説明

フライホイール磁石回転子

【課題】フライホイールの底壁部に設けられた通気孔を通してフライホイール内に侵入した水が磁石保護カバーとフライホイールの周壁部との間に浸入するのを防止して、磁石に錆が生じるおそれを無くしたフライホイール磁石回転子を提供する。
【解決手段】フライホイールの底壁部1bの内側にボス部1cを取り囲む環状の止水用突条部1eを形成する。磁石保護カバー4は、永久磁石2の内周面を覆う筒状のカバー本体401と、カバー本体401の軸線方向の一端側に設けられた環状の外鍔部402と、カバー本体の軸線方向の他端側に設けられた環状の内鍔部403とを備えている。磁石保護カバーの外鍔部402は、フライホイールの開口部側で磁石2の軸線方向端面を覆うように配置され、内鍔部403は、止水用突条部1eの外側に突条部1eの頂部1e1よりもフライホイールの底壁部1b側に位置させた状態で配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関などの原動機により駆動される磁石発電機の回転子として用いられるフライホイール磁石回転子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁石発電機の回転子として用いられるフライホイール磁石回転子は、周壁部と底壁部とを有するカップ状の形状に形成されたフライホイールと、フライホイールの周壁部の内周に接着剤により固定された複数の円弧状永久磁石、または単一のリング状永久磁石とを備えていて、フライホイールの底壁部の中央に設けられたボス部が原動機の回転軸に結合されることにより原動機に取り付けられる。フライホイールの周壁部の内周に接着剤により固定された複数の円弧状永久磁石または単一のリング状永久磁石は、フライホイールの周方向にS極とN極とが交互に並ぶように着磁され、該永久磁石により、フライホイールの内側に所定の極数の界磁が構成される。
【0003】
永久磁石としてはフェライト磁石や希土類磁石などの焼結磁石が用いられるが、焼結磁石は脆く、割れやすいため、特許文献1に示されているように、フライホイールの周壁部の内側に永久磁石を覆う環状の磁石保護カバーを取り付けることが行われている。
【0004】
図7は永久磁石として希土類磁石を用いた従来のフライホイール磁石回転子の半部を示した断面図である。同図において1は周壁部1aと、底壁部1bとを有する鉄製のフライホイールで、底壁部1bの中央部には、ボス部1cが一体に形成されている。フライホイール1の周壁部1aは、フライホイールの開口部側のほぼ半部を占める第1の周壁部1a1と、他のほぼ半部を占める第2の周壁部1a2とからなっていて、第1の周壁部1a1と第2の周壁部1a2との間には段部1dが形成されている。図7に示した例では、フライホイールの底壁部1bのボス部1cを取り囲む領域に底壁部1bを貫通した通気孔1fが複数個形成されている。
【0005】
2は、第1の周壁部1a1の内周に取り付けられた希土類磁石である。磁石2は、その一方の軸線方向端面2aが、非強磁性材料からなるスぺーサ3を介して段部1dに当接されてフライホイールの軸線方向に位置決めされている。
【0006】
4は非強磁性材料からなる磁石保護カバーで、この磁石保護カバーは、フライホイール1の周壁部と同心的に配置されて永久磁石2の内周面を覆う筒状のカバー本体401と、フライホイールの開口部側に位置するカバー本体401の軸線方向の一端側から径方向の外側に突出した環状の外鍔部402と、カバー本体401の軸線方向の他端側から径方向の内側に突出した環状の内鍔部403とを備え、カバー本体401の内鍔部403寄りの部分は、フライホイールの底壁部1bに近づくに従ってフライホイールの径方向の内側に向かうように傾斜した傾斜部404となっている。
【0007】
磁石保護カバー4の外鍔部402は、各部の断面が円弧状を呈するように形成されて、フライホイール1の開口部側に位置する永久磁石2の他方の軸線方向端面を覆うように配置され、磁石保護カバー4の内鍔部403は、フライホイールの底壁部の内面に当接させられている。
【0008】
フライホイールの周壁部1aの開口端の内周部に磁石保護カバー4の外鍔部402を押さえるシーミング加工部1gが形成され、このシーミング加工部により外鍔部402を介して磁石2が段部1d側に押し付けられて、磁石2がフライホイール1に対して固定されている。
【0009】
フライホイール1と、永久磁石2と、磁石保護カバー4とにより、フライホイール磁石回転子FWR′が構成されている。
【0010】
