説明

フッ素化合物の製造方法

【課題】 酸素含有化合物を用いて、容易に水分を含まないフッ素化合物を得ることが可能なフッ素化合物の製造方法を提供することにある。
【解決手段】 本発明に係るフッ素化合物の製造方法は、金属元素、H、B、C、N、Si、P、S、As、Se、Te及びハロゲンからなる群より選択される少なくとも何れか1種の、酸化物、水酸化物、水和物、炭酸化合物、炭酸水素化合物、ホウ酸化合物、硫酸化合物、亜流酸化合物、亜リン酸化合物、及びリン酸化合物からなる群より選択される少なくとも何れか1種である酸素含有化合物と、フッ化カルボニルとを少なくとも反応させることにより、水を副生させることなく、フッ素化合物及び二酸化炭素を少なくとも生成させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素含有化合物と少なくともフッ化カルボニルを反応させることにより、水を副生させることなくフッ素化合物を製造することが可能なフッ素化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フッ素化合物を合成する方法としては、酸化物にフッ酸を反応させてフッ素化合物を得る方法が一般的である(例えば、下記特許文献1)。しかし、この方法では、下記化学反応式(1)に示す通り水が副生したり、又は下記反応式(2)に示す通り水和物が生成する場合がある。
【0003】
【化1】

【0004】
このため、得られたフッ素化合物から水を除去するための乾燥工程が必要になる。あるいは無水物を得るために水和物から結晶水を除去する焙焼工程が必要になる。これらの工程を高温(例えば、100〜600℃)で行うと、前記化学式の逆反応等が起こり、フッ素化合物が加水分解するという不都合がある。
【0005】
また、塩素化合物等のハロゲン化合物にフッ素ガスを反応させて目的のフッ素化合物を製造する方法もある(例えば、下記特許文献2)。しかし、当該方法では、原料として使用可能なハロゲン化物には限度があり、資材面やコスト面で問題がある。
【0006】
更に、原料化合物にフッ素含有イオンを加えて反応させることにより合成する方法も挙げられる(例えば、下記特許文献3)。しかし、当該方法では、使用可能なフッ素含有イオンの種類が限定されており、また合成可能な化合物に対しても制限が大きい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平05−4801号公報
【特許文献2】特開平09−268005号公報
【特許文献3】特開2002−241196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は前記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、酸素含有化合物を原料に用いて、不純物としての水を副生することなく、容易に目的のフッ素化合物を得ることが可能なフッ素化合物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者等は、前記従来の問題点を解決すべく、フッ素化合物の製造方法について検討した。その結果、下記構成を採用することにより前期課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
即ち、本発明に係るフッ素化合物の製造方法は、前記の課題を解決する為に、金属元素、H、B、C、N、Si、P、S、As、Se、Te及びハロゲンからなる群より選択される少なくとも何れか1種の、酸化物、水酸化物、水和物、炭酸化合物、炭酸水素化合物、ホウ酸化合物、硫酸化合物、亜流酸化合物、亜リン酸化合物、及びリン酸化合物からなる群より選択される少なくとも何れか1種である酸素含有化合物と、フッ化カルボニルとを少なくとも反応させることにより、水を副生させることなく、フッ素化合物及び二酸化炭素を少なくとも生成させることを特徴とする。
