ ビームダンプ
11,11’ ダンプターゲット
12,12’ 中心部
13,13’ 周囲部
15,15’ 入射凹部
16 入射面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
照射された荷電粒子ビームのエネルギーを除去するためのビームダンプであって、
前記荷電粒子ビームが照射されるダンプターゲットを備え、該ダンプターゲットは、前記荷電粒子ビームが入射する入射凹部を有する中心部と、該中心部の周囲に設けられる周囲部とを備え、前記中心部は前記周囲部より融点の高い材質から構成され、前記周囲部は前記中心部より熱伝導率の高い材質から構成されていることを特徴とするビームダンプ。
【請求項2】
前記中心部は鉄により構成され、前記周囲部は銅により構成されている請求項1に記載のビームダンプ。
【請求項3】
前記ダンプターゲットの入射凹部の内面には、該入射凹部が奥行き方向に向かって先細り形状となるように三次元曲面の入射面が形成されている請求項1又は2に記載のビームダンプ。
【請求項4】
前記入射凹部は円錐形状を成している請求項3に記載のビームダンプ。
【請求項5】
前記入射凹部の入射面は放物面を形成している請求項3に記載のビームダンプ。
【請求項1】
照射された荷電粒子ビームのエネルギーを除去するためのビームダンプであって、
前記荷電粒子ビームが照射されるダンプターゲットを備え、該ダンプターゲットは、前記荷電粒子ビームが入射する入射凹部を有する中心部と、該中心部の周囲に設けられる周囲部とを備え、前記中心部は前記周囲部より融点の高い材質から構成され、前記周囲部は前記中心部より熱伝導率の高い材質から構成されていることを特徴とするビームダンプ。
【請求項2】
前記中心部は鉄により構成され、前記周囲部は銅により構成されている請求項1に記載のビームダンプ。
【請求項3】
前記ダンプターゲットの入射凹部の内面には、該入射凹部が奥行き方向に向かって先細り形状となるように三次元曲面の入射面が形成されている請求項1又は2に記載のビームダンプ。
【請求項4】
前記入射凹部は円錐形状を成している請求項3に記載のビームダンプ。
【請求項5】
前記入射凹部の入射面は放物面を形成している請求項3に記載のビームダンプ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−289445(P2009−289445A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−137911(P2008−137911)
【出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【出願人】(000001317)株式会社熊谷組 (551)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【出願人】(307029319)エーテック株式会社 (6)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【出願人】(000001317)株式会社熊谷組 (551)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【出願人】(307029319)エーテック株式会社 (6)
【Fターム(参考)】
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