説明

フレキシブルパイプの製造方法およびグースネック型マイクロホン装置

【課題】砥粒入りのカッターを用いてフレキシブルパイプを切断しても巻き戻りを発生させることのないフレキシブルパイプの製造方法およびグースネック型マイクロホン装置の提供。
【解決手段】コイルバネ状の丸線材12を引張して生成した該丸線材12,12相互間の隙間に三角線材14を挟み込んでその長さ方向へと巻き付けてフレキシブルパイプ素材11を形成する組合せ工程と、該フレキシブルパイプ素材11における切断位置16を中心とする近傍部位の丸線材12と三角線材14とを溶接部位17として超音波溶接する溶接工程と、該溶接部位17を砥粒入りのカッターにより切断する切断工程とを経て所定長のフレキシブルパイプ21を製造する。グースネック型マイクロホン装置は、フレキシブルパイプ21を支柱に用いて形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブルパイプの製造方法およびこの製法により得られたフレキシブルパイプを支柱に用いてなるグースネック型マイクロホン装置に関する技術である。
【背景技術】
【0002】
フレキシブルパイプは、予め長寸に形成したフレキシブルパイプ素材を、設計に基づいた所定の長さに切断するなどして製造され、グースネック型マイクロホン装置などに組み込んで使用されている。
【0003】
また、フレキシブルパイプをマイクロホンユニットを支えるための支柱として用いたグースネック型マイクロホン装置は、所望する方向へと屈曲させてマイクロホンユニットの側を音源(口元)との関係で定まる好適位置へと移動調整することができることから、会議場などで広く用いられている。
【0004】
図3は、下記特許文献1に開示されているグースネック型マイクロホン装置の全体斜視図であり、この場合、グースネック型マイクロホン装置1は、支柱としてのフレキシブルパイプ5の基端側を支持台2に固定し、先端側にマイクロホンユニット3を取り付けることで、その全体が形成されている。
【特許文献1】特開平9−229292号公報
【0005】
図4は、グースネック型マイクロホン装置に従来から用いられているフレキシブルパイプの一般的な断面構造を部分的に拡大して示す説明図であり、そのうちの(a)は、切断加工前の断面状態を、(b)は、切断時の断面状態を、(c)は、切断して所定時間を経過した後の断面状態をそれぞれ示す。
【0006】
この場合、フレキシブルパイプ5は、円筒状に密に巻くことでコイルバネ状に形成した鋼材などの硬質な金属からなる丸線材6と、一つの頂点を内側に向けた断面三角形状を呈する塑性変形可能な金属、例えば銅合金からなる三角線材7とを組み合わせて形成されているフレキシブルパイプ素材4を、所定の長さに切断して製造されている。
【0007】
すなわち、フレキシブルパイプ素材4は、図4(a)に示されているように、コイルバネ状の丸線材6を引張して相互間に形成される隙間に三角線材7の一つの頂点側を挟み込ませるようにして巻き付けることで形成されている。
【0008】
このため、フレキシブルパイプ素材4を切断して図4(b)に示すようにして形成される各フレキシブルパイプ5は、変形復元力を担う丸線材6と三角線材7との接触部位8に丸線材6の復元力に抗する強い摩擦力が生成される結果、任意の位置へ屈曲させた際の変形状態を自ら保持することができるようになっている。
【0009】
しかし、フレキシブルパイプ素材4を所定の長さに切断して製造されるフレキシブルパイプ5は、その切断面において応力が解放される結果、切断面に表出する丸線材6や三角線材7が巻き戻りを起こしてしまう。
【0010】
この巻き戻りは、三角線材7側が丸線材6から離れる傾向を持っているために相互の接触部位8が弛むことで発生し、時間の経過とともに、図4(c)に示すように切断面から遠ざかる部位へと波及し、最終的にフレキシブルパイプ5の全長にわたり及んでしまうことになる。
【0011】
このため、フレキシブルパイプ5は、切断と同時に巻き戻りに起因して、その切断面近傍から拡径し始めることになり、他の部材との組立工程までの待機時間が長くなればなるほど、設計された径寸法を大きく上まわるようになってしまい、連結対象である他の部材との連結が困難になってしまうという不都合が生じる。
【0012】
また、巻き戻りがその全長に及んでいるフレキシブルパイプ5は、三角線材7の挟み込みの程度が弱まっていることから、該三角線材7と丸線材6との接触部位8に生成される摩擦力が大きく低下してしまうことで、丸線材6の復元力が摩擦力に勝ってしまうようになる。この傾向は、フレキシブルパイプ5を繰り返し屈曲した場合、より促進されることになる。
