説明

フィルムコンデンサ

【課題】フィルムコンデンサの保安性を向上させると共に、通電時の発熱を低減させる。
【解決手段】フィルムコンデンサ1は、誘電体フィルム5の表面に金属膜が形成された金属化フィルムを少なくとも2枚重ね合わせて巻回または積層して形成される。一方の金属化フィルム4の重ね合わされる表面には、金属膜が複数に分割された分割電極部6aが形成され、他方の金属化フィルム4の重ね合わされる表面には、金属膜としてヒューズ機能を備えた保安電極部9が形成され、保安電極部9の膜抵抗が分割電極部6aの膜抵抗より高く設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、フィルムコンデンサとして、誘電体となるプラスチックフィルムの両面に、アルミニウムや亜鉛等の金属蒸着膜や金属箔の電極が設けられた構成のものがある。
【0003】
このようなフィルムコンデンサの特徴の1つに、誘電体フィルムに絶縁破壊が生じた際、破壊点周辺部の電極が、流入する短絡電流のエネルギーによって発熱飛散することで、絶縁性を回復させて、ショートを防止するという自己回復機能(自己保安性)がある。
しかしながら、電圧が高くなり絶縁破壊のエネルギーが過大になると自己回復機能を発揮できず、絶縁破壊点が短絡して、コンデンサがショートしてしまう場合がある。
【0004】
そこで、保安性を向上させたフィルムコンデンサとして、図11および図12に示すように、電極を絶縁スリット95によって分割して複数の分割電極部92を形成し、この複数の分割電極部92を、細幅のヒューズ機能を果たすヒューズ部93で接続したフィルムコンデンサがある(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
このフィルムコンデンサにおいては、絶縁破壊が生じた際、破壊箇所近傍の分割電極部92にヒューズ部93を介して電流が局所的に集中して流れ込むため、このヒューズ部93を速やかに飛散させることができる。ヒューズ部93が飛散すると、絶縁破壊箇所の特定の分割電極部92に電流が流れなくなるため、絶縁性が回復する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009―94543号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
フィルムコンデンサは、長寿命化のためにリプル電流等による発熱を低減すること、および、保安性をより向上させることが求められている。
保安性を向上させる方法としては、ヒューズ部の膜厚を薄くする方法が考えられる。ヒューズ部の膜厚を薄くすると、ヒューズ部を飛散させるために要するエネルギーレベルが下がるため、絶縁破壊が生じた際、より小さい放電エネルギーでヒューズ部を飛散させることができる。同時に、ヒューズ部の膜厚を薄くすることによって膜抵抗が高くなるため、発熱量が大きくなり、速やかにヒューズ部を飛散させることができる。
【0008】
しかしながら、ヒューズ部は隣接する分割電極部の間に位置しており、同一面に形成されている。そのため、ヒューズ部と分割電極部とは、蒸着等の公知の成膜技術によって一度に形成されるのが普通であり、この場合、膜厚(膜抵抗)が必然的に同じになる。そのため、ヒューズ部を薄くすると、これに合わせて分割電極部の膜厚も薄くなり、分割電極部の電気抵抗が高くなるため、通電時の発熱量が大きくなってしまう。
【0009】
逆に、発熱量を低減するには、分割電極部の膜厚を厚くして電気抵抗を低くすればよいが、この場合、ヒューズ部の膜厚も厚くなるため、保安性が低下してしまう。
このように、保安性の向上と発熱量の低減とは相反する要求であり、同時に実現することが困難であった。
【0010】
そのため、従来の構成では、保安性を向上させるために、ヒューズ部の寸法(幅や数など)を変化させてヒューズ部の動作性を改善しているが、ヒューズ部の寸法にはJIS規格などの制約が多く、十分な保安性能を確保することができなかった。
【0011】
そこで、本発明は、保安性を向上させると共に、通電時の発熱を低減することのできるフィルムコンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明は、誘電体フィルムの表面に金属膜が形成された金属化フィルムを少なくとも2枚重ね合わせて巻回または積層してなるフィルムコンデンサであって、上記目的を達成するため、一方の金属化フィルムの重ね合わされる表面に金属膜が複数に分割された分割電極部が形成され、他方の金属化フィルムの重ね合わされる表面に前記金属膜としてヒューズ機能を備えた保安電極部が形成され、前記保安電極部の膜抵抗が前記分割電極部の膜抵抗より高く設定されていることを特徴としている。
