説明

フレキシブル積層板の製造方法

外観および金属箔除去後の寸法安定性を向上させたフレキシブル積層板の製造方法を提供する。耐熱性接着フィルム3の少なくとも一面に金属箔2を貼り合わせてなるフレキシブル積層板5の製造方法であって、耐熱性接着フィルム3と金属箔2とを一対の金属ロール4の間において保護フィルム1を介して熱ラミネートすることによって耐熱性接着フィルム3と金属箔2と保護フィルム1とを貼り合わせた積層体7を作製する工程と、保護フィルム1を剥離する工程とを含み、保護フィルム1の剥離時における積層体7の張力が保護フィルム1の剥離前における積層体7の張力よりも高いフレキシブル積層板5の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明はフレキシブル積層板の製造方法に関し、特に外観および金属箔除去後の寸法安定性を向上させたフレキシブル積層板の製造方法に関する。
【背景技術】
従来から、ポリイミドフィルムなどの耐熱性フィルムの少なくとも一面に銅箔などの金属箔を貼り合わせてなるフレキシブル積層板が、携帯電話などの電気機器の中のプリント基板として用いられている。
従来、フレキシブル積層板は、耐熱性フィルムに金属箔をアクリル系またはエポキシ系などの接着剤で貼り合わせて製造されていた。しかしながら、近年、これら熱硬化性の接着剤を用いずに、耐熱性接着フィルムと金属箔とを熱ラミネートして製造されたフレキシブル積層板が耐熱性および耐久性の観点から注目されている。
すなわち、熱ラミネートして製造されたフレキシブル積層板は、ポリイミド系の接着層を有することから耐熱性に優れている。また、フレキシブル積層板が折り畳み式携帯電話の折り畳み部のヒンジの箇所に用いられる場合には、熱硬化性の接着剤を用いたフレキシブル積層板では約3万回の折り畳みが可能であるのに対してポリイミド系の接着層を用いたフレキシブル積層板では約10万回の折り畳みが可能となるため耐久性にも優れている。
また、電気機器の製造工程において、フレキシブル積層板ははんだリフローなどの高温に曝される工程を経るため、フレキシブル積層板の熱的な信頼性を高める観点から、耐熱性接着フィルムとしては接着層のガラス転移温度(Tg)が200℃以上の単層または複数層の耐熱性接着フィルムが一般的に用いられている。したがって、耐熱性接着フィルムと金属箔とを熱ラミネートするためには、耐熱性接着フィルムの接着層Tgである200℃よりも高い、たとえば300℃以上の温度で熱ラミネートする必要があった。
通常、熱ラミネート機は、熱ラミネート時における圧力の不均一性を緩和するために、熱ラミネートに用いられるロールの少なくとも一方にゴムロールが用いられている。しかしながら、ゴムロールを用いて300℃以上の高温で熱ラミネートすることは非常に困難であった。
そこで、第4図の概略図に示すダブルベルトプレス機を用いて、耐熱性接着フィルムと金属箔とを貼り合わせる方法がある。この方法は、保護フィルム11と金属箔12と耐熱性接着フィルム13とを加熱部8において金属ベルト14によって熱ラミネートした後に、冷却部9において冷却し、その後保護フィルム11を剥離して、フレキシブル積層板15を製造する方法である。(特開2001−129919)
しかしながら、この方法においては、金属ベルト14の一部にでも傷が入ってしまうと、熱ラミネート時における圧力の均一性を保持することができなくなることから、金属ベルト14全面を研磨してその表面を平坦化する必要が頻繁に生じメンテナンスに時間がかかり、また設備コストも高くなるという問題があった。
一方、一対の金属ロールを有する熱ラミネート機を用いた場合には、ダブルベルトプレス機を用いた場合と比べて、メンテナンスに手間がかからず、また、設備コストも安くすることができる。しかしながら、一対の金属ロールを用いて熱ラミネートをする場合には、ゴムロールを用いる場合と異なり熱ラミネート時の圧力の均一性を保持するのが難しく、また熱ラミネート時に急激に高温になることからフレキシブル積層板の外観にシワが発生してしまい、フレキシブル積層板の外観が悪くなってしまうという問題があった。
