説明

フッ素系溶剤

【目的】 オゾン層を破壊せず地球温暖化に対する影響の小さいフッ素系溶剤を提供する。
【構成】 下記一般式(I)又は(II)で表される含水素ポリフルオロ第3級アミンを含むフッ素系溶剤。
【化10】


【化11】


【効果】 洗浄性が良好で、プラスチック等の素材に悪影響を与えず、塩素原子を持たないためオゾン層の破壊問題がなく、地球温暖化問題の面からも有効である。従来のCFC系溶剤と同様の使用態様を採用することができ、既存装置の大幅な変更を必要としない。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、オゾン層を破壊せず地球温暖化に対する影響が小さい、含水素ポリフルオロ第3級アミンを含んでなるフッ素系溶剤に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、ハロゲン化炭化水素は、プラスチックやゴム製品、電子部品等の洗浄用溶剤として知られている。特に、塩素原子、或いは、塩素原子とフッ素原子を有するハロゲン化炭化水素群は、不燃性かつ安定で、ワックスや油脂類を溶解することができることから、各種産業分野に広く使用されている。
【0003】例えば、塩素原子を有するものとしては、1,1,1−トリクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレンが、また、塩素原子とフッ素原子を有するもの(以下「CFC」と称す。)としては、トリフルオロトリクロロエタン(以下「CFC113」と称す。)等が知られており、特に後者のCFC113は低毒性で、しかもプラスチックやゴム等の表面を侵食しないことから、各種用途に広く用いられている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、ハロゲン化炭化水素は、このように優れた特徴を有する反面、構成元素の1つである塩素原子が触媒となり、地球を取り巻くオゾン層を破壊することが明らかにされたことから、CFC113や1,1,1−トリクロロエタン等の「特定フロン」は、全廃されることが国際的に取り決められた。
【0005】このような問題に対処するためには、これらの溶剤に代わる新規溶剤の開発が不可欠であり、実際、洗浄溶剤としてCFC113に代わる物質が具体的に種々検討されているものの、未だ有効な代替物が見出されていないのが現状である。
【0006】また、近年、オゾン層保護と共に、特に地球温暖化防止に対する配慮も求められていることから、代替溶剤化合物に要求される性能の一つとして、地球温暖化に及ぼす影響が小さいことも重要な要件となっている。この地球温暖化に及ぼす影響の評価は、地球温暖化係数(GWP又はHGWP)と大気中寿命の値が目安と考えられている。即ち、地球温暖化問題を考慮すると、将来の代替フロン候補化合物は、地球温暖化係数ができる限り小さく、2〜3年以下の大気中寿命を持つ化合物が望ましいと云われている。
【0007】これに対して、1991年にDu Pont社が開発したヒドロフルオロカーボン、HFC−43−10mee(CF3 CFHCFHCF2 CF3 )は、オゾン層を破壊しない代替溶剤としての特性をいくつか備えているが、HWGPが0.25、大気中での寿命が20.8年と発表され、比較的長寿命とみられる。
【0008】また、アミン系化合物では、3M社が、AVDTM洗浄システムにおける水切り剤及び有機溶剤のリンス剤として、分子内に水素原子を含まない、ペルフルオロカーボン液体PF−5052(ペルフルオロ−N−メチルモルホリン)等を数年前に上市したが、該化合物の大気中寿命は数百年〜数千年と推定されている。
【0009】含水素ポリフルオロ第3級アミンについては、例えば特開平5−132451号公報に記載の、分子内に水素原子を1個有するモノヒドロポリフルオロ第3級アミン等が知られている。しかしながら、該化合物は、溶解力が著しく低く、洗浄溶剤としては不適当である。
【0010】本発明は、以上の状況に鑑みてなされたものであり、CFC113等からなるこれまでの洗浄用溶剤がオゾン層の破壊を引き起こすという欠点を解消し、地球温暖化といった新しい環境問題にも配慮しつつ、洗浄作用に優れた新規なフッ素系溶剤を提供するものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】請求項1のフッ素系溶剤は、下記一般式(I)で表される含水素ポリフルオロ第3級アミンの1種又は2種以上からなる、或いは、この含水素ポリフルオロ第3級アミンの1種又は2種以上を含むことを特徴とする。
【0012】
【化3】


