説明

ピストンナットの成形方法

【課題】 パンチの押圧でピストンナットを成形する際に、環状リーフバルブの背圧面に当接される端面に乱れ面を発現させないようにする。
【解決手段】 ピストン体3の軸芯部を貫通するロッド体2の基端螺条部2bに螺合して締め付け時にピストン体3の端面に隣設される環状リーフバルブ4の内周側固定部4aをピストン体3の内周側ボス部3cに定着させるピストンナット6が環状リーフバルブ4の背圧面に対向する端面にあって外周側における頂部6aの高さ位置を内周側における頂部6bの高さ位置より環状リーフバルブ4の背圧面に向けて高くする一方で、このピストンナット6を押圧するパンチPが環状リーフバルブ4の背圧面に対向するピストンナット6の端面を押圧するフランジ部P1と、ピストンナット6の軸芯部に開穿されてロッド体2の基端部2aを貫通させる透孔6cの開口端部の内周面に対向する軸部P2とを有すると共に、このフランジ部P1と軸部P2とが連続されてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ピストンナットの成形方法に関し、特に、車両用などの油圧緩衝器におけるピストン部において環状リーフバルブをピストン体に隣設させるピストンナットをパンチの押圧で成形するピストンナットの成形方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、車両用などの油圧緩衝器におけるピストン部にあって、減衰バルブたる環状リーフバルブにクラッキング圧を具有させるとする、たとえば、特許文献1に開示の提案がある。
【0003】
すなわち、この特許文献1に開示されているところは、ピストン部を形成するピストン体における環状リーフバルブの受圧面に対向する端面にあって、外周側シート部における頂部の高さ位置を内周側ボス部における頂部の高さ位置より環状リーフバルブの受圧面に向かって高くするいわゆる外高に形成されてなるとしている。
【0004】
それゆえ、この特許文献1に開示の提案にあっては、ピストン体の端面を仕上る際に、内周側ボス部を精緻に仕上げると共に、外周側シート部を高く、すなわち、いわゆる外高に仕上ることで、ピストンナットの締め付けで環状リーフバルブの内周側固定部をピストン体の内周側ボス部に定着させるとき、環状リーフバルブの外周側撓み部にクラッキング圧を具有させながらこれをピストン体の外周側シート部に着座させることが可能になる。
【特許文献1】特開2004‐176775号公報(特許請求の範囲 請求項1,発明の詳細な説明,図1,図2,要約)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した特許文献1に開示の提案にあっても、環状リーフバルブが多数枚の積層体からなる場合には、この環状リーフバルブに所定のクラッキング圧を具有させることが困難になると指摘される可能性がある。
【0006】
すなわち、上記した特許文献1に開示の提案にあって、環状リーフバルブに所定のクラッキング圧を具有させるについては、環状リーフバルブ自体が具有する弾性に依存するところが大となる。
【0007】
それゆえ、環状リーフバルブが単体からなるか、あるいは、二,三枚の積層体からなる場合には弾性を保障し易いが、環状リーフバルブが多数枚の積層体からなる場合には、環状リーフバルブにおける剛性が大きくなり、したがって、この環状リーフバルブに所定のクラッキング圧を具有させることが困難になる。
【0008】
そこで、図1に示すようなピストン部を形成する際に、図2および図3に誇張して示すように、多数枚の積層体からなる環状リーフバルブ4の背圧面にシム8を介して対向するピストンナット6の端面にあって、外周側における頂部6aの高さ位置を内周側における頂部6bの高さ位置より環状リーフバルブ4の背圧面に向かって高くするいわゆる外高とする提案をなし得ることになる。
【0009】
そして、この提案による場合には、ピストンナット6の締め付けで環状リーフバルブ4の内周側固定部4aをピストン体3の内周側ボス部3cに押し付けるようにして定着させることで、環状リーフバルブ4の外周側撓み部4bがピストン体3の外周側シート部3dに押し付けられる状態になり、それゆえ、環状リーフバルブ4の外周側撓み部4bにクラッキング圧を具有させることが可能になる。
【0010】
このとき、ピストンナット6における環状リーフバルブ4の背圧面に対向する端面はいわゆる外高にしかも精緻に仕上げられる必要があり、そのため、ピストンナット6に対するパンチの押圧による成形後に、ピストンナット6の端面における内周側の頂部6bにいわゆるダレと称される乱れ面を発現させないことが必須となる。
