説明

プラスチックレンズ用組成物およびレンズ、並びにそれらの製造方法

【構成】 少なくとも一種の式(1)で表される脂環族イソシアネート化合物を含むイソシアネート化合物と、式(2)で表されるポリチオール化合物とを含むプラスチックレンズ用組成物、及びそれを重合して得られるウレタン系樹脂からなるプラスチックレンズ、並びにそれらの製造方法。


【効果】 本発明のウレタン樹脂からなるレンズは、良好な光学物性をもち、比重が小さく、耐衝撃性に非常に優れている。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、眼鏡用レンズ等の各種光学用レンズなどに用いられる良好な光学物性をもち、比重が小さく、耐衝撃性に非常に優れたプラスチックレンズ、及び該レンズを製造するためのレンズ用組成物、さらにそれらの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】プラスチックレンズは、無機レンズに比べ、軽量で割れ難く、染色が可能なため近年、眼鏡レンズ、カメラレンズ等の光学素子に急速に普及してきている。現在、これらの目的に広く用いられる樹脂としては、ジエチレングリコールビス(アリルカーボネート)(以下、D.A.C と称す)をラジカル重合させたものがある。この樹脂は、耐衝撃性に優れていること、軽量であること、染色性に優れていること、切削性および研磨性等の加工性が良好であること等、種々の特徴を有している。しかしながら、この樹脂は、屈折率が無機レンズ(nD =1.52 )に比べ、nD =1.50と小さく、ガラスレンズと同等の光学特性を得るためには、レンズの中心厚、コバ厚、および曲率を大きくする必要があり、全体的に肉厚になることが避けられない。このため、より屈折率の高いレンズ用樹脂が望まれていた。
【0003】D.A.C 樹脂よりも屈折率が高いレンズとして、ポリウレタン系レンズが知られている。本発明者らは、このポリウレタン系レンズとして、例えば、特開昭63-46213号公報において、キシリレンジイソシアネート化合物とポリチオール化合物との重合物からなるポリウレタン系レンズを提案しており、眼鏡用レンズなどの光学用レンズとして広く普及している。また、特開平2-270859号公報には、特定のポリチオール化合物とイソシアネート化合物の組合せにより、高屈折率で、軽量、耐衝撃性に優れたポリウレタン系レンズが提案されている。しかしながら、これらのプラスチックレンズはガラスに比べると、確かに比重が小さくなってはいるものの、1.3以上の比重を有しており、まだ充分に比重が小さいとは言えない。また、ウレタン系レンズであるため、耐衝撃性がガラスや他のレンズよりは優れているが、ハードコートや反射防止コートを施した場合には、耐衝撃性が低下してしまうため、基材で非常に優れた耐衝撃性を有していないと、レンズにしたときに充分な耐衝撃性が得られなくなる。このため、これらの問題点を解決すべくさらなる改良が望まれていた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、良好な光学物性をもち、比重が小さく、非常に優れた耐衝撃性を有するプラスチックレンズを提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上述の課題を解決するために、鋭意検討した結果、本発明に至ったものである。即ち、本発明は、少なくとも一種の一般式(1)(化3)で表される脂環族イソシアネート化合物を含むイソシアネート化合物と、式(2)(化3)で表されるチオール化合物とを含むレンズ用組成物、及びそれを重合して得られるウレタン系樹脂からなるレンズ、並びにそれらの製造方法に関するものである。
【0006】
【化3】