【0013】請求項2のフッ素系溶剤は、下記一般式(II)で表される含水素ポリフルオロ第3級アミンの1種又は2種以上からなる、或いは、この含水素ポリフルオロ第3級アミンの1種又は2種以上を含むことを特徴とする。
【0014】
【化4】


【0015】請求項3のフッ素系溶剤は、請求項1又は2のフッ素系溶剤において、第2成分として更に、炭化水素化合物,アルコール化合物,エーテル化合物,ケトン化合物,エステル化合物,有機窒素化合物,有機硫黄化合物及び有機ケイ素化合物からなる群から選ばれた1種又は2種以上を含み、該第2成分の含有量が前記含水素ポリフルオロ第3級アミンの重量の1〜50重量%であることを特徴とする。
【0016】請求項4のフッ素系溶剤は、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のフッ素系溶剤において、洗浄剤であることを特徴とする。
【0017】請求項5のフッ素系溶剤は、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のフッ素系溶剤において、水切り剤であることを特徴とする。
【0018】請求項6のフッ素系溶剤は、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のフッ素系溶剤において、ドライクリーニング用溶剤であることを特徴とする。
【0019】請求項7のフッ素系溶剤は、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のフッ素系溶剤において、塗料用溶剤であることを特徴とする。
【0020】請求項8のフッ素系溶剤は、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のフッ素系溶剤において、抽出用溶剤であることを特徴とする。
【0021】以下に本発明を詳細に説明する。
【0022】本発明の請求項1に記載の含水素ポリフルオロ第3級アミンにおいて、R1 がトリフルオロメチル基の場合、R2 は炭素数1〜3の水素原子を有するか又は有しないポリフルオロアルキル基であり、XはH又はトリフルオロメチル基であれば良い。R1 がペンタフルオロエチル基で、Xがトリフルオロメチル基の場合、R2 としては炭素数1又は2の水素原子を有するか又は有しないポリフルオロアルキル基であることが、当該含水素ポリフルオロ第3級アミンが適当な沸点範囲となることから好ましい。なお、R1 がペンタフルオロエチル基で、XがHの場合、R2 は炭素数1〜3の水素原子を有するか又は有しないポリフルオロアルキル基で良い。
【0023】また、本発明の請求項2に記載の含水素ポリフルオロ第3級アミンにおいて、R1 がトリフルオロメチル基の場合、R3 としてはエチル基又はプロピル基であることが、また、R1 がペンタフルオロエチル基の場合、R3 としてはメチル基、エチル基又はプロピル基であることが、当該含水素ポリフルオロ第3級アミンが適当な沸点範囲となることから好ましい。
【0024】請求項1の発明において用いられる含水素ポリフルオロ第3級アミンの製造方法は、特願平6−176769号に記述の製造方法、すなわち、一般式CF3 N=CFY(式中、YはF又はトリフルオロメチル基)で表されるペルフルオロアザアルケン、例えば、ペルフルオロ−2−アザ−2−プロペン(CF3 N=CF2 )、ペルフルオロ−2−アザ−2−ブテン(CF3 N=CFCF3 )等を、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、ジグリム、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、スルホラン等の非プロトン性極性溶媒中で、フッ化カリウム及び/又はフッ化セシウム等のアルカリ金属フッ化物、並びに、下記一般式 (III)で表されるスルホン酸エステル類と反応させることにより、容易に得ることができる。
【0025】EZ1 ………(III)(ただし、Eは、炭素数1〜4のペルフルオロアルキル基であり、好ましくは、トリフルオロメチル基である。また、Z1 は、次式で表されるような、エステル部分(Z1 )が、炭素数2〜5のアルキル基であるスルホン酸エステルである。
1 =−SO2 OCHXR4(ただし、R4 は炭素数1〜3の水素原子を有するか又は有しないポリフルオロアルキル基を示し、XはH又はトリフルオロメチル基を示す。))
スルホン酸エステルとしては、具体的には、次のようなものが挙げられ、目的とする含水素ポリフルオロ第3級アミンに応じて選択使用される。
