説明

フッ化カルボニルの製造方法および製造装置

要約
課題 COFを収率よく、工業的に製造できる方法の提供。
解決手段 一酸化炭素Aとフッ素Bを、希釈ガスとともに反応容器1内に連続的に供給し、反応させてフッ化カルボニルを製造する方法であって、希釈ガスとしてフッ化水素またはフッ化カルボニルを用いることを特徴とするフッ化カルボニルの製造方法。一酸化炭素Aとフッ素Bとを反応させてフッ化カルボニルを生成させるフッ化カルボニルの製造装置であって、一酸化炭素Aの供給手段、フッ素Bの供給手段、フッ化水素またはフッ化カルボニルからなる希釈ガスの供給手段、および反応容器を備えてなることを特徴とするフッ化カルボニルの製造装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造装置等のクリーニングガス、エッチングガス、有機化合物のフッ素化剤として有用なフッ化カルボニル(COF)の工業的に有利な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ化カルボニルの合成法としては、流通法により一酸化炭素をフッ素によって直接フッ素化する方法が知られている(非特許文献1参照。)。しかし、この反応を行うためには、爆発の危険性、副反応によるフッ化カルボニルの反応収率の低下、激しい発熱を避けるために、N、He、Ne、Ar等の不活性ガスを、反応系内に加える必要があった(特許文献1参照。)。
【0003】
このように、不活性ガスを用いて原料ガスである一酸化炭素およびフッ素を希釈する方法においては、反応器の出口においてCOFの濃度が50体積%以下になるように希釈するのが好ましい。この方法による反応後、得られたCOFを精製する必要があるが、この精製方法としては、蒸留精製またはCOF融点(−111℃)以下に冷却し凝固させて捕集し精製する方法が考えられる。
【0004】
しかし、COFを凝固させて捕集する方法は、液体窒素等の極低温冷媒のコストの点、凝固捕集装置においてCOFの凝固捕集の進行に伴う冷却面との総括伝熱係数の低下の点等から、工業的な製造プロセスには不向きである。一方、蒸留精製による方法では、COF(大気圧における沸点−85℃)を凝縮液化させて、COFよりも沸点が低い上記不活性ガスを分離するが、このとき、凝縮温度(例えば−70℃から20℃)における蒸気圧分のCOFは、上記不活性ガスに同伴されて損失し、COFの収率が低下するという問題がある。
【0005】
【特許文献1】特開2003−267712号公報
【0006】
【非特許文献1】Handbook of preparative inorganic chemistry I,206頁 2nd ed.,Georg Brauer, ed., Academic Press, New York, 1965
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の問題がなく、COFを収率よく、工業的に製造できる方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、一酸化炭素とフッ素を、希釈ガスとともに反応容器内に連続的に供給し、反応させてフッ化カルボニルを製造する方法であって、希釈ガスとしてフッ化水素またはフッ化カルボニルを用いることを特徴とするフッ化カルボニルの製造方法を提供する。
【0009】
また、本発明は、一酸化炭素とフッ素とを反応させてフッ化カルボニルを生成させるフッ化カルボニルの製造装置であって、一酸化炭素の供給手段、フッ素の供給手段、フッ化水素またはフッ化カルボニルからなる希釈ガスの供給手段、および反応容器を備えてなることを特徴とするフッ化カルボニルの製造装置を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明において、希釈ガスとしてフッ化水素を用いる場合は、フッ化水素の沸点(大気圧において19.5℃)がCOFの沸点(大気圧において−85℃)よりも高いことから、得られた反応生成物を冷却することにより、フッ化水素とCOFとを気液分離により容易に分離することができる。
【0011】
また、本発明において、主としてCOFを含有する希釈ガスを用いる場合は、蒸留精製の際に、蒸気圧分のCOFを損失することがない。
【0012】
すなわち、本発明によれば、反応終了後の反応生成物からのCOFの回収が容易であり、高純度のCOFを工業的スケールで高収率で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の製造方法の一例を示すフロー図。
【図2】本発明の製造装置の概略図。
【符号の説明】
【0014】
1:反応容器
2:冷却トラップ
3:COF精製装置
4:COF貯槽
5:圧力調整弁
6a、6b、6c:ポンプ
7:反応装置
8:冷却ジャケット
A:第1原料ガス
B:第2原料ガス
C:希釈ガス
D:COF