【0011】
フッ化カルボニルは、無機系又は有機系の前記酸素含有化合物に対し高い反応性を示す。この様なフッ化カルボニルを酸素含有化合物と反応させると、水を副生させることなく、フッ素化合物と二酸化炭素を少なくとも生成させることが可能になる。その結果、水を除去するための乾燥工程および焙焼工程が不要になり、製造工程の簡略化が図れると共に、フッ素化合物が高温下で乾燥されることに起因して生じる加水分解も防止することができる。また、原料が安価な為、製造コストの低減も図れる。
【0012】
尚、「酸素含有化合物」とは、酸素とそれ以外の原子とを有する化合物であって、酸化物、水酸化物、水和物、炭酸化合物、炭酸水素化合物、ホウ酸化合物、硫酸化合物、亜流酸化合物、亜リン酸化合物、及びリン酸化合物からなる群より選択される少なくとも何れか1種であることを意味する。更に、前記酸化物等は、金属元素、H、B、C、N、Si、P、S、As、Se、Te及びハロゲンからなる群より選択される少なくとも何れか1種を含む酸化物等を意味する。
【0013】
前記方法に於いては、前記フッ素化合物は乾燥及び焙焼させることなく回収されることが好ましい。乾燥及び焙焼を行わないことによりフッ素化合物が加水分解するのを防止することができる。その結果、高品質のフッ素化合物の製造が可能になる。
【0014】
また、前記方法に於いては、前記ハロゲンがフッ素であることが好ましい。
【0015】
更に、前記方法に於いて、前記酸素含有化合物はLiαHβPOγFδ(ただしα、β、γ、δは正の整数であり、1≦α≦3、0≦β≦2、1≦γ≦4、0≦δ≦4である。)であり、前記フッ化カルボニルとの反応により生成するフッ素化合物はLiPF6、LiPO2F2、及びLiPOF4からなる群より選択される少なくともいずれか一種であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、前記に説明した手段により、以下に述べるような効果を奏する。
即ち、本発明によれば、金属元素、H、B、C、N、Si、P、S、As、Se、Te及びハロゲンからなる群より選択される少なくとも何れか1種の、酸化物、水酸化物、水和物、炭酸化合物、炭酸水素化合物、ホウ酸化合物、硫酸化合物、亜流酸化合物、亜リン酸化合物、及びリン酸化合物からなる群より選択される少なくとも何れか1種である酸素含有化合物と、フッ化カルボニルとを反応させることにより、水を副生させることなく、フッ素化合物の生成を可能にする。その結果、水を除去するための乾燥および焙焼工程が不要となり、フッ素化合物の加水分解が生じるのを防止することができる。また、製造コストの低減も図れる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本実施の形態に係るフッ素化合物の製造方法について、以下に説明する。
本実施の形態に係るフッ素化合物の製造方法は、酸素含有化合物とフッ化カルボニルとを反応させることにより行う。即ち、酸素含有化合物とフッ化カルボニルとを反応器に導入し、下記化学反応式に従って反応させる。これにより、水を副生させることなく、フッ素化合物及び二酸化炭素を少なくとも生成させることができる。当該反応式は、例えば、酸素含有化合物をM(Mは金属、酸素を除いた非金属元素、又はアンモニアを表す。x、y、zは何れも正の整数であり、1≦x≦3、1≦y≦10、0≦z≦20である。)で表すと、下記の通りになる。
【0018】
【化2】

【0019】
前記酸素含有化合物とは、金属元素、H、B、C、N、Si、P、S、As、Se、Te及びハロゲンからなる群より選択される少なくとも何れか1種の、酸化物、水酸化物、水和物、炭酸化合物、炭酸水素化合物、ホウ酸化合物、硫酸化合物、亜流酸化合物、亜リン酸化合物、及びリン酸化合物からなる群より選択される少なくとも何れか1種である。
【0020】
