説明

フランジ付きカップ製品の成形方法

【課題】フランジ部とカップの肉厚差が大きいフランジ付きカップ成形品をクラック等の欠陥なく得るための優れた新規成形法を提供し、また、そのようなフランジ付きカップ成形品を板材、または棒材より予備成形工程、本成形工程の2工程からなるプレス成形にて欠陥なく得ることが可能な成形方法及び成形装置を提供すること。
【解決手段】ボスとフランジを有する素材をカップにフランジを有した製品に成形する方法において、パンチ(3)が素材(2)と接触し成形が開始される前よりフランジ(2b)のボス側、ボスなし側の両方に個別の付勢力(8a)(8b)を与えて該素材のフランジ材の上下面を金型(4)(5)にて挟持し、パンチ(3)により成形していくことを特徴とするフランジ付きカップ製品の成形方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は板材、又は棒材よりカップにフランジを有する成形品を得るための製造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、図1に示すようなカップ開口部にフランジ状部分を有する製品の成形は、フランジ(1a)の肉厚とカップ縦壁(1c)の肉厚とが大きく異なることから、塑性加工による一体成形が困難であるため、このような部品を一体にて製作する場合には、切削加工によることが多かったが、この切削加工法では歩留まり、製造コスト等が悪く、製造に要する時間も長い。
【0003】
他方、成形法による製造も提案されてない訳ではなく、例えば特許文献1の特開2006−224112号公報には、カップ開口部にフランジ状部分を有する製品を成形する際、フランジの下端にカップ形成のための円筒状形状物をプレス加工にて成形するときに該円筒状形状物の成形に対して予めちぎれ防止のための体積移動(肉寄せ)工程を含むプレス成形方法が記載されている。このプレス成形法は、フランジ形成体に深い穴(カップ)を形成する際のボリュームを補うため、予め、フランジ形成体の下にカップの形成に充分量の円柱材突起(ボス部)を形成するような材料の肉寄せ加工を含むものである。この成形工程では、第1工程目にて肉寄せ工程を設け、第2工程目の成形にてパンチ先端がフランジ部を越えて下降し、第3工程目にて図1のような形状を作り出す工程となっているが、第1工程目(肉寄せ成形)によるボス部のボリュームが第2工程目にて成形されるカップ部のボリューム不足分を補っているだけであるため、単純に転写される形の金型にてプレス成形を行った場合、フランジ部とカップのつなぎ部(R)において引張り応力が発生する(ただし、この特開2006−224112号公報では成形するための金型等には触れられていない)。
【0004】
このため、成形で破断しないためには、カップ用円柱材突起(ボス部)の付根箇所(フランジとのつなぎ箇所(R))はその引張り応力に耐えうる断面積が必要である。また、プレス成形では様々な要因にてバラツキが生じるが、仮に第2工程目の成形にてフランジ穴の底の位置にバラツキが生じ、円柱材突起(ボス部)頂部に比しフランジ穴底部レベルが充分深くまでパンチ先端が下降しない(同公報の図3のΔPが小さくなる)場合には、目的とするフランジ付きカップ製品の第3工程目の成形(同公報の図4の形状にするための成形)にて円柱材突起(ボス部)の付根部(同公報の図3中のa部)に引張り力がかかるため、この箇所にて破断、もしくはクラック等の成形欠陥が起こり、また、ΔPが大きくなる場合には、第2工程目にて同様の成形欠陥が生じてしまう。なお、特開2006−224112号公報の方法を用いて図1に示すような本発明の成形品を得ようとした場合には、該公報記載の第3工程の成形が必要であり、これ以上の工程短縮は難しい。
【0005】
【特許文献1】特開2006−224112号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、上記従来技術の現状に鑑み、フランジ部とカップの肉厚差が大きいフランジ付きカップ成形品を成形前形状の影響を受けにくく、クラック等の欠陥なく得るための優れた新規成形法を提供することにあり、また、図1に示すようなフランジ付きカップ成形品を板材、または棒材より予備成形工程、本成形工程の2工程からなるプレス成形にて欠陥なく得ることが可能な成形方法及び成形装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は本発明の(1)「ボスとフランジを有する素材をカップにフランジを有した製品に成形する方法において、パンチが素材と接触し成形が開始される前よりフランジのボス側、ボスなし側の両方に個別の付勢力を与えて該素材のフランジ材の上下面を金型にて挟持し、パンチにより成形していくことを特徴とするフランジ付きカップ製品の成形方法。」;
