説明

フコキサンチン高含有海藻加工品およびその製法

【課題】無機ヒ素の含有量が低減され、かつ、脂質成分、特にフコキサンチンを高濃度含有する海藻加工品およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】マツモ、ワタモ、キタイワヒゲ、エゾヤハズ、ヒジキ、ウガノモク、ネジモク、エゾノネジモク、フシスジモク、ウミトラノオ、ヤツマタモク、スギモク、エンドウモク及びアカモクから選択される一種又は二種以上の褐藻綱に属する海藻を有機酸又はアルカリにより処理する工程、前記有機酸又はアルカリにより処理された海藻を分離する工程、前記分離された海藻をアルカリ又は有機酸により処理する工程、前記アルカリ又は有機酸により処理された海藻を分離する工程を含むことを特徴とするフコキサンチン高含有海藻加工品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海藻加工品およびその製法に関し、さらに詳しくは、フコキサンチンを高濃度含有する海藻加工品およびその製法に関する。
【背景技術】
【0002】
海藻に含まれる脂質成分は様々な機能性を有することが知られている。例えば、ヘキサデカテトラエン酸、オクタデカテトラエン酸、エイコサペンタエン酸、などの脂肪酸類、フコキサンチン、βカロテン、などのカロテノイド類が含まれる。
【0003】
エイコサペンタエン酸、などの脂肪酸類に関しては、血中脂質低下作用、血圧降下作用、抗血栓作用、抗炎症作用、制ガン作用などの機能性(非特許文献1)が報告されており、フコキサンチン、などのカロテノイド類、特に、フコキサンチンに関しては、抗肥満効果(非特許文献2)、ガン細胞への高いアポトーシス誘導能(非特許文献3)、DHA合成促進作用(非特許文献4)、抗炎症作用(非特許文献5)などの機能性を有することが報告されている。
【0004】
しかしながら、海藻に含まれる脂質含量は低く、機能性を発揮するには多くの海藻を摂取することが必要となる。そのため、海藻より抽出した脂質の形態で利用される場合がある。
海藻由来脂質の製造方法に関して、例えば、濃度55%以上70%以下のエタノール水溶液で抽出する方法(特許文献1)、乾燥粉砕した粉末状ワカメを原料として、アセトンを用いて抽出する方法(特許文献2)、などが開示されている。これらの製造方法は、基本的に有機溶媒を使用するために食品の製造方法としては好ましい方法とはいえない。また、有機溶媒の使用は経済的にも好ましい方法とはいえない。
【0005】
一方、微細化したワカメをアルギン酸リアーゼ水溶液中でインキュベートした後、固液分離して、水溶性成分を取り除く方法が開示されている(特許文献3)。この方法は、有機溶媒を使用しない点において好ましい方法であるが、高価な酵素を使用する点で経済的に好ましい方法とはいえない。
【0006】
また、乾燥コンブを0.1N塩酸で処理し、ついで、0.25%炭酸ナトリウム処理する方法が報告されている(非特許文献6)。しかしながら、本発明者らが確認したところ、ワカメ、アカモク、コンブなどの海藻を0.1N塩酸により処理すると、含有するフコキサンチンが分解するうえ、前記塩酸処理した後に、アルカリ処理すると、海藻がドロドロの状態となり藻体として回収できないか、極めて困難になり、所望の海藻加工品を得ることができない、といった問題を有していることが判明した。
【0007】
尚、海藻からフコイダンなどの多糖類を分離する方法としては、アマノリ属海藻を粉末化し熱水で抽出する方法(特許文献4)、海藻をアルカリ金属塩水溶液に接した後、水溶性成分から取り出す方法(特許文献5)、海藻の細片または粉末から水を加えた後、湿式で磨砕して抽出する方法(特許文献6)、オキナワモズクを有機酸で抽出する方法(特許文献7)が報告されているが、これらは海藻から分離された水溶性成分である多糖類に着目したものであって、残渣である藻体に含まれる脂質成分に着目したものではない。
さらに近年、海藻に含まれる無機ヒ素の人体への影響が懸念されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−173012号公報
【特許文献2】特開平10−158156号公報
【特許文献3】特開2009−51791号公報
【特許文献4】特開平11−113529号公報
【特許文献5】特開2002−105102号公報
【特許文献6】特開2004−49072号公報
【特許文献7】特許第3408180号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】「AA,EPA,DHA-高度不飽和脂肪酸」鹿山光編、恒星社厚生閣
【非特許文献2】H. Maeda et al., Biochemical and Biophysical Research Communications, 332 (2005) 392-397.
【非特許文献3】細川、Bio Industry, 21 (2004) 52-57.
【非特許文献4】T.Tsukui et al., Journal of Agricultural and Food Chemistry, 55 (2007) 5025.
【非特許文献5】K.Shiratori et al., Experimental Eye Research, 81 (2005) 422-428.
