ブラシレスDCモータの駆動方法および駆動装置
【課題】 従来の2相120度通電進み励磁法に切り替え、負荷トルクに際しても起動することができるブラシレスDCモータの駆動方法および駆動装置を提供する。
【解決手段】 起動時及び低速回転時には、位置検出手段410,420,430から出力された位置信号及び運転指令に基づいて回転子300の時計方向或いは反時計方向の回転のどちらの回転方向にも最大トルクを発生できるように、3相通電タイミング信号を生成して、固定子巻線210,220,230の通電を制御するとともに、所定の速度達成後には、前記位置検出手段410,420,430から出力された位置信号及び運転指令に基づいて回転子300の時計方向或いは反時計方向の回転のどちらの回転方向にも進み位相励磁できるように、2相通電タイミング信号を生成して、固定子巻線210,220,230の通電を制御する方法。
【解決手段】 起動時及び低速回転時には、位置検出手段410,420,430から出力された位置信号及び運転指令に基づいて回転子300の時計方向或いは反時計方向の回転のどちらの回転方向にも最大トルクを発生できるように、3相通電タイミング信号を生成して、固定子巻線210,220,230の通電を制御するとともに、所定の速度達成後には、前記位置検出手段410,420,430から出力された位置信号及び運転指令に基づいて回転子300の時計方向或いは反時計方向の回転のどちらの回転方向にも進み位相励磁できるように、2相通電タイミング信号を生成して、固定子巻線210,220,230の通電を制御する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラシレスDCモータの駆動方法および駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図8は、従来のブラシレスDCモータの構成を例示した概略図である。このモータ10は、U相巻線21、V相巻線22およびW相巻線23を有する固定子20と、永久磁石形回転子30とを備えた3相巻線永久磁石モータである。
U相巻線21は、巻線方向が互いに逆である巻線21a,21bを固定子20の周方向に隣接配置した構成を有し、V相巻線22およびW相巻線23も同様の構成を有する。
【0003】
このモータ10の回転子30の周りには、該回転子30の磁極位置を検出する3個の位置検出器41,42および43が配設されている。これらの位置検出器41,42および43は、固定子20の各相巻線の誘起電圧が最大になった時の回転子30の位置を検出するため、それぞれの出力が電気角で120°の位相差をもつようにその配設位置が選定されている。
【0004】
図示していない駆動装置は、上記各位置検出器41,42,43の出力に基づいて上記モータ10を回転駆動する。図9および図10は、上記モータ10が時計方向および反時計方向に回転駆動される場合の前記各相巻線21,22,23の誘起電圧VIU,VIV,VIW、各位置検出器41,42,43から出力される回転子位置検出信号H1,H2,H3および各相巻線21,22,23に印加される電圧VU ,VV ,VW の波形を示している。
この波形図から明らかなように、従来のブラシレスDCモータ10では、上記印加電圧VU ,VVおよびVWの位相が、それぞれ上記誘起電圧VIU,VIVおよびVIWの位相とほぼ同じになる。
【0005】
このような従来のブラシレスDCモータ10では、相巻線21,22,23の転流前後における該巻線の電流の変化が大きい。このような巻線電流の急激な変化は、モータ10の半径方向に作用する電磁力に急激な変化を生じさせるので、該電磁力に起因するモータ騒音を増大させる。
また、周知のように、モータの各相巻線21〜23のインダクタンス成分のために、該相巻線に流れる電流が印加電圧に対して多少の遅れを生じ、これは、特に該印加電圧の周波数が上昇する高速駆動の場合にモータの運転効率を低下させる。
【0006】
このような問題を解決するには、いわゆる進み位相励磁を実行すれば良い。そこで、モータ10の固定子20の円周方向に時計回り専用の位置検出器と反時計回り専用の位置検出器を設け、これらの位置検出器の出力に基づいて進み位相励磁を実現する方法が提案されている。
もちろん、この場合には、各回転方向専用の位置検出器が進み位相励磁可能な位置に配設され、回転子30の回転方向に応じてそれらの位置検出器が切換え使用されることになる。
しかし、この方法は、位置検出器の配設個数が2倍になるので、モータと制御回路間の配線数が多くなる等の欠点がある。
【0007】
そこで、ブラシレスDCモータの時計回り方向および反時計回り方向についての進み位相励磁を、位置検出器の数を増加することなく実現することが可能なブラシレスDCモータの駆動装置(特許文献1)を先に、提案した。
この特許文献1によると、モータの回転子が時計方向に回る場合には、相巻線には、それぞれ図11に示すような波形の電圧VIU,VIV,VIWが誘起される。図示するように、誘起電圧VIVは誘起電圧VIUよりも電気角で120°位相が遅れ、また、誘起電圧VIWは誘起電圧VIVよりも電気角で120°位相が遅れている。
制御回路は、位置信号H1,H2,H3と、時計回りの回転方向を指令する入力指令とに基づき、時計方向の進み位相励磁を可能にする励磁シーケンスを生成し、その励磁シーケンスに従った図11に示すような励磁信号UH,VH,WH,UL,VL,WLを出力する。
出力回路の各スイッチング素子は、制御回路から出力される上記励磁信号UH,VH,WH,UL,VL,WLによって選択的にスイッチングされ、その結果、モータのU相巻線、V相巻線およびW相巻線には、図11に示す電圧VU ,VV およびVW がそれぞれ印加される。
【0008】
上記印加電圧VU ,VVおよびVW の位相は、それぞれ前記誘起電圧VIU,VIV,VIWの位相より約30°進んでいる。したがって、モータは進み位相励磁されながら時計方向に回転されることになる。上記印加電圧VU ,VVおよびVWは、順次、電気角で120°位相が遅れるように、制御回路に基づいて出力回路の各スイッチング素子をONし、印加電圧VU ,VVおよびVWを継続的に供給する。
【0009】