E:反応生成物
F:冷却媒体
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明においては、希釈ガスとしてフッ化水素またはフッ化カルボニルを用いる。フッ化水素は、反応性の高いフッ素によってフッ素化されない物質であり、沸点が常温に近く、COFとの沸点差が大きいため分離しやすく、安価で入手しやすい点で好ましい。また、COFは、希釈ガスとして低沸点のN、He、Ne、Ar等の不活性ガスを用いた場合と比較して、蒸留精製の際に蒸気圧分のCOFを損失することがない点で好ましい。
【0016】
上記希釈ガスの供給流量の比率は、一酸化炭素の供給流量とフッ素の供給流量のうち小さい方の供給流量に対して、体積比で、1〜100、特には1〜40の範囲とすることが好ましい。上記比率がこの範囲である場合は、副反応によるフッ化カルボニルの反応収率の低下、高い発熱を回避できる。
【0017】
希釈ガスは、フッ化水素、COFまたはこれらの混合物のみからなることが好ましいが、本発明の効果を妨げない範囲で他の不活性ガスを含有することもできる。
【0018】
また、本発明において、フッ化水素を含有する希釈ガスを用いる場合は、得られた反応生成物からフッ化水素を分離、回収し、再び希釈ガスとして反応容器に供給して用いることが好ましい。
【0019】
一方、本発明において、COFを含有する希釈ガスを用いる場合は、得られた反応生成物を精製してCOFを得、得られたCOFの一部を再び希釈ガスとして反応容器に供給して用いることが好ましい。
また、COFを含有する希釈ガスとしては、得られた反応生成物そのものを用いてもよい。ただし、この場合は反応生成物中に未反応のフッ素が存在する可能性があるので、循環させる反応生成物はフッ素の供給路に戻すのが好ましい。
【0020】
上記反応生成物の精製は、蒸留により行うことが好ましく、例えば、0.2〜5MPa(絶対圧、以下同様。)の加圧下で、温度−20〜130℃の条件で蒸留を行うことにより、純度の高いCOFが得られる。
【0021】
このように、希釈ガスを回収して、再利用する場合の製造フローの概念図を図1に示す。図1において、第1原料ガスAおよび第2原料ガスBは、どちらがフッ素であっても一酸化炭素であってもよい。また、図1においては、フッ化水素を含有する希釈ガスの供給口を第1原料ガスAの供給路に設け、COFを含有する希釈ガスの供給口を第2原料ガスBの供給路に設けているが、これら希釈ガスの供給口の位置は上記に限定されず、例えば、直接、反応容器1に設けてもよい。
ただし、フッ素の反応性を抑制させる観点からは、希釈ガスの供給口を、フッ素を供給する供給路に設けることが好ましい。
【0022】
本発明において、一酸化炭素とフッ素ガスを混合し、反応させる反応域の温度は、通常、20〜500℃とするのが好ましい。また、この反応域の温度は、反応容器を構成する部材の耐熱温度以下とするのが好ましく、例えば、部材がSUS304からなる場合は500℃以下とするのが好ましい。
【0023】
一方、反応容器の外壁は、副反応による不純物の副生の抑制、および反応容器の熱的保護の観点から、20℃以上100℃以下に冷却、特には20℃以上60℃以下に冷却することが好ましい。
【0024】
また、本発明における反応の圧力は、減圧であっても加圧であってもよいが、通常は、0.01MPa以上0.15MPa以下の大気圧付近であるのが好ましく、0.02MPa以上0.13MPa以下であるのがより好ましい。
【0025】
一酸化炭素の供給流量とフッ素の供給流量の比率は、モル比で、一酸化炭素の供給流量/フッ素の供給流量=1〜4とするのが好ましく、特には1〜1.1とするのが好ましい。上記比率が上記範囲を超える場合、すなわち、一酸化炭素を過剰に加えた場合は、過剰な一酸化炭素を、後の反応生成物の精製工程において分離する必要が生じ、COFの収率低下の要因となり得る。
【0026】
本発明において、希釈ガスとして、フッ化水素を含有する希釈ガスを用いる場合は、反応容器から取り出された反応生成物を、冷却トラップ等でフッ化水素の沸点より低い温度まで冷却し、フッ化水素を液化させることにより、フッ化水素とCOFとを気液分離することが好ましい。ここで、気液分離させる際の冷却温度は、−70〜10℃とするのが好ましい。
【0027】
本発明のフッ化カルボニルの製造方法は、一酸化炭素の供給手段、フッ素の供給手段、フッ化水素またはフッ化カルボニルからなる希釈ガスの供給手段、および反応容器を備えてなるフッ化カルボニルの製造装置を用いて実施できる。
【0028】
希釈ガスとしてフッ化水素を用い、得られた反応生成物からフッ化水素を分離、回収し、再び希釈ガスとして反応容器に供給して用いる場合は、反応容器から取り出された反応生成物からフッ化水素を回収する手段と、回収されたフッ化水素を反応容器に戻す手段を有する上記製造装置を用いるのが好ましい。
【0029】
