説明

フロントカーテンエアバッグ装置及びエアバッグシステム

【課題】衝突時において前方衝撃に対する乗員保護に万全を期すことができるフロントカーテンエアバッグ装置及びこれを用いたエアバッグシステムを提供する。
【解決手段】基布を縫製した袋体からなり、自動車のフロントガラス2に沿って膨張展開するようにフロントガラス2上部近傍に設けられたフロントカーテンエアバッグ本体11と、このフロントカーテンエアバッグ本体11を膨張展開させるための圧力流体を噴出するインフレータ15とを有している。フロントカーテンエアバッグ本体11は、フロントガラス2を介した日射に対するサンバイザー8よりフロントガラス2側に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の前方衝突時に乗員の前方の安全を確保するためのフロントカーテンエアバッグ装置およびエアバッグシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の衝突時等に乗員の身体を衝撃から保護するための各種エアバッグ装置が使用されている。
【0003】
例えば、運転席においてハンドルの回転中心から運転者側に膨張展開する運転席用エアバッグ(例えば、特許文献1参照)や、インストルメントパネルから助手席側に膨張展開する助手席用エアバッグ装置(例えば、特許文献2参照)、その他にもサイドエアバッグ装置、カーテンエアバッグ装置等など各種のエアバッグ装置が使用されている。
【0004】
【特許文献1】特許第3028524号公報(図2)
【特許文献2】特開平9−48305号公報(図17)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、衝突時において前方衝撃に対する乗員保護に万全を期すことができるフロントカーテンエアバッグ装置及びこれを用いたエアバッグシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、第1の発明は、基布を縫製した袋体からなり、自動車のフロントガラスに沿って膨張展開するようにフロントガラス上部近傍に設けられたフロントカーテンエアバッグ本体と、このフロントカーテンエアバッグ本体を膨張展開させるための圧力流体を噴出するインフレータとを有することを特徴とする。
【0007】
これにより、インフレータから圧力流体を供給されたフロントカーテンエアバッグ本体がフロントガラス上部近傍からフロントガラスに沿って膨張展開した際には、乗員の前方空間をフロントガラスまたはその前方の車外空間とほぼ完全に遮断できるため、乗員の頭部保護を図りまた乗員を確実に車室内へ保持することが可能となり、衝突時において前方衝撃に対する乗員保護に万全を期すことができる。
【0008】
第2の発明は、上記第1の発明において、フロントカーテンエアバッグ本体は、フロントガラスを介した日射に対する日よけ部材の近傍に配置されていることを特徴とする。
【0009】
これにより、日よけ部材を備えたまま、通常運転時においても乗員の前方視界を遮ることがなく、かつ衝突時にはフロントガラスに沿った膨張展開動作を円滑に行うことができる。
【0010】
第3の発明は、上記第2の発明において、フロントカーテンエアバッグ本体が、日よけ部材よりフロントガラス側に配置されていることを特徴とする。
【0011】
このように、日よけ部材を乗員側に配置することにより、日よけ部材がエアバッグ本体のフロントガラスに沿った膨張展開動作を阻害しないようにすることができる。
【0012】
第4の発明は、上記第1乃至第3の発明のいずれか1つにおいて、フロントカーテンエアバッグ本体をフロントガラスに沿って膨張展開するようにその方向を拘束しつつガイドするガイド手段を有することを特徴とする。
【0013】
これにより、フロントガラスが破砕した場合でも、フロントカーテンエアバッグ本体が車外へ外れることなく、確実かつ円滑に所定の配置で膨張展開させることができる。
【0014】
第5の発明は、上記第4の発明において、ガイド手段は、インフレータからの圧力流体によってフロントカーテンエアバッグ本体が膨張展開する際に、当該フロントカーテンエアバッグ本体をフロントガラスに沿うように牽引駆動する牽引駆動機構であることを特徴とする。
【0015】
これにより、フロントカーテンエアバッグ本体のフロントガラスに沿う方向での膨張展開を確実かつ迅速に行うことができる。
【0016】
第6の発明は、上記第5の発明において、牽引駆動機構が、インフレータからの圧力流体に基づき牽引駆動力を発生することを特徴とする。