【0011】
この発明は、上記した現状を鑑みて創案されたものであって、その目的とするところは、パンチの押圧でピストンナットを成形する際に、環状リーフバルブの背圧面に当接される端面に乱れ面を発現させないようにして、このピストンナットでピストン体の端面に隣設される環状リーフバルブが安定したクラッキング圧を具有するのに最適となるピストンナットの成形方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した目的を達成するために、この発明によるピストンナットの成形方法の構成を、基本的には、請求項1にあって、ピストン体の軸芯部を貫通するロッド体の基端螺条部に螺合して締め付け時にピストン体の端面に隣設される環状リーフバルブの内周側固定部をピストン体の内周側ボス部に定着させるピストンナットをパンチの押圧で成形してなるピストンナットの成形方法において、ピストンナットが環状リーフバルブの背圧面に対向する端面にあって外周側における頂部の高さ位置を内周側における頂部の高さ位置より環状リーフバルブの背圧面に向けて高くする一方で、パンチが環状リーフバルブの背圧面に対向するピストンナットの端面を押圧するフランジ部と、ピストンナットの軸芯部に開穿されてロッド体の基端部を貫通させる透孔内に導入されて外周面を透孔の開口端部の内周面に対向させる軸部とを有してなると共に、パンチにおいてフランジ部と軸部とが連続されてなるとする。
【0013】
そして、より具体的には、請求項2にあって、パンチにおけるフランジ部の外径がこのフランジ部を押圧させるピストンナットにおける端面の外径より大きく設定されてなるとする。
【発明の効果】
【0014】
それゆえ、請求項1の発明にあっては、ピストンナットの端面にパンチを押圧して成形する際に、ピストンナットが環状リーフバルブの背圧面に対向する端面にあって外周側における頂部の高さ位置を内周側における頂部の高さ位置より環状リーフバルブの背圧面に向けて高くする一方で、パンチが環状リーフバルブの背圧面に対向するピストンナットの端面を押圧するフランジ部と、ピストンナットの軸芯部に開穿されてロッド体の基端部を貫通させる透孔の開口端部の内周面に対向する軸部と有してなり、しかも、このフランジ部と軸部とが連続されてなるから、パンチの押圧時に軸芯部の開穿されている透孔の開口端を形成するピストンナットの端面に乱れ面を発現させないようにすることが可能になる。
【0015】
そして、請求項2の発明にあっては、パンチにおけるフランジ部の外径がこのフランジ部を押圧させるピストンナットにおける端面の外径より大きく設定されてなるから、ピストンナットの端面における外周側にも乱れ面を発現させないことが可能になる。
【0016】
その結果、この発明によれば、パンチを押圧してピストンナットを成形する際に、環状リーフバルブの背圧面に当接される端面に乱れ面を発現させないようにすることが可能になり、したがって、このピストンナットでピストン体の端面に隣設される環状リーフバルブに安定したクラッキング圧を具有させることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、図示した実施形態に基づいて、この発明を説明するが、図示するところでは、この発明が油圧緩衝器におけるピストン部を形成するピストンナットに具現化されてなるとしている。
【0018】
そこで、油圧緩衝器におけるピストン部について、前記した図1に基づいて、少し説明すると、シリンダ体1内に出没可能に挿通されるロッド体2の基端部2aに保持されるピストン体3がシリンダ体1に摺動可能に収装されながらロッド側油室たる伸側油室R1と、ピストン側油室たる圧側油室R2とを画成するとしている。
【0019】
そして、ピストン体3に開穿の伸側流路3aの下流側端を開放可能に閉塞する環状リーフバルブたる伸側減衰バルブ4を図中で下方となる端面に隣設させ、同じくピストン体3に開穿の圧側流路3bの下流側端を開放可能に閉塞する環状リーフバルブたる背圧バルブ5を図中で上方となる端面に隣設させてなるとしている。
【0020】
このとき、伸側減衰バルブ4の内周側固定部4aは、ピストン体3の内周側ボス部3cとピストンナット6との間に挟持されながらピストンナット6の締め付けでピストン体3の内周側ボス部3cに定着されてなるとし、また、伸側減衰バルブ4の外周側撓み部4bは、ピストン体3の外周側シート部3dに離着座可能に隣接されてなるとしている。
【0021】