【非特許文献6】佐藤ら、北水試だより、72 (2006) 19-21
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、無機ヒ素の含有量が低減され、かつ、高度不飽和脂肪酸やフコキサンチン等の脂質成分、特にフコキサンチンを高濃度含有する海藻加工品およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の海藻を、有機溶媒を用いず、有機酸及びアルカリにより処理することにより、藻体として回収が容易で、高度不飽和脂肪酸等の脂質成分を高濃度含有することに加え、フコキサンチンの分解が抑制されることから、特にフコキサンチンを高濃度含有する海藻加工品を得ることが可能であること、また該海藻加工品の無機ヒ素の含有量が低減されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明の第一は、マツモ、ワタモ、キタイワヒゲ、エゾヤハズ、ヒジキ、ウガノモク、ネジモク、エゾノネジモク、フシスジモク、ウミトラノオ、ヤツマタモク、スギモク、エンドウモク及びアカモクから選択される一種又は二種以上の褐藻綱に属する海藻を有機酸又はアルカリにより処理する工程、前記有機酸又はアルカリにより処理された海藻を分離する工程、前記分離された海藻をアルカリ又は有機酸により処理する工程、前記アルカリ又は有機酸により処理された海藻を分離する工程を含むことを特徴とする海藻加工品の製造方法に関する。
【0013】
本発明では、前記有機酸がクエン酸、リンゴ酸、乳酸、アスコルビン酸及びプロピオン酸から選択される一種又は二種以上であってよい。また、前記アルカリが炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムから選択される一種または二種以上であってよい。
【0014】
また本発明では、前記有機酸又はアルカリにより処理する工程および前記アルカリ又は有機酸により処理する工程を経た海藻を粉末状にする工程を含むものであってよい。
【0015】
本発明の第二は、前記のいずれかに記載の製造方法により製造されるフコキサンチン高含有海藻加工品に関する。本発明では、無機ヒ素の含有量が2ppm以下であるのが好ましい。
【0016】
本発明の第三は、前記のフコキサンチン高含有海藻加工品を用いてなる組成物に関する。
【0017】
本発明の第四は、前記のフコキサンチン高含有海藻加工品を用いてなる食品に関し、前記食品としては、病者用または高齢者用であってよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、無機ヒ素の含有量が低減され、かつ、高度不飽和脂肪酸やフコキサンチン等の脂質成分、特にフコキサンチンを高濃度で含有する海藻加工品およびその製造方法を提供することができる。また、本発明の海藻加工品を原材料として用いてなる組成物は、フコキサンチン等により機能性が付与されることから、当該組成物を摂取することで、機能性成分を安全、かつ、簡便に摂取することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。
本発明の海藻加工品の製造方法は、マツモ、ワタモ、キタイワヒゲ、エゾヤハズ、ヒジキ、ウガノモク、ネジモク、エゾノネジモク、フシスジモク、ウミトラノオ、ヤツマタモク、スギモク、エンドウモク及びアカモクから選択される一種又は二種以上の褐藻綱に属する海藻を有機酸又はアルカリにより処理する工程、前記有機酸又はアルカリにより処理された海藻を分離する工程、前記分離された海藻をアルカリ又は有機酸により処理する工程、前記アルカリ又は有機酸により処理された海藻を分離する工程を含むことを特徴とする。
【0020】
このような工程を含む製造方法により、海藻の藻体として回収が容易で、フコキサンチンの分解が抑制され、さらに機能性を有する高度不飽和脂肪酸やフコキサンチン等の脂質成分、特にフコキサンチンを高濃度で含有する海藻加工品を得ることができる。また、有機溶媒を使用しないため、経済的な面で、例えば食品の製造方法として好適である。
【0021】
尚、本発明において、フコキサンチンについて高濃度あるいは高含有というのは、必ずしも海藻加工品のフコキサンチン含有量の絶対値をもとにした高低により評価することではなく、原料となる特定海藻のフコキサンチンの含有量に対する、上記方法により得られた海藻加工品の含有量の増加率(濃縮率)を評価することを含む概念である。これは、海藻の種類、季節、生息場所によってフコキサンチンの含有量が異なることによるものである。従って、本発明に係る海藻加工品においては、その乾燥重量当たりのフコキサンチンの含有量が、有機酸及びアルカリ処理前の原料段階での海藻の乾燥重量当たりのフコキサンチン含有量に対して、1.2倍以上、好ましくは1.4倍以上、より好ましくは1.8倍以上に濃縮されたものである場合、フコキサンチンについて高濃度あるいは高含有ということができるものとする。尚、前記乾燥重量とは、原料となる海藻、および、海藻加工品を40℃で、15−20時間乾燥させた時の重量をいうものとする。
【0022】
また、前記濃縮率は、高度不飽和脂肪酸についても同様にあてはまる。高度不飽和脂肪酸としては、海藻の種類等により異なる場合があるが、リノレン酸(18:3)、ステアリドン酸(18:4)、アラキドン酸(20:4)、エイコサペンタエン酸(20:5)などの二重結合を3個以上有する高度不飽和脂肪酸、および、二重結合を4個以上有する高度不飽和脂肪酸などが含まれる。
【0023】
更に、有機酸の作用により、海藻中の無機ヒ素の含有量を低減することも可能となる。
【0024】