【0017】
これにより、膨張展開するフロントカーテンエアバッグ本体を迅速かつ弾力的に牽引駆動することができる。
【0018】
第7の発明は、上記第1乃至第6の発明のいずれか1つにおいて、フロントカーテンエアバッグ本体は、自動車の車幅方向に複数個設けられ、膨張展開時にそれら複数個のフロントカーテンエアバッグ本体でフロントガラスの車幅方向ほぼ全域を覆うように配置されていることを特徴とする
これにより、フロントカーテンエアバッグ本体を分割して単体での膨張展開に必要な圧力流体量を少なくできるため、それぞれ迅速に膨張展開させることが可能となり、また乗員の保護を確実にできる。
【0019】
第8の発明は、上記第1乃至第7の発明のいずれか1つにおいて、フロントカーテンエアバッグ本体は、導電性を有する導電繊維又は制電性を有する制電繊維が織り込まれた基布を備えていることを特徴とする。
【0020】
これにより、フロントカーテンエアバッグ本体における局所的な静電気の蓄積を防ぐことができ、フロントカーテンエアバッグ本体の全体から静電気を接地放電することが可能となる。
【0021】
第9の発明は、上記第8の発明において、導電繊維に接続して電気的に接地するアース回路を有することを特徴とする。
【0022】
これにより、フロントカーテンエアバッグ本体からアース回路を介して静電気を接地放電することができ、フロントカーテンエアバッグ本体の帯電を確実に防ぐことができる。
【0023】
また、上記目的を達成するために、第10の発明は、基布を縫製した袋体からなり自動車のステアリングホイールに設けられたドライバーズエアバッグ本体と、基布を縫製した袋体からなり、自動車のフロントガラスに沿って膨張展開するようにフロントガラス上部近傍に設けられたフロントカーテンエアバッグ本体と、ドライバーズエアバッグ本体を膨張展開させるための圧力流体を噴出する第1インフレータ手段と、フロントカーテンエアバッグ本体を膨張展開させるための圧力流体を噴出する第2インフレータ手段とを有することを特徴とする。
【0024】
これにより、膨張展開したドライバーズエアバッグ本体で運転者の前方衝撃を緩和させることができるとともに、膨張展開したフロントカーテンエアバッグ本体で運転者の頭部保護を図りまた運転者を確実に車室内へ保持することが可能となって、衝突時の前方衝撃に対する運転者保護に万全を期すことができる。
【0025】
さらに、上記目的を達成するために、第11の発明は、基布を縫製した袋体からなり自動車のインストルメントパネル内に設けられたパッセンジャーズエアバッグ本体と、基布を縫製した袋体からなり、自動車のフロントガラスに沿って膨張展開するように前記フロントガラス上部近傍に設けられたフロントカーテンエアバッグ本体と、前記パッセンジャーズエアバッグ本体を膨張展開させるための圧力流体を噴出する第3インフレータ手段と、前記フロントカーテンエアバッグ本体を前記膨張展開させるための圧力流体を噴出する第2インフレータ手段とを有することを特徴とする。
【0026】
これにより、膨張展開したパッセンジャーズエアバッグ本体で助手席乗員の前方衝撃を緩和させることができるとともに、膨張展開したフロントカーテンエアバッグ本体で助手席乗員の頭部保護を図りまた助手席乗員を確実に車室内へ保持することが可能となって、衝突時の前方衝撃に対する助手席乗員の保護に万全を期すことができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、衝突時において前方衝撃に対する乗員保護に万全を期すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の一実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0029】
図1は、本実施形態のフロントカーテンエアバッグ装置及びそれを含むエアバッグシステムを備えた車両室内フロントガラス周辺を後部座席側から見た図である。この図1において、フロントガラス2に面している前部座席として、図中の右側に運転席3が配置し、左側に助手席4が配置しており、運転席3の前方(以下、前方及び後方は車両の進行方向に沿う前後方向とする)には計器パネル5及びステアリングホイール6が設けられ、助手席4の前方にはインストルメントパネル7が設けられている。また、フロントガラス2の上部位置で運転席3及び助手席4のそれぞれ前方には、フロントガラス2を介した日射に対する日よけ部材としてのサンバイザー8が設けられている。
【0030】