図12は、このときの、ロータ位置θに対するモータの起動トルクを示したもので、図13は起動時トルクの発生原理を示したものである。各ロータ位置におけるトルクベクトルを示したもので、モータ発生トルクTの最小値は最大値の半分しかないロータの位置によってトルク変動が大きいことが明らかである。図13のベクトル図はロータ位置θに対するモータ発生トルクTの軌跡を示したものである。ロータ位置(電気角)θが次の範囲にあるとき、0≦θ<60°、60°≦θ<120°、120°≦θ<180°、180°≦θ<240°、240°≦θ<300°、300°≦θ<360°、各トルクベクトルTは、次の式になる。T=TU−TV、T=TU−TW、T=TV−TW、T=TV−TU、T=TW−TU、T=TW−TV、となる。図13よりTの最小値は最大値の半分しかなく、ロータ位置によって、トルク変動が大きいことが明らかである。
【特許文献1】特開2002−112577
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このように従来の進み励磁法ではモータ起動時のトルクの大きさはロータの位置によってばらつきが大きい、特に転流時のトルクが最大トルクの半分しかないので、負荷時のモータ起動ができない場合があるという問題点があった。
【0011】
本発明は、このような従来の問題点に着目してなされたもので、起動時、双方向回転ともに最大なトルクを発生できるようにモータの回転指令とロータの位置情報により3相通電タイミング信号を生成し、固定子巻線の通電を制御するとともに、モータは所定の回転数になってから、従来の2相120度通電進み励磁法に切り替え、負荷トルクに際しても起動することができるブラシレスDCモータの駆動方法および駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題を解決するため、磁極のN極とS極がほぼ均一に分布する永久磁石形回転子と、3相固定子巻線の相間の位相差が電気的に120度である固定子と、この固定子のある相巻線の鎖交磁束が最大になる時、前記回転子のN極とS極の切り替え境界位置を基準位置0度とする場合、3個の位置検出器の一つは電気角θ=k*60°(kは整数)の位置に設置され、残りの位置検出器は互いに電気角が60°または120°ずれた位置に設置され、回転子の回転に伴い、位相差のある三つの位置信号を出力される位置検出手段を具備するモータを駆動するための方法であって、起動時及び低速回転時には、前記位置検出手段から出力された位置信号及び運転指令に基づいて回転子の時計方向或いは反時計方向の回転のどちらの回転方向にも最大トルクを発生できるように、3相通電タイミング信号を生成して、固定子巻線の通電を制御するとともに、所定の速度達成後には、前記位置検出手段から出力された位置信号及び運転指令に基づいて回転子の時計方向或いは反時計方向の回転のどちらの回転方向にも進み位相励磁できるように、2相通電タイミング信号を生成して、固定子巻線の通電を制御することにある。
また、本発明は、磁極のN極とS極がほぼ均一に分布する永久磁石形回転子と、3相固定子巻線の相間の位相差が電気的に120度である固定子と、この固定子のある相巻線の鎖交磁束が最大になる時、前記回転子のN極とS極の切り替え境界位置を基準位置0度とする場合、3個の位置検出器のうちの一つを、電気角θ=k*60°(kは整数)の位置に設置し、残りの2つの位置検出器を互いに電気角が60°または120°ずれた位置に設置し、回転子の回転に伴い、位相差のある三つの位置信号を出力される位置検出手段を具備するモータを駆動するための装置であって、起動時及び低速回転時には、前記位置検出手段から出力された位置信号及び運転指令に基づいて前記回転子の時計方向或いは反時計方向の回転のどちらの回転方向にも最大トルク発生できるよう3相通電タイミング信号を生成して、固定子巻線の通電を制御する制御手段と、所定の速度に達成後には、位置検出手段から出力された位置信号及び運転指令に基づいて回転子の時計方向或いは反時計方向の回転のどちらの回転方向にも進み位相励磁できるよう2相通電タイミング信号を生成して、固定子巻線の通電を制御する制御手段を備えたことにある。
【発明の効果】
【0013】
本発明の効果としては、従来のモータに比べて、最小トルクが大幅に改善でき、より大きい負荷トルクでも起動が可能である。また、ロータ位置に対するモータトルクの変化が小さくなるので、モータがより滑らかに起動可能であり、トルク変動による振動や騒音も低減可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1は、本発明のブラシレスDCモータの駆動装置の実施形態を示すブロック図、図2は図1の出力回路、図3は、本発明に係るブラシレスDCモータの構成を例示した概略図である。
【0015】
図1において、ブラシレスDCモータ100は、U相巻線210、V相巻線220およびW相巻線230を有する固定子200と、永久磁石形回転子300とを備えた3相巻線永久磁石モータである。
ブラシレスDCモータ100には、入力指令に基づいて出力する制御回路500と、この制御回路500の主力信号に従ってモータ100に駆動電流を供給する出力回路600が接続されている。ブラシレスDCモータ100には、位置検出器410,420,430が設けられ、この位置検出器410,420,430によって検出された出力信号H1,H2,H3が、制御回路500にフィードバックされるものである。制御回路500は、図示していないが、モータ100の励磁シーケンスを実行するシーケンサを含み、上記位置検出器410,420,430の出力信号に基づいて上記励磁シーケンスに従った励磁信号を出力回路600に出力する。
【0016】
上記出力回路600は、図2に示すように、直流電源610と、モータ100の相巻線210〜230に接続された電力変換主回路620とを備えている。電力変換主回路620は、スイッチング素子としてのトランジスタT1,T4と、トランジスタT2,T5と、トランジスタT3,T6の各直列回路を互いに直流電源610に並列接続したもので、各トランジスタT1〜T6にはそれぞれダイオードD1〜D6がそれぞれ並列接続されている。トランジスタT1,T4と、トランジスタT2,T5と、トランジスタT3,T6の各中点は、それぞれブラシレスDCモータ100のU相巻線210、V相巻線220およびW相巻線230に接続されている。