【0013】
このように構成された発明では、主として金属化フィルムの重ね合わせ方向において分割電極部に挟まれた誘電体フィルムによって静電容量が発現する一方、分割電極部に接触する保安電極部が誘電体フィルムの絶縁破壊時におけるヒューズ機能を担う。
ここで、分割電極部は一方の金属化フィルムの重ね合わされる表面に形成され、保安電極部は他方の金属化フィルムの重ね合わされる表面に形成されることから、分割電極部を構成する金属膜の膜厚と保安電極部を構成する金属膜の膜厚とを異なる値に自在に設定することができる。
このため、分割電極部の膜厚を厚くして膜抵抗を低くすることにより、通電時の発熱を抑制する一方で、保安電極部の膜厚を薄くして膜抵抗を高くすることにより、保安性を向上させることができる。つまり、保安性の向上と通電時の発熱低減との両立を図ることができる。
【0014】
ここで、本発明の第1の態様として、金属化フィルムの両面のうち一方主面に分割電極部を形成し、他方主面に保安電極部を形成して、金属化フィルムの一方の表面に形成された分割電極部と、金属化フィルムの他方の表面に形成された保安電極部とが接触した状態で金属化フィルムが重ね合わされてもよい。
【0015】
また、本発明の第2の態様として、前記一方の金属化フィルムの片面に前記分割電極部が形成され、前記他方の金属化フィルムの片面に前記保安電極部が形成され、前記一方の金属化フィルムの分割電極部が形成されていない表面と前記他方の金属化フィルムの保安電極部が形成されていない表面とを当接させるとともに、前記一方の金属化フィルムの片面に形成された前記分割電極部と、前記他方の金属化フィルムの片面に形成された前記保安電極部とが接触した状態で前記金属化フィルムが重ね合わされてもよい。
【0016】
また、分割電極部は金属膜が格子状の絶縁スリットにより島状に分割された複数の島状電極を有し、保安電極部は線状の金属膜が格子状に形成された線状電極を有するように金属フィルムを形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
上記のように構成した本発明のフィルムコンデンサによると、通電時の発熱を抑制すると同時に、保安性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係るフィルムコンデンサの斜視図である。
【図2】コンデンサ素子の斜視図である。
【図3】(a)は金属化フィルムの一方の面の平面図であり、(b)は金属化フィルムの他方の面の平面図である。
【図4】2枚の金属化フィルムを重ね合わせた状態の平面図である。
【図5】図4のV−V線断面図である。
【図6】図4のVI−VI線断面図である。
【図7】コンデンサ素子の部分拡大断面図である。
【図8】本発明の他の実施形態のフィルムコンデンサの図4に相当する図である。
【図9】本発明の他の実施形態のフィルムコンデンサの図4に相当する図である。
【図10】本発明の他の実施形態のフィルムコンデンサに用いられるコンデンサ素子の部分拡大断面図である。
【図11】従来のフィルムコンデンサに用いられる金属化フィルムを示す図である。
【図12】(a)は図11のA−A線断面図であり、(b)はコンデンサ素子の部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1に示すように、本実施形態のフィルムコンデンサ1は、直方体状の樹脂製のケース21内に、複数(本実施形態では5個)のコンデンサ素子2が収納されると共に、熱硬化性樹脂からなる充填材(図示省略)が充填された構成を有する。
【0020】
各コンデンサ素子2は、長円柱状に形成されており、図2に示すように、コンデンサ素子2の両端面には、メタリコン(金属溶射)によってメタリコン電極3、3がそれぞれ形成されている。5つのコンデンサ素子2は、ケース21内に、各コンデンサ素子の長円柱軸が平行になるように並んで配置されている。
各コンデンサ素子2の両端部に形成されたメタリコン電極3、3には、それぞれ引出部材22、23が接続されている。
【0021】
引出部材22は、引出電極板22aと接続部22bとから構成されており、引出部材23は、引出電極板23aと接続部23bとから構成されている。引出電極板22a、23aは、長方形状の平板部材であって、引出電極板22aの上に、絶縁板(図示せず)を介して引出電極板23aが載せられた状態で、5つのコンデンサ素子2の上に配置されている。
