説明

フリーピストン型のスターリングサイクル機械

【課題】フリーピストン型スターリングサイクル機械において、パワーピストンとディスプレーサピストンとの位相差の調整を容易として、高性能な作動を維持するとともに、往復動に伴う振動の発生を防止する。
【解決手段】パワーピストン1を第1ばね5により往復動させるとともに、反転機構8を介して質量体7を連結し、質量体7に、パワーピストン1と位相差が180°となる往復運動を質量体に行わせる。そして、質量体7とディスプレーサピストン3とを第2ばね9によって連結し、ディスプレーサピストン3が質量体7に対して90°の位相遅れで往復動するように調整する。パワーピストン1とディスプレーサピストン3との位相差は、最適値である90°となり、エンジンは高性能な状態で作動する。また、パワーピストン1と質量体7の慣性力がバランスし、往復動に伴う振動が減少する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体状態で封入された作動流体の加熱、冷却による状態変化を利用して、熱エネルギを機械的な動力に変換する熱機関あるいは機械的な動力により冷凍を行う冷凍機として作動させる、いわゆるスターリングサイクル機械に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スターリングエンジンは、作動空間内に封入された作動流体を周期的に加熱及び冷却することにより状態変化を生じさせ、これを利用して熱エネルギから機械的な動力を取り出すようにした、理論的な熱効率が高い外燃機関である。ガソリンエンジンやディーゼルエンジンのような内燃機関では、作動流体である空気の中で燃料を間欠的に燃焼させる。外燃機関であるスターリングエンジンでは、内燃機関とは異なり、連続燃焼によって生じた熱を作動流体に熱伝達させこれを加熱するから、燃料の燃焼状態の制御が容易で、NOx、CO等、燃焼による排気有害成分の生成量が少ないという利点がある。また、燃焼による熱に限らず、内燃機関の排熱など各種の熱源を用いることが可能であり、省エネルギ、環境対策の面でも優れた特性を有するエンジンである。
【0003】
スターリングエンジンは、高熱源の熱から動力を発生させて低熱源に排熱を放熱するエンジンサイクルを実行するものであるが、逆に、動力によってスターリングエンジンを駆動してヒートポンプサイクルを実行させ、低熱源から熱を汲み上げ低熱源を冷却する冷凍機として作動させることが可能である。作動空間内に封入された作動流体を加熱及び冷却することにより状態変化を生じさせ、エンジンあるいは冷凍機として作動させる機械を、以下「スターリングサイクル機械」という。
【0004】
スターリングサイクル機械では、一般的には、水素、ヘリウム等の作動流体を、作動空間における膨張空間と圧縮空間との間を周期的に移動させるディスプレーサピストンが配置され、さらに、作動流体の圧力が作用するパワーピストンが配置されている。ディスプレーサピストンは、ロンビック機構と呼ばれるリンク機構などによってパワーピストンと連結されており、位相差を伴いながらパワーピストンと同期して往復運動を行い、作動流体の加熱及び冷却のため作動流体を移動させる。パワーピストンは、動力の出入に関連するピストンであって、エンジンサイクルを行う場合には、パワーピストンから外部へ動力を取り出すこととなる。
【0005】
ところで、スターリングサイクル機械には様々な形式があり、パワーピストンやディスプレーサピストンのストロークが機械的に拘束されていない、フリーピストン型のスターリングサイクル機械も知られている。フリーピストン型スターリングサイクル機械では、パワーピストン及びディスプレーサピストンをばねにより振動させ往復動させるよう構成されているので、両者を連結する連結機構や機械的な動力取り出し機構は不要となって、構造が簡素化しコンパクトとなる利点がある。ばねを利用したフリーピストン型のスターリングサイクル機械は、一例として特開2000−88383号公報に開示されており、また、本出願人も特開2004−92406号公報に示されるスターリングエンジンを開発している。
【0006】
上記特開2000−88383号公報に記載されたフリーピストン型のスターリングサイクル機械について図5により説明する。