そして、本実施形態のフロントカーテンエアバッグ装置1は、各サンバイザー8の近傍でそれぞれサンバイザー8よりフロントガラス2側に配置されている2つのフロントカーテンエアバッグ本体11(2点鎖線:引き出し最中の状態)と、車体左右の各Aピラー12内でフロントガラス2より下方に配置された2つのエアシリンダ13と、各エアシリンダ13と各フロントカーテンエアバッグ11本体とを連結する牽引ワイヤ14と、各フロントカーテンエアバッグ本体11の近傍に配置されてそれぞれフロントカーテンエアバッグ本体11とエアシリンダ13に圧力流体を供給可能に配管接続されたインフレータ15とを備えている。
【0031】
フロントカーテンエアバッグ本体11は、外形が同じ2枚の略矩形の基布を重ね合わせてそれらの周縁部を縫製した袋体からなり、通常時にはサンバイザー8よりフロントガラス2側に配置された収納箱16の内部に収納されている。図2は、図1中のII−II線に沿った断面図であり、フロントカーテンエアバッグ本体11の収納状態を示す図である。収納箱16は金属などの剛体からなる箱形構造物であり、図2において、室内天井17に密接に固定されている天板16aと、その下方に位置する底板16bと、後方側に位置する後方側板16cとを有し、前方側面が開口している。フロントカーテンエアバッグ本体11は折り畳まれた状態でそれら天板16aと底板16bと後方側板16cに囲まれた内部空間に収納されている。
【0032】
また、図3に示すように、フロントカーテンエアバッグ本体11の展開した状態における上端縁部は、フロントガラス2の上端縁部に沿って固定されている。さらにフロントカーテンエアバッグ本体11の基布には、図中の一点鎖線で示すような縦に平行な配置で複数の導電性を有する導電繊維18が織り込まれており、それら導電繊維18のいずれかが図示しないアース線により(インフレータ15への干渉を与えないためにインフレータ15と導通することなく別回路で)金属製の車体などで構成するアース回路に電気的に接続され、最終的にグランド接地されている。これはフロントカーテンエアバッグ本体11が静電気により帯電するのを防ぐための構成であり、これについては後に詳述する。
【0033】
また、図2に示すように、収納箱16の前方側面には、合成樹脂の布材19が張設されており、この布材19には収納箱の内側からフロントカーテンエアバッグ本体11が膨張するときに断裂してフロントカーテンエアバッグ本体11がフロントガラス2に沿って膨張することを許容するティアライン(破断予定線:不図示)が形成されている。また収納箱16の後方側板16cの下端にはヒンジ部20が設けられており、板状のサンバイザー8はその下端部分でヒンジ部20に連結されている。これにより、サンバイザー8はヒンジ部20を中心として上下方向に回動可能となっており、必要時には下げ降ろす(図中破線で示す状態)ことで運転者の視界に対しフロントガラス2からの日射を遮ることができる。また、後方側板16cの上端には、サンバイザー8の自由端を固定する固定具21が設けられている。
【0034】
また図2において、全体が円筒形状にあるインフレータ15(第2インフレータ手段)が、その長手方向を車体の前後方向とほぼ平行とするようAピラー12の上方内部に設けられている。インフレータ15は、図示しない制御部からの制御信号により内部で燃焼膨張ガスを急激に発生させて噴出するものであり、それによる圧力流体をフロントカーテンエアバッグ本体11と後述のエアシリンダ13へ供給できるよう図示しない配管でそれぞれ接続されている。
【0035】
図4は、エアシリンダ13を長手方向に沿った断面で示す図である。この図4において、エアシリンダ13は円筒形状のシリンダ本体22とその内部に摺接移動可能なピストン23を設けたものであり、ピストン23はシリンダ本体22の内部を上方の流入室24と下方の排出室25とに密閉して区画するよう設けられている。また、ピストン23の上端には牽引ワイヤ14が結合されており、この牽引ワイヤ14は流入室24の密閉状態を確保したままシリンダ本体22から引き出されている。シリンダ本体22の上端は配管26を介してインフレータ15に接続されており、流入室24はインフレータ15内部と連通した状態となっている。またシリンダ本体22の下端には排気孔27が穿設されており、これを通じて排出室25は外気に連通した状態となっている。
【0036】