【0026】CF3 SO2 OCH2 CF2 H, CF3 SO2 OCH2 CF3 ,CF3 SO2 OCH2 CF2 CF2 H,CF3 SO2 OCH2 CF2 CF3 ,CF3 SO2 OCH(CF32 ,CF3 SO2 OCH(CF3 )CF2 CF3 ,CF3 SO2 OCH(CF3 )CF2 CF2 CF3 ,CF3 SO2 OCH2 CF2 CFHCF3 ,CF3 SO2 OCH2 CF2 CF2 CF3請求項2の発明において用いられる含水素ポリフルオロ第3級アミンを製造する場合、上記方法において、スルホン酸エステルとして、上記請求項1の含水素ポリフルオロ第3級アミンの製造に用いられるペルフルオロアルキルスルホン酸エステルが使用できる。その他に、p−トルエンスルホン酸エステル、アルキル硫酸、メタンスルホン酸エステルなどの各種スルホン酸エステルの、エステル部分(Z2 )が次式で表されるような、炭素数1〜3のアルキル基であるスルホン酸エステルを用いることができる。
【0027】Z2 =−SO2 OCn2n+1(ただし、nは、1,2又は3である。)
その具体例としては、次のようなものが挙げられ、目的とする含水素ポリフルオロ第3級アミンに応じて選択使用される。なお、以下において、C64 はフェニレン基である。
【0028】CF3 SO2 OCH3 , C25 SO2 OCH3 ,C37 SO2 OCH3 , C49 SO2 OCH3 ,CF3 SO2 OCH2 CH3 ,CF3 SO2 OC37 ,CH364 SO2 OCH3 ,CH364 SO2 OCH2 CH3 ,CH364 SO2 OC37 ,CH3 OSO2 OCH3 ,CH3 CH2 OSO2 OCH2 CH3 ,C37 OSO2 OC37 ,CH3 SO2 OCH3 , CH3 SO2 OCH2 CH3 ,CH3 SO2 OC37即ち、本発明で使用するスルホン酸エステルは、アルキル基又はポリフルオロアルキル基を導入するためのアルキル化剤であり、スルホン酸エステル由来の置換基は、合成する含水素ポリフルオロ第3級アミンの窒素原子に結合して、前記一般式(I)における置換基CHXR2 、又は、前記一般式(II)における置換基R3 を構成するものとなるため、上記のようなスルホン酸の、炭素数1〜3のアルキルエステル又は炭素数2〜5のポリフルオロアルキルエステルが用いられる。
【0029】なお、用いるスルホン酸エステルの種類によっても合成収率に違いがあり、請求項1に記載の化合物を合成する場合には、一般に、他の条件が同一であれば、合成収率は、トリフルオロメタンスルホン酸エステルが最も高く、従って、最も好適に用いられる。次いで、メタンスルホン酸エステル、アルキル硫酸、p−トルエンスルホン酸エステルの順に収率は低下する。また、請求項2に記載の化合物を合成する場合には、アルキル硫酸とトリフルオロメタンスルホン酸エステルが最も好適に用いられる。
【0030】なお、反応系の配合、反応温度、反応時間は、用いる薬剤の種類や目的とする生成物によっても異なるが通常の場合、次のような条件を採用するのが好ましい。
【0031】スルホン酸エステルの使用量は、出発原料のペルフルオロアザアルケン1モルに対して0.5〜2.0倍モル、好ましくは1.05〜1.25倍モル用いるのが適当である。スルホン酸エステルを過度に多く用いても収率は向上せず、かえって不経済である。
【0032】アルカリ金属フッ化物の使用量は、出発原料のペルフルオロアザアルケン1モルに対して0.5〜10倍モル、好ましくは1.5〜8倍モルが適当であり、このように過剰に用いることにより、収率が向上する。しかし、過度に多く用いても、収率は頭打ちになり生産効率が低くなる。
【0033】非プロトン性極性溶媒と出発原料のペルフルオロアザアルケンとの割合は、ペルフルオロアザアルケン1モルに対して非プロトン性極性溶媒を500〜2000mlの範囲で用いるのが好ましい。非プロトン性極性溶媒は、多量に使用すると反応時間を短縮できるが、過度に多量に用いるとバッチ当りの生産効率が低くなり不経済である。
【0034】また、反応温度及び反応時間は、それぞれ0〜100℃及び6〜80hrが好ましく、より好ましくは20〜80℃及び12〜65hrである。
【0035】このようにして製造される本発明に係る含水素ポリフルオロ第3級アミンとしては、例えば次のようなものが挙げられる。
【0036】請求項1に該当する含水素ポリフルオロ第3級アミンは、前記一般式(I)で表される、窒素原子に結合する3個の置換基のうちの1個におけるα炭素原子にフッ素原子を持たない構造の含水素ポリフルオロ第3級アミンであり、その好適な具体例は、下記の通りである。
【0037】
【化5】