本発明では、マツモ、ワタモ、キタイワヒゲ、エゾヤハズ、ヒジキ、ウガノモク、ネジモク、エゾノネジモク、フシスジモク、ウミトラノオ、ヤツマタモク、スギモク、エンドウモク及びアカモクから選択される一種又は二種以上の褐藻綱に属する海藻を用いる。これらの海藻は、脂質成分、特にフコキサンチンの含量の面において好ましく、このうち、フコキサンチン含量がより多く、また、食経験、および入手の容易さの観点から、アカモクがより好ましい。尚、本発明では上記の海藻を用いることを原則とするが、当該海藻に任意の海藻を適宜併用しても良い。
【0025】
具体的には、ハバノリ、カヤモノリ、エゾフクロ、オキナワモズク、イシモズク、チガイソ、ツルモ、ヘラヤハズ、シワヤハズ、ヤハズグサ、アミジグサ、フクリンアミジ、アツバコモングサ、サナダグサ、ウミウチワ、コモングサ、コブクロモク、フタエモク、オオバノコギリモク、イソモク、ノコギリモク、トゲモク、タマハハキモク、ナラサモ、タマナシモク、マメタワラ、オオバモク、ナガシマモク、ヨレモク、ウスバモク、ヒラネジモク、アズマネジモク、ヨレモクモドキ、ラッパモク、ヒバマタ、ヤバネモク、ジョロモク、エゾイシゲ、ホンダワラ、シダモク、ヤナギモク、などが例示できる。
【0026】
本発明で用いられる海藻は、生の海藻、冷凍された海藻、塩蔵された海藻あるいは乾燥された海藻、などの各種状態の海藻いずれも使用できる。経済性の面からは、生の海藻が好ましいが、海藻の保存、海藻組織が壊れ、酸やアルカリなどの処理液の浸透性向上による多糖類などの除去効率の向上の面から冷凍された海藻あるいは乾燥された海藻が好ましい。前記海藻はそのまま、あるいは細断された状態、いずれの状態でも使用できるが、多糖類などの除去効率の向上、取り扱いの容易さ、などの面から、0.5〜50mm程度の大きさに細断された状態が好ましい。
【0027】
本発明では、上記のように、特定の海藻を有機酸およびアルカリにより処理し、これらの処理がなされた海藻を分離して、フコキサンチン高含有海藻加工品を製造するものであり、有機酸処理を行った後に、アルカリ処理を行ってもよいし、アルカリ処理を行った後に、有機酸処理を行っても、所望の海藻加工品を得ることができる。そこで、ここでは、前者の場合、即ち、有機酸処理を行った後に、アルカリ処理を行う場合を例として説明し、後者の説明を省略するが、後者の場合についても、前者の場合と同様にして行うことができ、同じ作用効果が得られることは言うまでもない。
【0028】
本発明では、上記のような各種状態の海藻を必要により水洗、脱塩等適宜前処理を行った後、当該海藻を有機酸により処理する。尚、乾燥された海藻を用いる場合は、水道水などで湿潤状態に戻したものを用いても良い。このように有機酸処理を施すことにより、塩酸や硫酸のような無機酸を用いた後アルカリ処理する場合と異なり、藻体として回収が容易で、多糖類やタンパク質等が藻体外に溶出されるとともに、フコキサンチンの分解が効果的に抑制されつつ、高度不飽和脂肪酸やフコキサンチン等の脂質成分が藻体内に保持される。さらに、藻体から無機ヒ素が効果的に溶出し、除去される。
【0029】
有機酸による処理方法としては、特に限定はなく、公知の方法を適宜選択すれば良いが、例えば、所定濃度の有機酸を含む溶液(例えば、有機酸の水溶液など。)に前記海藻を浸漬し、静置する方法や、同じく浸漬して、撹拌、振とう等を行う方法などが例示できる。この際、海藻と有機酸溶液の混合比は、特に限定されるものではないが、単位時間当たりの多糖類等の除去効率および経済性の観点から、概ね海藻100重量部(乾燥重量)に対して3〜100000重量部であるのが好ましく、有機酸の濃度は、各種酸の強度等により適宜決定することができるが、概ね0.1〜10重量%である。また、処理温度は、特に限定されるものではないが、多糖類等の除去効率、フコキサンチン等の脂質成分の安定性および経済性の観点から、20〜80℃が好ましく、25〜60℃がより好ましい。また処理時間は、特に限定されるものではないが、多糖類等の除去効率および経済性の観点から、5〜180分が好ましく、5〜90分がより好ましい。
【0030】
前記有機酸としては、フコキサンチンを分解しないものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、シュウ酸、クエン酸、コハク酸、マロン酸、ケイ皮酸、酒石酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、乳酸、酪酸、プロピオン酸、アスコルビン酸、安息香酸、吉草酸、グルタル酸、グリコール酸およびソルビン酸、などから選択された一種あるいは二種以上を組み合わせて使用することができる。また、本発明のように有機酸を用いることにより、後述のアルカリ処理後に藻体表面にヌメリが発生するのを防止することも可能となる。尚、フコキサンチンの分解防止及びアルカリ処理後の藻体表面のヌメリ発生防止の観点から、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、アスコルビン酸、プロピオン酸が好ましい。
【0031】
本発明では、上記のように海藻の有機酸処理を行った後、前記有機酸により処理された海藻を分離して、多糖類等が除去されて脂質成分等が濃縮された海藻を、その形状を保持した状態で得ることができる。この際の分離方法としては、特に限定はなく、濾過、遠心分離、フィルタープレスなど公知の方法を用いることができる。分離された固形部(海藻)は、必要により、水洗等をおこなって、有機酸を除去すると良い。水洗方法としては、特に制限はなく、公知の方法を用いて行えばよく、固形部として得られた海藻のかたまりを、ほぐすために、流水中で、ゆっくり撹拌等を行っても良い。