(2)「フランジの上面を挟持する金型に与えられるフランジのボスなし側からの前記付勢力が、フランジのボスなし側からの前記付勢力>フランジの下面を挟持する金型に与えられるボス側からの前記付勢力であることを特徴とする前記(1)項に記載の成形方法」;
(3)「成形時に前記パンチの下降する先端位置が前記ボスのフランジ側の付け根位置に到達しない状態において前記素材を予備成形可能であることを特徴とする前記(1)項又は(2)項に記載の成形方法。」;
(4)「成形時に前記パンチの下降する先端位置は、ボス付け根位置、もしくはボス付け根位置を越えるいずれの場合においても前記ボス部を成形可能であることを特徴とする前記(1)項乃至(3)項のいずれかに記載の成形方法」により解決される。
【発明の効果】
【0008】
以下の詳細かつ具体的な説明から明らかなように、本発明の成形方法のような金型構造とすることで、フランジ付きカップ製品を得る成形が圧縮応力主体の応力場で行なわれ、フランジ部とカップの肉厚差が大きい成形品をクラック等の欠陥なく得ることが可能となる。また、図1に示すような成形品を板材、または棒材より予備成形、本発明の成形方法の2工程の成形にて得ることが可能であるという極めて優れた効果が発揮される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明において、ボスとフランジ部を有する素材から、形状の規制を受けずに、カップにフランジを有した製品を一体成形するために特に適した新規成形方法が考案された。以下、図面を参照して、この成形方法を詳細に説明する。
図1は本発明による製品例を示し、図2はそのような製品を成形する際に用いられる素材例を示す。ここで、図1の製品(1)例は、肉薄のカップ縦壁(1c)を有するカップ(1b)の穴(1g)の開口部に肉厚のフランジ(1a)状部分を有する。また、図2に示される素材(2)例は、フランジ部(2b)の表面に凹部(2f)と、裏面にボス部(2a)を有する。ボス部(2a)と凹部(2f)は、例えば円板状原素材または円柱状原素材を予備成形することにより形成することができる。
【0010】
図3〜図5には、本発明の成形方法を実施するのに適した成形装置例の概要構成とこの装置を用いた本発明の成形シーケンスの要点が示される。
(a).この例の成形装置においては、前記素材(2)から前記カップ(1)を形成するためのパンチ(3)の降下より先行して、パンチホルダ(3b)の空洞に配置されたクッションバッド(4)が降下し、素材(2)のフランジ部(2b)の上面(2c)と接触する。これにより素材(2)はクッションパッド(4)とダイス(5)との間で挟持される。クッションバッド(4)はこの例ではバネ(8a)及びスライダにより上下動可能に支えられている。パンチ(3)はクッションバッド(4)の孔部を上下にスライド可能であり、ダイス(5)はボルスタ上のダイスホルダ(7)に、バネ(8b)により上下に可動に保持され、下カウンタパンチ(6)がダイス(5)の孔部を上下動可能に配置されている(図3)。
【0011】
(b).クッションパッド(4)が素材(2)のフランジ部(2b)の上面(2c)と接触すると上クッション力(フランジのボスなし側からの前記付勢力)>下クッション力(フランジの下面を挟持する金型に与えられるボス側からの前記付勢力)の条件であるため、素材(2)とダイス(5)を同時に押し下げていく。このため、フランジ部(2b)はクッションパッド(4)とダイス(5)に挟持され、圧縮力をかけられた状態となる。
【0012】
(c).次に、ボス部(2a)の先端(2d)が下カウンタパンチ(6)と接触し(図4)、その後、パンチ(3)だけがプレスのスライドと共に下降するため、素材の穴底(2e)に接触し、カップの成形が開始となる。
【0013】