前記酸素含有化合物は、具体的には、例えばCaO、MgO、Al、NaO、KO、B、P、SiO、GeO、As、P、As、CuO、FeO等の酸化物、Ca(OH)、Mg(OH)、Al(OH)、NaOH、KOH、Cu(OH)、Fe(OH)、HBO、HPO、HPO、NHOH等の水酸化物、あるいはHBO、HPO、HPO等の酸素含有化合物など、前記Mで表すことが可能なものが挙げられる。
【0021】
また、前記Mで表される酸素含有化合物以外のものも使用可能である。具体的には、例えば、HO、CaCl・6HO、MgSO・7HO、AlF・3HO、LiBF・HO等で表される、結晶水又は結合水を含んだ化合物、CaCO、MgCO、Al(CO、NaCO、KCO、CuCO、FeCO等の炭酸塩、Ca(HCO、Mg(HCO、NaHCO、KHCO等の炭酸水素塩など、が挙げられる。更に、POF、POCl、POBr、LiαβPOγδ(ただしα、β、γ、δは正の整数であり、1≦α≦3、0≦β≦2、1≦γ≦4、0≦δ≦4である。)、LiBF(OH)、NaPOF、NaPO、NaBr(OH)、KPOF、KPO、KBF(OH)、KPOCl、KPOCl、KBCl(OH)、KPOBr、KPOBr、KBBr(OH)、第4級アンモニウム水酸化物、第4級ホスホニウム水酸化物等が挙げられる。
【0022】
前記LiαβPOγδとしては特に限定されず、例えば、LiPO、LiPOF、LiPO等が挙げられる。これらの酸素化合物を原料とする場合、得られるフッ素化合物としては、例えば、LiPF、LiPO、LiPOF等が挙げられる。
【0023】
前記第4級アンモニウム水酸化物としては特に限定されず、例えば、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化トリエチルメチルアンモニウム、水酸化トリプロピルメチルアンモニウム、水酸化トリブチルメチルアンモニウム等が挙げられる。
【0024】
前記第4級ホスホニウム水酸化物としては特に限定されず、例えば、テトラメチルホスホニウムヒドロキシド、テトラエチルホスホニウムヒドロキシド、テトラプロピルホスホニウムヒドロキシド、テトラブチルホスホニウムヒドロキシド、テトラペンチルホスホニウムヒドロキシド、及びテトラヘキシルホスホニウムヒドロキシド等の炭素数1〜8のアルキル基を有するテトラアルキルホスホニウムヒドロキシド;テトラフェニルホスホニウムヒドロキシド、エチルトリフェニルホスホニウムヒドロキシド、ブチルトリフェニルホスホニウムヒドロキシド、ペンチルトリフェニルホスホニウムヒドロキシド、2−ジメチルアミノエチルトリフェニルホスホニウムヒドロキシド、メトキシメチルトリフェニルホスホニウムヒドロキシド等のトリフェニルホスホニウムヒドロキシド等が挙げられる。
【0025】
尚、前記金属元素は特に限定されず、例えば、Ca、Mg、Al、Na、K、Cu、Fe等が挙げられる。
【0026】
本発明に係るフッ素化合物の製造方法に於けるフッ化カルボニルの使用量は、該酸素含有化合物中の酸素原子に対して0.1倍当量〜100倍当量が好ましく、0.5倍当量〜50倍当量がより好ましく、1倍当量〜10倍当量が更に好ましい。フッ化カルボニルの使用量が0.1倍当量未満であると、酸素含有化合物との反応が不十分となり、原料である酸素含有化合物が製品中に残留し目的の品位あるいは量のフッ素化合物が得られない場合がある。一方、100倍当量を超えると、合成装置が大型化すると共に、フッ化カルボニルの損失が多くなるため製造コストが増大する場合がある。
【0027】
酸素含有化合物とフッ化カルボニルとを反応させる際の温度としては、−50℃〜500℃が好ましく、0℃〜200℃がより好ましく、20℃〜100℃が特に好ましい。−50℃未満であると、酸素含有化合物とフッ化カルボニルとの反応速度が遅くなるため好ましくない。そのうえ、副生する二酸化炭素更にはフッ化水素が副生する場合はこれらの副生ガスの蒸気圧が低下し、目的のフッ素化合物からの分離が困難になるという不都合が生じる。更に、反応容器の保冷又は低温の発生装置も必要になる等設備コストの上昇により経済的不利が生じる。その一方、500℃を超えると、反応速度が速くなり効率的であるが、反応容器の保温又は高温の発生装置が必要になる等設備コストの上昇により経済的不利が生じる。