【0013】
その結果、フレキシブルパイプ5は、グースネック型マイクロホン装置1の支柱として組み込まれてその屈曲が繰り返されることで、いわゆるバネ化現象を生じさせるに至る。このため、グースネック型マイクロホン装置1は、マイクロホンユニット3を所望の位置へと移動させても、その移動後の位置を維持し続けることができず、元の位置に戻ってしまうという不都合があった。
【0014】
このようなフレキシブルパイプ製造上の問題点に鑑み、本願出願人は、下記特許文献2において「フレキシブルパイプの製造方法」を提案している。
【特許文献2】特開2008−67123号公報
【0015】
上記製造方法は、コイルバネ状の丸線材を引張して生成した該丸線材相互間の隙間に三角線材を挟み込んでその長さ方向へと巻き付けてフレキシブルパイプ素材を形成する組合せ工程と、前記フレキシブルパイプ素材を水溶性塗料の溶液中に浸漬させて電着塗装し、前記丸線材と前記三角線材とを、それら相互間に形成した塗膜を介して相互の接触部位が位置固定するように一体化させる電着塗装工程と、前記フレキシブルパイプ素材を所定の長さのフレキシブルパイプへと切断する切断工程とを経ることで行われる。
【0016】
このため、上記製造方法によれば、フレキシブルパイプは、丸線材と三角線材とを、これら相互間に介在させた塗膜を介して、相互の接触部位を位置固定させた状態のもとに一体化させる電着塗装工程を経た後、切断工程を経て所定の長さに製造されているので、丸線材と三角線材との接触部位が塗膜に被覆されることで、位置固定した状態を維持でき、切断面近傍の拡径と、全長部分の巻き戻りとを長期にわたり安定的に抑えることができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
ところで、特許文献2の製造方法による場合のフレキシブルパイプ素材は、丸線材が鋼材であることから、砥粒入りのカッターを用いて切断してフレキシブルパイプを得なければならなかった。
【0018】
このため、カッターによりフレキシブルパイプ素材を切断する際には、その摩擦熱で切断部位が高温になり、塗膜が軟化して切断後のフレキシブルパイプに従来と同様な巻き戻りを発生させてしまうおそれがあった。
【0019】
本発明は、従来技術の上記課題に鑑み、砥粒入りのカッターを用いてフレキシブルパイプを切断しても巻き戻りを発生させることのないレキシブルパイプの製造方法およびグースネック型マイクロホン装置を提供することに目的がある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、上記目的を達成すべくなされたものであり、そのうちの第1の発明(製造方法)は、コイルバネ状の鋼材からなる丸線材を引張して生成した該丸線材相互間の隙間に鉄または銅合金からなる三角線材を挟み込んでその長さ方向へと巻き付けてフレキシブルパイプ素材を形成する組み合わせ工程と、前記フレキシブルパイプ素材における切断位置を中心とする近傍部位の前記丸線材と前記三角線材とを溶接部位として超音波溶接する溶接工程と、前記フレキシブルパイプ素材における前記溶接部位を砥粒入りのカッターにより切断して所定長のフレキシブルパイプを得る切断工程とを少なくとも含むことを最も主要な特徴とする。
【0021】
また、第2の発明(マイクロホン装置)は、請求項1に記載の製造方法で製造された前記フレキシブルパイプをマイクロホンユニットを支持する支柱の少なくとも一部に組み込んだことを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明のうち、請求項1に係る発明によれば、フレキシブルパイプ素材における切断位置は、超音波溶接された溶接部位に含まれているので、砥粒入りのカッターにより巻き戻りを発生させることなく切断してフレキシブルパイプを製造することができる。したがって、切断後の各フレキシブルパイプは、いわゆるバネ化現象の発生を確実に防止できるほか、電気的接続も確実に保持させて安定的に使用することができる。
【0023】
しかも、フレキシブルパイプ素材は、切断時にその切断部位が加熱されたとしても、その余の大半部位は加熱されることがないので、構成部材である丸線材と三角線材との性質を変えることなく用いることができる。
【0024】