そこで、第5図の概略図に示すように、ポリイミドフィルムなどからなる保護フィルム11を、金属ロール4と耐熱性接着フィルム13との間、および金属ロール4と金属箔12との間に挟んで熱ラミネートすることによって、フレキシブル積層板15の外観に発生するシワを低減させることができる(たとえば、特開2001−129918号公報参照)。この方法においては、保護フィルム11を用いることによって、保護フィルム11を緩衝材として金属ロール4による熱ラミネート時の圧力の均一性を保持することができる。また、保護フィルム11を介することによって、金属ロール4の表面も保護できるという効果、ならびに積層板が保護フィルムで固定されることにより、加熱による急激な材料の膨張が抑えられ、シワの発生が抑制されるという効果も得られる。
保護フィルム11は、耐熱性接着フィルム13や金属箔12と共に熱ラミネートされた後に、耐熱性接着フィルム13と金属箔12とからなるフレキシブル積層板15から剥離される。
特開2001−129918号公報に記載の方法によって、フレキシブル積層板にシワやカールが発生せず、外観の優れたフレキシブル積層板が得られるが、この保護フィルムの剥離方法によっては、保護フィルムがスムーズに剥離されなかったり、外観がまだ十分ではない場合もあった。そこで、特開2002−64259号公報には、フレキシブル積層板の上下面に密着している保護フィルムを対称的な角度で剥離することによって、保護フィルムの剥離時にフレキシブル積層板に発生するカールを低減させる方法が開示されている。また、特開2002−192615号公報には、フレキシブル積層板の上下面に密着している保護フィルムを冷却した後に剥離することによって、フレキシブル積層板に発生するシワを低減させる方法が開示されている。さらに、特開2002−370281号公報には、保護フィルムとフレキシブル積層板との密着強度を0.1〜3N/cmの範囲とすることによって、保護フィルムがスムーズに剥離する方法が開示されている。
しかしながら、特開2002−192615号公報および特開2002−370281号公報では、各工程で適切な積層体の張力については考慮されていない。
【発明の開示】
本発明の目的は、一対の金属ロールを用いて熱ラミネートするフレキシブル積層板の製造方法において、外観および金属箔除去後の寸法安定性を向上させたフレキシブル積層板の製造方法を提供することにある。
本発明は、耐熱性接着フィルムの少なくとも一面に金属箔を貼り合わせてなるフレキシブル積層板の製造方法であって、耐熱性接着フィルムと金属箔とを一対以上の金属ロールの間において保護フィルムを介して熱ラミネートすることによって耐熱性接着フィルムと金属箔と保護フィルムとを貼り合わせた積層体を作製する工程と、保護フィルムを剥離する工程とを含み、保護フィルムの剥離時における積層体の張力が金属ロール通過後の積層体の張力よりも高いフレキシブル積層板の製造方法である。
ここで、本発明のフレキシブル積層板の製造方法においては、保護フィルムの剥離時における積層体の張力が50N/m以上500N/m以下であることが好ましい。
また、本発明のフレキシブル積層板の製造方法においては、金属ロール通過後の積層体の張力が10N/m以上200N/m以下であることが好ましい。
また、本発明のフレキシブル積層板の製造方法においては、ニップロールを用いることにより、金属ロール通過後の張力および剥離前の張力を調整することことが好ましい。
また、本発明のフレキシブル積層板の製造方法においては、保護フィルムの剥離時における積層体の温度が、耐熱性接着フィルムのガラス転移温度以下であることが好ましい。
また、本発明のフレキシブル積層板の製造方法においては、保護フィルムが非熱可塑性であることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
第1図は、本発明に用いられる熱ラミネート機の好ましい一例の概略図である。
第2図は、本発明に用いられる積層体の模式的な拡大断面図である。
第3図は、本発明によって製造されるフレキシブル積層板の模式的な拡大断面図である。
第4図は、従来のダブルベルトプレス機の一例の概略図である。
第5図は、従来の熱ラミネート機の一例の概略図である。
【符号の説明】
1,11 保護フィルム、2,12 金属箔、3,13 耐熱性接着フィルム、4 金属ロール、5,15 フレキシブル積層板、6 ニップロール、7 積層体、8 加熱部、9 冷却部、14 金属ベルト。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、本願の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表わすものとする。