【0032】
本発明では、上記のようにして分離された海藻をアルカリにより処理する。このようにアルカリ処理を施すことにより、有機酸では抽出されなかった多糖類等がさらに抽出される一方、高度不飽和脂肪酸やフコキサンチン等の脂質成分等は藻体内に保持されるため、特にフコキサンチンを高濃度に含有する海藻藻体が得られることとなる。また、無機酸ではなく有機酸処理を行ってアルカリ処理を行うことにより、海藻の藻体がドロドロになり回収できなくなったり、回収が困難になることもない。
【0033】
アルカリによる処理方法としては、特に限定はなく、公知の方法を適宜選択すれば良いが、例えば、所定濃度のアルカリを含む溶液(例えば、アルカリの水溶液など。)に前記海藻を浸漬し、静置する方法や、同じく浸漬して、撹拌、振とう等を行う方法などが例示できる。この際、海藻とアルカリ溶液の混合比は、特に限定されるものではないが、単位時間当たりの多糖類等の除去効率および経済性の観点から、概ね海藻100重量部(乾燥重量)に対して3〜100000重量部であるのが好ましく、アルカリの濃度は、各種アルカリの強度等により適宜決定することができるが、概ね0.1〜10重量%である。また、処理温度は、特に限定されるものではないが、多糖類等の除去効率、フコキサンチン等の脂質成分の安定性および経済性の観点から、20〜80℃が好ましく、25〜60℃がより好ましい。また処理時間は、特に限定されるものではないが、多糖類等の除去効率および経済性の観点から、5〜180分が好ましく、5〜90分がより好ましい。
【0034】
本発明で用いられるアルカリは、特に限定されるものではなく、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸三ナトリウム、酢酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、クエン酸一カリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸一ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酒石酸水素カリウム、酒石酸ナトリウム、乳酸ナトリウムおよびリンゴ酸ナトリウム、などから選択された一種または二種以上を組み合わせて使用することができる。経済性、多糖類などの除去の面より、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムから選択される一種または二種以上が好ましい。
【0035】
上記のようにしてアルカリによる処理を行った後、前記アルカリにより処理された海藻を分離して、多糖類等が除去されて脂質成分等がさらに濃縮された海藻を、その形状を保持した状態で得ることができる。この際の分離方法としては、有機酸処理後の場合と同様である。分離された固形部(海藻)は、必要により、有機酸処理の場合と同様の水洗等を行って、アルカリを除去すると良い。
【0036】
上記のようにしてアルカリ処理、必要により水洗して、海藻の藻体の形状を保持した、フコキサンチン高含有海藻加工品が得られるが、さらに、公知の方法で乾燥しても良い。乾燥方法としては、特に限定されるものではなく、天日干し等の自然の力で乾燥させる方法、凍結乾燥、送風乾燥、温風乾燥、真空乾燥あるいはマイクロ波照射による乾燥、などの方法が挙げられる。
【0037】
本発明では、上記のようにして有機酸により処理する工程およびアルカリにより処理する工程を経た海藻(海藻加工品)を、粉末状にしても良い。粉末状にする工程としては、アルカリ処理した後(必要により水洗後)、湿潤状態で公知の方法で微細化した後、乾燥処理を行っても良いし、乾燥した後、公知の方法で微細化してもよい。例えば、所定の処理を行って乾燥させた海藻(海藻加工品)を粉末にする方法としては、海藻が微細化されるならば、特に限定されるものではなく、粉砕機、磨砕機、ホモジナイザー、超音波発生機、などを用いて行うことができ、これらを二種以上組み合わせて用いてもよい。粉末の微細化の程度は、種々の用途によって異なるが、粉末粒子の大きさとしては、概ね、850μm(20メッシュ)以下、あるいは600μm(30メッシュ)以下である。
【0038】
以上のようにして得られた海藻加工品は、前述の高度不飽和脂肪酸やフコキサンチン等の脂質成分、特にフコキサンチンを高濃度で含有する一方で、無機ヒ素の含有量が極めて低濃度、例えば2ppm以下であることから、種々の用途、例えば、食品、飲料、飼料、医薬品等の原材料として好適に使用することができ、食品の原材料として用いるのがより好適である。そして、当該海藻加工品を原材料として用いてなる組成物は、フコキサンチン等により機能性が付与されることから、当該組成物を摂取することで、機能性成分を安全、かつ、簡便に摂取することができる。また、前記組成物の調製に際して加熱加工を行う場合は、脂質成分、とりわけフコキサンチンが加熱により分解する可能性があるが、本発明の海藻加工品のように、海藻の藻体内に保持されている場合は、加熱による分解を抑制することが可能となる。そのため、加熱加工を行って組成物を作製する場合に、本発明の海藻加工品を用いることが特に有効である。
【0039】
海藻加工品を食品用途で用いた場合の組成物としては、例えば、板状乾燥海藻および佃煮などの海藻製品類;食パン、バターロールおよびベーグルなどのパン類;焼き菓子、ショートブレッドおよびケーキなどの菓子類;うどんおよび蕎麦などの麺類;ご飯、おにぎりおよびお粥などの米飯類;草餅、あん餅、きな粉餅およびおろし餅などの餅類;スパゲティ、フェットチーネ、ペンネ、エリケ、ラビオリおよびラザニアなどのパスタ類;マヨネーズ、サラダクリーミードレッシング、半固体状ドレッシング、乳化液状ドレッシングおよび分離液状ドレッシングなどのドレッシング類;ムース、ゼリーおよびスープなどの病者用あるいは高齢者用食品などを挙げることができる。