【0028】
酸素含有化合物とフッ化カルボニルとを反応させる際の圧力は特に限定されないが、0.1KPa〜10MPaが好ましく、1KPa〜0.5MPaがより好ましい。0.1KPa未満であると、長大な真空容器又は真空発生装置等高価な設備が必要になり、製造コストが上昇する。その一方、10MPaを超えると、長大な高圧反応器又は高圧の発生装置等高価な設備が必要になり、製造コストが上昇する。
【0029】
フッ化カルボニルが気体状の場合、当該フッ化カルボニルはそのまま用いてもよいが、含有量が0.01体積%〜100体積%となる様に不活性ガスで適宜希釈して用いてもよい。前記不活性ガスは不活性ガス自体、又は不活性ガス中の不純物がフッ化カルボニル及び/又は酸素含有化合物と目的のフッ素化合物を生成する以外の反応をせず、かつ該フッ素化合物を汚染しないものを用いることが好ましい。具体的には、例えばCO、HF、N、Ar、He、乾燥空気等を一種単独で、又は二種以上を混合して使用できる。尚、前記不活性ガス中に含まれる不純物としては、酸素含有化合物が、特には、水分が含まれるとフッ化カルボニルと反応し、フッ化カルボニルを消費するため好ましくない。そのため希釈に使用する不活性ガス中の水分は100ppm以下が好ましく、10ppm以下がより好ましく、1ppm以下が特に好ましい。
【0030】
酸素含有化合物とフッ化カルボニルとの反応は直接、反応させてもよいが、該酸素含有化合物あるいはフッ化カルボニルを、若しくはその双方を適当な溶媒に溶解、又は分散させた状態で反応させてもよい。どちらか一方が気体状であって、もう片方が液体そのもの、あるいは溶媒中にもう片方を溶解又は分散させた液体状態である場合は、気体状のものをもう片方の液体状態の中に、バブリングする等して行うことができる。前記溶媒としては特には限定されないが、溶媒自体、又は溶媒中の不純物がフッ化カルボニル及び/又は酸素含有化合物と目的のフッ素化合物を生成する以外の反応をせず、かつ該フッ素化合物を汚染しないものを用いることが好ましい。具体的には、例えば無水フッ化水素等が挙げられる。前記不純物としては、酸素含有化合物が、特には、水分が挙げられ、当該水分の含有量は100ppm以下が好ましく、10ppm以下がより好ましく、1ppm以下が特に好ましい。
【0031】
当該フッ素化合物の製造方法に於いては、回分式、連続式又は半回分式のいずれの方法でも実施可能である。また、当該製造方法に用いる反応器についても特に限定はなく、例えば、槽型、塔型等の適宜の反応器を用いることができる。また、フッ化カルボニルを気体状で使用する場合であって、フッ素化合物が固体である気固反応の場合等は流動床方式を用いることにより、フッ素化合物とフッ化カルボニルとの反応を効率よく行うことができる。尚、酸素含有化合物が液体状である場合、又は液体に溶解している場合、あるいは酸素含有化合物が気体状であってフッ化カルボニルが溶媒に溶解した液体状で反応させる場合は、充填塔、段塔、スプレー塔等の気液接触装置を、交流方式、並流方式を問わず好適に使用できる。
【0032】
回分式又は半回分式による場合、酸素含有化合物とフッ化カルボニルとを反応させる時間(処理時間)は特に限定されないが、処理される酸素含有化合物の量、酸素含有化合物の濃度、反応温度、反応圧力、フッ化カルボニルの濃度等に応じて、合成の効果が十分に得られる最適な時間を設定すればよい。具体的には、1分以上24時間以下が好ましい。1分未満であると、フッ化カルボニルと酸素含有化合物との反応が不十分となり、十分な合成効果が得られない場合がある。その一方、24時間を超えると、処理量が低減し製造コストの増大を招来する。
【0033】
得られたフッ素化合物から、当該フッ素化合物と共に副生した二酸化炭素を分離する方法としては特に限定されず、従来公知の種々の方法を採用することができる。