電力変換主回路620に設けられた各トランジスタT1〜T6は、前記制御回路500から出力される励磁信号によって選択的に開閉され、これによって、上記巻線210〜230が上記励磁シーケンスに従って励磁される。
【0017】
前記ブラシレスDCモータ100の具体的な構成は、図3に示すように構成されている。
このブラシレスDCモータ100において、U相巻線210、V相巻線220およびW相巻線230は相間の電気的位相差が120°であり、また、回転子300の磁極はN極とS極がほぼ均一に分布している。
なお、隣接するU相巻線210a、210bは、互いの巻線方向が逆であり、同様に、隣接するV相巻線220a,220bおよびW相巻線230a,230bも互いの巻線方向が逆である。
【0018】
このブラシレスDCモータ100の回転子300の周囲には、該回転子300の磁極位置を検出する3個の前記位置検出器410,420および430が配設されている。なお、これらの位置検出器410,420および430としては、例えば、ホール効果磁気センサが適用される。
【0019】
次に、上記位置検出器410,420および430の配設位置について説明する。
固定子200の任意の相巻線に誘起される電圧(図4および図5の最上方に記載)は、回転子300のN極とS極の境界がその相巻線の中間位置を通過するときにゼロになる。
すなわち、例えば、上記N極とS極の境界が固定子200のU相巻線210の中間位置(巻線210a,210bの中間位置)を通過した時には、このU相巻線210の鎖交磁束が最大になるので、該巻線210の誘起電圧がゼロとなる。
【0020】
上記位置検出器410は、任意の相巻線の誘起電圧がゼロになる位置を基準として、この基準位置から電気角θ=k・60°(k:整数)だけ離れた位置に配設される。
なお、図3のモータ100の例では、U相巻線210の中間位置を基準とし、その基準位置から電気角θ=0だけ離れた位置、つまり、上記基準位置と同じ位置に位置検出器410を配設している。
一方、前記第2の位置検出器420および第3の位置検出器430は、位置検出器410に対して電気角が120°ずれる位置、つまり、個々の出力信号の位相が位置検出器410の出力の位相に対して120°ずれる位置にそれぞれ配設されている。
【0021】
上記位置検出器410,420,430の出力信号H1,H2,H3は、図1に示すように、制御回路500にフィードバックされる。制御回路500は、図示していないが、モータ100の励磁シーケンスを実行するシーケンサを含み、上記位置検出器410,420,430の出力信号に基づいて上記励磁シーケンスに従った励磁信号を出力回路600に出力する。
【0022】
上記位置検出器410,420,430、制御回路500、および出力回路600は、本発明に係る駆動装置を構成している。
以下、この駆動装置の作用を図4および図5により詳細に説明する。図4は時計方向への回転時の波形を示し、図5は反時計方向への回転時の波形を示している。
モータ100の回転子300が時計方向に回る場合には、上記相巻線210,220,230には、それぞれ図4に示すような波形の電圧VIU,VIV,VIWが誘起される。図示するように、誘起電圧VIVは誘起電圧VIUよりも電気角で120°位相が遅れ、また、誘起電圧VIWは誘起電圧VIVよりも電気角で120°位相が遅れている。
【0023】
一方、上記位置検出器410,420および430は、回転子300の時計方向の回転に伴って磁極位置信号H1,H2およびH3を、互いに120度ずつずらして、発生する。
各位置検出器410,420および430は、それぞれ前述した位置に配設されている。それ故、上記位置信号H1,H2およびH3は、上記誘起電圧VIU,VIVおよびVIWがゼロになるタイミングでレベル変化する3相信号であって、位置信号H2が位置信号H1より電気角で120°位相が遅れ、また、位置信号H3が位置信号H2より電気角で120°位相が遅れている。
【0024】
前記制御回路500は、位置信号H1,H2,H3と、時計回りの回転方向を指令する入力指令とに基づき、時計方向の進み位相励磁を可能にする励磁シーケンスを生成し、その励磁シーケンスに従った図4に示すような励磁信号UH,VH,WH,UL,VL,WLを出力する。
【0025】
前記出力回路600の各スイッチング素子は、上記制御回路500から出力される上記励磁信号UH,VH,WH,UL,VL,WLによって選択的にスイッチングされ、その結果、モータ100のU相巻線210、V相巻線220およびW相巻線230には、図4に示す電圧VU ,VV およびVW がそれぞれ印加される。
上記印加電圧VU ,VVおよびVW の位相は、それぞれ前記誘起電圧VIU,VIV,VIWの位相より約30°進んでいる。したがって、モータ100は進み位相励磁されながら時計方向に回転されることになる。上記印加電圧VU ,VVおよびVWは、順次、電気角で120°位相が遅れるように、制御回路500に基づいて出力回路600の各スイッチング素子をONし、起動後、所定速度までは印加電圧VU ,VVおよびVWの3相全てを継続的に供給し、所定速度に達した後は図11のように2相に印加電圧を供給する。
【0026】
次に、モータ100の回転子300が反時計方向に回る場合には、前記相巻線210,220および230にそれぞれ図5に示すような波形の電圧VIU,VIVおよびVIWが誘起される。この場合、誘起電圧VIVは誘起電圧VIWよりも電気角で120°位相が遅れ、また、誘起電圧VIUは誘起電圧VIVよりも電気角で120°位相が遅れる。
【0027】
一方、位置検出器410,420および430は、位置信号H1,H2およびH3をそれぞれ発生する。この位置信号H1,H2およびH3は、それぞれ上記誘起電圧VIU,VIVおよびVIWがゼロになるタイミングでレベル変化するので、位置信号H2が位置信号H3より電気角で120°位相が遅れ、また、位置信号H1が位置信号H2より電気角で120°位相が遅れている。
【0028】
前記制御回路500は、上記位置信号H1,H2,H3と、反時計回りの回転方向を指令する入力指令とに基づき、反時計方向の進み位相励磁を可能にする励磁シーケンスを生成し、その励磁シーケンスに従った図5に示す励磁信号UH,VH,WH,UL,VL,WLを出力する。