第1図に、本発明に用いられる熱ラミネート機の好ましい一例の概略図を示す。この熱ラミネート機は、ニップロール6と、金属箔2と耐熱性接着フィルム3とを保護フィルム1を介して熱ラミネートするための一対の金属ロール4とを含む。
この熱ラミネート機において、保護フィルム1と金属箔2と耐熱性接着フィルム3とが一対の金属ロール4にて熱ラミネートされる。そして、熱ラミネート後に、保護フィルム1と金属箔2と耐熱性接着フィルム3とが貼り合わされた第2図の模式的拡大断面図に示す積層体7が作製され、積層体7が徐々に冷却されながら複数のロールによって搬送される。そして、積層体7がニップロール6を通過した後に、積層体7から保護フィルム1が剥離されることによって、第3図の模式的拡大断面図に示すフレキシブル積層板5が製造される。
本発明においては、たとえばニップロール6などの張力変更手段を用いることによって、保護フィルム1の剥離時における積層体7の張力を、金属ロール4通過後の積層体7の張力よりも高くすることを特徴とする。
保護フィルム1をスムーズに剥離するためには、積層体にある程度の張力をかける必要があるが、張力を高くすると熱ラミネート直後のフレキシブル積層板にかかる張力も高くなり、得られるフレキシブル積層板の外観や寸法特性に問題が生じる。従って、本発明においては、熱ラミネート直後のフレキシブル積層体7にかかる張力と、保護フィルム1の剥離時におけるフレキシブル積層体7の張力を適切に調整することによって、ラミネート後に高温となっている積層体7が強い引張の力を受けることなく徐々に冷却されるためフレキシブル積層板5に歪みが生じにくくなる。また、フレキシブル積層板5に生じている歪みが低減することによって、フレキシブル積層板5から金属箔2の一部を除去した後にも歪みの開放による変形を起こしにくくなることから、フレキシブル積層板5の寸法安定性が向上する。そして、保護フィルム1の剥離時における積層体7の張力を剥離前よりも高くすることによって、保護フィルム1のスムーズな剥離が行なわれるため、フレキシブル積層板5にシワなどの外観不良が発生しにくくなる。これにより、本発明においては、外観および金属箔2の除去後の寸法安定性を向上させたフレキシブル積層板5を製造することが可能となるのである。なお、ここでは、張力変更手段としてニップロール6を用いているが、その他の手段を用いてもよいことは言うまでもない。
また、保護フィルム1の剥離時における積層体7の張力が50N/m以上500N/m以下であることが好ましく、200N/m以上300N/m以下であることがより好ましい。保護フィルム1の剥離時における積層体7の張力が50N/m未満である場合には積層体7の張力が低すぎて、保護フィルム1の剥離時にフレキシブル積層板5が保護フィルム1に持って行かれてしまい、保護フィルム1のスムーズな剥離が行なわれず、フレキシブル積層板5にシワなどの外観不良が発生することがある。また、保護フィルム1の剥離時における積層体7の張力が500N/mよりも大きい場合には積層体7の張力が高くなりすぎて、フレキシブル積層板5に縦スジが入ることによって外観不良が生じたり、フレキシブル積層板5に歪みが生じて金属箔2を除去した後のフレキシブル積層板5の寸法変化が大きくなることがある。特に、保護フィルム1の剥離時における積層体7の張力が200N/m以上300N/m以下である場合には、保護フィルム1のスムーズな剥離が行なわれてフレキシブル積層板5にシワなどの外観不良が生じず、金属箔2を除去した後のフレキシブル積層板5の寸法変化も抑えることができる傾向にある。
また、金属ロール4通過後の積層体7の張力が10N/m以上200N/m以下であることが好ましい。金属ロール4通過後の積層体7の張力が10N/m未満である場合には、積層体7の搬送時に弛みが生じてしまうため、積層体7の搬送中に保護フィルム1が剥離してしまうことがある。金属ロールが複数ある場合には、最後に金属ロールを通過した後の積層体の張力を指す。金属ロール通過後は積層体が高温のため、張力の測定困難な場合があるので、一定の張力下で搬送し、積層体の温度が低下してから測定してもよい。