図7に示した例では、磁石2とフライホイールの周壁部1aとの間に働く磁気吸引力と、シーミング加工部1gによる押さえとにより磁石2がフライホイールに固定されているが、磁石2をフライホイール1の周壁部1aに接着する場合もある。磁石2をフライホイールの周壁部の内周に接着する場合には、図8に示すように、余剰の接着剤の一部が通気孔1fから外部に流れ出すのを防ぐために、フライホイールの底壁部の内面にボス部1cを取り囲む環状の接着剤漏れ止め用突条部1e′を形成し、保護カバー4の内鍔部403を突条部1e′の頂部の上に載せている。
【0011】
永久磁石2をフライホイールの周壁部の内周に接着する際には、フライホイール1の開口部を上方に向けた状態で、磁石2と第1の周壁部1a1の内周との間に未硬化の状態で流動性を有する接着剤を浸透させて硬化させる。周壁部1a1と磁石2との間に供給された接着剤のうち、余分な接着剤は、フライホイールの第2の周壁部1a2の内周面を流動して底壁部1bの内面に達し、接着剤漏れ止め用突条部1e′により流動を阻止される。従って、突条部1e′と第2の周壁部1a2との間の部分で余剰接着剤5が硬化し、通気孔1f側に接着剤が流出するのが防止される。
【0012】
この場合も、フライホイール1と、永久磁石2と、磁石保護カバー4とにより、フライホイール磁石回転子FWR″が構成されている。この種のフライホイール磁石回転子は特許文献2に示されている。
【特許文献1】特開平1−99448号公報
【特許文献2】特開2000−324779号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
船外機のように、回転軸が垂直方向に向いている機関にフライホイール磁石回転子を取り付ける場合には、図7及び図8に示されているように、フライホイール1の底壁部1bを上に向け、その開口部を下に向けた状態でフライホイール磁石回転子が機関に取り付けられる。このように、底壁部1bを上に向けた状態でフライホイール1を原動機に取り付けた場合には、フライホイールの底壁部1bに設けられた通気孔1fを通して外部からフライホイール内に水が侵入することがある。
【0014】
ところが、図7に示した従来のフライホイール磁石回転子FWR′においては、磁石保護カバー4の内鍔部403がフライホイールの底壁部1bの内面に当接されていたため、通気孔1fを通して侵入した水Wのうち、底壁部1bの内面に沿って回り込んだ分が磁石保護カバー4の内鍔部403と底壁部1bとの間の僅かな隙間を通して保護カバー4とフライホイールの周壁部1aとの間の空間に浸入することがあった。
【0015】
また図8に示したフライホイール磁石回転子においても、磁石保護カバー4の内鍔部403がフライホイールの底壁部の内面に形成された突条部1e′の頂部に軸線方向から当接させられていたため、通気孔1fを通して水Wが侵入した際に、この水が磁石保護カバー4の内鍔部403と突条部1e′の頂部との間の僅かな隙間から、保護カバー4とフライホイールの周壁部1aとの間の空間に浸入することがあった。
【0016】
保護カバー4とフライホイールの周壁部1aとの間の空間に水が入ると、磁石2が水で濡れるため、磁石2に錆びが発生して、磁石の性能が劣化するだけでなく、磁石の接着強度が低下するおそれがあり、好ましくなかった。特に船外機等において、フライホイール内に海水が侵入した場合には、磁石2での錆の発生が顕著に認められ、問題が大きくなる。
【0017】
本発明の目的は、フライホイールの底壁部に設けられた通気孔を通してフライホイール内に侵入した水が磁石保護カバーとフライホイールの周壁部との間の空間に浸入するのを防止して、磁石に錆が生じるおそれを無くしたフライホイール磁石回転子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、周壁部と該周壁部の軸線方向の一端を閉じる底壁部とを有して底壁部の中央に回転軸取付用のボス部が設けられたフライホイールと、フライホイールの周壁部の内周に固定された永久磁石と、フライホイールの周壁部の内側に取り付けられて永久磁石を覆う環状の磁石保護カバーとを備えて、フライホイールの底壁部のボス部を取り囲む領域に該底壁部を貫通した通気孔が形成されているフライホイール磁石回転子に係わるものである。
【0019】
