説明

ブローチ加工方法、およびブローチ盤

【課題】加工待ちといった無駄な時間を省き、加工精度の向上を図り、既存のブローチ盤であっても比較的簡易に実施することのできるブローチ加工方法を提供する。
【解決手段】上記課題を解決するためのブローチ加工方法は、ブローチ加工を行う切削工具30を1ストロークさせる間に、切削に伴うサポート20の撓みを解消するための空走工程を設けることを特徴とする。また、前記空走工程において切削工具30を停止し、サポート20のクランプを解除又は減圧し、前記サポート20を再クランプした後に切削工具30を始動させるようにすると良い。さらに、前記空走工程の前段を荒加工工程、前記空走工程の後段を仕上加工工程とすることが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブローチ加工の方法、およびブローチ盤に係り、特にブローチ加工を行う際に高い加工精度を得る場合に好適なブローチ加工方法、およびブローチ盤に関する。
【背景技術】
【0002】
ブローチ加工は、小径のエンドミルで行うミーリング加工に比べて切削速度が速いため、量産性を要する製品の穴あけ加工等の手段として有用な加工手段である。しかしブローチ加工は、加工に際しての段取りに手間を要し、荒加工と仕上加工を1つのブローチ盤で行う場合には、ロット内の全数を荒加工した後に仕上加工用のカッターに切り替えて段取りをしなおす必要があった。このため、荒加工から仕上加工への移行の際に、加工待ち製品が溜まってしまうといった無駄な時間が生ずることが多かった。また、荒加工と仕上加工とを1つのカッターで一度に行うような場合には、切削時の力(切削圧)により被切削部材が弾性変形し、切削終了後に当該変形が解消されることで、加工面の仕上がりが弾性変形による撓みに依存することとなり、仕上時の精度が悪くなるといった問題があった。
【0003】
このような無駄を省き、また撓みによる精度問題を解消するために、特許文献1に開示されているようなブローチ盤が提案されている。特許文献1に開示されているブローチ盤は、1つの装置に2つのシリンダを備え、一方のシリンダには荒加工用のカッターを備え、他方のシリンダには仕上加工用のカッターを備えるように構成している。そして、被切削部材を治具に載置し、この治具を移動させることで一方のシリンダの下で荒加工を終了した被切削部材を仕上加工用のシリンダの下へ移動させ、仕上げ加工を行うことを可能な構成としたのである。またこのような構成のブローチ盤によれば、一方の被切削部材が仕上げ加工を行っている最中に、他の被切削部材の荒加工を行うことが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−272013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されているようなブローチ盤によれば、タクトタイムの無駄を解消でき、荒加工時に生じた歪みを取り除いた状態で仕上げ加工を行うことが可能となると考えられる。
【0006】
しかし、特許文献1に開示されているようなブローチ盤は、複数のシリンダを備えるために大型化してしまうという問題がある。また、このような方法で加工を行うためには、既存のブローチ盤を用いることはできず、新たな装置を導入する必要が生ずる。
【0007】
本発明では、上記問題を解決しつつ、無駄を省き加工精度の向上を図り、既存のブローチ盤であっても比較的簡易に実施することのできるブローチ加工方法、およびブローチ盤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明に係るブローチ加工方法は、ブローチ加工を行う切削工具を1ストロークさせる間に、切削に伴う被切削部材の撓みを解消するための空走工程を設けることを特徴とする。
【0009】
また、このような特徴を有するブローチ加工方法では、前記空走工程において切削工具を停止し、前記被切削部材のクランプを解除又は減圧し、前記被切削部材を再クランプした後に前記切削工具のスライドを再開させるようにすると良い。
【0010】
このような特徴を持たせることによれば、クランプ解除又は減圧により荒加工時に生じた弾性変形による撓みを確実に取り除くことができる。このため、仕上加工の加工精度をさらに向上させることができる。
【0011】