また、シリンダ本体22の内周面で下方に位置する部分には環状の係止突起28が形成されており、ピストン23の外周側面にはこの係止突起28に係止可能な係止溝29が形成されている。ピストン23の下端面の外周縁部は面取りされており、ピストン23が係止突起28に向かって勢いよく摺接移動した際には、係止突起28がピストン23の下端面の面取りから乗り上げてピストン23の外周側面に摺接し、その後に係止溝29に係止してピストン23を固定する。
【0037】
この構成によりエアシリンダ13は、流入室24に圧力流体を急激に流入することで、ピストン23を下方へ急速に押圧移動させ、牽引ワイヤ14を高い張力で牽引駆動できる。そしてピストン23が係止突起28に係止した際には、圧力流体の流入が停止しても引き戻ることなく牽引ワイヤ14の牽引状態を固定する逆止弁の構造となっている。
【0038】
牽引ワイヤ14は、Aピラー12内を通じてその上端がフロントカーテンエアバッグ本体11の下端中央部(補強布で補強済み)に結合されており、エアシリンダ本体22内のピストン23のストロークは、フロントカーテンエアバッグ本体11の下端縁部をフロントガラス2の下端まで引き下げることができる長さにある。なお、図1にはフロントカーテンエアバッグ本体11が引き下げつつある状態を二点鎖線で示している。
【0039】
そして、上記のフロントカーテンエアバッグ装置1において、自動車の衝突時に制御部からの指令によってインフレータ15が圧力流体を噴出作動すると、フロントカーテンエアバッグ本体11が膨張を開始し、収納箱16の布材19がティアラインに沿って開裂する。そして、フロントカーテンエアバッグ本体11がフロントガラス2上方の収納箱16から下方に向かって展開するとともに、同じくインフレータ15からの圧力流体を受けたエアシリンダ13が動作して牽引ワイヤ14を引き込み、フロントカーテンエアバッグ本体11を引き下げる。
【0040】
図5は、2つのフロントカーテンエアバッグ本体11の最後まで引き下げた状態を後部座席から見た図であり、図6は図5中のVI−VI線に沿った断面図である。図6に示すように、2つのフロントカーテンエアバッグ本体11はフロントガラス2の内面に沿う前後方向の配置で引き出され、また図5に示すように、フロントガラス2の車幅方向ほぼ全域を隙間なく覆うように展開する。
【0041】
本実施形態のフロントカーテンエアバッグ装置1は、この図示する配置に確実に展開させることを前提として構成されるものであり、このために、上記2つのフロントカーテンエアバッグ本体11をガイドするガイドレールや牽引ワイヤ用プーリなどを適宜補助的に設置してもよい。また、牽引ワイヤ14を収納しているAピラー12の内装表皮には、フロントカーテンエアバッグ本体11を所望の方向で牽引しやすいよう、牽引ワイヤ14の飛び出しを許容するティアライン30(破断予定線)が形成されている。なお、エアシリンダ13の配置はAピラー12内に限るものではなく、フロントカーテンエアバッグ本体11を牽引しやすいよう適宜他の箇所に配置してもよい。
【0042】
上記構成において、牽引ワイヤ14及びエアシリンダ13が、フロントカーテンエアバッグ本体11をフロントガラス2に沿って膨張展開するようにその方向を拘束しつつガイドするガイド手段として機能するものである。このガイド手段により、フロントガラス2が破砕した場合でも、フロントカーテンエアバッグ本体11が車外へ外れることなく、確実かつ円滑に所定の配置で膨張展開させることができる。
【0043】
また、このガイド手段は、インフレータ15からの圧力流体によってフロントカーテンエアバッグ本体11が膨張展開する際に、フロントカーテンエアバッグ本体11をフロントガラス2に沿うように牽引駆動する牽引駆動機構としても機能している。これにより、フロントカーテンエアバッグ本体11のフロントガラス2に沿う方向での膨張展開を確実かつ迅速に行うことができる。またこの牽引駆動機構が、インフレータ15からの圧力流体に基づき牽引駆動力を発生することにより、膨張展開するフロントカーテンエアバッグ本体11を迅速かつ弾力的に牽引駆動することができる。
【0044】
そして、フロントカーテンエアバッグ本体11が自動車の車幅方向に複数個設けられていることで、フロントカーテンエアバッグ本体11を分割して単体での膨張展開に必要な圧力流体量を少なくできるため、それぞれ迅速に膨張展開させることが可能となる。また、膨張展開時にそれら複数個のフロントカーテンエアバッグ本体11でフロントガラス2の車幅方向ほぼ全域を覆うように配置されていることで、乗員の保護を確実にできる。
【0045】