【0029】
図2に示す出力回路600の各スイッチング素子は、上記制御回路500から出力される上記励磁信号UH,VH,WH,UL,VL,WLによって選択的にスイッチングされ、その結果、モータ100のU相巻線210、V相巻線220およびW相巻線230には、図4に示す電圧VU ,VV およびVW がそれぞれ印加される。
上記印加電圧VU ,VV およびVW の位相は、図6に示すように、それぞれ前記誘起電圧VIU,VIVおよびVIWの位相に応じて滑らかなトルク曲線を描くことができる。
このときの起動時トルクの発生原理を図7で説明すると、合成トルクベクトルを30度遅らせて3相励磁で実現可能である。図7のベクトル図は、起動時のロータ位置θに対するモータ発生トルクTの軌跡を示したものである。ロータ位置(電気角)θが次の範囲にあるとき、0≦θ<60°のときT=TUW―V、60°≦θ<120°のときT=TU―VW、120°≦θ<180°のときT=TUV―W、180°≦θ<240°のときT=TV―UW、240°≦θ<300°のときT=TVW―U、300°≦θ<360°のときT=TW―UV、となり、三相励磁トルクベクトルは、次の式になる。
【0030】
TUW―V=TU+TW−TV(電流はU,W相からV相に流れる。)
TU―VW=TU−TV−TW(電流はU相からV,W相に流れる。)
TUV―W=TU+TV−TW(電流はU,V相からW相に流れる。)
TV―UW=TV−TU−TW(電流はV相からU,W相に流れる。)
TVW―U=TV+TW−TU(電流はV,W相からU相に流れる。)
TW―UV=TW−TU−TV(電流はW相からU,V相に流れる。)
モータ発生トルクは、図7に示すように、最小値が最大値の86.6%になり、トルク変動は従来の励磁方法に比べて大幅に改善しているのが明らかである。
【0031】
以上の説明から明らかなように、上記実施形態に係る駆動方法によれば、所定の速度になるまで、3相励磁を行いその後は2相励磁で駆動するので、従来の2相励磁モータの制御方法に比べて、最小起動トルクが大幅に改善でき、より大きい負荷トルクでも起動が可能となる。ロータ位置に対するモータトルクの変化が小さくなるので、モータ100をより滑らかに起動することができるとともに、トルク変動による振動や騒音も低減することができる。
さらに、モータ100が時計方向、反時計方向のいずれの方向に回転する場合でも、3個の磁極位置検出器410〜430の出力に基づいて滑らかな位相励磁を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係るブラシレスDCモータの駆動装置の実施形態を例示したブロック図である。
【図2】出力回路の構成を例示した結線図である。
【図3】ブラシレスDCモータの構成を例示した模式図である。
【図4】図3のモータが時計方向回転する場合の各主要部分の波形を示す波形図である。
【図5】図3のモータが反時計方向回転する場合の各主要部分の波形を示す波形図である。
【図6】本発明に係るブラシレスDCモータの駆動方法におけるモータの起動時のロータ位置対モータトルクの特性を示す波形図である。
【図7】本発明に係るブラシレスDCモータの駆動方法におけるモータの起動時のトルク発生原理を示すベクトル図である。
【図8】従来のブラシレスDCモータの構成を例示した概略図である。
【図9】図8のモータが時計方向回転する場合の各主要部分の波形を示す波形図である。
【図10】図8のモータが反時計方向回転する場合の各主要部分の波形を示す波形図である。
【図11】従来のブラシレスDCモータの構成を例示した模式図である。
【図12】従来のロータ位置θに対する30度進み励磁モータの起動トルクを示す波形図である。
【図13】従来の起動時トルクの発生原理を示すベクトル図である。
【符号の説明】
【0033】
100 ブラシレスDCモータ
200 固定子
210 U相巻線
220 V相巻線
230 W相巻線
300 永久磁石形回転子
410,420,430 位置検出器(位置検出手段)
500 制御回路
600 出力回路
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラシレスDCモータの駆動方法および駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図8は、従来のブラシレスDCモータの構成を例示した概略図である。このモータ10は、U相巻線21、V相巻線22およびW相巻線23を有する固定子20と、永久磁石形回転子30とを備えた3相巻線永久磁石モータである。
U相巻線21は、巻線方向が互いに逆である巻線21a,21bを固定子20の周方向に隣接配置した構成を有し、V相巻線22およびW相巻線23も同様の構成を有する。
【0003】
このモータ10の回転子30の周りには、該回転子30の磁極位置を検出する3個の位置検出器41,42および43が配設されている。これらの位置検出器41,42および43は、固定子20の各相巻線の誘起電圧が最大になった時の回転子30の位置を検出するため、それぞれの出力が電気角で120°の位相差をもつようにその配設位置が選定されている。
【0004】
図示していない駆動装置は、上記各位置検出器41,42,43の出力に基づいて上記モータ10を回転駆動する。図9および図10は、上記モータ10が時計方向および反時計方向に回転駆動される場合の前記各相巻線21,22,23の誘起電圧VIU,VIV,VIW、各位置検出器41,42,43から出力される回転子位置検出信号H1,H2,H3および各相巻線21,22,23に印加される電圧VU ,VV ,VW の波形を示している。
この波形図から明らかなように、従来のブラシレスDCモータ10では、上記印加電圧VU ,VVおよびVWの位相が、それぞれ上記誘起電圧VIU,VIVおよびVIWの位相とほぼ同じになる。
【0005】
このような従来のブラシレスDCモータ10では、相巻線21,22,23の転流前後における該巻線の電流の変化が大きい。このような巻線電流の急激な変化は、モータ10の半径方向に作用する電磁力に急激な変化を生じさせるので、該電磁力に起因するモータ騒音を増大させる。