【0022】
接続部22bは、引出電極板22aの長辺端部から図1中の下方に延びて形成されており、コンデンサ素子2の一方端部のメタリコン電極3にはんだ付けによって接続されている。
接続部23bは、引出電極板23aの長辺端部から図1中の下方に延びて形成されており、コンデンサ素子2の他方端部のメタリコン電極3にはんだ付けによって接続されている。
【0023】
引出電極板22a、23aの短辺端部には、それぞれ引出端子24、25が接続されており、この引出端子24、25は、ケース21の上部開口面から外部に引き出されている。
【0024】
[実施例1] 誘電体フィルムの一方の面に複数の分割電極部、他方の面に保安電極部形成
まず、実施例1のコンデンサ素子2について説明する。実施例1のコンデンサ素子2は、図5〜7に示すように、2枚の帯状の金属化フィルム4、4を、後述する電極部が形成されている面5aと、後述する保安電極部(線状電極)9が形成されている面5bとが対向するように重ね合わせ、巻回することによって形成されている。一方の金属化フィルム4の電極部6と、該電極部6に接触する他方の金属化フィルム4の保安電極部(線状電極)9とによって、1つの電極(陽極または陰極)が構成される。
以下のコンデンサ素子2の説明において、金属化フィルム4の長手方向および幅方向を単に長手方向および幅方向と定義して説明する。
【0025】
図3に示すように、金属化フィルム4は、誘電体フィルム5と、誘電体フィルム5の面5a(一方主面)に金属蒸着によって形成された電極部6と、誘電体フィルム5の面5b(他方主面)に金属蒸着によって形成された保安電極部(線状電極)9とから構成されている。
【0026】
誘電体フィルム5は、ポリプロピレン(PP)で形成されており、電極部6および保安電極部9は、アルミニウムで形成されている。本実施例では、電極部6と保安電極部9は共にアルミニウムで形成したが、亜鉛等で形成してもよい。また、電極部6と保安電極部9とが互いに異なる材料で形成されていてもよい。
【0027】
<電極部6の構成> 図3〜6参照
誘電体フィルム5の面5aの幅方向一端部には、金属蒸着されていない絶縁マージン8aが設けられている。電極部6は、複数の分割電極部(島状電極)6aとメタリコン接続部6bとから構成されており、これらは非蒸着部である絶縁スリット7によって分割されている。
絶縁スリット7は、長手方向に沿って延在する3本のスリット7aと、幅方向に沿って延在する複数のスリット7bとから構成されている。
スリット7aは幅方向に等間隔で配置されており、スリット7bは長手方向に等間隔で配置されている。
メタリコン接続部6bは、誘電体フィルム5の面5aの、絶縁マージン8aが形成されている端部と反対側の端部に形成されており、メタリコン電極3に電気的に接続される(図7参照)。
複数の分割電極部6aは、全て同じ矩形状に形成されており、幅方向および長手方向に間隔を空けて配置されている。
メタリコン接続部6bと、分割電極部6aの膜厚は、本実施例では互いに同じであるが、メタリコン接続部6bの膜厚を分割電極部の膜厚よりも大きくしてもよい。
【0028】
<保安電極部9の構成> 図3〜6参照
上述したように、保安電極部9は、誘電体フィルム5の面5bに形成されている。保安電極部9は、長手方向に沿って延在する3本のライン部9aと、幅方向に沿って延在する複数のライン部9bとから構成されている。ライン部9bは、面5bの幅方向一端から途中部分まで延びている。つまり、誘電体フィルム5の面5bの幅方向一端(メタリコン接続部6b側)には、金属蒸着されていない領域である絶縁マージン8bが形成されている。
【0029】
ライン部9a、9bの幅はそれぞれ一定であって、本実施例ではともに0.3mmであるが、この数値に限定されるものではない。また、ライン部9aとライン部9bの幅は同じであっても異なっていてもよい。
ライン部9aは幅方向に等間隔で配置されており、ライン部9bは長手方向に等間隔で配置されている。ライン部9aの配置間隔は、スリット7aの配置間隔とほぼ同じであり、ライン部9bの配置間隔は、スリット7bの配置間隔とほぼ同じである。
【0030】
また、図4に示すように、ライン部9a、9bは、2枚の金属化フィルム4、4を重ね合わせた状態において、複数の分割電極部6aを通るような位置に形成されている。
なお、図4は、2枚の金属化フィルム4、4の接触面における電極部6と保安電極部9のみを表示しており、それ以外の電極部6、9は省略している。