ケーシング101内に収容されたシリンダ102には、パワーピストン103とディスプレーサピストン104とがそれぞれ往復動可能に設置されている。ディスプレーサピストン104を挟んで左右に存在する膨張空間105及び圧縮空間106は、再生器Rが置かれた連通管により互いに連通されて作動空間107を形成し、ここに作動流体が封入される。このスターリングサイクル機械は、冷凍機として作動するものであり、図示しない動力源によりパワーピストン103を所定の振動数で往復運動させる。これにより、作動空間107の作動流体の状態変化が生じ、膨張空間105に置かれた伝熱板108を介して低熱源から熱を汲み上げ、これを冷却することができる。
【0007】
パワーピストン103及びディスプレーサピストン104は、機械的にストロークが拘束されないフリーピストンであり、それぞればね109、110を介してケーシング101と結合され、それぞれのばね定数及び質量等で決定される固有振動数でシリンダ102内を往復(単振動)する。パワーピストン103及びディスプレーサピストン104の振動系は、両者の振動数が等しく、また、高性能状態で作動させるため、略90°の位相差を保持して振動するように設定されている。そして、パワーピストン103等の振動に伴う装置全体の振動を極力抑制するよう、制振用質量111及び制振用ばね112からなるいわゆるダイナミックダンパ113が、ケーシング101に付設されている。
【特許文献1】特開2000−88383号公報
【特許文献2】特開2004−92406号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
スターリングサイクル機械では、パワーピストンとディスプレーサピストンとの位相差に応じて仕事量等が変化し、一般的に略90°の位相差であるときに最適な作動状態となる(ただし、エンジンとして作動させるときはディスプレーサピストンの位相を90°進ませ、冷凍機として作動させるときは90°遅らせる)。フリーピストン型のスターリングサイクル機械では、パワーピストンとディスプレーサピストンとを連結するリンク機構等が存在しないから、90°の位相差を保持するには、パワーピストン及びディスプレーサピストンとそれぞれに連結されたばねとによって形成される2つの振動系の位相差を90°とするよう、2つの振動系のばねや質量を調整しなければならない。
【0009】
また、フリーピストン型のスターリングサイクル機械では、パワーピストンとディスプレーサピストンとの2個の質量体が振動しながらシリンダ内を往復動するので、装置全体の振動が大きくなる傾向にある。この振動を抑制するため、例えば、上記特許文献1のフリーピストン型のスターリングサイクル機械においては、制振用質量及び制振用ばねを備えたダイナミックダンパが設置されているが、これによって装置全体が大型化し重量が増大することは避けられない。また、ダイナミックダンパは、基本的には特定の一つ固有振動数を有する振動を防止するものであって、2個の質量体による複雑な振動を抑制するには困難な面がある。
本発明は、フリーピストン型のスターリングサイクル機械において、ばねを利用したパワーピストンとディスプレーサピストンとの連動機構を設け、両者の位相差の調整を容易とするとともに、往復動に伴う振動の発生を防止するようにして、上述の問題点を解決することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題に鑑み、本発明は、第1ばねにより往復動するパワーピストン又はディスプレーサピストン(一方のピストン)に、反転機構を介して質量体を連結し、質量体を一方のピストンと反対に移動する、つまり位相差が180°となる往復運動を質量体に行わせるとともに、この質量体と他方のピストンとを第2ばねを介して連結するものである。すなわち、本発明は、
「気体状態の作動流体が封入されディスプレーサピストンが往復動する作動空間と、前記作動空間と連通しパワーピストンが往復動するシリンダとを備え、
前記パワーピストン及び前記ディスプレーサピストンの両ピストンのうち、一方のピストンが第1ばねを介して前記シリンダの形成されたケーシングに連結されており、
前記両ピストンのそれぞれは、ストロークが機械的に拘束されることなく、位相差を保持しながら同期して同一の軸線上を往復動するスターリングサイクル機械であって、
前記軸線上で往復動を行う質量体を設けるとともに、前記質量体と前記一方のピストンとを反転機構を介して連結し、かつ、前記質量体と他方のピストンとを第2ばねを介して連結した」
ことを特徴とするフリーピストン型のスターリングサイクル機械となっている。