また、周知のように、モータの各相巻線21〜23のインダクタンス成分のために、該相巻線に流れる電流が印加電圧に対して多少の遅れを生じ、これは、特に該印加電圧の周波数が上昇する高速駆動の場合にモータの運転効率を低下させる。
【0006】
このような問題を解決するには、いわゆる進み位相励磁を実行すれば良い。そこで、モータ10の固定子20の円周方向に時計回り専用の位置検出器と反時計回り専用の位置検出器を設け、これらの位置検出器の出力に基づいて進み位相励磁を実現する方法が提案されている。
もちろん、この場合には、各回転方向専用の位置検出器が進み位相励磁可能な位置に配設され、回転子30の回転方向に応じてそれらの位置検出器が切換え使用されることになる。
しかし、この方法は、位置検出器の配設個数が2倍になるので、モータと制御回路間の配線数が多くなる等の欠点がある。
【0007】
そこで、ブラシレスDCモータの時計回り方向および反時計回り方向についての進み位相励磁を、位置検出器の数を増加することなく実現することが可能なブラシレスDCモータの駆動装置(特許文献1)を先に、提案した。
この特許文献1によると、モータの回転子が時計方向に回る場合には、相巻線には、それぞれ図11に示すような波形の電圧VIU,VIV,VIWが誘起される。図示するように、誘起電圧VIVは誘起電圧VIUよりも電気角で120°位相が遅れ、また、誘起電圧VIWは誘起電圧VIVよりも電気角で120°位相が遅れている。
制御回路は、位置信号H1,H2,H3と、時計回りの回転方向を指令する入力指令とに基づき、時計方向の進み位相励磁を可能にする励磁シーケンスを生成し、その励磁シーケンスに従った図11に示すような励磁信号UH,VH,WH,UL,VL,WLを出力する。
出力回路の各スイッチング素子は、制御回路から出力される上記励磁信号UH,VH,WH,UL,VL,WLによって選択的にスイッチングされ、その結果、モータのU相巻線、V相巻線およびW相巻線には、図11に示す電圧VU ,VV およびVW がそれぞれ印加される。
【0008】
上記印加電圧VU ,VVおよびVW の位相は、それぞれ前記誘起電圧VIU,VIV,VIWの位相より約30°進んでいる。したがって、モータは進み位相励磁されながら時計方向に回転されることになる。上記印加電圧VU ,VVおよびVWは、順次、電気角で120°位相が遅れるように、制御回路に基づいて出力回路の各スイッチング素子をONし、印加電圧VU ,VVおよびVWを継続的に供給する。
【0009】
図12は、このときの、ロータ位置θに対するモータの起動トルクを示したもので、図13は起動時トルクの発生原理を示したものである。各ロータ位置におけるトルクベクトルを示したもので、モータ発生トルクTの最小値は最大値の半分しかないロータの位置によってトルク変動が大きいことが明らかである。図13のベクトル図はロータ位置θに対するモータ発生トルクTの軌跡を示したものである。ロータ位置(電気角)θが次の範囲にあるとき、0≦θ<60°、60°≦θ<120°、120°≦θ<180°、180°≦θ<240°、240°≦θ<300°、300°≦θ<360°、各トルクベクトルTは、次の式になる。T=TU−TV、T=TU−TW、T=TV−TW、T=TV−TU、T=TW−TU、T=TW−TV、となる。図13よりTの最小値は最大値の半分しかなく、ロータ位置によって、トルク変動が大きいことが明らかである。
【特許文献1】特開2002−112577
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このように従来の進み励磁法ではモータ起動時のトルクの大きさはロータの位置によってばらつきが大きい、特に転流時のトルクが最大トルクの半分しかないので、負荷時のモータ起動ができない場合があるという問題点があった。
【0011】
本発明は、このような従来の問題点に着目してなされたもので、起動時、双方向回転ともに最大なトルクを発生できるようにモータの回転指令とロータの位置情報により3相通電タイミング信号を生成し、固定子巻線の通電を制御するとともに、モータは所定の回転数になってから、従来の2相120度通電進み励磁法に切り替え、負荷トルクに際しても起動することができるブラシレスDCモータの駆動方法および駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題を解決するため、磁極のN極とS極がほぼ均一に分布する永久磁石形回転子と、3相固定子巻線の相間の位相差が電気的に120度である固定子と、この固定子のある相巻線の鎖交磁束が最大になる時、前記回転子のN極とS極の切り替え境界位置を基準位置0度とする場合、3個の位置検出器の一つは電気角θ=k*60°(kは整数)の位置に設置され、残りの位置検出器は互いに電気角が60°または120°ずれた位置に設置され、回転子の回転に伴い、位相差のある三つの位置信号を出力される位置検出手段を具備するモータを駆動するための方法であって、起動時及び低速回転時には、前記位置検出手段から出力された位置信号及び運転指令に基づいて回転子の時計方向或いは反時計方向の回転のどちらの回転方向にも最大トルクを発生できるように、3相通電タイミング信号を生成して、固定子巻線の通電を制御するとともに、所定の速度達成後には、前記位置検出手段から出力された位置信号及び運転指令に基づいて回転子の時計方向或いは反時計方向の回転のどちらの回転方向にも進み位相励磁できるように、2相通電タイミング信号を生成して、固定子巻線の通電を制御することにある。
また、本発明は、磁極のN極とS極がほぼ均一に分布する永久磁石形回転子と、3相固定子巻線の相間の位相差が電気的に120度である固定子と、この固定子のある相巻線の鎖交磁束が最大になる時、前記回転子のN極とS極の切り替え境界位置を基準位置0度とする場合、3個の位置検出器のうちの一つを、電気角θ=k*60°(kは整数)の位置に設置し、残りの2つの位置検出器を互いに電気角が60°または120°ずれた位置に設置し、回転子の回転に伴い、位相差のある三つの位置信号を出力される位置検出手段を具備するモータを駆動するための装置であって、起動時及び低速回転時には、前記位置検出手段から出力された位置信号及び運転指令に基づいて前記回転子の時計方向或いは反時計方向の回転のどちらの回転方向にも最大トルク発生できるよう3相通電タイミング信号を生成して、固定子巻線の通電を制御する制御手段と、所定の速度に達成後には、位置検出手段から出力された位置信号及び運転指令に基づいて回転子の時計方向或いは反時計方向の回転のどちらの回転方向にも進み位相励磁できるよう2相通電タイミング信号を生成して、固定子巻線の通電を制御する制御手段を備えたことにある。