【0007】以下、本発明を詳細に説明する。本発明のレンズ用組成物は、少なくとも一種の一般式(1)で表される脂環族イソシアネート化合物を含むイソシアネート化合物と、式(2)で表されるチオール化合物とを含むものである。本発明において用いられる一般式(1)で表される脂環族イソシアネート化合物を含むイソシアネート化合物としては、一般式(1)で表される脂環族イソシアネート化合物のみならず、目的のウレタン系樹脂の各物性値の調整のため、あるいは、モノマーの取扱い、作業性を容易にするために、一般式(1)で表される脂環族イソシアネート化合物に、それ以外のイソシアネート化合物を加えたものも含まれる。本発明において用いられる一般式(1)で表される脂環族イソシアネート化合物としては、2つのイソシアナート基の置換位置により、いくつかの異性体が存在するが、入手の容易さ等の点から、4,4−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、4,4−イソプロピリデンビス(シクロヘキシルイソシアネート)などが好ましく用いられる。
【0008】また、式(1)で表される脂環族イソシアネート化合物以外のイソシアネート化合物としては、例えば、エチレンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、2,5−ビス(イソシアネートメチル)ビシクロ〔2,2,1〕ヘプタン、2,6−ビス(イソシアネートメチル)ビシクロ〔2,2,1〕ヘプタン等の脂環族ポリイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート等が挙げられる。これらの一部は市販されている。この中で、イソホロンジイソシアネートが好ましく用いられる。
【0009】式(1)で表される脂環族イソシアネート化合物と共に用いられるその他のイソシアネート化合物の量は、必要とされる物性値、あるいは、作業性により、適宜決められるが、式(1)で表される脂環族イソシアネート化合物に対して、通常、0〜80wt%の範囲内、好ましくは0〜50wt%の範囲内である。一方、式(2)で表される1,2−ビス〔(2−メルカプトエチル)チオ〕−3−メルカプトプロパンは、特開平2−270859号公報に記載の方法、即ち、エピハロヒドリンと2−メルカプトエタノールを反応させ、ついでチオ尿素を反応させる方法により、容易に製造される。本発明のレンズ用組成物において、イソシアネート化合物とポリチオール化合物の使用割合は、 NCO/SHの官能基モル比が、通常、 0.5〜 3.0の範囲内、好ましくは 0.5〜 1.5の範囲内である。
【0010】本発明のウレタン系プラスチックレンズ用樹脂は、式(1)で表される脂環族イソシアネート化合物を含むイソシアネート化合物と、式(2)で表されるポリチオール化合物とを、加熱硬化させて製造される。この際、重合速度を、所望の反応速度に調節するために、チオカルバミン酸S−アルキルエステル或いはポリウレタンの製造において用いられる公知の反応触媒を適宜に添加することもできる。また、目的に応じて公知の成形法におけると同様に、鎖延長剤、架橋剤、光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、油溶染料、充填剤などの種々の物質を添加してもよい。
【0011】また、本発明のレンズは、通常、注型重合により得られる。具体的には、式(1)で表される脂環族イソシアネート化合物の少なくとも一種を含むイソシアネート化合物と、式(2)で表されるポリチオール化合物を混合する。この混合液を、必要に応じ、適当な方法で脱泡を行なったのち、モールド中に注入して、通常、低温から高温へ徐々に加熱し重合させる。このようにして得られる本発明のウレタン系レンズ用樹脂は、高屈折率で低分散であり、耐熱性、耐候性に優れ、特に軽量で耐衝撃性に非常に優れた特徴を有しており、眼鏡レンズ、カメラレンズ等の光学素子素材として好適である。また、本発明のレンズは、必要に応じ反射防止、高硬度付与、耐摩耗性向上、耐薬品性向上、防曇性付与、あるいはファッション性付与等の改良を行うため、表面研磨、帯電防止処理、ハードコート処理、無反射コート処理、染色処理、調光処理等の物理的あるいは化学的処理を施すことができる。
【0012】
【実施例】以下、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明する。尚、得られたレンズ用樹脂の性能試験のうち、屈折率、アッベ数、耐熱性、外観、耐衝撃性は以下の試験法により評価した。
・屈折率、アッベ数:プルフリッヒ屈折計を用い20℃で測定した。
・耐熱性:サーモメカニカルアナライザー〔パーキンエルマー社(米国)製〕を用い、試験片に5g加重し、 2.5℃/分で加熱して熱変形開始温度を測定した。
・外 観:目視により観察した。
・耐衝撃性:高さ127cm(50インチ)の位置から、中心厚1.5mmのレンズの中心部に重量の違う鉄球を落下させ、レンズが割れるか試験した。試験は、10枚のレンズについて行い、何枚のレンズが割れるか調べた。
【0013】実施例1ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート78.7部(0.3モル)と、1,2−ビス〔(2−メルカプトエチル)チオ〕−3−メルカプトプロパン52.1部(0.2モル)、ジブチルチンジラウレート0.1重量%(混合物全体に対して)を混合して均一液とし、十分に脱泡した後、離型処理を施したガラスモールドとガスケットよりなるモールド型に注入した。ついで、30℃から130℃まで徐々に昇温しながら、24時間かけて加熱硬化させた。重合終了後、徐々に冷却し、重合体をモールドより取り出した。得られた樹脂は、無色透明であり、屈折率nd =1.60、アッベ数νd =42であった。比重は1.22で、熱変形開始温度は127℃であった。耐衝撃性試験のため、10枚の中心厚1.5mmのレンズの上に、高さ127cmの位置から、重さ225gの鉄球を落下させたが、レンズは1枚も割れなかった。