さらに上記のような特徴を有するブローチ加工方法では、前記空走工程の前段を荒加工工程、前記空走工程の後段を仕上加工工程とすることが望ましい。空走工程は、荒加工の中段や仕上加工の中段に設けるよりも、荒加工と仕上加工との間に設けることが最も効率良く加工精度を向上させることができる。
【0012】
また、上記目的を達成するための本発明に係るブローチ盤は、1つの切削工具に荒加工用カッターと仕上加工用カッターを備えた切削工具を設けたブローチ盤であって、前記荒加工用カッターと仕上加工用カッターとの間に、被切削部材と接触しない逃げ部を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
上記のような特徴を有するブローチ加工方法によれば、1ストロークで荒加工と仕上加工を行うことができるため、仕上加工のための待ち時間が無く、加工待ちといった無駄を省くことができる。また、荒加工と仕上加工との間に空走工程を入れることで荒加工時に生ずる被切削部材の撓みを解消することができるため、加工精度の向上を図ることができる。また、切削工具の形態を変えることで対応することができるため、既存のブローチ盤であっても比較的簡易に実施することが可能となり、装置を大型化させることも無い。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】切削工具のスライド方向と荒加工用カッターと仕上加工用カッター、および逃げ部の幅Aとの関係を示す図である。
【図2】サポート切削時における平面形態を示す図である。
【図3】サポートのクランプ形態を示す図である。
【図4】実施形態に係るブローチ盤の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のブローチ加工方法、およびブローチ盤に係る実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図4は、本実施形態に係るブローチ盤10の概略構成図である。ブローチ盤10は、基台12と基台12上に配置されたテーブル14、およびベース16とを有する。基台12は、ブローチ盤10全体を支える台であり、被切削物であるサポート20を切削した後の切削工具30(詳細は後述)が収容される部位でもある。テーブル14は、被切削物であるサポート20を載置する部位であり、テーブル14上には図示しない押さえ治具が配置され、サポート20をクランプし、位置決めが成されるように構成されている。ベース16は、詳細を後述する切削工具30を保持するチャック18を昇降させるためのガイドの役割を果たす。
【0016】
本実施形態に係るブローチ盤10は特に、被加工物を切削するための切削工具30に特徴を持つ。以下、本実施形態では被切削物としてディスクブレーキ装置のサポート20を例に挙げて説明する。サポート20の加工は、図2(A)、(B)に示すような加工を行う荒加工と、図2(C)、(D)に示すような加工を行う仕上加工とより成る。なお、図2において、図2(A)は荒加工の様子を平面視した場合の切削工具30とサポート20の関係を示し、同図(B)は同図(A)における部分拡大図である。また、図2(C)は仕上げ加工の様子を平面視した場合の切削工具30とサポート20との関係を示し、同図(D)は同図(C)における部分拡大図である。
【0017】
実施形態に係る切削工具30は、ホルダー36に対して荒加工用カッター32と仕上加工用カッター34とを備え、1つの切削工具30として構成している。そして本実施形態に係る切削工具30は、荒加工用カッター32と仕上加工用カッター34との間に、切削用の刃を設けずに、空走領域を確保するための逃げ部38を設けたことを特徴としている。切削工具30をスライドさせた際、空走領域となる逃げ部38の幅は少なくとも、被切削部材の幅以上とする。このため本実施形態の場合、逃げ部38の幅Aは、サポート20の厚み以上の幅を持つこととなる。図1に、切削工具30のスライド方向と荒加工用カッター32と仕上加工用カッター34、および逃げ部38を設けた幅Aとサポート20の関係の概略を示す。
【0018】
このような逃げ部38を設け、切削時に空走工程を設けるようにすることにより、荒加工用カッター32による切削時にサポート20の切削部分に付与される切削圧が開放されることとなる。サポート20はその形態上、剛性の低い部分があり、ブローチ加工を行った場合にはその切削圧により、切削工具による切削方向に引きずられるように加工部が切削面側に倒れ込むように撓んだり、カッターから逃げるように撓むことがある。