(d).その後、パンチ(3)の進行に伴い、材料が上方へ流動するが、その流動はクッションパッド(4)により制御されている。また、材料が上方へ流動する際、ダイス(5)も材料の流動に従い上方へ可動する。これにより、成形されたカップ縦壁(1c)はクッションパッド(4)の力による座屈等の成形不良を起こすことがない。
【0014】
(e).パンチ(3)がフランジ部(2b)を通過する際、最も破断が起こり易いフランジ部(2b)とボス部(2a)のつなぎR部(1d)には、クッションパッド(4)に働くクッション力がダイス(5)に働くクッション力よりも大きい(0.02%〜24%程度)ため、圧縮力がかかる。このため、前記のつなぎR部(1d)は引張り力による破断が生じることなく、パンチ先端(3a)がフランジ部(2b)を通過できる。
【0015】
(f).パンチ先端(3a)がフランジ部(2b)を通過した後には、背圧付加の後方押出しの定常域となるため、つなぎR部(1d)に引張り応力が生じることはない。なお、ダイス(5)は成形品と常に接触しているため、クッションパッド(4)によるクッション力でカップ縦壁(1c)が座屈等を起こすことなく成形が進み、プレス下死点にて成形終了となる。なお、この成形方法では、プレス下死点にてカップ底部の厚み(1f)を決めているため、カップ底部の厚み(1f)のバラツキが小さい。このため、流動される材料のバラツキも少なくなる。また、使用するクッション力の変動がない。またはその変動が一定であれば、クッション力による全長のバラツキが少なくなる。すなわち、本発明の成形方法では、カップ底部の厚み(1f)のバラツキが小さいことから、成形品全長のバラツキも小さくなる。
【0016】
すなわち、本発明においては、成形が開始される前よりフランジのボス側、ボスなし側の両方に個別の付勢力を与えて該素材のフランジ材の上下面を金型にて挟持することで、フランジ部と有底カップ中空ボス部のつなぎ部に引張り応力がかかりにくくし、そのつなぎ箇所にクラック等の欠陥を発生させることなく、フランジ部とカップの肉厚差が大きい成形品を得ることができる。
【0017】
フランジのボスなし側(上方向)からの前記付勢力が、フランジの下面を挟持する金型に与えられるボス側(下方向)からの前記付勢力より大であることにより、クッションパッド(4)に働くクッション力がダイス(5)に働くクッション力よりも大きいため、圧縮力がかかるので、前記のつなぎR部(1d)は引張り力による破断が生じることなく、パンチ先端(3a)がフランジ部(2b)を通過できる。
【0018】
また、前記(1)項記載の成形方法の前工程として、得ようとする製品に適した形状をつくる予備成形を加えることで、板材または棒材より合計2工程の成形にてフランジ部とカップの肉厚差が大きい成形品を得ることができる。
【0019】
さらに、成形時に前記パンチの下降する先端位置は、ボス付け根位置、もしくはボス付け根位置を越えるいずれの場合においても前記ボス部を成形可能であるが、この点について説明すると、この成形方法は、フランジのボス側、ボスなし側の両側に付勢力を与え、パンチにより成形していくことが特徴である。パンチの先端位置(成形終了位置)はボス付け根位置を境とし、ボス付け根R部にかかる引張り応力の状態が変化する。本発明の成形方法では、パンチの先端位置がどの箇所においても成形が可能である。
【0020】
上記の成形方法を行うために必要なクッション力を得る方法としては、クッションパッド(4)には常圧の力がかかれば良いことから、油圧、空圧を用いた方法や、ガス、ばね等によりクッション力を得る方法があり、ダイス(5)には成形中に被加工材から離れることがないように被加工材の挙動に追従させる必要があるため、油圧、空圧等を用いたアキュームレータや、ばね、ガスクッション等を用いる方法を用いることができる。なお、本成形方法を“上クッション力<下クッション力”の条件にて成形した場合、パンチがフランジ部(2b)を通過する際、つなぎR部(1d)に下クッション力による引張り力が発生し、つなぎR部(1d)においてクラックが発生した。これを“上クッション力=下クッション力”の条件とするとクラック等の欠陥なく成形が可能となった。また、“上クッション力>下クッション力”の条件においても同様に欠陥なく成形は可能であった。このため、本発明の成形方法では、“上クッション力≧下クッション力”の条件とする必要がある。ただし、安定して成形を実施するためには、様々な成形上のバラツキ(クッション力等)を考慮し、“上クッション力>下クッション力”の条件にて成形することが望ましい。その際、ボスなし側の付勢力をパンチの下降に伴なって増加させることが不可欠ではないが好ましい。