【0034】
以上、本発明のフッ素化合物の製造方法によれば、特段の高価な装置や複雑な工程を採用せずに、酸素含有化合物を原料としても、水分を副生させること無く、フッ素化合物を製造することが可能になる。その結果、水を除去するための乾燥工程や焙焼工程が不要になる。尚、乾燥工程とは、生成物中に含有する水を蒸発させるために、生成物を自然乾燥、風乾、加熱等する工程を意味する。また、焙焼工程とは、生成物が水和物である場合に、当該水和物から結晶水を除去するために生成物を所定時間加熱する工程を意味する。
【実施例】
【0035】
以下に、この発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但し、この実施例に記載されている材料や配合量等は、特に限定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0036】
(実施例1)
圧力計を備えた内容量1リットルのステンレス製耐圧容器に、あらかじめ乾燥して付着水分を除去した水酸化カルシウム5gを入れた。その後、容器に付属しているバルブを介して容器内を真空になるまで真空ポンプで排気した。次に、バルブを介して100体積%のCOFガスを圧力計をみながら0.6MPaGになるまで容器内に導入しバルブを閉止した。
【0037】
次に、容器を100℃の恒温槽に導入し2時間加熱したところ、徐々に容器内の圧力が上昇し1.2MPaGになった。その後、恒温槽から取り出し室温まで放冷し、容器内の残留ガスを放出させた。このとき、放出ガスをFTIRで測定したところ、炭酸ガス、フッ化水素及びフッ化カルボニルを検出したが、水分は全く検出されなかった。続いて、容器内をNガスで完全にパージしてから容器を開放し、容器内に残った粉体5gを回収して分析した。その結果、フッ化カルシウムと同定された。また、その純度は98%であった。尚、ステンレス容器には目立った腐食の痕跡が観察されなかった。
【0038】
(比較例1)
圧力計を備えた内容量1リットルのステンレス製耐圧容器に、あらかじめ乾燥して付着水分を除去した水酸化カルシウム5gを入れた。その後、容器に付属しているバルブを介して容器内を真空になるまで真空ポンプで排気した。次に、バルブを介して100体積%のHFガスを圧力計をみながら0.1MPaGになるまで容器内に導入しバルブを閉止した。
【0039】
次に、容器を100℃の恒温槽に導入し2時間加熱したところ、わずかづつ容器内の圧力が下降し0.07MPaGになった。その後、恒温槽から取り出し室温まで放冷したところ、容器内の圧力は−0.09MPaGの負圧になった。続いて、容器内にバルブを介してNガスを0.2MPaGになるまで導入した後、Nガスと共に容器内の残留ガスを放出させた。このときの放出ガスをFTIRで測定したところ、フッ化水素及び水分を検出した。続いて、容器内をNガスで完全にパージしてから容器を開放し、容器内に残っていた、湿潤で刺激臭のた粉体7.5gを回収して分析した。その結果、主成分はフッ化カルシウムであり、その純度は70%であることが判明した。
【0040】
尚、ステンレス製容器の底部には、あきらかな腐食の痕跡が観察された。水酸化カルシウムとフッ化水素の反応により副生した水分と、過剰のフッ化水素との反応で、フッ化水素酸が生成し、このフッ化水素酸がステンレス容器の内部を腐食させたものと推察される。
【0041】
(実施例2)
内径16mmのステンレス製反応管に乾燥した二酸化珪素を50g充填し、100℃に加熱した。次に、当該反応管の一端から、Nガスにより体積比で50体積%に希釈したCOFガスを、毎分1リットルの速度で導入した。5分後に反応管の他端から出てきたガスをFTIRで測定した。その結果、当該ガスはSiFとCOであり、それ以外の成分は検出されなかった。
【0042】
(比較例2)