【0038】
【化6】


【0039】また、最適な具体例は、前記一般式(I)において、R1 が炭素数1のトリフルオロメチル基であり、R2 が炭素数1〜3で水素原子を一つ有するか又は有しないポリフルオロアルキル基であり、XがH又はトリフルオロメチル基である化合物であり、その具体例は以下の通りである。
【0040】
【化7】


【0041】請求項2に該当する含水素ポリフルオロ第3級アミンは、前記一般式(II)で表される、アルキル基を有する含水素ポリフルオロ第3級アミンであり、その好適な具体例は、下記の通りである。
【0042】
【化8】


【0043】また、更に好適な具体例は、前記一般式(II)において、R1 が炭素数1のトリフルオロメチル基であり、R3 が炭素数2又は3のアルキル基である化合物であり、その具体例は以下の通りである。
【0044】
【化9】


【0045】これらの含水素ポリフルオロ第3級アミンは、それ単独で用いることにより、当該含水素ポリフルオロ第3級アミンが有する、汚れの選択的溶解除去作用、材料との融和性、不燃性ないし難燃性、乾燥性、表面張力が小さいことによる微小部分の汚れ除去性といった効果が最も有効に発揮されるが、被洗浄対象によっては、当該含水素ポリフルオロ第3級アミンの単独使用では、十分な洗浄効果が得られない場合がある。従って、このような場合においては、含水素ポリフルオロ第3級アミンに、更に第2成分として、炭化水素化合物,アルコール化合物,エーテル化合物,ケトン化合物,エステル化合物,有機窒素化合物,有機硫黄化合物及び有機ケイ素化合物からなる群から選ばれた1種又は2種以上を用いる。この場合、炭化水素化合物としては、具体的にはペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン等の脂肪族又は芳香族炭化水素類が挙げられる。また、アルコール化合物としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、カルビトール等が挙げられる。エーテル化合物としては、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、モノグリム、ジグリム等が挙げられる。ケトン化合物としては、アセトン、メチルエチルケトン、2−ペンタノン、3−ペンタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等が挙げられる。エステル化合物としては、カルボン酸エステル、例えばギ酸エステル、酢酸エステル等が挙げられる。有機窒素化合物としては、アセトニトリル、ニトロベンゼン、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等が挙げられる。有機硫黄化合物としては、ジメチルスルホキシド、スルホラン等が挙げられる。有機ケイ素化合物としては、具体的にはヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン等が挙げられる。本発明に係る含水素ポリフルオロ第3級アミンは、これらの第2成分に対して任意の割合で良好な溶解性を示す。
【0046】本発明のフッ素系溶剤を、例えば、洗浄剤等の溶解性を必要とする用途に用いる場合、これら第2成分の使用割合が少な過ぎると当該第2成分を用いたことによる溶解力の向上効果が十分に得られず、逆に、第2成分の使用割合が多過ぎると、本発明に係る含水素ポリフルオロ第3級アミンを用いることによる、汚れの選択的溶解除去作用、材料との融和性、不燃性ないし難燃性、乾燥性、表面張力が小さいことによる微小部分の汚れ除去性といった効果が損なわれる。従って、第2成分を用いる場合、第2成分の配合量は、含水素ポリフルオロ第3級アミンに対して1〜50重量%とするのが好ましい。
【0047】なお、本発明に係る含水素ポリフルオロ第3級アミンを水切り剤として用いる場合には、一般には、第2成分を配合せず、含水素ポリフルオロ第3級アミン単独使用で用いるか、或いは、第2成分を用いた場合であっても上記割合よりも少なくするのが好適である。
【0048】また、本発明のフッ素系溶剤は、必要に応じて、更に、安定化剤を配合しても良い。この場合、安定化剤としては、ニトロ化合物、不飽和炭化水素、エポキシ化合物、フェノール化合物、アルケニルアミン、環状窒素化合物、不飽和アルコール等が挙げられる。その他、各種界面活性剤を配合しても良い。
【0049】本発明の溶剤は、分子内にフッ素原子を多く有する含水素ポリフルオロ第3級アミンを含むため不燃性ないし難燃性であり、表面張力が小さいことから乾燥性にも優れ、更に、従来のCFC113と同程度の溶解力を有することから溶剤として好適に用いることができる。