【0011】
また、請求項2に記載のように、前記質量体が前記一方のピストンと略同一の質量に設定されていることが好ましい。
【0012】
請求項3に記載のように、前記反転機構は、前記質量体に一端が連結され対称的に配置された2本の第1リンクと、前記一方のピストンに一端が連結され対称的に配置された2本の第2リンクとを備え、前記第1リンクと前記第2リンクの他端がそれぞれ対称的な連結点において連結されているとともに、前記連結点のそれぞれが、揺動リンクを介して前記ケーシングに連結されているものであることが好ましい。
【0013】
請求項4に記載のように、前記作動空間の作動流体に高温の熱を与える加熱器と、前記作動空間の作動流体を常温の低熱源により冷却する冷却器とを設置し、かつ、前記一方のピストンが前記パワーピストンであり、前記他方のピストンが前記ディスプレーサピストンであるように構成して、本発明のフリーピストン型のスターリングサイクル機械を、熱エネルギを動力に変換するエンジンとして作動させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のフリーピストン型のスターリングサイクル機械ではパワーピストン又はディスプレーサピストンのうち、一方のピストンを第1ばねによりシリンダの形成されたケーシングに連結する。理解を容易とするよう、ここでは、パワーピストンをケーシングと連結し、フリーピストン型のスターリングサイクル機械をエンジンとして作動させる場合について説明する。
本発明においては、パワーピストンに反転機構を介して質量体を連結し、この質量体とディスプレーサピストンとを第2ばねを介して連結している。パワーピストンと質量体とは、第1ばねによって、ストロークが機械的に拘束されない単振動を行うが、質量体は、反転機構を介してパワーピストンに連結されているから、パワーピストンと反対に移動して位相差が180°の往復運動を行うこととなる。第2ばねを介して質量体と連結されたディスプレーサピストンは、第2ばねの伸縮による位相の遅れを伴いながら、質量体と同期した単振動を行うようになる。
【0015】
パワーピストン及びディスプレーサピストンの運動は、ともにストロークが機械的に拘束されない同期した往復運動となり、その位相差は、質量体の180°の位相差から第2ばねの伸縮による位相の遅れを減算したものである。第2ばねによる位相の遅れは、ディスプレーサピストンの質量と第2ばねのばね定数等を調整することにより変更可能であって、この遅れを90°に設定すると、パワーピストンとディスプレーサピストンとは、90°の位相差を保持しながら(この場合は、ディスプレーサピストンが90°先行して)往復運動するようになる。このように、パワーピストンとディスプレーサピストンとの位相差は、ディスプレーサピストンと第2ばねで構成される振動系のみにより決定され、パワーピストン等と第1ばねとで構成される振動系とは関係しない。したがって、本発明のフリーピストン型のスターリングサイクル機械では、最適値である90°の位相差の設定が、例えば、特許文献1のスターリングサイクル機械のように、2振動系のパラメータを調整するものと比べてはるかに容易であり、また、作動中に位相差が変動して、エンジン性能の低下する虞れが大幅に減少する。
【0016】
そして、反転機構を介してパワーピストンに連結された質量体は、パワーピストンと反対に移動して位相差が180°の往復運動を行うから、パワーピストンの往復運動に伴う慣性力が、質量体の往復運動の慣性力によって相殺されることとなる。そのため、本発明のスターリングサイクル機械では、パワーピストンの往復運動によって発生する装置全体の振動を極めて小さいものとすることができる。特に、請求項2の発明のように、質量体の質量をパワーピストンと略同一に設定すると、パワーピストンの往復運動については完全にバランスさせることができる。
ディスプレーサピストンの慣性力は残存するが、この慣性力は、ディスプレーサピストンの軽量化を図ることにより、実質上振動に影響を及ぼさない程度に抑制することが可能である。また、装置のケーシングにダイナミックダンパを付設して制振を行う際には、ダイナミックダンパは小型のもので済むとともに、ディスプレーサピストンの往復運動は、特定の固有振動数の単振動であるので、ダイナミックダンパの設計は容易なものとなる。
【0017】