そして、背圧バルブ5の内周側固定部5aは、ピストン体3の内周側ボス部3cとバルブストッパ7との間に挟持されながら上記したピストンナット6の締め付けで、ピストン体3を介してであるが、バルブストッパ7の内周側に定着されてなるとし、また、背圧バルブ5の外周側撓み部5bは、ピストン体3の外周側シート部3dに離着座可能に隣接されてなるとしている。
【0022】
なお、伸側減衰バルブ4の内周側固定部4aをピストン体3の内周側ボス部3cに定着させ、背圧バルブ5の内周側固定部5aをバルブストッパ7に定着させることになるピストンナット6は、ロッド体2の基端螺条部2bに螺合されるとしている。
【0023】
ところで、ピストンナット6は、ロッド体2の基端螺条部2bに螺合された状態で締め付けられるときに、ロッド体2の基端部2aに介装されているピストン体3の内周側ボス部3cに伸側減衰バルブ4の内周側固定部4aを定着させるように機能するが、その際に、この発明にあっては、以下のような作用もする。
【0024】
すなわち、まず、前記した図1に示すピストンナット6にあっては、伸側減衰バルブ4の背圧面に対向するバルブストッパを一体に有する態様に形成されてなり、それゆえ、この発明で特徴とするところは、上記のバルブストッパ部分に具現化されているとも言い得る。
【0025】
しかし、結局は、ピストンナット6に具現化されていると言い得るので、以下の説明では、敢えて、ピストンナット6とのみ表現する。
【0026】
以上のように、バルブストッパを一体に有するこのピストンナット6は、積層
体たる伸側減衰バルブ4の背圧面に隣接されているシム8に隣接する態様に形成されてなるとするもので、このシム8を介して積層体の背圧面に対向するとしている。
【0027】
そして、より細かく観察すると、図2および図3に誇張して示すように、ピストンナット6における外周側の頂部6aの高さ位置が内周側の頂部6bの高さ位置に比較してこのピストンナット6が対向する伸側減衰バルブ4の背圧面に向かって高く形成されてなるとしている。
【0028】
このとき、図2および図3に示すところでは、外周側の頂部6aと内周側の頂部6bとがいわゆる内側に傾斜する傾斜面(符示せず)で連続されてなるとしているが、要は、外周側の頂部6aが内周側の頂部6bより高くなるように、すなわち、いわゆる外高となるように形成されていれば足りる。
【0029】
そして、このいわゆる外高となる場合の両頂部6b,6a間の高低差は、ミリ単位に及ばないことはもちろんのこと、ミクロン単位の領域のものであり、その具現化については、任意の手段が選択されて良いが、多くの場合に、パンチの押圧によるであろう。
【0030】
この観点からすれば、この内外の頂部6b,6aが傾斜面で連続されることに代えて、図示しないが、外周側の頂部6aが平坦面で形成されていて、これに傾斜面が連続するとしても良く、また、同じく図示しないが、平坦面からなる外周側の頂部6aに段差を有して内周側の頂部6bに平坦面で連続するとしても良く、さらには、いわゆる途中経過はどうあれ、結果的にいわゆる外高に形成される限りには任意の形状が選択されて良い。
【0031】
以上のように、ピストンナット6において伸側減衰バルブ4の背圧面に対向する面をいわゆる外高に形成することで、このピストンナット6がロッド体2の基端螺条部2bに螺合された状態で締め付けられるときに、伸側減衰バルブ4の内周側固定部4aをピストン体3の内周側ボス部3cに定着させながら伸側減衰バルブ4の外周側撓み部4bを強制的に上昇させるようにすることになる、すなわち、伸側減衰バルブ4の外周側撓み部4bにクラッキング圧を具有させることが可能になる。
【0032】
このことからすれば、ピストンナット6にあっては、図4に示すように、パンチPを押圧して環状リーフバルブ4の背圧面に隣接される端面を成形する際に、この端面に乱れ面を発現させないことが肝要になる。
【0033】
そこで、この発明にあって、パンチPは、図示するように、ピストンナット6の端面に当接されてこれを押圧するフランジ部P1と、ピストンナット6の軸芯部に開穿されてロッド体2の基端部2aを貫通させる透孔6c内に導入されて外周面を透孔6cの開口端部の内周面に対向させる軸部P2とを有してなると共に、このフランジ部P1と軸部P2とがこのパンチPにおいて連続されてなるとしている。
【0034】
このとき、パンチPにおけるフランジ部P1とピストンナット6における端面との間には隙間が形成されないが、軸部P2は、透孔6cに対して出没されることからして、その外周面と透孔6cの内周面との間に、図中に符号dで示すような隙間を有するとしている。
