説明

フィラーの製造方法、フィラーおよびプラスチック組成物

【課題】 マトリクス樹脂中に分散させ、成形したときに、得られる成形体に等方的に高い強度を付与し得るフィラーを簡便に製造する方法、該方法により得られるフィラーおよび上記方法により得られるフィラーをマトリクス樹脂中に分散してなるプラスチック組成物を提供する。
【解決手段】
金属酸化物からなる板状粒子とカップリング剤とを反応させた後、凍結乾燥処理と、未反応カップリング剤が反応する温度域での加熱処理とを順次施し、次いで得られた反応物を前記板状粒子の平均径以下の平均径になるように粉砕処理することを特徴とするフィラーの製造方法、上記方法により得られることを特徴とするフィラー、上記方法により得られるフィラーがマトリクス樹脂中に分散してなることを特徴とするプラスチック組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィラーの製造方法、フィラーおよびプラスチック組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、アスペクト比の高い金属酸化物の板状粒子を樹脂等に添加することは知られていたが(例えば、特許文献1参照)、上記板状粒子をフィラーとして用い、これをマトリクス樹脂中に分散させ、加圧成形した場合、板状粒子が加圧成形方向とは垂直な方向に配向することから、得られる成形体において、加圧成形時の成形方向と同一方向の強度は向上できるが、加圧成形時の成形方向と垂直な方向の強度は向上できないという課題が存在していた。
【0003】
フィラーをマトリクス樹脂中に混入してなるプラスチック組成物の用途としては、例えば、各種車輌や産業機械等のブレーキパッド、ブレーキライニング、クラッチフェーシング等に広く使用することが知られているが、摩擦材においては、その強度を等方的に高い水準に向上することが求められることから、上記金属酸化物の板状粒子からなるフィラーは、摩擦材の強度向上成分として必ずしも十分なものとはいえなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−259023公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような事情のもとで、マトリクス樹脂中に分散させ、成形したときに、得られる成形体に等方的に高い強度を付与し得るフィラーを簡便に製造する方法、該方法により得られるフィラーおよび上記方法により得られるフィラーをマトリクス樹脂中に分散してなるプラスチック組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等が鋭意研究を重ねた結果、金属酸化物からなる板状粒子をカップリング剤と反応させた後、凍結乾燥処理と、未反応カップリング剤が反応する温度域での加熱処理とを順次施し、次いで得られた反応物を前記板状粒子の平均径以下の平均径になるように粉砕処理してフィラーを作製することにより、上記目的を達成し得ることを見出し、本知見に基づいて本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1)金属酸化物からなる板状粒子をカップリング剤と反応させた後、凍結乾燥処理と、未反応カップリング剤が反応する温度域での加熱処理とを順次施し、次いで得られた反応物を前記板状粒子の平均径以下の平均径になるように粉砕処理することを特徴とするフィラーの製造方法、
(2)前記金属酸化物が酸化チタンである上記(1)に記載のフィラーの製造方法、
(3)前記カップリング剤が式
SiX4−n
(式中、nは0〜2の整数であり、Rは炭化水素基であり、官能基を含有していてもよく、Xは加水分解性基または水酸基であり、RおよびXがそれぞれ複数ある場合、RおよびXは同一であっても異なっていてもよい)
で表されるシラン系カップリング剤である上記(1)または(2)に記載のフィラーの製造方法、
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法により得られたことを特徴とするフィラー、
(5)シラン系カップリング剤を介して複数の板状粒子が相互に結合し、結合部分を中心にして各板状粒子が異方向に伸びる構造を有することを特徴とするフィラー、および、
(6)上記(4)または(5)に記載のフィラーがマトリクス樹脂中に分散してなることを特徴とするプラスチック組成物