【0031】
また、保安電極部9の膜厚は、分割電極部6aの膜厚よりも薄い。そのため、保安電極部9の膜抵抗(単位面積当たりの抵抗)は、分割電極部6aの膜抵抗よりも大きい。
具体的には、保安電極部9は、膜厚0.01μm、膜抵抗10Ω/□に設定し、分割電極部6aは、膜厚0.03μm、膜抵抗3Ω/□に設定した。
なお、本実施例では上記の数値に限定したが、この数値に限定されるものではない。保安電極部9の膜厚は例えば0.001〜0.01μmであり、膜抵抗は例えば10〜30Ω/□である。また、分割電極部6aの膜厚は例えば0.01〜0.05μmであり、膜抵抗は例えば1〜7Ω/□である。
そして、ヒューズ部の幅は0.3mmとした。
ここで、誘電体フィルムとしては、厚さ3μm、幅50mmのPPフィルムを使用し、金属蒸着電極の材料としては、全てアルミニウムを使用した。コンデンサの静電容量は100μFとした。
【0032】
<コンデンサ素子の構成>
図5〜7に示すように、2枚の金属化フィルム4、4は、面5aに形成された分割電極部6aと面5bに形成された保安電極部9とが接触し、かつ、2枚の金属化フィルム4、4の絶縁マージン8a、8aが幅方向に関して反対側に位置するように重ね合わされて巻回されている。
より詳細には、図4に示すように、一方の金属化フィルム4のライン部9aが、他方の金属化フィルム4の長手方向に並んだ複数の分割電極部6aを通り、かつ、一方の金属化フィルム4のライン部9bが、他方の金属化フィルム4の幅方向に並んだ3つの分割電極部6aを通るように、2枚の金属化フィルム4、4が重ね合わされている。
【0033】
これにより、図7に示すように、分割電極部6aとこれに隣接する分割電極部6aとが、保安電極部9によって電気的に接続される。より詳細には、分割電極部6aとこれに隣接する分割電極部6aとは、保安電極部9のうち、分割電極部6aとこれに隣接する分割電極部6aとの間に位置する部分9c(ヒューズ部9cとする)によって電気的に接続されている。すなわち、ヒューズ部9cとは、保安電極部(線状電極)9のうち、分割電極部6aと接触していない非接触部をいう。
【0034】
以上説明したコンデンサ素子2においては、絶縁破壊が生じて、破壊点近傍の特定の分割電極部6aに短絡電流が流れ込むと、この特定の分割電極部6aに接続されているヒューズ部9cに局所的に集中して短絡電流が流れるため、このヒューズ部9cが飛散する。これにより、特定の分割電極部6aと他の分割電極部6aとの電気的接続が切断されるため、絶縁性を回復することができる。
【0035】
ここで、保安電極部9(ヒューズ部9c)と分割電極部6aとが誘電体フィルム5の異なる面に形成されているため、保安電極部9と分割電極部6aの膜厚が異なるように設計することができる。
そのため、分割電極部6aの膜厚を厚くして膜抵抗を低くすることにより、通電時の発熱を抑制し、同時に、保安電極部9の膜厚を薄くすることにより、保安性を向上させることができる。
【0036】
[実施例2] 誘電体フィルムの1枚の片面に複数の分割電極部形成、他の1枚の片面に保安電極部形成
次に、実施例2のコンデンサ素子2について説明する。なお、ここで、実施例1と重複する内容は説明を省略する。
実施例2では、図10に示すように、誘電体フィルム5の片面に複数の分割電極部6aが形成された金属化フィルム40と、誘電体フィルム5の片面に保安電極部9が形成された金属化フィルム41とを、分割電極部6aと保安電極部9とが接触するように、また、金属化フィルム40、41の電極が形成されていない面同士が接触するように2枚ずつ重ね合わせ、巻回することによってコンデンサ素子を形成している。
なお、上記構成とした以外、分割電極部6a、保安電極部9の形状、寸法、膜厚、およびコンデンサ仕様は実施例1と同様とした。
【0037】
(従来例1、2)誘電体フィルムの片面の同一面に、複数の分割電極部とヒューズ部形成
従来例1、2のコンデンサ素子として、図11および図12(a)に示すような金属化フィルム90を2枚用意した。この金属化フィルム90は、帯状の誘電体フィルム91の一方の面に、メタリコン電極97に接続されるメタリコン接続部94と、幅方向および長手方向に配列された複数の分割電極部92と、分割電極部92同士を接続するヒューズ部93と、金属蒸着されていない絶縁マージン部96とが形成されたものである。メタリコン接続部94および複数の分割電極部92は、絶縁スリット95によって区画されている。