本発明においては、通気孔が形成された領域よりも外径側に位置させて、フライホイールの底壁部の内側に周壁部の周方向に連続して伸びる環状の止水用突条部が形成される。また磁石保護カバーは、フライホイールの周壁部と同心的に配置されて永久磁石の内周面を覆う筒状のカバー本体と、フライホイールの開口部側に位置するカバー本体の軸線方向の一端側から径方向の外側に突出した環状の外鍔部と、カバー本体の軸線方向の他端側から径方向の内側に突出した環状の内鍔部とを備え、磁石保護カバーの外鍔部は、フライホイールの開口部側に位置する永久磁石の軸線方向端面を覆うように配置され、磁石保護カバーの内鍔部は、止水用突条部の外側に該突条部の頂部よりもフライホイールの底壁部側に位置させた状態で配置されている。
【0020】
上記のように、通気孔が形成された領域よりも外径側に位置させて、フライホイールの底壁部の内側に周壁部の周方向に連続して伸びる環状の止水用突条部を設けるとともに、磁石保護カバーの内鍔部を、環状の止水用突条部の外側に、該突条部の頂部よりもフライホイールの底壁部側に位置させた状態で配置しておくと、フライホイールの底壁部を上にし、開口部を下にした状態でフライホイール磁石回転子を配置したときに、フライホイールの底壁部に設けられた通気孔を通して外部から侵入した水は、磁石保護カバーの内側に回り込むことなく落下する。そのため、磁石保護カバーとフライホイールの周壁部との間に水が入って、磁石が水で濡れるのを防ぐことができ、磁石に錆びが発生して磁石の性能が劣化したり、磁石の接着強度が低下したりするのを防ぐことができる。
【0021】
本発明の好ましい態様では、磁石保護カバーの内鍔部が、止水用突条部の外側でフライホイールの底壁部の内面に当接した状態で配置される。
【0022】
本発明の他の好ましい態様では、止水用突条部の頂部に、該突条部の周方向に連続して伸びていて、フライホイールの開口方向に開口した溝が形成されている。
【0023】
上記のように、止水用突条部の頂部に溝を設けておくと、通気孔を通してフライホイール内に侵入した水が止水用突条部の外側に回り込むおそれを無くすことができるため、磁石保護カバーとフライホイールの周壁部との間に水が入るのを確実に防ぐことができる。
【0024】
本発明の更に他の好ましい態様では、磁石保護カバーの内鍔部とフライホイールの底壁部との間に接着剤が介在させられて,該接着剤により内鍔部とフライホイールの底壁部との間がシールされている。
【0025】
本発明の他の好ましい態様では、磁石保護カバーの内鍔部と止水用突条部の外周面とに跨って接着剤が塗布されて、該接着剤により内鍔部と止水用突条部の外周面との間がシールされている。
【0026】
上記のように、磁石保護カバーの内鍔部とフライホイールの底壁部との間に接着剤を介在させて、磁石保護カバーの内鍔部とフライホイールの底壁部との間を接着剤によりシールするか、または磁石保護カバーの内鍔部と止水用突条部の外周面とに跨って接着剤を塗布して、該接着剤により内鍔部と止水用突条部の外周面との間をシールしておくと、磁石保護カバーとフライホイールの周壁部との間に水が入るおそれを皆無にすることができる。
【発明の効果】
【0027】
以上のように、本発明によれば、フライホイールの底壁部の通気孔が形成された領域よりも外径側に位置させて、フライホイールの底壁部の内側に周壁部の周方向に連続して伸びる環状の止水用突条部を設けるとともに、磁石保護カバーの内鍔部を、環状の止水用突条部の外側に、該突条部の頂部よりもフライホイールの底壁部側に位置させた状態で配置したので、フライホイールの底壁部を上にし、開口部を下にした状態でフライホイール磁石回転子を配置したときに、フライホイールの底壁部に設けられた通気孔を通して外部から侵入した水は、磁石保護カバーの内側に回り込むことなく落下する。そのため、磁石保護カバーとフライホイールの周壁部との間に水が入って、磁石が水で濡れるのを防ぐことができ、磁石に錆びが発生して磁石の性能が劣化したり、磁石の接着強度が低下したりするのを防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下図面を参照して、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。
図1ないし図3は本発明の第1の実施形態を示したもので、図1は本発明の一実施形態に係わるフライホイール磁石回転子の底面図(フライホイールの開口部側から見た図)、図2は、図1のII−II線断面図、図3は要部の拡大断面図である。
【0029】
これらの図において、1は周壁部1aと、該周壁部の軸線方向の一端を閉じる底壁部1bとを有する鉄製のフライホイールで、底壁部1bの中央部には、ボス部1cが一体に形成されている。
【0030】