を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、金属酸化物からなる板状粒子をカップリング剤と反応させた後に、凍結乾燥処理と、未反応カップリング剤が反応する温度域での加熱処理とを順次施し、次いで得られた反応物を前記板状粒子の平均径以下の平均径になるように粉砕処理することにより、カップリング剤を介して複数の板状粒子が相互に結合し、結合部分を中心にして各板状粒子が異方向に伸びる構造を有するフィラーを得ることができる。
【0008】
このため、本発明によれば、マトリクス樹脂中に分散させ、成形したときに、得られる成形体に等方的に高い強度を付与し得るフィラーを簡便に製造する方法を提供することができるとともに、該方法により得られるフィラーおよび上記方法により得られるフィラーをマトリクス樹脂中に分散してなるプラスチック組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例2で得られたプラスチック組成物の電子顕微鏡写真である。
【図2】比較例1で得られたプラスチック組成物の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
先ず、本発明のフィラーの製造方法について説明する。
本発明のフィラーの製造方法は、金属酸化物からなる板状粒子をカップリング剤と反応させた後、凍結乾燥処理と、未反応カップリング剤が反応する温度域での加熱処理とを順次施し、次いで得られた反応物を前記板状粒子の平均径以下の平均径になるように粉砕処理することを特徴とするものである。
【0011】
本発明のフィラーの製造方法において、原料となる金属酸化物からなる板状粒子としては、層状構造を有する金属酸化物を剥離した薄片を挙げることができ、このような板状粒子としては、例えば、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化アルミニウムからなるものを挙げることができる。
【0012】
板状粒子は、平均粒径が1〜40μmであるものが好ましく、5〜20μmであるものがより好ましい。板状粒子の平均粒径は、粒度分布測定装置により求めることができる。板状粒子の平均厚さは、0.3〜2μmであることが好ましく、0.5〜1μmであることがより好ましい。また、板状粒子のアスペクト比(平均粒径/平均厚さ)は、3〜30であることが好ましく、5〜20であることがより好ましい。
上記板状粒子は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0013】
また、カップリング剤としては、シラン系カップリング剤、アルミナ系カップリング剤、チタネート系カップリング剤等を挙げることができ、このようなカップリング剤としては、Si、Al、Tiの無機塩、有機塩あるいはアルキルアルコキシル基等の疎水性アルコキシル基を1つ以上有する有機化合物を挙げることができる。中でも、シラン系カップリング剤を用いることが好ましい。
【0014】
シラン系カップリング剤としては、式
SiX4−n
(式中、nは0〜2の整数であり、Rは、炭化水素基であり、官能基を含有していてもよく、Xは、加水分解性基または水酸基であり、RおよびXがそれぞれ複数ある場合、RおよびXは同一であっても異なっていてもよい)
で表されるものを用いることが好ましい。
【0015】
上記RSiX4−nで表されるシラン系カップリング剤において、nは0〜2の整数であり、1〜2の整数であることが好ましく、1であることがより好ましい。
【0016】
上記RSiX4−nで表されるシラン系カップリング剤において、Rは炭化水素基である。炭化水素基としては、直鎖または分岐鎖を有する飽和または不飽和の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、脂環式炭化水素基を挙げることができ、これら炭化水素基は一価のものでも多価のものでもよい。
【0017】
炭化水素基の炭素数は、脂肪族炭化水素基である場合は、1〜25個、特に1〜3個が好ましく、芳香族炭化水素基である場合は、6〜25個、特に6〜10個が好ましく、脂環式炭化水素である場合は、3〜25個、特に3〜6個が好ましい。
【0018】
また、上記炭化水素基は、官能基を含有していてもよく、官能基としては、ビニル基、エステル基、エーテル基、エポキシ基、アミノ基、カルボキシル基、カルボニル基、アミド基、メルカプト基、スルホニル基、スルフェニル基、ニトロ基、ニトロソ基、ニトリル基、ハロゲン原子、水酸基等を挙げることができる。