フレキシブル積層板5が十分に冷却されないままフレキシブル積層板5を固定していた保護フィルム1が剥離してしまうと、フレキシブル積層板5が急激な膨張または収縮を起こして、フレキシブル積層板5の外観不良が生じてしまうことがある。また、積層体7に弛みが生じると、積層体7の搬送時に積層体7が蛇行してしまい、フレキシブル積層板5の巻き取り時にシワなどの外観不良が生じることがある。また、金属ロール4通過後の積層体7の張力が200N/mよりも大きい場合には、積層体7が十分に冷却されない状態(正確には、金属箔2と耐熱性接着フィルム3との界面に溶融性が残っている状態)で強く引っ張られるため、フレキシブル積層板5に歪みが生じ、外観不良や金属箔2の除去後の寸法変化が大きくなることがある。
また、金属ロール4通過後の積層体7の張力と、保護フィルム剥離時における積層体7の張力の関係は、金属ロール4通過後の積層体7の張力/保護フィルム剥離時における積層体7の張力で表される比が、1.2〜10であることが、得られるフレキシブル積層板の外観に優れ、金属箔2の除去後の寸法変化が小さくなる点から好ましく、1.5〜6であることがさらに好ましい。
本明細書において、積層体の張力とは、MD方向(積層体の搬送方向)の張力のことを意味する。積層体の張力は、検出センサを内蔵したロールを対象となる工程ラインに設置することによって測定することができる。また、本明細書において、「保護フィルムの剥離前における積層体の張力」は、熱ラミネート直後からニップロール等の張力変更手段の手前までのライン間の積層体の張力を測定することによって求められる。また、「保護フィルムの剥離時における積層体の張力」は、保護フィルムの剥離前後のライン間の積層体の張力を測定することによって求められる。
また、保護フィルム1の剥離時における積層体7の温度が、耐熱性接着フィルム3の接着層に含まれる熱融着性を示す樹脂のガラス転移温度以下であることが好ましく、耐熱性接着フィルム3の接着層に含まれる熱融着性を示す樹脂よりも50℃以上低い温度であることがより好ましく、耐熱性接着フィルム3の接着層に含まれる熱融着性を示す樹脂よりも100℃以上低い温度であることがさらに好ましく、室温まで冷却された時点で保護フィルム1を剥離することが特に好ましい。接着層に熱硬化性分が含まれる場合には、熱ラミネート速度にもよるが、上記温度よりも低い温度でも熱ラミネート可能な場合がある。
耐熱性接着フィルム3のガラス転移温度よりも高い温度で保護フィルム1を剥離した場合には、耐熱性接着フィルム3が変形しやすいことから、フレキシブル積層板5にシワが発生して外観不良を生じやすくなる傾向にある。ここで、耐熱性接着フィルム3が複数層から構成されており、ガラス転移温度が異なる複数の接着層がある場合は、接着層に含まれる熱融着性を示す樹脂のガラス転移温度のうち、最も低い温度を基準に考える。
また、保護フィルム1としては、非熱可塑性の樹脂からなるフィルムを用いることが好ましい。非熱可塑性の樹脂は、実質的にガラス転移温度を有さないため、熱ラミネート時に金属ロール4に付着しにくく、また、積層体7から保護フィルム1を容易に剥離することができる傾向にある。また、保護フィルム1の線膨張係数は50ppm/℃以下であることが好ましく、35ppm/℃以下であることがより好ましい。保護フィルム1の線膨張係数が50ppm/℃より大きい場合には、熱ラミネート時の加熱および熱ラミネート後の冷却によってフレキシブル積層板5に比べて保護フィルム1の膨張、収縮の挙動が大きいため、フレキシブル積層板5にシワが生じることがある。また、保護フィルム1の厚みは75μm以上であることが好ましく、100μm以上であることがより好ましく、125μm以上であることがさらに好ましい。保護フィルム1の厚みが75μm未満である場合には保護フィルム1の厚みが薄すぎて、冷却によるフレキシブル積層板5の収縮に保護フィルム1が耐えることができず、フレキシブル積層板5にシワが発生してしまう傾向にある。また、保護フィルム1の厚みが75μm以上、125μm以上と厚くなるにつれて冷却によるフレキシブル積層板5の収縮に保護フィルム1が耐えることができるようになり、フレキシブル積層板5にシワが発生しにくくなる。
金属箔2としては、たとえば、銅箔、ニッケル箔、アルミニウム箔またはステンレススチール箔などが用いられる。金属箔2は単層で構成されていてもよく、表面に防錆層や耐熱層(たとえば、クロム、亜鉛、ニッケルなどのメッキ処理による層)が形成された複数の層で構成されていてもよい。中でも、金属箔2としては、導電性およびコストの観点から、銅箔を用いることが好ましい。また、銅箔の種類としては、たとえば圧延銅箔、電解銅箔などがある。また、金属箔2の厚みが薄いほどプリント基板における回路パターンの線幅を細線化できることから、金属箔2の厚みは35μm以下であることが好ましく、18μm以下であることがより好ましい。