そして、ステアリングホイール6には、(図1の一点鎖線に展開状態を示すように)運転者のすぐ手前で円形に展開する公知のドライバーズエアバッグ(ドライバーズエアバッグ本体)9が設けられており、自動車の衝突時にはこれも図示しない専用のインフレータ(第1インフレータ手段)からの圧力流体により膨張展開する。なお、この例では、インストルメントパネル7内にも、(図1の二点鎖線に展開状態を示すように)助手席4の乗員のすぐ手前で展開する公知のパッセンジャーズエアバッグ(パッセンジャーズエアバッグ本体)9′が設けられており、自動車の衝突時にはこれも図示しない専用のインフレータ(第3インフレータ手段)からの圧力流体により膨張展開する。
【0046】
以上のように、本発明のフロントカーテンエアバッグ装置1によれば、インフレータ15から圧力流体を供給されたフロントカーテンエアバッグ本体11がフロントガラス2上部近傍からフロントガラス2に沿って膨張展開した際には、乗員の前方空間をフロントガラス2またはその前方の車外空間とほぼ完全に遮断できるため、乗員の頭部保護を図りまた乗員を確実に車室内へ保持することが可能となり、衝突時において前方衝撃に対する乗員保護に万全を期すことができる。
【0047】
さらに、ドライバーズエアバッグ9をも備えた上記エアバッグシステムの実施形態においては、膨張展開したドライバーズエアバッグ9で運転者の前方衝撃を緩和させることができるとともに、膨張展開したフロントカーテンエアバッグ本体11で運転者の頭部保護を図りまた運転者を確実に車室内へ保持することが可能となり、さらに一層、衝突時の前方衝撃に対する運転者保護に万全を期すことができる。同様に、パッセンジャーズエアバッグ9′をも備えた上記エアバッグシステムの実施形態においては、膨張展開したパッセンジャーズエアバッグ9′で助手席4の乗員の前方衝撃を緩和させることができるとともに、膨張展開したフロントカーテンエアバッグ本体11で助手席4の乗員の頭部保護を図りまた助手席4の乗員を確実に車室内へ保持することが可能となり、上記同様、助手席乗員についてさらに一層衝突時の前方衝撃に対する乗員保護に万全を期すことができる。
【0048】
また、フロントカーテンエアバッグ本体11が、フロントガラス2を介した日射に対するサンバイザー8の近傍に配置されていることで、サンバイザー8を備えていながら通常運転時においても乗員の前方視界を遮ることがなく、かつ衝突時にはフロントガラス2に沿った膨張展開動作を円滑に行うことができる。さらに、フロントカーテンエアバッグ本体11がサンバイザー8よりフロントガラス2側に配置されている、すなわちサンバイザー8を乗員側に配置していることにより、サンバイザーがエアバッグ本体11のフロントガラス2に沿った膨張展開動作を阻害しないようにすることができる。
【0049】
そして、上記構成において、フロントカーテンエアバッグ本体11が導電性を有する導電繊維18(又は制電性を有する制電繊維でもよい)が織り込まれた基布を備えていることで、フロントカーテンエアバッグ本体11における局所的な静電気の蓄積を防ぐことができ、さらにフロントカーテンエアバッグ本体11の全体から静電気を接地放電することが可能となる。さらに、その導電繊維18に接続して電気的に接地するアース回路を有していることで、フロントカーテンエアバッグ本体11からアース回路を介して静電気を接地放電することができ、フロントカーテンエアバッグ本体11の帯電を確実に防ぐことができる。
【0050】
〔静電気対策の構成について〕
以上説明したフロントカーテンエアバッグ装置の実施形態において、フロントカーテンエアバッグ本体11の基布に発生する静電気を除去する構成は重要なものであり、以下にその静電気対策の構成について詳細に説明する。
【0051】
まず、上記のフロントカーテンエアバッグ本体にかかわらず一般的なエアバッグ本体を構成する基布は、そのほとんどが合成繊維、金属、及び合成樹脂の材料からできており、合成繊維のエアバッグ本体は疎水性でかつ絶縁性を有して折り畳まれてカバーに収納されている。このため、自動車の運転時の振動や揺れによりエアバッグ本体の折畳み部位や巻き込み部位において近接する合成繊維間にかなりの静電気が発生する。
【0052】
このようにしてエアバッグ本体に帯電した静電気は自動車のエンジンを停止すれば徐々に放電していくが、自動車の運転を継続した場合には、エアバッグ本体に帯電する静電気が増加してモジュール内のある部分で蓄積されていき、不測時に高電圧自然放電が発生する恐れがある。
【0053】