なお本実施形態では、フライホイールの底壁部1bの中央に設けるボス部1cを底壁部1bと一体に形成しているが、フライホイールの底壁部の中央に設けるボス部を底壁部と別体に形成して、該ボス部を底壁部にリベット止めする場合もある。
【0031】
フライホイール1の周壁部1aは、フライホイールの開口部側のほぼ半部を占める第1の周壁部1a1と、他のほぼ半部を占める第2の周壁部1a2とからなっていて、第1の周壁部1a1と第2の周壁部1a2との間に段部1dが形成されている。また底壁部1bのボス部1cを取り囲む領域には、底壁部1bを貫通した4個の通気孔1fが等角度間隔で形成され、フライホイールの底壁部1bの通気孔1f,1f,…が形成された領域よりも外径側に位置させて、底壁部1bの内面から突出して周壁部1aの周方向に連続して伸びる環状の止水用突条部1eが底壁部1bと一体に形成されている。
【0032】
通気孔1fは、フライホイールの内側に配置される電機子を冷却する冷却風の取り入れ口として用いられる他、フライホイールのボス部1cを原動機の回転軸(例えばエンジンのクランク軸)に嵌合させて、ネジ部材によりフライホイールを回転軸に締結する際に、フライホイールの回り止めを図る工具を挿入するための孔としても用いられる。
【0033】
2はフライホイール1の周壁部の内周に沿うように円弧状に形成された希土類磁石で、本実施形態では、磁石2が12個設けられている。磁石2は、第1の周壁部1a1の内周に等角度間隔で配置されて、それぞれの一方の軸線方向端面2aが、アルミニウムやステンレス鋼等の非強磁性材料(強磁性材料以外の材料)からなるスぺーサ3を介して,段部1dに当接されて、フライホイールの軸線方向に対して位置決めされている.
【0034】
12個の希土類磁石2は、フライホイールの内周側にN極とS極とが交互に並ぶように、交互に着磁方向を異ならせて、径方向に着磁され、これらの磁石により12極の回転界磁が構成されている。
【0035】
希土類磁石は厚みが薄いため、段部1dに直接当接させて位置決めすると段部1bを通して流れる漏洩磁束の量が多くなり、発電に寄与する有効磁束量が減少してしまう。そのため、本実施形態では、各磁石2の一方の軸線方向端面2aを、アルミニウムやステンレス鋼等の非強磁性材料からなるスぺーサ3を介して段部1dに当接させることにより、各磁石をフライホイールの軸線方向に位置決めしている。
【0036】
4は非強磁性材料からなる磁石保護カバーで、フライホイール1の周壁部と同心的に配置されて永久磁石2の内周面を覆う筒状のカバー本体401と、フライホイールの開口部側に位置するカバー本体401の軸線方向の一端側から径方向の外側に突出した環状の外鍔部402と、カバー本体401の軸線方向の他端側から径方向の内側に突出した環状の内鍔部403とを一体に備え、カバー本体401の内鍔部403寄りの部分は、フライホイールの底壁部1bに近づくに従ってフライホイールの径方向の内側に向かうように傾斜した傾斜部404となっている。
【0037】
磁石保護カバー4の外鍔部402は、各部の断面が円弧状を呈するように形成されて、フライホイール1の開口部側に位置する永久磁石2の他方の軸線方向端面を覆うように配置されている。磁石保護カバー4の内鍔部403は、フラットに形成されて、止水用突条部1eの外側に、該突条部1eの頂部1e1よりもフライホイールの底壁部1b側に位置させた状態で配置される。本実施形態では、磁石保護カバー4の内鍔部403が、突条部1eの外側で、フライホイールの底壁部1bの内面に当接させられている。
【0038】
永久磁石2をフライホイールの周壁部の内周に接着する際には、フライホイール1の開口部を上方に向けた状態で、フライホイール1を作業台の上に配置して、フライホイールの第1の周壁部1a1の内周に永久磁石2を配置し、磁石2と第1の周壁部1a1の内周との間に未硬化の状態で流動性を有する接着剤を浸透させて硬化させる。周壁部1a1と磁石2との間に供給された接着剤のうち、余分な接着剤は、フライホイールの第2の周壁部1a2の内周面を流動して底壁部1bの内周に達し、磁石保護カバーの内鍔部403と止水用突条部1eとにより流動を阻止される。従って、磁石保護カバーの内鍔部403とフライホイールの第2の周壁部1a2との間の部分で余剰接着剤5が硬化し、通気孔1f側に接着剤が流出するのが防止される。
【0039】
本実施形態では、フライホイール1と、永久磁石2と、磁石保護カバー4とにより、フライホイール磁石回転子FWRが構成されている。
【0040】