【0019】
空走工程となる逃げ部38では切削工具30が切削面に触れることが無いため切削圧が開放され、サポート20の加工部位に生じていた撓みが解消されることとなる。このため、仕上加工は荒加工によって生じた撓みを取り除いた状態で行うことができることとなり、全体としての加工精度の向上を図ることができるようになる。
【0020】
また、逃げ部38では切削工具30における荒加工用カッター32も、仕上加工用カッター34もサポート20と接触していない状態となるため、切削工具30のスライドを一旦停止した場合であっても再度切削に移行する際に不具合を生じさせる事がない。このため、逃げ部38では切削工具30のスライドを停止させ、サポート20を固定するクランプを少なくとも一部開放又は減圧し、荒加工時に生じた撓みを積極的に取り除くようにすることもできる。
【0021】
また、実施形態に係る切削工具30では、テーパ状に形成された荒加工用カッター32と仕上加工用カッター34において、荒加工用カッター32の最も厚い箇所(切削工具30において荒加工用カッター32を配置した部分で最も幅広となる箇所)が、仕上加工用カッター34の最も薄い箇所(切削工具30において仕上加工用カッター34を配置した部分で最も幅が狭い箇所)よりも外側に位置するように構成されている。すなわち、図1において、b部よりもa部の方が幅広となるように構成されているのである。このような構成とすることで、サポート20に逃げ方向の撓みが生じていた場合であっても、空走工程終了後の仕上加工開始時にサポートに対して大きな切削圧が掛かるといったことを避けることができ、仕上加工の精度を高く維持することができるからである。
【0022】
上記のような切削工具30を備えたブローチ盤10による加工は、以下のような手順で成される。
まず、テーブル14上に配置された治具に対してサポート20を配置する。配置したサポートを固定するためにクランプを行う。クランプは図3に示すように、メインクランプ50と複数のサブクランプ52,54,56により行う。メインクランプ50は、サポート20の下側(インナ側)から上側(アウタ側)へ、サポートを治具に押さえつけるように成される。サブクランプ52,54,56は、メインクランプ50により固定されるサポート20の位置決めをサポートするクランプであり、第1サブクランプ52はサポートの倒れ込みを抑制するためのクランプであり、サポート20のアウタ側からインナ側へ向けて成される。第2サブクランプ54は治具に対するサポートの前後方向の位置決めを行うためのものであり、ロータパス22側からブリッジ24側へ向けて成される。第3サブクランプ56はサポート20の左右方向の位置決めを行うためのものであり、左右いずれかのトルク受け部26を押圧する。
【0023】
なお、図3において図3(A)はサポートのクランプ状態を示す正面図であり、図3(B)は平面図、図3(C)は右側面図をそれぞれ示す。
ブローチ盤10の切削工具30は、動力を油圧シリンダやサーボモータとして駆動するチャック18により保持され、ベース16に沿ってスライドする。
【0024】
サポート20には第1に、荒加工用カッター32が接触して切削が行われる。荒加工が終了すると、切削部分には逃げ部38が到達し、切削は空走工程に入る。空走工程では切削工具30とサポート20の接触が無いため、荒加工時の切削圧が開放され、荒加工時にサポート20に生じた撓みが解消される。空走工程が終了すると、仕上加工用カッター34とサポート20が接触し、仕上加工が成される。
【0025】
このように、仕上加工は荒加工による撓みを解消した後に行われるため、最終的な加工精度を向上させることが可能となる。また、切削工具30は1本で、1ストロークによる連続加工で荒加工と仕上加工が可能なため、ブローチ盤10を大型化させること無く迅速な加工が可能となる。このため、量産性、加工精度に優れたブローチ盤10とすることができる。また従来では、荒加工時に生ずる撓みを少しでも抑制しようとして、カッターの切れ味を高い状態に保つようにメンテナンスが頻繁に行われていた。これに対して本実施形態に係るブローチ盤10を用いた場合、カッターの切れ味が多少落ちた場合であっても、それに起因して生じた切削圧の向上に伴うサポート20の撓みは空走工程で解消されることとなる。このため、メンテナンスの頻度を下げた場合であっても高い加工精度を維持することが可能となり、メンテナンスに要する費用を削減することが可能となる。