【0050】溶剤としての具体的な用途は、洗浄剤、水切り剤、ドライクリーニング用溶剤、塗料用溶剤、抽出用溶剤等である。洗浄剤としては、フラックス,グリース,油,ワックス,インキ等を、ガラス,セラミックス,プラスチック,ゴム,金属製各種物品,特にIC部品,電気機器,精密機械,光学レンズ等の表面から取り除くために用いられる。また、水切り剤としては、前記物品を水洗浄した後に、水を表面から取り除くために用いられる。洗浄方法としては、手拭き、浸漬、スプレー、揺動、超音波洗浄、蒸気洗浄等を採用すれば良い。
【0051】
【作用】本発明者らは、前述の従来技術の状況に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定の構造を有するアミン化合物、即ち、含水素ポリフルオロ第3級アミンを含む溶剤が、分子内に塩素を含有しないことから、オゾン層を破壊する恐れが全くなく、また、油脂類、塵埃等の洗浄効果に優れ、しかも、CFC113と同様に適度な溶解力を有することから、各種の汚れのみを選択的に溶解除去し、被洗浄品の金属、プラスチック、エストラマー等からなる複合部品を侵さないことを見出した。
【0052】更に、地球温暖化問題を考慮した場合、適度な安定性と分解性をバランス良く兼ね備えた化合物であることが望まれるが、化合物の化学構造、とりわけ、フッ素原子と水素原子の含有量及び導入位置は、その化合物自体の化学的,熱的安定性や環境に及ぼす影響の程度等を本質的に決定する重要な要因となる。
【0053】例えば、アミン系フッ素化合物において、一般に、窒素原子に隣接した炭素原子が、フッ素原子で囲まれている場合、極めて安定であるために分解しにくいと云われ、また、逆に、この炭素原子にフッ素原子と水素原子の両方が結合している場合には、極めて不安定と云われている。
【0054】このような観点から、窒素原子に結合する3個の置換基のうちの1個が、アルキル基であるか又は、α位の炭素原子にフッ素原子が結合していない構成のポリフルオロアルキル基である含水素ポリフルオロ第3級アミンが、適度な安定性と分解性をバランス良く付与された化合物であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0055】本発明の請求項1及び2に記載の含水素ポリフルオロ第3級アミンは、いずれも窒素原子に隣接している3個の置換基のうちの1個におけるα炭素原子にフッ素原子を持たない構造の化合物であり、そのHGWPは0.1以下、大気中寿命は数年以下と評価されている。従って、前述のHFC−43−10meeやPF−5052等及びモノヒドロポリフルオロ第3級アミンに比べて、より適度な化学的,熱的安定性と分解性を兼ね備えており、地球温暖化問題にも配慮した代替溶剤として有用である。
【0056】本発明に係る含水素ポリフルオロ第3級アミンは、■ 分子内に塩素を含有しないことから、オゾン層を破壊する恐れがない。
■ 適度な溶解力を有することから、被洗浄品を侵すことなく、特にプラスチックに与える影響が少なく、汚れのみを選択的に溶解除去できる。
■ 窒素原子に結合している置換基のうち、α炭素原子にフッ素原子がない置換基を一つ有する構造であることから、適度な安定性と分解性をバランス良く有するため、大気中寿命も比較的短く、地球温暖化防止に有効である。
■ 分子内にフッ素原子を多く有するため不燃性ないし難燃性である。また、表面張力が小さい上に、蒸発潜熱が小さいことから、乾燥性にも優れ、洗浄終了後、容易に乾燥除去できる。特に、表面張力が小さいという特性から、複雑形状の被洗浄品であっても、非常に小さな割れ目やメクラ穴に容易に入り込み、該部分の汚れを取り除くことができる。
といった特性を有し、溶剤として極めて有効に使用することができる。
【0057】ところで、本発明に係るフッ素系溶剤は、それ単独使用では、良好な溶解性を得ることができず、第2成分として、更に、炭化水素化合物,アルコール化合物,エーテル化合物,ケトン化合物,エステル化合物,有機窒素化合物,有機硫黄化合物及び有機ケイ素化合物からなる群から選ばれた1種又は2種以上を、含水素ポリフルオロ第3級アミンに対して1〜50重量%含有する場合において、優れた溶解力で良好な洗浄効果を得ることができる。
【0058】
【実施例】以下に実施例,比較例,参考例及び実験例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0059】実施例1〜8,比較例1,参考例1〜4SUS−304のテストピースを機械油(日本石油製CQ−30)中に浸漬した後、表1に示す配合の種々の洗浄剤に5分間浸漬した後、取り出し、目視によって機械油の除去された程度を観察し、結果を表1に示した。
【0060】
【表1】