【発明の効果】
【0013】
本発明の効果としては、従来のモータに比べて、最小トルクが大幅に改善でき、より大きい負荷トルクでも起動が可能である。また、ロータ位置に対するモータトルクの変化が小さくなるので、モータがより滑らかに起動可能であり、トルク変動による振動や騒音も低減可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1は、本発明のブラシレスDCモータの駆動装置の実施形態を示すブロック図、図2は図1の出力回路、図3は、本発明に係るブラシレスDCモータの構成を例示した概略図である。
【0015】
図1において、ブラシレスDCモータ100は、U相巻線210、V相巻線220およびW相巻線230を有する固定子200と、永久磁石形回転子300とを備えた3相巻線永久磁石モータである。
ブラシレスDCモータ100には、入力指令に基づいて出力する制御回路500と、この制御回路500の主力信号に従ってモータ100に駆動電流を供給する出力回路600が接続されている。ブラシレスDCモータ100には、位置検出器410,420,430が設けられ、この位置検出器410,420,430によって検出された出力信号H1,H2,H3が、制御回路500にフィードバックされるものである。制御回路500は、図示していないが、モータ100の励磁シーケンスを実行するシーケンサを含み、上記位置検出器410,420,430の出力信号に基づいて上記励磁シーケンスに従った励磁信号を出力回路600に出力する。
【0016】
上記出力回路600は、図2に示すように、直流電源610と、モータ100の相巻線210〜230に接続された電力変換主回路620とを備えている。電力変換主回路620は、スイッチング素子としてのトランジスタT1,T4と、トランジスタT2,T5と、トランジスタT3,T6の各直列回路を互いに直流電源610に並列接続したもので、各トランジスタT1〜T6にはそれぞれダイオードD1〜D6がそれぞれ並列接続されている。トランジスタT1,T4と、トランジスタT2,T5と、トランジスタT3,T6の各中点は、それぞれブラシレスDCモータ100のU相巻線210、V相巻線220およびW相巻線230に接続されている。
電力変換主回路620に設けられた各トランジスタT1〜T6は、前記制御回路500から出力される励磁信号によって選択的に開閉され、これによって、上記巻線210〜230が上記励磁シーケンスに従って励磁される。
【0017】
前記ブラシレスDCモータ100の具体的な構成は、図3に示すように構成されている。
このブラシレスDCモータ100において、U相巻線210、V相巻線220およびW相巻線230は相間の電気的位相差が120°であり、また、回転子300の磁極はN極とS極がほぼ均一に分布している。
なお、隣接するU相巻線210a、210bは、互いの巻線方向が逆であり、同様に、隣接するV相巻線220a,220bおよびW相巻線230a,230bも互いの巻線方向が逆である。
【0018】
このブラシレスDCモータ100の回転子300の周囲には、該回転子300の磁極位置を検出する3個の前記位置検出器410,420および430が配設されている。なお、これらの位置検出器410,420および430としては、例えば、ホール効果磁気センサが適用される。
【0019】
次に、上記位置検出器410,420および430の配設位置について説明する。
固定子200の任意の相巻線に誘起される電圧(図4および図5の最上方に記載)は、回転子300のN極とS極の境界がその相巻線の中間位置を通過するときにゼロになる。
すなわち、例えば、上記N極とS極の境界が固定子200のU相巻線210の中間位置(巻線210a,210bの中間位置)を通過した時には、このU相巻線210の鎖交磁束が最大になるので、該巻線210の誘起電圧がゼロとなる。
【0020】
上記位置検出器410は、任意の相巻線の誘起電圧がゼロになる位置を基準として、この基準位置から電気角θ=k・60°(k:整数)だけ離れた位置に配設される。
なお、図3のモータ100の例では、U相巻線210の中間位置を基準とし、その基準位置から電気角θ=0だけ離れた位置、つまり、上記基準位置と同じ位置に位置検出器410を配設している。
一方、前記第2の位置検出器420および第3の位置検出器430は、位置検出器410に対して電気角が120°ずれる位置、つまり、個々の出力信号の位相が位置検出器410の出力の位相に対して120°ずれる位置にそれぞれ配設されている。
【0021】
上記位置検出器410,420,430の出力信号H1,H2,H3は、図1に示すように、制御回路500にフィードバックされる。制御回路500は、図示していないが、モータ100の励磁シーケンスを実行するシーケンサを含み、上記位置検出器410,420,430の出力信号に基づいて上記励磁シーケンスに従った励磁信号を出力回路600に出力する。
【0022】
上記位置検出器410,420,430、制御回路500、および出力回路600は、本発明に係る駆動装置を構成している。
以下、この駆動装置の作用を図4および図5により詳細に説明する。図4は時計方向への回転時の波形を示し、図5は反時計方向への回転時の波形を示している。
モータ100の回転子300が時計方向に回る場合には、上記相巻線210,220,230には、それぞれ図4に示すような波形の電圧VIU,VIV,VIWが誘起される。図示するように、誘起電圧VIVは誘起電圧VIUよりも電気角で120°位相が遅れ、また、誘起電圧VIWは誘起電圧VIVよりも電気角で120°位相が遅れている。
【0023】
一方、上記位置検出器410,420および430は、回転子300の時計方向の回転に伴って磁極位置信号H1,H2およびH3を、互いに120度ずつずらして、発生する。