【0035】
その結果、パンチPの撤去後には、図5に示すように、透孔6cの開口端部の内周面にダレと称される乱れ面6dが発現されることになるが、この透孔6cの内周面における乱れ面6dは、環状リーフバルブ4の背圧面に隣接されないから、前記した環状リーフバルブ4におけるクラッキング圧の具有には影響しないことになる。
【0036】
それに対して、図6に示すパンチは、フランジ部P1を有するパンチPと、このパンチPと分離形成されて前記した図4に示すパンチPにおける軸部P2に相当する軸状ガイドGとを有して、言わば従来のパンチの形態を呈しているが、この従来のパンチによる場合には、パンチPおよび軸状ガイドGの撤去後には、パンチPと軸状ガイドGとの間に隙間dを有するから、図7に示すように、ピストンナット6において、透孔6cの開口端部の内周面にダレと称される乱れ面6dが発現する上に端面にもダレと称される乱れ面6eが発現されることになる。
【0037】
そして、この端面における乱れ面6eは、環状リーフバルブ4の背圧面に隣接されることになるから、前記した環状リーフバルブ4におけるクラッキング圧の具有に影響を与えることになり、安定したクラッキング圧の具有を阻害することになる。
【0038】
以上からすれば、この発明の具現化に利用する図4に示すパンチPにあっては、ピストンナット6の端面、すなわち、シム8を介してだが、環状リーフバルブ4の背圧面に隣接するピストンナット6の端面に乱れ面6eを発現させるのを回避し得るから、このピストンナット6の締め付けによって環状リーフバルブ4に安定したクラッキング圧を具有させることが可能になり、ピストン部にあって、設定の減衰力発生を具現化し得ることになる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】この発明によるピストンナットの成形方法で成形したピストンナットを有するシリンダ体内のピストン部を示す縦断面図である。
【図2】図1中のピストンナットの一部を拡大して示す部分縦断面図である。
【図3】図1の状態からさらに拡大してピストンナットの端面が外高に形成された状態を示す部分縦断面図である。
【図4】図3に示す状態を具現化しながらこの発明によるピストンナットの成形方法を具現化するところを示す図である。
【図5】図4にピストンナットの成形方法で成形されたピストンナットの端面を拡大して示す図である。
【図6】従来のパンチを利用したピストンナットの成形方法を具現化した状態を図4と同様に示す図である。
【図7】図6にピストンナットの成形方法で成形されたピストンナットの端面を図5と同様に示す図である。
【符号の説明】
【0040】
2 ロッド体
2b 基端螺条部
3 ピストン体
3c 内周側ボス部
4 環状リーフバルブ
4a 内周側固定部
6 ピストンナット
6a,6b 頂部
6c 透孔
P パンチ
P1 フランジ部
P2 軸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストン体の軸芯部を貫通するロッド体の基端螺条部に螺合して締め付け時にピストン体の端面に隣設される環状リーフバルブの内周側固定部をピストン体の内周側ボス部に定着させるピストンナットをパンチの押圧で成形してなるピストンナットの成形方法において、ピストンナットが環状リーフバルブの背圧面に対向する端面にあって外周側における頂部の高さ位置を内周側における頂部の高さ位置より環状リーフバルブの背圧面に向けて高くする一方で、パンチが環状リーフバルブの背圧面に対向するピストンナットの端面を押圧するフランジ部と、ピストンナットの軸芯部に開穿されてロッド体の基端部を貫通させる透孔内に導入されて外周面を透孔の開口端部の内周面に対向させる軸部とを有してなると共に、パンチにおいてフランジ部と軸部とが連続されてなることを特徴とするピストンナットの成形方法
【請求項2】
パンチにおけるフランジ部の外径がこのフランジ部を押圧させるピストンナットにおける端面の外径より大きく設定されてなる請求項1に記載のピストンナットの成形方法

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−132608(P2006−132608A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−320372(P2004−320372)
【出願日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】