また、耐熱性接着フィルム3としては、熱融着性を示す樹脂からなる単層フィルム、熱融着性を示さないコア層の両面または片面に熱融着性を示す樹脂を含む接着層を形成した複数層フィルムなどを用いることができる。ここで、熱融着性を示す樹脂としては、熱可塑性ポリイミド成分で構成される樹脂が好ましく、たとえば、熱可塑性ポリイミド、熱可塑性ポリアミドイミド、熱可塑性ポリエーテルイミド、熱可塑性ポリエステルイミドなどを用いることができる。中でも、熱可塑性ポリイミドまたは熱可塑性ポリエステルイミドを用いることが特に好ましい。なお、接着層には、接着性を向上させる等の目的で、上記の熱融着性樹脂以外にエポキシ樹脂、アクリル樹脂等の熱硬化性樹脂等が含有されていても良い。
また、熱融着性を示さないコア層としては、たとえば非熱可塑性ポリイミドフィルム、アラミドフィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリエーテルスルホンフィルム、ポリアリレートフィルムまたはポリエチレンナフタレートフィルムなどを用いることができる。しかし、電気的特性(絶縁性)および熱融着性を示す樹脂との親和性の観点から、非熱可塑性ポリイミドフィルムを用いることが特に好ましい。
また、金属ロール4による熱ラミネート温度は、耐熱性接着フィルム3の接着層に含まれる熱融着性を示す樹脂のガラス転移温度よりも50℃以上高い温度であることが好ましく、熱ラミネート速度を上げるためには、耐熱性接着フィルム3のガラス転移温度よりも100℃以上高い温度であることがさらに好ましい。接着層に熱硬化性分が含まれる場合には、熱ラミネート速度にもよるが、上記温度よりも低い温度でも熱ラミネート可能な場合がある。金属ロール4の加熱方式としては、たとえば、熱媒循環方式、熱風加熱方式または誘電加熱方式などがある。本発明においては、熱ラミネート温度が300℃以上、好ましくは350℃以上の場合に、特に優れた効果を発現する。
また、金属ロール4における熱ラミネート時の圧力(線圧)は49N/cm以上490N/cm以下であることが好ましく、98N/cm以上294N/cm以下であることがより好ましい。熱ラミネート時の線圧が49N/cm未満である場合には線圧が小さすぎて金属箔2と耐熱性接着フィルム3との密着性が弱まる傾向にあり、490N/cmよりも大きい場合には線圧が大きすぎてフレキシブル積層板5に歪みが生じて金属箔2の除去後のフレキシブル積層板5の寸法変化が大きくなることがある。熱ラミネート時の線圧が98N/cm以上294N/cm以下である場合には特に金属箔2と耐熱性接着フィルム3との密着性が良好となり、金属箔2の除去後のフレキシブル積層板5の寸法変化も小さくなる。金属ロール4の加圧方式としては、たとえば、油圧方式、空気圧方式またはギャップ間圧力方式などがある。
また、熱ラミネート速度は、0.5m/min以上であることが好ましく、1m/min以上であることがさらに好ましい。熱ラミネート速度が0.5m/min以上、特に1m/min以上である場合には外観および金属箔2の除去後の寸法安定性を向上させたフレキシブル積層板5の生産性を特に向上させることができる傾向にある。
また、熱ラミネート前に、急激な温度上昇を避ける観点から、保護フィルム1、金属箔2および耐熱性接着フィルム3に予備加熱を施すことが好ましい。ここで、予備加熱は、たとえば、保護フィルム1、金属箔2および耐熱性接着フィルム3を熱ロールに接触させることによって行なうことができる。
また、熱ラミネート前に、保護フィルム1、金属箔2および耐熱性接着フィルム3の異物を除去する工程を設けることが好ましい。特に、保護フィルム1を再利用して繰り返し用いるためには、保護フィルム1に付着した異物の除去が重要となる。異物を除去する工程としては、たとえば、水や溶剤などを用いた洗浄処理や粘着ゴムロールによる異物の除去などがある。中でも、粘着ゴムロールを用いる方法は、簡便な設備である点から好ましい。
さらに、熱ラミネート前に、保護フィルム1および耐熱性接着フィルム3の静電気を除去する工程を設けることが好ましい。静電気を除去する工程としては、たとえば除電エアによる静電気の除去などがある。