各位置検出器410,420および430は、それぞれ前述した位置に配設されている。それ故、上記位置信号H1,H2およびH3は、上記誘起電圧VIU,VIVおよびVIWがゼロになるタイミングでレベル変化する3相信号であって、位置信号H2が位置信号H1より電気角で120°位相が遅れ、また、位置信号H3が位置信号H2より電気角で120°位相が遅れている。
【0024】
前記制御回路500は、位置信号H1,H2,H3と、時計回りの回転方向を指令する入力指令とに基づき、時計方向の進み位相励磁を可能にする励磁シーケンスを生成し、その励磁シーケンスに従った図4に示すような励磁信号UH,VH,WH,UL,VL,WLを出力する。
【0025】
前記出力回路600の各スイッチング素子は、上記制御回路500から出力される上記励磁信号UH,VH,WH,UL,VL,WLによって選択的にスイッチングされ、その結果、モータ100のU相巻線210、V相巻線220およびW相巻線230には、図4に示す電圧VU ,VV およびVW がそれぞれ印加される。
上記印加電圧VU ,VVおよびVW の位相は、それぞれ前記誘起電圧VIU,VIV,VIWの位相より約30°進んでいる。したがって、モータ100は進み位相励磁されながら時計方向に回転されることになる。上記印加電圧VU ,VVおよびVWは、順次、電気角で120°位相が遅れるように、制御回路500に基づいて出力回路600の各スイッチング素子をONし、起動後、所定速度までは印加電圧VU ,VVおよびVWの3相全てを継続的に供給し、所定速度に達した後は図11のように2相に印加電圧を供給する。
【0026】
次に、モータ100の回転子300が反時計方向に回る場合には、前記相巻線210,220および230にそれぞれ図5に示すような波形の電圧VIU,VIVおよびVIWが誘起される。この場合、誘起電圧VIVは誘起電圧VIWよりも電気角で120°位相が遅れ、また、誘起電圧VIUは誘起電圧VIVよりも電気角で120°位相が遅れる。
【0027】
一方、位置検出器410,420および430は、位置信号H1,H2およびH3をそれぞれ発生する。この位置信号H1,H2およびH3は、それぞれ上記誘起電圧VIU,VIVおよびVIWがゼロになるタイミングでレベル変化するので、位置信号H2が位置信号H3より電気角で120°位相が遅れ、また、位置信号H1が位置信号H2より電気角で120°位相が遅れている。
【0028】
前記制御回路500は、上記位置信号H1,H2,H3と、反時計回りの回転方向を指令する入力指令とに基づき、反時計方向の進み位相励磁を可能にする励磁シーケンスを生成し、その励磁シーケンスに従った図5に示す励磁信号UH,VH,WH,UL,VL,WLを出力する。
【0029】
図2に示す出力回路600の各スイッチング素子は、上記制御回路500から出力される上記励磁信号UH,VH,WH,UL,VL,WLによって選択的にスイッチングされ、その結果、モータ100のU相巻線210、V相巻線220およびW相巻線230には、図4に示す電圧VU ,VV およびVW がそれぞれ印加される。
上記印加電圧VU ,VV およびVW の位相は、図6に示すように、それぞれ前記誘起電圧VIU,VIVおよびVIWの位相に応じて滑らかなトルク曲線を描くことができる。
このときの起動時トルクの発生原理を図7で説明すると、合成トルクベクトルを30度遅らせて3相励磁で実現可能である。図7のベクトル図は、起動時のロータ位置θに対するモータ発生トルクTの軌跡を示したものである。ロータ位置(電気角)θが次の範囲にあるとき、0≦θ<60°のときT=TUW―V、60°≦θ<120°のときT=TU―VW、120°≦θ<180°のときT=TUV―W、180°≦θ<240°のときT=TV―UW、240°≦θ<300°のときT=TVW―U、300°≦θ<360°のときT=TW―UV、となり、三相励磁トルクベクトルは、次の式になる。
【0030】
TUW―V=TU+TW−TV(電流はU,W相からV相に流れる。)
TU―VW=TU−TV−TW(電流はU相からV,W相に流れる。)
TUV―W=TU+TV−TW(電流はU,V相からW相に流れる。)
TV―UW=TV−TU−TW(電流はV相からU,W相に流れる。)
TVW―U=TV+TW−TU(電流はV,W相からU相に流れる。)
TW―UV=TW−TU−TV(電流はW相からU,V相に流れる。)
モータ発生トルクは、図7に示すように、最小値が最大値の86.6%になり、トルク変動は従来の励磁方法に比べて大幅に改善しているのが明らかである。
【0031】
以上の説明から明らかなように、上記実施形態に係る駆動方法によれば、所定の速度になるまで、3相励磁を行いその後は2相励磁で駆動するので、従来の2相励磁モータの制御方法に比べて、最小起動トルクが大幅に改善でき、より大きい負荷トルクでも起動が可能となる。ロータ位置に対するモータトルクの変化が小さくなるので、モータ100をより滑らかに起動することができるとともに、トルク変動による振動や騒音も低減することができる。
さらに、モータ100が時計方向、反時計方向のいずれの方向に回転する場合でも、3個の磁極位置検出器410〜430の出力に基づいて滑らかな位相励磁を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係るブラシレスDCモータの駆動装置の実施形態を例示したブロック図である。
【図2】出力回路の構成を例示した結線図である。
【図3】ブラシレスDCモータの構成を例示した模式図である。
【図4】図3のモータが時計方向回転する場合の各主要部分の波形を示す波形図である。
【図5】図3のモータが反時計方向回転する場合の各主要部分の波形を示す波形図である。
【図6】本発明に係るブラシレスDCモータの駆動方法におけるモータの起動時のロータ位置対モータトルクの特性を示す波形図である。
【図7】本発明に係るブラシレスDCモータの駆動方法におけるモータの起動時のトルク発生原理を示すベクトル図である。
【図8】従来のブラシレスDCモータの構成を例示した概略図である。
【図9】図8のモータが時計方向回転する場合の各主要部分の波形を示す波形図である。
【図10】図8のモータが反時計方向回転する場合の各主要部分の波形を示す波形図である。