【0026】
また、実施形態に係るブローチ盤10を用いた場合、以下のような加工を行うこともできる。
まず、サポート20を上述のようにクランプして固定した後、荒加工用カッター32により荒加工を行う。荒加工を終了すると切削工具30による切削加工は、逃げ部38による空走工程に入る。ここで、切削工具30のスライドを停止させ、クランプを一部解除又は減圧する。解除又は減圧するのは全てのクランプでも良いが、この場合には加工基準の原点出しなどを再度行う必要が生ずるため段取りが煩雑となる。このため、空走工程におけるクランプの解除又は減圧は、解除又は減圧を一部とすることが都合が良い。
【0027】
クランプの解除又は減圧位置としては、第1サブクランプ52が望ましい。荒加工による撓みが最も生じ易い箇所だからである。第1サブクランプ52を解除又は減圧して荒加工による撓みを解消した後、再び第1サブクランプ52によるサポート20のクランプを行う。第1サブクランプ52を行った後、切削工具30を再びスライドさせて仕上加工用カッター34による仕上加工を行う。
【0028】
このような加工方法によれば、クランプの解除又は減圧(一部解除又は減圧)により、荒加工時に生じた撓みを確実に解消することができる。このため、単に荒加工工程と仕上加工工程との間に空走工程を設ける場合よりも、仕上加工後の加工精度を高めることができる。
【0029】
なお、上記実施形態では被切削部材としてディスクブレーキ装置のサポートを例に挙げて説明したが、被切削部材を他の部材としても、切削時に生ずる撓みを解消して切削精度を向上させるといった効果を奏することはできる。
【0030】
また、上記実施形態では逃げ部38は、荒加工用カッター32と仕上加工用カッター34の間にのみ設けるように示した。しかしながら逃げ部は1箇所に限るものでは無く、複数個所に設けるようにしても良い。このような構成とすることで切削による撓みを早い段階で解消しながら加工を行うことが可能となり、加工精度を向上させることが可能となるからである。なおこのような構成とした場合には、全体の切削距離(カッターの刃数)が極端に減らないように切削工具全体の長さを調整する必要がある。
【符号の説明】
【0031】
10………ブローチ盤、12………基台、14………テーブル、16………ベース、18………チャック、20………サポート、30………切削工具、32………荒加工用カッター、34………仕上加工用カッター、36………ホルダー、38………逃げ部、50………メインクランプ、52………第1サブクランプ、54………第2サブクランプ、56………第3サブクランプ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブローチ加工を行う切削工具を1ストロークさせる間に、切削に伴う被切削部材の撓みを解消するための空走工程を設けることを特徴とするブローチ加工方法。
【請求項2】
前記空走工程において前記切削工具を停止し、前記被切削部材のクランプを解除又は減圧し、前記被切削部材を再クランプした後に前記切削工具のスライドを再開させることを特徴とする請求項1に記載のブローチ加工方法。
【請求項3】
前記空走工程の前段を荒加工工程、前記空走工程の後段を仕上加工工程としたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のブローチ加工方法。
【請求項4】
1つの切削工具に荒加工用カッターと仕上加工用カッターを備えた切削工具を設けたブローチ盤であって、
前記荒加工用カッターと仕上加工用カッターとの間に、被切削部材と接触しない逃げ部を設けたことを特徴とするブローチ盤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−162651(P2010−162651A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−7041(P2009−7041)
【出願日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)