【実施例】
[実施例1]
第1図に示す熱ラミネート機を用いてフレキシブル積層板を製造した。まず、保護フィルム1として200℃〜300℃における線膨張係数が16ppm/℃である125μmの厚みを有する非熱可塑性ポリイミドフィルムが巻きつけられているロールと、金属箔2として18μmの厚みを有する銅箔が巻きつけられているロールと、耐熱性接着フィルム3として非熱可塑性のポリイミドフィルムからなるコア層の両面に熱可塑性ポリイミド樹脂成分(ガラス転移温度:240℃)を備えた25μm厚みの三層構造の接着フィルムが巻きつけられているロールとを熱ラミネート機に設置した。
次いで、これらのロールを回転させて、除電、異物の除去および予備加熱を行なった後に、保護フィルム1を一対の金属ロール4に1/2周抱かせて予熱された状態で、保護フィルム、銅箔および接着フィルムを表1に示す熱ラミネート条件(温度:360℃、線圧:196N/cm、熱ラミネート速度:1.5m/min)で熱ラミネートし、接着フィルムの両面に銅箔および非熱可塑性ポリイミドフィルムがこの順序で貼り合わされた五層構造の積層体7を作製した。
そして、積層体7を自然冷却しながら複数のロールによって60N/mの張力で搬送した。なお、この時の張力は、金属ロール通過後の張力と同じである。その後、ニップロール6によって一旦その張力を切った後に、積層体7の張力を250N/mまで引き上げた。さらに、積層体7を室温(25℃)まで冷却し、積層体7に250N/mの張力をかけた状態で非熱可塑性ポリイミドフィルムを剥離して、フレキシブル積層板5を製造した。
このフレキシブル積層板の外観と寸法安定性(MD方向、TD方向)の評価を下記の方法で行なった。その評価結果を表1に示す。
i)外観の評価方法
フレキシブル積層板に発生しているシワの個数を数え、これを1mあたり換算することによって、下記の評価基準で評価した。
◎・・・シワが全くない
○・・・1mあたりに発生しているシワが1個以下
○△・・1mあたりに発生しているシワが2個以上3個以下
△・・・1mあたりに発生しているシワが4個以上6個未満
×・・・1mあたりに発生しているシワが6個以上
ii)寸法安定性の評価方法
JIS C6481に基づいて、フレキシブル積層板にあけた4つの穴のそれぞれの距離を測定した。次に、エッチングにより銅箔の一部を除去した後に、20℃、60%RHの恒温室に24時間放置し、エッチング前と同様に、4つの穴のそれぞれの距離を測定して次式により寸法変化率を求めることによって評価した。この寸法変化率の絶対値が小さいほど、寸法安定性に優れていることを示す。
寸法変化率(%)={(銅箔除去後の測定値−銅箔除去前の測定値)/(銅箔除去前の測定値)}×100
[寸法変化率]
金属箔除去前後の寸法変化率は、JIS C6481を参考にして、以下のように測定・算出した。すなわち、フレキシブル積層板から200mm×200mmの正方形のサンプルを切り出し、このサンプルにおいて150mm×150mmの正方形の四隅に直径1mmの穴を形成した。なお、200mm×200mmの正方形のサンプル、及び150mm×150mmの正方形の2辺はMD方向に、残り2辺はTD方向に沿うようにした。また、これら2つの正方形の中心が一致するようにした。このサンプルを20℃、60%RHの恒温恒湿室に12時間放置して調湿した後、上記4つの穴の距離を測定した。次に、フレキシブル積層板の金属箔をエッチング処理により除去した後、20℃60%RHの恒温室に24時間放置した。その後、エッチング処理前と同様に、4つの穴についてそれぞれの距離を測定した。金属箔除去前の各穴の距離の測定値をD1、金属箔除去後の各穴の距離の測定値をD2として、下式(3)に基づいて寸法変化率を算出した。この寸法変化率の絶対値が小さいほど寸法安定性に優れていることを示す。
寸法変化率(%)={(D2−D1)/D1}×100 (3)
表1に示すように、実施例1のフレキシブル積層板にはシワが全く発生していなかった。また、MD方向およびTD方向(MD方向と直交する方向)の寸法安定性はそれぞれ+0.03%(MD方向)、−0.02%(TD方向)であった。
[実施例2]
保護フィルムである非熱可塑性ポリイミドフィルムの剥離時における積層体の張力を300N/mとしたこと以外は実施例1と同様にして、フレキシブル積層板を製造した。そして、このフレキシブル積層板の外観と寸法安定性を実施例1と同様にして評価した。その評価結果を表1に示す。