請求項3の発明は、パワーピストンと質量体とを連結する反転機構を、対称的に配置された2本の第1リンクと2本の第2リンクとを備えたリンク機構として構成し、第1リンクと第2リンクとの一端をそれぞれパワーピストンと質量体とに連結し、かつ、第1リンクと第2リンクとの連結点を揺動リンクによりケーシングに連結するものである。このリンク機構によってパワーピストンと質量体とは互いに反対に移動し、パワーピストンは、そのストロークは拘束されていないものの、第1リンクと揺動リンクとを介してケーシングに連結される。そのため、パワーピストンの過大な変位は防止されることとなり、出力の増大によってパワーピストンが異常な変位を起こし、周辺の部品に損傷を与えるような事態を回避することができる。
【0018】
上記の効果は、パワーピストンと質量体とを反転機構で連結し、本発明のフリーピストン型のスターリングサイクル機械をエンジンとして作動させる場合について説明したものである。ここで、ディスプレーサピストンを反転機構を介して質量体と連結し、パワーピストンをばねで質量体と連結しても、同等な効果を奏することになるのは明らかであり、このときには、スターリングサイクル機械は冷凍機として作動することとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面に基づき、本発明のフリーピストン型スターリングサイクル機械の実施例について説明する。この実施例は、フリーピストン型のスターリングサイクル機械をエンジンとして作動させるものであり、図1に、本発明のフリーピストン型スターリングエンジンの全体図を示す。また、図2は、本発明のエンジンにおけるパワーピストン、ディスプレーサピストン等の変位及び位相関係を示すグラフである。
【0020】
本発明のフリーピストン型スターリングエンジンには、パワーピストン1が往復動するシリンダ2が設置され、シリンダ2は、ディスプレーサピストン3が往復動可能に挿入された作動空間4に連通している。作動空間4には、例えば、水素、ヘリウム等の気体状態の作動流体が封入され、また、ディスプレーサピストン3を挟んで、作動空間4は、加熱器Hが設置された膨張空間41と冷却器Cが設置された圧縮空間42とに分割される。ただし、加熱器Hと冷却器Cとの間には再生器Rが置かれるとともに、膨張空間41と圧縮空間42とはこれらの熱交換器を介して連通している。ディスプレーサピストン3の往復動で作動流体が両空間を移動して加熱及び冷却されることにより、作動流体の状態変化が生じてパワーピストン1が駆動され、熱エネルギが機械的動力に変換される。こうした点は、一般的なスターリングエンジンと変わりはない。
【0021】
本発明のパワーピストン1は、第1ばね5でケーシング6に連結されており、ストローク(行程)が機械的に拘束されていないフリーピストンである。したがって、パワーピストン1にはクランク機構のような機械的な出力取り出し機構が連結されておらず、この実施例では、パワーピストン1から動力を取り出すため、パワーピストン1に固定した図示しない永久磁石と外部のコイルとからなるリニア型の発電機Gを利用している。パワーピストン1は、第1ばね5によりシリンダ2内を単振動して往復動を行い、出力が増大するにつれそのストローク(振幅)が大きくなる。
【0022】
ディスプレーサピストン3は、作動空間4の再生器R等熱交換器内部の円筒空間を往復動するピストンであって、パワーピストン1の中心部を貫通して延びるディスプレーサロッド31を備えている。つまり、ディスプレーサピストン3は、パワーピストン1と同一の軸線上を往復動する、やはり、ストロークが機械的に拘束されていないフリーピストンとなっている。この実施例では、ディスプレーサピストン3の直径がパワーピストン1よりも大きく設定されているが、両者を同一径として同一シリンダ内で往復動するようにしてもよい。
【0023】
本発明においては、質量体7をディスプレーサロッド31に嵌め込み、質量体7とパワーピストン1とを反転リンク機構8を介して連結するとともに、質量体7とディスプレーサロッド31の端部とを第2ばね9を介して連結する。質量体7は、パワーピストン1と略同一の質量を備えている。