一方、今日、自動車には電子機器が多く搭載されており、これら電子機器パッケージ内の例えば、作動電圧は徐々に小さくなって、パッケージ内の素子に対する微弱な電磁波にも影響されやすくなっている。このため、エアバッグ本体に帯電した静電気が放電すると、その電磁波ノイズにより自動運転制御システムのコンピュータに誤動作が生じて、プログラムエラーが生じたり、ナビゲーションシステム及びAV機器に誤動作が生じたり、オーディオシステムに電気的干渉すなわち雑音や画像歪みが生じて搭乗者に不快感を与える恐れがある。
【0054】
また、自動車の衝突時にエアバッグ本体に蓄積された静電気の帯電圧が高いと、静電気放電により乗員に不快感を与える恐れもある。また、エアバッグ本体に高圧流体を供給するインフレータの近傍で静電気放電のコロナが発生するのはエアバッグ装置の円滑な作動の確保上、好ましくない。
【0055】
したがって、エアバッグ本体に発生する静電気の帯電を防止をする構成は必須のものとなっており、特に、エアバッグ用基布に高気密性を付与する表面加工を施すと、絶縁性がより増大するため、大きな静電気が帯電する懸念があった。
【0056】
そこで、前述したように、本発明によるフロントカーテンエアバッグ装置においては、フロントカーテンエアバッグ本体11の基布に導電性を有する導電繊維が織り込まれていることにより、基布に静電気が発生しても導電繊維のコロナ放電により帯電した静電気を中和できるためフロントカーテンエアバッグ本体11から静電気を除去することができる。このため、自動車の衝突時においてフロントカーテンエアバッグ本体11の円滑な展開を確保でき、また乗員が展開したフロントカーテンエアバッグ本体11に触れても不快感を与えることがない。
【0057】
そして、このようにフロントカーテンエアバッグ本体11に高導電性を付与するためには、合成繊維束の一部芯体に高電気導通物質としての数ミクロン単位よりも小さい微粒化炭化物或いは炭素繊維群を混繊させる場合と体積固有抵抗値が10Ω−cm程度より小さく、炭化物微粒子群などを混紡して用いると高導電性繊維からの導体の先端放電(コロナ放電)によりエネルギーの消費及びイオン化された空気が帯電電荷を中和する効果が得られ、これらの高導電性を有する繊維を車体金属部などのアース回路に接地させるようにし、それにより一層の静電気帯電の抑制効果を発揮させるものである。これらの帯電防止の評価としては、20℃、40%RH雰囲気下の摩擦帯電圧が定常的に50V以下になれば充分にその効果が発揮されるとみなせる。
【0058】
以下に、本発明者が上記構成の本発明のフロントカーテンエアバッグ本体11用の基布と、従来のエアバッグ本体用基布について実施した帯電性試験について具体的に説明する。試験方法はJIS L 1094(織物及び編物の帯電性試験方法)に準拠するものであり、図7はこのJIS L 1094で用いられるロータリスタチックテスタを説明する図である。
【0059】
図7において、エアバッグ用本体基布の帯電性試験は、JIS L 1094に規定された摩擦帯電測定法に基づきロータリスタチックテスタ(福井工業技術センター所有、興亜商会株式会社製)で実施し、100×120mmに裁断してJIS L 1094に準拠して24時間20℃40%以下の環境に保持した検体を用いて5回の測定を繰り返し行い、その最大値と最小値を除く3回の測定値の平均値を採用して結果を示す。摩擦試験に供した綿布はJIS L 0803に規定されたものである。
【0060】
まず、一般的にエアバッグ本体用基布に用いる合成繊維(ナイロン66)縫製糸1400デニールのものを用いて縫合工程で高導電性加工を施したインフレーター取り付け孔にアース回路を形成させた。高導電性を付与することについては単糸ポリマー成形段階で微粒子(1〜10μm単位)に粉砕された炭化物(電気抵抗値が10−2Ω-cm程度以下)を繊維中芯に5%まで練りこまれ、通常の合成繊維材料と交絡させ人為的に撚糸及び混紡したものを用いた。
【0061】
これらの高導電性を付与した縫製糸条により縫合して従来通常に用いられているエアバッグ本体を作成したものから任意の方向に高導電性繊維を縫製加工した布帛を150×150mmのサイズで裁断して試験用検体を得た。
【0062】
図7に示すように、帯電性試験は、モータ54の駆動力をVベルト55を介して伝達することにより、金属ホルダー56を介し試験片(供試体)57を取付けた回転ドラム(定速回転体)50を回転させながら、一端が固定され他端に荷重51を加えたテンション負荷用の金属ベルト56に支持された摩擦布(木綿布)52によって60秒間摩擦し、試験片57に発生した静電気の帯電圧を受電部(検出器)53で測定した。
【0063】