【0019】
上記シラン系カップリング剤において、Rが複数ある場合、Rは同一であっても異なっていてもよい。
【0020】
上記RSiX4−nで表されるシラン系カップリング剤において、Xは、加水分解性基または水酸基であり、加水分解性基としては、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、ケトオキシム基、アシルオキシ基、アミノ基、アミノキシ基、アミド基、ハロゲン原子を挙げることができる。
【0021】
上記シラン系カップリング剤において、Xが複数ある場合、Xは同一であっても異なっていてもよい。
【0022】
上記RSiX4−nで表されるシラン系カップリング剤の具体例としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、2−エチルヘキシルトリメトキシシラン、2−ヘキセニルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、3−β−ナフチルプロピルトリメトキシシラン、p−ビニルベンジルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0023】
上記カップリング剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
金属酸化物からなる板状粒子をカップリング剤と反応させる方法としては、例えば、酢酸水溶液等により膨潤、分散させた板状粒子と、エタノール等で希釈したカップリング剤とを、室温または加熱条件下で混合、攪拌して反応させる方法を挙げることができる。
【0025】
金属酸化物からなる板状粒子とカップリング剤は、質量比で、板状粒子/カップリング剤が、1/0.5〜1/4となるように使用することが好ましく、1/0.5〜1/2となるように使用することがより好ましい。
【0026】
上述したような方法により、金属酸化物からなる板状粒子をカップリング剤と反応させる場合には、カップリング剤の疎水基の耐熱性を考慮して、混合、攪拌時の温度を決定する必要があることから、板状粒子とカップリング剤との反応温度は、室温〜100℃程度が好ましい。また、反応時間は2〜48時間が好ましい。
【0027】
本発明の方法においては、金属酸化物からなる板状粒子をカップリング剤と反応させた後、凍結乾燥処理と、未反応カップリング剤が反応する温度域での加熱処理とを順次実施する。凍結乾燥処理は、予備凍結処理工程を含むことが好ましく、予備凍結処理は、−45〜−20℃で、24時間以上行うことが好ましい。予備凍結工程後、予備凍結物を溶解させることなく凍結乾燥処理することが好ましく、凍結乾燥処理条件は、内部に氷塊が観察されなくなるように、かつ、氷が溶けないように適宜調整すればよく、通常、80Pa以下の減圧雰囲気下、20℃以下で、72〜96時間程度行うことが好ましい。
【0028】
凍結乾燥処理後の加熱処理は、未反応カップリング剤が反応する温度域で加熱することにより行われるものであり、加熱温度は80℃〜150℃が好ましく、100℃〜150℃がより好ましい。また、加熱時間は1時間〜3時間が好ましく、1.5時間〜2時間がより好ましい。加熱雰囲気は、大気であることが好ましい。上記加熱処理によって未反応のカップリング剤の反応を促進することができる。
【0029】
本発明の方法においては、上記凍結乾燥処理方法と加熱処理によって得られた反応物を、原料として用いた板状粒子の平均径以下の平均径になるように粉砕処理することにより、フィラーを作製する。粉砕処理後の平均径は、3〜40μmであることが好ましく、5〜20μmであることがより好ましい。
【0030】
上記粉砕処理後の平均径は、粒度分布測定装置により求めることができ、また、上記粉砕処理は、カッターミル(サンプルミルなどの切断することによって粉砕を行う装置)などによって行うことができる。
【0031】
原料として複数の板状粒子を用いた場合には、上記粉砕処理後の平均径を、平均径が最も小さい板状粒子の平均径以下にすればよい。
【0032】
本発明の方法によれば、金属酸化物からなる板状粒子をカップリング剤と反応させた後に、凍結乾燥処理と、カップリング剤が反応する温度域での加熱処理を順次施し、得られた反応物を上記板状粒子の平均径以下の平均径になるように粉砕処理することにより、カップリング剤を介して複数の板状粒子が相互に結合し、結合部分を中心にして各板状粒子が異方向に伸びる構造を有するフィラーを得ることができる。このため、本発明の方法によれば、マトリクス樹脂中に分散させ、成形したときに、得られる成形体に等方的に高い強度を付与し得るフィラーを簡便に製造することができる。