【0014】実施例2ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート43.5部(0.16モル)、イソホロンジイソシアネート43.5部(0.20モル)と、1,2−ビス〔(2−メルカプトエチル)チオ〕−3−メルカプトプロパン63.0部(0.24モル)、ジブチルチンジラウレート0.1重量%(混合物全体に対して)を混合して均一液とし、十分に脱泡した後、離型処理を施したガラスモールドとガスケットよりなるモールド型に注入した。ついで、30℃から130℃まで徐々に昇温しながら、24時間かけて加熱硬化させた。重合終了後、徐々に冷却し、重合体をモールドより取り出した。得られた樹脂は、無色透明であり、屈折率nd =1.60、アッベ数νd =40であった。比重は1.23で、熱変形開始温度は130℃であった。耐衝撃性試験のため、10枚の中心厚1.5mmのレンズの上に、高さ127cmの位置から、重さ112gの鉄球を落下させると、10枚のうち、5枚は割れたが、67gの鉄球を落下させると、レンズは1枚も割れなかった。
【0015】比較例1特開平2-270859号公報の実施例9に準じて、m−キシリレンジイソシアネート94.0部(0.5モル)と、1,2−ビス〔(2−メルカプトエチル)チオ〕−3−メルカプトプロパン87.0部(0.33モル)を混合して均一液とした後、離型処理を施したガラスモールドとガスケットよりなるモールド型に注入した。ついで、30℃から120℃まで徐々に昇温しながら、24時間かけて加熱硬化させた。重合終了後、徐々に冷却し、重合体をモールドより取り出した。得られた樹脂は、無色透明で、屈折率nd =1.66、アッベ数νd =33であった。比重は1.35で実施例1の樹脂よりも重く、熱変形開始温度は98℃であった。耐衝撃性試験のため、十枚の中心厚1.5mmのレンズの上に、高さ127cmの位置から、重さ225gの鉄球を落下させると、10枚のうち、10枚が割れた。次に、重さ67gの鉄球を落下させると、10枚のうち、5枚が割れた。耐衝撃性は実施例1の樹脂より劣っていた。
【0016】比較例2特開平2-270859号公報の実施例10に準じて、イソホロンジイソシアネート111.1部(0.5モル)と、1,2−ビス〔(2−メルカプトエチル)チオ〕−3−メルカプトプロパン87.0部(0.33モル)を混合して均一液とした後、離型処理を施したガラスモールドとガスケットよりなるモールド型に注入した。ついで、30℃から120℃まで徐々に昇温しながら、24時間かけて加熱硬化させた。重合終了後、徐々に冷却し、重合体をモールドより取り出した。得られた樹脂は、無色透明で屈折率nd =1.60、アッベ数νd =40であった。比重は1.24で実施例1の樹脂よりも重く、熱変形開始温度は142℃であった。耐衝撃性試験のため、十枚の中心厚1.5mmのレンズの上に、高さ127cmの位置から、重さ225gの鉄球を落下させると、10枚のうち、10枚が割れた。次に、重さ67gの鉄球を落下させると、10枚のうち、2枚が割れた。耐衝撃性は実施例1の樹脂より劣っていた。
【0017】比較例3特開平2-270859号公報の実施例11に準じて、1,4−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン96.1部(0.5モル)と、1,2−ビス〔(2−メルカプトエチル)チオ〕−3−メルカプトプロパン87.0部(0.33モル)を混合して均一液とした後、離型処理を施したガラスモールドとガスケットよりなるモールド型に注入した。ついで、30℃から120℃まで徐々に昇温しながら、24時間かけて加熱硬化させた。重合終了後、徐々に冷却し、重合体をモールドより取り出した。得られた樹脂は、無色透明で屈折率nd =1.62、アッベ数νd =39であった。比重は1.29で実施例1の樹脂よりも重く、熱変形開始温度は106℃であった。耐衝撃性試験のため、十枚の中心厚1.5mmのレンズの上に、高さ127cmの位置から、重さ225gの鉄球を落下させると、10枚のうち、10枚が割れた。次に、重さ67gの鉄球を落下させると、10枚のうち、5枚が割れた。耐衝撃性は実施例1の樹脂より劣っていた。
【0018】
【発明の効果】本発明のウレタン樹脂からなるレンズは、良好な光学物性をもち、比重が小さく、耐衝撃性に非常に優れている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 少なくとも一種の一般式(1)(化1)で表される脂環族イソシアネート化合物
【化1】


(式中、R及びR’は、水素原子またはメチル基を表す)を含むイソシアネート化合物と、式(2)(化2)で表されるポリチオール化合物とを含有するプラスチックレンズ用組成物。
【化2】


【請求項2】 少なくとも一種の一般式(1)で表される脂環族イソシアネート化合物とイソホロンジイソシアネートとを含むイソシアネート化合物と、式(2)で表されるポリチオール化合物とを含有する請求項1記載のプラスチックレンズ用組成物。
【請求項3】 NCO基/SH基のモル比が、0.5 〜 3.0である請求項1または2記載のプラスチックレンズ用組成物。
【請求項4】 請求項1〜3のいずれかに記載のプラスチックレンズ用組成物を重合して得られるウレタン系樹脂からなるプラスチックレンズ。
【請求項5】 請求項1〜3のいずれかに記載のプラスチックレンズ用組成物を、加熱硬化させることを特徴とするウレタン系プラスチックレンズ用樹脂の製造方法。
【請求項6】 請求項1〜3のいずれかに記載のプラスチックレンズ用組成物を、注型重合させることを特徴とするウレタン系樹脂からなるプラスチックレンズの製造方法。