図8は、図7に示すロータリスタチックテスタで実施したエアバッグ本体用基布の帯電性試験結果であり、本発明のフロントカーテンエアバッグ本体用基布による実施例と比較例のそれぞれの結果を示す。図8に示す判定において、帯電試験の結果が50V以下を満足しないものは×で示し、50V以下を十分に満足するものは◎で示した。
【0064】
(実施例1)基布25mm毎に高導電繊維束1400デニールを使用して縫い上げたもので、通常の洗濯乾燥工程を施して自然乾燥させて試験片を作製した。
【0065】
(実施例2)前記した条件と同様で900デニール環縫いして縫い上げ後、シリコンベースエマルジョンをコンマコーター塗布してコーテイング処理を施し、200℃×15秒乾燥キュアを施して試験片を作製した。
【0066】
(実施例3)は、前記した条件に加えて900デニール環縫いして縫い上げ後、2液混合タイプのシリコンベースエラストマーをナイフコーター塗布してコーテイング処理を施し、200℃×15秒乾燥キュアを施して試験片を作製した。
【0067】
(比較例1)ウオータージェットルームでの基布打ち込みに際して導電繊維あるいは帯電防止処理を施さずに通常に1400デニールで環縫いして縫い上げた後、2液混合タイプのシリコンベースエラストマーをナイフコーター塗布してコーテイング処理を施し、200℃×15秒乾燥キュアを施して試験片を作製した。
【0068】
(比較例2)市販のノンコートエアバッグ布帛を使用されたものであり、高導電繊維からなる縫製糸条を用いず1400デニールの縫製糸で環縫いして製品化されたものから裁断して試験片を作製した。
【0069】
(比較例3)市販のノンコートエアバッグ布帛を使用されたものであり、高導電繊維からなる縫製糸条を用いず900デニールの縫製糸で本縫いして製品化されたものから試験片を作製した。
【0070】
(比較例4)は、市販のウオータージェット製織法により織り上げられた後、シリコンエラストマーコートされて200℃以上15秒の熱収縮安定化処理を施されているものから裁断し、900デニールの縫製糸で本縫いして試験片を作製した。
【0071】
(比較例5)は、市販のラピエ製織法により織り上げられたノンコート布帛であり、洗濯処理を3回繰り返して自然乾燥したものを裁断し900デニールの縫製糸で本縫いして試験片を作製した。
【0072】
図8の結果に示すように、何れの比較例においても、静電気の帯電圧量は基準を満足する50Vレベルを大きく上回る値を示しており、帯電性が強いことが明白である。そしてその一方で、本発明による何れの実施例においても、経糸方向の最大帯電圧及び緯糸方向の最大帯電圧は、定常的に帯電圧防止の効果が得られる50Vよりも下回っていることが確認できた。
【0073】
このように、JIS L 1094に規定された摩擦帯電圧測定法により測定したエアバッグ用基布の最大摩擦帯電圧を50Vより小さくすることで、フロントカーテンエアバッグ本体11の基布の帯電による影響を減少できる。
【0074】
以上で本発明のフロントカーテンエアバッグ装置の実施形態の説明を終えるが、上述した実施形態の具体的な構成は、本発明の内容を厳密に限定するものではなく、細部に関しては本発明の趣旨に沿って多様に変更できることはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の一実施形態のフロントカーテンエアバッグ装置及びそれを含むエアバッグシステムを備えた車両室内フロントガラス周辺を後部座席側から見た図である。
【図2】図1中のII−II線に沿った断面図であり、フロントカーテンエアバッグ本体の収納状態を示す図である。
【図3】フロントカーテンエアバッグ本体の展開状態の配置と、その基布における導電繊維の織り込み配置を示す図である。
【図4】エアシリンダを長手方向に沿った断面で示す図である。
【図5】2つのフロントカーテンエアバッグ本体を最後まで引き下げた状態を後部座席から見た図である。
【図6】図5中のVI−VI線に沿った断面図である。
【図7】JIS L 1094(織物及び編物の帯電性試験方法)で用いられるロータリスタチックテスタを説明する図である。
【図8】図7に示すロータリスタチックテスタで実施したエアバッグ本体用基布の帯電性試験結果を示す表である。
【符号の説明】
【0076】
1 フロントカーテンエアバッグ装置
2 フロントガラス
8 サンバイザー(日よけ部材)
9 ドライバーズエアバッグ
11 フロントカーテンエアバッグ本体
13 エアシリンダ(ガイド手段、牽引駆動機構)
14 牽引ワイヤ(ガイド手段、牽引駆動機構)
15 インフレータ
18 導電繊維