【0040】
前記板状乾燥海藻は、乾ノリに代表される形態であり、乾ノリの様な形態であれば、特に成分などが限定されるわけではない。必要により、遠赤外線などを利用して焼きノリ状態にしても良いし、食塩、みりんなどの調味液を塗布して味を付けても良い。
【0041】
前記病者用あるいは高齢者用食品には、嚥下食あるいは咀嚼困難者食などの半固形食や流動食が含まれる。
【0042】
食品の形態としては、特に限定はないが、例えばバータイプ食品、ブロックタイプ食品あるいはチアーバックタイプ食品などの場合、経口摂取が容易となる。バータイプ食品とは、「SOYJOY(登録商標)(大塚製薬株式会社)」のような形態の食品のことであり、形態がバータイプであれば、海藻加工品の形態は限定されず、粉末状、小片状など種々の状態のものを用いればよい。
【0043】
海藻加工品を飲料用途で用いた場合の組成物としては、例えば野菜ジュース、オレンジジュースおよびアップルジュースなどのジュース類;牛乳および醗酵乳などの乳飲料;果実酒および日本酒などのアルコール飲料;緑茶、紅茶およびハーブティーなどの茶飲料などを挙げることができる。
【0044】
海藻加工品を飼料用途で用いた場合の組成物としては、例えばペット用飼料、家畜用飼料あるいは魚介類用飼料が挙げられる。ペット用飼料としては、例えばイヌ、ネコ、ウサギ、ハムスターおよびリスなどの哺乳類用飼料;セキセイインコ、ハト、ブンチョウおよびジュウシマツなどの鳥類用飼料などが挙げられる。また、家畜用飼料としては、例えばウシ、ブタ、ヒツジおよびヤギなどの哺乳類用飼料;ニワトリ、チャボ、ウズラ、シチメンチョウ、アヒル、ガチョウおよびダチョウなどの鳥類用飼料などが挙げられる。さらに、魚介類用飼料としては、例えばマダイ、ハマチ、ウナギおよびエビなどの養殖魚用飼料;コイ、キンギョ、ディスカス、アロワナおよびネオンテトラなどの観賞魚用飼料などが挙げられる。
【0045】
海藻加工品を医薬品用途で用いた場合の組成物としては、例えば抗肥満剤、血糖値上昇抑制剤、ガン細胞増殖抑制剤、抗炎症剤、などを挙げることができ、その形態としては、錠剤、粉剤、カプセル剤等、必要に応じ種々選択することができる。
【実施例】
【0046】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
(海藻の冷凍保存)
収穫した各種海藻を−20℃で冷凍し、使用するまで−20℃で保存した。
(冷凍海藻の解凍および脱塩)
冷凍保存した各種海藻を、水道水で解凍および脱塩を行なった。解凍および脱塩後、30メッシュ(目開き600μm)のふるいを用いて水を切り、後述の海藻加工品の調製に供した。
【0047】
(総脂質含量の測定)
<海藻加工品>
実施例1〜3および比較例1〜4で得られた乾燥海藻加工品(乾燥試料)5gに蒸留水50mLを加え、混合し、15分間、室温、暗所に静置した。静置後、クロロホルム/メタノール(1:2、v/v)200mLを加え、混合し、1時間、室温、暗所に静置した。静置後、ろ紙濾過を行なった。残渣にクロロホルム/メタノール(1:2、v/v)150mLを加え、混合し、1時間、室温、暗所に静置した。静置後、ろ紙濾過を行なった。残渣にクロロホルム/メタノール(1:2、v/v)150mLを加え、混合し、1時間、室温、暗所に静置した。静置後、ろ紙濾過を行なった。それぞれのろ紙濾過で得られたろ液を分液ロートに移し、下層部を回収した。回収した下層部に無水硫酸ナトリウムを加えることにより下層部の脱水を行なった。脱水後、ロータリーエバポレーターで溶媒を留去し、さらに窒素ガスを吹き付け、濃縮物を得た。得られた濃縮物の重量を総脂質重量とし、その値を乾燥試料重量で除した値を総脂質含量とした。
【0048】
<組成物>
実施例4〜7の場合は、各実施例で得られた組成物50gに蒸留水100mLを加え、オスターブレンダー(オスター社製、ST−1形)で混合・粉砕した。混合・粉砕後、15分間、室温、暗所に静置した。静置後、クロロホルム/メタノール(1:2、v/v)500mLを加え、混合し、1時間、室温、暗所に静置し、混合物を得た。
一方、実施例8および9の場合は、各実施例で得られた組成物50gに蒸留水を加えず、クロロホルム/メタノール(1:2、v/v)500mLを加え、混合し、1時間、室温、暗所に静置し、混合物を得た。
次に、上記の静置後の各混合物について、吸引濾過を行なった。残渣にクロロホルム/メタノール(1:2、v/v)300mLを加え、混合し、1時間、室温、暗所に静置した。静置後、吸引濾過を行なった。残渣にクロロホルム/メタノール(1:2、v/v)300mLを加え、混合し、1時間、室温、暗所に静置した。静置後、吸引濾過を行なった。それぞれの濾過で得られたろ液を分液ロートに移し、下層部を回収した。回収した下層部に無水炭硫酸ナトリウムを加えることにより下層部の脱水を行なった。脱水後、ロータリーエバポレーターで溶媒を留去し、さらに窒素ガスを吹き付け、濃縮物を得た。得られた濃縮物の重量を総脂質重量とした。
【0049】
(フコキサンチン含量の測定)
検量線を基に、上記総脂質中のフコキサンチン含量を下記HPLC条件にて定量し、上記のようにして算出された総脂質含量から乾燥海藻加工品および組成物中のフコキサンチン含量を算出した。
<HPLC条件>
ポンプ:L−7100(株式会社日立製作所製)
検出器:フォトダイオードアレイ分光光度計 L−7455(株式会社日立製作所製)
カラム:TOSOH TSKgel ODS−80Ts(250×4.6mm i.d.)