なお、分割電極部92およびヒューズ部93の膜抵抗と、メタリコン接続部94の膜抵抗を、表1に示す値にそれぞれ設定した。また、従来例1、2とも、ヒューズ部の幅を0.3mmとした。
【0038】
図12(b)に示すように、2枚の金属化フィルム90、90を、電極が形成された面と電極が形成されていない面とが接触し、かつ、2つの絶縁マージン96、96が幅方向に関して反対側に位置するように重ね合わせて巻回することによって、コンデンサ素子を作製した。このコンデンサ素子を用いて、実施例と同様の仕様、手順でフィルムコンデンサを作製した。
【0039】
実施例1、2および従来例1、2のコンデンサ素子を用いたフィルムコンデンサのESR(等価直列抵抗)を測定した。その結果と、従来例2のESRを基準としたESRの比率を表1に示す。
【0040】
保安性試験として、実施例1、2および従来例1、2のコンデンサ素子を用いたフィルムコンデンサに、100℃雰囲気中で破壊するまで電圧をステップアップさせて印加し、その破壊モードを調べた。なお、試験個数はいずれも10個とした。
表1中の保安性の欄には、10個全ての試料が、オープンモード(絶縁性を維持した状態)で破損した場合に○印を表示し、1個以上の試料がショートモードで破損した場合には×印を表示した。
【0041】
温度上昇試験として、実施例および従来例1、2のコンデンサ素子を用いたフィルムコンデンサに、25℃雰囲気中で10kHz、30Armsのリプル電流を流して、上昇温度を測定した。その結果も表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
表1に示すように、保安電極部の膜抵抗が高い実施例1、2および従来例2は、保安電極部の膜抵抗が低い従来例1に比べて良好な保安性が得られた。
【0044】
また、分割電極部の膜抵抗が低い実施例1、2および従来例1は、分割電極部の膜抵抗が高い従来例2に比べてESRが低いため、従来例2よりも温度上昇が抑えられている。
【0045】
以上より、実施例1のフィルムコンデンサの構成(誘電体フィルムの一方主面に複数の分割電極部、他方主面に保安電極部が形成され、分割電極部と保安電極部が接触するように重ね合わされた構成)、および実施例2のフィルムコンデンサの構成(誘電体フィルムの1枚の片面に複数の分割電極部、誘電体フィルムの他の1枚の片面に保安電極部が形成され、分割電極部と保安電極部とが接触するように重ね合わされた構成)では、従来例1、2の誘電体フィルムの片面の同一面に、複数の分割電極部とヒューズ部を形成した構成と比較して、ESR、保安性、温度上昇のすべての面で、優れた効果が得られた。
【0046】
以上、本発明の好適な実施形態(実施例)を説明したが、上記の実施形態は以下のように変更して実施することができる。なお、上記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を用いて適宜その説明を省略する。
【0047】
上記実施例では、長手方向に延在する3本のスリット7aは、幅方向に関して等間隔に配置されているが、等間隔でなくてもよい。
また、上記実施例では、幅方向に延在する3本のスリット7bは、長手方向に関して等間隔に配置されているが、等間隔でなくてもよい。
【0048】
上記実施例では、保安電極部9は、長手方向に延在する3本ライン部9aと、幅方向に延在する複数のライン部9bとから構成されているが、この構成に限定されるものではない。
例えば、図8に示すように、幅方向に延びる複数のライン部9bのみで構成される保安電極部109であってもよい。
また、図示は省略するが、長手方向に延びる複数のライン部9aのみで構成される保安電極部であってもよい。
【0049】
また、図9に示すような保安電極部209であってもよい。保安電極部209は、複数の線分状電極部(長手方向)209aと、複数の線分状電極部(幅方向)209bとから構成されている。線分状電極部(長手方向)209aは、2枚の金属化フィルム4、4が重ね合わされた状態において、分割電極部6aとこれに長手方向に隣接する分割電極部6aとの間に位置している。線分状電極部(幅方向)209bは、2枚の金属化フィルム4、4が重ね合わされた状態において、分割電極部6aとこれに幅方向に隣接するメタリコン接続部6bとの間に位置している。
【0050】
さらに、上記実施例では、金属化フィルムの一方の面に分割電極部が形成され、他の面に保安電極部が形成された構成(実施例1)、または、金属化フィルムの一方の片面に分割電極部が形成され、他方の片面に保安電極部が形成されされた構成(実施例2)について説明したが、金属化フィルムの両方の主面に分割電極部が形成され、他の金属化フィルムの両方の主面に保安電極部が形成されたものを重ね合わせて、前記分割電極部と、前記保安電極部とが接触した状態で前記金属化フィルムが重ね合わされた構成としても、使用可能である。