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基布を縫製した袋体からなり、自動車のフロントガラスに沿って膨張展開するように前記フロントガラス上部近傍に設けられたフロントカーテンエアバッグ本体と、
このフロントカーテンエアバッグ本体を前記膨張展開させるための圧力流体を噴出するインフレータとを有することを特徴とするフロントカーテンエアバッグ装置。
【請求項2】
請求項1記載のフロントカーテンエアバッグ装置において、
前記フロントカーテンエアバッグ本体は、前記フロントガラスを介した日射に対する日よけ部材の近傍に配置されていることを特徴とするフロントカーテンエアバッグ装置。
【請求項3】
請求項2記載のフロントカーテンエアバッグ装置において、
前記フロントカーテンエアバッグ本体は、前記日よけ部材より前記フロントガラス側に配置されていることを特徴とするフロントカーテンエアバッグ装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項記載のフロントカーテンエアバッグ装置において、
前記フロントカーテンエアバッグ本体を前記フロントガラスに沿って膨張展開するようにその方向を拘束しつつガイドするガイド手段を有することを特徴とするフロントカーテンエアバッグ装置。
【請求項5】
請求項4記載のフロントカーテンエアバッグ装置において、
前記ガイド手段は、前記インフレータからの圧力流体によって前記フロントカーテンエアバッグ本体が膨張展開する際に、当該フロントカーテンエアバッグ本体を前記フロントガラスに沿うように牽引駆動する牽引駆動機構であることを特徴とするフロントカーテンエアバッグ装置。
【請求項6】
請求項5記載のフロントカーテンエアバッグ装置において、
前記牽引駆動機構は、前記インフレータからの圧力流体に基づき前記牽引駆動力を発生することを特徴とするフロントカーテンエアバッグ装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項記載のフロントカーテンエアバッグ装置において、
前記フロントカーテンエアバッグ本体は、前記自動車の車幅方向に複数個設けられ、膨張展開時にそれら複数個のフロントカーテンエアバッグ本体で前記フロントグラスの前記車幅方向ほぼ全域を覆うように配置されていることを特徴とするフロントカーテンエアバッグ装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項記載のフロントカーテンエアバッグ装置において、
前記フロントカーテンエアバッグ本体は、導電性を有する導電繊維又は制電性を有する制電繊維が織り込まれた前記基布を備えていることを特徴とするフロントカーテンエアバッグ装置。
【請求項9】
請求項8記載のフロントカーテンエアバッグ装置において、
前記導電繊維に接続して電気的に接地するアース回路を有することを特徴とするフロントカーテンエアバッグ装置。
【請求項10】
基布を縫製した袋体からなり自動車のステアリングホイールに設けられたドライバーズエアバッグ本体と、
基布を縫製した袋体からなり、自動車のフロントガラスに沿って膨張展開するように前記フロントガラス上部近傍に設けられたフロントカーテンエアバッグ本体と、
前記ドライバーズエアバッグ本体を膨張展開させるための圧力流体を噴出する第1インフレータ手段と、
前記フロントカーテンエアバッグ本体を前記膨張展開させるための圧力流体を噴出する第2インフレータ手段とを有することを特徴とするエアバッグシステム。
【請求項11】
基布を縫製した袋体からなり自動車のインストルメントパネル内に設けられたパッセンジャーズエアバッグ本体と、
基布を縫製した袋体からなり、自動車のフロントガラスに沿って膨張展開するように前記フロントガラス上部近傍に設けられたフロントカーテンエアバッグ本体と、
前記パッセンジャーズエアバッグ本体を膨張展開させるための圧力流体を噴出する第3インフレータ手段と、
前記フロントカーテンエアバッグ本体を前記膨張展開させるための圧力流体を噴出する第2インフレータ手段とを有することを特徴とするエアバッグシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−219044(P2006−219044A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−35506(P2005−35506)
【出願日】平成17年2月14日(2005.2.14)
【出願人】(000108591)TKJ株式会社 (111)
【Fターム(参考)】