内径16mmのステンレス製反応管に乾燥した二酸化珪素を50g充填し、100℃に加熱した。次に、当該反応管の一端から、Nガスにより体積比で50体積%に希釈したHFガスを、毎分1リットルの速度で導入した。5分後に反応管の他端から出てきたガスをFTIRで測定した。その結果、SiF、HO、(SiFO及びHFを検出した。
【0043】
(実施例3)
圧力計を備えた内容量1リットルのステンレス製耐圧容器に、あらかじめ乾燥して付着水分を除去した塩化リチウム1水和塩を5g入れた。その後、容器に付属しているバルブを介して容器内を真空になるまで真空ポンプで排気した。次に、バルブを介して100%COFガスを圧力計をみながら0.3MPaGになるまで容器内に導入しバルブを閉止した。
【0044】
次に、容器を100℃の恒温槽に導入し2時間加熱したところ、徐々に容器内の圧力が上昇し0.8MPaGになった。その後、恒温槽から取り出し室温まで放冷し、容器内の残留ガスを放出させた。このとき、放出ガスをFTIRで測定したところ、炭酸ガス、フッ化水素、塩化水素及びフッ化カルボニルを検出したが、水分は検出されなかった。続いて、容器内をNガスで完全にパージしてから容器を開放し、容器内に残った粉体2gを回収して分析した。その結果、フッ化リチウムと同定された。また、その純度は98%であった。尚、ステンレス容器には目立った腐食の痕跡は観察されなかった。
【0045】
(実施例4)
先ず、内径16mmのステンレス製反応管を200℃に保持した。次に、当該反応管の一端から、それぞれNガスにより体積比50体積%に希釈したCOFとPOFを、毎分1リットルの速度で同時に導入した。5分後に反応管の他端から出てきたガスをFTIRで測定した。その結果、当該ガスはPFとCOであった。
【0046】
(実施例5)
圧力計を備えた内容量1リットルのステンレス製耐圧容器に、メタ燐酸ナトリウム5gを入れた。その後、容器に付属しているバルブを介して容器内を真空になるまで真空ポンプで排気した。次に、バルブを介して100体積%のCOFガスを圧力計をみながら0.05MPaGになるまで容器内に導入しバルブを閉止した。
【0047】
次に、容器を100℃の恒温槽に導入し2時間加熱したところ、徐々に容器内の圧力が上昇し0.1MPaGになった。その後、恒温槽から取り出し室温まで放冷し、容器内の残留ガスを放出させた。このとき、放出ガスをFTIRで測定したところ、炭酸ガス及びフッ化カルボニルを検出したが、水分は検出されなかった。続いて、容器内をNガスで完全にパージしてから容器を開放し、容器内に残った粉体6gを回収して分析した。その結果、NaPOと同定された。また、その純度は98%であった。尚、ステンレス容器に腐食の痕跡は観察されなかった。
【0048】
(実施例6)
圧力計を備えた内容量1リットルのステンレス製耐圧容器に、メタ燐酸リチウム5gを入れた。その後、容器に付属しているバルブを介して容器内を真空になるまで真空ポンプで排気した。次に、バルブを介して100体積%のCOFガスを圧力計をみながら0.65MPaGになるまで容器内に導入しバルブを閉止した。
【0049】
次に、容器を100℃の恒温槽に導入し2時間加熱したところ、徐々に容器内の圧力が上昇し0.9MPaGになった。その後、恒温槽から取り出し室温まで放冷し、容器内の残留ガスを放出させた。このとき、放出ガスをFTIRで測定したところ、炭酸ガス及びフッ化カルボニルを検出したが、水分は検出されなかった。続いて、容器内をNガスで完全にパージしてから容器を開放し、容器内に残った粉体8.5gを回収して分析した。その結果、LiPFと同定された。また、その純度は98%であった。尚、ステンレス容器に腐食の痕跡は観察されなかった。
【0050】
(実施例7)
圧力計を備えた内容量1リットルのステンレス製耐圧容器に、水酸化トリエチルメチルアンモニウム5gを入れた。その後、容器に付属しているバルブを介して容器内の空気をNガスに置換した。次に、バルブを介して100体積%のCOFガスを圧力計をみながら0.2 MPaGになるまで容器内に導入しバルブを閉止した。
【0051】