表1に示すように、実施例2のフレキシブル積層板の1mあたりに発生したシワは1個未満であった。また、MD方向およびTD方向の寸法安定性はそれぞれ+0.04%(MD方向)、−0.03%(TD方向)であった。
[実施例3]
保護フィルムである非熱可塑性ポリイミドフィルムの剥離前における積層体の張力を50N/mとしたこと以外は実施例1と同様にして、フレキシブル積層板を製造した。そして、このフレキシブル積層板の外観と寸法安定性を実施例1と同様にして評価した。その評価結果を表1に示す。
表1に示すように、実施例3のフレキシブル積層板にはシワが全く発生していなかった。また、MD方向およびTD方向の寸法安定性はそれぞれ+0.03%(MD方向)、−0.02%(TD方向)であった。
[実施例4]
保護フィルムである非熱可塑性ポリイミドフィルムの剥離前における積層体の張力を50N/mとし、剥離時における積層体7の張力を300N/mとしたこと以外は実施例1と同様にして、フレキシブル積層板を製造した。そして、このフレキシブル積層板の外観と寸法安定性を実施例1と同様にして評価した。その評価結果を表1に示す。
表1に示すように、実施例4のフレキシブル積層板の1mあたりに発生したシワは1個未満であった。また、MD方向およびTD方向の寸法安定性はそれぞれ+0.04%(MD方向)、−0.03%(TD方向)であった。
[実施例5]
保護フィルムである非熱可塑性ポリイミドフィルムの剥離前における積層体の張力を80N/mとし、剥離時における積層体の張力を200N/mとしたこと以外は実施例1と同様にして、フレキシブル積層板を製造した。そして、このフレキシブル積層板の外観と寸法安定性を実施例1と同様にして評価した。その評価結果を表1に示す。
表1に示すように、実施例5のフレキシブル積層板の1mあたりに発生したシワは1個未満であった。また、MD方向およびTD方向の寸法安定性はそれぞれ+0.03%(MD方向)、−0.03%(TD方向)であった。
[実施例6]
保護フィルムである非熱可塑性ポリイミドフィルムの剥離前における積層体の張力を80N/mとし、剥離時における積層体の張力を150N/mとしたこと以外は実施例1と同様にして、フレキシブル積層板を製造した。そして、このフレキシブル積層板の外観と寸法安定性を実施例1と同様にして評価した。その評価結果を表1に示す。
表1に示すように、実施例6のフレキシブル積層板の1mあたりに発生したシワは1個以上3個未満であった。また、MD方向およびTD方向の寸法安定性はそれぞれ+0.05%(MD方向)、−0.04%(TD方向)であった。
[実施例7]
保護フィルムである非熱可塑性ポリイミドフィルムの剥離前における積層体の張力を100N/mとし、剥離時における積層体の張力を200N/mとしたこと以外は実施例1と同様にして、フレキシブル積層板を製造した。そして、このフレキシブル積層板の外観と寸法安定性を実施例1と同様にして評価した。その評価結果を表1に示す。
表1に示すように、実施例7のフレキシブル積層板の1mあたりに発生したシワは1個未満であった。また、MD方向およびTD方向の寸法安定性はそれぞれ+0.04%(MD方向)、−0.04%(TD方向)であった。
[実施例8]
保護フィルムである非熱可塑性ポリイミドフィルムの剥離前における積層体の張力を100N/mとし、剥離時における積層体の張力を150N/mとしたこと以外は実施例1と同様にして、フレキシブル積層板を製造した。そして、このフレキシブル積層板の外観と寸法安定性を実施例1と同様にして評価した。その評価結果を表1に示す。
表1に示すように、実施例7のフレキシブル積層板の1mあたりに発生したシワは1個以上3個未満であった。また、MD方向およびTD方向の寸法安定性はそれぞれ+0.05%(MD方向)、−0.04%(TD方向)であった。
(比較例1)
ニップロールを用いずに、保護フィルムである非熱可塑性ポリイミドフィルムの剥離前と剥離時における積層体の張力を共に250N/mとしたこと以外は実施例1と同様にして、フレキシブル積層板を製造した。そして、このフレキシブル積層板の外観と寸法安定性を実施例1と同様にして評価した。その評価結果を表1に示す。