反転リンク機構8によりパワーピストン1と連結された質量体7は、パワーピストン1と同一の軸線上をパワーピストン1と反対に移動して位相差が180°の往復運動を行うので、パワーピストン1の往復運動に伴う慣性力は、質量体7の往復運動の慣性力によって相殺される。その結果、パワーピストン1の往復運動によって発生する加振力が打ち消され、装置全体の振動を極めて小さいものとすることができる。なお、ディスプレーサピストン3の往復動に伴う慣性力は残存するが、この加振力は、ディスプレーサピストン3の軽量化によって実質上振動に影響を及ぼさない程度に抑えることが可能であり、また、小型のダイナミックダンパを付設して装置の防振を図ることもできる。
【0024】
ディスプレーサピストン3は、第2ばね9を介して質量体7に連結されており、第2ばね9の介在による位相遅れを伴いながら、質量体7と同期して往復動(単振動)を行うこととなる。すなわち、図2の質量体7とパワーピストン1との変位に示すとおり、質量体7とパワーピストン1との位相差が180°であるということは、質量体8がパワーピストン1よりも180°先行して往復動していることと同等である。第2ばね9の介在による位相遅れを90°と設定すれば、ディスプレーサピストン3とパワーピストン1との位相差を90°として、スターリングエンジンを最適な状態で作動させることができる。
ちなみに、第2ばね9による位相遅れは、ディスプレーサピストン3の質量と第2ばね32のばね定数とによって定まる振動系のパラメータを調整することにより、90°に設定可能である。この位相遅れには、パワーピストン1及び質量体8と第1ばね11とで構成される振動系とは基本的に関係がないから、位相遅れの設定作業が容易であり、エンジンの作動中に位相差が最適値から外れる可能性も少なくなる。
【0025】
この実施例では、パワーピストン1と質量体7とを連結する反転機構が、対称的に配置された2本の第1リンク81と2本の第2リンク82とを備えた反転リンク機構8として構成されている。第1リンク81と第2リンク82との一端は、それぞれパワーピストン1と質量体7とに連結され、かつ、第1リンク81と第2リンク82との連結点が揺動リンク83によりケーシング6に連結される。この反転リンク機構8によってパワーピストン1と質量体7とは互いに反対に移動するが、パワーピストン1の過大な変位は、第1リンク82及び揺動リンク83により阻止されるため、パワーピストン1が周辺の部品に損傷を与えるような事態を回避することができる。図4(a)の変形例に示すように、リンク機構を用いて反転機構を構成する換わりに、パワーピストンと質量体とにラックを形成したロッドを固着するとともに、ラックに噛合いながら回転するピニオンをケーシングに固定し、パワーピストンと質量体とを反対方向に対称的に移動させることもできる。
【0026】
この実施例のフリーピストン型スターリングエンジンの作動について、図3の作動図により説明する。図3(a)は、パワーピストン1がストロークの最大となる上死点にあり、質量体7が下死点にある状態を表すもので、図3(b)〜(d)は、それぞれ90°ずつ進んだ状態を表す図である。
【0027】
図3(a)の状態では、パワーピストン1が上死点にあって作動空間の容積が最小となり、質量体7は反転リンク機構により下死点に位置している。このとき、ディスプレーサピストン3は下降行程の中間にあり、圧縮空間42の作動流体が、再生器等の熱交換器を通過して膨張空間41に送られる。膨張空間41に送り込まれた作動流体は、加熱器Hで加熱されてその圧力を上昇しながら膨張し、パワーピストン1を押し下げる。これにより、スターリングエンジンの作動状態は、図3(b)の状態に移行する。
【0028】
図3(b)の状態では、パワーピストン1が下降行程の中間にあり、質量体7もその行程の中間位置にある。ディスプレーサピストン3は行程の下死点に位置しており、作動流体は、膨張を継続してパワーピストン1をさらに押し下げる。スターリングエンジンの作動状態は、図3(c)の状態に移行する。
【0029】
図3(c)の状態では、パワーピストン1が下死点にあって作動空間の容積が最大となり、質量体7は上死点に位置する。このとき、ディスプレーサピストン3は上昇行程の中間にあり、膨張空間41の作動流体が圧縮空間42に送られる。圧縮空間42に送り込まれた作動流体は、冷却器Cで冷却されてその圧力が減少する。その後、ディスプレーサピストン3が上死点に達するとともに、パワーピストン1が上昇して図3(d)の状態に移り、作動流体の等温的な圧縮が行われる。図3(d)の状態からさらにパワーピストン1が上昇すると、図3(a)の状態に戻り、以降、このサイクルが繰り返されて、加熱器Hからの熱エネルギが、パワーピストン1の往復動による機械的なエネルギに変換され、動力として取り出される。