また、希釈ガスとしてCOFを用いる場合は、得られた反応生成物を精製してCOFを得、得られたCOFの一部を再び希釈ガスとして反応容器に供給して用いる場合は、反応容器から取り出された反応生成物を精製してフッ化カルボニルを得る手段と、回収されたフッ化カルボニルの一部を反応容器に戻す手段を有する上記製造装置を用いるのが好ましい。
【0030】
本発明のフッ化カルボニルの製造装置の一例としては、例えば図2に示す装置を用いることができる。この反応装置は二重管構造であり、反応容器である内筒1と外筒との間には冷却媒体Fを流通させる。反応を行う内塔には、第1原料ガスAである一酸化炭素と、第2原料ガスBであるフッ素とを供給する。図2に示す装置では、希釈ガスCを一酸化炭素の供給経路と、フッ素の供給経路の各々に供給する例を示した。一酸化炭素とフッ化水素は、内筒1を流通しながら混合され、反応してフッ化カルボニルを生成する。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。例1は比較例であり、例2は実施例である。
【0032】
[例1]
図2に示す反応装置を準備する。内筒はSUS304製であり、その直径は25mmである。また、第1原料ガスの供給路、および第2原料ガスの供給路としては内径が12.5mmの配管を用いた。第1原料ガスの供給路より、フッ素を1000cm/分(標準状態)の供給速度で内筒に供給し、第2原料ガスの供給路より、窒素4000cm/分(標準状態)と一酸化炭素1000cm/分(標準状態)の混合ガスを内筒1に供給する。このとき、内筒内の反応圧力は0.12MPaであり、反応温度は500℃以下とする。反応ガス出口より回収した反応生成物Eを、0.2〜5MPaの加圧下で蒸留し、COFを単離する。得られるCOFの収率は80%程度となる。
【0033】
[例2]
例1と同じ反応装置を用い、窒素の代わりにCOF 4000cm/分(標準状態)を希釈ガスCとして供給した以外は例1と同様にして反応を行った。反応ガス出口より回収した反応生成物Eの純度をガスクロマトグラフにより分析したところCOFの純度は99%であり、収率は90%であった。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の製造方法は、半導体製造装置等のクリーニングガス、エッチングガス、有機化合物のフッ素化剤として有用なフッ化カルボニル(COF)の工業的製造方法に適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一酸化炭素とフッ素を、希釈ガスとともに反応容器内に連続的に供給し、反応させてフッ化カルボニルを製造する方法であって、希釈ガスとしてフッ化水素またはフッ化カルボニルを用いることを特徴とするフッ化カルボニルの製造方法。
【請求項2】
上記希釈ガスの供給流量の比率が、一酸化炭素の供給流量とフッ素の供給流量のうち小さい方の供給流量に対して、体積比で1〜100の範囲である請求項1に記載のフッ化カルボニルの製造方法。
【請求項3】
希釈ガスとしてフッ化水素を供給して上記反応を行った後、得られた反応生成物よりフッ化水素を回収し、回収したフッ化水素を上記反応の希釈ガスとして循環使用する請求項1または2に記載のフッ化カルボニルの製造方法。
【請求項4】
得られた反応生成物を精製してフッ化カルボニルを得、得られたフッ化カルボニルの一部を上記反応の希釈ガスとして使用する請求項1または2に記載のフッ化カルボニルの製造方法。
【請求項5】
一酸化炭素とフッ素とを反応させてフッ化カルボニルを生成させるフッ化カルボニルの製造装置であって、一酸化炭素の供給手段、フッ素の供給手段、フッ化水素またはフッ化カルボニルからなる希釈ガスの供給手段、および反応容器を備えてなることを特徴とするフッ化カルボニルの製造装置。
【請求項6】
反応容器から取り出された反応生成物からフッ化水素を回収する手段と、回収されたフッ化水素を反応容器に戻す手段を有する請求項5に記載のフッ化カルボニルの製造装置。
【請求項7】
反応容器から取り出された反応生成物を精製してフッ化カルボニルを得る手段と、回収されたフッ化カルボニルの一部を反応容器に戻す手段を有する請求項5に記載のフッ化カルボニルの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【国際公開番号】WO2005/056472
【国際公開日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【発行日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516200(P2005−516200)
【国際出願番号】PCT/JP2004/018504
【国際出願日】平成16年12月10日(2004.12.10)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】