また、請求項2に係る発明によれば、切断端が超音波溶接されているフレキシブルパイプを支柱の一部に用いているので、電気的接続を確実にして組み込んでおくことができるほか、屈曲が繰り返されてもいわゆるバネ化現象を生じさせることなく、マイクロホンユニットを所望の位置へと安定的に移動させて使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
図1は、本発明のうち、第1の発明の製造工程を示す説明図であり、そのうちの(a)は、切断加工前の断面状態を、(b)は、切断時の断面状態を、(c)は、切断して所定時間を経過した後の断面状態をそれぞれ示す。
【0026】
すなわち、第1の発明は、コイルバネ状の鋼材からなる丸線材13を引張して生成した該丸線材12,12相互間の隙間に鉄または銅合金からなる三角線材14を挟み込んでその長さ方向へと巻き付けてフレキシブルパイプ素材11を形成する組合せ工程と、フレキシブルパイプ素材11における切断位置16を中心とする近傍部位の丸線材12と三角線材14とを溶接部位17として超音波溶接する溶接工程と、フレキシブルパイプ素材11の溶接部位17における切断位置16を砥粒入りのカッターにより切断して所定長のフレキシブルパイプ21を得る切断工程とを経て行われる。
【0027】
この場合、上記組合せ工程では、重量物支持用と軽量物支持用とのうち、いずれの用途に用いるかにより、鉄からなる三角線材14と銅合金からなる三角線材14とのうちのいずれかと、鋼材からなる丸線材13とを組み合わせてフレキシブルパイプ素材11が形成される。
【0028】
そして、鉄からなる三角線材14と鋼材からなる丸線材13との組合せと、銅合金からなる三角線材14と鋼材からなる丸線材13との組合せとのうち、いずれかの組合せからなるフレキシブルパイプ素材11は、図1(a)に示すように切断位置16を中心にその近傍部位へと至る溶接部位17がまず定められる。なお、フレキシブルパイプ素材11における切断位置16相互の間隔は、所望に応じて適宜設定される。
【0029】
また、フレキシブルパイプ素材11における溶接部位17をアンビルと音極との間に支持させた上で、静圧を加えながら超音波を与え、その際の超音波振動を利用して被接合界面を摩擦する上記溶接工程を経ることで、隣り合う丸線材12と三角線材14とが固相接合されるに至る。
【0030】
しかも、上記溶接工程では、フレキシブルパイプ素材11が銅合金からなる三角線材14と鋼材からなる丸線材13との異種金属の組合せであっても、溶接手法が超音波溶接であることから、相互を確実に溶着することができる。
【0031】
さらに、上記切断工程では、フレキシブルパイプ素材11の溶接部位17に定めてある切断位置16を砥粒入りのカッターを用いて切断され、所定長の複数本のフレキシブルパイプ21が製造されることになる。
【0032】
しかも、切断直後の各フレキシブルパイプ21は、図1(b)に示すように隣り合う丸線材13と三角線材14とが溶着して一体化していることから、図4(c)に示すような巻き戻りが発生することはない。
【0033】
そして、各フレキシブルパイプ21は、切断して所定時間を経過しても図1(c)に示すように設計された径寸法を維持する結果、連結対象である他の部材との連結も円滑に行うことができることになる。
【0034】
また、各フレキシブルパイ21は、溶接部位17を除く位置にある丸線材13と三角線材14との接触部位18に生成される摩擦力も持続させることができるので、いわゆるバネ化現象を生じさせることなく繰り返し屈曲使用することができる。
【0035】
図2は、第1の発明により製造されたフレキシブルパイプ21を支柱の一部に組み込んで机等に取り付けることができるように形成された第2の発明に係るグースネック型マイクロホン装置の一例を示す説明図である。
【0036】
同図によれば、グースネック型マイクロホン装置31の全体は、マイクロホンユニット32をその上端部に支持してスタンドアームとして機能させる支柱33と、該支柱33の基端部側に配設されて机等に予め設けられている取付け用の相手材に対し例えば螺合配置するなどして位置固定させることができる取付け部38とで形成されている。
【0037】
この場合、支柱33は、適宜長さの金属パイプ材からなる支柱本体部34と、連結パイプ36を介して支柱本体部34の基端側と連結された図1に示す構造を備えるフレキシブルパイプ21からなる屈曲管体部35とで一体的に形成されている。
【0038】
次に、第2の発明に係るグースネック型マイクロホン装置31の使用につき、第1の発明に係るフレキシブルパイプ11の作用・効果とともに説明すれば、グースネック型マイクロホン装置31は、その取付け部38を介して机等に設けられている取付け用の相手材に対し位置固定することで、これを設置することができる。