図4は、本発明の第2の実施形態の要部を示した断面図である。この実施形態では、磁石保護カバー4の内鍔部403が、止水用突条部1eの外側に、該突条部1eの頂部1e1よりもフライホイールの底壁部1b側に位置させ、かつ底壁部1bからは浮かせた状態で配置されている。
【0041】
通気孔1fから侵入した水が磁石保護カバー4とフライホイールの周壁部との間に浸入するのを防ぐためには、磁石保護カバー4の内鍔部403を、止水用突条部1eの外側に、該突条部1eの頂部1e1よりもフライホイールの底壁部1b側に位置させた状態で配置すればよいため、図4に示したように、磁石保護カバー4の内鍔部403を、フライホイールの底壁部1bから浮かせた状態で配置しても支障を来さない。
【0042】
図5は、本発明の第3の実施形態の要部を示した断面図である。この実施形態では、止水用突条部1eの頂部1e1に、突条部1eの周方向に連続して伸びていてフライホイールの開口方向に開口した溝1e2が形成されている。その他の構成は図1ないし図3に示した例と同様であり、磁石保護カバー4の内鍔部403は、突条部1eの外側で、フライホイールの底壁部1bの内面に当接させられている。
【0043】
このように、止水用突条部1eの頂部1e1に、止水用突条部1eの周方向に連続して伸びていてフライホイールの開口方向に開口した溝1e2を形成しておくと、通気孔1fを通してフライホイール1内に侵入した水が突条部1eの外側に回り込むおそれを無くすことができるため、磁石保護カバー4とフライホイールの周壁部1aとの間に水が入るのを確実に防ぐことができる。
【0044】
上記の各実施形態において、磁石保護カバー4の内鍔部403とフライホイールの底壁部1bとの間に接着剤を介在させて、該接着剤により磁石保護カバーの内鍔部403とフライホイールの底壁部1bとの間をシールするようにすることもできる。
【0045】
図7及び図8に示した従来の磁石回転子では、磁石保護カバー4の内鍔部403が突条部を有しないフライホイールの底壁部の内面に当接されるか、または突条部1e′の頂部の上に載せられていたため、磁石保護カバーの内鍔部403と底壁部1bとの間または内鍔部403と突条部1e′との間に接着剤を介在させようとすると、接着剤が通気孔1fを通して外部に流出してしまうのを避けられなかった。そのため、磁石保護カバーの内鍔部403と底壁部1bとの間または内鍔部403と突条部1e′との間に接着剤を均一に介在させることが困難であり、磁石保護カバーの内鍔部403とフライホイールの底壁部1との間または内鍔部403と突条部1eとの間のシールを的確に図ることができなかった。
【0046】
これに対し、本発明では、磁石保護カバーの内鍔部403を、止水用突条部1eの外側に、該突条部の頂部1e1よりもフライホイールの底壁部1b側に位置させた状態で配置するので、突条部1eにより接着剤の通気孔1f側への流出を阻止しつつ、磁石保護カバーの内鍔部とフライホイールの底壁部との間に均一に接着剤を介在させて、磁石保護カバーの内鍔部403とフライホイールの底壁部1bとの間を接着剤によりシールすることができる。
【0047】
上記の各実施形態では、希土類磁石2をフライホイールの周壁部1aの内周に接着するようにしたが、希土類磁石2とフライホイールの周壁部1aとの間に働く磁気吸引力は強力であるため、磁石2を接着することなくフライホイールに取り付けることができる。図6は、磁石2を接着によることなくフライホイールの周壁部1aに固定する場合に本発明を適用した実施形態を示したもので、この例では、フライホイール1の周壁部1aの開口端の内周部に磁石保護カバー4の外鍔部402を押さえるシーミング加工部1gが形成され、このシーミング加工部により外鍔部402を介して磁石2が段部1d側に押し付けられることにより、磁石2がフライホイール1に対して固定されている。その他の点は図3に示した実施形態と同様に構成され、磁石保護カバー4の内鍔部403は、フラットに形成されて、止水用突条部1eの外側に、該突条部1eの頂部1e1よりもフライホイールの底壁部1b側に位置させた状態で配置されて、フライホイールの底壁部1bの内面に当接させられている。またこの例では、磁石保護カバー4の内鍔部403と止水用突条部1eの外周面とに跨って接着剤6が塗布されて、該接着剤6により内鍔部403と止水用突条部1eの外周面との間がシールされている。なお接着剤6はフライホイールの底壁部1bと内鍔部403との間に介在させるようにしてもよい。
【0048】