表1に示すように、比較例1のフレキシブル積層板の1mあたりに発生したシワは5個以上であった。また、MD方向およびTD方向の寸法安定性はそれぞれ+0.12%(MD方向)、−0.08%(TD方向)であった。
(比較例2)
保護フィルムである非熱可塑性ポリイミドフィルムの剥離前における積層体の張力を300N/mとし、剥離時における積層体の張力を250N/mとしたこと以外は実施例1と同様にして、フレキシブル積層板を製造した。そして、このフレキシブル積層板の外観と寸法安定性を実施例1と同様にして評価した。その評価結果を表1に示す。
表1に示すように、比較例2のフレキシブル積層板の1mあたりに発生したシワは5個以上であった。また、MD方向およびTD方向の寸法安定性はそれぞれ+0.15%(MD方向)、−0.09%(TD方向)であった。

表1に示すように、保護フィルムである非熱可塑性ポリイミドフィルムの剥離時における積層体の張力を剥離前よりも高くして製造された実施例1〜8のフレキシブル積層板は、剥離時と剥離前の張力を同じにして製造された比較例1のフレキシブル積層板および剥離時よりも剥離前の張力を高くして製造された比較例2のフレキシブル積層板と比べて外観および寸法安定性の双方に優れる結果となった。
また、表1に示すように、保護フィルムである非熱可塑性ポリイミドフィルムの剥離時における積層体の張力が200N/m以上300N/m以下である実施例1〜5および実施例7のフレキシブル積層板は、剥離時における積層体の張力が150N/mである実施例6および実施例8のフレキシブル積層板と比べて、シワが発生せず外観が良好であり、また銅箔除去後の寸法変化率も小さかった。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
本発明によれば、外観および金属箔除去後の寸法安定性を向上させたフレキシブル積層板の製造方法を提供することができる。
本発明によれば、外観および金属箔除去後の寸法安定性に優れたフレキシブル積層板を製造することができるため、本発明は電気機器、特に携帯電話用のプリント基板の製造に好適に利用される。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱性接着フィルムの少なくとも一面に金属箔を貼り合わせてなるフレキシブル積層板の製造方法であって、前記耐熱性接着フィルムと前記金属箔とを一対以上の金属ロールの間において保護フィルムを介して熱ラミネートすることによって前記耐熱性接着フィルムと前記金属箔と前記保護フィルムとを貼り合わせた積層体を作製する工程と、前記保護フィルムを剥離する工程と、を含み、前記保護フィルムの剥離時における前記積層体の張力が金属ロール通過後の積層体の張力よりも高いことを特徴とする、フレキシブル積層板の製造方法。
【請求項2】
前記保護フィルムの剥離時における前記積層体の張力が50N/m以上500N/m以下であることを特徴とする、請求の範囲第1項に記載のフレキシブル積層板の製造方法。
【請求項3】
金属ロール通過後の前記積層体の張力が10N/m以上200N/m以下であることを特徴とする、請求の範囲第1項または第2項に記載のフレキシブル積層板の製造方法。
【請求項4】
ニップロールを用いることにより、金属ロール通過後の張力および剥離前の張力を調整することを特徴とする、請求の範囲第1項から第3項のいずれかに記載のフレキシブル積層板の製造方法。
【請求項5】
前記保護フィルムの剥離時における前記積層体の温度が、前記耐熱性接着フィルムにおける接着層のガラス転移温度以下であることを特徴とする、請求の範囲第1項から第4項のいずれかに記載のフレキシブル積層板の製造方法。
【請求項6】
前記保護フィルムが非熱可塑性であることを特徴とする、請求の範囲第1項から第5項のいずれかに記載のフレキシブル積層板の製造方法。

【国際公開番号】WO2005/063467
【国際公開日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【発行日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516682(P2005−516682)
【国際出願番号】PCT/JP2004/019491
【国際出願日】平成16年12月20日(2004.12.20)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】