【0039】
また、話者がグースネック型マイクロホン装置31を用いる際には、支柱33を構成している支柱本体部34の先端側に取り付けられているマイクロホンユニット32が口元(音源)へと臨むようにその位置が話者により調整される。
【0040】
この際におけるマイクロホンユニット32の位置調整は、支柱33を構成している屈曲管体部35を介することで行われる。すなわち、フレキシブルパイプ21からなる屈曲管体部35は、これを話者側に屈曲させることにより支柱本体部34に取り付けられているマイクロホンユニット32を、口元(音源)との関係で定まる好適位置へと微調整することができる。
【0041】
しかも、このような屈曲による位置調整は、話者を異にする毎に繰り返し行われることになる。この場合、屈曲管体部35は、図1に示す構造を備えたフレキシブルパイプ21を用いて形成されている。
【0042】
したがって、屈曲管体部35は、これを屈曲させても丸線材12と三角線材14との間に生成される摩擦力によりその姿勢を安定的に維持させておくことができる。
【0043】
以上は、本発明を図示例に基づいて説明したものであり、その具体的な構成はこれに限定されるものではない。例えば、第2の発明に係るグースネック型マイクロホン装置31は、その支柱33の全体を第1の発明に係るフレキシブルパイプ21を用いて形成したり、複数箇所にフレキシブルパイプ21を介在させた支柱33を用いて形成することもできる。また、グースネック型マイクロホン装置31は、例えば机上に載置しておくことができるように取付け部38に代えて図3に示すような支持台を備えるものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明のうち、第1の発明の製造工程を示す説明図であり、そのうちの(a)は、切断加工前の断面状態を、(b)は、切断時の断面状態を、(c)は、切断して所定時間を経過した後の断面状態をそれぞれ示す。
【図2】図1に示すフレキシブルパイプを支柱の一部に組み込んで形成された第2の発明に係るグースネック型マイクロホン装置の一例を示す説明図であり、そのうちの(a)は正断面構造を、(b)は正面図をそれぞれ示す。
【図3】特許文献1に従来例として開示されているグースネック型マイクロホン装置の全体斜視図。
【図4】グースネック型マイクロホン装置に従来から用いられているフレキシブルパイプの一般的な断面構造を部分的に拡大して示す説明図であり、そのうちの(a)は切断加工前の断面状態を、(b)は切断時の断面状態を、(c)は切断して所定時間を経過した後の断面状態をそれぞれ示す。
【符号の説明】
【0045】
11 フレキシブルパイプ素材
12 丸線材
14 三角線材
16 切断位置
17 溶接部位
18 接触部位
21 フレキシブルパイプ
31 グースネック型マイクロホン装置
32 マイクロホンユニット
33 支柱
34 支柱本体部
35 屈曲管体部
37 連結パイプ
38 取付け部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルバネ状の鋼材からなる丸線材を引張して生成した該丸線材相互間の隙間に鉄または銅合金からなる三角線材を挟み込んでその長さ方向へと巻き付けてフレキシブルパイプ素材を形成する組合せ工程と、
前記フレキシブルパイプ素材における切断位置を中心とする近傍部位の前記丸線材と前記三角線材とを溶接部位として超音波溶接する溶接工程と、
前記フレキシブルパイプ素材における前記溶接部位を砥粒入りのカッターにより切断して所定長のフレキシブルパイプを得る切断工程とを少なくとも含むことを特徴とするフレキシブルパイプの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法で製造された前記フレキシブルパイプをマイクロホンユニットを支持する支柱の少なくとも一部に組み込んだことを特徴とするグースネック型マイクロホン装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−302905(P2009−302905A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−155156(P2008−155156)
【出願日】平成20年6月13日(2008.6.13)
【出願人】(000128566)株式会社オーディオテクニカ (787)
【Fターム(参考)】