上記のように、磁石保護カバー4の内鍔部403とフライホイールの底壁部1bとの間、または磁石保護カバー4の内鍔部403と止水用突条部1eの外周部との間に接着剤を介在させて、磁石保護カバーの内鍔部とフライホイールの底壁部との間または該内鍔部と止水用突条部の外周部との間を接着剤によりシールしておくと、磁石保護カバー4とフライホイールの周壁部1aとの間に水が入るおそれを皆無にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の第1の実施形態に係わるフライホイール磁石回転子の底面図である。
【図2】図1のII−II線断面図である。
【図3】本実施形態の要部を示す拡大断面図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係わるフライホイール磁石回転子の要部の拡大断面図である。
【図5】本発明の第3の実施形態に係わるフライホイール磁石回転子の要部の拡大断面図である。
【図6】本発明の第3の実施形態に係わるフライホイール磁石回転子の要部の拡大断面図である。
【図7】従来のフライホイール磁石回転子の要部の拡大断面図である。
【図8】従来の他のフライホイール磁石回転子の要部の拡大断面図である。
【符号の説明】
【0050】
1 フライホイール
1a 周壁部
1b 底壁部
1c ボス部
1e 止水用突条部
1e1 突条部の頂部
1e2 突条部の頂部に設けられた溝
1f 通気孔
4 磁石保護カバー
401 カバー本体
402 外鍔部
403 内側張出し部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周壁部と該周壁部の軸線方向の一端を閉じる底壁部とを有して前記底壁部の中央に回転軸取付用のボス部が設けられたフライホイールと、前記フライホイールの周壁部の内周に固定された永久磁石と、前記フライホイールの周壁部の内側に取り付けられて前記永久磁石を覆う環状の磁石保護カバーとを備え、前記フライホイールの底壁部の前記ボス部を取り囲む領域に該底壁部を貫通した通気孔が形成されているフライホイール磁石回転子において、
前記通気孔が形成された領域よりも外径側に位置させて、前記フライホイールの底壁部の内側に前記周壁部の周方向に連続して伸びる環状の止水用突条部が形成され、
前記磁石保護カバーは、前記フライホイールの周壁部と同心的に配置されて前記永久磁石の内周面を覆う筒状のカバー本体と、前記フライホイールの開口部側に位置する前記カバー本体の軸線方向の一端側から径方向の外側に突出した環状の外鍔部と、前記カバー本体の軸線方向の他端側から径方向の内側に突出した環状の内鍔部とを備え、
前記磁石保護カバーの外鍔部は、前記フライホイールの開口部側に位置する前記永久磁石の軸線方向端面を覆うように配置され、
前記磁石保護カバーの内鍔部は、前記止水用突条部の外側に該突条部の頂部よりも前記フライホイールの底壁部側に位置させた状態で配置されていること、
を特徴とするフライホイール磁石回転子。
【請求項2】
前記磁石保護カバーの内鍔部は、前記止水用突条部の外側で前記フライホイールの底壁部の内面に当接していることを特徴とする請求項1に記載のフライホイール磁石回転子。
【請求項3】
前記止水用突条部の頂部には、該突条部の周方向に連続して伸びていて前記フライホイールの開口方向に開口した溝が形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のフライホイール磁石回転子。
【請求項4】
前記磁石保護カバーの内鍔部と前記フライホイールの底壁部との間に接着剤が介在させられて,該接着剤により前記内鍔部と前記フライホイールの底壁部との間がシールされていることを特徴とする請求項1,2または3に記載のフライホイール磁石回転子。
【請求項5】
前記磁石保護カバーの内鍔部と前記止水用突条部の外周面とに跨って接着剤が塗布されて、該接着剤により前記内鍔部と前記止水用突条部の外周面との間がシールされていることを特徴とする請求項1,2または3に記載のフライホイール磁石回転子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−129822(P2007−129822A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−319925(P2005−319925)
【出願日】平成17年11月2日(2005.11.2)
【出願人】(000001340)国産電機株式会社 (191)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】