【0051】
上記実施例では、電極部6および保安電極部9は、金属蒸着によって誘電体フィルム5の表面に形成されているが、蒸着以外の公知の成膜技術で形成されていてもよい。
【0052】
上記実施例では、巻回形のフィルムコンデンサに本発明を適用した一例を説明したが、複数枚の金属化フィルムが積層された構成の積層形のフィルムコンデンサに本発明を適用してもよい。
この場合、複数枚の金属化フィルム4は、上記実施例と同様に、面5aと面5bとが向かい合うように積層される(図5、6)。
なお、最上段の金属化フィルムの上面と、最下段の金属化フィルムの下面には、電極部6、9は形成されていなくてもよい。
【0053】
上記実施例では、ケース21内にコンデンサ素子2を収納すると共に、熱硬化性樹脂の充填材を充填することによって作製された乾式タイプのフィルムコンデンサに本発明を適用した一例を説明したが、ケース内に絶縁油が充填される油浸タイプのフィルムコンデンサに本発明を適用してもよい。
【符号の説明】
【0054】
1 フィルムコンデンサ
2 コンデンサ素子
3 メタリコン電極
4 金属化フィルム
5 誘電体フィルム
5a、5b 面
6 電極部
6a 分割電極部
6b メタリコン接続部
7 絶縁スリット
7a、7b スリット
8a 絶縁マージン(分割電極側)
8b 絶縁マージン(保安電極側)
9 保安電極部(線状電極)
9a、9b ライン部
9c ヒューズ部
21 ケース
22、23 引出部材
22a、23a 引出電極板
22b、23b 接続部
24、25 引出端子
90 金属化フィルム
91 誘電体フィルム
92 分割電極部
93 ヒューズ部
94 メタリコン接続部
95 絶縁スリット
96 絶縁マージン部
97 メタリコン電極
109 保安電極部
209 保安電極部
209a 線分状電極部(長手方向)
209b 線分状電極部(幅方向)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体フィルムの表面に金属膜が形成された金属化フィルムを少なくとも2枚重ね合わせて巻回または積層してなるフィルムコンデンサにおいて、
一方の金属化フィルムの重ね合わされる表面に前記金属膜が複数に分割された分割電極部が形成され、
他方の金属化フィルムの重ね合わされる表面に前記金属膜としてヒューズ機能を備えた保安電極部が形成され、
前記保安電極部の膜抵抗が前記分割電極部の膜抵抗より高く設定されていることを特徴とするフィルムコンデンサ。
【請求項2】
前記金属化フィルムの両面のうち一方主面に前記分割電極部が形成され、他方主面に前記保安電極部が形成され、
前記金属化フィルムの一方の表面に形成された前記分割電極部と、前記金属化フィルムの他方の表面に形成された前記保安電極部とが接触した状態で前記金属化フィルムが重ね合わされていることを特徴とする請求項1記載のフィルムコンデンサ。
【請求項3】
前記一方の金属化フィルムの片面に前記分割電極部が形成され、
前記他方の金属化フィルムの片面に前記保安電極部が形成され、
前記一方の金属化フィルムの分割電極部が形成されていない表面と前記他方の金属化フィルムの保安電極部が形成されていない表面とを当接させるとともに、
前記一方の金属化フィルムの片面に形成された前記分割電極部と、前記他方の金属化フィルムの片面に形成された前記保安電極部とが接触した状態で前記金属化フィルムが重ね合わされていることを特徴とする請求項1記載のフィルムコンデンサ。
【請求項4】
前記分割電極部は前記金属膜が格子状の絶縁スリットにより島状に分割された複数の島状電極を有し、前記保安電極部は線状の前記金属膜が格子状に形成された線状電極を有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のフィルムコンデンサ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−29555(P2011−29555A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−176515(P2009−176515)
【出願日】平成21年7月29日(2009.7.29)
【出願人】(000004606)ニチコン株式会社 (656)
【Fターム(参考)】