移動相:30%アセトニトリル/メタノール
流速:1mL/min
カラム温度:28℃
検出波長:450nm
【0050】
(無機ヒ素の定量)
無機ヒ素の定量は、HPLC−誘導結合プラズマ質量分析法(アジレント・テクノロジー株式会社製、7500cx)で実施した。検出限界は0.5ppmであった。
【0051】
(水分含量(乾燥重量)の測定)
試料の一部を40℃のエアーバス中で、15−20時間乾燥し、重量変化を基に水分含量を算出した。尚、乾燥後の重量を試料の乾燥重量とした。
【0052】
(実施例1)
上記のようにして冷解凍したアカモク(水分含量82.0重量%)100gを0.5〜3cm程度の大きさに細断し、これを2重量%プロピオン酸水溶液400mL中に浸漬して、30℃で15分間静置し、有機酸処理を行なった。有機酸処理後、吸引濾過を行い、液体部を取り除き、固形部(海藻)を回収した。回収した固形部(海藻)を、50メッシュ(目開き300μm)のふるいの中で緩やかに撹拌し、水を換えながら、プロピオン酸の臭気が無くなるまで水洗を行なった。次に、水洗後の海藻を2重量%炭酸ナトリウム水溶液400mL中に浸漬して(概ね、海藻100重量部(乾燥重量)に対し2重量%炭酸ナトリウム水溶液2950重量部)、30℃で15分間静置し、アルカリ処理を行なった。アルカリ処理後、吸引濾過を行い、液体部を取り除き、固形部(海藻)を回収した。回収した固形部(海藻)を、50メッシュのふるいの中で緩やかに撹拌し、水を換えながら、ヌメリが取れ、かつ、炭酸ナトリウムの臭気が無くなるまで水洗を行なった。水洗後、得られた海藻を50メッシュのふるいで回収し、海藻加工品を得た。該海藻加工品を50メッシュのスクリーンに広げ、40℃で18時間乾燥を行ない、乾燥した海藻加工品、即ち、有機酸・アルカリ処理乾燥アカモク(処理アカモク−1)を得た。原料アカモクの乾燥重量に対する処理アカモク−1の収率、総脂質含量、フコキサンチン含量および無機ヒ素濃度を表1に示した。
尚、上記HPLCを用いた方法によりフコキサンチン含量を測定した時のフコキサンチンの溶出時間は3.8分であった。
【0053】
(比較例1)
2重量%プロピオン酸水溶液および2重量%炭酸ナトリウム水溶液をそれぞれ蒸留水に替えた以外は実施例1と同様にして、未処理乾燥アカモク(未処理アカモク−1)を得た。原料アカモクの乾燥重量に対する未処理アカモクの収率、総脂質含量、フコキサンチン含量及び無機ヒ素濃度を表1に示した。また、上記HPLCを用いた方法によりフコキサンチン含量を測定した時のフコキサンチンの溶出時間は3.8分であった。なお、水洗は実施例1の有機酸処理後およびアルカリ処理後の水洗と同程度行なった。
【0054】
(比較例2)
2重量%プロピオン酸水溶液に替えて、0.1N塩酸を使用した以外は実施例1と同様にして、0.1N塩酸処理を行ない、次に2重量%炭酸ナトリウム処理を行ったところ、藻体がドロドロの状態となり、塩酸・アルカリ処理を経た乾燥アカモクを得ることができなかった。尚、0.1N塩酸処理後のアカモク(塩酸処理アカモク)に含まれるフコキサンチン含量を表1に示した。また、上記HPLCを用いた方法によりフコキサンチン含量を測定した時のフコキサンチンの溶出時間は3.8分であったが、そのピーク面積はプロピオン酸水溶液による処理の場合や未処理の場合よりも減少した。
【0055】
(比較例3)
実施例1と同様にして、2重量%プロピオン酸水溶液による有機酸処理を行なった。水洗後、得られた海藻を50メッシュのスクリーンに広げ、40℃で18時間乾燥を行ない、有機酸処理乾燥アカモク(処理アカモク−2)を得た。原料アカモクの乾燥重量に対する処理アカモク−2の収率、総脂質含量、フコキサンチン含量および無機ヒ素濃度を表1に示した。また、上記HPLCを用いた方法によりフコキサンチン含量を測定した時のフコキサンチンの溶出時間は3.8分であった。
【0056】
(実施例2)
冷解凍アカモクに替えて、冷解凍ヒジキ(水分含量83.4%)を使用し、炭酸ナトリウムに替えて炭酸カリウムを使用した以外は、実施例1と同様にして、有機酸・アルカリ処理乾燥ヒジキ(処理ヒジキ−1)を得た。原料ヒジキの乾燥重量に対する処理ヒジキ−1の収率、総脂質含量、フコキサンチン含量および無機ヒ素濃度を表1に示した。
【0057】
(比較例4)
冷解凍アカモクに替えて、冷解凍ヒジキを使用した以外は比較例1と同様にして、未処理乾燥ヒジキ(未処理ヒジキ−1)を得た。原料ヒジキの乾燥重量に対する未処理ヒジキ−1の収率、総脂質含量、フコキサンチン含量および無機ヒ素濃度を表1に示した。
【0058】
【表1】

【0059】
(実施例3)
実施例1で得られた処理アカモク−1をオスターブレンダーで粉砕し、100メッシュ(目開き150μm)のふるいを通して粉末状のアカモク加工品を得た。得られた粉末状のアカモク加工品の総脂質含量およびフコキサンチン含量はそれぞれ111.2mg/gおよび16.4mg/gであり、実施例1で得られた処理アカモク−1と同等であった。