次に、容器を100℃の恒温槽に導入し2時間加熱したところ、徐々に容器内の圧力が上昇し0.25MPaGになった。その後、恒温槽から取り出し室温まで放冷し、容器内の残留ガスを放出させた。このとき、放出ガスをFTIRで測定したところ、炭酸ガス、フッ化カルボニル及びフッ化水素を検出したが、水分は検出されなかった。続いて、容器内をNガスで完全にパージしてから容器を開放し、容器内に残った物質5gを回収して分析した。その結果、フッ化トリエチルメチルアンモニウムと同定された。また、その純度は95%であった。尚、ステンレス容器に腐食の痕跡は観察されなかった。
【0052】
(実施例8)
冷水浴で10℃に維持した1リットルのフッ素樹脂製容器に、無水HF500gをいれた。その後、あらかじめ乾燥して付着水分を除去したメタリン酸リチウム60gを、容器内の無水HFの温度が10℃を超えないように維持しながら、徐々に加えて溶解させた。
【0053】
次に、それぞれバルブを介して連結された通気用の挿入管と、−50℃の還流冷却器に接続された排気管とを備えたフッ素樹脂製の蓋を、上記無水HF溶液の入った容器に取り付けた。更に、排気管のバルブを開け、通気管側から100体積%のCOFガスを無水HF溶液中へバブリングした。当該バブリングは、通気速度を2リットル毎分とし、無水HF溶液の温度を10℃に維持しながら、40分間行った。その後、通気管側のバルブを閉止した。
【0054】
続いて、排気管から還流冷却器を取り外し、排気管の末端をNシールしながら、上記処理をしたフッ素樹脂製容器を−40℃の冷却浴に入れ一晩放置した。その結果、結晶が析出した。析出した結晶を大気に暴露しないようN雰囲気下で濾過した。これにより、40gの結晶が得られた。この結晶をフッ素樹脂製容器に移し、大気に暴露しないようNを1リットル毎分の速度で流通させながら100℃で一晩乾燥させた。
【0055】
乾燥後、得られた結晶をX線回折装置で定性分析した。その結果、前記結晶はLiPFと同定された。また、その純度は99%以上であった。なお、不純物としての遊離酸の含有量は50ppm以下であり、水分の含有量は10ppm以下であった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属元素、H、B、C、N、Si、P、S、As、Se、Te及びハロゲンからなる群より選択される少なくとも何れか1種の、酸化物、水酸化物、水和物、炭酸化合物、炭酸水素化合物、ホウ酸化合物、硫酸化合物、亜流酸化合物、亜リン酸化合物、及びリン酸化合物からなる群より選択される少なくとも何れか1種である酸素含有化合物と、フッ化カルボニルとを少なくとも反応させることにより、水を副生させることなく、フッ素化合物及び二酸化炭素を少なくとも生成させることを特徴とするフッ素化合物の製造方法。
【請求項2】
前記フッ素化合物は乾燥及び焙焼させることなく回収されることを特徴とする請求項1に記載のフッ素化合物の製造方法。
【請求項3】
前記ハロゲンがフッ素であることを特徴とする請求項1又は2に記載のフッ素化合物の製造方法。
【請求項4】
前記酸素含有化合物はLiαβPOγδ(ただしα、β、γ、δは正の整数であり、1≦α≦3、0≦β≦2、1≦γ≦4、0≦δ≦4である。)であり、前記フッ化カルボニルとの反応により生成するフッ素化合物はLiPF、LiPO、及びLiPOFからなる群より選択される少なくともいずれか一種であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のフッ素化合物の製造方法。


【公開番号】特開2010−184820(P2010−184820A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−28753(P2009−28753)
【出願日】平成21年2月10日(2009.2.10)
【出願人】(000162847)ステラケミファ株式会社 (81)
【Fターム(参考)】