【図11】従来のブラシレスDCモータの構成を例示した模式図である。
【図12】従来のロータ位置θに対する30度進み励磁モータの起動トルクを示す波形図である。
【図13】従来の起動時トルクの発生原理を示すベクトル図である。
【符号の説明】
【0033】
100 ブラシレスDCモータ
200 固定子
210 U相巻線
220 V相巻線
230 W相巻線
300 永久磁石形回転子
410,420,430 位置検出器(位置検出手段)
500 制御回路
600 出力回路
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁極のN極とS極がほぼ均一に分布する永久磁石形回転子と、3相固定子巻線の相間の位相差が電気的に120度である固定子と、この固定子のある相巻線の鎖交磁束が最大になる時、前記回転子のN極とS極の切り替え境界位置を基準位置0度とする場合、3個の位置検出器の一つは電気角θ=k*60°(kは整数)の位置に設置され、残りの位置検出器は互いに電気角が60°または120°ずれた位置に設置され、回転子の回転に伴い、位相差のある三つの位置信号を出力される位置検出手段を具備するモータを駆動するための方法であって、起動時及び低速回転時には、前記位置検出手段から出力された位置信号及び運転指令に基づいて回転子の時計方向或いは反時計方向の回転のどちらの回転方向にも最大トルクを発生できるように、3相通電タイミング信号を生成して、固定子巻線の通電を制御するとともに、所定の速度達成後には、前記位置検出手段から出力された位置信号及び運転指令に基づいて回転子の時計方向或いは反時計方向の回転のどちらの回転方向にも進み位相励磁できるように、2相通電タイミング信号を生成して、固定子巻線の通電を制御することを特徴とするブラシレスDCモータの駆動方法。
【請求項2】
磁極のN極とS極がほぼ均一に分布する永久磁石形回転子と、3相固定子巻線の相間の位相差が電気的に120度である固定子と、この固定子のある相巻線の鎖交磁束が最大になる時、前記回転子のN極とS極の切り替え境界位置を基準位置0度とする場合、3個の位置検出器のうちの一つを、電気角θ=k*60°(kは整数)の位置に設置し、残りの2つの位置検出器を互いに電気角が60°または120°ずれた位置に設置し、回転子の回転に伴い、位相差のある三つの位置信号を出力される位置検出手段を具備するモータを駆動するための装置であって、起動時及び低速回転時には、前記位置検出手段から出力された位置信号及び運転指令に基づいて前記回転子の時計方向或いは反時計方向の回転のどちらの回転方向にも最大トルク発生できるよう3相通電タイミング信号を生成して、固定子巻線の通電を制御する制御手段と、所定の速度に達成後には、位置検出手段から出力された位置信号及び運転指令に基づいて回転子の時計方向或いは反時計方向の回転のどちらの回転方向にも進み位相励磁できるよう2相通電タイミング信号を生成して、固定子巻線の通電を制御する制御手段を備えたことを特徴とするブラシレスDCモータの駆動装置。
【請求項1】
磁極のN極とS極がほぼ均一に分布する永久磁石形回転子と、3相固定子巻線の相間の位相差が電気的に120度である固定子と、この固定子のある相巻線の鎖交磁束が最大になる時、前記回転子のN極とS極の切り替え境界位置を基準位置0度とする場合、3個の位置検出器の一つは電気角θ=k*60°(kは整数)の位置に設置され、残りの位置検出器は互いに電気角が60°または120°ずれた位置に設置され、回転子の回転に伴い、位相差のある三つの位置信号を出力される位置検出手段を具備するモータを駆動するための方法であって、起動時及び低速回転時には、前記位置検出手段から出力された位置信号及び運転指令に基づいて回転子の時計方向或いは反時計方向の回転のどちらの回転方向にも最大トルクを発生できるように、3相通電タイミング信号を生成して、固定子巻線の通電を制御するとともに、所定の速度達成後には、前記位置検出手段から出力された位置信号及び運転指令に基づいて回転子の時計方向或いは反時計方向の回転のどちらの回転方向にも進み位相励磁できるように、2相通電タイミング信号を生成して、固定子巻線の通電を制御することを特徴とするブラシレスDCモータの駆動方法。
【請求項2】
磁極のN極とS極がほぼ均一に分布する永久磁石形回転子と、3相固定子巻線の相間の位相差が電気的に120度である固定子と、この固定子のある相巻線の鎖交磁束が最大になる時、前記回転子のN極とS極の切り替え境界位置を基準位置0度とする場合、3個の位置検出器のうちの一つを、電気角θ=k*60°(kは整数)の位置に設置し、残りの2つの位置検出器を互いに電気角が60°または120°ずれた位置に設置し、回転子の回転に伴い、位相差のある三つの位置信号を出力される位置検出手段を具備するモータを駆動するための装置であって、起動時及び低速回転時には、前記位置検出手段から出力された位置信号及び運転指令に基づいて前記回転子の時計方向或いは反時計方向の回転のどちらの回転方向にも最大トルク発生できるよう3相通電タイミング信号を生成して、固定子巻線の通電を制御する制御手段と、所定の速度に達成後には、位置検出手段から出力された位置信号及び運転指令に基づいて回転子の時計方向或いは反時計方向の回転のどちらの回転方向にも進み位相励磁できるよう2相通電タイミング信号を生成して、固定子巻線の通電を制御する制御手段を備えたことを特徴とするブラシレスDCモータの駆動装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2006−187133(P2006−187133A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−378631(P2004−378631)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000103792)オリエンタルモーター株式会社 (150)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000103792)オリエンタルモーター株式会社 (150)
【Fターム(参考)】
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