【0021】
また、本成形方法に用いる素材例として、板材、又は棒材をプレス、又はフォーマー(横型プレス)等にて予備成形し、図2のような形状にしたものを用いている。ここで、この図2は、前記した特開2006−224112号公報方向に記されているような“肉寄せし、後工程成形にてパンチがフランジ部を通過する際、破断させなくするため”ではなく、成形品のフランジ部(1a)とカップ(1b)のボリューム分配を行なうための形状であり、後工程の成形による破断防止とは異なる。また、フランジ上面の中央部にある凹部(2f)は、本発明の成形でパンチにより流動させる材料を少なくすることや、パンチの案内のために設けてあるが、フランジの厚みが薄いなど、流動させる材料が少ない場合には、不要とすることもできる。なお、上述した理由から、得ようとする成形品寸法により図2に示す素材のフランジ、ボス部、フランジ端面中央にある穴等の各寸法は変化させる必要があるが、適切な予備成形をおこなうことで、図1に示す製品例を、“予備成形”、“本成形方法”の2工程の成形にて得ることができる。
最後に、この成形の実施方法については、単独工程にて実施しても良いし、多工程成形の中に組み入れて生産しても良い。なお、クッション装置は金型、もしくはダイセット、プレス機内に配置することが可能であり、必要に応じて配置方法を決定すれば良い。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の成形方法を用いて成形した製品例である。
【図2】上記製品例を成形する際に用いられる素材例である。
【図3】本発明の成形方法における成形開始時を説明する例である。
【図4】本発明の成形方法における成形途中時を説明する例である。
【図5】本発明の成形方法における成形終了時を説明する例である。
【符号の説明】
【0023】
1 カップにフランジを有する成形製品
1a フランジ
1b カップ
1c カップ縦壁
1d つなぎR部
1f カップ底部の厚み
1g 穴
2 素材
2a ボス部
2b フランジ部
2c フランジ部の上面
2e 素材の底穴
2d ボス部の先端
2f 凹部
3 パンチ
3a パンチ先端
3b パンチホルダ
4 クッションパッド
5 ダイス
6 下カウンタパンチ
7 ダイスホルダ
8a バネ
8b バネ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボスとフランジを有する素材をカップにフランジを有した製品に成形する方法において、パンチが素材と接触し成形が開始される前よりフランジのボス側、ボスなし側の両方に個別の付勢力を与えて該素材のフランジ材の上下面を金型にて挟持し、パンチにより成形していくことを特徴とするフランジ付きカップ製品の成形方法。
【請求項2】
フランジの上面を挟持する金型に与えられるフランジのボスなし側からの前記付勢力が、フランジのボスなし側からの前記付勢力>フランジの下面を挟持する金型に与えられるボス側からの前記付勢力であることを特徴とする請求項1に記載の成形方法。
【請求項3】
成形時に前記パンチの下降する先端位置が前記ボスのフランジ側の付け根位置に到達しない状態において前記素材を予備成形可能であることを特徴とする請求項1又は2に記載の成形方法。
【請求項4】
成形時に前記パンチの下降する先端位置は、ボス付け根位置、もしくはボス付け根位置を越えるいずれの場合においても前記ボス部を成形可能であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の成形方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−131625(P2010−131625A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−309291(P2008−309291)
【出願日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(000100861)アイダエンジニアリング株式会社 (153)
【Fターム(参考)】