【0033】
次に、本発明のフィラーについて説明する。
本発明のフィラーは、本発明のフィラーの製造方法により得られたことを特徴とするものである。
【0034】
また本発明のフィラーは、カップリング剤を介して複数の板状粒子が相互に結合し、結合部分を中心にして各板状粒子が異方向に伸びる構造を有することを特徴とするものである。
【0035】
本発明のフィラーは、マトリクス樹脂中に分散させ、成形したときに、成形物に等方的に高い強度を付与することができる。
【0036】
次に、本発明のプラスチック組成物について説明する。
本発明のプラスチック組成物は、本発明のフィラーがマトリクス樹脂中に分散してなることを特徴とするものである。
【0037】
フィラーを分散するマトリクス樹脂は、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂の中からプラスチック組成物の用途等を考慮して適宜選択することができる。
【0038】
上記熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリ芳香族エーテル又はチオエーテル系樹脂、ポリ芳香族エステル系樹脂、ポリスルホン系樹脂、スチレン系樹脂、アクリレート系樹脂などが挙げられる。
【0039】
また、熱硬化性樹脂としては、例えばフェノール樹脂、各種変性フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリベンゾオキサジン樹脂、ポリイミド樹脂などが挙げられる。
【0040】
本発明のプラスチック組成物は、上記プラスチック材料からなるマトリクス粉体100質量部に対し、本発明の方法で得られたフィラーを、50〜80質量部の割合で含むことが好ましく、60〜70質量部の割合で含むことがより好ましい。
【0041】
本発明のプラスチック組成物は、本発明のフィラーを含有するものであるため、得られる成形体が等方的に高い強度を有している。このため、本発明のプラスチック組成物は、例えば、各種車輌や産業機械等のブレーキパッド、ブレーキライニング、クラッチフェーシング等に広く使用される摩擦材の構成材料として好適に使用することができる。
【実施例】
【0042】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0043】
実施例1(フィラーの製造例)
(a)金属酸化物からなる板状粒子として酸化チタン板状粒子(石原産業社製、商品名TF−17−E、平均粒径10μm)13.3gを蒸留水800mLに分散させることにより、1.6質量%の板状粒子母液を得、さらに酢酸23.6gを投入し、攪拌することにより板状粒子分散液を調製した。なお、上記調製の前後において、液温は80℃に維持した。
【0044】
(b)カップリング剤であるメチルトリエトキシシラン23.6gをエタノール150mLで希釈し、良く攪拌することにより、メチルトリエトキシシラン分散液を調製した。
【0045】
(c)上記(a)で得た板状粒子分散液と上記(b)で得たメチルトリエトキシシラン分散液を混合し、80℃で2時間攪拌下、水分量が50%になるまで濃縮することにより、酸化チタンの板状粒子とメチルトリエトキシシランとの反応物含有液を得た。
【0046】
(d)上記(c)で得た反応物含有液を、−20℃で24時間予備凍結処理した後、凍結乾燥機(EYELA社製凍結乾燥機FD−5N)を用いて、80Paの減圧条件下、20℃で72時間凍結結乾燥処理した。
【0047】
(e)上記(d)の処理により得られた凍結乾燥処理物を、150℃で2時間加熱処理した。
【0048】
(f)上記(e)の処理により得られた加熱処理物にサンプルミル(協立理工(株)製 小型粉砕機 SK−M10)による粉砕操作を加え、平均径が29μmになるまで粉砕処理することにより、目的とするフィラー30.9gを得た。
【0049】
実施例2(プラスチック組成物の製造例)
実施例1で得られたフィラー60重量部をノボラックフェノール樹脂40重部中に分散させることにより、プラスチック組成物を作製した。
【0050】