【0060】
表1より、実施例1における海藻加工品(処理アカモク−1)の総脂質およびフコキサンチンの海藻乾燥重量当たりの含量は、比較例1における未処理の海藻(未処理アカモク−1)に比べ、1.8倍程度であり、さらに、比較例3における有機酸処理のみを行った海藻(処理アカモク−2)に比べても、1.5倍以上であることが分かる。また、比較例1と比較例3を比較すると、有機酸処理のみを行った場合は、フコキサンチン等の濃度は殆ど同じであるか僅かに高い程度であることが分かる。
このように、有機酸処理のみでは、未処理の場合に比べ、総脂質含量およびフコキサンチン含量の向上は僅かであるが、有機酸処理を行なった海藻に対して、さらにアルカリ処理を行なうことにより、フコキサンチンを含む脂質成分が高濃度に残存することが分かる。加えて、表1に示すように、無機ヒ素の濃度が極めて低減されることも分かる。
また、比較例3の場合のように(実施例1の有機酸処理後の場合も同様)、2重量%プロピオン酸による処理ではアカモクに含まれるフコキサンチンの含量は、比較例1の場合のように未処理のアカモクに含まれるフコキサンチンの含量とほぼ同じであり、分解などによる減少はない。一方、比較例2の場合のように、0.1N塩酸による処理を行ったアカモクのフコキサンチン含量は、比較例1の未処理アカモクの26%であり、74%のフコキサンチンが分解することが明らかとなった。この点は、HPLC測定結果から確認できる。
【0061】
以上のように、本発明によれば、褐藻綱に属する特定の海藻を有機酸処理およびアルカリ処理を行っても、海藻の藻体を回収が容易で、かつ、機能性を有する高度不飽和脂肪酸やフコキサンチンなどの脂質成分、とりわけフコキサンチンを高濃度に含有する海藻加工品を得ることが可能であり、無機ヒ素の含量が極めて低減されたものである。また、上記実施例1においては、二重結合を3個以上有する高度不飽和脂肪酸の含有量が総脂質に含まれる脂肪酸に対して50.3重量%、二重結合を4個以上有する高度不飽和脂肪酸が43.7重量%含まれ、他の実施例についても、同等であることを確認した。
従って、本発明の海藻加工品を用いれば、機能性を有する高度不飽和脂肪酸やフコキサンチンを含む脂質成分を安全に、かつ、簡便に摂取することができる。
【0062】
次に、本発明のフコキサンチン高含有海藻加工品を用いた組成物の好適例について説明する。
(実施例4)
<海藻加工品の調製>
実施例1と同様にして乾燥前の海藻加工品(アカモク加工品)を得た。
<海藻加工品を用いた組成物の調製>
次に、該アカモク加工品(水分含量84.2重量%)100gに、水洗した生ノリ(明石産)100gを加え、オスターブレンダーで細断した。細断後、水を加えよく混ぜ、枠を張ったスノコの上に流して漉き、スノコに残ったノリを40℃で20時間乾燥し、板状乾燥海藻(組成物)32.6gを得た。得られた板状乾燥海藻はノリの風味を有し、ご飯との相性も良く、おにぎり、ノリ巻き、などノリと同様に食することができた。また、得られた組成物に含まれるフコキサンチン含量を測定した。その結果を表2に示す。
【0063】
(実施例5)
<粉末状海藻加工品の調製>
実施例4と同様にして得られたアカモク加工品を50メッシュのスクリーンに広げ、40℃で18時間乾燥を行ない、乾燥アカモク加工品を得た。該乾燥アカモク加工品をオスターブレンダーで粉砕し、140メッシュ(目開き106μm)のふるいを通し、粉末アカモク加工品を得た。
<海藻加工品を用いた組成物の調製>
パンケースに、もち米420gを水がきれいになるまで洗い、ざるで30分間水を切ったもの、及び水道水300mLを入れ、自動ホームベーカリー(パナソニック株式会社製;SD−BM152)を用いて草餅を作製した。尚、餅をつき始めた時に、前記粉末アカモク加工品20g、および、茹でた後に冷水で灰汁を抜き、細かく刻んで水を絞ったヨモギの葉30gを入れた。得られた草餅は680gであった。該草餅をパンケースより取り出し、丸めた草餅20個を得た。得られた草餅は美味しく食することができた。また、得られた組成物に含まれるフコキサンチン含量を測定した。その結果を表2に示す。
【0064】
(実施例6)
強力粉200g、デュラムセモリナ粉200g、実施例5と同様にして得られた粉末アカモク加工品50gを混ぜ合わせ、パンケースに入れた。食塩7gを溶解した水道水170mLに全卵100gを加え、次いでオリーブオイル4gを加え、自動ホームベーカリーを利用して生地を作製した。得られた生地をラップで包み、冷蔵庫で60分間熟成させた。熟成後、薄力粉を表面にふりかけロールで厚さ1mm程に伸ばした。次に、折り目をずらしながら階段状に屏風折りし、幅5mmに切り、パスタ(組成物)640gを得た。得られたパスタは、物性も良く、美味しく食することができた。また、得られた組成物に含まれるフコキサンチン含量を測定した。その結果を表2に示す。
【0065】
(実施例7)