【0030】
以上詳述したように、本発明は、ストロークが機械的に拘束されていないパワーピストン及びディスプレーサピストンを備えたフリーピストン型のスターリングサイクル機械において、一方のピストンに反転機構を介して質量体を連結することにより、質量体に、一方のピストンと位相差が180°となる往復運動を行わせるとともに、この質量体と他方のピストンとを第2ばねを介して連結するものである。上記の実施例では、パワーピストンと質量体とを反転機構を介して連結し、スターリングサイクル機械をエンジンとして作動させているが、図4(b)の変形例に示すとおり、ディスプレーサピストンに反転機構を介して質量体を連結することにより、本発明の機構を、冷凍機として作動するスターリングサイクル機械に適用できることは明らかである。また、上記の実施例では、作動空間の中に加熱器や冷却器を設けているが、膨張空間の外部に加熱器を、圧縮空間の外部に冷却器を設置して作動流体との熱交換を行うなど、実施例に対し種々の変更が可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明のフリーピストン型スターリングエンジンの全体図である。
【図2】本発明のスターリングエンジンにおける各ピストンの変位を示す図である。
【図3】本発明のスターリングエンジンの作動を示す図である。
【図4】本発明のスターリングエンジンの変形例を示す図である。
【図5】従来のフリーピストン型スターリングエンジンの一例を示す図である。
【符号の説明】
【0032】
1 パワーピストン
2 シリンダ
3 ディスプレーサピストン
4 作動空間
41 膨張空間
42 圧縮空間
5 第1ばね
6 ケーシング
7 質量体
8 反転リンク機構
81 第1リンク
82 第2リンク
83 揺動リンク
9 第2ばね

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体状態の作動流体が封入されディスプレーサピストンが往復動する作動空間と、前記作動空間と連通しパワーピストンが往復動するシリンダとを備え、
前記パワーピストン及び前記ディスプレーサピストンの両ピストンのうち、一方のピストンが第1ばねを介して前記シリンダの形成されたケーシングに連結されており、
前記両ピストンのそれぞれは、ストロークが機械的に拘束されることなく、位相差を保持しながら同期して同一の軸線上を往復動するスターリングサイクル機械であって、
前記軸線上で往復動を行う質量体を設けるとともに、前記質量体と前記一方のピストンとを反転機構を介して連結し、かつ、前記質量体と他方のピストンとを第2ばねを介して連結したことを特徴とするフリーピストン型のスターリングサイクル機械。
【請求項2】
前記質量体が前記一方のピストンと略同一の質量に設定されている請求項1に記載のフリーピストン型のスターリングサイクル機械。
【請求項3】
前記反転機構は、前記質量体に一端が連結され対称的に配置された2本の第1リンクと、前記一方のピストンに一端が連結され対称的に配置された2本の第2リンクとを備え、前記第1リンクと前記第2リンクの他端がそれぞれ対称的な連結点において連結されているとともに、前記連結点のそれぞれが、揺動リンクを介して前記ケーシングに連結されている請求項1又は請求項2に記載のフリーピストン型のスターリングサイクル機械。
【請求項4】
前記作動空間の作動流体に高温の熱を与える加熱器と、前記作動空間の作動流体を常温の低熱源により冷却する冷却器とが設置され、かつ、前記一方のピストンが前記パワーピストンであり、前記他方のピストンが前記ディスプレーサピストンであるように構成されており、熱エネルギを動力に変換するエンジンとして作動する請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のフリーピストン型のスターリングサイクル機械。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−281614(P2009−281614A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−132155(P2008−132155)
【出願日】平成20年5月20日(2008.5.20)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)