図1は、得られたプラスチック組成物の電子顕微鏡写真(×1000)を示す。図1より、実施例2で得られたプラスチック組成物は、複数の酸化チタン板状粒子が相互に結合し、結合部分を中心に各板状粒子が異方向に伸びる構造を有するフィラーがフェノール樹脂マトリクス中に分散していることが明らかである。
【0051】
比較例1(比較プラスチック組成物の製造例)
フィラーとして実施例1で用いた酸化チタン板状粒子をそのまま用い、この板状粒子60重量部をノボラックフェノール樹脂40重量部中に分散させることにより、比較プラスチック組成物を作製した。
【0052】
図2は、得られたプラスチック組成物の電子顕微鏡写真(×1000)を示す。図2より、比較例1で得られたプラスチック組成物は板状のフィラーがフェノール樹脂マトリクス中に分散していることが明らかである。
【0053】
<圧縮破壊強度測定>
実施例2で得られたプラスチック組成物および比較例1で得られた比較プラスチック組成物を、165℃の温度下、50MPaで300秒間加圧成形することにより、縦50mm、横100mm、厚さ10mmの成形体をそれぞれ作製した。
【0054】
得られた成形体を加工し、JIS K6911に準拠した方法により、上記加圧成形方向と同一方向および加圧成形方向とは垂直な方向からそれぞれ荷重を付加して圧縮破壊強度を測定した。結果を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
表1より、実施例2で得られたプラスチック組成物からなる成形体は、成形時の加圧方向と同一方向から圧縮した場合であっても、成形時の加圧方向とは垂直な方向から圧縮した場合であっても、376〜384MPaという高い圧縮破壊強度を有しているが、比較例1で得られた比較プラスチック組成物からなる成形体は、成形時の加圧方向と同一方向から圧縮した場合には、392MPaと高い圧縮強度を有するが、成形時の加圧方向とは垂直な方向から圧縮した場合には、圧縮破壊強度が295MPaと低いことが分かる。
これは、実施例2で得られたプラスチック組成物中に含まれるフィラーは、酸化チタンからなる複数の板状粒子が結合し、結合部分を中心にして異方向に放射状に伸びる構造を有し、成形体に等方的に高い強度を付与し得るものであるのに対し、比較例1で得られた比較プラスチック組成物中に含まれるフィラーは、板状の構造を有し、成形時に加圧方向とは垂直な方向に配向してしまうため、成形体に等方的に高い強度を付与し得ないものであるためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明によれば、マトリクス樹脂中に分散させ、成形したときに、得られる成形体に等方的に高い強度を付与し得るフィラーを簡便に製造する方法を提供することができるとともに、該方法により得られるフィラーおよび上記方法により得られるフィラーをマトリクス樹脂中に分散してなるプラスチック組成物を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物からなる板状粒子をカップリング剤と反応させた後、凍結乾燥処理と、未反応カップリング剤が反応する温度域での加熱処理とを順次施し、次いで得られた反応物を前記板状粒子の平均径以下の平均径になるように粉砕処理することを特徴とするフィラーの製造方法。
【請求項2】
前記金属酸化物が酸化チタンである請求項1に記載のフィラーの製造方法。
【請求項3】
前記カップリング剤が式
SiX4−n
(式中、nは0〜2の整数であり、Rは炭化水素基であり、官能基を含有していてもよく、Xは加水分解性基または水酸基であり、RおよびXがそれぞれ複数ある場合、RおよびXは同一であっても異なっていてもよい)
で表されるシラン系カップリング剤である請求項1または請求項2に記載のフィラーの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の方法により得られたことを特徴とするフィラー。
【請求項5】
シラン系カップリング剤を介して複数の板状粒子が相互に結合し、結合部分を中心にして各板状粒子が異方向に伸びる構造を有することを特徴とするフィラー。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載のフィラーがマトリクス樹脂中に分散してなることを特徴とするプラスチック組成物。

【図1】
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【図2】
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