ホーロー鍋に牛乳200gと砂糖35gを入れ、砂糖が溶けるまで混ぜながら火にかけ、火を止め、予め水道水40mLに浸しておいたゼラチン10gを加え、溶かした。次に、80℃の水道水60mLに抹茶4gおよび実施例5と同様にして得られた粉末アカモク加工品6gを分散させたものを加え、よく混ぜた。底を氷水で冷やし、混ぜながら生地にトロミをつけたら、6、7分立ての生クリーム150g、卵白20gと砂糖5gで調製したメレンゲを泡立て器で混ぜ合わせ、カップに分注し、冷蔵庫で3時間冷やし、ムース(組成物)448gを得た。得られたムースは美味しく食することができた。また、得られた組成物に含まれるフコキサンチン含量を測定した。その結果を表2に示す。
【0066】
(実施例8)
<粉末状海藻加工品の調製>
実施例4と同様にして得られたアカモク加工品を50メッシュのスクリーンに広げ、40℃で18時間乾燥を行ない、乾燥アカモク加工品を得た。該乾燥アカモク加工品を、気流式粉砕機で粉砕して、270メッシュ(目開き53μm)のふるいに通し、粉末アカモク加工品を得た。
<海藻加工品を用いた組成物の調製>
コーンサラダ油20g、カゼインナトリウム20g、デキストリン145g、難消化性デキストリン6g、前記粉末アカモク加工品4g、ビタミンミックス2g、グリセリン脂肪酸エステル3g、ジェランガム4gおよび蒸留水796gを予備乳化後、乳化機で乳化を行い、乳化物(組成物)924gを病者用あるいは高齢者用食品である流動食として得た。また、得られた組成物に含まれるフコキサンチン含量を測定した。その結果を表2に示す。
【0067】
(実施例9)
<ペースト状海藻加工品の調製>
実施例4と同様にして乾燥前のアカモク加工品を調製した後、該アカモク加工品をマスコロイダー(増幸産業株式会社製)を用いて、ペースト状アカモク加工品を得た。
<海藻加工品を用いた組成物の調製>
前記ペースト状アカモク加工品10g、抹茶(市販品)2gおよび砂糖4gを牛乳200gに加えて撹拌し、乳飲料(組成物)215gを得た。また、得られた組成物に含まれるフコキサンチン含量を測定した。その結果を表2に示す。
【0068】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、高度不飽和脂肪酸やフコキサンチンなどの脂質成分、とりわけフコキサンチンを高濃度含有する海藻加工品およびその製造方法に関するものであり、当該海藻加工品を食品などに添加することにより食品などに機能性を付与することが可能となり、機能性成分を安全、かつ、簡便に摂取することができる。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
マツモ、ワタモ、キタイワヒゲ、エゾヤハズ、ヒジキ、ウガノモク、ネジモク、エゾノネジモク、フシスジモク、ウミトラノオ、ヤツマタモク、スギモク、エンドウモク及びアカモクから選択される一種又は二種以上の褐藻綱に属する海藻を有機酸又はアルカリにより処理する工程、前記有機酸又はアルカリにより処理された海藻を分離する工程、前記分離された海藻をアルカリ又は有機酸により処理する工程、前記アルカリ又は有機酸により処理された海藻を分離する工程を含むことを特徴とするフコキサンチン高含有海藻加工品の製造方法。
【請求項2】
前記有機酸がクエン酸、リンゴ酸、乳酸、アスコルビン酸及びプロピオン酸から選択される一種又は二種以上である請求項1に記載の海藻加工品の製造方法。
【請求項3】
前記アルカリが炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムから選択される一種または二種以上である請求項1または2に記載の海藻加工品の製造方法。
【請求項4】
前記有機酸又はアルカリにより処理する工程および前記アルカリ又は有機酸により処理する工程を経た海藻を粉末状にする工程を含む請求項1〜3のいずれかに記載の海藻加工品の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法により製造されるフコキサンチン高含有海藻加工品。
【請求項6】
無機ヒ素の含有量が2ppm以下である請求項5記載のフコキサンチン高含有海藻加工品。
【請求項7】
請求項5又は6に記載のフコキサンチン高含有海藻加工品を用いてなる組成物。
【請求項8】
請求項5又は6に記載のフコキサンチン高含有海藻加工品を用いてなる食品。
【請求項9】
前記食品が病者用または高齢者用である請求項8記載の食品。



【公開番号】特開2013−31369(P2013−31369A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−270611(P2009−270611)
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年、文部科学省、地域科学技術振興事業委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】