【0061】表1より、特定の含水素ポリフルオロ第3級アミンを含む本発明のフッ素系溶剤、とりわけ含水素ポリフルオロ第3級アミンと、含水素ポリフルオロ第3級アミンに対して所定範囲内の第2成分を配合した洗浄剤であれば、従来の機械油の洗浄剤であるCFC113と同等の良好な洗浄効果が得られることがわかる。
【0062】実験例1各プラスチックのテストピースを、表2に示す種々の洗浄剤に20℃で24時間浸漬した後、取り出し、取り出し直後に寸法変化率と重量変化率を測定すると共に、外観を目視により観察し、結果を表2に示した。なお、No. 5,6では、45℃で1時間浸漬した場合の結果を調べた。
【0063】表2より、本発明に係るフッ素系溶剤は、プラスチックに対して殆ど悪影響を及ぼすことがないことがわかる。
【0064】
【表2】


【0065】実験例2表3に示す含水素ポリフルオロ第3級アミン化合物50重量部と、n−ヘキサン0〜50重量部又はカルビトール0〜50重量部を室温で混合し、溶解性を調べた。結果を表3に示した。
【0066】
【表3】


【0067】表3より、本発明に係る含水素ポリフルオロ第3級アミンは、n−ヘキサン等の第2成分と任意の割合で溶解可能であることがわかる。
【0068】実験例3表4に示す含水素ポリフルオロ第3級アミンの、室温における水に対する溶解度を、ガスクロマトグラフィーによる定量法にて測定し、結果を表4に示した。
【0069】表4より、本発明に係る含水素ポリフルオロ第3級アミンは、水には殆ど溶解せず、水切り剤として、非常に有用であることがわかる。
【0070】
【表4】


【0071】
【発明の効果】以上詳述した通り、本発明の含水素ポリフルオロ第3級アミンを含むフッ素系溶剤は、洗浄性が良好で、素材、特にプラスチックに悪影響を与えず、更に塩素原子を持たないためにオゾン層の破壊問題を生じることもない。その上、地球温暖化問題の面からも有効であり、また、従来のCFC系溶剤と同様の使用態様を採用することができ、従って、既存装置の大幅な変更を必要とすることなく、そのまま適用できるなどの利点を有することから、工業的に極めて価値の高いものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 下記一般式(I)で表される含水素ポリフルオロ第3級アミンの1種又は2種以上を含むフッ素系溶剤。
【化1】


【請求項2】 下記一般式(II)で表される含水素ポリフルオロ第3級アミンの1種又は2種以上を含むフッ素系溶剤。
【化2】


【請求項3】 前記一般式(I)又は(II)で表される含水素ポリフルオロ第3級アミンとともに、炭化水素化合物,アルコール化合物,エーテル化合物,ケトン化合物,エステル化合物,有機窒素化合物,有機硫黄化合物および有機ケイ素化合物からなる群から選ばれた1種又は2種以上を、前記含水素ポリフルオロ第3級アミンの重量の1〜50重量%含有してなる請求項1又は2に記載のフッ素系溶剤。
【請求項4】 請求項1ないし3のいずれか1項に記載のフッ素系溶剤において、洗浄剤であることを特徴とするフッ素系溶剤。
【請求項5】 請求項1ないし3のいずれか1項に記載のフッ素系溶剤において、水切り剤であることを特徴とするフッ素系溶剤。
【請求項6】 請求項1ないし3のいずれか1項に記載のフッ素系溶剤において、ドライクリーニング用溶剤であることを特徴とするフッ素系溶剤。
【請求項7】 請求項1ないし3のいずれか1項に記載のフッ素系溶剤において、塗料用溶剤であることを特徴とするフッ素系溶剤。
【請求項8】 請求項1ないし3のいずれか1項に記載のフッ素系溶剤において、抽出用溶剤であることを特徴とするフッ素系溶剤。

【公開番号】特開平8−245525
【公開日】平成8年(1996)9月24日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−57356
【出願日】平成7年(1995)3月16日
【出願人】(000001144)工業技術院長 (75)
【上記1名の復代理人】
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛 (外1名)
【出願人】(591178012)財団法人地球環境産業技術研究機構 (153)
【上記1名の代理人】
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